JP2007321208A - 高強度鋼の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】フェライト結晶粒の微細化により強度を向上させることができるのはもちろんのこと、静動差が高くプレス成形が容易であり、しかも、高速変形時の延性に優れて吸収エネルギーが大きい高強度鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】金属組織がフェライト相と面積率が10〜85%の硬質第2相とからなり、硬質第2相どうしの平均間隔が2.5〜5.0μmである熱間圧延鋼板に、加工度指数Dが下記(1)式を前提に下記(2)式を満たす冷間圧延を行い、その後下記(3)式を満たす焼鈍を行う。
[数1]
D=d×t/t0 …(1)
(d:硬質第2相の平均間隔(μm)、t:冷間圧延後の板厚、t0:熱間圧延後で冷間圧延前の板厚)
[数2]
0.5≦D≦1.0…(2)
[数3]
650−(ts)1/2<Ts<750−(ts)1/2…(3)
(ts:保持時間(秒)、Ts:保持温度(℃)、(ts)1/2はtsの平方根)
【選択図】図5
【解決手段】金属組織がフェライト相と面積率が10〜85%の硬質第2相とからなり、硬質第2相どうしの平均間隔が2.5〜5.0μmである熱間圧延鋼板に、加工度指数Dが下記(1)式を前提に下記(2)式を満たす冷間圧延を行い、その後下記(3)式を満たす焼鈍を行う。
[数1]
D=d×t/t0 …(1)
(d:硬質第2相の平均間隔(μm)、t:冷間圧延後の板厚、t0:熱間圧延後で冷間圧延前の板厚)
[数2]
0.5≦D≦1.0…(2)
[数3]
650−(ts)1/2<Ts<750−(ts)1/2…(3)
(ts:保持時間(秒)、Ts:保持温度(℃)、(ts)1/2はtsの平方根)
【選択図】図5
Description
本発明は、高強度鋼板の製造方法に係り、特に、高い静動差(動的強度と動的強度の差)と高速変形時の延性とを両立させ、プレス成形時には強度が低く、衝突時に高強度かつ高延性で衝撃エネルギー吸収能に優れた自動車用の高強度鋼板の製造技術に関する。
近年、自動車の衝突安全性向上と車体軽量化という相反する要求へ対応するために、自動車のボディへの高強度鋼板の適用が進んでいる。しかしながら、鋼板の強度を高めると成形性が低下するため、高強度鋼板の適用部品は形状の単純なものに制限される。そこで、そのような欠点を克服するために、静動差が高い鋼板を適用することが試みられている。
一般に、鋼板の変形強度は歪速度の影響を受け、歪速度が高いほど変形応力は高くなる。つまり、静動差が高ければ、プレス成形時には比較的強度が低く成形性が確保され、車体の衝突時の高速変形時には、充分な強度を確保することが可能となる。
たとえば、特許文献1には、フェライト単相鋼においてフェライト中の固溶C、Nを減少させ、セメンタイトの数を適正にすることで静動差を高めた耐衝撃性に優れる薄鋼板及びその製造方法が開示されている。また、特許文献2には、フェライト結晶粒径を1μmよりも小さいナノメートルのオーダーまで微細化する繰り返し重ね圧延による超微細組織高強度鋼板の製造方法が開示されている。さらに、特許文献3には、普通低炭素鋼のマルテンサイトを出発組織として冷延および焼鈍することにより、強度と延性のバランスに優れた超微細フェライトとセメンタイト組織を生成する高強度・高延性鋼板およびその製造方法が開示されている。
ところで、特許文献1のセメンタイトの数を適正化する技術は、フェライト中の不純物元素をできるだけ低減することで静動差を高められるという考えに基付いているが、この方法で得られる引張強度は430MPa程度であり、高強度鋼板としては不充分である。フェライト単相の組織では得られる引張強度は限られるため、さらに強度の高い鋼板を得るためには、一般的にフェライトとマルテンサイト等の第2相との複合組織にすることが行われる。しかしながら、複合組織化すると引張強度は高くなるが、静動差は軟鋼板に代表されるフェライト単相鋼よりも低下するという問題がある。たとえば、日本鉄鋼協会編「自動車用材料の高速変形に関する研究会成果報告書」(2001)174頁には、軟鋼では歪み5%での静動差が210MPa程度であるのに対し、590MPa級複相鋼(Dual Phase Steel)では60MPa程度まで低下することが示されている。一方、高速変形時の延性、特に一様伸びは、590MPa級複相鋼の方が逆に優れている。この複相鋼のように高速変形時の延性が高いものは、自動車部材の衝突時の破断回避の観点から望ましい。
したがって、特許文献1に記載の技術では、高い静動差と高い引張強度との両立は困難であり、高い静動差と高速変形時の延性とを両立させることも困難であった。そのため、静動差が高く、しかも高い引張強度と高速変形時の延性とを兼ね備えた高強度鋼板が求められていた。
ここで、高速変形試験の方法はいまだ標準化されておらず、ホプキンソンバー法、ワンバー法、検力ブロック法などの手法が混在していることに加え、試験片形状もそれぞれ異なっている。したがって、降伏点や全伸びの値もそれぞれ異なる可能性があり、異なる高速引張試験方法で得られた応力歪み線図を直接比較することは危険である。さらに言えば、一般的に準静的引張試験で用いられるJIS5号形状の試験片と、高速引張試験で一般的なより小型の試験片での結果も、たとえ歪速度が同一であったとしても異なる可能性があるので、ひとつの試験装置で同一形状の試験片を用いて歪速度のみを変化させて比較しなければ正確性を欠く。したががって、以下の説明においては、変形応力や伸びなどの特性に言及する際には、後述する手法で測定されたデータに限定するものとする。すなわち、鷺宮製作所製検力ブロック式高速材料試験機と、図10に示すような形状の試験片で歪速度のみを変えて測定することとする。
さて、本発明者等は、上述したような従来手法のみに依存しない鋼の高強度化手法として、フェライト結晶粒の微細化に着目してきた。すなわち、この方法は、マトリックスのフェライト相の結晶粒界面積を増大することにより、合金元素の添加を極力抑えて、フェライトの純度を高く維持したまま鋼板の強度を高める方法であり、フェライト相の純度を極力高く維持することで、鋼板の静動差を保持できるとの考えに基づく。
ここで、結晶粒径と強度との関係は、ホール・ペッチの式が周知であり、変形強度は結晶粒径の−1/2乗に比例する。この式によれば、結晶粒径が1μmより小さくなると急激に強度が上昇するので、結晶粒微細化により鋼板の強度を飛躍的に上昇させるには、1μm程度以下の超微細結晶粒とする必要がある。
ここで、特許文献2には、繰返し重ね圧延を7サイクル行うことにより、結晶粒径がナノメートルのオーダーの超微細組織となり、引張強度は原材料であるIF鋼の3.1倍(870MPa)に達することが示されている。しかしながら、この技術には以下の欠点がある。
第1に、結晶粒径1μm以下の超微細結晶粒のみの組織では、材料の延性が極端に低くなる。その理由は、特許文献2の発明者等による論文、例えば「鉄と鋼」(日本鉄鋼協会、第88巻第7号(2002年)365頁、図6(b))に記載されている。この論文によれば、フェライト結晶粒径が1.2μmより小さくなると急激に全伸びが低下し、同時に一様伸びもほぼ0にまで低下するとされている。そして、そのような組織は、プレス加工用鋼板には不適である。
第2に、工業的プロセスにおいて繰返し重ね圧延を行うのでは生産性を害し、生産コストの大幅な上昇を招く。ここで、結晶粒の超微細化のためには大きな歪みを付与することが必要であり、例えば5サイクルの重ね圧延により圧延率換算で97%もの歪みを与えることで、やっと結晶粒の超微細化が可能となる。これを生産性の良い通常の冷間圧延で行うには、厚さ32mmの鋼板を1mmに圧延する必要があり、現実的には実施不可能である。
また、超微細フェライトとセメンタイト組織を生成する特許文献3では、発明例は870MPaの引張強度と21%の伸びを備え、特許文献1のフェライト単相鋼と比較して良好な延性を有している。しかしながら、本願の発明者等の検討によれば、発明例における歪み5%での静動差は80MPaであり、静動差が低いことが判明している。このように、単純な超微細粒組織はもちろん、超微細粒組織中にセメンタイトを析出させた組織でも充分な静動差を得ることができない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、フェライト結晶粒の微細化により強度を向上させることができるのはもちろんのこと、静動差が高くプレス成形が容易であり、しかも、高速変形時の延性に優れて吸収エネルギーが大きい高強度鋼板の製造方法を提供することを目的としている。
本発明者等は、合金元素添加量を抑制してフェライト結晶粒の微細化により強度を上昇させ、しかも同時にプレス成形時に重要となる強度と延性とのバランスに優れる高強度鋼板について鋭意研究を重ねた。その結果、鋼板の組織を、均一な超微細粒組織ではなく、結晶粒径が1.2μm以下のフェライト(以下、本願においては、単に「ナノ結晶粒」と称する)と、結晶粒径が1.2μmを超えるフェライト(以下、本願においては、単に「ミクロ結晶粒」と称する)との混合組織とした上で、鋼板中に含まれる硬質第2相の種類と比率の適正化、及び硬質第2相を除いた部分の組織の適正化により、静的強度が450MPa以上の高強度鋼板であり、良好なプレス成形性を有し、静動差が高いとの特性を両立できるとの知見を得た。
さらには、上記の鋼板に対して、スキンパス圧延等の方法により歪みを与えることにより、動的変形時の伸びを向上できることを見出した。なお、本発明の技術分野においては、一般に、ナノ結晶粒とは、結晶粒径が1.0μm以下の結晶粒をいい、また、ミクロ結晶粒とは、結晶粒径が1.0μmを超える結晶粒をいうが、本願では、上記したように、ナノ結晶粒とミクロ結晶粒との間における結晶粒径の臨界値を1.2μmと定義する。
すなわち、本発明の高強度鋼板の製造方法は、金属組織がフェライト相と面積率が10〜85%の硬質第2相とからなり、前記硬質第2相どうしの平均間隔が2.5〜5.0μmである熱間圧延鋼板に、加工度指数Dが下記(1)式を前提に下記(2)式を満たす冷間圧延を行い、その後下記(3)式を満たす焼鈍を行うことを特徴としている。
[数1]
D=d×t/t0 …(1)
(d:硬質第2相の平均間隔(μm)、t:冷間圧延後の板厚、t0:熱間圧延後で冷間圧延前の板厚)
[数2]
0.5≦D≦1.0…(2)
[数3]
650−(ts)1/2<Ts<750−(ts)1/2…(3)
(ts:保持時間(秒)、Ts:保持温度(℃)、(ts)1/2はtsの平方根)
[数1]
D=d×t/t0 …(1)
(d:硬質第2相の平均間隔(μm)、t:冷間圧延後の板厚、t0:熱間圧延後で冷間圧延前の板厚)
[数2]
0.5≦D≦1.0…(2)
[数3]
650−(ts)1/2<Ts<750−(ts)1/2…(3)
(ts:保持時間(秒)、Ts:保持温度(℃)、(ts)1/2はtsの平方根)
ここで、硬質第2相の面積率が低い場合には、冷間圧延として圧延後に材料を重ね合わせて圧延することを繰り返し行う重ね圧延を行うことが望ましい。ただし、熱間圧延鋼板における硬質第2相の面積率が30〜85%であれば、通常の冷間圧延で充分である。また、焼鈍の後に伸び率が1〜10%の加工を行うことにより、高速変形時の鋼板の全伸びを高めるとともに、静的変形時の応力を低くすることができる。そのような加工としては、スキンパス圧延が好適である。
本発明によれば、ナノ結晶粒とミクロ結晶粒との混合組織の鋼板中に含まれる硬質第2相の比率の適正化、及び硬質第2相を除いた部分の組織の適正化により、静的変形時にはナノ結晶粒の影響を抑制して低強度でありながら、動的変形時にはナノ結晶粒の影響を発揮することのできる高強度鋼板を得ることができる。
本発明で製造される高強度鋼板は、フェライト相と上記フェライト相中に分散する硬質第2相とからなる金属組織を呈し、金属組織に占める硬質第2相の面積率が3〜30%であり、フェライト相中に占めるナノ結晶粒の面積率が15〜90%であり、フェライト相中において、ナノ結晶粒の平均粒径dSとミクロ結晶粒の平均粒径dLとが下記(4)式を満たすものである。
[数4]
dL/dS≧3 …(4)
[数4]
dL/dS≧3 …(4)
このような高強度鋼板においては、鋼板の圧延方向に平行な断面において、3μm四方の正方形格子を任意に9個以上取り出した場合に、各格子での硬質第2相の面積率をAi(i=1,2,3,…)とするとき、Aiの平均値A(ave)と標準偏差sとが下記(5)式を満たし、同時に硬質第2相の平均粒径dpと、全フェライトの平均粒径dfとが下記(6)式を満たすことが望ましい。
[数5]
s/A(ave)≦0.6 …(5)
df/dp≧3 …(6)
[数5]
s/A(ave)≦0.6 …(5)
df/dp≧3 …(6)
また、このような高強度鋼板においては、Cを含有するとともに、Si、Mn、Cr、Mo、Ni及びBのうちの少なくとも1種を含有し、C(ss)(全C量からNb、Ti,Vと結合しているC量を減じた固溶炭素量)が、下記(7)式を前提に、下記(8)式〜(10)式を満たすことが望ましい。なお、式中、各添加元素には、その添加元素の構成比率(質量%)を代入するものとする。
[数6]
F1(Q)=0.65Si+3.1Mn+2Cr+2.3Mo
+0.3Ni+2000B …(7)
F1(Q)≧−40C+6 …(8)
F1(Q)≧25C−2.5 …(9)
0.02≦C(ss)≦0.3 …(10)
[数6]
F1(Q)=0.65Si+3.1Mn+2Cr+2.3Mo
+0.3Ni+2000B …(7)
F1(Q)≧−40C+6 …(8)
F1(Q)≧25C−2.5 …(9)
0.02≦C(ss)≦0.3 …(10)
さらに、このような高強度鋼板においては、含有成分が、下記(11)式、(12)式を前提に、下記(13)式を満たすことが望ましい。なお、式中、各添加元素には、その添加元素の構成比率(質量%)を代入するものとする。
[数7]
F2(S)=112Si+98Mn+218P+317Al+9Cr+56Mo
+8Ni+1417B …(11)
F3(P)=500×Nb+1000×Ti+250×V …(12)
F2(S)+F3(P)≦360 … (13)
[数7]
F2(S)=112Si+98Mn+218P+317Al+9Cr+56Mo
+8Ni+1417B …(11)
F3(P)=500×Nb+1000×Ti+250×V …(12)
F2(S)+F3(P)≦360 … (13)
加えて、このような高強度鋼板においては、質量%で、Nb:0.72%以下、Ti:0.36%以下、V:1.44%以下のうちの少なくとも1種を含有することや、質量%で、P:2%以下及びAl:18%以下のうちの少なくとも1種を含有することが望ましく、質量%で、Si:5%以下、Mn:3.5%以下、Cr:1.5%以下、Mo:0.7%以下、Ni:10%以下及びB:0.003%以下であることが極めて望ましい。
さらには、このような高強度鋼板においては、質量%で0.007〜0.03%のNを含有させることで、高強度鋼板の延性を劣化させずに、高い焼付け硬化性を付与することができ、したがって、部品に成形した後の衝突時に高い荷重を発生させ、衝撃エネルギー吸収性能をさらに向上させることができる。なお、焼付け硬化性とは、部品に成形した後に焼付け塗装の工程がある場合に、その焼付け工程の熱処理において、侵入型固溶元素が成形加工によって導入された転位を固定することにより、部品を変形させようとした場合に大きな変形抵抗を示す現象である。この特性は、BH(Bake Hardening)と呼ばれており、その量(BH量)を測定する方法は、JIS G3135の付属書に示されている。以下の説明においても、焼付け硬化性をBH性と称し、焼付け硬化量をBH量と称する。
また、本発明者等は、上記高強度鋼板を好適に製造する方法についても鋭意研究を重ねた。その結果、通常の冷間圧延で結晶粒の超微細化を達成すべく、圧延前の結晶組織を軟質なフェライトと硬質第2相との複合組織とするとともに、硬質第2相の間隔に応じた所望な圧延率により冷間圧延を施し、さらに結晶粒成長を抑制できる温度、時間で焼鈍することにより、上記のミクロ結晶粒とナノ結晶粒との混合組織の高強度鋼板が得られるとの知見を得た。
また、本発明によれば、圧延前の結晶組織を軟質なフェライトと硬質第2相との複合組織とするとともに、硬質第2相の間隔に応じた必要圧延率により冷間圧延を施し、さらに結晶粒成長の生じない温度域で焼鈍することにより、上記のミクロ結晶粒とナノ結晶粒とからなる混合組織の高強度鋼板を製造することができる。このようにして得られた高強度鋼板は、合金元素添加量を抑制してフェライト結晶粒の微細化により強度を上昇させたものであり、しかもプレス成形時に重要となる強度と延性とのバランスに優れ、静動差が170MPa以上のものである。
以下、本発明の好適な実施形態を図面を参照して説明する。まず、本発明の高強度鋼板における、種々の設定式の規定理由について述べる。なお、以下に示す各元素の含有量は、全て質量%であるが、便宜上、単に%と記載する。
本発明の高強度鋼板の原料としては炭素鋼を用いるが、後述するように、全C量からTi,Nbと結合しているCを減じた固溶炭素量C(ss)が0.02〜0.3%となるように調整する必要がある。この炭素鋼に、焼入れ性向上及び固溶強化による鋼の強度向上を目的として、第1元素群:Si、Mn、Cr、Mo、Ni及びBのうちの少なくとも1種を含有させる。また、結晶粒の微細化及び析出強化による鋼の強度向上を目的として、第2元素群:Nb、Ti,Vのうちの少なくとも1種を必要に応じて含有させる。さらに、固溶強化による鋼の強度向上を目的として、第3元素群:P及びAlのうちの少なくとも1種を必要に応じて含有させる。
加えて、得られる鋼が下記(7)式〜(13)式を全て満足するものとする。但し、下記の式中の元素記号は、その元素の構成比率(質量%)を表し、例えば、「Cr」とは、Crの構成比率(質量%)を意味する。
[数8]
F1(Q)=0.65Si+3.1Mn+2Cr+2.3Mo
+0.3Ni+2000B …(7)
F1(Q)≧−40C+6 …(8)
F1(Q)≧25C−2.5 …(9)
0.02≦C(ss)≦0.3 …(10)
F2(S)=112Si+98Mn+218P+317Al+9Cr+56Mo
+8Ni+1417B …(11)
F3(P)=500×Nb+1000×Ti+250V …(12)
F2(S)+F3(P)≦360 … (13)
F1(Q)=0.65Si+3.1Mn+2Cr+2.3Mo
+0.3Ni+2000B …(7)
F1(Q)≧−40C+6 …(8)
F1(Q)≧25C−2.5 …(9)
0.02≦C(ss)≦0.3 …(10)
F2(S)=112Si+98Mn+218P+317Al+9Cr+56Mo
+8Ni+1417B …(11)
F3(P)=500×Nb+1000×Ti+250V …(12)
F2(S)+F3(P)≦360 … (13)
ここで、これらの式中の記号の意味及び各式の規定理由を説明する。
<(7)式〜(9)式の規定理由>
F1(Q)は、鋼の焼入れ性を表す指数であり、(7)式に示すように定められ、各添加元素の構成比率(質量%)から計算するものである。
<(7)式〜(9)式の規定理由>
F1(Q)は、鋼の焼入れ性を表す指数であり、(7)式に示すように定められ、各添加元素の構成比率(質量%)から計算するものである。
後述するように、本発明の高強度鋼板の製造方法においては、冷間圧延前の金属組織を軟質なフェライトと硬質第2相(マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイトのうちの少なくとも1種)との複合組織とすることが重要である。これらの組織は、熱間圧延後にフェライトとオーステナイトとからなる2相域から急冷する方法、熱間圧延後に室温まで一旦冷却してそのまま加熱する方法、又は熱間圧延後に一旦冷間圧延してから加熱してフェライトとオーステナイトとからなる2相域で保持してから急冷する方法により得られる。しかしながら、これらの組織を得るにあたっては、2つの問題がある。
1点目は、C量が少ないと焼入れ性が低いために、硬質第2相を得難いことである。その対策として、焼入れ性向上元素である上記第1元素群を添加して、硬質第2相を得易くする必要がある。但し、必要な焼入れ性はC量に反比例するので、C量が多ければ焼入れ性向上元素の添加量は少なくて済む。上記式(8)は、この関係を示すものである。上記(8)式に従い、必要な量の焼入れ性向上元素を添加する。なお、ここでいうC量(C)とは、後述して詳説するが、全C量からNb,Ti,Vと結合しているC量を減じた固溶炭素量を示す。
2点目は、C量が多い場合に、フェライトとオーステナイトとからなる2相域からの冷却中にパーライト変態が生じ易くなり、必要な硬質第2相を得難くなることである。これを回避するためにも、第1元素群の添加が有効である。即ち、焼入れ性向上元素の添加により、連続冷却変態線図(Continuouse cooling transformation diagram:以下、単に「CCT曲線」と称する)におけるパーライト変態開始のノーズが長時間側に移動する。このため、パーライトの出現を回避し、フェライトと硬質第2相との複合組織とすることができる。Cが多い場合には、パーライト変態が生じ易くなるため、多くの焼入れ性向上元素を必要とする。上記(9)式は、この関係を示すものである。上記(9)式に従い、必要な量の焼入れ性向上元素を添加する。なお、ここでいうC量も、上記したCである。
<Cの説明及び(10)式の規定理由>
Cとは、全C量から、第2群元素(Nb、Ti)と結合しているCを減じた、固溶炭素量を意味し、下記(14)式で計算される値である。なお、(14)式中、それぞれ添加元素には、その添加元素の構成比率(質量%)が代入されるものとする。
Cとは、全C量から、第2群元素(Nb、Ti)と結合しているCを減じた、固溶炭素量を意味し、下記(14)式で計算される値である。なお、(14)式中、それぞれ添加元素には、その添加元素の構成比率(質量%)が代入されるものとする。
[数9]
C(ss)=全C量−(12/92.9×Nb+12/47.9×Ti+12/50.9×V) …(14)
C(ss)=全C量−(12/92.9×Nb+12/47.9×Ti+12/50.9×V) …(14)
(14)式中の係数92.9及び47.9は、それぞれNb又はTiの原子量であり、(12/92.9×Nb+12/47.9×Ti+12/50.9×V)とは、Nb、TiもしくはVと結合して炭化物となっているC量(質量%)を表したものであり、これを全C量から減じたものが固溶Cである。
次に、(10)式は、固溶Cの上限値及び下限値を規定しており、その理由は、冷間圧延前の金属組織を所望の範囲で生成させるためである。ここで、下限値を0.02%としたのは、Cが0.02%未満の場合は、焼入れ性向上元素を添加しても硬質第2相が生成せず、フェライト単相となるからである。フェライト単相では、前述の繰り返し重ね圧延等の、特殊な方法を用いない限り、鋼の結晶粒径を1μmよりも小さいナノメートルのオーダーまで微細化することができない。
また、上限値を0.3%としたのは、0.3%を超える場合は、目的のフェライトと硬質第2相との複合組織を得られなくなるためである。Cが0.3%を超えると、焼入れ性向上元素を添加しても、CCT曲線におけるパーライト変態ノーズが短時間側にとどまる。これにより、フェライトとオーステナイトとからなる2相域からの急冷時に、いかなる冷却速度においてもパーライト変態ノーズを横切るようになり、冷間圧延前の金属組織はフェライトとパーライトとからなる複合組織となる。
ここで、パーライトは、CとFeとの化合物であるセメンタイトと、フェライトの層状組織であり、セメンタイトは変形に対して非常に脆く、冷間圧延時のエネルギーがセメンタイトの破断に消費される。このため、鋼の組織にパーライトが含まれている場合には、本発明の製造方法の特徴である、軟質フェライト相に大きな歪みを与えることができない。従って、焼入れ性向上元素の添加によってパーライト変態を回避できる上限値のCは、0.3%とした。
<(11)式〜(13)式の規定理由>
F2(S)は、第1元素群及び第3元素群の固溶強化作用により、高強度鋼板が強化される量を、MPa単位で表したものであり、(11)式に従い添加元素の質量%から計算する。(11)式のそれぞれの元素に乗じられている係数は、下記の考え方に基づいて下記(15)式から算出したものである。
F2(S)は、第1元素群及び第3元素群の固溶強化作用により、高強度鋼板が強化される量を、MPa単位で表したものであり、(11)式に従い添加元素の質量%から計算する。(11)式のそれぞれの元素に乗じられている係数は、下記の考え方に基づいて下記(15)式から算出したものである。
[数10]
各元素の係数=|r(X)−r(Fe)|/r(Fe)×M(Fe)/M(X) ×1000 …(15)
ここで、r(X)は、当該元素の原子半径、r(Fe)は鉄の原子半径、M(X)は当該元素の原子量、及びM(Fe)は鉄の原子量である。
各元素の係数=|r(X)−r(Fe)|/r(Fe)×M(Fe)/M(X) ×1000 …(15)
ここで、r(X)は、当該元素の原子半径、r(Fe)は鉄の原子半径、M(X)は当該元素の原子量、及びM(Fe)は鉄の原子量である。
(15)式の意味するところは以下のとおりである。即ち、ある添加元素の原子半径と鉄の原子半径との差を鉄の原子半径で除したものが、その元素1個あたりの固溶強化量に比例する。これに、当該元素の質量%あたりに換算するために、鉄の原子量と当該元素の原子量との比を乗じ、さらに単位をMPaに換算するために1000を乗じた。表1に、用いた各元素の物理定数と、それにより計算した(15)式の係数を示す。
次に、F3(P)は、上記第2元素群が鋼中のCと炭化物を形成して析出強化により鋼が強化される際の、その強化量を示す指数であり、上記(12)式に示すように定められる。
(12)式の意味するところは、以下のとおりである。即ち、Nb,Ti,Vは、鋼中での炭化物形成能が高く、例えば700℃での鋼中のNbとCとの溶解度積、TiとCとの溶解度積(質量%)2は、ともに10の−6乗のオーダーであり、VとCの溶解度積(質量%)2は10の−4乗のオーダーであるので、本発明の高強度鋼板においては、Ti、Nb、Vは固溶体としてほとんど存在できず、Cと1対1で結合した炭化物、すなわちNbC、TiCもしくはVCとして存在する。したがって、添加したNb、Ti、Vの添加量に比例した析出強化量が期待できる。なお、いうまでもなく、これは、Nb、TiまたはVと結合していないCが残存している場合であり、全てのCがNb、Ti、Vと結合している状態でさらにNb、Ti、Vを添加しても、期待どおりの析出量は得られない。また、析出物の大きさにより析出強化量は変化する。
一般に、析出物が粗大化すると析出強化能は低下する。本発明の高強度鋼板では、後述するように、冷間圧延後の焼鈍時に、炭化物が成長し易い高温域で長時間保持することは考慮していない。このため、Nb、TiまたはVの炭化物は均一微細に分散し、これら元素の添加量のみにより析出強化量が定まる。上記(12)式はこのことを示すものである。
ここで、(12)式中の係数500、1000および250は、それぞれNb、Ti、Vの1質量%あたりの析出強化量を表すもので、実験により決定した数値である。Nb、TiおよびVの析出強化量を合計したものが、F3(P)、即ち全析出強化量である。
このような知見の下、(13)式は、固溶強化と析出強化とによるフェライトの強化量の合計を、360MPa以下にすべきことを示している。これは、鋼板の強化量が高すぎると、本発明の特徴である、高い静動差(動的強度と静的強度と差)が発現しなくなるためである。前述のように、多量の合金元素を添加してフェライトを大きく強化すると、同時にフェライト純度が低下し、フェライトの変形応力の歪み速度依存性が小さくなる。本発明の高強度鋼板の金属組織では、フェライトの純度が所定以上の場合には従来鋼よりも高い静動差が得られるものの、フェライトの純度が低すぎると高い静動差が発現しなくなる。
発明者は、高い静動差を発現するため、必要なフェライトの純度を定量化することを試みた。その結果、各添加元素がフェライトの静動差に及ぼす悪影響度は、単位添加量(質量%)あたりのフェライト強化量(固溶強化、析出強化)に比例することを実験的につきとめた。その結果をもとに、鋭意研究したところ、高い静動差を発現できるフェライト強化量の上限値が360MPaであることが判明した。上記(13)式は、これを数値化したものである。
また、本発明で得られる高強度鋼板においては、適量のNを含有させることにより、高いBH性を付与することができる。本発明の高強度鋼板に含有されるCは、硬質第2相中か、Nb、Ti、Vの炭化物中か、フェライト母相中に固溶状態で存在する。このうち、フェライト母相中の固溶CがBH性に寄与する。しかしながら、化学成分におけるC量を増量しても、Cは硬質第2相や炭化物へ分配されるので、Cの増量が必ずしもBH量の増加につながるわけではない。そこで、C以外の侵入型固溶元素としてNに着目した。Nは、鉄と化合物を生成しない範囲の含有量であれば、金属組織を大きく変化させずに固溶状態で含有させることができ、歪み時効現象に有効に作用して高いBH量を得ることができる。
さらには、本発明で得られる高強度鋼板においては、本来的にBH量が高いという特性がある。その理由は明確ではないが、本発明の高強度鋼板の母相フェライトは、強度の高いナノ結晶粒と比較的強度の低いミクロ結晶粒の複合組織であり、これをプレス成形等で加工した場合、比較的強度の低いミクロ結晶量のナノ結晶量との界面付近に、強度の高いナノ結晶粒の拘束によって大きな量の転位が生成する。この多量の転位が塗装焼付け処理時のNの歪み時効を促進し、高いBH量を示すものと考えられる。
<各化学成分の限定理由>
次に、本発明の高強度鋼板における、各化学成分の限定理由について述べる。なお、以下に示す各元素の含有量についても、単位は全て質量%であるが、便宜上、単に%と記載する。また、Cについては、(10)式で個別に限定し、その他の元素については、ほとんどの場合に(8)式,(9)式によって下限値が、(13)式、(16)式、(17)式によって上限値が個別に限定されるが、さらに、個別に上限値を設定する。
[数9]
Cr≦1.5 …(16)
Mo≦0.7 …(17)
次に、本発明の高強度鋼板における、各化学成分の限定理由について述べる。なお、以下に示す各元素の含有量についても、単位は全て質量%であるが、便宜上、単に%と記載する。また、Cについては、(10)式で個別に限定し、その他の元素については、ほとんどの場合に(8)式,(9)式によって下限値が、(13)式、(16)式、(17)式によって上限値が個別に限定されるが、さらに、個別に上限値を設定する。
[数9]
Cr≦1.5 …(16)
Mo≦0.7 …(17)
<C:固溶Cで0.02〜0.3%>
Cの添加により、フェライトとオーステナイトとからなる混合組織を高温で生じさせることができ、この混合組織の急冷によりマルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイトの硬質第2相を形成することができる。このため、Cは本発明では最も重要な元素である。
Cの添加により、フェライトとオーステナイトとからなる混合組織を高温で生じさせることができ、この混合組織の急冷によりマルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイトの硬質第2相を形成することができる。このため、Cは本発明では最も重要な元素である。
本発明の高強度鋼板では、Nb,Ti,Vを添加してもよいので、その場合に炭化物として析出するCを除いた固溶Cが、上記(10)式を満足するように、Cの添加量を調整する。固溶Cが0.02%未満であると、冷間圧延前の金属組織がフェライトとなり、固溶Cが0.3%を超えると、金属組織はフェライトとパーライトとからなる複合組織となり、ともに本発明の高強度鋼板の製造方法には適さなくなる。
<第1元素群:Si,Mn,Cr,Mo,Ni,B>
これらの元素は、鋼の焼入性向上と固溶強化による鋼の強度向上とを目的として添加する。添加量は、上記(8)式、(9)式、(13)式、(16)式及び(17)式を満たすように調整する。以下に、各元素の添加量の上限値及び下限値の限定理由を説明する。
これらの元素は、鋼の焼入性向上と固溶強化による鋼の強度向上とを目的として添加する。添加量は、上記(8)式、(9)式、(13)式、(16)式及び(17)式を満たすように調整する。以下に、各元素の添加量の上限値及び下限値の限定理由を説明する。
<Si:0.2〜5%>
Si添加量が0.2%未満の場合は、焼入性向上の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.2%とする。また、Si添加量が5%を超えると、SiがFeと結合して、結晶構造がD03型又はB2型の金属間化合物であるFe3Siが現れ、鋼の延性を低下させる。このため、上限値は5%とする。
Si添加量が0.2%未満の場合は、焼入性向上の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.2%とする。また、Si添加量が5%を超えると、SiがFeと結合して、結晶構造がD03型又はB2型の金属間化合物であるFe3Siが現れ、鋼の延性を低下させる。このため、上限値は5%とする。
<Mn:0.1〜3.5%>
Mn添加量が0.1%未満の場合は、焼入性向上の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.1%とする。また、Mn添加量が3.5%を超えると、室温においても、フェライトに加えてオーステナイトが安定相として存在する。オーステナイトは強度が低く、鋼全体の強度を低下させるため好ましくない。このため、上限値は3.5%とする。
Mn添加量が0.1%未満の場合は、焼入性向上の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.1%とする。また、Mn添加量が3.5%を超えると、室温においても、フェライトに加えてオーステナイトが安定相として存在する。オーステナイトは強度が低く、鋼全体の強度を低下させるため好ましくない。このため、上限値は3.5%とする。
<Cr:0.1〜1.5%>
Cr添加量が0.1%未満の場合は、焼入性向上の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.1%とする。また、Cr添加量が1.5%を超えると、鋼中のCとCrとが結合して炭化物になるため、添加量に見合った固溶Crが得られず、焼入性向上も望めない。このため、上限値は、Crが固溶状態で存在できる1.5%とする。
Cr添加量が0.1%未満の場合は、焼入性向上の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.1%とする。また、Cr添加量が1.5%を超えると、鋼中のCとCrとが結合して炭化物になるため、添加量に見合った固溶Crが得られず、焼入性向上も望めない。このため、上限値は、Crが固溶状態で存在できる1.5%とする。
<Mo:0.1〜0.7%>
Mo添加量が0.1%未満の場合は、焼入性向上の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.1%とする。また、Mo添加量が0.7%を超えると、鋼中のCとMoとが結合して炭化物になるため、添加量に見合った固溶Moが得られず、焼入性向上も望めない。このため、上限値は、Moが固溶状態で存在できる0.7%とする。
Mo添加量が0.1%未満の場合は、焼入性向上の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.1%とする。また、Mo添加量が0.7%を超えると、鋼中のCとMoとが結合して炭化物になるため、添加量に見合った固溶Moが得られず、焼入性向上も望めない。このため、上限値は、Moが固溶状態で存在できる0.7%とする。
<Ni:0.2〜10%>
Ni添加量が0.2%未満の場合は、焼入性向上の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.2%とする。また、Ni添加量が10%を超えると、室温においても、フェライトに加えてオーステナイトが安定相として存在する。オーステナイトは強度が低く、鋼全体の強度を低下させるため好ましくない。このため、上限値は10%とする。
Ni添加量が0.2%未満の場合は、焼入性向上の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.2%とする。また、Ni添加量が10%を超えると、室温においても、フェライトに加えてオーステナイトが安定相として存在する。オーステナイトは強度が低く、鋼全体の強度を低下させるため好ましくない。このため、上限値は10%とする。
<B:0.0005〜0.003%>
B添加量が0.0005%未満の場合は、焼入性向上の効果が明瞭に現れない。このため、下限は0.0005%とする。また、フェライトへのBの固溶限自体は非常に小さく、Bは添加量が少ない場合は主に鋼の結晶粒界に偏析して存在すると考えられるが、B添加量が0.003%を超えると粒界だけではBの存在サイトとしては不十分になり、金属間化合物であるFe2Bが現れて鋼の延性を低下させる。このため、上限値は0.003%とする。
B添加量が0.0005%未満の場合は、焼入性向上の効果が明瞭に現れない。このため、下限は0.0005%とする。また、フェライトへのBの固溶限自体は非常に小さく、Bは添加量が少ない場合は主に鋼の結晶粒界に偏析して存在すると考えられるが、B添加量が0.003%を超えると粒界だけではBの存在サイトとしては不十分になり、金属間化合物であるFe2Bが現れて鋼の延性を低下させる。このため、上限値は0.003%とする。
<第2元素群:Nb,Ti>
これらの元素は、結晶粒の微細化及び析出強化による鋼の強度向上を目的として、必要に応じて添加することができる。以下、各元素の添加量の上限値及び下限値の限定理由を説明する。
これらの元素は、結晶粒の微細化及び析出強化による鋼の強度向上を目的として、必要に応じて添加することができる。以下、各元素の添加量の上限値及び下限値の限定理由を説明する。
<Nb:0.01〜0.72%>
Nb添加量が0.01%未満の場合は、微細化及び析出強化の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.01%とする。また、上記(12)式から明らかなように、Nb添加量が0.72%を超えると、NbCによる析出強化量だけで360MPaとなり、上記(13)式を満足しないため、Nbの上限値は0.72%に限定される。
Nb添加量が0.01%未満の場合は、微細化及び析出強化の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.01%とする。また、上記(12)式から明らかなように、Nb添加量が0.72%を超えると、NbCによる析出強化量だけで360MPaとなり、上記(13)式を満足しないため、Nbの上限値は0.72%に限定される。
<Ti:0.01〜0.36%>
Ti添加量が0.01%未満の場合は、微細化及び析出強化の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.01%とする。また、上記(12)式から明らかなように、Ti添加量が0.36%を超えると、TiCによる析出強化量だけで360MPaとなり、上記(13)式を満足しないため、Tiの上限値は0.36%に限定される。
Ti添加量が0.01%未満の場合は、微細化及び析出強化の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.01%とする。また、上記(12)式から明らかなように、Ti添加量が0.36%を超えると、TiCによる析出強化量だけで360MPaとなり、上記(13)式を満足しないため、Tiの上限値は0.36%に限定される。
<V:0.1〜1.44%>
Vの添加量が0.1%未満の場合は、微細化及び析出強化の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.1%とする。また、上記(12)式より明らかなように、Vの添加量が1.44%を超えると、VCによる析出強化量だけで360MPaとなり、(13)式を満足しないため、Vの上限はおのずと1.44%に限定される。
Vの添加量が0.1%未満の場合は、微細化及び析出強化の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.1%とする。また、上記(12)式より明らかなように、Vの添加量が1.44%を超えると、VCによる析出強化量だけで360MPaとなり、(13)式を満足しないため、Vの上限はおのずと1.44%に限定される。
<N:0.007〜0.03%>
本発明の高強度鋼板において、Nは、焼付け硬化性を付与するために重要な元素であり、高強度鋼板を部品に成形した後に塗装焼付け工程がある場合は、歪み時効現象によって部品の降伏強度を上昇させるのに有効に働く。したがって、Nは必要に応じて適宜添加する。Nの添加量が0.007%未満では焼付け硬化性が明瞭に現れない。このため、Nの下限値は0.007%とする。一方、Nの添加量が0.03%を超えると、立方晶のFe4Nが析出し始めるため、添加したNに見合ったBH量の向上を望めない。したがって、Nの上限を0.03%とする。
本発明の高強度鋼板において、Nは、焼付け硬化性を付与するために重要な元素であり、高強度鋼板を部品に成形した後に塗装焼付け工程がある場合は、歪み時効現象によって部品の降伏強度を上昇させるのに有効に働く。したがって、Nは必要に応じて適宜添加する。Nの添加量が0.007%未満では焼付け硬化性が明瞭に現れない。このため、Nの下限値は0.007%とする。一方、Nの添加量が0.03%を超えると、立方晶のFe4Nが析出し始めるため、添加したNに見合ったBH量の向上を望めない。したがって、Nの上限を0.03%とする。
<第3元素群:P,Al>
これらの元素は、鋼の強化元素として、必要に応じて添加することができる。以下に、各元素の添加量の上限値及び下限値の限定理由を説明する。
これらの元素は、鋼の強化元素として、必要に応じて添加することができる。以下に、各元素の添加量の上限値及び下限値の限定理由を説明する。
<P:0.03〜2%>
Pの添加は、鋼の固溶強化元素として有効であるが、添加量が0.03%未満の場合は、固溶強化の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.03%とする。また、P添加量が2%を超えると、金属間化合物であるFe3Pが生成し、鋼の延性を低下させる。このため、上限値は2%とする。
Pの添加は、鋼の固溶強化元素として有効であるが、添加量が0.03%未満の場合は、固溶強化の効果が明瞭に現れない。このため、下限値は0.03%とする。また、P添加量が2%を超えると、金属間化合物であるFe3Pが生成し、鋼の延性を低下させる。このため、上限値は2%とする。
<Al:0.01〜18%>
Alは、固溶強化元素であるとともに、脱酸剤としての効果を有し、鋼をいわゆる「キルド鋼」にすることができる。また、Alは、製鋼工程において鋼中の溶存酸素と結合してアルミナとして浮上し、これを除去することで鋼の延性や靭性を向上させることができる。このため、Alは必要に応じて添加することができる。但し、添加量が0.01%未満の場合は、脱酸剤としての効果も、固溶強化元素としての効果も明瞭に現れない。このため、下限値は0.01%とする。一方、Al添加量が18%を超えると金属間化合物であるFe3Alが生成し、鋼の延性を低下させる。このため、上限値は18%とする。
Alは、固溶強化元素であるとともに、脱酸剤としての効果を有し、鋼をいわゆる「キルド鋼」にすることができる。また、Alは、製鋼工程において鋼中の溶存酸素と結合してアルミナとして浮上し、これを除去することで鋼の延性や靭性を向上させることができる。このため、Alは必要に応じて添加することができる。但し、添加量が0.01%未満の場合は、脱酸剤としての効果も、固溶強化元素としての効果も明瞭に現れない。このため、下限値は0.01%とする。一方、Al添加量が18%を超えると金属間化合物であるFe3Alが生成し、鋼の延性を低下させる。このため、上限値は18%とする。
<組織についての限定理由>
次に、本発明の高強度鋼板の金属組織について、詳細に説明する。
本発明の高強度鋼板の金属組織は、下記1)〜5)に記載の要件を同時に満足するものである。
1)金属組織は、フェライト相と硬質第2相(セメンタイト、マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイトのうちの少なくとも1種)とからなる。また、鋼板の、圧延方向に平行な断面を切り出し、この断面をナイタール等でエッチングした後に、走査型電子顕微鏡で倍率5000倍で撮影した2次電子像(以下、「SEM写真」と称する)から測定した硬質第2相の面積率が3〜30%である。
次に、本発明の高強度鋼板の金属組織について、詳細に説明する。
本発明の高強度鋼板の金属組織は、下記1)〜5)に記載の要件を同時に満足するものである。
1)金属組織は、フェライト相と硬質第2相(セメンタイト、マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイトのうちの少なくとも1種)とからなる。また、鋼板の、圧延方向に平行な断面を切り出し、この断面をナイタール等でエッチングした後に、走査型電子顕微鏡で倍率5000倍で撮影した2次電子像(以下、「SEM写真」と称する)から測定した硬質第2相の面積率が3〜30%である。
2)金属組織において、硬質第2相はフェライト相中に均一に分散しており、以下の要件を満足する。即ち、鋼板の、圧延方向に平行な断面の5000倍のSEM写真において、3μm四方の正方形格子を任意に9個以上の取り出し、各格子での硬質第2相の面積率を画像解析を用いて測定した際に、各硬質第2相の面積率をAi(i=1,2,3,…)とするとき、Aiの平均値A(ave)と標準偏差sとが、下記(5)式を満たす。
[数12]
s/A(ave)≦0.6…(5)
3)鋼板の、圧延方向に平行な断面の5000倍のSEM写真において、写真の全面積から硬質第2相を除外したフェライト部のうち、ナノ結晶粒の面積率が15〜90%である。
[数12]
s/A(ave)≦0.6…(5)
3)鋼板の、圧延方向に平行な断面の5000倍のSEM写真において、写真の全面積から硬質第2相を除外したフェライト部のうち、ナノ結晶粒の面積率が15〜90%である。
4)ナノ結晶粒の平均粒径dSと、ミクロ結晶粒の平均粒径dLとが、下記(4)式を満たす。
[数13]
dL/dS≧3 …(4)
5)硬質第2相の平均粒径dpと全フェライトの平均粒径dfとが下記(6)式を満たす。
[数14]
df/dp≧3 …(6)
[数13]
dL/dS≧3 …(4)
5)硬質第2相の平均粒径dpと全フェライトの平均粒径dfとが下記(6)式を満たす。
[数14]
df/dp≧3 …(6)
ここで、平均粒径とは、鋼板の、圧延方向に平行な断面の5000倍のSEM写真において、画像解析により全てのフェライト粒の面積を測定し、それぞれの面積から求めた円相当径を意味する。具体的には、画像解析により求めたフェライト粒の面積をSi(i=1,2,3…)とすると、円相当径Di(i=1,2,3…)は、下記(18)式により計算する。
[数15]
Di=2(Si/3.14)1/2 …(18)
[数15]
Di=2(Si/3.14)1/2 …(18)
以上に示した要件1)〜5)の設定理由は、以下のとおりである。即ち、適量の硬質第2相を均一に分散析出させることで、フェライト部から硬質第2相へC等の固溶元素を吐き出させ、フェライトの純度を高め、これにより鋼の延性を高めるとともに、静動差を高くすることができる。硬質第2相の分散状態が不均一な場合には、硬質第2相の密度が少ないフェライト部の純度が低くなり、高い延性や静動差を発揮することができない。
また、硬質第2相の面積率を3〜30%と規定した理由を以下に示す。即ち、硬質第2相の面積率が3%未満の場合は、フェライトの高純度化が不十分なために静動差が高くならない。一方、硬質第2相の面積率が30%を超えると、低純度で静動差の低い硬質第2相の悪影響が大きくなり、素材全体としての静動差は向上しない。
また、硬質第2相は微細かつ均一に分散している必要があり、これを示すのが式(5)および式(6)である。式(5)は、3μm四方の正方形格子という非常に小さな範囲で測定した面積率の標準偏差が小さいこと、すなわち、第2相の分散状態が均一であることを表し、(6)式は、フェライト粒の寸法に対する第2相粒径が一定値よりも小さいことを示している。
ここで、本発明の高強度鋼板の組織において、硬質第2相とは、フェライトと平衡する相、及びこの平衡相からの冷却過程において変態した組織、さらにはそれらの焼鈍により変化した組織を指す。具体的には、セメンタイト、マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイトのいずれか1種以上のことである。セメンタイトは、鋼中でフェライトと平衡して存在する相であり、マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイトは平衡相からの変態組織である。ここで、残留オーステナイトは、高温でのみ平衡相として存在するオーステナイトが、室温まで残留した未変態のオーステナイトのことであり、実際には未変態ではあるが、オーステナイトからの冷却によって室温で得られる組織という意味で、変態組織に含めた。また、パーライトは本発明の高強度鋼板の金属組織における硬質第2相としては不適格である。第2相がパーライトとなるのは、冷延後の焼鈍温度がフェライトとオーステナイト2相域もしくはオーステナイト単相域で、かつその後の冷却速度が遅い場合に限られるが、そのような場合には、フェライト結晶粒の粒成長を抑えることができず、本発明の高強度鋼板の特徴である、所定の面積率のナノ結晶粒を含有させることができないためである。
これらの相や組織の他にも、焼戻ベイナイト、焼戻マルテンサイト、トルースタイト、ソルバイト、パーライトの焼鈍によりセメンタイト部が球状化した組織も存在する。しかしながら、これらの組織は、既に具体的に名称を挙げた硬質第2相のいずれかに含まれるものとして扱う。
まず、焼戻ベイナイトは、ベイナイトを300〜400℃で焼鈍して靭性を向上させた組織であるが、転位密度の高いフェライトとセメンタイトとの混合組織であり、本質的にベイナイトと変わらないため、本発明においてはベイナイトに含まれるものとして扱う。
次に、焼戻しマルテンサイトは、マルテンサイトを焼鈍して硬度を低減させ靭性を向上させたものであるが、本発明においてはマルテンサイトに含まれるとして扱う。マルテンサイトの焼戻しは、炭素を過飽和に固溶したマルテンサイトが、フェライトと炭化物とに分解する過程である。しかしながら、例えば、社団法人日本金属学会編、講座・現代の金属学 材料編4 鉄鋼材料、39頁に記載されているように、300〜500℃で焼戻した場合でも、フェライトはかなり高い転位密度を持っており、ラスマルテンサイトの特徴であるパケット、ブロックなどの構成は変化しない。従って、硬度も高く、焼鈍マルテンサイトであっても、マルテンサイトの特徴を失っていない。さらには、上記文献の39頁に記載されているように、焼入直後のマルテンサイトに過飽和に固溶されたCは、極めて容易に拡散が起こるので、約−100℃から、既に、Cの移動が認められ、析出の準備段階が始まっている。従って、焼入れままのマルテンサイトと焼戻マルテンサイトは明瞭に区別し難い。以上を考慮して、本発明においてはマルテンサイトと焼戻しマルテンサイトは同じものとして扱う。
また、トルースタイトは、現在あまり用いられない用語であるが、JIS G0201鉄鋼用語(熱処理)では、焼戻トルースタイトと焼入トルースタイトとに分類されている。焼戻トルースタイトは、マルテンサイトを焼戻したときに生じる組織であり、微細フェライトとセメンタイトとからなる組織であるが、実際は焼戻マルテンサイトのことである。また、焼入トルースタイトは、焼入時に生ずる微細パーライト組織であり、本発明ではパーライトとして一括して扱う。
さらに、ソルバイトも、現在あまり用いられないが、JIS G0201鉄鋼用語(熱処理)では、焼戻ソルバイトと焼入ソルバイトとに分類されている。焼戻ソルバイトは、マルテンサイトを焼戻して粒状に析出成長させたセメンタイトとフェライトとの混合組織であるが、実際には焼戻マルテンサイトのことである。焼入ソルバイトは、焼入れ時に生成する微細パーライト組織のことであるが、本発明ではパーライトとして一括して扱う。
なお、パーライトの焼鈍によりセメンタイト部が球状化した組織も、フェライトとセメンタイトとの混合組織であり、換言すれば、硬質第2相はセメンタイトである。
次に、硬質第2相以外のフェライト部に関して説明する。フェライト部の組織は、大きさの異なるナノ結晶粒とミクロ結晶粒との混合組織である。このため、プレス成形時には比較的強度が低く、強度・延性のバランスに優れる一方、製品化後には、衝突時等の高速変形時に優れた強度を発揮する。従って、このフェライト部の組織により、成形性と衝撃吸収エネルギーとを高いレベルで両立することができる。
なお、本願において、ナノ結晶粒の結晶粒径を1.2μm以下と定義した理由を以下に述べる。即ち、例えば「鉄と鋼」(日本鉄鋼協会、第88巻第7号(2002年)、365頁、図6(b))に開示されているように、フェライトの結晶粒径が約1.2μmである領域を境界にして、材料特性、特に延性が不連続に変化するためである。具体的には、フェライトの結晶粒径が1.2μm未満になると、全伸びが急激に低下し、均一伸びを示さなくなる。
さらには、本発明の高強度鋼板においては、歪み量1〜10%の加工を施すことで高速変形時の延性を向上させることが可能である。ここで、加工の方法は特に制限はないが、通常の冷延鋼板製造工程にはスキンパス圧延があるので、これを利用して上記範囲の伸び率でスキンパス圧延を施すことが最も簡便である。もちろん、その他の方法、たとえば張力を付与しながらレベラーで加工する方法や、板状に切断してから引張にて歪みを付与する等の方法でもよい。
以下に、材料の延性、特に一様伸びが重要であることを、ハット形状の断面のフレーム類を具体例として説明する。まず、断面の大きさに比べて部材長さが短いクラッシュボックス等の部品においては、その形状から、衝撃圧縮時に座屈が安定しているために、材料の加工硬化特性によらずに良好な衝撃エネルギー吸収能を持たせることができる。しかしながら、断面の大きさに比べて部材長さが長かったり、衝突時の荷重方向と部材の軸方向が必ずしも一致していないようなサイドフレーム等の部品では、衝撃圧縮時の座屈が不安定になり易く、それを材料特性で補う必要がある。すなわち、元来、座屈が不安定な部品には、高速変形時の一様伸び、言い換えれば加工硬化の大きな特性を有する材料が望ましい。本発明の高強度鋼板はこのような要求特性を満たすもので、冷延焼鈍後に所定範囲の歪み量の加工を施すことによって、高速変形時の加工硬化すなわち一様伸びを向上させることができる。
以上は、本発明の高強度鋼板に係る、種々の式の規定理由、化学成分の限定理由、及び組織についての限定理由であるが、以下に、本発明の高強度鋼板の作用効果についてのメカニズムを詳細に説明する。
<本発明の高強度鋼板の作用効果についてのメカニズム1>
フェライトをナノ結晶粒とミクロ結晶粒との混合組織とすることで、高い静動差を付与できるメカニズムは、以下のとおりである。即ち、本発明の高強度鋼板は、結晶粒径が1.2μm以下のナノ結晶粒である非常に強度の高い部分と、結晶粒径が1.2μmを超える通常の強度を有するミクロ結晶粒とからなる、1つの複合組織鋼板である。本発明の高強度鋼板の静的な変形挙動については、一般的な複合組織鋼板の変形挙動と同様であり、静的な変形では、まず材料の最も変形し易い部分、具体的にはミクロ結晶粒内部又はミクロ結晶粒内のナノ結晶粒との界面付近から変形が始まる。その後、変形が徐々に進行するが、ミクロ結晶粒が変形の主体を担っている。このため、ミクロ結晶粒のみの場合と同等な応力で変形が進行し、強度と延性とのバランスも一般的なものとなる。
フェライトをナノ結晶粒とミクロ結晶粒との混合組織とすることで、高い静動差を付与できるメカニズムは、以下のとおりである。即ち、本発明の高強度鋼板は、結晶粒径が1.2μm以下のナノ結晶粒である非常に強度の高い部分と、結晶粒径が1.2μmを超える通常の強度を有するミクロ結晶粒とからなる、1つの複合組織鋼板である。本発明の高強度鋼板の静的な変形挙動については、一般的な複合組織鋼板の変形挙動と同様であり、静的な変形では、まず材料の最も変形し易い部分、具体的にはミクロ結晶粒内部又はミクロ結晶粒内のナノ結晶粒との界面付近から変形が始まる。その後、変形が徐々に進行するが、ミクロ結晶粒が変形の主体を担っている。このため、ミクロ結晶粒のみの場合と同等な応力で変形が進行し、強度と延性とのバランスも一般的なものとなる。
一方、歪速度が1000/s程度の高速変形の場合には、一般的な鋼板の挙動と異なる。変形速度は静的変形の場合の約10万倍であり、軟質なミクロ結晶粒主体の変形だけでは追従が難しい。このため、ミクロ結晶粒のみならず、ナノ結晶粒の内部でも変形を担う必要がある。従って、強度の非常に高いナノ結晶粒の影響が顕著になり、高い変形応力が必要となる。
この現象は、ナノ結晶粒の比率が15〜90%の範囲で発現する。ナノ結晶粒の比率が15%未満の場合は、ナノ結晶粒の影響が小さく、静的変形及び動的変形のいずれにおいても軟質なミクロ結晶粒が変形を十分に分担でき、静動差は高くならない。一方、ナノ結晶粒の比率が90%を超えると、ほとんどがナノ結晶粒であるために、静的変形時においてナノ結晶粒の影響が既に顕著で、強度は高いものの延性が低いため、プレス成形に適さない。従って、ナノ結晶粒の比率が15%未満でも90%超でも、優れた高速変形強度及び衝撃エネルギー吸収能と、優れた加工性とを両立させることができない。
以上は、本発明の高強度鋼板に関する説明であるが、以下に、上記高強度鋼板を好適に製造する方法を説明する。なお、本発明の高強度鋼板の製造方法は、通常の冷延鋼板製造プロセス、即ち、スラブ溶製、熱間圧延、冷間圧延及び焼鈍の各工程によって製造することができる。
<スラブ溶製>
スラブ溶製は、通常の方法で所定成分にて行う。工業的には、溶銑をそのまま用いるか、又は市中スクラップや鋼の製造工程で生じた中間スクラップ等の冷鉄源を電気炉や転炉で溶解した後、酸素精錬し、連続鋳造又はバッチの分塊鋳造にて鋳造する。パイロットプラントや実験室等の小型設備においても、電解鉄やスクラップ等の鉄素材を、真空中又は大気中で加熱炉によって溶解し、所定の合金元素を添加した後、鋳型に注入することで素材を得ることができる。
スラブ溶製は、通常の方法で所定成分にて行う。工業的には、溶銑をそのまま用いるか、又は市中スクラップや鋼の製造工程で生じた中間スクラップ等の冷鉄源を電気炉や転炉で溶解した後、酸素精錬し、連続鋳造又はバッチの分塊鋳造にて鋳造する。パイロットプラントや実験室等の小型設備においても、電解鉄やスクラップ等の鉄素材を、真空中又は大気中で加熱炉によって溶解し、所定の合金元素を添加した後、鋳型に注入することで素材を得ることができる。
<熱間圧延>
熱間圧延は、本発明の高強度鋼板の製造方法において、最初の重要なプロセスである。本発明の製造方法では、熱間圧延後の結晶組織を、フェライトが主相で、硬質第2相を面積率で10〜85%の範囲で含有する複合組織とし、さらに板厚方向に測定した硬質第2相の平均間隔を2.5〜5μmとする。
熱間圧延は、本発明の高強度鋼板の製造方法において、最初の重要なプロセスである。本発明の製造方法では、熱間圧延後の結晶組織を、フェライトが主相で、硬質第2相を面積率で10〜85%の範囲で含有する複合組織とし、さらに板厚方向に測定した硬質第2相の平均間隔を2.5〜5μmとする。
ここでいう硬質第2相とは、本発明の高強度鋼板の最終組織における硬質第2相からセメンタイトを除外したものであり、マルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイトのうちの少なくとも1種である。セメンタイト又はパーライトが硬質第2相である場合は、本発明の高強度鋼板の金属組織は得られない。
以下に、硬質第2相を上記のように選定した理由について説明する.
本発明の高強度鋼板の金属組織は、フェライト相中に占めるナノ結晶粒が、面積率で15〜90%であるものである。この金属組織を得るためには、以下の処理を行う。即ち、まず、冷間圧延前の金属組織をフェライトと硬質第2相の複合組織とする。次いで、冷間圧延によって軟質なフェライトに大きな剪断歪みを付与する。最後に、この部分を引き続き行われる焼鈍によって、結晶粒径1.2μm以下のナノ結晶粒とする。
本発明の高強度鋼板の金属組織は、フェライト相中に占めるナノ結晶粒が、面積率で15〜90%であるものである。この金属組織を得るためには、以下の処理を行う。即ち、まず、冷間圧延前の金属組織をフェライトと硬質第2相の複合組織とする。次いで、冷間圧延によって軟質なフェライトに大きな剪断歪みを付与する。最後に、この部分を引き続き行われる焼鈍によって、結晶粒径1.2μm以下のナノ結晶粒とする。
一方、冷間圧延前に存在した硬質第2相(マルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイトのうちの少なくとも1種)は、冷間圧延により変形はするものの、フェライト部ほど大きな剪断歪みが付与されない。このため、冷間圧延後の焼純工程においては、ナノ結晶粒は生成せず、セメンタイトを析出しながらフェライトへ変化するか、又は歪みの少ない新しいフェライト粒の核生成と成長による、通常の静的再結晶の過程を経て、ミクロンオーダーの結晶粒径を有するミクロ結晶粒になる。このようなメカニズムにより、ナノ結晶粒とミクロ結晶粒との混合組織が得られる。
このように、硬質第2相は、マトリックスのフェライトに比して高い硬度を有し、しかも冷間圧延及び焼鈍の後には、フェライトに変化するような組織でなければならない。換言すれば、本発明の製造方法で必要とする硬質第2相とは、セメンタイトのような炭化物単独のものではなく、フェライト又はオーステナイトが主体でありながら硬度の高い組織のことである。
以下に、マルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイトが本発明における硬質第2相としての適格を有する理由を述べる。
マルテンサイトは、Cを過飽和に含むフェライトであり、Cによる結晶格子の歪みに起因した高い転位密度のために、硬度が高い。しかしながら、マルテンサイトのC含有量は、Fe−C平衡状態図におけるFeとFe3Cとの共晶点のC濃度である約0.8%程度が最大であり、Fe3Cの化学式で示されるセメンタイトに比して非常に少ない。このため、冷間圧延後の焼鈍工程においては、セメンタイトを析出しながらフェライトに変化する。従って、マルテンサイトは、フェライトを主体としながら硬度の高い組織であるという、本発明における硬質第2相としての適格を有している。
マルテンサイトは、Cを過飽和に含むフェライトであり、Cによる結晶格子の歪みに起因した高い転位密度のために、硬度が高い。しかしながら、マルテンサイトのC含有量は、Fe−C平衡状態図におけるFeとFe3Cとの共晶点のC濃度である約0.8%程度が最大であり、Fe3Cの化学式で示されるセメンタイトに比して非常に少ない。このため、冷間圧延後の焼鈍工程においては、セメンタイトを析出しながらフェライトに変化する。従って、マルテンサイトは、フェライトを主体としながら硬度の高い組織であるという、本発明における硬質第2相としての適格を有している。
ベイナイトは、マルテンサイトが形成し始める温度よりもやや高温で変態した組織であり、羽毛状又は針状のフェライトと微細なセメンタイトとの混合組織である。ベイナイトは、マルテンサイトほどではないがフェライト部に多量の転位を含んでおり(社団法人日本金属学会編、講座・現代の金属学 材料編4 鉄鋼材料、35頁)、セメンタイトのみならず、転位密度の高いフェライト部も硬度が高い。従って、ベイナイトも、フェライトを主体としながら硬度の高い組織であるという、本発明における硬質第2相としての適格を有している。
上記の説明で明らかなように、ベイナイトは、フェライトとセメンタイトとの混合組織ではあるが、セメンタイトと高転位密度のフェライト部とを組み合わせた組織全体を硬質第2相とみなすことができ、転位密度の低いフェライトマトリックス中に単独で硬質第2相として存在するセメンタイトとは、明確に区別することができる。
また、金属組織の観察からも、ベイナイトと、セメンタイトとの違いは、明瞭に判別できる。鋼の断面を研磨・エッチングして光学顕微鏡で観察した場合、ベイナイトの組織では、高転位密度のために針状フェライト部が暗く観察され、周囲の低転位密度のフェライトマトリックスは明るく見える。一方、セメンタイト単独の組織とは、明るいフェライトマトリックスに対し、灰色に見える球状の析出相である。
最後に、残留オーステナイトは、圧延工程における歪みによって、歪み誘起変態を起こしてマルテンサイトに変化するため、マルテンサイトと同じ効果があり、また、冷間圧延後の焼鈍工程における組織変化も、マルテンサイトと同様である。従って、残留オーステナイトは、本発明における硬質第2相としての適格を有している。
次に、硬質第2相が単独のセメンタイト又はパーライトの場合について説明する。ここでパーライトは、フェライトとセメンタイトとが層状を成す混合組織であるので、層状のセメンタイトが硬質第2相の働きをする。従って、硬質第2相がセメンタイトの場合もパーライトの場合も本質的に同じである。硬質第2相がセメンタイトの場合は、冷間圧延において、本発明の特徴である、軟質フェライト部に大きな剪断歪みを付与することが困難である。これは、セメンタイトは変形に対して非常に脆く、冷間圧延時のエネルギーがセメンタイトの破断に消費されてしまい、フェライトに有効に歪みが付与されないためである。
もっとも、圧延率が85%以上といった高圧下率で冷間圧延すれば、ナノ結晶が生成するようになる。しかしながら、その場合も、冷間圧延後の焼鈍過程における変化が、硬質第2相がマルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイトの場合と大きく異なるため、本発明の特徴である、ナノ結晶粒とミクロ結晶粒との混合組織とはならない。高圧下率で冷間圧延した後の焼鈍工程において、焼鈍温度がAc1変態点以下の場合は、準安定相であるセメンタイトは、その形状が層状の場合は球状へ変化するものの、セメンタイトのまま残存する。このため、焼鈍後の組織はナノ結晶粒であるフェライトとセメンタイトとになり、本発明鋼の特徴である混合組織とはならない。従って、高速変形時の強度上昇、即ち静動差が高いとう特性を示さない。
また、焼鈍温度がAc1変態点以上の場合は、C濃度が非常に高いセメンタイト部が優先的にオーステナイトに変態し、その後の冷却過程において、パーライト、マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイトの少なくとも1種の混合組織に変態する。このため、ナノ結晶粒であるフェライトと、これら変態組織との混合組織となる。本発明鋼の特徴である高い静動差は得られないのは同様である。本発明鋼の最終的な金属組織においては、フェライト以外の相はセメンタイトであってもよいが、フェライト相がナノ結晶粒とミクロ結晶粒との混合組織であることが重要である。
フェライト相をそのような混合組織とするには、熱間圧延板中の硬質第2相を適正に選択した上で、その面積率を10〜85%の範囲とするとともに、それらの平均間隔を2.5〜5μmの範囲とすることが必要である。その後、後述するように、硬質第2相の間隔に応じた所望の圧延率により冷間圧延を施し、結晶粒成長を抑制できる温度、時間で焼鈍することにより、上記のミクロ結晶粒とナノ結晶粒との混合組織を母相として硬質第2相を含有する高強度板が得られる。
次に、熱間圧延板中の硬質第2相の面積率の規定理由について述べる。硬質第2相の面
積率が10%より小さい場合も、85%を超える場合も、冷延・焼鈍後に、十分な量のナノ結晶粒を得ることが出来ない。
積率が10%より小さい場合も、85%を超える場合も、冷延・焼鈍後に、十分な量のナノ結晶粒を得ることが出来ない。
ここで、硬質第2相の面積率が比較的低い範囲、即ち10%以上30%未満の場合は、大きな圧延率を必要とし、通常の冷間圧延で行うのは困難である。ただし、前述の繰り返し重ね圧延を行えば、実施が可能であり、かつ、フェライト単相鋼を素材とする場合よりも少ないサイクル数で組織の超微細化が達成可能である。硬質第2相の面積率が30〜85%の範囲であれぱ、通常の冷間圧延でも十分実施が可能な80%以下の冷間圧延率で実施が可能であるので、好ましくは、硬質第2相の面積率は30〜85%である。
本発明者は、フェライトと硬質第2相からなる熱間圧延板を、冷延・焼鈍した時のナノ結晶粒生成挙動について、高分解能SEMを用いたEBSD(E1ectron Backscatter Diffraction)法によって研究を行った。その結果、冷間圧延組織における硬質第2相とフェライト相との界面付近から、等軸形状で300nm以下という非常に小さな結晶粒が核生成し、焼鈍時間の経過とともに周囲のフェライト加工組織を侵食して成長していく様子が確認された。同時に、硬質第2相については、その内部に新たな結晶粒が核生成するケースと、硬質第2相そのものの形状はほとんど変わらず、歪みが回復するのみで等軸なミクロ結晶粒に変化するケースがある事を確認した。さらに、結晶方位等の詳細解析を行い、混合組織におけるナノ結晶粒の起源は、初期のフェライトと硬質第2相との界面付近に核生成する等軸なフェライト粒であり、ミクロ結晶粒の起源は、初期のフェライトの中でも剪断歪みがあまり付与されていない部分と、初期の硬質第2相であることを見出した。
この知見によれば、熱間圧延板中の硬質第2相が少ない場合は、フェライト相との界面も少ないために、ナノ結晶粒の核生成密度が小さく、逆に歪み量の小さいフェライト相が多く存在するために、最終的にはミクロ結晶粒が多くを占め、ナノ結晶粒によるフェライト相の強化が明瞭に現れず、通常の複合組織鋼との差異が現れない。一方、熱間圧延板中の硬質第2相が多い場合は、フェライト相へ付与される歪みは高いものの、フェライト相自体が少なく、硬質第2相を圧延、焼鈍した組織であるミクロ結晶粒が多くを占めるようになり、結果的には十分な量のナノ結晶粒を得ることが出来ない。本発明者は、上記の知見に基づき、熱間圧延板中の硬質第2相の面積率を種々に変えて冷延・焼鈍する実験を系統的に行うことにより、硬質第2相の面積率の適正範囲は10〜85%、好ましくは30〜85%であることを見出した。
ここで、熱間圧延鋼板中の硬質第2相の測定方法について説明する。熱間圧延鋼板において、圧延方向と平行な断面の400〜1000倍の光学顕微鏡写真を撮影する。その後、図1に示すように、板厚方向に3本の直線(同図においては、代表して1本の直線を示す。)を任意の位置に引く。この直線上で、硬質第2相、フェライト、硬質第2相の順に切断されるとすれば、最初の硬質第2相とフェライトとの界面から、フェライト粒を通って次の界面までの距離を、スケールにて測定し、単位をμmに換算する。この作業を、写真上で切られる全ての硬質第2相について実施し、全ての測定値を平均して、硬質第2相の平均間隔とする。
次に、目的の組織を得るための製造方法について説明する。図2は、熱間圧延の温度履歴を示す図である。同図に示すように、まず、スラブをオーステナイト域即ちAc3変態点以上まで加熱し、粗圧延した後、仕上げ圧延を行う。この仕上げ圧延の温度を、Ar3変態点の直上、即ちフェライトが析出しない範囲でできるだけ低温のオーステナイト域とすることで、圧延時の粒成長を抑制する。その後、フェライトとオーステナイトとの2相域まで冷却することで、フェライトとオーステナイトとの混合組織とする。
この際、圧延時のオーステナイト粒成長を抑制したことで、オーステナイトの結晶粒界から核生成するフェライトの核生成密度が高くなり、粒径を微細にすることができる。圧延時にフェライトが析出していると、加工されたフェライトがそのまま室温まで残存するので、変態により微細なフェライトを析出させるという効果が低減する。
次いで、2相域にてそのまま保持するか、保持せずに急冷を行う。この急冷過程で、オーステナイト部を硬質第2相に変態させるが、2相域保持の段階で結晶粒を微細にしたことが、硬質第2相の間隔を狭くすることに有効に働く。
なお、2相域からの急冷とは、鋼成分によって決まる臨界冷却速度、即ち、CCT曲線におけるパーライト変態開始のノーズを横切らずにMs点(マルテンサイト変態開始温度)に到達するような冷却速度以上の速度で冷却することを意味する。
このときの冷却速度が、CCT曲線におけるベイナイト変態開始ノーズも横切らない程に大きなものであれば、硬質第2相はマルテンサイトとなる。また、ベイナイト変態開始ノーズを横切ってMs点以下まで冷却すれば、硬質第2相はマルテンサイトとベイナイトとの混合組織となる。さらに、Ms点直上で冷却を停止して温度を保持した後に室温まで冷却すれば、硬質第2相はベイナイトになる。
また、高強度鋼板の成分としてSiやAlを増加させた上で、Ms点直上で冷却を停止して保持した後に室温まで冷却すれば、硬質第2相にはベイナイトの他に残留オーステナイトが含まれる。パーライト変態を回避して、フェライト以外の硬質第2相にセメンタイトを含有させないことが重要である。
このような高強度鋼板の製造方法にあっては、熱間圧延後の鋼板を、圧延方向と平行な断面で観察した金属組織において、板厚方向に判定した硬質第2相の平均間隔が2.5〜5μmになるようにすることが好ましいが、その理由は後述する。
<冷間圧延>
熱間圧延後の組織における硬質第2相の平均間隔をd(μm)とし、熱間圧延後(冷間圧延前)の板厚をt0、冷間圧延後の板厚をtとした場合に、下記(19)式で示される加工度指数Dが下記(20)式を満たす条件で、冷間圧延を行う。
[数16]
D=d×t/t0 …(19)
0.5≦D≦1.0 …(20)
(d:硬質第2相の平均間隔(μm)、t:冷間圧延後の板厚、t0:熱間圧延後の冷間圧延前の板厚)
熱間圧延後の組織における硬質第2相の平均間隔をd(μm)とし、熱間圧延後(冷間圧延前)の板厚をt0、冷間圧延後の板厚をtとした場合に、下記(19)式で示される加工度指数Dが下記(20)式を満たす条件で、冷間圧延を行う。
[数16]
D=d×t/t0 …(19)
0.5≦D≦1.0 …(20)
(d:硬質第2相の平均間隔(μm)、t:冷間圧延後の板厚、t0:熱間圧延後の冷間圧延前の板厚)
(20)式で、D値が1.0を超えるような低圧延率では、フェライト相に十分な剪断歪みを付与できず、焼鈍後に十分な量のナノ結晶粒を確保できず、ミクロ結晶粒からなる通常の金属組織にしかならない。またD値が0.5に満たないような高圧下率の圧延を施すと、逆にフェライト相のすべての部分に均一に剪断ひずみが付与されてしまい、焼鈍後の母相フェライトはナノ結晶粒とミクロ結晶粒の混合組織にはならず、全面がナノ結晶粒になる。いずれの場合も、本発明の高強度鋼板の特徴である、高い伸びを付与することができない。
さらに、本発明では、上記dが2.5〜5μmとする。dが5μmを超える場合は、(20)式を満たそうとすると、t/t0が0.2以下、即ち圧延率で80%を超える高圧下を行わなくてはならず、本発明のような高強度鋼板を圧延するには、圧延機に大きな負荷をかける。4段以上のタンデム圧延機を使用して、圧延1パスあたりの圧下率を少なくしたとしても、1回の圧延では必要な圧延率を確保できず、2回圧延の必要が生じる。したがって、本発明では、現実的に1回の圧延で達成する事が可能な、圧延率80%以下でもナノ結晶組織を得るため、熱延板における第2相間隔を5μm以下に限定する。
また、dが2.5μmに満たない場合は、初期の硬質第2相間隔がひじょうに小さいために、いかなる条件で圧延しても、フェライト相のすべての部分に均一に強ひずみが付与されてしまい、焼鈍後の母相フェライトはナノ結晶粒とミクロ結晶粒の混合組織にはならず、全面がナノ結晶粒になる。そのため、本発明の高強度鋼板の特徴である、高い静動差を付与することができないのは前述のとおりである。
<焼鈍>
冷延後の素材を熱処理して加工歪みを除去するとともに、目的の金属組織を作り込む工程である。焼鈍は、冷延後の素材を加熱・保持・冷却する過程よりなるが、保持温度Ts(℃)と、Tsにて保持する時間ts(秒)との関係が、下記(21)式を満たすものとする。
[数17]
650−(ts)1/2<Ts<750−(ts)1/2…(3)
(ts:保持時間(秒)、Ts:保持温度(℃)、(ts)1/2はtsの平方根)
図4は、上記保持温度及び保持時間の適正範囲を示すグラフである。焼鈍温度Tsが750−(ts)1/2より高い場合は、ナノ結晶粒の面積率が上限値である90%を超えてしまうため、好ましくない。一方、焼鈍温度Tsが650−(ts)1/2より低い場合は、ナノ結晶粒の面積率が下限値である15%を下回るため、好ましくない。
冷延後の素材を熱処理して加工歪みを除去するとともに、目的の金属組織を作り込む工程である。焼鈍は、冷延後の素材を加熱・保持・冷却する過程よりなるが、保持温度Ts(℃)と、Tsにて保持する時間ts(秒)との関係が、下記(21)式を満たすものとする。
[数17]
650−(ts)1/2<Ts<750−(ts)1/2…(3)
(ts:保持時間(秒)、Ts:保持温度(℃)、(ts)1/2はtsの平方根)
図4は、上記保持温度及び保持時間の適正範囲を示すグラフである。焼鈍温度Tsが750−(ts)1/2より高い場合は、ナノ結晶粒の面積率が上限値である90%を超えてしまうため、好ましくない。一方、焼鈍温度Tsが650−(ts)1/2より低い場合は、ナノ結晶粒の面積率が下限値である15%を下回るため、好ましくない。
焼鈍後の金属組織における硬質第2相については、焼鈍パターンに応じて、種々のものを得ることができる。図3は、種々の焼鈍パターンを示す図である。同図中、パターン1,2は、CAL(連続焼鈍ライン)の場合であり、パターン3はCGL(溶融亜鉛めっきライン)の場合であり、パターン4は箱焼鈍の場合である。また、表2に、図3に示す各焼鈍パターンにより得られる組織の一覧を示す。
まず、焼純温度について説明する。焼鈍温度Tsを、Acl変態点以下に設定すれば、フェライトとセメンタイトとからなる複合組織を得ることができる。また、焼鈍温度Ts及び急冷開始温度TQを、Acl変態点以上に設定すれば、マトリックスとしてのフェライトと、オーステナイトからの変態組織又は当該変態組織を焼鈍した後の焼鈍組織のうち1の少なくとも1種(硬質第2相)とからなる混合組織とすることができる。
ここで、オーステナイトからの変態組織とは、マルテンサイト、ベイナイト、さらには残留オーステナイトを意味する。ここで、残留オーステナイトは、実際には未変態ではあるが、オーステナイトからの冷却によって室温で得られる組織という意味で、変態組織に含めた。また、変態組織を焼鈍した後の焼鈍組織とは、上記変態組織の焼鈍組織であるが、上記の[0083]〜[0086]で説明したように、上記変態組織のいずれかに含まれるものとして扱う。
なお、焼鈍温度Ts及び急冷開始温度TQがAcl変態点以上であっても、昇温速度が大きく保持時間が短い場合には、鋼中Cのオーステナイトへの濃化が不十分となり、フェライト中には過飽和なCが残存している可能性があり、これが冷却時にセメンタイトとして析出することがある。従って、その場合は、マトリックスとしてのフェライトと、オーステナイトからの変態組織又はそれら変態組織を焼鈍した後の焼鈍組織のうちの少なくとも1種(硬質第2相)とからなる混合組織となり、さらにフェライト中にセメンタイトを含む場合もある。
また、Acl変態点は、素材の成分と加熱速度とによって決定されるものであるが、本発明においては概ね600℃〜750℃の間にある。
次に、焼鈍後の冷却方法について説明する。冷却は、ガスを用いる方法、水スプレーを用いる方法或いは水とガスとの混合スプレーを用いる方法、又は水タンクへのクエンチ(WQ)或いはロールでの接触冷却のいずれかの方法で行う。ここでいうガスとは、空気、窒素、水素、窒素と水素との混合ガス、ヘリウム又はアルゴンのいずれかである。
上記冷却過程において、冷却速度が小さすぎると、フェライト結晶粒の成長が無視できなくなり、その結果ナノ結晶粒の面積率が低下するため、板温が600℃以上の範囲での冷却速度を10℃/s以上とする。板温600℃以上の範囲のみに限定した理由は、600℃未満であれば、結晶粒の成長が非常に遅いため、冷却速度の影響を実質的に無視できるからである。
次に、冷却後の焼鈍パターンについては、焼鈍ラインの構成により、図3に示す4種類のパターンが適用可能である。焼鈍帯の後に、冷却帯と引き続いて過時効帯とを有する構成のラインでは、所定の温度付近にて冷却を停止し、過時効処理するパターン1を採用することができる。また、パターン3は、CGL(溶融亜鉛めっきライン)に相当するパターンであるが、冷却の終点温度が溶融亜鉛浴の温度に限定されること以外は、パターン1と同様である。
既に述べたように、焼鈍温度TsがAc1変態点以下の場合は、得られる硬質第2相はセメンタイトのみであるので、以下に、焼鈍温度Ts及び急冷開始温度TQがAc1変態点以上の場合について、詳細に説明する。冷却速度が大きくCCT曲線におけるフェライト変態ノーズやベイナイト変態ノーズを横切らずにMs点以下まで冷却すれば、硬質第2相としてマルテンサイトが得られる。過時効帯があるパターン1及び3では、マルテンサイトは、厳密には焼戻マルテンサイトになる。但し、前述のように、焼戻マルテンサイトは依然として高い転位密度を保っているため硬度が高く、鋼の強化に大きく寄与するため、本発明ではマルテンサイトと区別せずに扱う。
また、ベイナイト変態ノーズを横切るような冷却速度で冷却し、かつ冷却終了温度をMs点以下とすると、硬質第2相はマルテンサイトとベイナイトとからなる複合組織となり、過時効帯があるパターン1及び3において、Ms点の直上で冷却を停止してそのまま過時効処理をすれば、硬質第2相としてベイナイト或いは残留オーステナイトとベイナイトとの混合組織となる。残留オーステナイトが生成するか否かは、焼鈍時のオーステナイトの安定性により決まる。即ち、合金元素(Si、Al)を増量したり、過時効処理時間を長くしてオーステナイトへのC濃化を促進して、オーステナイトを安定化することで、残留オーステナイトは得られる。
さらに、冷却速度が遅く、パーライト変態ノーズも横切るようになると、第2相にはパーライトも含まれるようになる。ただし、パーライトは、本発明の高強度鋼板の組織としては不適格である。パーライトが生成するような遅い冷却速度では、フェライト粒の粒成長も同時に生じるため、フェライト組織中にナノ結晶粒を多く残存させることが困難となり、高い静動差を発現できないためである。
個別具体的にみると、パターン1では、焼鈍温度Ts及び急冷開始温度TQがAc1変態点以上の場合は、硬質第2相は、マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイトのうち少なくとも1種である。焼鈍温度TsがAc1変態点未満のときは、硬質第2相はセメンタイトのみである。
次に、焼鈍パターン2のように、過時効帯を持たない構成のラインでは、焼鈍の後、100℃以下まで冷却して、完了とする。この場合、焼鈍温度Ts及び急冷開始温度TQがAc1変態点以上の場合は、硬質第2相は、マルテンサイト、ベイナイトのうち少なくとも1種である。焼鈍温度TsがAc1変態点未満のときは、硬質第2相はセメンタイトのみである。
さらに、焼鈍パターン3はCGL(溶融亜鉛めっきライン)に相当する焼鈍のパターンである。焼鈍温度から急冷して溶融亜鉛の浴にて表面に亜鉛を付着させる。その後は、図のように再加熱して亜鉛めっき層を合金化させてもよいし、再加熱を省略して亜鉛めっき層を合金化させなくてもよい。得られる硬質第2相の種類は、再加熱する場合はパターン1と同じであり、再加熱しない場合は、パターン2と同じである。
最後に、焼鈍パターン4は、箱焼鈍である。箱焼鈍での焼鈍が完了した後に、炉体からコイルを取り出し、強制冷却して10℃/s以上の冷却速度条件を満足できる場合は、焼鈍温度に制限はないが、通常は、焼鈍が完了した後に炉体からコイルを取り出さず、炉中で冷却するため、冷却速度10℃/s以上の条件を満たせないので、焼鈍温度を600℃未満に限定する必要がある。その後は、引き続き、1〜10%の範囲の歪み量で、スキンパス圧延に代表される加工を施す。
<本発明の高強度鋼板の作用効果についてのメカニズム2>
さらに、通常の冷間圧延によってナノ結晶粒の組織が得られるメカニズムについて以下に述べる。
まず、従来からの試みとして、冒頭に述べた繰り返し重ね圧延について述べる。繰り返し重ね圧延は、板状のサンプルに大きな歪みを与え、ナノ結晶粒の組織を得るのに有効な方法である。例えば、日本塑性加工学会誌(第40巻、第467号、1190頁)に、アルミニウムの例が示されている。圧延ロールを潤滑して圧延を行った場合は、方位差の少ないサブグレイン組織しか得られず、圧延ロールを潤滑しない場合はナノ結晶粒が得られる。
さらに、通常の冷間圧延によってナノ結晶粒の組織が得られるメカニズムについて以下に述べる。
まず、従来からの試みとして、冒頭に述べた繰り返し重ね圧延について述べる。繰り返し重ね圧延は、板状のサンプルに大きな歪みを与え、ナノ結晶粒の組織を得るのに有効な方法である。例えば、日本塑性加工学会誌(第40巻、第467号、1190頁)に、アルミニウムの例が示されている。圧延ロールを潤滑して圧延を行った場合は、方位差の少ないサブグレイン組織しか得られず、圧延ロールを潤滑しない場合はナノ結晶粒が得られる。
この現象は、無潤滑により剪断変形させると、潤滑の場合よりも大きな歪みを導入することができ、また重ね圧延サイクルの繰り返しにより、前サイクルで表層だった部分が材料内部になり、結果的に材料内部まで剪断歪みが導入されるためである。即ち、繰り返し重ね圧延においても、無潤滑圧延を行って大きな剪断歪みを材料内部に与えないと、結晶粒の超微細化は達成されない。
発明者は、生産性の低い繰り返し重ね圧延や、圧延ロールへの負荷が大きい無潤滑圧延を行わなくても、通常の油潤滑圧延によって材料内部に剪断歪みを付与できる手段を検討した。その結果、圧延前の組織を軟質部と硬質部との複合組織とすればよいとの知見を得た。即ち、軟質なフェライトと硬質第2相とからなる複合組織の鋼板に冷間圧延を施すことで、硬質第2相に挟まれたフェライト領域は、硬質第2相による拘束によって剪断変形する。これにより、材料内部の広い範囲に剪断歪みを導入することができる。
さらに、発明者は、詳細な検討を加え、圧延前の硬質第2相間隔が様々であっても、圧延後の硬質第2相間隔が一定の値になるまで圧延を加えれば、同じように材料内部にわたり剪断変形が導入されるとの知見を得た。即ち、熱間圧延後の組織における硬質第2相の平均間隔をd(μm)とし、熱間圧延後(冷間圧延前)の板厚をt0、冷間圧延後の板厚をtとすると、加工度指数Dが、下記(22)式を満たすような条件冷間圧延を行えばよいことが判明した。
[数18]
D=d×t/t0≦1 …(22)
[数18]
D=d×t/t0≦1 …(22)
最後に、加工によって高速変形時の一様伸びが増加する理由であるが、フェライト粒の転位密度を一定値以上に調整することが効果をもたらしていると考えられる。本発明者は、前述の製造方法によって製造した冷延鋼板に対し、スキンパス圧延率を変化させた実験を行い、その内部を薄膜TEM観察することで、転位組織を詳細に観察した。TEM観察では、鋼板の圧延方向と平行な断面をカットし、機械研磨と電解研磨によって薄膜を作成し、TEMにて明視野像を撮影し、その写真上に円を描き、その円内の転位数を計測する方法によって、転位密度を測定した。
その結果、本発明の高強度鋼板においては、冷延焼鈍ままの状態では、フェライト粒内の転位密度が非常に低く、1013/m2程度にすぎなかった。また高速引っ張りを行うと、初期に大きな変形強度を示した後に荷重が低下し、明瞭な加工硬化を示さずに破断に至る。高速引っ張り後に、同様な方法で転位を観察すると、フェライト粒内に転位は存在するが、その分布は比較的ランダムであった。前述の鉄鋼協会編「自動車用材料の高速変形に関する研究会成果報告書」171頁に、IF鋼の高速変形後の転位組織が示されており、20%もの歪みでも明瞭な転位セル構造を呈していないが、これと同じ現象である。つまり、加工硬化しにくいために、加工硬化を明瞭に示さず、したがって一様伸びが小さいために全伸び値も悪い。
一方、冷延焼鈍後に1%以上のスキンパス圧延を施すと、転位密度が約5倍〜30倍にも増加しており、5%スキンパス圧延では転位のセル化が見られた。これを高速引っ張りしたものでは、スキンパス圧延によって導入された転位に加えて転位密度が上昇し、セル構造がより明瞭になっていた。すなわち、スキンパス圧延によってある程度の転位を導入しておくと、その初期転位が高速変形時においても有効な転位源となり、転位の増殖が促進されて転位セル構造を組みやすくなり、加工硬化すなわち一様伸びが向上していると考えられる。実際に、高速引張りでの応力歪み線図には変化が見られ、降伏の後に加工硬化を示し、一様伸びが向上した。ただし、伸び率が10%を超えるようなスキンパス圧延を行うと、静的変形時に材料の延性低下が顕著になり、そのため高速変形時の延性も、かえって低下した。本発明は、このような知見に基づき、一様伸び向上の効果が明瞭に現れ、かつ材料の延性を極端に劣化させない条件として、歪み量の適正範囲を1〜10%と規定したものである。
表3に示す組成の化学組成のスラブ(発明スラブ1〜11及び比較スラブ1〜5)を溶製した。なお、「発明スラブ」とは、前述の好ましい範囲に入る材料を称し、「比較スラブ」とはそれ以外の材料を言う。
次いで、これらのスラブを用いて、表4に示す諸条件で熱間圧延板を製造し、その後、表5に示す諸条件で冷間圧延及び焼鈍並びにスキンパス圧延を施し、表6に示す焼鈍組織等を具備する鋼板(発明例1〜18及び比較例1〜19)を得た。なお、表5においてスキンパス圧延の伸び率は、事前に鋼板の圧延方向と直角に200mmの間隔で2本のケガキ線を入れてからスキンパス圧延し、(圧延後のケガキ線間隔)−(圧延前のケガキ線間隔)/(圧延前のケガキ線間隔)で算出した。発明例1については、熱延板の両面を板厚が1.2mmになるまで機械加工し、繰返し重ね圧延を3サイクル行った。この重ね圧延の総圧延率は88%に相当する。
さらに、発明例7の鋼板から、圧延方向と平行な断面を切り出して、これらを1%のナイタールでエッチングして、SEMによって組織を観察した。それらの組織を図5に示す。また、発明例7のフェライト相の粒度分布を測定し、その結果を図6に示す。
図5および図6から、硬質第2相としてセメンタイトを含有し、残りはナノ結晶粒とミクロ結晶粒とからなる混合組織であることが判る。
加えて、各鋼板から、圧延方向と平行な方向が引張り軸になるように、図10に示す形状の引張り試験片を切り出して、引張り試験を行った。引張り試験は、鷺宮製作所の高速材料試験機TS−2000にて、歪速度0.01/s及び1000/sで実施した。得られた公称応力公称歪み線図から、静的引張強度(TS)、焼付け硬化性(BH)、全伸びおよび静動差を求めた。なお、静動差は、歪速度1000/sにおける公称歪み3%〜5%での平均公称応力から、歪速度0.01/sにおける公称歪み3%〜5%での平均公称応力を減ずることにより算出した。これらの結果を表6に併記する。
<発明例1〜18についての考察>
発明例1〜18については、各鋼板ともに、優れた諸材料特性を示し、特に、静動差が大きいことが判る。このため、各発明例の鋼板については、高い高速変形強度及び衝撃エネルギー吸収性能と、高い加工性とを両立させることができるため、自動車のボディ等に使用することができる。発明例1では、熱延板の硬質第2相の面積率が12%で下限値に近かったが、繰り返し重ね圧延を行ったため、冷延焼鈍後のナノ結晶比率が高くなり、良好な特性を示した。この結果は、熱延板の硬質第2相の面積率が10%程度と低くても、重ね圧延により目的の組織が得られることを示すものである。
発明例1〜18については、各鋼板ともに、優れた諸材料特性を示し、特に、静動差が大きいことが判る。このため、各発明例の鋼板については、高い高速変形強度及び衝撃エネルギー吸収性能と、高い加工性とを両立させることができるため、自動車のボディ等に使用することができる。発明例1では、熱延板の硬質第2相の面積率が12%で下限値に近かったが、繰り返し重ね圧延を行ったため、冷延焼鈍後のナノ結晶比率が高くなり、良好な特性を示した。この結果は、熱延板の硬質第2相の面積率が10%程度と低くても、重ね圧延により目的の組織が得られることを示すものである。
<比較例1〜19についての考察>
これに対し、比較例5〜19については、各鋼板ともに、静動差が小さいことが判る。このため、これらの比較例の鋼板については、高い高速変形強度及び衝撃エネルギー吸収性能と、高い加工性とを両立することができないため、自動車のボディ等に使用することは好ましくない。なお、比較例1等については、170MPa以上の静動差が得られているものの、その他の伸びなどの特性が発明例と比較して劣っている。特に、比較例1では、スキンパス圧延を施していないため、静動差は高いものの高速変形時の全伸びが低い。
これに対し、比較例5〜19については、各鋼板ともに、静動差が小さいことが判る。このため、これらの比較例の鋼板については、高い高速変形強度及び衝撃エネルギー吸収性能と、高い加工性とを両立することができないため、自動車のボディ等に使用することは好ましくない。なお、比較例1等については、170MPa以上の静動差が得られているものの、その他の伸びなどの特性が発明例と比較して劣っている。特に、比較例1では、スキンパス圧延を施していないため、静動差は高いものの高速変形時の全伸びが低い。
<本発明のバリエーションについて>
本発明では、以上に示した製造方法のみならず、焼鈍時に実際にめっきを付着させて、溶融亜鉛めっき鋼板や合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。また、耐食性を向上させる目的で、溶融亜鉛めっきを施した後に、さらに電気めっきラインにて鉄めっきを施すこともできる。さらに、本発明鋼の焼鈍の後に、電気めっきラインにて表面にめっきを施すことで、電気亜鉛めっき鋼板や合金化(Ni−Zn)電気亜鉛めっき鋼板を得ることができる。加えて、耐食性向上を目的として、有機皮膜処理を施すこともできる。
本発明では、以上に示した製造方法のみならず、焼鈍時に実際にめっきを付着させて、溶融亜鉛めっき鋼板や合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。また、耐食性を向上させる目的で、溶融亜鉛めっきを施した後に、さらに電気めっきラインにて鉄めっきを施すこともできる。さらに、本発明鋼の焼鈍の後に、電気めっきラインにて表面にめっきを施すことで、電気亜鉛めっき鋼板や合金化(Ni−Zn)電気亜鉛めっき鋼板を得ることができる。加えて、耐食性向上を目的として、有機皮膜処理を施すこともできる。
なお、比較のために市販の材料の特性を表7に示す。表7によれば、表6の各発明例と比較して、各市販材1〜5は、いずれも静動差が小さいことが判る。従って、各発明例の鋼板においては、従来の市販材に比して、高速変形強度及び衝撃エネルギー吸収性能と、加工性とを格段に高いレベルで両立させていることが確認された。
図7は、スキンパス圧延での伸び率と全伸びとの関係を示す図であり、表8は図7に示した例をまとめたものである。スキンパス圧延の伸び率が増加するに従い静的変形時の全伸びは減少するが、高速変形時の全伸びは、伸び率が5%程度まで増加する。このことは、高速変形時の吸収エネルギーが増加することを示している。高速変形時の吸収エネルギーは、伸び率が1〜10%のときに高いことから、この範囲が適正である。
図8は、スキンパス圧延を行った材料と行わなかった材料における応力−歪み曲線を示すものである。図8から判るように、スキンパスを行うことで降伏点が低下し、より弱い応力で変形が生じる。図9は、高速変形時の伸びと静動差との関係を示す図である。図9から明らかなように、発明例では伸びと静動差ともに市販材や比較例と比べて優れている。
本発明によれば、フェライト結晶粒の微細化により強度を向上させることができるのはもちろんのこと、静動差が高くプレス成形が容易であり、しかも、高速変形時の延性に優れて吸収エネルギーが大きい高強度鋼板が提供される。よって、本発明は、高い高速変形強度及び衝撃エネルギー吸収性能と、高い加工性との双方を要求特性とする自動車用車体に適用することができる点で有望である。
Claims (5)
- 金属組織がフェライト相と面積率が10〜85%の硬質第2相とからなり、前記硬質第2相どうしの平均間隔が2.5〜5.0μmである熱間圧延鋼板に、加工度指数Dが下記(1)式を前提に下記(2)式を満たす冷間圧延を行い、その後下記(3)式を満たす焼鈍を行うことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
[数1]
D=d×t/t0 …(1)
(d:硬質第2相の平均間隔(μm)、t:冷間圧延後の板厚、t0:熱間圧延後で冷間圧延前の板厚)
[数2]
0.5≦D≦1.0…(2)
[数3]
650−(ts)1/2<Ts<750−(ts)1/2…(3)
(ts:保持時間(秒)、Ts:保持温度(℃)、(ts)1/2はtsの平方根) - 前記冷間圧延は、圧延後に材料を重ね合わせて圧延することを繰り返し行う重ね圧延であることを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼板の製造方法。
- 前記熱間圧延鋼板における前記硬質第2相の面積率が30〜85%であることを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼板の製造方法。
- 前記焼鈍の後に伸び率が1〜10%の加工を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高強度鋼板の製造方法。
- 前記加工はキンパス圧延であることを特徴とする請求項4に記載の高強度鋼板の製造方法。
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