図1は、本発明に係る給紙装置40の一実施形態が適用されたプリンタ10の一例の内部構造の概要を示す側面断面視の説明図であり、図1(A)は、用紙貯留部31が収納位置T1に収納された状態、図1(B)は、用紙貯留部31が引出位置T2に引き出された状態をそれぞれ示している。なお、図1においてY−Y方向を前後方向といい、特に−Y方向を前方、+Y方向を後方という。
図1に示すように、プリンタ10は、印刷処理に供する用紙P1を貯留するとともに、貯留された用紙P1の束(用紙束P)から1枚ずつの用紙P1を繰り出させたり、手差しで給紙させたりし得るように構成された用紙カセット(用紙トレイ)30と、この用紙カセット30から供給された用紙P1に対して画像の転写処理を施す画像形成部20と、この画像形成部20で転写処理の施された用紙P1に対して定着処理を施す定着部27とが装置本体11における仕切板112より上方位置に内装されることによって構成されている。定着部27で定着処理の施された用紙P1は、装置本体11の頂部に形成された排紙トレイ117へ排紙されるようになっている。
前記画像形成部20は、コンピュータ等から伝送された画像情報に基づき用紙P1に転写処理を施すものであり、左右方向(図1の紙面と直交する方向)に延びるドラム心回りに回転可能に設けられた感光体ドラム21の周面に沿うように、当該感光体ドラム21の直上位置から時計方向に向けて帯電器22、露光装置23、現像装置24、転写ローラ25およびクリーニング装置26が配設されることによって形成されている。
前記感光体ドラム21は、周面に静電潜像およびこの静電潜像に沿ったトナー像を形成させるためのものであり、周面に滑らかで強靱なアモルファスシリコン層が積層され、これによってこれらの像を形成させるのに適したものになっている。
前記帯電器22は、ドラム心回りに時計方向に回転している感光体ドラム21の周面に一様な電荷を形成させるものであり、本実施形態においては、ワイヤからのコロナ放電により感光体ドラム21の周面に電荷を付与するコロナ放電方式のものが採用されているが、これに代えて周面が感光体ドラム21の周面と当接しながら従動回転しつつ当該感光体ドラム21の周面へ電荷を付与する帯電ローラ方式を採用してもよい。
前記露光装置23は、コンピュータ等の外部の機器から伝送されてきた画像データに基づき強弱の付与されたレーザー光を回転している感光体ドラム21の周面に照射し、これによる感光体ドラム21周面のレーザー光が照査された部分の電荷の消去によって当該感光体ドラム21の周面に静電潜像を形成させるものである。
前記現像装置24は、感光体ドラム21の周面に現像剤の内のトナーを供給することによって周面の静電潜像が形成された部分にトナーを付着させ、これによって感光体ドラム21の周面にトナー像を形成させるものである。なお、本発明においては、現像剤としてトナーとキャリアとからなる、いわゆる2成分系のものが採用されている。トナーは、着色剤、電荷制御剤およびワックス等の添加剤をバインダー樹脂中に分散させた粒径が6〜12μmの微粉体である。
キャリアは、磁鉄鉱(Fe3O4)等の粒径が60〜200μmの磁性粒子であり、トナーを帯電させるために使用される。そして、トナーは、トナーカートリッジ241から現像装置24に適宜補給される消耗品であるのに対し、キャリアは、予め所定量が現像装置24内に装填されており、消耗することなく循環使用されるのが一般的であるが、本発明においては、トナーカートリッジ241にトナーおよびキャリア(すなわち現像剤)が装填されており、トナーとキャリアの双方が同時に現像装置24に補給されるようにしている。
前記転写ローラ25は、感光体ドラム21の直下位置に送り込まれた用紙P1に対して当該感光体ドラム21の周面に形成されているプラスに帯電したトナー像を用紙P1に転写させるものであり、トナー像の電荷と逆極性であるマイナスの電荷を用紙P1に付与するようになっている。
従って、感光体ドラム21の直下位置に到達した用紙P1は、転写ローラ25と感光体ドラム21とによって押圧挟持されつつ、プラスに帯電した感光体ドラム21周面のトナー像がマイナスに帯電した用紙P1の表面に向けて引き剥がされて転写処理が施されることになる。
前記クリーニング装置26は、用紙P1への転写処理後の感光体ドラム21の周面に残留しているトナーを取り除いて清浄化するためのものである。このクリーニング装置26によって清浄化された感光体ドラム21の周面は、次の画像形成処理のために再び帯電器22へ向かうことになる。
前記定着部27は、画像形成部20において転写処理の施された用紙P1のトナー像に加熱による定着処理を施すものであり、内部にハロゲンランプ等の通電発熱体が装着されたヒートローラ271と、このヒートローラ271の下部で周面が対向配置された加圧ローラ272とを備えて構成されている。そして、転写処理後の用紙P1は、ローラ心回りに時計方向に向けて駆動回転しているヒートローラ271と、ローラ心回りに反時計方向に向けて従動回転している加圧ローラ272との間のニップ部を通過することによりヒートローラ271からの熱を得て定着処理が施されるようになっている。定着処理の施された用紙P1は、排紙搬送路273を通って排紙トレイ117へ排出されることになる。
前記用紙カセット30は、装置本体11に対して挿脱可能に装着された用紙束Pを貯留するための用紙貯留部31と、この用紙貯留部31の前端部に設けられた給紙案内部38とを備えて構成されている。
前記給紙案内部38は、用紙貯留部31の前端部に立設されている。かかる給紙案内部38は、前記用紙貯留部31に貯留されている用紙束Pから繰り出された用紙P1を画像形成部20へ向けて案内する前壁381と、この前壁381の頂部に支持された手差しトレイ382とを備えて構成されている。
前記装置本体11内には、用紙カセット30が収納位置T1に位置設定された状態における前記前壁381の直上位置に搬送ローラ対12が設けられているとともに、この搬送ローラ対12の上部には、前記感光体ドラム21へ向かう給紙搬送路13が設けられ、この給紙搬送路13の前後方向の略中間位置には、レジストローラ対14が設けられ、給紙装置40から給紙された用紙P1は、これら搬送ローラ対12、給紙搬送路13およびレジストローラ対14を介して感光体ドラム21および転写ローラ25間のニップ部へ給紙されるようになっている。
前記手差しトレイ382は、前壁381の頂部から前方に向かって引き出し可能とされている。そして、用紙カセット30が収納位置T1(図1(A))に位置設定された状態で手差しトレイ382を前方に向けて引き出すことにより、用紙P1を当該引き出された手差しトレイ382に沿って手差しでレジストローラ対14へ向けて給紙し得るようになっている。
そして、本発明に係る給紙装置40は、本実施形態においては、装置本体11内の前方における仕切板112の下部と、用紙カセット30における給紙案内部38の前壁381側とに亘って形成されている。
以下、給紙装置40の説明に先立ち、まず、用紙カセット30について、図2を基に詳細に説明する。図2は、用紙カセット30の一実施形態を示す斜視図である。なお、図2においてX−X方向を左右方向、Y−Y方向を前後方向といい、特に−X方向を左方、+X方向を右方、−Y方向を前方、+Y方向を後方という。
図2に示すように、用紙カセット30は、用紙束Pを貯留する用紙貯留部31と、この用紙貯留部31の前端部に形成された用紙P1を画像形成部20へ案内するための給紙案内部38とを備えて構成されている。前記用紙貯留部31は、前面が平面視で外方(前方)に向かって円弧状に膨設された円弧状前板32と、この円弧状前板32の裏面(後面)側の下縁部から後方に向かって延設された底板33と、この底板33の左右両側部から上方に向けて突設された前後方向に延びる一対の側板34とを備えて構成され、上面が開口した平面視で矩形状の浅い箱形を呈している。
前記各側板34の適所には、互いに反対方向に向けて突設された各一対の被ガイド突片341が設けられている一方、装置本体11の一対の側板111(図1(B))には、前記被ガイド突片341に対応した前後方向に延びるガイド溝111aがそれぞれ凹設され、用紙貯留部31は、各被ガイド突片341がこれらのガイド溝111a(図1(B))に案内されつつ正逆移動することによって装置本体11内に収納された収納位置T1(図1(A))と、装置本体11から外部に突出した引出位置T2(図1(B))との間で位置変更し得るようになっている。
前記底板33には、その上面側における左右方向の中央位置に前後方向に延びた前後動案内用凹部331が設けられているとともに、この前後動案内用凹部331に案内されつつ前後動可能な前後位置規制部材35が設けられている。この前後位置規制部材35は、底板33上に載置された用紙束P(図1)の後端位置を規制するためのものであり、前後動案内用凹部331内をスライドする水平板351と、この水平板351の後端部から立設された垂直板352とを有している。そして、この垂直板352を用紙サイズに合わせて移動させて用紙束Pの後端へ当止させ得るようになっている。
また、底板33には、その上面の前方位置に左右方向一対の左右動案内用凹部332が設けられているとともに、これらの左右動案内用凹部332に案内されつつ左右方向に移動可能な一対の左右位置規制部材36が設けられている。これらの左右位置規制部材36は、底板33上に載置された用紙束P(図1)の左右位置を規制するためのものであり、左右動案内用凹部332内をスライドする水平板361と、各水平板361における左右方向の互いに反対側の縁部から立設された垂直板362とを有している。そして、これらの左右位置規制部材36を用紙サイズに合わせて同一量だけ反対方向に向けて移動させることにより一対の垂直板362で当該用紙束Pを挟持し得るようになっている。
従って、用紙貯留部31の底板33上に載置された用紙束Pは、前後位置規制部材35および一対の左右位置規制部材36によって挟み込まれることにより、前端が後述する下部案内部材442の垂直面に当止した状態で用紙貯留部31内において位置決めされることになる。
また、底板33の略前半分の位置には、前記左右位置規制部材36と干渉しない状態で載置された用紙束Pの前半分を上方へ向けて付勢する付勢板37が設けられている。この付勢板37は、後端側が左右方向に延びる支軸371(図1)回りに回動可能に軸支されているとともに、コイルバネ372(図1)によって上方に向かって付勢され、これによって用紙貯留部31に装填された用紙束Pの最上位の用紙P1は、用紙貯留部31が装置本体11に収納された状態(図1(A))で前端部分の上面が後述するピックアップローラ41に当接するようになっている。従って、用紙束Pの最上位の用紙P1は、ピックアップローラ41が駆動回転することにより、後述する給紙ローラ42とリタードローラ43とのニップ部Nおよび前記前壁381を介して画像形成部20へ向けて順次給紙されることになる。
図3は、本発明に係る給紙装置40の第1実施形態を示す一部切欠き斜視図である。また、図4は、図3に示す給紙装置40のI−I線断面図であり、図4(A)は、給紙ローラ42およびリタードローラ43間のニップ部Nに対して用紙束Pから1枚の用紙P1が繰り出された状態、図4(B)は、給紙ローラ42およびリタードローラ43間のニップ部Nに対して用紙束Pから2枚の用紙P1が繰り出された状態をそれぞれ示している。なお、図3および図4におけるXおよびYによる方向表示は図2の場合と同様(Xは左右方向(−X:左方、+X:右方)、Yは前後方向(−Y:前方、+Y:後方))である。
まず、図3に示すように、用紙カセット30が収納位置T1に位置設定された状態(図1(A)参照)で用紙貯留部31に貯留された用紙束Pの前端上面に対向するように装置本体11内に設けられたピックアップローラ41と、前方でこのピックアップローラ41と対向するように用紙カセット30側に設けられた給紙ローラ42と、下部でこの給紙ローラ42と周面同士が当接し合うように対向配置された状態で用紙カセット30側に設けられたリタードローラ43と、これら給紙ローラ42およびリタードローラ43間のニップ部Nから前記搬送ローラ対12へ向かうように用紙P1を案内する案内部材44と、この案内部材44に形成された給紙路45とを備えて構成されている。
前記ピックアップローラ41、給紙ローラ42およびリタードローラ43は、いずれもゴムや柔軟性を有する合成樹脂材料等のいわゆるエラストマによって形成され、これによって用紙P1との間の摩擦力が非常に大きなものになり、用紙P1との間でスリップし難くなっている。
前記ピックアップローラ41は、装置本体11内を左右方向に向けて横断するように図略の所定のフレーム間に架設されたピックアップローラ軸411回りに同心で一体回転可能に外嵌されている。かかるピックアップローラ41は、図略の駆動モータの駆動によるピックアップローラ軸411の軸心回りの回転によって反時計方向に向けて駆動回転し、これによってピックアップローラ41の周面が当接している用紙束Pの最上位の用紙P1を給紙ローラ42およびリタードローラ43間のニップ部Nに向けて繰り出すようになされている。
前記給紙ローラ42は、左右方向一対の図略のフレーム間に架設された給紙ローラ軸421の中央部において当該給紙ローラ軸421回りに同心で一体回転可能に外嵌されている。かかる給紙ローラ42は、給紙ローラ軸421が図略の駆動モータの駆動により軸心回りに反時計方向に回転することにより当該給紙ローラ軸421と一体回転するようになされている。
前記リタードローラ43は、給紙ローラ42の直下位置において周面が給紙ローラ42の周面と当接されている。かかるリタードローラ43は、左右方向一対の図略のフレーム間に架設固定されたリタードローラ軸431の中央部において当該リタードローラ軸431回りに同心で回転可能に外嵌されている。リタードローラ軸431は、軸心回りに回転しないように前記図略のフレームに固定されている。
かかるリタードローラ43内には、当該リタードローラ43とリタードローラ軸431との間に介設されたトルクリミッタ432(図4)が設けられている。因みに、トルクリミッタ432は、同心で相対回転し得るように近接して設けられた2つの物体間に介設され、一方の物体に所定のトルク以上のトルクが加わったときに当該一方の物体と他方の物体とが相対回転するのに対し、一方の物体に所定のトルク未満のトルクが加わっても一方の物体と他方の物体とが相対回転しないように構成された一種のクラッチ装置である。
そして、このトルクリミッタ432の作用によって、リタードローラ43の周面に周方向に向かう所定の力(基準外力)以上の力が加わると当該リタードローラ43が回転する一方、基準外力未満の力が加わった場合には回転しないようになされている。
具体的には、この基準外力は、用紙P1とリタードローラ43の周面との間の摩擦力より小さく、かつ、重ね合わされた用紙P1間の摩擦力より大きく設定されている。基準外力をこのように設定することによって、給紙ローラ42の周面の偏摩耗が抑制されるとともに、ピックアップローラ41により2枚の用紙P1が同時に繰り出されたとき、下部の用紙P1の給紙が阻止された状態で上部の用紙P1のみが給紙されるのであるが、この作用の詳細については後述する。
前記給紙ローラ42およびリタードローラ43は、用紙カセット30における前壁381の後方位置に設けられた案内部材44に装着されている。この案内部材44は、給紙ローラ軸421が貫通装着される上部案内部材441と、リタードローラ軸431が貫通装着される下部案内部材442とからなっている。上部案内部材441は、給紙ローラ42を挟んで左右対称で設けられている。同様に下部案内部材442もリタードローラ43を挟んで左右対称に設けられている。
前記上部案内部材441は、図4に示すように、側面視で略矩形状を呈し、その後方下部に給紙ローラ軸421が貫通され、これによって給紙ローラ42の一部が上部案内部材441の下端から下方に向けて突出されている。
かかる上部案内部材441の後端下部の角部には、給紙ローラ軸421の略直下位置から後方に向かって先上がりに傾斜した上部傾斜縁441aが形成されているとともに、この上部傾斜縁441aの前端部から前方に向かって略水平に前記前壁381の若干手前まで延びる下端面(横向き経路451の上側壁面)441bが形成され、さらにこの下端面441bから上方に向かって前壁381と平行に延びる前端面441cが形成されている。
そして、上部案内部材441の下端面441bと前端面441cとが交差する位置には、円弧状を呈した凸円弧状摺接部(ガイド手段)443が形成され、給紙ローラ42とリタードローラ43とのニップ部Nを通過して搬送ローラ対12に到達した用紙P1は、搬送ローラ対12の駆動によって引き上げられることによりその上面が凸円弧状摺接部443に摺接するようになっている。
前記下部案内部材442は、図4に示すように、側面視で略矩形状を呈し、その後方上部にリタードローラ軸431が貫通されることによりリタードローラ43の一部が下部案内部材442の上端から上方に向けて突出されている。この状態でリタードローラ43の周面が給紙ローラ42の周面と当接されている。
かかる下部案内部材442の後端上部の角部には、リタードローラ軸431の略直上位置から後方に向かって先下がりに傾斜した下部傾斜縁442aが形成されているとともに、この下部傾斜縁442aの前端部から前方に向かって前記上部案内部材441の下端面441bと平行な上端面442bが形成され、さらにこの上端面442bと前記前壁381との間に曲率中心が上部案内部材441の凸円弧状摺接部443の曲率中心と同心で、かつ、曲率径寸法が凸円弧状摺接部443のそれより大きい凹円弧状部444が形成されている。
前記給紙路45は、給紙ローラ42とリタードローラ43との間のニップ部Nを通過した用紙P1を搬送ローラ対12へ向けて搬送するためのものであり、上部案内部材441と下部案内部材442との間および上部案内部材441と前壁381との間に形成されている。かかる給紙路45は、上部案内部材441の下端面441bと下部案内部材442の上端面442bとの間に形成された横向き経路451と、この横向き経路451の下流端(前端)から上方へ向かって延びる、上部案内部材441の前端面441cと前壁381との間に形成された上向き経路452とを備えている。
つぎに、図4(A)を基に、給紙ローラ42とリタードローラ43との間に形成されたニップ部Nを始点として前方に向かって延びるニップ接線L(図4(A)に一点鎖線で表示)について説明する。本発明においてニップ接線Lとは、給紙ローラ42の中心(すなわち給紙ローラ軸421の軸心)と、リタードローラ43の中心(すなわちリタードローラ軸431の軸心)とを結ぶ直線と直交するようにニップ部Nから前方に延ばされた直線のことであり、用紙束Pからニップ部Nに向けて繰り出された用紙P1は、ニップ接線Lに沿うように移動するのである。
そして、本実施形態においては、ニップ部Nにおけるリタードローラ43の接線方向(すなわち、ニップ部Nを始点にしたニップ接線Lが前方に向かう方向)に対し当該リタードローラ43の方向に向けて用紙P1をガイドする(曲がらせる)、本発明に係るガイド手段としての下端面441bの一部である凸円弧状摺接部443が設けられ、用紙P1が搬送ローラ対12の駆動で上方に向かって引き上げられた状態で、ニップ部Nとリタードローラ43との間に位置する用紙P1がニップ接線Lの下位になるようになされている。
こうすることによって、搬送ローラ対12に引っ張られて給紙路45を通過する用紙P1を、僅かではあるがリタードローラ43に巻き付いた状態にすることができ、これによって用紙P1が給紙ローラ42を上方に向かって吊り上げるように作用することがなくなるばかりか、用紙束Pから用紙P1が同時に2枚繰り出される、いわゆる2枚給紙を防止することが可能になる。
以下、この2枚給紙を防止することが可能な給紙装置40の作用について図5を基に説明する。図5は、給紙装置40の作用を説明するための説明図であり、図5(A)は、用紙束Pから最上位の1枚の用紙P1が繰り出された場合、図5(B)〜図5(D)は、用紙束Pから最上位の用紙P1(最上位用紙P11)とその次の用紙P1(次用紙P12)とが略同時に繰り出された場合をそれぞれ示している。そして、図5(B)は、最上位用紙P11が給紙ローラ42およびリタードローラ43間のニップ部Nを通過した直後に次用紙P12がニップ部Nに到達した状態、図5(C)は、次用紙P12がニップ部Nに食い込んだ状態、図5(D)は、最上位用紙P11が搬送ローラ対12に到達した状態をそれぞれ示している。なお、図5におけるYによる方向表示は図4の場合と同様(−Y:前方、+Y:後方)である。
まず、ピックアップローラ41の駆動により用紙束Pから最上位の用紙P1が1枚だけ繰り出されたときには、図5(A)に示すように、繰り出された用紙P1は、給紙ローラ42の給紙ローラ軸421回りの駆動回転に誘導されて給紙ローラ42とリタードローラ43との間のニップ部Nを通過し、給紙路45を通過して搬送ローラ対12に挟持され、搬送ローラ対12の駆動回転によって引っ張り上げられた状態になる。
そして、この状態においては、トルクリミッタ432の基準外力より用紙束Pとリタードローラ43の周面との間の摩擦力の方が大きいため、ニップ部Nにおいて用紙P1が移動すると、リタードローラ43は、トルクリミッタ432の抵抗に抗しこの移動に連れてリタードローラ軸431回りに時計方向に向けて連れ回りする。従って、リタードローラ43が回転しない場合にはリタードローラ43の周面が偏摩耗するという不都合が生じるのであるが、用紙P1の移動に応じてリタードローラ43が回転することで当該リタードローラ43の偏摩耗が有効に防止される。
また、前記のとおりニップ部Nと凸円弧状摺接部443との間の用紙P1は、ニップ接線Lより下位に位置している(すなわち、ニップ接線Lの勾配より用紙P1の勾配の方が小さくなっている)ため、用紙P1は、搬送ローラ対12によって引っ張られることにより給紙路45内で緊張して僅かではあるがリタードローラ43に巻き付いた状態になっており、その分用紙P1がリタードローラ43の周面に確実に当接され、これによって用紙P1がリタードローラ43に対してスリップするような不都合の発生が確実に防止される。
つぎに、図5(B)に示すように、ピックアップローラ41の駆動で用紙束Pから略同時に2枚の用紙P1が繰り出されたとき(因みに、図5(B)に示す例では最上位の用紙P1(最上位用紙P11)が繰り出された後に若干の時間差を置いて最上位から2枚目の用紙P1(次用紙P12)が繰り出されている)には、まず最上位用紙P11が給紙ローラ42およびリタードローラ43間のニップ部Nに到達して若干ニップ部Nを通過したときに次用紙P12がニップ部Nに到達している。
そして、次用紙P12がニップ部Nに到達するまでの間は、図5(A)に示す1枚繰り出しの場合と同様であるため、リタードローラ43は、給紙ローラ軸421回りに反時計方向に向けて回転している給紙ローラ42に連れ回りしてリタードローラ軸431回りに時計方向に向けて回転する。
ついで、次用紙P12がニップ部Nに到達すると、次用紙P12は、図5(C)に示すように、慣性によって若干給紙ローラ42とリタードローラ43との間に形成されたニップ部Nに食い込み(図5(C)では、食い込み状態を誇張して示している)最上位用紙P11とリタードローラ43とによって押圧挟持された状態になる。
この状態では、給紙ローラ42の給紙ローラ軸421回りの反時計方向に向かう駆動回転は、最上位用紙P11および次用紙P12を介してリタードローラ43に伝達されることになるが、トルクリミッタ432の基準外力が最上位用紙P11と次用紙P12との間の摩擦力より大きく設定されているため、リタードローラ43は回転することがなく、結局、最上位用紙P11のみがニップ部Nにおいて給紙ローラ42の駆動回転に応じ次用紙P12に対してスリップ(摺動)しながら移動することになる。従って、最上位用紙P11と次用紙P12とが同時にニップ部Nから給紙路45に向けて給紙されること、すなわち2枚給紙が確実に防止される。
ニップ部Nから給紙路45の横向き経路451に導出された最上位用紙P11は、下部案内部材442の凹円弧状部444に誘導されて上方へ向かい、上向き経路452を通って搬送ローラ対12へ到達し、以後は、図5(D)に示すように、搬送ローラ対12によって上方へ向けて引っ張り上げられた状態で画像形成部20へ向けて給紙されることになる。
そして、この状態においては、前記のとおりニップ部Nと凸円弧状摺接部443との間に存在する用紙P1は、ニップ接線Lより下位に設定されているため、最上位用紙P11は、搬送ローラ対12によって引っ張られることにより給紙路45内で緊張して僅かではあるが次用紙P12を介してリタードローラ43に巻き付いた状態になり、これによって次用紙P12のリタードローラ43周面に対する当接状態が確実になる。従って、次用紙P12のリタードローラ43に対する当接状態が不十分であることにより、次用紙P12が最上位用紙P11に同伴して給紙路45内に給紙されてしまうような不都合の発生が有効に防止される。
以上詳述したように、本発明に係る給紙装置40は、積層状態の複数枚の用紙P1からなる用紙束Pが貯留された用紙カセット30から1枚ずつの用紙P1を繰り出させるピックアップローラ41と、このピックアップローラ41の下流側に対向配置された用紙P1を給紙するべく駆動回転する給紙ローラ42と、この給紙ローラ42の下部に周面同士が互いに当接するように対向配置された、トルクリミッタ432を有するリタードローラ43とを備えて構成され、給紙ローラ42とリタードローラ43との間に用紙P1を挟持するニップ部Nが形成されているため、ピックアップローラ41の駆動回転により用紙束Pから繰り出された最上位用紙P11は、ピックアップローラ41および給紙ローラ42間に形成されたニップ部Nに到達すると、給紙ローラ42およびリタードローラ43にニップされた状態で給紙ローラ42の駆動回転により画像形成部20へ向けて給紙される。
そして、ニップ部Nの下流側に当該ニップ部Nから送り出された最上位用紙P11の搬送を案内する給紙路45が形成され、この給紙路45は、給紙路には、用紙を前記ニップ部の接線方向よりも前記リタードローラ側へガイドするガイド手段(第1実施形態では上部案内部材441に設けられた凸円弧状摺接部443、第2実施形態では上部案内部材441に設けられた搬送コロ46、第3実施形態では用紙搬送案内部材47に設けられた後方案内コロ472)が設けられているため、ニップ部Nを介して横向き経路451へ送り出された最上位用紙P11は、従来のように急峻な勾配で上方へ向かい、ニップ部Nの下流側で搬送ローラ対12によって上方に向かって引っ張られることにより給紙ローラ42が上方へ引き上げられてニップ部Nでの用紙P1に対する押圧挟持力が低下するような不都合の発生を確実に防止することができる。
従って、用紙束Pから用紙束Pの2枚(最上位用紙P11および次用紙P12)が同時に繰り出された場合、これら最上位用紙P11および次用紙P12が給紙ローラ42およびリタードローラ43間のニップ部Nに同時に到達したときに、給紙ローラ42の浮き上がりで次用紙P12のリタードローラ43周面に対する当接状態が不安定になって当該リタードローラ43の従動停止による次用紙P12の送り出し阻止機能が損なわれるような不都合の発生が有効に防止されるため、2枚の用紙P1が同時に目的の場所に給紙されてします、いわゆる2枚給紙を確実に防止することができる。
そして、給紙路45は、横向き経路451下流端から上方へ向かって延びるように延設された上向き経路452を有し、特に上記の第1本実施形態においては、横向き経路451と上向き経路452との接合位置に用紙P1の上面が摺接する円弧状を呈した凸円弧状摺接部443が形成されているため、最上位用紙P11が上向き経路452の上部に配設された搬送ローラ対12の駆動で上方に向かって引っ張り上げられた状態で、最上位用紙P11の上面が凸円弧状摺接部443に対し摺動して円滑に送り出されるとともに、最上位用紙P11のリタードローラ43に巻き付いた状態が安定する。
従って、たとえピックアップローラ41の駆動で用紙束Pから2枚の用紙P1が繰り出されても、これら2枚の用紙P1が給紙ローラ42およびリタードローラ43間に形成されたニップ部Nに到達した状態で、最上位用紙P11の次の用紙P1である次用紙P12が最上位用紙P11によってリタードローラ43に向けて押さえ付けられた状態になるため、次用紙P12は、リタードローラ43に確実に押圧当接され、これによってリタードローラ43の次用紙P12を送り出さなくするという機能が確実に果たされる。
また、リタードローラ43は、当該リタードローラ43とリタードローラ軸431との間に介設されたトルクリミッタ432介しリタードローラ軸431回りに自由回転可能に軸支されているため、従来のようにリタードローラ43を駆動回転させる場合に比較して駆動モータや駆動力伝達機構等の部材を設ける必要がなくなり、その分部辺点数の削減、延いては製造コストの低減化に貢献することができる。
図6は、本発明の第2実施形態に係る給紙装置40′を示す側面視の説明図である。なお、図6においてYによる方向表示は図1の場合と同様(−Y:前方、+Y:後方)である。
第2実施形態の給紙装置40′においては、給紙路45における横向き経路451と上向き経路452との境目における上部案内部材441の前方下部の角部に、上記の凸円弧状摺接部443に代えて搬送コロ46が設けられている。この搬送コロ46は、上部案内部材441を貫通した搬送コロ軸461回りに回転自在に軸支され、周面の一部が下部案内部材442の凹円弧状部444と対向している。その他の構成は、先の第1実施形態の給紙装置40と同様である。
第2実施形態の給紙装置40′によれば、ピックアップローラ41の駆動で用紙束Pから繰り出され、給紙ローラ42およびリタードローラ43間のニップ部Nを介して給紙路45へ送り出された用紙P1が横向き経路451および上向き経路452を通り先端側が搬送ローラ対12により挟持されて上方へ引き上げられた状態で、その上面が搬送コロ46の周面に当接された状態になり、これによって搬送コロ46が用紙P1の移動に従動して搬送コロ軸461回りに回転するため、用紙P1は、その表面側が傷付くことなく給紙路45内でより円滑に搬送されることになる。
図7は、本発明の第3実施形態に係る給紙装置40″を示す側面視の説明図であり、図7(A)は、用紙搬送案内部材47が用紙非押圧姿勢U1に姿勢設定された状態、図7(B)は、用紙搬送案内部材47が用紙押圧姿勢U2に姿勢設定された状態をそれぞれ示している。なお、図7においてYによる方向表示は図1の場合と同様(−Y:前方、+Y:後方)である。
第3実施形態の給紙装置40″は、上記のピックアップローラ41、給紙ローラ42、リタードローラ43、案内部材44および給紙路45を備えたことを前提とし、これらにさらに用紙搬送案内部材47が付加されることによって構成されている。
前記用紙搬送案内部材47は、上部案内部材441の下部前方の角部に下部案内部材442の凹円弧状部444に対向するように斜めに配置されている。かかる用紙搬送案内部材47は、上部案内部材441に貫通された支点軸474回りに揺動する前方に向かって先上がりに配設された揺動板(コロ支持体)471と、この揺動板471の後方側において後方軸475回りに回転自在に軸支された後方案内コロ(ガイド手段)472と、揺動板471の前方側において前方軸476回りに回転自在に軸支された前方案内コロ473とを備えて構成されている。
前記支点軸474は、揺動板471の前後方向の中央位置より若干後方寄りの位置に貫通され、これによって用紙搬送案内部材47は、支点軸474より前方部分が後方部分より重量が重くなっている。従って、用紙搬送案内部材47は、支点軸474回りに時計方向に向かわされるように重力が作用し、図略のストッパによって回動が阻止されることにより、普段は後方案内コロ472の下部周面が、図7(A)に示すように、僅かに横向き経路451内に没入した用紙非押圧姿勢U1に姿勢設定されるようになっている。
前記前方案内コロ473は、前方軸476より後方部分が上向き経路452に相当量没入されている。従って、用紙P1が上向き経路452を上昇して搬送ローラ対12により上方に向けて引っ張り上げられた状態では、前方案内コロ473が上向き経路452を上昇する用紙P1の張力より後方に向けて押圧されて用紙搬送案内部材47が支点軸474回りに反時計方向に向けて回動し、これによって後方案内コロ472の周面が相当大量に横向き経路451内に没入した図7(B)に示す、横向き経路451内の用紙P1を下方に向かって応札する用紙押圧姿勢U2に姿勢設定されるようになっている。
このように構成された第3実施形態の給紙装置40″によれば、ピックアップローラ41の駆動で用紙束Pから繰り出され、給紙ローラ42およびリタードローラ43間のニップ部Nを通って給紙路45に送り出された用紙P1は、図7(A)に示すように、横向き経路451および上向き経路452を通って搬送ローラ対12へ到り、この搬送ローラ対12の駆動回転によって上方に向けて引っ張り上げられることになるが、このとき、上向き経路452に位置している用紙P1が前方案内コロ473を後方に向けて押圧し、これによって揺動板471が支点軸474回りに反時計方向に回動する。
この回動によって後方案内コロ472が横向き経路451内に侵入するため、横向き経路451内の用紙P1が後方案内コロ472によって下方に向けて押圧される。この押圧によって横向き経路451内の用紙P1は、ガイド手段としての後方案内コロ472の下降により横向き経路451内でニップ接線Lより下位に位置した状態になり、リタードローラ43の周面に巻き付いた状態になるため、用紙P1のリタードローラ43周面に対する当接状態を極めて安定したものにすることができる。
従って、用紙束Pから2枚の用紙P1(最上位用紙P11および次用紙P12)が同時に繰り出された場合、最上位用紙P11とリタードローラ43とに挟持された次用紙P12のリタードローラ43に対する当接状態が極めて良好になり、これによってリタードローラ43は、次用紙P12が横向き経路451へ移動することを阻止する機能を確実に果たし得るようになり、用紙P1の2枚給紙をさらに確実に阻止することができる。
さらに、第3実施形態の給紙装置40″によれば、用紙P1が給紙路45に送り出された当初のみは、当該用紙P1が搬送ローラ対12により引っ張られることで用紙搬送案内部材47に前方案内コロ473を介して支点軸474回りに反時計方向へ向かうトルクがかかり、これによって当該用紙搬送案内部材47が揺動するが、その後は、図7(B)に示すように、用紙P1を給紙路45内で最短距離で搬送させることができるという利点も存在する。
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下の内容をも包含するものである。
(1)上記の実施形態においては、給紙装置40,40′,40″が適用される画像形成装置としてプリンタ10を例に挙げて説明したが、本発明は、画像形成装置がプリンタ10であることに限定されるものではなく、複写機やファクシミリ装置にも適用することができる。
(2)上記の実施形態においては、用紙トレイとして被転写用の用紙P1を貯留する用紙カセット30が採用されているが、本発明は、用紙トレイが用紙カセット30であることに限定されるものではなく、複写機やファクシミリ装置において原稿を原稿読取装置に給紙する原稿トレイであってもよい。
(3)上記の実施形態においては、リタードローラ43がトルクリミッタ432を介して自由回転が可能にリタードローラ軸431に軸支されているが、こうする代わりに所定の駆動モータの駆動力を、リタードローラ軸431およびトルクリミッタ432を介してリタードローラ43に伝達するようにし、これによって当該リタードローラ43を、用紙P1が繰り出し方向と反対方向に向かうように駆動回転させてもよい。こうすることによって、ピックアップローラ41の駆動回転で同時に2枚の用紙P1が繰り出されたとき、最上位の用紙P1の次の用紙P1は、リタードローラ43の駆動回転によって積極的に繰り出し方向と逆方向に押し戻すことになるため、より確実に2枚給紙を防止することができる。
(4)上記の第1実施形態においては、用紙P1を所定の巻き付け量でリタードローラ43に巻き付かせるためのガイド手段として上部案内部材441の凸円弧状摺接部443が採用されているが、こうする代わりに上部案内部材441の下端面441b(すなわち横向き経路451の上側壁面)自体を全体的にニップ部Nから下部案内部材442へ向かってニップ接線Lより下位に位置するように面設定したり、あるいは下端面441bに、その一部を下方に膨出させた膨出部を形成させてこの膨出部の最下面をニップ接線Lの下位に位置するように位置設定したりしてもよい。
上部案内部材441の下端面441bを全体的にニップ部Nから下部案内部材442へ向かってニップ接線Lより下位に位置するように面設定した場合には、当該下端面441b自体が本発明に係るガイド手段であり、上部案内部材441の下端面441bに、その一部を下方に膨出させた膨出部を形成させた場合には、この膨出部が本発明に係るガイド手段ということになる。
因みに、第1実施形態における凸円弧状摺接部443は、本発明に係るニップ部Nから導出された用紙P1が摺接するように設定された横向き経路451の上側壁面(下端面441b)の範疇に含まれるものである。