JP2007527503A - ペプチドコンボ及びそれらの使用 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、複雑な生物学サンプル中のタンパク質を正確に定量するための試薬と方法を提供する。定量は、本質的には合成参照ペプチドの集合体であるペプチドコンボを、サンプルに添加することにより行なわれる。該合成参照ペプチドは、サンプル中に存在するタンパク質を消化して得られる生物学的な参照ペプチドに比較すれば小さい質量差を有する。参照ペプチド及び合成参照ペプチドを選択し、参照ペプチドの同一性と正確な量とを質量分光分析により決定する。この方法は、プロテオームを解析するための高処理アッセイに使用することができる。
プロテオミクスには、タンパク質の発現、タンパク質の相互作用、タンパク質の機能及びタンパク質の構造の大規模研究が含まれる。何年もの間、標的組織又は標的細胞におけるプロテオームを測定する方法は、2次元のポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D−PAGE)であった。2D−PAGEは、タンパク質の大きさ(分子量)及び等電点(pl)の差に基づいて、複合混合物中のタンパク質の分離を生成し、タンパク質のスポットを2Dパターンで表示する。2D−PAGEは連続した、非常に手間がかかるもので、自動化が難しい。さらに、特定の種類のタンパク質、例えば膜タンパク、非常に大きい及び非常に小さいタンパク質、強い酸性又は高塩基性のタンパク質はこの方法を使用して分析することは難しい。このような欠点があるため、ゲルを使用しないシステムが開発され、このシステムでは、個々のタンパク質をまずゲル上に分離することなく、タンパク質はそれらを構成する1つ以上のペプチドの質量に基づいて同定される。一つのアプローチは多次元タンパク質同定技術(MudPIT)(Washburn et al., Nat. Biotech. 19, 242-247, 2001)である。MudPITは、陽イオン交換(電荷をかけて分離)によって、続いて逆相クロマトグラフィー(疎水性で分離)を行なって、複雑なペプチド混合物を分離する。消化後にすべてのペプチドが分析され、事前に分類されるものはない。第2のアプローチは、ICAT(アイソトープコード化親和性タグ、Applied Biosystems)と呼ばれている化学的標識試薬を利用する方法である(Gygi et al., Nat. Biotech. 17, 994-999, 1999)。このICAT法は、システイン残基を含有するペプチド(Cys−ペプチド)へのビオチン標識を担持するヨードアセテート誘導体の特異的な結合に基づく。サンプルが混合され、酵素的に消化される。このペプチド混合物を、ストレプトアビジンビーズを有する親和性精製カラム上に展開すると、Cys−ペプチドのみがカラムに保持される。続いてこのCys−ペプチドを溶出させ、質量分析計で分析する。第3のアプローチは、COFRADIC(組み合わせ分画ダイアゴナルクロマトグラフィー(combined fractional diagonal chromatography)、国際公開公報第02077016号に記載)と呼ばれ、これもゲルを使用しない方法であるが、この技術はペプチドの選択に親和性タグを使用しない。COFRADICの基本的な考え方は、第二のクロマトグラフ分離の際に改変ペプチドが非改変ペプチドと異なる挙動をするように、選択したペプチド集団を改変する工程によって分離された、同じタイプの2つのクロマトグラフィー分離の組み合わせを含む。COFRADIC及びこれに匹敵する技術を使用すれば、2つ以上のサンプル中のタンパク質の大きなセットがプロフィール調査できる。しかし、限定された数のタンパク質のプロフィールに焦点を当てることができるならば、それが有利である用途も多い。従来、タンパク質の発現パターンを調査するには、抗体ベースのアプローチ(ELISA、ウエスタン、抗体ベースのタンパク質チップ)が使用されてきた。これらのアプローチの欠点は、分析する各標的タンパク質に抗体を立ち上げてこれを特徴づけるという時間のかかる工程である。また、(免疫沈降法におけるように)天然タンパクに結合する抗体は、ウエスタンブロットで変性タンパク質を検出するのには使えないことがある。したがって、抗体を必要とせずに、抗体ベースのアプローチで得られると同じ結果が得られる技法があれば、その利点は顕著である。実際に、国際公開公報第03/016861号及び国際公開公報第02/084250号には、標識された合成参照ペプチドを使用して生物学サンプル中の標的タンパク質を検出し、かつ定量することが記述されている。質量分析では、標識された合成参照ペプチドは、標的ペプチド由来のペプチドとのダブレットとして現れる。標的タンパク質の正確な定量にはピーク高さを使用して対比する。しかし、これらの方法では、標的ペプチドを事前ソーティングしていないので、結果的には、既知クロマトグラフィーシステムの方が分解能は圧倒的である。さらに、MSをこのようなクロマトグラフィーと組み合わせたものの分解能は十分でないので、代表的な幾つかの標的ペプチド個々の質量を適切に測定できない。したがって、無処理のタンパク質を広範囲で精製することのバイアスや必要なくして、極めて複雑な混合物中の1つ以上の特定のタンパク質を正確に定量できる別の方法が求められている。本発明において、合成ペプチド(本明細書においてペプチドコンボと呼ぶ)とCOFRADIC技術を組み合わせたところ、驚くべきことに、複雑な混合物中の対象タンパク質が非常に高い感度、ダイナミックレンジ、精度及び速さで検出かつ定量可能であることが判った。当該定量方法は、既知量の合成参照ペプチドをサンプルに加えて行なう。COFRADIC技術を使用する利点は、これらの合成参照ペプチドを、第2のクロマトグラフィーの段階において、天然の参照ペプチドと共に特異的に選択することができることである。本発明の利点は、対象となるアミノ酸、例えば、メチオニン、システイン、メチオニンとシステインの組み合わせ及びアミノ末端基ペプチド、リン酸化ペプチド及びアセチル化ペプチドに、特異的な改変を加えた参照ペプチドを選択することができるため、極めて柔軟性のある技術であることである。本発明のペプチドコンボを利用すれば、複雑なタンパク質混合物の迅速な調査、タンパク質の絶対定量が可能である。原則として、標的タンパク質のどのようなセットに対してもペプチドコンボをデザインすることができる。標的タンパク質のセットとは、例えばGタンパク質共役レセプター又はチロシンキナーゼのファミリー、あるいは特定の信号変換経路に関連するタンパク質である。我々の知る限りでは、タンパク質の特定のセットを速やかに評価する上で、本発明に匹敵する程度に適用自在な技術はない。例えば膜タンパク質の場合、このタンパク質の溶解度に関する問題の多くが回避できるが、その理由は、そのタンパク質の代わりに可溶性タンパク質分解ペプチドを選択することができるからである。本発明は、迅速で感度の高い、定量的なバイオマーカーの研究(大集団における予後、診断及び治療のモニタリング)、並びに薬物の標的の検証及び経路分析に展開することができる。
以下の定義は、明細書で使用される特定の用語のためのものである。
1つの態様においては、1つ以上の標識されたアミノ酸を使用してペプチドコンボが合成され(すなわち、標識が実際にペプチドの一部となっている)、あるいは好ましさの程度は低いが、標識を合成の後に取り付けることができる。標識をペプチドの一部として提供することによって、ペプチド内部標準とプロテアーゼ活性で標的タンパク質を消化して取得される天然のペプチドとの化学構造の差異が最小限となる。好ましくは、標識は、質量を改変する標識である。選択した標識のタイプは、一般的に、以下の考慮事項に基づく:標識の質量は、好ましくは、バックグラウンドの低いスペクトル領域にMS分析で生成されたシフト断片質量に固有でなければならない。イオン質量シグニチャーコンポーネントは、好ましくは、質量分析において固有のイオン質量シグニチャーを示す標識部分の一部である。標識の構成原子の質量合計は、好ましくは、すべての可能性のあるアミノ酸の断片から独特に異なる。その結果、標識されたアミノ酸と参照ペプチドは、得られた質量スペクトルにおけるイオン/質量のパターンから、標識されていないアミノ酸と参照ペプチドから容易に区別できる。標識は、MSの断片化条件下で強力なものでなければならず、好ましくない断片化を受けてない。標識化のケミストリーは、広範な条件の下で、特に変性条件下で、効果的でなければならず、標識されたタグは、好ましくは、選択したMS緩衝システムで可溶のままでなければならない。好ましくは、標識はタンパク質のイオン化効率を抑圧しない。より好ましくは、標識はタンパク質のイオン化効率を変えず、さもなければ化学的に活性でない。参照ペプチド及びその合成参照ペプチドを差別的に同位体標識する幾つかの方法が、当技術分野において公知である。第1のアプローチでは、参照ペプチドが稀な同位体を担持し、合成カウンターパートが天然の同位体を担持する。このアプローチでは、大規模な調製において、合成参照ペプチドを天然の同位体で効率よく化学的に合成できる。稀な同位体で参照ペプチドを標識するには、稀な同位体でペプチドを差別的に同位体標識する幾つかの方法(インビボ標識化、酵素的標識化、化学的標識化など)が適用できる。タンパク質を含む(生物学)サンプルの同位体での標識は、当技術分野において利用できる種々な方法で行なうことができる。重要なことは、特定の合成参照ペプチドとそれに対応するサンプル中の参照ペプチドが同一であるが、ただし、合成参照とそれに対応するカウンターパートとの間で、1つ以上のアミノ酸に異なる同位体が存在することを除く。典型的な態様においては、参照ペプチドにおける同位体は天然の同位体で、自然において支配的に存在する同位体を指し、合成参照ペプチドにおける同位体はあまり一般的でない同位体であり、以降これを稀な同位体と呼ぶ。天然の同位体と稀な同位体のペアの例は、HとD、16Oと18O、12Cと13C、14Nと15Nである。同位体ペアの最も重い同位体で標識された参照ペプチドを、本明細書では重参照ペプチドと呼ぶ。同位体ペアの最も軽い同位体で標識された参照ペプチドを、本明細書では軽参照ペプチドと呼ぶ。例えば、Hで標識された参照ペプチドを軽参照ペプチドといい、Dで標識された同じ参照ペプチドを重参照ペプチドという。天然の同位体で標識された参照ペプチドと稀な同位体で標識されたそのカウンターパートは化学的に非常に類似しており、クロマトグラフィーで同じようにして分離し、同じようにしてイオン化する。しかし参照ペプチドを質量分析計のような分析器に投入した場合、軽参照ペプチドと重参照ペプチドに分離することになる。重参照ペプチドは、組み込まれている選択された同位体標識の重量が大きいので、僅かに大きい質量を有している。差別的に同位体標識された参照ペプチドの質量に僅かの差があるので、改変された参照ペプチド又は非改変参照ペプチドの質量分析の結果では、非常に接近した2つのピークのペアが複数個現れることになり、2つのピークのそれぞれが重参照ペプチドと軽参照ペプチドを表している。1つの態様において、各重参照ペプチドは、重同位体で標識されたサンプルに由来しており、ペプチドコンボにある各軽合成参照ペプチドは、化学合成に由来し、合成は軽同位体を使用したものである。他の態様において、逆も真で、ペプチドコンボにある各重合成参照ペプチドは、化学合成に由来し、合成は重同位体を使用したものであり、各軽参照ペプチドは、軽同位体で標識されたサンプルに由来する。天然及び/又は稀な同位体の参照ペプチド又は合成参照ペプチドへの取り込みは、複数の方法でなし得る。1つのアプローチにおいてタンパク質は細胞内で標識される。第1のサンプルのための細胞は、例えば天然の同位体を含有するアミノ酸を補足した培地で培養され、第2のサンプルのための細胞は、稀な同位体を含有するアミノ酸を補足した培地で培養される。1つの態様において、差別的に同位体標識されたアミノ酸は改変されるべく選択されたアミノ酸である。例えば、メチオニンが選択されたアミノ酸であれば、未標識のL−メチオニン(第1のサンプル)か、又はCβ部位とCγ部位で変性され、したがって4amuだけ重いL−メチオニンのいずれかを補足した培地で培養される。代替法として、合成参照ペプチドは変性されたアルギニンH2NC−(NH)−NH−(CD2)3−CD−(NH2)−COOH)も含有することができ、これによってペプチドの全質量に7amuが加算されることになる。変性された形態、又は15Nの若しくは13Cの形態が存在するすべてのアミノ酸を、このプロトコルに考慮できることは当業者には明白である。同位体の取り込みは、酵素的なアプローチでも可能である。例えば、タンパク質を含むサンプルを「重」水(H2 18O)中のトリプシンで処理することによって標識を実施できる。本明細書で使用する「重水」はO−原子が18O−同位体である水を指す。トリプシンは、新規に生成された部位のCOOH−末端に、水の2つの酸素を取り込む公知の特性を示す。したがってH2 16Oでトリプシン化されたサンプルは、「通常の」質量を有するが、「重水」中で消化されたサンプルは2つの18O原子を取り込んだことに対応して4amu大きい質量を有している。4amuの差は、質量分析計で改変されたペプチド又は改変されていないペプチドの重バージョンと軽バージョンを区別し、軽ペプチドと重ペプチドの比を測定し、よってサンプルにおける対応するタンパク質の正確な量を測定するのに十分である。さらに差別的な同位体の取り込みは、タンパク質レベル又はペプチドレベルで実施可能な公知の化学反応に基づいた複数の標識手順で行なうことができる。例えば、NH2−基をグアニジウム基に変換し、このようにして先の各リジン部位でホモアルギニンを生成して、タンパク質をO−メチルイソ尿素によるグアジニル化反応で変更できる。後者の試薬は、稀な同位体を担持できる。またペプチドは、重水素で置換したアセトアルデヒドによるシッフ塩基の形成により変更可能で、続いて通常の水素化ホウ素ナトリウム又は重水素で置換した水素化ホウ素ナトリウムで還元する。温和な条件下で進行することが公知のこの反応は、予測可能な数の重水素原子の取り込みに至る。ペプチドは、α−NH2−基又はリジンのε−NH2基のいずれかで、又は両者で変更されることになる。類似の変更が重水素で置換したホルムアルデヒドで実施することができで、続いて重水素で置換したNaBD4で還元し、これによりアミノ基のメチル化形態が生成されることになる。ホルムアルデヒドによる反応は、リジン側鎖のみに重水素を取り込んで、全タンパク質上で、又はα−NH2基とリジン由来のNH2−基が標識されるペプチド混合物上で、実施可能である。アルギニンは反応しないので、これによりArg含有ペプチドとLys含有ペプチドを区別する方法が提供される。第一級アミノ酸基は、例えばアセチルN−ヒドロキシスクシンイミド(ANHS)で容易にアセチル化される。したがってサンプルは、例えば、13CH3CO−NHSでアセチル化が可能である。またすべてのリジンのε−NH2基もペプチドのアミノ末端に加えてこのようにして誘導される。さらに他の標識手法は例えば、水酸基をアセチル化するのに使用できる無水酢酸と、水酸基とアミン類を含む官能基の特異性の低い標識化に使用できるトリメチルクロロシランである。さらに他のアプローチでは一次アミノ酸が化学基で標識され、重参照ペプチドと軽参照ペプチドを5amu、6amu、7amu、8amu又はそれより大きい質量差で区別することができる。代替法として、参照ペプチドのカルボキシ端側末端で同位体標識が行なわれ、重参照ペプチドと軽参照ペプチドを5amu以上、6amu、7amu、8amu又はそれより大きい質量差で区別することができる。よって、好ましい態様においては、タンパク質を含む1つのサンプル中の少なくとも1つのタンパク質の定量分析は、以下の工程を含む:a)ペプチドが稀な同位体(例えば、重同位体)を担持するタンパク質ペプチド混合物の調製;b)タンパク質ペプチド混合物への、天然の同位体(例えば、軽同位体)を担持する合成参照ペプチドのセットからなる既知量のペプチドコンボの添加;c)ペプチドコンボをも含有するタンパク質ペプチド混合物の一次クロマトグラフフィー分離を介しての画分への分離;d)少なくとも参照ペプチドとその合成ペプチドコンボのカウンターパートの化学的改変及び/又は酵素的改変;e)二次クロマトグラフィー分離を介しての改変された参照ペプチドと改変された合成参照ペプチドの単離;f)参照ペプチド対合成参照ペプチドのピーク高さ比の質量分析法による決定及びg)タンパク質を含むサンプル中の、参照ペプチドで表されるタンパク質の量の計算。
(合成参照ペプチドからなる)ペプチドコンボは、それらの質量対電荷比(m/z)で、そして好ましくはクロマトカラム(例えば、HPLCカラム)におけるそれらの滞留時間でも特徴付けられる。合成参照ペプチドが選択され、同じ配列であるが、標識されていない参照ペプチドと共溶出する。合成参照ペプチドは、改変された参照ペプチドがCOFRADIC技術で単離可能なように改変可能なアミノ酸を含み、代替法では、逆相COFRADIC技術において参照ペプチドは改変されず、未改変で単離される(例えば、アミノ末端基ペプチド)。参照ペプチドは、ペプチドを断片化することによって分析可能である。断片化は衝突誘起解離(collision-induced dissociation、CID)(衝突活性解離(collision-activated dissociation、CAD)としても知られる)として知られる方法によってイオン/分子の衝突を誘導することによって達成可能である。衝突誘起解離は質量分析器を使って対象となるペプチドイオンを選択し、このイオンを衝突セルに導くことによって達成される。選択されたイオンは次いで衝突ガス(通常はアルゴン又はヘリウム)と衝突し断片化が行なわれる。一般に、ペプチドを断片化できる任意の方法が本発明の範囲に包含される。CIDに加えて、他の断片化の方法には、表面誘起解離(surface induced dissociation、SID)(James and Wilkins, Anal. Chem. 62: 1295-1299,1990; and Williams, et al., Jaser. Soc. Mass Spectrom. 1: 413-416, 1990);黒体赤外放射解離(blackbody infrared radiative dissociation、BIRD)、電子捕獲型解離(electron capture dissociation、ECD)(Zubarev et al., J. Am. Chem. Soc. 120: 3265-3266,1998);ポストソース分解(post-source decay、PSD)、LIDなどが含まれるが、これらに限定するわけではない。次いで断片を分析して断片イオンスペクトルを得る。これを行なう適当な方法の一つが、多段質量分光分析(multistage mass spectrometry、MSn)におけるCIDである。場合によっては、1ステージ以上の質量分析によって参照ペプチドを分析して参照ペプチドの断片化パターンを決定し、かつペプチド断片化シグニチャーを同定する。より好ましくはペプチドシグニチャーが取得されるが、ここでは、ペプチド断片がm/z比の有意な差を有し、各断片に対応するピークを良好に分離する。さらにより好ましくは、シグニチャーが固有である。すなわち、同定された特定の参照ペプチドの診断に役立ち、種々のアミノ酸配列を有するペプチドの断片化パターンとのオーバーラップが最小になる。第1のステージで適切な断片のシグニチャーが得られない場合は、固有のシグニチャーを取得するまで、質量分析の追加のステージが実施される。MS/MS及びMS3スペクトル断片イオンは、対象となるペプチドに対して、一般に高度に特異的でかつ高度に診断的である。単一のタンパク質の複数の参照ペプチドを合成し、標識し、そして断片化して最適の断片化シグニチャーを同定することができる。しかし1つの態様においては、少なくとも2つの異なるペプチドが内部標準として使用され、単一のタンパク質を同定/定量し、任意の定量システムの内部重複を提供する。したがって、好ましいアプローチでは、改変された参照ペプチド又は非改変参照ペプチドのペプチド分析が質量分析計を使用して実施される。しかし改変された参照ペプチド又は非改変参照ペプチドは、電気泳動、アッセイにおける活性測定、特異的な抗体を使用する分析、エドマン配列決定などの他の方法を使用してさらに分析し同定できる。分析又は同定工程は、種々の方法で実施可能である。1つの方法では、クロマトカラムから溶出する改変された参照ペプチド又は非改変参照ペプチドが、分析器に直接導かれる。代替法のアプローチでは、改変された参照ペプチド又は非改変参照ペプチドを画分で回収する。このような画分はさらなる分析又は同定を行なう前に操作してもよいし又は操作しなくてもよい。このような操作の例は濃縮工程からなり、続いて各濃縮物を例えばMALDI−標的上にスポッティングしてさらに分析又は同定を行なう。好ましい態様では、改変された参照ペプチド又は非改変参照ペプチドは高スループット質量分析技法で分析される。取得された情報は改変された参照ペプチド又は非改変参照ペプチドの質量である。内部校正手順(O’Connor and Costello, 2000)を使用して、フーリエ変換質量分析計(FTMS)などでペプチドの質量を正確に画定すると、ペプチドの質量をペプチド質量データベースにある対応するペプチドの質量と明確に相関させることが可能で、このようにして改変された参照ペプチド又は非改変参照ペプチドを同定する。しかし、一部の従来の質量分析計の精度は、質量分析で決定された各ペプチドの質量を、配列データベースにある対応するペプチド及びタンパク質と明確に相関させるには十分でない。それでも明確に同定され得るペプチドの数を増大させるには、ペプチドの質量に関するデータにその他の情報を補足する。1つの態様において、質量分析計で決定したペプチドの質量に、改変された各ペプチドはアミノ酸の改変された残基の1つ以上を含有しているとの実証済みの知識(例えば、メチオニンスルホキシド改変ペプチドの場合64 amuのニュートラルロスで実証される)及び/又は既知の特異性を有する切断プロテアーゼを使ってタンパク質を含むサンプルを消化した後にはペプチドが生成されるとの知識が補足される。例えばトリプシンは、リジン及びアルギニンの部位で正確に切断するという公知の特性を有しており、典型的には約500〜5,000Daの間の分子量を有し、C−端末リジン又はアルギニンアミノ酸を有するペプチドを産出する。この組み合わせ情報を使って、ペプチドの質量、配列及び/又は同一性に関する情報の入ったデータベースを選り分け、対応するペプチドとタンパク質を同定する。他の態様において、少なくとも1つの改変された参照ペプチド又は非改変参照ペプチドのペプチド質量を正確に測定することによってのみ、親タンパク質の同一性を決定する方法を、選択した改変された参照ペプチド又は非改変参照ペプチドの情報の内容をさらに充実させることによって改善可能である。改変された参照ペプチド又は非改変参照ペプチドに、情報をどのように追加し得るかの非限定的な例としては、2つの異なる同位体標識群を追加することによって、これらのペプチドの遊離NH2基を化学反応において特異的に化学的に変更可能であることである。この変更の結果、該ペプチドは事前に決められた数の標識された基を取得する。変更剤は、化学的に同一であるが、アイソトピックに異なる2つの物質の混合物であるため、改変された参照ペプチド又は非改変参照ペプチドは質量スペクトルでペプチドの対として示される。これらのペプチドダブレット間の質量シフトの程度は、該ペプチドにある遊離アミノ基の数を示している。このことをさらに実証するため、例えば改変されたペプチドの情報の内容を、等モルの酢酸N−ヒドロキシスクシニミドエステル及びトリデューテロ酢酸(trideuteroacetic acid)N−ヒドロキシスクシニミドエステルの混合物を使用して、ペプチドにおける遊離NH2基を特異的に変更することにより、充実させることができる。この転換反応の結果、ペプチドは事前に決められた数のCH3−CO(CD3−CO)基を取得し、これはペプチドダブレットにおける観察された質量シフトの程度から容易に推定できる。このように3amuのシフトは1つのNH2基に相当し、3及び6amuのシフトは2つのNH2基に相当し、3,6及び9amuはペプチドにおける3つのNH2基の存在を明らかにする。この情報は、さらにペプチド質量に関するデータ、改変されたアミノ酸の1つ以上の残基の存在に関する知識及び/又はペプチドが既知の特異性を有するプロテアーゼで生成されたとの知識を補足する。改変された参照ペプチド又は非改変参照ペプチドの同定に使用できるさらにもう1つの情報は、クロマトグラフィーの間の溶離時間に反映された、ペプチドのハイドロパシシティのグランドアベレージ(Grand Average of hydropathicity、GRAVY)である。同一の質量を持った又は質量測定のエラー範囲内にある質量を持った2つ以上のペプチドを、経験的に決定したそれらのGRAVYとインシリコで予測したGRAVYとを比較することによって区別することができる。
本発明は、例えば、アミノ末端参照ペプチドのペプチド質量、カルボキシ端末参照ペプチド及び/又は内部参照ペプチドのペプチド質量、並びに該参照ペプチドの質量及び/又は断片化シグニチャーに関する保存情報のデータファイルを含むデータベースを生成する方法も提供する。好ましくはデータベースのデータは、特定の細胞状態に関連しているか、又は特定の細胞状態で見つかるタンパク質(使用したペプチドコンボに対応している)のレベルに対応した定量値も含む(換言すれば、細胞状態の診断に役立つ定量値、例えば、疾患、正常な生理的反応、発展過程、治療薬への暴露又は毒物若しくは潜在的に毒性の薬剤への暴露及び/又はある条件への暴露の特徴を示している状態)。データベースにあるデータは、好ましくは、参照ペプチドのGRAVY値を含む。したがって1つの態様において、少なくとも1つのタンパク質の定量的発現によって決定された細胞状態に対して、この細胞状態に対応するデータファイルは、タンパク質の診断に役立つ参照ペプチドのペプチド断片化の後で観察される質量スペクトルに関連したデータを最小限、含むことになる。好ましくは、データファイルは、細胞又は組織にある特定のタンパク質のレベルに対応した値を含むことになる。例えば、腫瘍組織においてオンコジーンは一般に過剰発現することが知られており、したがってデータファイルは特定のオンコジーンの部分配列に対応した標識された参照ペプチドの断片化後に観察された質量スペクトルデータを含むことになる。好ましくは、データファイルは、腫瘍細胞における特定のオンコジーンのレベルに関連した値も含む。この値は相対値(例えば、腫瘍細胞における特定のオンコジーンのレベルと正常細胞における該オンコジーンのレベルの比)として、又は絶対値(例えば、nM又は細胞の総タンパクの%として表す)として表してよい。他の態様においてデータベースは、評価した細胞又は組織又はサンプルのソースに関連したデータも含む。例えばデータベースは、組織、サンプル又は体液を採取した患者の特性を同定することに関連したデータを含む。本発明は、ペプチドコンボの診断用断片化シグニチャーに関連した情報の保存のためのデータファイルを含むコンピュータメモリーをさらに提供する。好ましくは、データベースは、複数の細胞状態プロフィールに関連したデータを含む。すなわち、種々の細胞状態を有する複数の細胞において、ペプチドコンボで同定された標的タンパク質のレベルに関連したデータ又は異なる時点に関連したデータである。例えば、疾患の状態のプロフィールをデータベースに含めてよく、これらのプロフィールには、1つ以上のタンパク質のレベルの測定値、又はその修飾形態、疾患の状態の特性を含まれよう。種々の化合物に暴露された細胞のプロフィールは、タンパク質又はそれら化合物に対する細胞の応答に特徴的なその修飾形態レベルの測定値を含む。1つの態様において、測定値は、上述した方法のいずれかを実施することによって得られる。好ましくは、データベースは電子的形態にあり、やはり電子的形態にある細胞状態のプロフィールが1つ以上の対象の単数又は複数の細胞における複数のタンパク質レベルの測定値を提供する。他の態様において、測定値は、細胞における1つ以上のタンパク質におけるタンパク質修飾の部位に関するデータも含む。好ましい態様の一つにおいて、細胞状態のプロフィールは、上記した1つ以上の方法を使って取得した標的タンパク質及び/又はそれらの修飾形態に関連した定量的データを含む。コンピュータが可読の媒体を、又はデータベースのデータファイルを含むメモリーを創り出すために、種々なデータ保存構造が利用できる。データ保存構造の選択は一般に保存した情報にアクセスするために選んだ方法に基づいている。例えば、データをワードプロセッシング・テキストファイルに保存し、WordPerfect及びMicrosoft Wordのような市販のソフトウエアにフォーマットするか、又はASCIIファイルの形式で表し、DB2、Sybase、Oracleなどのデータベースアプリケーションに保存できる。コンピュータが可読の媒体又はペプチドコンボの断片化後に得られる質量スペクトルデータ及びタンパク質レベルなどの診断的断片化シグニチャーに関連したデータをその上に記録したメモリーを得るために、当業者は、任意の数のデータ処理装置構成フォーマット(例えば、テキストファイル、pdfファイル、又はデータベース構造)を速やかに適合させることができる。観察された特定の診断シグニチャーと細胞状態(例えば、疾患、遺伝子型、組織型など)間の相関は、上記のデータベース及び適当な統計プログラム、エキスパートシステム及び/又は当該技術分野において公知のデータマイニングシステムを使用して知ることができるか又は同定できる。他の態様において、本発明は、本明細書に記載のデータベースを含むコンピュータシステムを提供する。1つの好ましい態様において、コンピュータシステムは、ユーザが診断的ペプチドコンボ値に関連した情報を選択的に調べ、細胞又は組織の状態に関する情報を入手できるようにするためのユーザインタフェースをさらに含む。このインタフェースは、ユーザがリンクを選択して(例えば、カーソルをリンクに移動しマウスをクリックするか、又はキーパッド上でキーストロークを使う)、データベースの異なる部分にアクセスできるようにリンクを含んでよい。インタフェースは、評価したサンプルに関連した情報を入力するためのフィールドを追加で表示してよい。このシステムは、細胞状態に特徴的な参照ペプチドを同定するために、種々のタイプの細胞状態のペプチド断片化シグニチャーを収集し、かつ分類するのに使用してよい。この態様において、好ましくは、システムはリレーショナルデータベースを含む。より好ましくは、システムは、種々の細胞状態の診断に役立つ参照ペプチドのセットを同定するためのエキスパートシステムをさらに含む。1つの態様において、システムは関連情報をクラスターすることが可能である。適切なクラスターのプログラムは当該技術分野で公知であり、例えば米国特許第6,303,297号に記述されている。システムは、好ましくは、診断質量及び/又はペプチドコンボの断片化シグニチャーのデータファイルを含むデータベースを、他のデータベース、例えばゲノムデータベース、薬理学データベース、患者データベース、プロテオミクスデータベースなどにリンクするための手段を含む。好ましくは、システムはデータ入力手段、表示手段(例えば、グラフィックユーザインタフェース);プログラム可能な中央演算処理装置;並びにリレーショナルデータベースに電子的に保存されたデータファイル及び上記の情報を含むデータ保存手段の組み合わせを含む。好ましくは、中央演算処理装置はコンピュータとそのネットワークの相互接続を管理するためのオペレーティングシステムを含む。このオペレーティングシステムは、例えばWindows 95、Windows 98、Windows NT又はWindows XP又は開発された任意の新規のプログラムされたWindowsのようなMicrosoft Windowsファミリーであることができる。共通語によるソフトウエアコンポーネントが提供されることがある。好ましい言語は、C/C++及びJAVASを含む。1つの態様において本発明の方法は、式の記号入力、処理の高レベル仕様及び統計的評価を可能にするソフトウエアパッケージの中でプログラムされる。
当業者は、本発明に記述されている方法が、多くの利点を有していることを容易に認識するであろう。本方法は自動化された検出及び標的タンパク質の定量のために簡単に変更可能である。本発明の1つの態様において、サンプルを処理すること、タンパク質を切断すること、タンパク質の標的をソートすること、そしてペプチド質量の検出と定量のためにペプチドを質量分析計に転送することのための装置が提供され、MSスペクトルの結果の記録と出力のためにコンピュータ手段が提供される。他の態様は、特定のサンプルのタイプにおける特定の標的タンパク質の検出のためのキットで、特定の標的タンパク質についてカスタマイズされた試薬をユーザに提供する。このように好ましい態様では、キットには抽出バッファ、特定のアミノ酸の特異的な改変のための試薬、プロテアーゼ、合成参照ペプチド及びそれらの使用法の詳細な取り扱い説明が入っている。さらに本発明は、明細書に記載されている方法を実施するのに有用な試薬を提供する。1つの態様において、本発明による試薬はペプチドコンボを含む。1つの態様において、ペプチドコンボは安定した同位体で標識される。本発明は、安定した同位体で標識された1つ以上の合成参照ペプチド又はこのような標識を実施するのに適切な試薬を含むキットを追加で提供する。ある好ましい態様において、方法は、水素、窒素、酸素、炭素又は硫黄の同位体を利用する。適切な同位体は、2H、13C、15N、17O、18O又は34Sを含むが、これに限定されることはない。他の態様において、同一のペプチド部分を含むが、見分けのつく標識の付いた参照ペプチドのペアが提供される。例えば、ペプチドの複数の部位に標識して、そのペプチドについて異なる重い形態(heavy form)を提供する。修飾されたペプチド及び修飾されていないペプチドに対応する参照ペプチドのペアも提供できる。1つの態様においてキットは、単一の公知のタンパク質由来の種々なペプチドの部分配列からなる参照ペプチドを含む。他の態様において、キットは、ポリペプチドの種々な公知の形態又は種々な予測される形態に対応した参照ペプチドを含む。さらなる態様においてキットは、タンパク質のファミリーに対応するペプチドコンボ、例えば、特定の疾患状態、発生段階、組織の型、遺伝子型などの診断に役立つ分子経路(信号変換経路、細胞周期、ヘッジホッグ経路、タンパク質分解経路など)に関与するタンパク質など、を含む。ペプチドコンボ由来の合成参照ペプチドは別々の容器に入れて、又は混合物として、又は合成参照ペプチドの「カクテル」で提供できる。1つの態様において、ペプチドコンボは複数の合成参照ペプチドからなり、例えばMAPK信号変換経路を表す。好ましくはキットは、例えばMAPK、GRB2、mSOS、ras、raf、MEK、p85、KHS1、GCK1、HPK1、MEKK1−5、ELK1、c−JUN、ATF−2、MLK1−4、PAK、MKK、p38、SAPKサブユニット、hsp27のいずれかに対応する少なくとも2つ、少なくとも約5つ、少なくとも約10以上の合成参照ペプチド及び1つ以上の炎症性サイトカインを含むペプチドコンボを含む。他の態様において、PLCイソ酵素、ホスファチジルイノシトール 3−キナーゼ(PI−3キナーゼ)、アクチン結合タンパク、ホスホリパーゼDアイソフォーム、(PLD)、並びにレセプター及び非レセプターPTKsを含む、ただしこれらに限定されることなく、群から選択されたタンパク質に対応する少なくとも約2つ、少なくとも約5つ以上の合成参照ペプチドを含むペプチドコンボが提供される。他の態様において、例えば、1つ以上のJAK 1−3、STATタンパク質、IL−2、TYK2、CD4、IL−4、CD45、I型インターフェロン(IFN)レセプター複合タンパク質、IFNサブユニットなどの、JAKシグナル経路に関与するタンパク質に対応する少なくとも約2つ、少なくとも約5つ以上の合成参照ペプチドを含むペプチドコンボが提供される。さらなる態様において、サイトカインに対応する少なくとも約2つ、少なくとも約5つ以上のペプチド内部標準を含むペプチドコンボが提供される。好ましくは、このようなセットは起炎症性サイトカイン及び抗炎症性サイトカイン(それぞれが合成参照ペプチドの自身のセットを含むか、又は合成参照ペプチドの混合セットで提供されてよい)を含むが、ただしこれらに限定されない、群から選択された標準のセットを含む。さらに他の態様において、細胞分化抗原の診断に役立つペプチドを含むペプチドコンボが提供される。このようなキットは組織型のタイプ分けに有用である。1つの態様において、標的ポリペプチド中の公知の変異体又は突然変異体に対応するペプチドコンボ又はアミノ酸配列におけるすべての可能性のある突然変異体を同定するために無作為に変化させたものもキットで提供可能である。他の態様において、単一のヌクレオチド多型性を含む核酸から発現するタンパク質に対応するペプチドコンボを提供可能である。このようなペプチドコンボは、BRCA1、BRCA2、CFTR、p53、JAKタンパク質、STATタンパク質、血液型抗原、HLAタンパク質、MHCタンパク質、Gタンパク質共役レセプター、アポリポタンパク質E、キナーゼ(例えば、hCdsl、MTKs、PTK、CDKs、STKs、CaMsなど)、ホスファターゼ、ヒト薬物代謝タンパク質、ウイルスタンパク質、非限定的にウイルスエンベロープタンパク質(例えばHIVエンベロープタンパク質)、輸送タンパク質などで構成される群から選択される異型タンパク質に対応する合成参照ペプチドを含んでよい。1つの態様において合成参照ペプチドは、リン酸化アミノ酸残基、グリコシル化アミノ酸残基、アセチル化アミノ酸残基、ファルネシル化残基、リボシル化残基などの修飾アミノ酸残基に関連した標識を含む。他の態様において、修飾タンパク質に対応する合成参照ペプチドと、配列は同等であるが、修飾されていないペプチドに対応する合成参照ペプチドとの、1対の試薬が提供される。他の態様において、1つ以上の対照の合成参照ペプチド内部標準を提供することができる。例えば、陽性対照は、構成的に発現するタンパク質に対応する合成参照ペプチド内部標準でよく、一方、負の合成参照ペプチド内部標準は、評価する特定の細胞又は種で発現しないことがわかっているタンパク質に対応するものを提供してよい。さらに他の態様において、キットは上記した標識された参照ペプチド内部標準及び質量スペクトルを分析するソフトウエア(例えば、SEQUEST及び本明細書に記述されている他のソフトウエア)を含む。好ましくはキットは、1つ以上の参照ペプチド又は参照ペプチド内部標準の質量及び/又は診断的断片化シグニチャーに関連した情報を保存したデータファイルを含むコンピュータメモリーへのアクセスを提供する手段を含む。アクセスはメモリーを含み、コンピュータ読み込み可能なプログラム製品の形で、又はURLの形で、及び/又はユーザがこのようなメモリーに接続するためのインターネットサイトにアクセスするためのパスワードであってよい。他の態様においてキットは、電子形態又は書物の形の診断用断片化シグニチャー(例えば、質量スペクトルデータなど)を含み、及び/又は1つ以上の異なる細胞状態に特徴的な標的タンパク質の量に関連し、断片化シグニチャーを生成する参照ペプチドに対応した、電子形態又は書物の形のデータを含む。キットはさらに、プロセッサーを有するコンピュータのメモリーにコード化可能で、かつプロセッサーにある方法を実行させることが可能な、コンピュータ読み込み可能な媒体にある発現分析ソフトウエアを含み、ここでこの方法は、参照ペプチド質量及び/又は未知の細胞状態若しくは検証する細胞状態を有する細胞を含む試験サンプルにある参照ペプチド断片化パターンから試験細胞状態のプロフィールを決定すること;既知の細胞状態に特徴的な診断プロフィールを受け取ること;試験細胞状態のプロフィールを診断プロフィールと比較すること、を含む。1つの態様において試験細胞状態のプロフィールは、キットに提供されている1つ以上の参照ペプチド内部標準に対応する、試験サンプルにおける参照ペプチドのレベルの値を含む。診断プロフィールは、既知の細胞状態(例えば正常な生理的反応又は疾患などの異常な生理的反応に対応する細胞状態)を有するサンプルにおける1つ以上のペプチドの測定レベルを含む。好ましくは、ソフトウエアは、プロセッサーが複数の診断プロフィールを受け取り、試験サンプルで測定されたタンパク質のレベルの値を診断的プロフィールにマッチングさせることによって、試験細胞状態プロフィールに対して得られたプロフィールに最もよく似ているか、又は「マッチする」診断的プロフィールを選択し、試験細胞プロフィールにマッチする実質的にすべての診断的プロフィールを同定できるようにする。細胞状態の診断に役立つ細胞構成要素の大部分(例えば、プロテオームにおけるタンパク質)が、2つのプロフィールにおいて実験誤差のマージン内で実質的に同じであることが分かっている場合、実質的に診断プロフィールのすべては試験細胞によってマッチングされる。好ましくは、標的タンパク質の少なくとも約75%がマッチング可能で、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%又は少なくとも約95%がマッチング可能である。好ましくは、1つ又は少数のタンパク質(例えば10以下)を使って診断プロフィールを確立する場合、好ましくはタンパク質のすべてが実質的に同じ値を有している。本明細書に記載されていることの変形、修正及び他の導入は、当技術分野の技術者なら本明細書の記述及び請求項の主旨及び範囲から逸脱することなく思いつくことであり、かかる変形、修正及び導入は本発明の範囲内に包含される。上記に規定された参照のすべては、参考として明示的に本明細書に取り込まれる。本明細書に記載の方法、計器及び手順は種々の目的に使用可能である。分析の感度並びに特異性の理由から、当事者はこの方法論の用途を容易に認識するであろう。以下は、速やかでかつ信頼性の高い分析に対する現在のニーズが存在する特定分野における用途の代表的なリストである。
タンパク質を含むサンプル中の少なくとも1つのタンパク質を定量するための本発明で提供された方法は、関心の異なるタンパク質を定量するのに広範囲に適用可能である。例えば、診断アッセイ又は予後アッセイを開発し、これによってサンプル中の1つ以上のタンパク質のレベルを本発明を使用して決定することができる。
1.ガンマ−セクレターゼ(γ−セクレターゼ)阻害剤のリードプロファイリングを支援するペプチドコンボ
γ−セクレターゼは、アルツハイマー病(AD)の主要な標的薬剤の1つである。APPのγ−セクレターゼ経由でのプロセッシングは、ADの元凶のペプチドであるアミロイドβを産生する一方、γ−セクレターゼは、他の多くの基質のプロセッシングにも関与している(Haas and Steiner, Trends Cell Biol. 12, 556-562, 2002)。この重複が、特定のセクレターゼ阻害剤の開発を妨げる。γ−セクレターゼペプチドコンボは、ニューロン細胞型と非ニューロン細胞型のいずれにおいても、公知のγ−セクレターゼ基質の発現レベルを決定可能な合成参照ペプチドを包含するように設計することができる。このγ−セクレターゼペプチドコンボは、その基質のγ−セクレターゼの切断後に生成される、新規のアミノ末端に対応したアミノ末端ペプチドを含有することになる。このようなペプチドコンボは、γ−セクレターゼの切断に起因する生成物の性質の変化を測定して、直接及び間接γ−セクレターゼ阻害剤の特異性プロフィールを知るための独特なツールである。γ−セクレターゼペプチドコンボは、表1に示すタンパク質の1つ以上に対する、1つ以上のアミノ酸末端の合成シグニチャーペプチドから構成される。
2.分子経路における種々のタンパク質に対応するペプチドを含むペプチドコンボ(各ペプチドは、分子経路におけるタンパク質の診断に役立つシグニチャーを含む)
ヘッジホッグ(Hh)シグナル経路は、広範囲の生物における発達とヒトの疾患(主として発ガン)の両者に関与している(Mullor et al., Trends Cell Biology 12, 562-569, 2002)。ヘッジホッグシグナル−変換カスケードの終点は、GLI/Ciジンクフィンガー転写因子の活性化である。Hh経路のいくつかのコンポーネントがまずハエで同定されたが、それらの多くはヒトではまだ特徴付けられていない。細胞外リガンドであるHhは、多くの器官において不連続な細胞のサブセットにより分泌される。分泌の後、Hh分子は多重結合の複合体(multimeric complex)を形成する。それらの輸送には、ショウジョウバエのTout−veluのヒト同族体であるEXT1とEXT2が必要である。Hh信号を受信するのに2つの膜タンパク質の機能がある:Patched(PTC)及びSmoothened(SMO)である。HhがPTCに結合すると、PTCによりSMOの基本的な抑制が解除され、次いでSMOはHh信号を核に変換するために細胞内で信号を送る。これは、GLI活性化機能とGLIリプレッサー形成の抑制の両方に依存して、GLI転写因子(GLI1、GLI2、GLI3)の調節によって行なわれる。細胞内部とSMOの下流で、Gli/Ciプロセッシング、活性及び局在化の調節を経て、多数のタンパク質がHh経路を活性化し(PKA、COS2、Fused(SUFU)のサプレッサー)、又は抑制するか、又は希薄にする(Fused、カセインキナーゼー1及びGSK3)。Hh経路の種々のコンポーネントを変更すると異なる表現型ができるが、経路の線形性を暗示する良好な程度の整合性がある。例えば、一方において、幾つかの遺伝子座の変更は全前脳症に関連していた(SHH、PTC及びZIC2)。他方において、基底細胞癌、髄芽細胞腫、横紋筋肉腫及び遺伝性多発性外骨症(良性の骨腫瘍)のように成長調節に関連した疾患は、SHH、GLI又はSMOタンパク質の機能を獲得することによって、又はPTC、SUFU又はEXTタンパク質の機能を喪失することによって、発症することがある。おおくの発達事象にHh経路が関与しているので、これはさらなるヒト症候群に関連している可能性も高い。Hh信号伝達の正常状態を回復しようとする幾つかの治療的なアプローチを実現可能である。最も魅力的なのは、Hh経路の種々の負又は正のコンポーネントと作用するか又は拮抗する薬剤の開発である。小さい分子シクロパミン、その誘導体又は機能的アナログは、レセプターレベルにおけるHh経路の活性化によって引き起こされた疾患と戦う有望な治療薬となり得る。
3.Gタンパク質共役レセプター(GPCR)
Gタンパク質共役レセプター(GPCR)のスーパーファミリーは、治療効果と販売額に関して対象となるものの中で最も成功したものである。2000年における医薬品の上位100のうち26がGPCRを目標にした化合物で売上げは230億米ドル以上であった。
治療効果と販売額に関して最も成功したGPCR標的を研究するためのGPCRペプチドコンボは、表3a.1〜3a.3.に示されたタンパク質の少なくとも1つに対して、メチオニンを含有する少なくとも1つのシグニチャーペプチド、又はシステインを含有する少なくとも1つのペプチド、又はメチオニンとシステインを含有する少なくとも1つのペプチドを含む。これらのペプチドは、トリプシン消化(切断のミスが1つ許容される)とMet−COFRADIC、Cys−COFRADIC又はMet+Cys−COFRADIC技術をそれぞれ適用した後に生成される。これらの質量限界は600〜4,000Daの間に設定される。ペプチドセットはタンパク質の非膜貫通部分におけるそれらの位置に対して選択され、プロテアーゼの切断にはこれが最もアクセスし易い。
セクレチン様ファミリーB GPCRを研究するためのGPCRペプチドコンボは、表3b.1〜3b.3.に示されたタンパク質の少なくとも1つに対して、メチオニンを含有する少なくとも1つのシグニチャーペプチド、又はシステインを含有する少なくとも1つのペプチド、又はメチオニンとシステインを含有する少なくとも1つのペプチドを含む。
多くのオーファンレセプターについては、遺伝子配列以上については現在、ほとんど情報がない。これらの潜在性のある薬剤標的を速やかに、かつ正確な優先順位付けするには、細胞特異的局在化と疾患関連に関する情報は必須である。発現は、RNAレベルで分析可能であるが、理想的にはタンパク質レベルで発現を確認すべきである。GPCRの細胞外領域に対する抗体を獲得することは周知なほど困難なことであることがわかっており、これは相対的に短い配列、細胞外ループの制約性及び多くのレセプターにとってN−末端領域が短いことによるものである。疾患にGPCRを関係させる標的検証研究にはこれまで抗体が必要とされてきたので、オーファンGPCRペプチドコンボはこの必要性を取り除くことになる。現状のオーファンGPCRを研究するためのGPCRペプチドコンボは、表3c.1〜3c.3.に示されたタンパク質の少なくとも1つに対して、メチオニンを含有する少なくとも1つのシグニチャーペプチド、又はシステインを含有する少なくとも1つのペプチド、又はメチオニンとシステインを含有する少なくとも1つのペプチドを含むことになる。これらのペプチドは、トリプシン消化(切断のミスが1つ許容される)とMet−COFRADIC、Cys−COFRADIC又はMet+Cys−COFRADIC技術をそれぞれ適用した後に生成される。これらの質量限界は600〜4,000Daの間に設定される。ペプチドセットはタンパク質の非膜貫通部分におけるそれらの位置に対して選択され、プロテアーゼの切断にはこれが最もアクセスし易い。
4.タンパク質レベルでスプライシングを分析するペプチドコンボ
4a.COXスプライスアイソフォームを区別するペプチドコンボ
今日最も広範に使用されている医薬品の一部は非ステロイド系の抗炎症薬(NSAID)である。これらの薬剤は、シクロオキシゲナーゼ(COX)酵素で作用する。2つのCOXイソ酵素、COX1とCOX2は、プロスタグランジンの合成の律速段階に触媒作用をおよぼす。最近、COX1の新規のアイソフォームが発見された(Chandrasekharan et al., PNAS 99, 13926-13931, 2002)。COX1は、血小板活性化において機能することが公知であるが、血小板は無核であり、DNAを含有していないので、同定された新規のCOX1アイソフォームをタンパク質レベルで分析することは不可能である。COXアイソフォームに特異的なペプチドコンボにより、これらのCOXアイソフォームを研究し、作用のNSAIDs法を調査し、新規のNSAIDの開発を改善することが可能になる。COXスプライシングペプチドコンボは、表4a.1〜4a.3.に示されたタンパク質のそれぞれに対して、メチオニンを含有する少なくとも1つのシグニチャーペプチド、又はシステインを含有する少なくとも1つのペプチド、又はメチオニンとシステインを含有する少なくとも1つのペプチドを含む。
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は血管内皮細胞に非常に特異的な因子である。単一のVEGF−A遺伝子からの選択的スプライシングの結果、7つのVEGF−Aアイソフォーム(スプライスバリアント121、145、148、165、183、189及び206)が生成された。これらは分子量と生物学的特性、例えば細胞表面のヘパラン硫酸プロテオグリカンに結合する能力において異なっている。VEGF−Aの無秩序な発現は、腫瘍の血管造成を促進して充実性腫瘍の発達に貢献する。例えば、VEGF−A189の発現は、ある種のヒト充実性腫瘍の血管造成と予後に関連している。VEGF−A189の発現は、ヒト癌の免疫不全マウスへのインビボでの異種移植性にも関連している。
Claims (23)
- ペプチドコンボがタンパク質のファミリーに対応し、該ペプチドコンボの各メンバーが該ファミリー由来の固有のタンパク質に由来する、該ペプチドコンボを同定する方法であって、
a)該タンパク質ファミリーに消化を加えてペプチドを生成する工程、
b)ペプチドコンボを選択した特性により同定する工程、
を含む方法。 - 工程a)において、該タンパク質のファミリーにインシリコで消化剤を加えてペプチドを生成し、続いて600〜4000Daの範囲内に予測されるモノアイソトピックな重量を有する該ペプチドを含むリレーショナルデータベースを構築することを含む、請求項1記載の方法。
- 該タンパク質のファミリーが、膜タンパク質であり、工程a)のペプチドが膜貫通面積において20%未満のカバー度である、請求項1又は2記載の方法。
- 該膜タンパク質が、Gタンパク質共役レセプターである、請求項3記載の方法。
- 該選択した特性が、化学的及び/又は酵素的に改変可能な特定のアミノ酸の存在である、請求項1〜4記載の方法。
- 該特定のアミノ酸が、メチオニン若しくはシステイン、又はメチオニンとシステインの組合せである、請求項5記載の方法。
- 該選択した特性が、アミノ末端ペプチドである、請求項1〜5記載の方法。
- 請求項1〜7のいずれか1項記載の方法により得られる、少なくとも2つのペプチドを包含するペプチドコンボ。
- 該ペプチドが、同位体標識される、請求項8記載のペプチドコンボ。
- Gタンパク質共役レセプターに由来するペプチドを含む、請求項8又は9記載のペプチドコンボ。
- プロテアーゼ基質に由来するペプチドを含む、請求項8又は9記載のペプチドコンボ。
- プロテアーゼがγ−セクレターゼである、請求項11記載のペプチドコンボ。
- タンパク質のファミリーに属する各タンパク質の存在量の測定を目的とする、請求項8〜12項記載のいずれか1項記載のペプチドコンボの使用であって、
(a)タンパク質混合物又はペプチド混合物に、既知量のペプチドコンボを添加する工程;(b)該混合物を、クロマトグラフィーによりペプチド画分に分離する工程;(c)各画分中の少なくとも1個のペプチドの少なくとも1個のアミノ酸を、化学的若しくは酵素的、又は化学的及び酵素的に改変する工程;(d)改変したペプチドを各画分からクロマトグラフィーにより単離する工程(ここで、クロマトグラフィーは工程(a)におけるのと同じ形式のクロマトカラムシステムにより実施する);(d)改変したペプチドを質量分析し、該分析において一対のピークを検出する工程;(e)一対のピークのそれぞれのピーク面積を算出し、それによりサンプル中の参照ペプチドの量に対応する比率を得る工程;及び(f)該参照ペプチド及び対応するタンパク質の同一性を決定する工程、を含む使用。 - 工程(c)において、各画分中の大多数のペプチドの少なくとも1個のアミノ酸を、化学的若しくは酵素的、又は化学的及び酵素的に改変し、工程(d)において、非改変ペプチドを、各画分からクロマトグラフィーにより単離する、請求項13記載の使用。
- 工程(a)の前に、1つ以上の前処理工程を行う、請求項13又は14記載の使用。
- 工程(a)及び(c)のクロマトグラフィー条件が、同一又は実質的に類似である、請求項13又は14記載の使用。
- 参照ペプチドの同一性の決定が、タンデム質量分析法、ポストソースディケイ分析、ペプチドの質量測定及びアミノ末端ペプチドの質量測定からなる群から選択される方法により、データベース調査と組み合わせて実施される、請求項13、14、15又は16記載の使用。
- 参照ペプチドの同一性の決定が、さらに:(a)改変アミノ酸の存在;(b)参照ペプチドの遊離アミノ酸の数の決定;(c)タンパク質ペプチド混合物を生成するために使用するプロテアーゼの切断特異性に関する知見;及び(d)ペプチドのハイドロパシシティのグランドアベレージのうちの1つ以上を基礎とする、請求項17記載の使用。
- 工程(a)のタンパク質ペプチド混合物が、同位体標識され、かつ合成参照ペプチドが天然の同位体を担持する、請求項12〜18のいずれか1項記載の使用。
- サンプルが、生物学サンプルである、請求項12〜19のいずれか1項記載の使用。
- 疾患又は疾患前状態を診断するための、請求項12〜20のいずれか1項記載の使用。
- 1つ以上の標的タンパク質のスプライスバリアントを定量するための、請求項12〜20のいずれか1項記載の使用。
- 疾患の治療上の調節に対する応答を予測するための、請求項12〜20のいずれか1項記載の使用。
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