(発明の詳細な説明)
以下に本発明を、添付の図面を参照して例示の実施例により説明する。
本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
(用語)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
本明細書において「生物」とは、当該分野における最も広義に用いられ、生命現象を営むものをいい、代表的には、細胞構造、増殖(自己再生産)、成長、調節性、物質代謝、修復能力など種々の特性を有し、通常、核酸のつかさどる遺伝と、タンパク質のつかさどる代謝の関与する増殖を基本的な属性として有する。生物には、ウイルス、原核生物、真核生物(酵母のような単細胞生物、植物、動物のような多細胞生物など)などが包含される。本発明の方法は、グラム陽性細菌、および真核生物などの高等生物を含む、どのような生物であっても適用され得ることが理解される。
本明細書において「真核生物」とは、当該分野において通常用いられる意味と同様に用いられ、核膜のある、明確な核構造を持つ細胞からなる生物をいう。真核生物としては、例えば、酵母のような単細胞生物、イネ、コムギ、トウモロコシ、ダイズのような植物、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、サルのような動物、ハエ、カイコなどの昆虫が挙げられるがそれらに限定されない。本明細書では、酵母、線虫、ショウジョウバエ、カイコ、イネ、コムギ、ダイズ、トウモロコシ、シロイヌナズナ、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、カエル、魚類(例えば、ゼブラフィッシュ)などがモデルとして使用され得るがそれらに限定されない。
本明細書において「原核生物」とは、当該分野において通常用いられる意味と同様に用いられ、明確な核構造を持たない細胞からなる生物をいう。原核生物としては、例えば、大腸菌、サルモネラ菌のようなグラム陰性細菌、枯草菌、放線菌、ブドウ球菌のようなグラム陽性細菌、藍藻類、水素細菌などが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書では、代表的に、大腸菌以外に、グラム陽性細菌、として使用され得るがそれに限定されない。
本明細書において「単細胞生物」とは、当該分野において通常用いられる意味と同様に用いられ、一つの細胞からなる生物をいう。単細胞生物には、真核生物および原核生物の両方が含まれる。単細胞生物の例としては、例えば、細菌(例えば、大腸菌、枯草菌など)、酵母、藍藻類などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「多細胞生物」とは、複数の細胞(通常、複数の異なる種類の細胞)が一個体をなす生物をいう。多細胞生物は、その生物を構成する細胞種が異なることから、その生物の生命の維持には単細胞生物とは異なり高度な恒常性維持などのメカニズムが必要とされる。真核生物には多細胞生物が多い。多細胞生物には、動物、植物、昆虫などが含まれる。本発明では、驚くべきことに、多細胞生物においても本発明が適用可能であることが見出されたことに留意すべきである。
本明細書において「動物」は、当該分野において最も広義で用いられ、脊椎動物および無脊椎動物(例えば、節足動物)を含む。動物としては、哺乳綱、鳥綱、爬虫綱、両生綱、魚綱、昆虫綱、蠕虫綱などが挙げられるがそれらに限定されない。動物は、好ましくは、脊椎動物(例えば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)であり得るが、それらに限定されない。ある一つの実施形態では、動物は、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)であり得るがそれらに限定されない。さらに好ましくは、霊長類(たとえば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)または他のモデル動物となり得る種(例えば、奇蹄類、偶蹄類、マウスなどの齧歯類、ウサギ目など)であり得るがそれらに限定されない。本発明の方法は、生物であればどのようなものであっても適用できることが本発明において初めて解明されたことから、どのような生物であっても、対象とされ得ることが理解されるべきである。
本明細書において用いられる「植物」とは、植物界に属する生物の総称であり、クロロフィル、かたい細胞壁、豊富な永続性の胚的組織の存在,および運動する能力がない生物により特徴付けられる。代表的には、植物は、細胞壁の形成・クロロフィルによる同化作用をもつ顕花植物をいう。「植物」は、単子葉植物および双子葉植物のいずれも含む。好ましい植物としては、有用植物、例えば、コムギ、トウモロコシ、イネ、オオムギ、ソルガムなどのイネ科に属する単子葉植物が挙げられるがそれらに限定されない。好ましい植物のほかの例としては、タバコ、ピーマン、ナス、メロン、トマト、サツマイモ、キャベツ、ネギ、ブロッコリー、ニンジン、キュウリ、柑橘類、白菜、レタス、モモ、ジャガイモおよびリンゴが挙げられる。好ましい植物は作物に限られず、花、樹木、芝生、雑草なども含まれる。特に他で示さない限り、「植物」は、植物体、植物器官、植物組織、植物細胞、および種子のいずれをも意味する。植物器官の例としては、根、葉、茎、および花などが挙げられる。植物細胞の例としては、カルスおよび懸濁培養細胞が挙げられる。本発明の方法は、生物であればどのようなものであっても適用できることが本発明において初めて解明されたことから、どのような生物であっても、対象とされ得ることが理解されるべきである。
ある実施形態において、本発明において使用され得る植物種の例としては、ナス科、イネ科、アブラナ科、バラ科、マメ科、ウリ科、シソ科、ユリ科、アカザ科、セリ科の植物が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「遺伝形質」とは、遺伝子型とも呼ばれ、遺伝によって支配される生物の形態的要素をいう。遺伝形質の例としては、例えば、温度、湿度、pH、塩濃度、栄養、金属、ガス、有機溶媒、圧力、気圧、粘性、流速、光度、光波長、電磁波、放射線、重力、張力、音波、他の生物、化学薬品、抗生物質、天然物、精神的ストレス、物理的ストレスなどのような環境を構成するパラメータに対する抵抗性レベルなどが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において、「遺伝子」とは、細胞中に存在する核酸の一定の長さの配列をいう。本発明において遺伝子は、遺伝形質を規定するものであっても規定しないものであってもよい。本明細書において、「遺伝子」は、通常ゲノムに存在するものをさすが、それに限定されず、染色体外の配列、ミトコンドリアの配列なども包含することが理解される。多くの遺伝子は、通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定するものを構造遺伝子といい、その発現を左右するものを調節遺伝子(たとえば、プロモーター)という。本明細書では、遺伝子は、特に言及しない限り、構造遺伝子および調節遺伝子を包含する。したがって、例えば、「DNAポリメラーゼ遺伝子」というときは、通常、DNAポリメラーゼの構造遺伝子ならびにDNAポリメラーゼのプロモーターなどの転写および/または翻訳の調節配列の両方を包含する。本発明では、構造遺伝子のほか、転写および/または翻訳などの調節配列もまた、本発明が対象とする遺伝子として有用であることが理解される。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」ならびに/または「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を指すことがある。本明細書においてはまた、「遺伝子産物」は、遺伝子によって発現された「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を包含する。当業者であれば、遺伝子産物が何たるかはその状況に応じて理解することができる。
本明細書において「遺伝子の複製」とは、遺伝物質であるDNAまたはRNAにおいて,親の核酸鎖を鋳型として,親核酸と同一の構造と機能を有する新しい核酸分子(DNAであればDNA、RNAであればRNA)を生成することをいう。真核細胞では,二本鎖DNA分子上にある多数の複製開始点に複製酵素(DNAポリメラーゼα)を含む複製開始複合体が形成されることによって複製が開始され、複製反応が複製開始点から両方向へ進行する。複製開始は、細胞周期によって制御される。酵母における自立複製配列(ARS=autonomously replicating sequence)は複製開始点とされる。大腸菌などの原核細胞では、ゲノムの二本鎖環状DNA分子に1個の複製開始点(ori)が存在し、oriに複製開始複合体が形成され、反応はoriから両方向に進行する。複製開始複合体は複製酵素(DNAポリメラーゼIII)を含む10種類以上のタンパク質因子を含む複雑な構造を有する。複製反応は、二本鎖DNAのらせん構造の部分的巻戻しに始まり、その後短いDNAプライマーが合成され、3’−OH基から新たなDNA鎖が伸長され、相補鎖鋳型において岡崎フラグメントが合成され、岡崎フラグメントの連結、鋳型と照らし合わせる校正(プルーフリーティング)などの多段階の反応によって複製反応が進行する。
生物の遺伝情報であるゲノムDNAの複製機構は、Kornberg A.and Baker T.,“DNA Replication”,New York,Freeman,1992に詳述されている。代表的には、1つの1本鎖DNAを鋳型として相補的な鎖を合成し、その結果、1つの2本鎖DNAを生じる酵素(DNA複製を行う酵素)を、DNAポリメラーゼという。DNA複製には、少なくとも2つのDNAポリメラーゼが必要である。通常、リーディング鎖およびラギング鎖の合成を同時に行わなければならないからである。DNA複製は、DNA上の決まった位置から開始されるが、その位置を複製開始点(ori)という。例えば、細菌では、通常、環状ゲノムDNAに少なくとも1つの両方向性の複製開始点を有する。これらを総合すると、通常は、1つのゲノムDNA複製には、4つのDNAポリメラーゼが同時に作用する必要があることになる。本発明では、好ましくは、リーディング鎖およびラギング鎖の一方のみの複製誤りが調節されることが有利であり得、あるいは、二本の鎖のあいだの複製誤りの頻度が異なることが有利であり得る。
本明細書において「複製誤り」とは、遺伝子(DNAなど)の複製の過程で生じるヌクレオチド取り込みの誤りをいう。複製誤りは、通常、生体では、その頻度は108〜1012回に1回程度できわめて低い。複製誤りの頻度が低い理由としては、ヌクレオチドの取り込みが鋳型DNAと取り込まれるヌクレオチドとが相補的な塩基対を形成することによって複製が起こること、DNAポリメラーゼδ、εなどの酵素の校正機能すなわち3’→5’エキソヌクレアーゼが,鋳型に相補性を示さないヌクレオチドが誤って取り込まれたときそれを察知し直ちに切り出す機能が存在することなどが挙げられる。従って、本発明において複製におけるエラープローン頻度の調節は、特異的塩基対形成の障害、校正機能の障害などによって行うことができる。
本明細書において遺伝形質の「変換速度」とは、生物の生殖または分裂の際に、その生物が元々持っていた遺伝形質と、生殖または分裂後の生物が持っている遺伝形質との相違点の生じる速度をいう。そのような変換速度は、分裂あたりまたは世代あたりの遺伝形質の変化の個数などで表現することができる。本明細書においては、代替的にこのような遺伝形質の変換を「進化」ということもある。
本明細書において「遺伝形質の変換速度の調節」とは、天然に存在する要因以外の人為的な操作によって、遺伝形質の変換速度を変化させることをいう。従って、遺伝形質の変換速度の調節には、遺伝形質の変換速度の遅延化および迅速化が包含される。遺伝形質の変換速度の遅延化により、その生物はほとんどその遺伝形質を変化させないことになる。従って、代替的表現を使用する場合、遺伝形質の変換速度の遅延化によりその生物は進化速度が下降する。逆に、遺伝形質の変換速度の迅速化により、その生物は、遺伝形質を通常よりも頻繁に変化させることになる。従って、代替的表現を使用する場合、遺伝形質の変換速度の迅速化によりその生物は進化速度が上昇する。
本明細書において「エラーフリー」とは、遺伝子(DNAなど)の複製において誤りがほとんどない、あるいは実質的に全くない性質をいう。エラーフリーは、主に、校正機能を有する酵素(例えば、DNAポリメラーゼδ、εなど)の校正機能の精度によって影響を受ける。
本明細書において「エラープローン」とは、遺伝子(DNAなど)の複製における誤り易い(すなわち、複製誤りの)性質をいう。エラープローンは、主に、校正機能を有する酵素(例えば、DNAポリメラーゼδ、εなど)の校正機能の精度によって影響を受ける。
本明細書においてエラープローンとエラーフリーとは、絶対的に(すなわち、エラープローン頻度のレベルなどで決定する)分類することができ、あるいは相対的(2種類以上の遺伝子の複製を担う因子(例えば、DNAポリメラーゼなど)におけるエラープローン頻度について多いほうをエラープローンとし、少ないほうをエラーフリーとする)に分類することができる。
本明細書において「エラープローン頻度」とは、エラープローンの性質のレベルをいう。エラープローン頻度は、例えば、遺伝子配列における変異の絶対数(変異の数そのもの)または相対数(全長における変異の数の比率)で表現することができる。あるいは、ある生物または酵素について言及するとき、エラープローン頻度は、ある生物の生殖または分裂1回あたりの遺伝子配列における変異の絶対数または相対数で表現してもよい。特に言及しない場合、遺伝子配列における複製過程1回あたりの誤差の数で表される。エラープローン頻度は、逆の尺度として本明細書において「精度」ということがある。エラープローン頻度が均一であるとは、複数の遺伝子の複製を担う因子(ポリメラーゼなど)に言及するとき、互いのエラープローン頻度が実質的に等しいことをいう。他方、エラープローン頻度が不均一であるとは、有意な差異が複数の遺伝子の複製を担う因子(ポリメラーゼなど)に存在する場合をいう。
本明細書において「エラープローン頻度の調節」とは、エラープローン頻度を変化させることをいう。そのようなエラープローン頻度の調節には、エラープローン頻度の上昇および低減が含まれる。エラープローン頻度の調節のための手法としては、例えば、校正機能を有するDNAポリメラーゼの改変、複製中に重合反応または伸長反応を阻害または抑制するような因子の挿入これらの反応を促進するような因子の阻害、抑制、単数または複数の塩基の欠損、二重鎖DNA修復酵素の欠損、異常塩基の除去修復因子機能を有する酵素の改変、ミスマッチ塩基対修復因子の改変、複製自体の精度の低減などが挙げられるがそれらに限定されない。エラープローン頻度の調節は、DNAの二本鎖の両方に対して行われてもよいし、片方のみに対して行われてもよい。好ましくは、片方のみに対して行われることが有利であり得る。有害な変異誘発が低減されるからである。
本明細書において「DNAポリメラーゼ」または「Pol」とは、4種類のデオキシリボヌクレオシド5’−三リン酸からピロリン酸を遊離してDNAを重合する働きを有する酵素をいう。DNAポリメラーゼ反応には、鋳型となるDNA、プライマー分子、Mg2+などが必要とされる。プライマーの3’−OH末端に鋳型に相補的なヌクレオチドを順次付加し分子鎖を伸長する。
大腸菌にはDNAポリメラーゼI、II、IIIの少なくとも3種類の酵素が知られている。DNAポリメラーゼIはDNA傷害の修復,遺伝的組換えおよびDNA複製に関与する。DNAポリメラーゼIIおよびIIIは補助的機能を有するといわれる。この酵素は数種のタンパク質からなるサブユニット構造をとり,その構成からコア酵素およびホロ酵素の2つに分けられる。コア酵素は,α、εおよびθサブユニットから構成され、ホロ酵素には、α、εおよびθサブユニットのほかに、τ、γ、δおよびβの成分がある。真核生物細胞も複数のDNAポリメラーゼをもつことが知られており、高等生物ではDNAポリメラーゼα、β、γ、δおよびεなど多種類存在する。動物では、DNAポリメラーゼα(核DNAの複製に関与、細胞増殖期のDNA複製に作用)、DNAポリメラーゼβ(核でのDNAの修復に関与、増殖期、停止期のDNA傷害の修復などの作用を有する)、DNAポリメラーゼγ(ミトコンドリアDNAの複製と修復に関与。エキソヌクレアーゼ活性をもつ)、DNAポリメラーゼδ(DNAの伸長に関与。エキソヌクレアーゼ活性をもつ)、DNAポリメラーゼε(ラギング鎖のすき間の複製に関与。エキソヌクレアーゼをもつ)などが知られている。
校正機能を担うDNAポリメラーゼ(グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、真核生物など)では、ExoIモチーフのアミノ酸配列が3’→5’エキソヌクレアーゼ活性中心を担うとされており、この部位が校正機能の精度に影響すると考えられている。
配列番号5:DnaQ:8−QIVLDTETTGMN−19(Escherichia coli);
配列番号6:DnaQ:7−QIVLDTETTGMN−18(Haemophilus influenzae);
配列番号7:DnaQ:8−QIVLDTETTGMN−19(Salmonella typhimurium);
配列番号8:DnaQ:12−IVVLDTETTGMN−23(Vibrio cholerae);
配列番号9:DnaQ:3−SVVLDTETTGMP−14(Pseudomonas aeruginosa);
配列番号10:DnaQ:5−QIILDTETTGLY−16(Neisseria meningitides);
配列番号11:DnaQ:9−FVCLDCETTGLD−20(Chlamydia trachomatis);
配列番号12:DnaQ:9−LAAFDTETTGVD−20(Streptomyces coelicolor);
配列番号13:dnaQ:11−QIVLDTETTGMN−22(Shigella flexneri 2a str.301);
配列番号14:PolC:420−YVVFDVETTGLS−431(Staphylococcus aureus);
配列番号15:PolC:421−YVVFDVETTGLS−432(Bacillus subtilis);
配列番号16:PolC:404−YVVYDIETTGLS−415(Mycoplasma pulmonis);
配列番号17:PolC:416−FVIFDIETTGLH−427(Mycoplasma genitalium);
配列番号18:PolC:408−FVIFDIETTGLH−419(Mycoplasma pneumoniae);
配列番号19:Pol III:317−IMSFDIECAGRI−328(Saccharomyces cerevisiae);
配列番号20:Pol II:286−VMAFDIETTKPP−297(Saccharomyces cerevisiae);
配列番号21:Pol delta:310−VLSFDIECAGRK−321(マウス);
配列番号22:Pol epsilon:271−VLAFDIETTKLP−282(マウス);
配列番号23:Pol delta:312−VLSFDIECAGRK−323(ヒト);
配列番号24:Pol epsilon:271−VLAFDIETTKLP−282(ヒト);
配列番号25:Pol delta:316−ILSFDIECAGRK−327:(イネ);
配列番号26:Pol delta:306−VLSFDIECAGRK−317(シロイヌナズナ);
配列番号27:Pol epsilon:235−VCAFDIETVKLP−246(シロイヌナズナ);
配列番号28:Pol delta:308−VLSFDIECAGRK−319(ラット);
配列番号29:Pol delta:311−VLSFDIECAGRK−322(ウシ);
配列番号30:Pol delta:273−ILSFDIECAGRK−284(ダイズ);
配列番号31:Pol delta:296−ILSFDIECAGRK−307(ショウジョウバエ);および
配列番号32:Pol epsilon:269−VLAFDIETTKLP−280(ショウジョウバエ)。
ここで明らかなように、校正機能を有するDNAポリメラーゼは、アスパラギン酸(例えば、ヒトDNAポリメラーゼδでは316番目)およびグルタミン酸(例えば、ヒトDNAポリメラーゼδでは318番目)がよく保存されている。本明細書において、このようなアスパラギン酸およびグルタミン酸を含む領域は、本明細書において校正機能活性部位ということがある。
また、大腸菌のようなグラム陰性細菌では、DNAポリメラーゼが上述のようにエキソヌクレアーゼ活性を有する分子と、DNA合成活性を有する分子とが2つのタンパク質として存在する。したがって、エキソヌクレアーゼ活性を調節することによって校正機能を調節することができる。
しかし、枯草菌のようなグラム陽性細菌;(as well as)ならびに酵母、動物および植物を含む真核生物では、1つのDNAポリメラーゼがDNA合成活性およびエキソヌクレアーゼ活性の両方を有することから、DNA合成活性を正常に保ち、かつ、エキソヌクレアーゼ活性を調節し、その結果、校正機能を調節することができる分子が必要である。本発明は、生物の進化に使用することができる、DNA合成活性を正常に保ち、かつ、エキソヌクレアーゼ活性を調節することができる、そのような真核生物およびグラム陽性細菌のDNAポリメラーゼの改変体を提供することによって、大腸菌とは異なり、かつ、予想もつかない効果を達成した。したがって、本発明は、部分的には、真核生物およびグラム陽性細菌、特に真核生物において、予想外に上記校正機能活性部位が特定されたことによって達成されたといえる。しかも、その効果は、実施例において示されるように、予想外の遺伝形質の獲得という顕著なものである。
多くのエラープローンDNAポリメラーゼがヒトをはじめ細菌などでも見出されている。多くの複製性DNAポリメラーゼは通常校正機能を有し、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性によってエラーを取り除き、エラーフリーの複製を行う。しかし、エラープローンDNAポリメラーゼは、校正機能がなく、DNA損傷をバイパスすることができず、変異を発生させる。エラープローンDNAポリメラーゼの存在は、発がん、進化および抗体進化などに関与する。多くのDNAポリメラーゼは、エラープローンになる可能性を有しており、校正機能を損傷させることによってエラープローンとすることができる。したがって、上述のような校正機能活性部位を改変することによって複製精度を調節することができる。このモデルを使用することによって、いったん獲得された新たな特性は、異常なしに進化を続けることができるという利点を有する。この点は、オリジナルのディスパリティーモデルに比べて、障害変異が顕著に減少するという予想外の利点および効果を有する。
Eigenが主張した準種理論では、エラープローン複製のみを考慮した進化モデルを提唱していた(M.Eigen,Naturwissenschaften 58,465(1971)など)。この準種理論は、種々の改変を施して使用されていた。準種とは、最も適合する配列の安定な集合と定義され、その変異体は選択により配列の中に分布する。自然淘汰は、単一の配列に起因するのではなく、準種全体に分布するようである。準種の進化は、以下のように説明される:マスター配列より高い適合性を持つ変異体が準種中に現れ、この変異体が古いマスター配列を淘汰によって置換し、ついで新たな準種分布が変異体に生じる。
この理論によると、遺伝情報を維持するためには、エラーの閾値が存在すると予想され、結論付けられていた。したがって、従来技術では、この閾値以下でのみ、準種による進化が起こり得ると考えられていた(M.Eigen,et al.Adv.Chem.Phys.75,149(1989))。これは、すなわち、エラーの上限の閾値によって進化速度の上限が限定されているということにほかならない。準種理論はRNAウイルスの研究において一見説明でき、このRNAウイルスは、エラー閾値付近で高速で進化することが判明した。しかし、変異因子の表現型でエラー率の増大を伴う因子が、このプロセスにおいて重要な役割を果たしているとされた。
細菌のゲノムは、単一の複製起点を有するが、真核生物ゲノムは、複数の複製起点を含む。このことは、ゲノム配列が複数の複製単位(複製因子、レプリコア)を有することを意味する。したがって、複数のポリメラーゼがゲノム複製に同時にかかわることになる。本発明において、複製因子の数がエラー閾値に対して与える影響も考慮され得る。
1つの好ましい実施形態では、このような3’→5’エキソヌクレアーゼ活性が破壊されるような変異を、DNAポリメラーゼをコードする遺伝子(DNAポリメラーゼ遺伝子)に導入することにより、校正機能が低下した(すなわち、エラープローン頻度が増加した)DNAポリメラーゼをコードする核酸分子およびポリペプチドを産生することができる。なお、校正機能の3’→5’エキソヌクレアーゼ活性校正機能は、単一のDNAポリメラーゼ遺伝子(PolC,POL2,CDC2等)において、DNA重合活性を担う分子中に含まれる場合(例えば、真核生物、グラム陽性細菌等)と、DNA重合活性をコードする遺伝子(例えば、dnaE)とは異なる遺伝子(例えば、dnaQ)にコードされる場合(例えば、グラム陰性細菌等)があることが知られており(Kornberg A.and Baker T.,“DNA Replication ”,New York,Freeman,1992)、当業者は、それらの特性を理解したうえで、本発明におけるエラープローン頻度の調節を適宜行うことができる。例えば、真核生物などでは、校正機能は変化するが、DNA重合活性はほとんど変化させない変異をDNAポリメラーゼに導入することが好ましい。この場合、上述のような校正機能に関与する2つの酸性アミノ酸(Derbyshire et al.,EMBO J.10,pp.17−24,Jan.1991; Fijalkowska and Schaaper,“Mutants in the Exo I motif of Escherichia coli dnaQ:Defective proofreading and inviability due to error catastrophe”,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.93,pp.2856−2861,Apr.1996)を改変すること(好ましくは、保存されない置換(例えば、アラニン、バリンなどへの置換))が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「校正機能」とは、細胞が受けたDNA損傷および/または誤りを検知し補修する機能をいう。そのような機能は、脱プリン、脱ピリミジンがある場合はそのまま塩基が挿入されることによるか、あるいは、A−Pエンドヌクレアーゼ(apurinic−apyrimidinic endonuclease)で一本鎖切断が入れられたのち5’→3’エキソヌクレアーゼで除去されることによって達成され得る。除去部分は、DNAポリメラーゼでDNA合成され補充され、正常DNAとの連結はDNAリガーゼが行う。このような反応は、除去修復といわれる。アルキル化剤による化学修飾,異常塩基,放射線,紫外線などによるDNA塩基傷害などは傷害部分をDNAグリコシダーゼで取り除かれた上で上記の反応で修復される(不定期DNA合成)。そのような校正機能を有するDNAポリメラーゼとしては、例えば、真核生物におけるDNAポリメラーゼδ、DNAポリメラーゼεなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書では、校正機能の程度を表すために、「忠実度」という用語もまた用いられ得る。この「忠実度」との用語は、DNA複製の精度を意味する。正常なDNAポリメラーゼは、通常、忠実度が高いDNAポリメラーゼであり、改変により校正機能が低下したDNAポリメラーゼは、忠実度が低いDNAポリメラーゼであり得る。
このようなDNAポリメラーゼの校正機能については、例えば、Kunkel,T.A.:J.Biol.Chem.,260,12866−12874(1985);Kunkel,T.A.,Sabotino,R.D.& Bambara,R.A.:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,4865−4869(1987);Wu,C.I.& Maeda,N.:Nature,327,167−170(1987);Roberts,J.D.& Kunkel,T.A.:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85,7064−7068(1988);Thomas,D.C.,Fitzgerald,M.P.& Kunkel,T.A.:Basic Life Sciences,52,287−297(1990);Trinh,T.Q.& Siden,R.R.Nature,352,544−547(1991);Weston−Hafer,K.,& Berg,D.E.Genetics,127,649−655(1991);Veaute,X.& Fuchs,R.P.P.:Science,261,598−600(1993);Roberts,J.D.,Izuta,S.,Thomas,D.C.& Kunkel,T.A.:J.Biol.Chem.,269,1711−1717(1994);Roche,W.A.,Trinh,T.Q.& Siden,R.R.,J.Bacteriol.,177,4385−4391(1995);Kang,S.,Jaworski,A.,Ohshirna,K.& Wells,Nat.Genet.,10,213−218(1995);Fijalkowska,I.J.,Jonczyk,P.,Maliszewska−Tkaczyk,M.,Bialoskorska,M.& Schaaper,R.M.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,95,10020−10025(1998);Maliszewska−Tkaczyk,M.,Jonezyk,P.,Bialoskorska,M.,Schaaper,M.& Fijalkowska,I.:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97,12678− 12683(2000);Gwel,D.,Jonezyk,P.,Bialoskorska,M.,Schaaper,R.M.& Fijalkowska,I.J.:Mutation Research,501,129−136(2002);Roberts,J.D.,Thomas,D.C.& Kunkel,T.A.:Proc Natl.Acad Sci.USA,88,3465−3469(1991);Roberts,J.D.,Nguyen,D.& Kunkel,T.A.:Biochemistry;32,4083−4089(1993);Francino,M.P.,Chac,L.,Riley,M.A.& Ochman,H.:Science,272,107−109(1996);A Boulet,M.Simon,G.Faye,G.A.Bauer & P.M.Burgers.EMBO J,8,1849−1854,(1989);Morrison A.,Araki H.,Clark A.B.,Hamatake R.K.,& Sugino A.,Cell,62(6),1143−1151,(1990)などを参照のこと。
本明細書において「DNAポリメラーゼδ」とは、真核生物のものをさす場合、DNAの伸長に関与する酵素であって、エキソヌクレアーゼ活性をもち、これに起因して校正機能を有するといわれる。代表的なDNAポリメラーゼδは、配列番号1および2(それぞれ、核酸配列およびアミノ酸配列;polδ:X61920 gi/171411/gb/M61710.1/YSCDPB2[171411])を有する。このDNAポリメラーゼδの校正機能の調節は、配列番号2のアミノ酸配列においてアミノ酸322位に改変を導入することによって達成することができる。DNAポリメラーゼδは、Simon,M.et al.、EMBO J.,10,2163−2170,1991に記載されており、その内容は本明細書において参考として援用される。DNAポリメラーゼδとしては、例えば、シロイヌナズナ(配列番号45)、イネ(配列番号47および48)、ダイズ(配列番号49および50)、ヒト(配列番号51および52)、マウス(配列番号55および56)、ラット(配列番号59および60)、ウシ(配列番号61および62)、ショウジョウバエ(配列番号63および64)などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「DNAポリメラーゼε」とは、真核生物のものをさす場合、ラギング鎖のすき間の複製に関与する酵素であって、エキソヌクレアーゼ活性をもち、これに起因して校正機能を有するといわれる。代表的なDNAポリメラーゼεは、配列番号3および4(それぞれ、核酸配列およびアミノ酸配列;polε:M60416 gi/171408/gb/M60416.1/YSCDNA POL[171408])を有する。このDNAポリメラーゼεの校正機能の調節は、配列番号4のアミノ酸配列においてアミノ酸391位に改変を導入することによって達成することができる。DNAポリメラーゼεは、Morrison,A.et al.,MGG.242,289−296,1994;Araki H.,et al.,Nulceic Acids Res.19,4857−4872,1991;Ohya T.,et al.,Nucleic Acids Res.28,3846−3852,2000に記載されており、その内容は本明細書において参考として援用される。DNAポリメラーゼεとしては、例えば、シロイヌナズナ(配列番号46)、ヒト(配列番号53および54)、マウス(配列番号57および58)、ショウジョウバエ(配列番号65および66)などが挙げられるがそれらに限定されない。
DNAポリメラーゼδおよびεの分類は、HUGO分類によると別名はデルタがPOLD1/POL3,イプシロンがPOLE/POL2となっており、本明細書では、どの命名法をも用い得る。
その他DNAポリメラーゼの説明については、例えば、Lawrence C.W.et al.,J.Mol.Biol.122,1−21,1978;Lawrence C.W.et al.,Genetics 92,397−408;Lawrence C.W.et al.,MGG,195,487−490,1984;Lawrence C.W.et al.,MGG.200,86−91,1985(DNAポリメラーゼβおよびDNAポリメラーゼζ);Maher V.M.et al.,Nature 261,593−595,1976;McGregor,W.G.et al.,Mol.Cell.Biol.19,147−154、1999(DNAポリメラーゼη);Strand M.et al.,Nature 365,275−276,1993;Prolla T.A.,et al.,Mol.Cell.Biol.15,407−415,1994;Kat A.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90,6424−6428;Bhattacharyya N.P.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91,6319−6323,1994、Faber F.A.,et al.,Hum.Mol.Genet.3,253−256,1994;Eshleman,J.R.,et al.,Oncogene 10,33−37,1995;Morrison A.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88,9473−9477,1991;Morrison A.,et al.,EMBO J.12,1467−1473,1993;Foury F.,et al.,EMBO J.11,2717−2726,1992(DNAポリメラーゼλ、DNAポリメラーゼμなど)などに記載されており、その内容は本明細書において参考として援用される。
本明細書においてDNAポリメラーゼなどの遺伝子および酵母などの生物の「野生型」は、もっとも広汎な定義では、天然に存在するDNAポリメラーゼなどの遺伝子および酵母などの生物を含み、通常、天然に存在するDNAポリメラーゼなどの遺伝子および酵母などの生物のうち、由来となる生物種においてもっとも広汎に存在するものをいう。従って、通常、ある種において最初に同定されるDNAポリメラーゼなどの遺伝子および酵母などの生物の種は野生型といえる。野生型はまた、「天然標準型」ともいう。そのような野生型DNAポリメラーゼは、DNAポリメラーゼδであれば、配列番号1および2に示す配列を有するものである。また、たとえば、DNAポリメラーゼεであれば、配列番号3および44に示す配列を有するものである。また、配列番号41〜66に示す配列を有するものもまた野生型の例示として挙げられる。生物であれば、野生型は、酵素活性が正常であり得、形質が正常であり得、行動が正常であり得、生理が正常であり得、繁殖が正常であり得、ゲノムが正常であり得る。
本明細書において校正機能が「野生型のものよりも低い」とは、ある校正機能を有する酵素などについて言及するとき、その酵素の野生型よりも校正機能が低いこと(すなわち、その酵素での校正処理の後に残留する変異の数が野生型による校正処理の後に残留する変異の数よりも多いこと)をいう。そのような野生型との比較は、相対的または絶対的な表示によって行うことができる。そのような比較はまた、エラープローン頻度などによって行うことができる。
本明細書において「変異」とは、遺伝子について言及するとき、その遺伝子の配列の変化を生じることまたはその変化によって生じた遺伝子の(核酸またはアミノ酸)配列の状態をいう。本明細書では、例えば、「変異」は、校正機能について生じる遺伝子配列の変化について用いられる。本明細書では、特に言及しない場合は、「変異」は、「改変」と同義で用いられる。
有用な変異体を作製するためには、生物において変異誘発を行うことがもっとも一般的である。「変異」とは、通常、遺伝子をコードする塩基配列の変化をいい、DNA配列の変化が包含される。変異は、それが発生した個体に与える影響により、大きく次の3種類に分けられる:A)中立変異(neutral mutation):この変異は、ほとんどの変異が該当し、生物の成育および代謝にほとんど影響がない。B)有害変異(deleterious mutation):この変異は、中立変異よりは頻度は少ない。生物の成長または代謝を阻害する。有害変異には、生育に必須な遺伝子を破壊するような致死変異(lethal mutation)も含まれる。微生物の場合、種によっても異なるが、通常全変異に占める有害変異の割合は、約1/10〜1/100とされている。C)有益変異(beneficial mutation):この変異は、生物の育種に有益な変異である。その発生頻度は中立変異と比較して極めて低い。したがって、有益変異が導入された生物個体を得るためには、大きな生物集団と、長い時間が必要となる。また、生物の育種の十分な効果は、単一の変異だけで現れることはまれであり、複数の有益変異の蓄積が必要であることが多い。
本明細書において「成長(または生長)」とは、ある生物について言及するとき、その生物の個体としての量的増大をいう。成長は、具体的には体長(身長)、体重などの計測値の増加で個体の量的増大を認識することができる。個体の量的増大は細胞の増大および細胞数の増加に依存する。
本明細書において「実質的に同じ成長(または生長)」とは、生物について言及するとき、その生物が、比較対象となる生物(例えば、遺伝形質の変換前の生物)と比較して、成長速度がほとんど変化しないことをいう。そのような成長速度がほとんど変化しない範囲には、例えば、通常の成長の統計分布における1偏差分以内に入ることなどが挙げられるがそれに限定されない。また、本発明の生物では、例えば、(1)子供の数が変わらない;(2)形態は変化するが、通常の人為的突然変異と違って、障害的ではなく、変異率が極めて高いにも拘わらず、見た目が“美しい”と予想される。(成長とは直接関係しないが、本発明の方法により創出された変異体の特徴だと考えられる);(3)一度獲得した形質あるいは遺伝型あるいは表現型は後もどりしないなどの効果が得られる。
本明細書において「薬剤耐性」とは、薬剤(バクテリオファージ、バクテリオシンなどの生理活性物質を含む)に対する耐性または抵抗性をいう。薬剤耐性は、感受性の宿主において、薬剤のレセプターが変化したり、あるいは、薬剤が作用する種々の過程の1箇所以上が変化したりするときに獲得される。あるいは、感受性宿主が抗菌物質そのものを不活化する性質を獲得したときにも薬剤耐性が獲得され得る。薬剤耐性生物では、染色体DNAの変異、薬剤が作用する酵素および/またはリボソームタンパク質の性質が変わり、通常濃度の薬剤が作用しなくなる場合と,薬剤耐性プラスミド(例えば、Rプラスミド)を他の生物から獲得して、薬剤を不活化する酵素活性を獲得すること、あるいは、薬剤の膜透過性を減少させる場合などがあるがそれらに限定されない。
本明細書において「がん細胞」とは、肉腫を含めた「悪性腫瘍細胞」と等価の意味で用いられ、無限の増殖性を有し不死の状態を有する細胞をいう。がん細胞では、正常細胞が遺伝子レベルにおいて何らかの不可逆的変化を生じた結果、異常の細胞へと変換し、無限の増殖性を有し不死の状態に陥るといわれる。
本明細書において生物の「生産」とは、ある生物について言及するとき、その生物の個体を作り出すことをいう。
本明細書において生物の「再生産」とは、ある生物について言及するとき、親個体から次の世代の新たな個体を作り出すことをいう。再生産には、生殖、繁殖など天然現象によるもの、クローン(核移植)技術などの人工技術などによるものが包含されるがそれらに限定されない。再生産に用いられる技術としては、例えば、植物の場合、1培養細胞から個体ができる;接木、挿し木などが挙げられるがそれらに限定されない。再生産によって生産された生物は、通常、親に由来する遺伝形質を有する。有性生殖によって再生産される生物では、再生産された生物は、通常2つの性にそれぞれ由来する遺伝形質を有する。通常、そのような由来遺伝形質は、2つの性に由来するものをほぼ等しい割合で有する。無性生殖によって再生される生物では、通常再生産された生物は、親に由来する遺伝形質を有する。
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。
本発明において使用される細胞は、どの生物由来の細胞(たとえば、任意の種類の単細胞生物(例えば、細菌、酵母)または多細胞生物(例えば、動物(たとえば、脊椎動物、無脊椎動物)、植物(たとえば、単子葉植物、双子葉植物など)など))でもよい。例えば、脊椎動物(たとえば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)由来の細胞が用いられ、より詳細には、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)由来の細胞が用いられる。1つの実施形態では、霊長類(たとえば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)由来の細胞、特にヒト由来の細胞が用いられるがそれに限定されない。本発明において用いられる細胞は、上記細胞は、幹細胞であってもよく体細胞であってもよい。そのような細胞は、移植目的に使用されるものであってもよい。あるいは、植物細胞としては、好ましくは、顕花植物(単子葉または双子葉)由来の細胞が用いられ、より好ましくは双子葉植物細胞が用いられ、より好ましくはイネ科、ナス科、ウリ科、アブラナ科、セリ科、バラ科、マメ科、ムラサキ科の植物由来の細胞が用いられる。さらに好ましくは、コムギ、トウモロコシ、イネ、オオムギ、ソルガム、タバコ、ピーマン、ナス、メロン、トマト、イチゴ、サツマイモ、アブラナ、キャベツ、ネギ、ブロッコリー、ダイズ、アルファルファ、アマ、ニンジン、キュウリ、柑橘類、ハクサイ、レタス、モモ、ジャガイモ、ムラサキ、オウレン、ポプラおよびリンゴ由来の細胞が用いられる。植物細胞は、植物体の一部、器官、組織、培養細胞などであり得る。細胞、組織、器官または個体の形質転換法は、当該分野で周知である。そのような技術は、本発明において引用した文献などに十分記載されている。核酸分子の生物細胞への導入は、一過的であっても恒常的であってもよい。一過性または恒常性の遺伝子導入の技術はそれぞれ当該分野において周知である。本発明において用いられる細胞を分化させて形質転換植物を作出する技術もまた当該分野において周知であり、そのような技術は、本発明において引用した文献などに十分記載されていることが理解される。形質転換植物から種子を得る技術もまた、当該分野において周知であり、そのような技術は、本発明において引用した文献などに記載されている。
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、多分化能(すなわち多能性)(「pluripotency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書において使用され得る幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞もまた、幹細胞であり得る。「胚性幹細胞」とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。本明細書において使用される幹細胞は、遺伝子の複製におけるエラープローン頻度を調節することができる限り、胚性幹細胞であっても、組織幹細胞であってもよい。
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
本明細書において「体細胞」とは、卵子、精子などの生殖細胞以外の細胞であり、そのDNAを次世代に直接引き渡さない全ての細胞をいう。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。本明細書において使用される体細胞は、遺伝子の複製におけるエラープローン頻度を調節することができる限り、天然に存在するものであってもよく、遺伝子改変されたものであってもよい。
幹細胞は、由来により、外胚葉、中胚葉および内胚葉に由来する幹細胞に分類され得る。外胚葉由来の幹細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞などが含まれる。中胚葉由来の幹細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞、造血幹細胞および間葉系幹細胞などが含まれる。内胚葉由来の幹細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵幹細胞などが含まれる。本明細書では、遺伝子の複製におけるエラープローン頻度を調節することができる限り、体細胞はどのような胚葉由来でもよい。
本明細書において「単離された」とは、通常の環境において天然に付随する物質が少なくとも低減されていること、好ましくは実質的に含まないことをいう。従って、「単離された細胞」とは、天然の環境において付随する他の物質(たとえば、他の細胞、タンパク質、核酸など)を実質的に含まない細胞をいう。核酸またはポリペプチドについていう場合、「単離された」とは、たとえば、組換えDNA技術により作製された場合には細胞物質または培養培地を実質的に含まず、化学合成された場合には前駆体化学物質またはその他の化学物質を実質的に含まない、核酸またはポリペプチドを指す。単離された核酸は、好ましくは、その核酸が由来する生物において天然にこの核酸に隣接している(flanking)配列(即ち、該核酸の5’末端および3’末端に位置する配列)を含まない。
本明細書において、「樹立された」または「確立された」細胞とは、特定の性質(例えば、多分化能)を維持し、かつ、細胞が培養条件下で安定に増殖し続けるようになった状態をいう。したがって、樹立された幹細胞は、多分化能を維持する。
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。本明細書において使用される細胞は、遺伝子の複製におけるエラープローン頻度を調節することができる限り、上記のどのような細胞であってもよい。本明細書において、「分化」または「細胞分化」とは、1個の細胞の分裂によって由来した娘細胞集団の中で形態的および/または機能的に質的な差をもった二つ以上のタイプの細胞が生じてくる現象をいう。従って、元来特別な特徴を検出できない細胞に由来する細胞集団(細胞系譜)が、特定のタンパク質の産生などはっきりした特徴を示すに至る過程も「分化」に包含される。
本明細書において細胞、生物などの「状態」とは、細胞の種々のパラメータ(例えば、細胞周期、外来因子に対する応答、シグナル伝達、遺伝子発現、遺伝子の転写など)に関する状況をさす。そのような状態としては、例えば、分化状態、未分化状態、外来因子に対する細胞応答、細胞周期、増殖状態などが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書では、特に、対象となる生物の環境、例えば、温度、湿度(例えば、絶対湿度、相対湿度など)、pH、塩濃度(例えば、塩全体の濃度または特定の塩の濃度)、栄養(例えば、炭水化物量など)、金属(例えば、金属全体の量または特定の金属(例えば、重金属)の濃度など)、ガス(例えば、ガス全体の量または特定のガスの量)、有機溶媒(例えば、有機溶媒全体の量または特定の有機溶媒(例えば、エタノールなど)の量)、圧力(例えば、局所圧または全体の圧など)、気圧、粘性、流速(例えば、培地中に生物が存在する場合のその培地の流速など)、光度(ある特定波長の光量など)、光波長(例えば、可視光のほか紫外線、赤外線なども含み得る)、電磁波、放射線、重力、張力、音波、対象となる生物とは異なる他の生物(例えば、寄生虫、病原菌など)、化学薬品(例えば、医薬品など)、抗生物質、天然物、精神的ストレス、物理的ストレスなどのようなパラメータに対する反応性または耐性を、そのような状態に関する指標として使用することができる。
本明細書においてある主体にとって「環境」とは、その主体に対するその外囲を,環境(environment、ドイツ語でUmgebung)という。環境は、種々の構成要素、状態量が認められ,これらは環境要因といわれる、上記のようなパラメータが例示される。環境要因は、通常、非生物的環境要因と生物的環境要因とに大別され得る。非生物的環境要因(無機的環境)を物理的と化学的とに、あるいは気候的と土壌的とに区別することもある。こうした種々の環境要因の生物に対する作用は、各々が独立的して行われるとは限らず、互いに関連しあっている場合が多い。したがって、本明細書では、環境は、それぞれの要因ごとに観察してもよいし、環境要因の総体(種々のパラメータの総体)として認識されてもよい。
本明細書において「組織」(tissue)とは、多細胞生物において、実質的に同一の機能および/または形態をもつ細胞集団をいう。通常「組織」は、同じ起源を有するが、異なる起源を持つ細胞集団であっても、同一の機能および/-または形態を有するのであれば、組織と呼ばれ得る。従って、本発明の幹細胞を用いて組織を再生する場合、2以上の異なる起源を有する細胞集団が一つの組織を構成し得る。通常、組織は、臓器の一部を構成する。動物の組織は,形態的、機能的または発生的根拠に基づき、上皮組織、結合組織、筋肉組織、神経組織などに区別される。植物では、構成細胞の発達段階によって分裂組織と永久組織とに大別され、また構成細胞の種類によって単一組織と複合組織とに分けるなど、いろいろな分類が行われている。本明細書において組織が対象として使用される場合、そのような組織としては、遺伝子の複製におけるエラープローン頻度を調節することができる限り、上記のどのような組織であってもよい。
本発明において、臓器またはそれらの一部が対象とされる場合、そのような臓器はどのような臓器でもよく、また本発明が対象とする組織または細胞は、生物のどの臓器または器官に由来するものでもよい。本明細書において「臓器」または「器官」とは、互換可能に用いられ、生物個体のある機能が個体内の特定の部分に局在して営まれ,かつその部分が形態的に独立性をもっている構造体をいう。一般に多細胞生物(例えば、動物、植物)では器官は特定の空間的配置をもついくつかの組織からなり、組織は多数の細胞からなる。そのような臓器または器官としては、血管系に関連する臓器または器官が挙げられる。1つの実施形態では、本発明が対象とする臓器は、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、四肢末梢、網膜などが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において臓器が対象として使用される場合、そのような臓器としては、遺伝子の複製におけるエラープローン頻度を調節することができる限り、上記のどのような臓器であってもよい。
本明細書において「生産物質」とは、対象となる生物またはその一部が生産する物質をいう。そのような物質としては、遺伝子の発現産物、代謝物、排泄物などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明の遺伝形質の変換速度の調節によって、対象となる生物は、その生産物質の種類および/または量を変化させる。本発明はまた、そのような変化した生産物質をもその範囲として企図することが理解される。好ましくは、そのような生産物質は、代謝物であり得るがそれに限定されない。
本明細書において「病態モデル」とは、生物に言及するとき、その生物についての特定の疾患、病状、障害、状態などを再現することができる生物のモデルをいう。そのような病態モデルは、本発明の方法によって生産することができる。そのような病態モデルとしては、例えば、発癌動物、心疾患(例えば、心筋梗塞など)動物、循環器疾患(例えば、動脈硬化など)動物、中枢神経疾患(例えば、痴呆、脳梗塞など)動物などが挙げられるがそれらに限定されない。
(一般生化学・分子生物学)
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法、細胞生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989),Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989),Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990),PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992),Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995),Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995),PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999),Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999),PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985),Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Gait,M.J.(1990),Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992),The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994),Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996),Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。本発明の遺伝子産物は、通常ポリペプチド形態をとる。このようなポリペプチド形態の本発明の生産物質は、医薬組成物などとして有用であり得る。
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。本発明において使用されるDNAポリメラーゼなどの遺伝子は、通常、このポリヌクレオチド形態をとる。このようなポリヌクレオチド形態の本発明の遺伝子または遺伝子産物は、本発明の方法において有用である。
本明細書では「核酸分子」もまた、「核酸」、「オリゴヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」と互換可能に使用され、cDNA、mRNA、ゲノムDNAなどを含む。本明細書では、核酸および核酸分子は、用語「遺伝子」の概念に含まれ得る。ある遺伝子配列をコードする核酸分子はまた、「スプライス変異体(改変体)」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を包含する。その名が示唆するように「スプライス変異体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス変異体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。したがって、本明細書では、たとえば、本発明の遺伝子には、そのスプライス変異体もまた包含され得る。
本明細書において遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。また、本明細書において配列(核酸配列、アミノ酸配列など)の同一性とは、2以上の対比可能な配列の、互いに対する同一の配列(個々の核酸、アミノ酸など)の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて相同性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、相同性と類似性とは同じ数値を示す。
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるPSI−BLASTを用い、デフォルトパラメータを用いて算出される。特に言及する場合は、PSI−BLASTに代えてFASTA(パラメータはデフォルト)がツールとして使用され得る。
本明細書において、「アミノ酸」は、本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。
用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。
本明細書において、「対応する」アミノ酸または核酸とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子において、比較の基準となるポリペプチド分子またはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸または核酸と同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸または核酸をいい、特に酵素分子にあっては、活性部位(例えば、DNAポリメラーゼの校正機能を担う範囲など)中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸またはそれをコードする核酸をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。このような対応するアミノ酸または核酸は、当該分野において公知のアラインメント技術を用いて同定することができる。そのようなアラインメント技術としては、例えば、Needleman, S.B. and Wunsch, C.D.,J.Mol.Biol.48,443−453,1970に記載される技術が挙げられるがそれに限定されない。
本明細書において、「対応する」遺伝子(例えば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド分子)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子(例えば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド分子)と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子の対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。したがって、マウスDNAポリメラーゼ遺伝子に対応する遺伝子は、他の動物(ヒト、ラット、ブタ、ウシなど)においても見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、ある動物における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、マウスDNAポリメラーゼ遺伝子など)の配列をクエリ配列として用いてその動物(例えばヒト、ラット)の配列データベースを検索することによって見出すことができる。
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または加減としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。本明細書において有用なフラグメントの長さは、そのフラグメントの基準となる全長タンパク質の機能のうち少なくとも1つの機能が保持されているかどうかによって決定され得る。
本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチドなどの生物学的因子に対して「特異的に相互作用する因子」とは、そのポリヌクレオチドまたはそのポリペプチドなどの生物学的因子に対する親和性が、他の無関連の(特に、同一性が30%未満の)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対する親和性よりも、代表的には同等またはより高いか、好ましくは有意に(例えば、統計学的に有意に)高いものをいう。そのような親和性は、例えば、ハイブリダイゼーションアッセイ、結合アッセイなどによって測定することができる。本明細書において「因子」としては、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、低分子(例えば、薬学的に受容可能な低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。このような因子は、本明細書において、生物中のエラープローン頻度を調節するために有用であり得る。
本明細書において「有機低分子」とは、有機分子であって、比較的分子量が小さなものをいう。通常有機低分子は、分子量が約1000以下のものをいうが、それ以上のものであってもよい。有機低分子は、通常当該分野において公知の方法を用いるかそれらを組み合わせて合成することができる。そのような有機低分子は、生物に生産させてもよい。有機低分子としては、例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、薬学的に受容可能な低分子(例えば、低分子リガンドなど)などが挙げられるがそれらに限定されない。このような分子は、本明細書において、生物中のエラープローン頻度を調節するために有用であり得る。
本明細書において用いられる用語「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、多重特異性抗体、キメラ抗体、および抗イディオタイプ抗体、ならびにそれらの断片、例えばF(ab’)2およびFab断片、ならびにその他の組換えにより生産された結合体を含む。さらにこのような抗体を、酵素、例えばアルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、αガラクトシダーゼなど、に共有結合させまたは組換えにより融合させてよい。
本明細書において「抗原」(antigen)とは、抗体分子によって特異的に結合され得る任意の基質をいう。本明細書において「免疫原」(immunogen)とは、抗原特異的免疫応答を生じるリンパ球活性化を開始し得る抗原をいう。
本明細書において「単鎖抗体」とは、Fv領域の重鎖フラグメントおよび軽鎖フラグメントがアミノ酸架橋を介して連結されることによって形成され、単鎖ポリペプチドを生じたものをいう。
本明細書において「複合分子」とは、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、脂質、糖、低分子などの分子が複数種連結してできた分子をいう。そのような複合分子としては、例えば、糖脂質、糖ペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書では、例えば、DNAポリメラーゼのような遺伝子またはその産物あるいは本発明の因子と同様の機能を有する限り、それぞれDNAポリメラーゼのような遺伝子またはその産物あるいは本発明の因子としてそのような複合分子も使用することができる。
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなど遺伝子産物の「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた本発明の一形態であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
従って、本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現の減少」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に減少することをいう。好ましくは、発現の減少は、ポリペプチド(例えば、DNAポリメラーゼ)の発現量の減少を含む。本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現の増加」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に増加することをいう。好ましくは、発現の増加は、ポリペプチド(例えば、DNAポリメラーゼ)の発現量の増加を含む。本明細書において遺伝子の「発現の誘導」とは、ある細胞にある因子を作用させてその遺伝子の発現量を増加させることをいう。したがって、発現の誘導は、まったくその遺伝子の発現が見られなかった場合にその遺伝子が発現するようにすること、およびすでにその遺伝子の発現が見られていた場合にその遺伝子の発現が増大することを包含する。このような遺伝子または遺伝子産物(ポリペプチドまたはポリヌクレオチド)の発現の増加または減少は、本発明において、例えば、複製におけるエラープローン頻度を調節するにおいて有用であり得る。
本明細書において、遺伝子が「特異的に発現する」とは、その遺伝子が、特定の部位または時期において他の部位または時期とは異なる(好ましくは高い)レベルで発現されることをいう。「特異的に発現する」とは、ある部位(特異的部位)にのみ発現してもよく、それ以外の部位においても発現していてもよい。好ましくは「特異的に発現する」とは、ある部位においてのみ発現することをいう。したがって、本発明において、ある実施形態では、所望の箇所に局所的にDNAポリメラーゼを特異的に発現させてもよい。
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含される。例えば、2つの因子が相互作用する(例えば、DNAポリメラーゼとその特異的配列とが結合する)場合、その生物学的活性は、DNAポリメラーゼとその特異的配列との間の結合およびそれによって生じる生物学的変化、例えば、特定のヌクレオチド重合反応;複製エラーの発生;ヌクレオチド除去能;塩基のミスペアーリング認識など)などを包含する。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。
本明細書において「アンチセンス(活性)」とは、標的遺伝子の発現を特異的に抑制または低減することができる活性をいう。アンチセンス活性は、通常、目的とする遺伝子(例えば、DNAポリメラーゼなど)の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列によって達成される。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。そのような核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、もっとも好ましくは95%相同な核酸配列が含まれる。そのようなアンチセンス活性は、目的とする遺伝子の核酸配列の5’末端の配列に対して相補的であることが好ましい。そのようなアンチセンスの核酸配列には、上述の配列に対して、1つまたは数個あるいは1つ以上のヌクレオチドの置換、付加および/または欠失を有するものもまた含まれる。このようなアンチセンス活性を有する分子は、本明細書において、生物中のエラープローン頻度を調節するために有用であり得る。
本明細書において「RNAi」とは、RNA interferenceの略称で、二本鎖RNA(dsRNAともいう)のようなRNAiを引き起こす因子を細胞に導入することにより、相同なmRNAが特異的に分解され、遺伝子産物の合成が抑制される現象およびそれに用いられる技術をいう。本明細書においてRNAiはまた、場合によっては、RNAiを引き起こす因子と同義に用いられ得る。
本明細書において「RNAiを引き起こす因子」とは、RNAiを引き起こすことができるような任意の因子をいう。本明細書において「遺伝子」に対して「RNAiを引き起こす因子」とは、その遺伝子に関するRNAiを引き起こし、RNAiがもたらす効果(例えば、その遺伝子の発現抑制など)が達成されることをいう。そのようなRNAiを引き起こす因子としては、例えば、標的遺伝子の核酸配列の一部に対して少なくとも約70%の相同性を有する配列またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む、少なくとも10ヌクレオチド長の二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体が挙げられるがそれに限定されない。ここで、この因子は、好ましくは、3’突出末端を含み、より好ましくは、3’突出末端は、2ヌクレオチド長以上のDNA(例えば、2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。このようなRNAiは、本明細書において、生物中のエラープローン頻度を調節するために有用であり得る。
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A(アデニン)配列のみまたはT(チミン)配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
本明細書において「高度にストリンジェントな条件」は、核酸配列において高度の相補性を有するDNA鎖のハイブリダイゼーションを可能にし、そしてミスマッチを有意に有するDNAのハイブリダイゼーションを除外するように設計された条件をいう。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、主に、温度、イオン強度、およびホルムアミドのような変性剤の濃度によって決定される。このようなハイブリダイゼーションおよび洗浄に関する「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、65〜68℃、または0.015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、および50% ホルムアミド、42℃である。このような高度にストリンジェントな条件については、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、(Cold Spring Harbor,N,Y.1989);Anderson et al.、Nucleic Acid Hybridization:A Practical Approach、IV、(IRL Press Limited)(Oxford,Express)を参照のこと。必要により、よりストリンジェントな条件(例えば、より高い温度、より低いイオン強度、より高いホルムアミド、または他の変性剤)を、使用してもよい。他の薬剤が、非特異的なハイブリダイゼーションおよび/またはバックグラウンドのハイブリダイゼーションを減少する目的で、ハイブリダイゼーション緩衝液および洗浄緩衝液に含まれ得る。そのような他の薬剤の例としては、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%ピロリン酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(NaDodSO4またはSDS)、Ficoll、Denhardt溶液、超音波処理されたサケ精子DNA(または別の非相補的DNA)および硫酸デキストランであるが、他の適切な薬剤もまた、使用され得る。これらの添加物の濃度および型は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに実質的に影響を与えることなく変更され得る。ハイブリダイゼーション実験は、通常、pH6.8〜7.4で実施されるが;代表的なイオン強度条件において、ハイブリダイゼーションの速度は、ほとんどpH独立である。Anderson et al.、Nucleic Acid Hybridization:A Practical Approach、第4章、IRL Press Limited(Oxford,UK)を参照のこと。
DNA二重鎖の安定性に影響を与える因子としては、塩基の組成、長さおよび塩基対不一致の程度が挙げられる。ハイブリダイゼーション条件は、当業者によって調整され得、これらの変数を適用させ、そして異なる配列関連性のDNAがハイブリッドを形成するのを可能にする。完全に一致したDNA二重鎖の融解温度は、以下の式によって概算され得る。
Tm(℃)=81.5+16.6(log[Na+])+0.41(%G+C)−600/N−0.72(%ホルムアミド)
ここで、Nは、形成される二重鎖の長さであり、[Na+]は、ハイブリダイゼーション溶液または洗浄溶液中のナトリウムイオンのモル濃度であり、%G+Cは、ハイブリッド中の(グアニン+シトシン)塩基のパーセンテージである。不完全に一致したハイブリッドに関して、融解温度は、各1%不一致(ミスマッチ)に対して約1℃ずつ減少する。
本明細書において「中程度にストリンジェントな条件」とは、「高度にストリンジェントな条件」下で生じ得るよりも高い程度の塩基対不一致を有するDNA二重鎖が、形成し得る条件をいう。代表的な「中程度にストリンジェントな条件」の例は、0.015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、50〜65℃、または0.015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、および20%ホルムアミド、37〜50℃である。例として、0.015M ナトリウムイオン中、50℃の「中程度にストリンジェントな」条件は、約21%の不一致を許容する。
本明細書において「高度」にストリンジェントな条件と「中程度」にストリンジェントな条件との間に完全な区別は存在しないことがあり得ることが、当業者によって理解される。例えば、0.015M ナトリウムイオン(ホルムアミドなし)において、完全に一致した長いDNAの融解温度は、約71℃である。65℃(同じイオン強度)での洗浄において、これは、約6%不一致を許容にする。より離れた関連する配列を捕獲するために、当業者は、単に温度を低下させ得るか、またはイオン強度を上昇し得る。
約20ヌクレオチドまでのオリゴヌクレオチドプローブについて、1M NaClにおける融解温度の適切な概算は、
Tm=(1つのA−T塩基につき2℃)+(1つのG−C塩基対につき4℃)
によって提供される。なお、6×クエン酸ナトリウム塩(SSC)におけるナトリウムイオン濃度は、1Mである(Suggsら、Developmental Biology Using Purified Genes、683頁、BrownおよびFox(編)(1981)を参照のこと)。
DNAポリメラーゼタンパク質をコードする天然の核酸は、例えば、配列番号1、3、41、43、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65などに示される核酸配列の一部を含むPCRプライマーおよびハイブリダイゼーションプローブを有するcDNAライブラリーから容易に分離される。好ましいDNAポリメラーゼまたはその改変体あるいはフラグメントの核酸は、本質的に1%ウシ血清アルブミン(BSA);500mM リン酸ナトリウム(NaPO4);1mM EDTA;42℃の温度で 7% SDS を含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に2×SSC(600mM NaCl;60mM クエン酸ナトリウム);50℃の0.1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下、さらに好ましくは本質的に50℃の温度での1%ウシ血清アルブミン(BSA);500mM リン酸ナトリウム(NaPO4);15%ホルムアミド;1mM EDTA; 7% SDS を含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に50℃の1×SSC(300mM NaCl;30mM クエン酸ナトリウム);1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下、最も好ましくは本質的に50℃の温度での1%ウシ血清アルブミン(BSA);200mM リン酸ナトリウム(NaPO4);15%ホルムアミド;1mM EDTA;7%SDSを含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に65℃の0.5×SSC(150mM NaCl;15mM クエン酸ナトリウム);0.1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下に配列番号1、3、41、43、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65などに示す配列の1つまたはその一部とハイブリダイズし得る。
本明細書において「プローブ」とは、インビトロおよび/またはインビボなどのスクリーニングなどの生物学的実験において用いられる、検索の対象となる物質をいい、例えば、特定の塩基配列を含む核酸分子または特定のアミノ酸配列を含むペプチドなどが挙げられるがそれに限定されない。
通常プローブとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相同なまたは相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、95%相同な核酸配列が含まれる。
本明細書において、「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション条件下で、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよび in situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本発明において使用されるDNAポリメラーゼ(例えば、校正機能を有するDNAポリメラーゼ)には、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
本明細書において配列(アミノ酸または核酸など)の「同一性」、「相同性」および「類似性」のパーセンテージは、比較ウィンドウで最適な状態に整列された配列2つを比較することによって求められる。ここで、ポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の比較ウィンドウ内の部分には、2つの配列の最適なアライメントについての基準配列(他の配列に付加が含まれていればギャップが生じることもあるが、ここでの基準配列は付加も欠失もないものとする)と比較したときに、付加または欠失(すなわちギャップ)が含まれる場合がある。同一の核酸塩基またはアミノ酸残基がどちらの配列にも認められる位置の数を求めることによって、マッチ位置の数を求め、マッチ位置の数を比較ウィンドウ内の総位置数(すなわちウィンドウサイズ)で割り、得られた結果に100を掛けて同一性のパーセンテージを算出する。検索において使用される場合、相同性については、従来技術において周知のさまざまな配列比較アルゴリズムおよびプログラムの中から、適当なものを用いて評価する。このようなアルゴリズムおよびプログラムとしては、TBLASTN、BLASTP、FASTA、TFASTAおよびCLUSTALW(Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85(8):2444−2448、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Thompson et al.,1994,Nucleic Acids Res.22(2):4673−4680、Higgins et al.,1996,Methods Enzymol.266:383−402、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272)があげられるが、何らこれに限定されるものではない。特に好ましい実施形態では、従来技術において周知のBasic Local Alignment Search Tool (BLAST)(たとえば、Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215:403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272、Altschul et al.,1997,Nuc.Acids Res.25:3389−3402を参照のこと)を用いてタンパク質および核酸配列の相同性を評価する。特に、5つの専用BLASTプログラムを用いて以下の作業を実施することによって比較または検索が達成され得る。
(1) BLASTPおよびBLAST3でアミノ酸のクエリー配列をタンパク質配列データベースと比較;
(2) BLASTNでヌクレオチドのクエリー配列をヌクレオチド配列データベースと比較;
(3) BLASTXでヌクレオチドのクエリー配列(両方の鎖)を6つのリーディングフレームで変換した概念的翻訳産物をタンパク質配列データベースと比較;
(4) TBLASTNでタンパク質のクエリー配列を6つのリーディングフレーム(両方の鎖)すべてで変換したヌクレオチド配列データベースと比較;
(5) TBLASTXでヌクレオチドのクエリ配列を6つのリーディングフレームで変換したものを、6つのリーディングフレームで変換したヌクレオチド配列データベースと比較。
BLASTプログラムは、アミノ酸のクエリ配列または核酸のクエリ配列と、好ましくはタンパク質配列データベースまたは核酸配列データベースから得られた被検配列との間で、「ハイスコアセグメント対」と呼ばれる類似のセグメントを特定することによって相同配列を同定するものである。ハイスコアセグメント対は、多くのものが従来技術において周知のスコアリングマトリックスによって同定(すなわち整列化)されると好ましい。好ましくは、スコアリングマトリックスとしてBLOSUM62マトリックス(Gonnet et al.,1992,Science 256:1443−1445、Henikoff and Henikoff,1993,Proteins 17:49−61)を使用する。このマトリックスほど好ましいものではないが、PAMまたはPAM250マトリックスも使用できる(たとえば、Schwartz and Dayhoff,eds.,1978,Matrices for Detecting Distance Relationships:Atlas of Protein Sequence and Structure,Washington:National Biomedical Research Foundationを参照のこと)。BLASTプログラムは、同定されたすべてのハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価し、好ましくはユーザー固有の相同率などのユーザーが独自に定める有意性の閾値レベルを満たすセグメントを選択する。統計的な有意性を求めるKarlinの式を用いてハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価すると好ましい(Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268参照のこと)。
本明細書における「プライマー」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいう。核酸分子の合成反応では、合成されるべき高分子化合物の一部の配列に相補的な核酸分子(例えば、DNAまたはRNAなど)が用いられ得る。
通常プライマーとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、16の連続するヌクレオチド長の、17の連続するヌクレオチド長の、18の連続するヌクレオチド長の、19の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、最も好ましくは、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)が意図される配列の性質によって変動し得るが、当業者は、意図される配列に応じて適宜プライマーを設計することができる。そのようなプライマーの設計は当該分野において周知であり、手動でおこなってもよくコンピュータプログラム(例えば、LASERGENE,PrimerSelect,DNAStarなど)を用いて行ってもよい。
本明細書において、「エピトープ」とは、抗原決定基をいい、抗原抗体反応を惹起することができる限りその詳細な構造は必ずしも決定されている必要はない。従って、「エピトープ」には特定の免疫グロブリンによる認識に関与するアミノ酸残基のセット、または、T細胞の場合は、T細胞レセプタータンパク質および/もしくは主要組織適合性複合体(MHC)レセプターによる認識について必要であるアミノ酸残基のセットが包含される。この用語はまた、「抗原決定基」または「抗原決定部位」と交換可能に使用される。免疫系分野において、インビボまたはインビトロで、エピトープは、分子の特徴(例えば、一次ペプチド構造、二次ペプチド構造または三次ペプチド構造および電荷)であり、免疫グロブリン、T細胞レセプターまたはHLA分子によって認識される部位を形成する。ペプチドを含むエピトープは、エピトープに独特な空間的コンフォメーション中に3つ以上のアミノ酸を含み得る。一般に、エピトープは、少なくとも5つのこのようなアミノ酸からなり、代表的には少なくとも6つ、7つ、8つ、9つ、または10のこのようなアミノ酸からなる。エピトープの長さは、より長いほど、もとのペプチドの抗原性に類似することから一般的に好ましいが、コンフォメーションを考慮すると、必ずしもそうでないことがある。アミノ酸の空間的コンフォメーションを決定する方法は、当該分野で公知であり、例えば、X線結晶学、および2次元核磁気共鳴分光法を含む。さらに、所定のタンパク質におけるエピトープの同定は、当該分野で周知の技術を使用して容易に達成される。例えば、Geysenら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:3998(所定の抗原における免疫原性エピトープの位置を決定するために迅速にペプチドを合成する一般的な方法);米国特許第4,708,871号(抗原のエピトープを同定し、そして化学的に合成するための手順);およびGeysenら(1986)Molecular Immunology 23:709(所定の抗体に対して高い親和性を有するペプチドを同定するための技術)を参照されたい。同じエピトープを認識する抗体は、単純な免疫アッセイにおいて同定され得る。このように、ペプチドを含むエピトープを決定する方法は、当該分野において周知であり、そのようなエピトープは、核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されると、当業者はそのような周知慣用技術を用いて決定することができる。
従って、ペプチドを含むエピトープとして使用するためには、少なくとも3アミノ酸の長さの配列が必要であり、好ましくは、この配列は、少なくとも4アミノ酸、より好ましくは少なくとも5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、15アミノ酸、20アミノ酸、25アミノ酸の長さの配列が必要であり得る。エピトープは線状であってもコンフォメーション形態であってもよい。
(遺伝子の改変)
あるタンパク質分子(例えば、DNAポリメラーゼなど)において、配列に含まれるあるアミノ酸は、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応するDNAにおいて行われ得る。あるいは、校正機能に改変が加えられるように、DNAポリメラーゼをコードする核酸配列に改変が施され得る。
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.,J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5)である。
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。
親水性指数もまた、本発明において、遺伝子を改変する際に考慮され得る。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
本明細書において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換は、例えば、親水性指数または疎水性指数が、±2以内のもの同士、好ましくは±1以内のもの同士、より好ましくは±0.5以内のもの同士のものが挙げられる。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。そのような改変体の例としては、基準となる核酸分子またはポリペプチドに対して、1または数個の置換、付加および/または欠失、少なくとも1つの置換、付加および/または欠失を含むものが挙げられるがそれらに限定されない。そのような改変体は、基準となる分子(例えば、野生型分子など)の生物学的活性を有していてもよく、有していなくてもよい。目的に応じて、あらたな生物学的活性が付与されてもよく、一部の生物学的活性が欠失させられてもよい。そのような設計は、当該分野において周知の技術を用いることによって実施することができる。あるいは、すでに性質が明らかな改変体を産生する生物から単離または核酸配列を増幅してその配列情報を入手してもよい。したがって、本明細書において、ある宿主細胞にとっては、別の生物種に由来する同一の対応する遺伝子およびその産物もまた、野生型にとって「改変体」であると解釈される。
本明細書において「対立遺伝子(allele)」とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。そのような対立遺伝子変異体は、通常その対応する対立遺伝子と同一または非常に類似性の高い配列を有し、通常はほぼ同一の生物学的活性を有するが、まれに異なる生物学的活性を有することもある。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトおよびマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子およびβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用である。オルソログは、通常別の種において、もとの種と同様の機能を果たしていることがあり得ることから、本発明において使用されるオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
本明細書において「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。このような塩基配列の改変法の例としては、制限酵素などによる切断、DNAポリメラーゼ、Klenowフラグメント、DNAリガーゼなどによる処理等による連結等の処理、合成オリゴヌクレオチドなどを用いた部位特異的塩基置換法(特定部位指向突然変異法;Mark Zoller and Michael Smith,Methods in Enzymology,100,468−500(1983))が挙げられるが、この他にも通常分子生物学の分野で用いられる方法によって改変を行うこともできる。
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、および/または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチド鎖のアミノ酸を1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
本明細書において使用される用語「ペプチドアナログ」または「ペプチド誘導体」とは、ペプチドとは異なる化合物であるが、ペプチドと少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ペプチドアナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のアミノ酸アナログまたはアミノ酸誘導体が付加または置換されているものが含まれる。ペプチドアナログは、その機能が、もとのペプチドの機能(例えば、pKa値が類似していること、官能基が類似していること、他の分子との結合様式が類似していること、水溶性が類似していることなど)と実質的に同様であるように、このような付加または置換がされている。そのようなペプチドアナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、ペプチドアナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。
同様に、本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチドアナログ」または「核酸アナログ」は、ポリヌクレオチドまたは核酸とは異なる化合物であるが、ポリヌクレオチドまたは核酸と少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ポリヌクレオチドアナログまたは核酸アナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のヌクレオチドアナログまたはヌクレオチド誘導体が付加または置換されているものが含まれる。
本明細書において使用される核酸分子は、発現されるポリペプチドが天然型のポリペプチドと実質的に同一の活性を有する限り、上述のようにその核酸の配列の一部が欠失または他の塩基により置換されていてもよく、あるいは他の核酸配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、ポリペプチドをコードする遺伝子をストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、そのポリペプチドと実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードする核酸分子でもよい。このような遺伝子は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変位誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換」、「付加」または「欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、ホルモン、サイトカインの情報伝達機能など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
(遺伝子工学)
本発明において用いられるDNAポリメラーゼならびにそのフラグメントおよび改変体のようなタンパク質は、遺伝子工学技術を用いて生産および細胞内導入することができる。
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」または「組み換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体および植物個体などの宿主細胞において自立複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。ベクターのうち、クローニングに適したベクターを「クローニングベクター」という。そのようなクローニングベクターは通常、制限酵素部位を複数含むマルチプルクローニング部位を含む。そのような制限酵素部位およびマルチプルクローニング部位は、当該分野において周知であり、当業者は、目的に合わせて適宜選択して使用することができる。そのような技術は、本明細書に記載される文献(例えば、Sambrookら、前出)に記載されている。そのようなベクターとしては、例えば、プラスミドが挙げられる。
本明細書において「プラスミド」とは、染色体とは別個に存在して自律的に増殖する遺伝因子をいう。本明細書において、プラスミドは、特に言及するとき、核細胞のミトコンドリア、葉緑体などに含まれるDNAは一般にはオルガネラDNAと区別して呼び、プラスミドに入らないことが理解される。
そのようなプラスミドとしては、例えば、
大腸菌:pET(TAKARA)、pUC(TOYOBO)、pBR322(TOYOBO)、pBluescriptII(TOYOBO)
酵母:pAUR(TAKARA)、pESP(TOYOBO)、pESC(TOYOBO)
枯草菌:pHY300PLK(TAKARA)
糸状菌:pPRTI(TAKARA)、pAUR316(TAKARA)
動物細胞:pCMV(TOYOBO)、pBK−CMV(TOYOBO)など
が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「発現ベクター」とは、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカー、サイレンサーおよび/またはエンハンサーを含み得る。生物(例えば、植物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。特定のプロモーターなどを含ませることによって、一定条件下でエラープローン頻度を調節するように細胞を操作することができる。
本発明において用いられ得る原核細胞に対する「組み換えベクター」としては、pcDNA3(+)、pBluescript−SK(+/−)、pGEM−T、pEF−BOS、pEGFP、pHAT、pUC18、pFT−DESTTM42、GATEWAY(Invitrogen)などが例示される。
本発明において用いられ得る動物細胞に対する「組み換えベクター」としては、pcDNAI/Amp、pcDNAI、pCDM8(いずれもフナコシより市販)、pAGE107(特開平3−229(Invitrogen))、pAGE103(J.Biochem.,101,1307(1987))、pAMo、pAMoA(J.Biol.Chem.,268,22782−22787(1993))、マウス幹細胞ウイルス(Murine Stem Cell Virus)(MSCV)に基づいたレトロウイルス型発現ベクター、pEF−BOS、pEGFPなどが例示される。
植物細胞に対する「組換えベクター」としては、Tiプラスミド、タバコモザイクウイルスベクター、カリフラワーモザイクウイルスベクター、ジェミニウイルスベクターなどが例示される。
昆虫細胞に対する「組換えベクター」としては、バキュロウイルスベクターなどが例示される。
本明細書において「ターミネーター」とは、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、通常RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。したがって、本明細書においてある遺伝子のプロモーターの働きを有する部分を「プロモーター部分」という。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモータ領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
本明細書において「エンハンサー」とは、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられる配列をいう。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
本明細書において「サイレンサー」とは、遺伝子発現を抑制し静止する機能を有する配列をいう。本発明では、サイレンサーとしてはその機能を有する限り、どのようなものを用いてもよく、サイレンサーを用いなくてもよい。
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも構造遺伝子に隣接して配置される必要はない。
本明細書において、校正機能を改変したDNAポリメラーゼなどをコードする核酸分子を細胞に導入する技術は、どのような技術でもよく、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、あるいは、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.et al.編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook J.ら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその第三版(2001),Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
また、ベクターの導入方法としては、細胞にDNAを導入する上述のような方法であればいずれも用いることができ、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換など(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法など)が挙げられる。
本明細書において「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞などが例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれる。本発明において用いられる細胞は、形質転換体であってもよい。
本発明において遺伝子操作などにおいて原核生物細胞が使用される場合、原核生物細胞としては、例えばmEscherichia属、Serratia属、Bacillus属、Brevibacterium属、Corynebacterium属、Microbacterium属、Pseudomonas属などに属する原核生物細胞、例えば、Escherichia coli XL1−Blue、Escherichia coli XL2−Blue、Escherichia coli DH1などが例示される。
本明細書において使用される場合、動物細胞としては、マウス・ミエローマ細胞、ラット・ミエローマ細胞、マウス・ハイブリドーマ細胞、チャイニーズ・ハムスターの細胞であるCHO細胞、BHK細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞、ヒト白血病細胞、HBT5637(特開昭63−299)、ヒト結腸癌細胞株などを挙げることができる。マウス・ミエローマ細胞としては、ps20、NSOなど、ラット・ミエローマ細胞としてはYB2/0など、ヒト胎児腎臓細胞としてはHEK293(ATCC:CRL−1573)など、ヒト白血病細胞としてはBALL−1など、アフリカミドリザル腎臓細胞としてはCOS−1、COS−7など、ヒト結腸癌細胞株としてはHCT−15など、ヒト神経芽細胞腫SK−N−SH、SK−N−SH−5Yなど、マウス神経芽細胞腫Neuro2Aなどが例示される。
本明細書において使用される場合、組換えベクターの導入方法としては、DNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法(Methods.Enzymol.,194,182(1990))、リポフェクション法、スフェロプラスト法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,1929(1978))、酢酸リチウム法(J.Bacteriol.,153,163(1983))、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)記載の方法などが例示される。
本明細書において、レトロウイルスの感染方法は、例えば、Current Protocols in Molecular Biology 前出(特にUnits 9.9−9.14)などに記載されるように、当該分野において周知であり、例えば、トリプシナイズした胚性幹細胞を単一細胞懸濁物(single−cell suspension)にした後、ウイルス産生細胞(virus−producing cells)(パッケージング細胞株=packaging cell lines)の培養上清と一緒に 1−2時間共培養(co−culture)することにより、十分量の感染細胞を得ることができる。
本発明を植物において利用する場合、植物細胞への植物発現ベクターの導入には、当業者に周知の方法、例えば、アグロバクテリウムを介する方法および直接細胞に導入する方法、が用いられ得る。アグロバクテリウムを介する方法としては、例えば、Nagelらの方法(Nagelら(1990)、Microbiol.Lett.,67,325)が用いられ得る。この方法は、まず、例えば植物に適切な発現ベクターでエレクトロポレーションによってアグロバクテリウムを形質転換し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをGelvinら(Gelvinら編(1994)、Plant Molecular Biology Manual(Kluwer Academic Press Publishers))に記載の方法で植物細胞に導入する方法である。植物発現ベクターを直接細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーション法(Shimamotoら(1989)、Nature、338:274−276;およびRhodesら(1989)、Science、240:204−207を参照のこと)、パーティクルガン法(Christouら(1991)、Bio/Technology 9:957−962を参照のこと)ならびにポリエチレングリコール(PEG)法(Dattaら(1990)、Bio/Technology 8:736−740を参照のこと)が挙げられる。これらの方法は、当該分野において周知であり、形質転換する植物に適した方法が、当業者により適宜選択され得る。
本発明において、形質転換体では、目的とする核酸分子(導入遺伝子)は、染色体に導入されていても導入されていなくてもよい。好ましくは、目的とする核酸分子(導入遺伝子)は、染色体に導入されており、より好ましくは、2つの染色体の両方に導入されている。
形質転換細胞は、当該分野で周知の方法により、植物組織、植物器官および/または植物体に分化され得る。
植物細胞、植物組織および植物体の培養、分化および再生のためには、当該分野で公知の手法および培地が用いられる。このような培地には、例えば、Murashige−Skoog(MS)培地、Gamborg B5(B)培地、White培地、Nitsch & Nitsch(Nitsch)培地などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。これらの培地は、通常、植物生長調節物質(植物ホルモン)などが適当量添加されて用いられる。
本明細書において、植物の場合、その植物を「再分化」するとは、個体の一部分から個体全体が復元される現象を意味する。例えば、再分化により、細胞(葉、根など)のような組織片から器官または植物体が形成される。
形質転換体を植物体へと再分化する方法は当該分野において周知である。そのような方法としては、Rogersら,Methods in Enzymology 118:627−640(1986);Tabataら,Plant Cell Physiol.,28:73−82(1987);Shaw,Plant Molecular Biology:A practical approach,IRL press(1988);Shimamotoら,Nature 338:274(1989);Maligaら,Methods in Plant Molecular Biology:A laboratory course,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1995)などに記載されるものが挙げられるがそれらに限定されない。従って、当業者は、上記周知方法を目的とする形質転換植物に応じて適宜使用して、再分化させることができる。このようにして得られた形質転換植物には、目的の遺伝子が導入されており、そのような遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
さらに、得られた形質転換植物体から種子が取得され得る。導入した遺伝子の発現は、ノーザンブロット法またはPCR法により、検出し得る。必要に応じて、遺伝子産物たるタンパク質の発現を、例えば、ウェスタンブロット法により確認し得る。
本発明は、任意の生物において利用することができ、特に植物において有用であることが示されている。本発明はまた、他の生物にも適用され得る。本発明において使用される分子生物学技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook J.ら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版およびその第3版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
本明細書において遺伝子発現(たとえば、mRNA発現、ポリペプチド発現)の「検出」または「定量」は、例えば、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイなど)を用いた遺伝子解析方法によっても行われ得る。DNAアレイについては、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。プロテインアレイについては、Nat Genet.2002 Dec;32 Suppl:526−32に詳述されている。遺伝子発現の分析法としては、上述に加えて、RT−PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two−hybridシステム、インビトロ翻訳などが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなさらなる分析方法は、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔 羊土社(2002)などに記載されており、本明細書においてそれらの記載はすべて参考として援用される。
本明細書において「発現量」とは、対象となる細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。このように、ある因子(例えば、DNAポリメラーゼなど)の発現量の変化により、本発明におけるエラープローンの頻度を調節することができる。
本明細書において「上流」という用語は、特定の基準点からポリヌクレオチドの5’末端に向かう位置を示す。
本明細書において「下流」という用語は、特定の基準点からポリヌクレオチドの3’末端に向かう位置を示す。
本明細書において「塩基対の」および「Watson & Crick塩基対の」という表現は、本明細書では同義に用いられ、二重らせん状のDNAにおいて見られるものと同様に、アデニン残基(A)が2つの水素結合によってチミン残基(T)またはウラシル残基(U)と結合し、3つの水素結合によってシトシン残基(C)とグアニン残基(G)とが結合するという配列の正体に基づいて互いに水素結合可能なヌクレオチドを示す(Stryer,L.,Biochemistry,4th edition,1995を参照)。
本明細書において「相補的」または「相補体」という用語は、本明細書では、相補領域全体がそのまま別の特定のポリヌクレオチドとWatson&Crick塩基対を形成することのできるポリヌクレオチドの配列を示す。本発明の目的で、第1のポリヌクレオチドの各塩基がその相補塩基と対になっている場合に、この第1のポリヌクレオチドは第2のポリヌクレオチドと相補であるとみなす。相補塩基は一般に、AとT(あるいはAとU)、またはCとGである。本願明細書では、「相補」という語を「相補ポリヌクレオチド」、「相補核酸」および「相補ヌクレオチド配列」の同義語として使用する。これらの用語は、その配列のみに基づいてポリヌクレオチドの対に適用されるものであり、2つのポリヌクレオチドが事実上結合状態にある特定のセットに適用されるものではない。
胚性幹(ES)細胞の相同組換えを介したトランスジェニック動物およびノックアウト動物の作製および解析が重要な手段となってきている。トランスジェニック動物またはノックアウト哺乳動物は、例えば相同組換えを応用したポジティブネガティブセレクション法を用いて作製することができる(米国特許第5,464,764号公報、米国特許第5,487,992号公報、米国特許第5,627,059号公報、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.86,8932−8935,1989、Nature,Vol.342,435−438,1989などを参照)。ノックアウト動物作出(ジーンターゲティングとも呼ばれる)の概説に関しては、例えば、村松正實、山本雅編集、『実験医学別冊 新訂 遺伝子工学ハンドブック 改訂第3版』(1999年、羊土社発行)中特に239から256頁、相沢慎一(1995)実験医学別冊「ジーンターゲティング−ES細胞を用いた変異マウスの作製」などに記載され、ますます汎用されている。本発明では、このような方法を適宜用いることができる。
例えば、高等生物では、ネオマイシン耐性遺伝子を用いる陽性選択とHSVのチミジンキナーゼ遺伝子やジフテリア毒素遺伝子を用いる陰性選択により組換え体の効率的な選別が行われている。ノックアウトPCRまたはサザンブロット法により相同組換え体の選択が行われる。すなわち、標的遺伝子の一部を陽性選択用のネオマイシン耐性遺伝子等で置換し、その末端に陰性選択用のHSVTK遺伝子等を連結したターゲティングベクターを作成し、エレクトロポレーションによりES細胞に導入し、例えば、G418およびガンシクロビルの存在下で選択して、生じたコロニーを単離し、さらにPCRまたはサザンブロットにより相同組換え体を選択する。
このように、内在する標的遺伝子を破壊して、対応する機能が喪失したかまたは減少した変異を有するトランスジェニックまたはノックアウト(標的遺伝子組換え、遺伝子破壊)マウスを作製する方法は、標的とした遺伝子だけに変異が導入されるので、その遺伝子機能の解析に有用である。
所望の相同組換え体を選択した後、得られた組換えES細胞を胚盤注入法または集合キメラ法により正常な胚と混合してES細胞と宿主胚とのキメラマウスを作製する。胚盤注入法では、ES細胞を胚盤胞にガラスピペットで注入する。集合キメラ法では、ES細胞の塊と透明帯を除去した8細胞期の胚とを接着させる。ES細胞を導入した胚盤胞を偽妊娠させた代理母の子宮に移植してキメラマウスを得る。ES細胞は、全能性を有するので、生体内では、生殖細胞を含め、あらゆる種類の細胞に分化することができる。ES細胞由来の生殖細胞を有するキメラマウスと正常マウスを交配させるとES細胞の染色体をヘテロに有するマウスが得られ、このマウス同士を交配するとES細胞の改変染色体をホモに有するノックアウトマウスが得られる。得られたキメラマウスから改変染色体をホモに有するノックアウトマウスを得るには、雄性キメラマウスと雌性野生型マウスとを交配して、F1世代のヘテロ接合体マウスを産出させ、生まれた雄性および雌性のヘテロ接合体マウスを交配して、F2世代のホモ接合体マウスを選択する。F1およびF2の各世代において所望の遺伝子変異が導入されているか否かは、組換えES細胞のアッセイと同様に、サザンブロッティング、PCR、塩基配列の解読など当該分野において慣用される方法を用いて分析され得る。
多様な遺伝子機能を選択的に解析することができないという問題を克服する別の技術として、Creリコンビナーゼの細胞種特異的発現とCre−loxPの部位特異的組み換えを併用するコンディショナルノックアウト技術が注目されている。Cre−loxPを用いるコンディショナルノックアウトマウスは、標的遺伝子の発現を阻害しない位置にネオマイシン耐性遺伝子を導入し、後に削除するエキソンをはさむようにしてloxP配列を挿入したターゲティングベクターをES細胞に導入し、その後相同組換え体を単離する。この単離したクローンからキメラマウスを得、遺伝子改変マウスが作製される。次に、大腸菌のP1ファージ由来の部位特異的組換え酵素Creを組織特異的に発現するトランスジェニックマウスとこのマウスを交配させると、Creを発現する組織中でのみ遺伝子が破壊される(ここでは、Creは、loxP配列(34bp)を特異的に認識して、2つのloxP配列にはさまれた配列で組換えを起こさせ、これが破壊される)。臓器特異的なプロモータに連結したCre遺伝子を有するトランスジェニックマウスと交配させるか、またはCre遺伝子を有するウイルスベクターを使用して、成体でCreを発現させることができる(Stanford WL.,et al.,Nature Genetics 2:756−768(2001)を参照)。
このようにして、本発明の生物を作製することができる。
(ポリペプチドの製造方法)
本発明の方法によって生産された微生物、動物細胞などに由来する形質転換体を、通常の培養方法に従って培養し、本発明のポリペプチドを生成蓄積させ、本発明の培養物より本発明のポリペプチドを採取することにより、本発明に係るポリペプチドを製造することができる。
本発明の形質転換体を培地に培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。大腸菌等の原核生物あるいは酵母等の真核生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、本発明の生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、それぞれの微生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フルクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類を用いることができる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の各種無機酸または有機酸のアンモニウム塩、その他含窒素物質、ならびに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体およびその消化物等を用いることができる。
無機塩としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を用いることができる。培養は、振盪培養または深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行う。
培養温度は15〜40℃がよいが、その範囲外の温度も使用され得る。特に、本発明により温度耐性生物または細胞が生産されると、上記範囲外の温度が最適になる可能性があり得る。培養時間は、通常5時間〜7日間である。培養中pHは、3.0〜9.0に保持することが好ましいがそれに限定されない。特に、本発明により酸またはアルカリ耐性の生物または細胞が生産されると、上記範囲外のpHが最適になる可能性があり得る。pHの調整は、無機あるいは有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。また培養中必要に応じて、アンピシリンまたはテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを含む発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを含む発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。遺伝子を導入した植物の細胞または器官は、ジャーファーメンターを用いて大量培養することができる。培養する培地としては、一般に使用されているムラシゲ・アンド・スクーグ(MS)培地、ホワイト(White)培地、またはこれら培地にオーキシン、サイトカイニン等、植物ホルモンを添加した培地等を用いることができる。
例えば、動物細胞を用いる場合、本発明の細胞を培養する培地は、一般に使用されているRPMI1640培地(The Journal of the American Medical Association,199,519(1967))、EagleのMEM培地(Science,122,501(1952))、DMEM培地(Virology,8,396(1959))、199培地(Proceedings of the Society for the Biological Medicine,73,1(1950))またはこれら培地にウシ胎児血清等を添加した培地等が用いられる。
培養は、通常pH6〜8、25〜40℃、5%CO2存在下等の条件下で1〜7日間行う。また培養中必要に応じて、カナマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
本発明のポリペプチドをコードする核酸配列で形質転換された形質転換体の培養物から、本発明のポリペプチドを単離または精製するためには、当該分野で周知慣用の通常の酵素の単離または精製法を用いることができる。例えば、本発明のポリペプチドが本発明のポリペプチド製造用形質転換体の細胞外に本発明のポリペプチドが分泌される場合には、その培養物を遠心分離等の手法により処理し、可溶性画分を取得する。その可溶性画分から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−Sepharose、DIAION HPA−75(三菱化成)等樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia)等の樹脂を用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等の樹脂を用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用い、精製標品を得ることができる。
本発明のポリペプチドが本発明のポリペプチド製造用形質転換体の細胞内に溶解状態で蓄積する場合には、培養物を遠心分離することにより、培養物中の細胞を集め、その細胞を洗浄した後に、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモジナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。その無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−Sepharose、DIAION HPA−75(三菱化成)等樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia)等の樹脂を用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等の樹脂を用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用いることによって、精製標品を得ることができる。
本発明のポリペプチドが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより得られた沈澱画分より、通常の方法により本発明のポリペプチドを回収後、そのポリペプチドの不溶体をポリペプチド変性剤で可溶化する。この可溶化液を、ポリペプチド変性剤を含まないか、または、ポリペプチド変性剤の濃度が、ポリペプチドが変性しない程度に希薄な溶液に希釈、あるいは透析し、本発明のポリペプチドを正常な立体構造に構成させた後、上記と同様の単離精製法により精製標品を得ることができる。
また、通常のタンパク質の精製方法(J.Evan.Sadlerら:Methods in Enzymology,83,458)に準じて精製できる。また、本発明のポリペプチドを他のタンパク質との融合タンパク質として生産し、融合したタンパク質に親和性をもつ物質を用いたアフィニティークロマトグラフィーを利用して精製することもできる(山川彰夫,実験医学(Experimental Medicine),13,469−474(1995))。例えば、Loweらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227−8231(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990))に記載の方法に準じて、本発明のポリペプチドをプロテインAとの融合タンパク質として生産し、イムノグロブリンGを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。
また、本発明のポリペプチドをFLAGペプチドとの融合タンパク質として生産し、抗FLAG抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990)]。
さらに、本発明のポリペプチド自身に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製することもできる。本発明のポリペプチドは、公知の方法(J.Biomolecular NMR,6,129−134、Science,242,1162−1164、J.Biochem.,110,166−168(1991))に準じて、in vitro転写・翻訳系を用いて生産することができる。
本発明のポリペプチドは、そのアミノ酸情報を基に、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造することができる。また、Advanced ChemTech、Applied Biosystems、Pharmacia Biotech、Protein Technology Instrument、Synthecell−Vega、PerSeptive、島津製作所等のペプチド合成機を利用し化学合成することもできる。
精製した本発明のポリペプチドの構造解析は、タンパク質化学で通常用いられる方法、例えば遺伝子クローニングのためのタンパク質構造解析(平野久著、東京化学同人発行、1993年)に記載の方法により実施可能である。本発明の新規ps20様ペプチドの生理活性は、公知の測定法(Cell,75,1389(1993)、J.Cell Bio.l146,233(1999)、Cancer Res.58,1238(1998)、Neuron 17,1157(1996)、Science 289,1197(2000)など)に準じて測定することができる。
(スクリーニング)
本明細書において「スクリーニング」とは、目的とするある特定の性質をもつ生物または物質などの標的を、特定の操作/評価方法で多数を含む集団の中から選抜することをいう。スクリーニングのために、本発明の因子(例えば、抗体)、ポリペプチドまたは核酸分子を使用することができる。スクリーニングは、インビトロ、インビボなど実在物質を用いた系を使用してもよく、インシリコ(コンピュータを用いた系)の系を用いて生成されたライブラリーを用いてもよい。本発明では、所望の活性を有するスクリーニングによって得られた化合物もまた、本発明の範囲内に包含されることが理解される。また本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
このようなスクリーニングまたは同定の方法は、当該分野において周知であり、例えば、そのようなスクリーニングまたは同定は、マイクロタイタープレート、DNAまたはプロテインなどの生体分子アレイまたはチップを用いて行うことができる。スクリーニングの試験因子を含む対象としては、例えば、遺伝子のライブラリー、コンビナトリアルライブラリーで合成した化合物ライブラリーなどが挙げられるがそれらに限定されない。
したがって、好ましい実施形態では、本発明は、疾患または障害の調節因子を同定する方法を提供する。このような調節因子は、それぞれの疾患の医薬またはそのリード化合物として用いることができる。そのような調節因子ならびにその調節因子を含む医薬およびそれを利用する治療法もまた、本発明の範囲内にあることが意図される。
したがって、本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
本発明は、他の実施形態において、有効な調節活性を有する本発明の化合物に対するスクリーニングの道具として、コンピュータによる定量的構造活性相関(quantitative structure activity relationship=QSAR)モデル化技術を使用して得られる化合物を包含する。ここで、コンピューター技術は、いくつかのコンピュータによって作成した基質鋳型、ファーマコフォア、ならびに本発明の活性部位の相同モデルの作製などを包含する。一般に、インビトロで得られたデータから、ある物質に対する相互作用物質の通常の特性基をモデル化することに対する方法は、最近CATALYSTTM ファーマコフォア法(Ekins et al.、Pharmacogenetics,9:477〜489,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,288:21〜29,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,290:429〜438,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,291:424〜433,1999)および比較分子電界分析(comparative molecular field analysis;CoMFA)(Jones et al.、Drug Metabolism & Disposition,24:1〜6,1996)などを使用して示されている。本発明において、コンピュータモデリングは、分子モデル化ソフトウェア(例えば、CATALYSTTMバージョン4(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA)など)を使用して行われ得る。
活性部位に対する化合物のフィッティングは、当該分野で公知の種々のコンピュータモデリング技術のいずれかを使用して行うことができる。視覚による検査および活性部位に対する化合物のマニュアルによる操作は、QUANTA(Molecular Simulations,Burlington,MA,1992)、SYBYL(Molecular Modeling Software,Tripos Associates,Inc.,St.Louis,MO,1992)、AMBER(Weiner et al.、J.Am.Chem.Soc.,106:765−784,1984)、CHARMM(Brooks et al.、J.Comp.Chem.,4:187〜217,1983)などのようなプログラムを使用して行うことができる。これに加え、CHARMM、AMBERなどのような標準的な力の場を使用してエネルギーの最小化を行うこともできる。他のさらに特殊化されたコンピュータモデリングは、GRID(Goodford et al.、J.Med.Chem.,28:849〜857,1985)、MCSS(Miranker and Karplus,Function and Genetics,11:29〜34,1991)、AUTODOCK(Goodsell and Olsen,Proteins:Structure,Function and Genetics,8:195〜202,1990)、DOCK(Kuntz et al.、J.Mol.Biol.,161:269〜288,(1982))などを含む。さらなる構造の化合物は、空白の活性部位、既知の低分子化合物における活性部位などに、LUDI(Bohm,J.Comp.Aid.Molec.Design,6:61〜78,1992)、LEGEND(Nishibata and Itai,Tetrahedron,47:8985,1991)、LeapFrog(Tripos Associates,St.Louis,MO)などのようなコンピュータープログラムを使用して新規に構築することもできる。このようなモデリングは、当該分野において周知慣用されており、当業者は、本明細書の開示に従って、適宜本発明の範囲に入る化合物を設計することができる。
(疾患)
本発明が対象とし得る疾患および障害(例えば、モデル動物の作製など)は、対象となる生物が罹患し得る疾患および障害であり得る。
1つの実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、循環器系(血液細胞など)であり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:貧血(例えば、再生不良性貧血(特に重症再生不良性貧血)、腎性貧血、癌性貧血、二次性貧血、不応性貧血など)、癌または腫瘍(例えば、白血病)およびその化学療法処置後の造血不全、血小板減少症、急性骨髄性白血病(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期以降の寛解期)、急性リンパ性白血病(特に、第1寛解期、第2寛解期以降の寛解期)、慢性骨髄性白血病(特に、慢性期、移行期)、悪性リンパ腫(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期以降の寛解期)、多発性骨髄腫(特に、発症後早期)など。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、神経系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:痴呆症、脳卒中およびその後遺症、脳腫瘍、脊髄損傷。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、免疫系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:T細胞欠損症、白血病。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、運動器・骨格系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:骨折、骨粗鬆症、関節の脱臼、亜脱臼、捻挫、靱帯損傷、変形性関節症、骨肉腫、ユーイング肉腫、骨形成不全症、骨軟骨異形成症。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、皮膚系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:無毛症、黒色腫、皮膚悪性リンパ腫、血管肉腫、組織球症、水疱症、膿疱症、皮膚炎、湿疹。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、内分泌系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:視床下部・下垂体疾患、甲状腺疾患、副甲状腺(上皮小体)疾患、副腎皮質・髄質疾患、糖代謝異常、脂質代謝異常、タンパク質代謝異常、核酸代謝異常、先天性代謝異常(フェニールケトン尿症、ガラクトース血症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症)、無アルブミン血症、アスコルビン酸合成能欠如、高ビリルビン血症、高ビリルビン尿症、カリクレイン欠損、肥満細胞欠損、尿崩症、バソプレッシン分泌異常、小人症、ウオルマン病(酸リパーゼ(Acid lipase)欠損症)、ムコ多糖症VI型。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、呼吸器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:肺疾患(例えば、肺炎、肺癌など)、気管支疾患。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、消化器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:食道疾患(たとえば、食道癌など)、胃・十二指腸疾患(たとえば、胃癌、十二指腸癌など)、小腸疾患・大腸疾患(たとえば、大腸ポリープ、結腸癌、直腸癌など)、胆道疾患、肝臓疾患(たとえば、肝硬変、肝炎(A型、B型、C型、D型、E型など)、劇症肝炎、慢性肝炎、原発性肝癌、アルコール性肝障害、薬物性肝障害など)、膵臓疾患(急性膵炎、慢性膵炎、膵臓癌、嚢胞性膵疾患など)、腹膜・腹壁・横隔膜疾患(ヘルニアなど)、ヒルシュスプラング病。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、泌尿器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:腎疾患(腎不全、原発性糸球体疾患、腎血管障害、尿細管機能異常、間質性腎疾患、全身性疾患による腎障害、腎癌など)、膀胱疾患(膀胱炎、膀胱癌など)。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、生殖器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:男性生殖器疾患(男性不妊、前立腺肥大症、前立腺癌、精巣癌など)、女性生殖器疾患(女性不妊、卵巣機能障害、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮癌、子宮内膜症、卵巣癌、絨毛性疾患など)。
別の実施形態において、本発明が対象とし得る疾患および障害は、循環器系のものであり得る。そのような疾患または障害としては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:心不全、狭心症、心筋梗塞、不整脈、弁膜症、心筋・心膜疾患、先天性心疾患(たとえば、心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存、ファロー四徴など)、動脈疾患(たとえば、動脈硬化、動脈瘤)、静脈疾患(たとえば、静脈瘤など)、リンパ管疾患(たとえば、リンパ浮腫など)。
本発明が対象とし得る疾患(病害)および障害は、植物の病害および障害であり得る。そのような病害および障害としては、例えば、いもち病、寒冷障害が挙げられるがそれらに限定されない。
本発明によって得られた生産物質などが医薬として使用される場合、そのような生産物質などは、薬学的に受容可能なキャリアをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクルおよび/または薬学的アジュバントが挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、アディポネクチンまたはその改変体もしくはフラグメント、またはその改変体もしくは誘導体を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))などが挙げられるがそれらに限定されない。
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH約7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
以下に本発明の医薬組成物の一般的な調製法を示す。なお、動物薬組成物、医薬部外品、水産薬組成物、食品組成物および化粧品組成物等についても公知の調製法により製造することができる。
本発明の生産物質などは、薬学的に受容可能なキャリアと配合し、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、座剤等の固形製剤、またはシロップ剤、注射剤、懸濁剤、溶液剤、スプレー剤等の液状製剤として経口または非経口的に投与することができる。薬学的に受容可能なキャリアとしては、上述のように、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、崩壊阻害剤、吸収促進剤、吸着剤、保湿剤、溶解補助剤、安定化剤、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等が挙げられる。また、必要に応じ、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の製剤添加物を用いることができる。また、本発明の組成物には本発明の生産物質以外の物質を配合することも可能である。非経口の投与経路としては、静脈内注射、筋肉内注射、経鼻、直腸、膣および経皮等が挙げられるがそれらに限定されない。
固形製剤における賦形剤としては、例えば、グルコース、ラクトース、スクロース、D−マンニトール、結晶セルロース、デンプン、炭酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、塩化ナトリウム、カオリンおよび尿素等が挙げられる。
固形製剤における滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ホウ酸末、コロイド状ケイ酸、タルクおよびポリエチレングリコール等が挙げられるがそれらに限定されない。
固形製剤における結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、白糖、D−マンニトール、結晶セルロース、デキストリン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン溶液、ゼラチン溶液、ポリビニルピロリドン、リン酸カルシウム、リン酸カリウム、およびシェラック等が挙げられるがそれらに限定されない。
固形製剤における崩壊剤としては、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カンテン末、ラミナラン末、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、アルギン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、デンプン、ステアリン酸モノグリセリド、ラクトースおよび繊維素グリコール酸カルシウム等が挙げられるがそれらに限定されない。
固形製剤における崩壊阻害剤の好適な例としては、水素添加油、白糖、ステアリン、カカオ脂および硬化油等が挙げられるがそれらに限定されない。
固形製剤における吸収促進剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩基類およびラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられるがそれらに限定されない。
固形製剤における吸着剤としては、例えば、デンプン、ラクトース、カオリン、ベントナイトおよびコロイド状ケイ酸等が挙げられるがそれらに限定されない。
固形製剤における保湿剤としては、例えば、グリセリン、デンプン等が挙げられるがそれらに限定されない。
固形製剤における溶解補助剤としては、例えば、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸等が挙げられるがそれらに限定されない。
固形製剤における安定化剤としては、例えば、ヒト血清アルブミン、ラクトース等が挙げられるがそれらに限定されない。
固形製剤として錠剤、丸剤等を調製する際には、必要により胃溶性または腸溶性物質(白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)のフィルムで被覆していてもよい。錠剤には、必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーテイング錠あるいは二重錠、多層錠が含まれる。カプセル剤にはハードカプセルおよびソフトカプセルが含まれる。座剤の形態に成形する際には、上記に列挙した添加物以外に、例えば、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、半合成グリセライド等を添加することができるがそれらに限定されない。
液状製剤における溶剤の好適な例としては、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油およびトウモロコシ油等が挙げられる。
液状製剤における溶解補助剤の好適な例としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウム等が挙げられるがそれらに限定されない。
液状製剤における懸濁化剤の好適な例としては、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等が挙げられるがそれらに限定されない。
液状製剤における等張化剤の好適な例としては、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール等が挙げられるがそれらに限定されない。
液状製剤における緩衝剤の好適な例としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩およびクエン酸塩等の緩衝液等が挙げられるがそれらに限定されない。
液状製剤における無痛化剤の好適な例としては、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウムおよび塩酸プロカイン等が挙げられるがそれらに限定されない。
液状製剤における防腐剤の好適な例としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられるがそれらに限定されない。
液状製剤における抗酸化剤の好適な例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸、α−トコフェロールおよびシステイン等が挙げられるがそれらに限定されない。
注射剤として調製する際には、液剤および懸濁剤は殺菌され、かつ血液と等張であることが好ましい。通常、これらは、バクテリア保留フィルター等を用いるろ過、殺菌剤の配合または照射によって無菌化する。さらにこれらの処理後、凍結乾燥等の方法により固形物とし、使用直前に無菌水または無菌の注射用希釈剤(塩酸リドカイン水溶液、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノールまたはこれらの混合溶液等)を添加してもよい。
さらに、必要ならば、医薬組成物は、着色料、保存剤、香料、矯味矯臭剤、甘味料等、ならびに他の薬剤を含んでいてもよい。
本発明の医薬は、経口的または非経口的に投与され得る。あるいは、本発明の医薬は、静脈内または皮下で投与され得る。全身投与されるとき、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製は、pH、等張性、安定性などを考慮することにより、当業者は、容易に行うことができる。本明細書において、投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)であり得る。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。
本発明の医薬は、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(日本薬局方第14版またはその最新版、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990などを参照)と、所望の程度の純度を有する糖鎖組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で調製され保存され得る。
様々な送達系が公知であり、そして本発明の化合物を投与するために用いられ得る(例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルなど)。導入方法としては、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、および経口経路が挙げられるがそれらに限定されない。化合物または組成物は、任意の好都合な経路により(例えば、注入またはボーラス注射により、上皮または粘膜内層(例えば、口腔粘膜、直腸粘膜および腸粘膜など)を通しての吸収により)投与され得、そして他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与され得る。投与は、全身的または局所的であり得る。さらに、本発明の薬学的化合物または組成物を、任意の適切な経路(脳室内注射および髄腔内注射を包含し;脳室内注射は、例えば、Ommayaリザーバのようなリザーバに取り付けられた脳室内カテーテルにより容易にされ得る)により中枢神経系に導入することが望まれ得る。例えば、吸入器または噴霧器の使用、およびエアロゾル化剤を用いた処方により、肺投与もまた使用され得る。
特定の実施形態において、本発明の生産物質またはそれを含む組成物を、処置の必要な領域(例えば、中枢神経、脳など)に局所的に投与することが望まれ得る;これは、制限する目的ではないが、例えば、手術中の局部注入、局所適用(例えば、手術後の創傷包帯と組み合わせて)により、注射により、カテーテルにより、坐剤により、またはインプラント(このインプラントは、シアラスティック(sialastic)膜のような膜または繊維を含む、多孔性、非多孔性、または膠様材料である)により達成され得る。好ましくは、本発明の抗体を含むタンパク質を投与する際、そのタンパク質が吸収されない材料を使用するために注意が払われなければならない。
別の実施形態において、本発明の生産物質は、小胞、特に、リポソーム中に封入された状態で送達され得る(Langer,Science 249:1527−1533(1990);Treatら,Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez−BeresteinおよびFidler(編),Liss,New York,353〜365頁(1989);Lopez−Berestein,同書317〜327頁を参照のこと;広く同書を参照のこと)。
さらに別の実施形態において、本発明の生産物質は、制御された徐放系中で送達され得る。1つの実施形態において、ポンプが用いられ得る(Langer(前出);Sefton,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201(1987);Buchwaldら,Surgery 88:507(1980);Saudekら,N.Engl.J.Med.321:574(1989)を参照のこと)。別の実施形態において、高分子材料が用いられ得る(Medical Applications of Controlled Release,LangerおよびWise(編),CRC Pres.,Boca Raton,Florida(1974);Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance,SmolenおよびBall(編),Wiley,New York(1984);RangerおよびPeppas,J.、Macromol.Sci.Rev.Macromol.Chem.23:61(1983)を参照のこと;Levyら,Science 228:190(1985);Duringら,Ann.Neurol.25:351(1989);Howardら,J.Neurosurg.71:105(1989)もまた参照のこと)。
さらに別の実施形態において、制御された徐放系は、治療標的、即ち、脳の近くに置かれ得、従って、全身用量の一部のみを必要とする(例えば、Goodson,Medical Applications of Controlled Release,(前出),第2巻,115〜138頁(1984)を参照のこと)。
他の制御された徐放系は、Langerにより総説において議論される(Science 249:1527−1533(1990))。
本発明の処置方法において使用される生産物質および組成物の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被験体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
本発明の生産物質などの投与量は、被験体の年齢、体重、症状または投与方法などにより異なり、特に限定されないが、通常成人1日あたり、経口投与の場合、通常には0.01mg〜10gであり、好ましくは、0.1mg〜1g、1mg〜100mg、0.1mg〜10mgなどであり得る。非経口投与の場合、0.01mg〜1gであり、好ましくは、0.01mg〜100mg、0.1mg〜100mg、1mg〜100mg、0.1mg〜10mgなどであり得る。
本明細書中、「投与する」とは、本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチドなどまたはそれを含む医薬組成物を、単独で、または他の治療剤と組み合わせて投与することを意味する。組み合わせは、例えば、混合物として同時に、別々であるが同時にもしくは並行して;または逐次的にかのいずれかで投与され得る。これは、組み合わされた薬剤が、治療混合物としてともに投与される提示を含み、そして組み合わせた薬剤が、別々であるが同時に(例えば、同じ個体へ別々の静脈ラインを通じての場合)投与される手順もまた含む。「組み合わせ」投与は、第1に与えられ、続いて第2に与えられる化合物または薬剤のうちの1つを別々に投与することをさらに含む。
本明細書において「指示書」は、本発明の医薬などを投与する方法または診断する方法などを医師、患者など投与を行う人、診断する人(患者本人であり得る)に対して記載したものである。この指示書は、本発明の診断薬、医薬などを投与する手順を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ(ウェブサイト)、電子メール)のような形態でも提供され得る。
本発明の方法による治療の終了の判断は、商業的に利用できるアッセイもしくは機器使用による標準的な臨床検査室の結果または対象となる疾患に特徴的な臨床症状の消滅によって支持され得る。治療は、対象となる疾患の再発により再開することができる。
本発明はまた、本発明の医薬組成物の1つ以上の成分を満たした1つ以上の容器を備える薬学的パックまたはキットを提供する。医薬品または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関が定めた形式の通知が、このような容器に任意に付属し得、この通知は、ヒトへの投与に対する製造、使用または販売に関する政府機関による承認を表す。
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。
1つの局面において、本発明は、生物または細胞の遺伝形質の変換速度を調節する方法を提供する。この方法は、(a)該生物または細胞の遺伝子の複製におけるエラープローン頻度を調節する工程、を包含する。ここで、エラープローン頻度の調節は、例えば、DNAポリメラーゼの校正機能を調節することによって行うことができる。あるいは、DNAポリメラーゼの重合反応において重合誤りを増加させることによっても行うことができる。そのようなエラープローン頻度の調節は、当該分野において周知の技術を用いて、本明細書の開示をもとに行うことができる。このようなエラープローン頻度の調節により、従来の変異誘発では達成でいなかった迅速な変異誘発かつ天然に近い進化という効果が奏される。また、従来の変異誘発方法において問題であった、有益変異よりもはるかに高い頻度で発生する有害変異が、UV、化学物質などの当該分野において公知の任意の変異誘発技術によってもたらされる有害変異の量よりも顕著に減少する。本発明の方法では、導入される変異は、天然において進化現象と同じ現象であるからである。
本発明の細胞または生物を進化させる方法において、エラープローン頻度を調節する工程と、得られた細胞または生物を所望の性質について選択する工程とは、別個に行うことができる。このように2つの工程を別個に行うことによって、エラープローン頻度の調節(すなわち、進化速度の調節につながる)では選択圧をかけない条件で行い、処理個体群を一定の数まで増殖させた後、改変体を選択し、固定する工程を行うことができる。このような工程を、2回目以降、同様の操作を繰り返すことにより効率的、効果的に目的とする進化した細胞または生物を得ることができる。
従来の方法では、生物または細胞の変異率を上昇させれば、有益変異の発生頻度は上昇するが、同時に有害変異もまた発生し、通常は有害変異の発生頻度が高いことから有益変異の発生頻度は、UV、化学物質などの当該分野において公知の任意の変異誘発技術によってもたらされる有害変異の量よりも顕著に減少する。したがって、従来の方法では、有害変異を、UV、化学物質などの当該分野において公知の任意の変異誘発技術によってもたらされる有害変異の量よりも顕著に減少させつつ、複数の有益変異を生物または細胞に誘発することは不可能であった。
また、従来の変異方法では、天然の変異を利用する場合は、発生頻度が極めて低い(例えば、大腸菌等では10−10変異(1塩基あたり1複製あたり))であることから、その速度はほとんど実用性に乏しい。また、有益変異は、天然の変異においてほとんど発生しない。したがって、天然の変異を利用した育種は、大きな生物集団と、長い時間が必要となる。本発明の方法は、天然の方法とは異なり、生物集団としては小さな集団のみで十分であり、時間も一世代〜数世代程度しか必要ではなく、その効果は絶大である。
また、部位特異的変異誘発は、決められた変異しか誘発することができず、確実性という点では優れているが、大規模な変異誘発には向いておらず、変異の性質は、生物全体に及ぶものではないことから、必ずしも有益変異とはいえない。従って、天然の進化をまねたものとはいえず、いわゆる遺伝子組み換えによる有害効果が伴うという欠点が存在する。本発明は、結果得られるものがそのような人為的変異誘発ではなく、天然に得られるものと同じであるという特性がある。
他の変異誘発法として、放射線、変異原物質などを用いる方法は、天然の変異と比べて高い頻度で変異を発生させることが可能であるが、有効な線量で放射線を照射した細胞、有効な濃度で変異原物質処理を施した細胞のほとんどが死滅する。すなわち、有害変異が致死量に達することを意味する。また、このような変異原を用いる方法では、有害変異を伴わずに変異誘発することは不可能である。本発明の方法は、このような方法に比べて、有害変異がUV、化学物質などの当該分野において公知の任意の変異誘発技術によってもたらされる有害変異の量よりも顕著に減少する、生物集団としては小さな集団のみで十分であり、時間も一世代〜数世代程度しか必要ではないという効果を有する。
本発明のディスパリティ理論を利用した遺伝形質の変換速度の調節法では、校正機能が調節されたDNAポリメラーゼなどを利用することによって、二本鎖ゲノムDNAの一方の鎖に他方の鎖よりも多く変異が導入される。本発明では、有害変異の蓄積を避けて、複数の有益変異を蓄積することが本発明において初めて実験レベルで実証された。従って、本発明は、理論では変異が多数導入されることが予測されていたものの、その変異にともなってその生物の正常な成長(代謝など)が保たれないとの予測を覆すという意味で画期的な発明といえる。特に、真核生物は、複数の両方向性の複製開始点を有する。ゲノムDNAに両方向性の複製開始点があるとき、ディスパリティ法では、有害変異の蓄積を避けて、複数の有益変異を蓄積することはできない。このような真核生物においても、本発明の方法において、有害変異の蓄積を避けて、複数の有益変異を蓄積することが実証された。
好ましい実施形態では、ラギング鎖およびリーディング鎖の一方のみに機能する、校正機能が変化したDNAポリメラーゼを導入することが有利であり得る。
本発明によって達成される良い育種とは、高速な生物進化を実現することであると考えられる。高速な生物進化には、通常、集団の大きな遺伝的多様性と同時に、有益な変異型の安定な増幅が必要である。安定な増幅は、正確なDNA複製によって達成され、同時に、遺伝的多様性は、DNA複製のエラーによって生じる変異によって達成される。
本発明がもたらす効果は、真核生物においてもまた、高速な進化を達成することができた点にある。真核生物は、明確な核構造を持ち、ゲノムが複数の染色体から構成されているという点で大腸菌とは異なる。従って、本発明は、従来技術からは予測できない効果を奏するといえる。また、仮に大腸菌での進化速度の調節ができたとしても、真核生物およびグラム陽性細菌については、本明細書の実施例に実証されるまでは予測できなかったといえる。
特定の実施形態では、遺伝子の複製を担う因子には、少なくとも2種類のエラープローン頻度の因子が存在する。この2種類のエラープローン頻度の因子は、好ましくはDNAポリメラーゼであり、これらのDNAポリメラーゼは異なるエラープローン頻度を有する。特定の実施形態では、エラープローン頻度の因子は、エラープローン頻度が少ない因子が少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約20%、さらに好ましくは少なくとも約15%存在することが有利であり得る。この特徴により、劇的な進化を伴う変異体が生じる可能性が高まりつつ、一方で安定な複製を行うことが可能となるからである。
別の好ましい実施形態では、本発明において用いられる遺伝子の複製を担う因子(例えば、DNAポリメラーゼなど)は、エラープローン頻度が不均一であることが有利である。不均一のエラープローン頻度を有することにより、進化速度が従来に増して増大し、しかも、エラー閾値の上限がなくなるという効果が奏される。
好ましい実施形態において、エラープローン頻度が少ない因子は実質的にエラーフリーであるが、それに限定されず、1ゲノムあたりに実質的にエラーが生じない程度のエラープローン頻度であれば好ましく用いられ得る。
従って、好ましい実施形態では、少なくとも2つのエラープローン頻度の相違は、通常、頻度が少なくとも101異なることを特徴とし、好ましくは、頻度が少なくとも102異なることを特徴とし、さらに好ましくは、頻度が少なくとも103異なることを特徴とすることが有利である。このような頻度の相違を有することによって、進化速度をより効率よく調節することができる。
1つの実施形態において、本発明の方法におけるエラープローン頻度を調節する工程は、生物のDNAポリメラーゼのエラープローン頻度を調節することを包含する。対象となる生物中のDNAポリメラーゼのエラープローン頻度の調節は、生物中に存在するDNAポリメラーゼを直接改変するか、あるいは、エラープローン頻度が変化するように改変したDNAポリメラーゼを生体外から導入することによって行われ得る。このようなDNAポリメラーゼの改変は、当該分野において周知の分子生物学における技術などを用いて行い得る。そのような技術は、本明細書において他の場所において記載したとおりである。DNAポリメラーゼの直接の改変は、例えば、すでに変異が導入されているその生物の株を掛け合わせることを利用する方法などが挙げられるがそれに限定されない。
別の実施形態において、DNAポリメラーゼは、校正機能を有する。対象となる生物中には、通常校正機能を有するDNAポリメラーゼが存在する。そのような校正機能を有するDNAポリメラーゼとしては、例えば、DNAポリメラーゼδおよびDNAポリメラーゼε、DnaQ、DNAポリメラーゼβ、θ、λ(修復機能を持つもの)が挙げられるがそれらに限定されない。DNAポリメラーゼの校正機能の調節は、生物中に存在するDNAポリメラーゼを直接改変するか、あるいは、校正機能が変化するように改変したDNAポリメラーゼを生体外から導入することによって行われ得る。このようなDNAポリメラーゼの改変は、当該分野において周知の分子生物学における技術などを用いて行い得る。そのような技術は、本明細書において他の場所において記載したとおりである。DNAポリメラーゼの直接の改変は、例えば、すでに校正機能を有するDNAポリメラーゼに変異が導入されているその生物の株を掛け合わせることを利用する方法などが挙げられるがそれに限定されない。好ましくは、プラスミドに改変体DNAポリメラーゼをコードする核酸分子を含ませ、このプラスミドを生物に導入することなどの一過的に発現させることが好ましい。プラスミドなどの一過的発現の特徴を利用することによって、プラスミドなどを消失させた後は、遺伝形質の変換速度の調節が必要とされなくなった後、野生型と同じ変換速度に戻すことが可能であるからである。
別の実施形態において、本発明において利用されるDNAポリメラーゼは、真核生物におけるDNAポリメラーゼδおよびDNAポリメラーゼεならびにそれに対応するDNAポリメラーゼからなる群より選択される少なくとも1つのポリメラーゼを含む。ここで、1つの別の好ましい実施形態において、本発明において利用されるDNAポリメラーゼは、真核生物におけるDNAポリメラーゼδおよびDNAポリメラーゼεならびにそれに対応するDNAポリメラーゼからなる群より選択される一方のみが改変の対象とされることが有利であり得る。一方のみのエラープローン頻度を調節することによって、一度現れた遺伝子型(野生型も含まれる)が保存される;高い変異率が許容され得る;ゲノムにおいて、広領域(遺伝子群)の改良が可能となること;形質の元本保証と多様性拡大の実現が可能となること;進化が従来にない速度へと加速され得ること;変異形質が安定であるという性質という効果が得られるからである。
別の実施形態において、本発明におけるエラープローン頻度の調節は、真核生物におけるDNAポリメラーゼδおよびDNAポリメラーゼεならびにそれに対応するDNAポリメラーゼからなる群より選択される少なくとも1つのポリメラーゼの校正活性を調節することを包含する。このような校正活性の調節は、このようなポリメラーゼの3’→5’エキソヌクレアーゼ活性中心(あるいは、ExoIモチーフ、校正機能活性部位)(例えば、ヒトDNAポリメラーゼδでは316番目のアスパラギン酸および318番目のグルタミン酸ならびにその周辺部位)の改変が挙げられるがそれらに限定されない。
本発明の好ましい実施形態において、このようなエラープローン頻度の調節は、エラープローン頻度を野生型よりも上げることを包含する。エラープローン頻度を野生型よりも上昇させることによって、生物にとって有害な効果を伴わずに、生物の遺伝形質変換速度すなわち進化速度が上昇した。このような効果は、従来予測されておらず、本発明は、優れた効果を奏するといえる。
別の好ましい実施形態において、本発明において用いられるDNAポリメラーゼの校正機能は、野生型のものよりも低い。そのようなDNAポリメラーゼは、天然に存在するものを利用してもよいし、本明細書においてすでに述べたようにDNAポリメラーゼを改変することによって達成してもよい。
1つの実施形態において、本発明において用いられる(改変型)DNAポリメラーゼの校正機能は、野生型DNAポリメラーゼよりも少なくとも1塩基多い(ミスマッチが少なくとも1つ多い)変異が含まれるように校正する機能であることが有利である。野生型DNAポリメラーゼよりも少なくとも1塩基多い変異が含まれることによって、生物にとって有害な効果を伴わずに、生物の遺伝形質変換速度すなわち進化速度が上昇した。このような遺伝形質変換速度は、野生型DNAポリメラーゼがもたらすものより生じる変異の塩基数が多い方が速い傾向がある。従って、変換速度を上げる場合は、校正機能をさらに低下させることが好ましい。このような校正機能をアッセイする方法は、当該分野において公知であり、例えば、対象となるDNAポリメラーゼを適切なアッセイ系(複製産物の塩基配列決定による判定;校正活性の測定による判定)において用いて得られる生成物を例えば、直接または間接的に配列決定する(例えば、配列決定機によるかあるいはDNAチップを用いる)ことによって判定することができる。
別の好ましい実施形態において、本発明において用いられるDNAポリメラーゼの校正機能は、少なくとも1つの塩基のミスマッチ変異が含まれるように校正する機能であることが有利である。野生型のDNAポリメラーゼは通常、結果として得られる生成物における塩基配列に変異は含まれていないことが多い。従って、そのような場合、本発明において用いられるDNAポリメラーゼの改変体は、少なくとも1つの塩基のミスマッチ変異を含ませるように校正機能が低下していることが必要であり得る。そのような校正機能もまた、上述のアッセイ系を用いて測定することができる。より好ましくは、本発明において利用されるDNAポリメラーゼの校正機能は、少なくとも2つのミスマッチ塩基の変異が含まれるように校正する機能であり、さらに好ましくは、少なくとも3つの、4つの、5つの、6つの、7つの、8つの、9つの、10のミスマッチ塩基の変異が含まれるように校正する機能であり、なおさらに好ましくは、少なくとも15の、20の、25の、50の、100のミスマッチ塩基の変異が含まれるように校正する機能であり得る。校正機能が低下し含まれる塩基配列の変異がより多くなるほど、生物の遺伝形質変換速度すなわち進化速度がより速くなると考えられる。
別の実施形態において、本発明において利用されるDNAポリメラーゼの校正機能は、10−6の割合で塩基配列の変異が含まれるように校正する機能である。通常、天然に存在する生物は、10−12〜10−8の割合で変異を誘発することから、本発明では、このように有意に校正機能が低下したDNAポリメラーゼを使用することが好ましい。より好ましくは、本発明のDNAポリメラーゼの校正機能は、10−3の割合で塩基配列の変異が含まれるように校正する機能であり、さらに好ましくは、本発明のDNAポリメラーゼの校正機能は、10−2の割合で塩基配列の変異が含まれるように校正する機能であることが有利であり得る。校正機能が低下し生成する塩基配列の変異頻度が多くなるほど、生物の遺伝形質変換速度すなわち進化速度がより速くなると考えられる。
ある実施形態において、本発明が対象とする生物は、真核生物であり得る。真核生物は、大腸菌とは異なり、校正機能が付与されるメカニズムが全く異なる。従って、進化速度を論じる場合にも大腸菌をモデルにした場合とは全く異なる説明が必要であり、本発明では、予想外にも、真核生物を含むすべての生物において、生物の遺伝形質の変換速度すなわち進化速度を調節することが可能であるということが実証された。従って、本発明は、従来技術からは予測不可能であった効果を奏するといえる。特に、真核生物において進化速度調節が可能となったことによって、進化の機構解明;ゲノムと形質との関係の解明;動物および植物を含む種々の高等生物の改良;現存生物の進化能力の検索;未来生物の予測;モデル疾患動物の作製などの種々の適用が達成された。本発明が対象とする真核生物は、特に限定されないが、例えば、酵母のような単細胞生物、動物および植物のような多細胞生物が挙げられるがそれらに限定されない。そのような生物の例としては、例えば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、哺乳綱(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)、鳥綱、爬虫綱、両生綱、魚綱、昆虫綱、蠕虫綱、双子葉植物、単子葉植物(例えば、コムギ、トウモロコシ、イネ、オオムギ、ソルガムなどのイネ科植物)、シダ植物、コケ類、真菌類、藍藻類などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、本発明が対象とする生物は、多細胞生物であり得る。別の好ましい実施形態では、本発明が対象とする生物は、単細胞生物であり得る。他の好ましい実施形態では、本発明が対象とする生物は、動物、植物、真菌または酵母であり得る。1つのより好ましい実施形態では、本発明が対象とする生物は、哺乳動物であり得るがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明において使用される生物または細胞は、天然において少なくとも2種類のポリメラーゼを有する生物または細胞である。少なくとも2種類のポリメラーゼが存在することにより、不均一なエラープローン頻度の環境を提供しやすいからである。より好ましくは、生物または細胞は、天然において少なくとも2種類のポリメラーゼを有し、そのエラープローン頻度が互いに異なる生物または細胞であることが有利である。そのような生物または細胞は、改変生物または改変細胞を提供するために使用することができるからである。
1つの好ましい実施形態において、本発明の方法によって得られた改変生物または改変細胞は、所望の形質の変換後も、野生型と実質的に同じ成長を示す。このような性質は、本発明がもたらす、有害効果を伴わない遺伝形質の変換速度の調節によって初めて得られるものである。このような性質は、従来の変異誘発方法では達成不可能な特徴であり、このような性質もまた、本発明がもたらす有利な効果といえる。このように野生型と実質的に同じ成長を示すという特徴を有することによって、野生型と同じように扱うことができる。
別の実施形態において、本発明の方法によって改変された生物または細胞は、その生物または細胞が改変前において(すなわち野生型において)耐性を有していなかった環境に対する耐性を示すこともまた1つの特徴であり得る。そのような環境としては、例えば、温度、湿度、pH、塩濃度、栄養、金属、ガス、有機溶媒、圧力、気圧、粘性、流速、光度、光波長、電磁波、放射線、重力、張力、音波、対象となる生物または細胞とは異なる他の生物または細胞(例えば、寄生虫)、化学薬品、抗生物質、天然物、精神的ストレスおよび物理的ストレスからなる群より選択される少なくとも1つの因子またはそれらの任意の組み合わせをパラメータとして包含する。したがって、このようなパラメータは、任意の組み合わせを用いることができ、その組み合わせの数は、2つ以上の因子を任意に選択することができる。
ここで、温度としては、例えば、高温、低温、超高温(例えば、95℃など)、超低温(例えば、−80℃など)、150〜−270℃のような広汎な温度が挙げられるがそれらに限定されない。
湿度としては、例えば、相対湿度100%、相対湿度0%など0〜100%の間の任意の点が挙げられるがそれらに限定されない。
pHとしては、例えば、0〜14の任意の点が挙げられるがそれらに限定されない。
塩濃度としては、例えば、NaCl濃度(3%など)、他の塩の塩濃度0〜100%のうちの任意の点が挙げられるがそれらに限定されない。
栄養としては、例えば、タンパク質、グルコース、脂質、ビタミン、無機塩等が挙げられるがそれらに限定されない。
金属としては、例えば、重金属(例えば、水銀、カドミウムなど)、鉛、金、ウラン、銀が挙げられるがそれらに限定されない。
ガスとしては、例えば、酸素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、一酸化窒素、およびそれらの混合物などが挙げられるがそれらに限定されない。
有機溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、キシレン、プロパノールなどが挙げられるがそれらに限定されない。
圧力としては、例えば、0〜10トン/cm2の任意の点などが挙げられるがそれらに限定されない。
気圧としては、例えば、0〜100気圧の任意の点などが挙げられるがそれらに限定されない。
粘性としては、例えば、水、グリセロールなど任意の流体またはそれらの混合物中の粘性が挙げられるがそれらに限定されない。
流速としては、例えば、0〜光速の任意の点などが挙げられるがそれらに限定されない。
光度としては、例えば、暗黒〜太陽光の間の一点などが挙げられるがそれらに限定されない。
光波長としては、例えば、可視光線、紫外線(UV−A、UV−B、UV−Cなど)、赤外線(遠赤外線、近赤外線など)などの任意の波長が挙げられるがそれらに限定されない。
電磁波としては、任意の波長のものが挙げられる。
放射線としては、任意の強度のものが挙げられる。
重力としては、地球上の任意の重力または無重力〜地球上の重力の間の1点、あるいは地球上の重力以上の任意の一点が挙げられるがそれらに限定されない。
張力としては、任意の強度のものが挙げられる。
音波としては、任意の強度および波長のものが挙げられる
対象となる生物とは異なる他の生物としては、例えば、寄生虫、病原菌、昆虫、線虫が挙げられるがそれらに限定されない。
化学薬品としては、例えば、塩酸、硫酸、苛性ソーダが挙げられるがそれらに限定されない。
抗生物質としては、例えば、ペニシリン、カナマイシン、ストレプトマイシン、キノリン等が挙げられるがそれらに限定されない。
天然物としては、例えば、ふぐ毒、蛇毒、アルカロイド等が挙げられるがそれらに限定されない。
精神的ストレスとしては、例えば、飢餓、密度、閉所、高所が挙げられるがそれらに限定されない。
物理的ストレスとしては、例えば、振動、騒音、電気、衝撃が挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態では、本発明の方法が対象とする生物または細胞は、がん細胞を有する。本発明の方法によって達成されるがんモデル生物または細胞は、従来の方法とは異なり、天然に生じるがんと同じメカニズムで生じることから、真の意味でのがんモデル生物または細胞であると見なすことができる。従って、このようなモデル生物または細胞は、医薬品の開発に特に有用である。
別の局面において、本発明は、遺伝形質が調節された生物または細胞を生産する方法を提供する。この方法は、(a)生物または細胞の遺伝子の複製におけるエラープローン頻度を調節または変化させる工程;および(b)得られた生物または細胞を再生産する工程、を包含する。ここで、遺伝形質の変換速度の調節に関連する技術は、上述のものを利用することができる。従って、生物または細胞の遺伝子の複製におけるエラープローン頻度を変化させる工程は、本明細書において上述の技術を利用することができる。ここでエラープローン頻度を調節する工程、使用される生物または細胞は、上述の生物または細胞の遺伝形質の変換速度を調節する方法において述べたものがそのまま適用され得る。
得られた生物または細胞を再生産する工程もまた、いったん遺伝形質が調節された生物または細胞が得られたならば、当該分野において公知のどのような方法を用いて行ってもよい。そのような再生産の技術としては、例えば、生殖、繁殖など天然現象によるもの、クローン技術などの人工技術、植物培養細胞からの個体再生産などによるものが包含されるがそれらに限定されない。そのような技術を使用したかどうかは、例えば、塩基配列決定による確認、抗原性等の同定、ベクターを用いる場合のベクター検出、形質の後戻り実験、高変異と非障害性との両立をみることによって確認することができる。このような実験は、当該分野において公知であり、本明細書の記載に基づいて当業者は容易に実施することができる。
好ましい実施形態では、本発明の生物または細胞の再生産方法では、再生産した生物または細胞のうち、所望の形質を有する個体を選択する工程をさらに包含する。このような所望の形質を有する個体の選択は、生物または細胞の遺伝形質(例えば、上記種々の環境に対する耐性など)で行ってもよいし、遺伝子レベルで行ってもよいし、代謝物レベルで行ってもよい。そのような選択の確認には、種々の技術を用いることができ、例えば、肉眼による観察、配列決定、種々の生化学試験、顕微鏡観察、染色、免疫反応、行動解析などが挙げられるがそれらに限定されない。このような実験は、当該分野において公知であり、本明細書の記載に基づいて当業者は容易に実施することができる。
別の局面において、本発明は、本発明によって生産された、遺伝形質が調節された生物または細胞を提供する。このような生物または細胞は、従来の技術では達成され得なかった進化速度によって得られる生物または細胞であることから、その生物または細胞の存在自体が新規であることは明らかである。そのような生物または細胞の特徴としては、例えば、高変異と非障害性との両立;SNPs(一塩基置換)の分布に偏りがある;同じゲノム領域でも、個体によって変異の蓄積の仕方が異なる傾向を示す(特に選択圧のかからない領域において著しい;同一個体のゲノムの特定領域(特に冗長な部分)の変異の分布はランダムではなく、著しい偏りを示す、などの特異的な特徴が挙げられるがそれらに限定されない。本発明の生物または細胞は、好ましくは、野生型と実質的に同じ成長を示す。急激な変異誘発を受けた生物または細胞は、通常野生型と同じ成長を示すことはあり得ない。しかし、本発明で得られる生物または細胞は、野生型と実質的に同じ成長を示すことが可能である。従って、本発明は、そのような意味でも優れた効果を奏する。このような性質を確認する実験は、当該分野において公知であり、本明細書の記載に基づいて当業者は容易に実施することができる。
別の局面において、本発明は、遺伝形質が調節された遺伝子をコードする核酸分子を生産する方法を提供する。この方法は、(a)生物または細胞の遺伝子の複製におけるエラープローン頻度を変化させる工程;(b)得られた該生物または細胞を再生産する工程;(c)該生物または細胞において変異を同定する工程;および(d)同定された変異を含む遺伝子をコードする核酸分子を生産する工程、を包含する。ここで、エラープローン頻度の変化および得られた生物または細胞の再生産に関する技術は、本明細書において上述したとおりであり、当業者は適宜本明細書の記載に従って、その実施形態を選択し本発明実施することができる。
生物または細胞における変異の同定もまた、当該分野において周知の技術を用いて行うことができる。そのような同定技術としては、例えば、配列決定、PCR、サザンブロッティングなどの分子生物学的技術、ウェスタンブロッティングのような免疫化学的技術、顕微鏡観察、肉眼観察など、種々の方法があるがそれらに限定されない。
同定された変異を含む遺伝子をコードする核酸分子の生産もまた、いったん変異を担う遺伝子が同定されたならば、当業者は当該分野において周知の技術を用いて行うことができる。そのような生産としては、例えば、ヌクレオチド合成機による合成、PCRなどによる半合成法などが挙げられるがそれらに限定されない。そのように合成した核酸分子が目的の配列を有するかどうかは、当該分野において周知の技術を用いて、配列決定することによってあるいはDNAチップなどの技術を用いて確認することができる。
従って、本発明はまた、本発明の方法によって生産された、核酸分子を提供する。このような核酸分子もまた、従来の技術では達成され得なかった進化速度によって得られる生物または細胞に由来する遺伝子であることから、その遺伝子をコードする核酸分子の存在自体が新規であることは明らかである。そのような核酸分子の特徴としては、例えば、SNPsの分布に偏りがある;ゲノムに変異が多く蓄積している領域とそうでない領域がモザイク状に分布する傾向を示す;同じゲノム領域でも、個体によって変異の蓄積の仕方が異なる傾向を示す(特に選択圧のかからない領域において著しい);同一個体のゲノムの特定領域(特に冗長な部分)の変異の分布はランダムではなく、著しい偏りを示すなどの特異的な特徴が挙げられるがそれらに限定されない。このような性質を確認する実験は、当該分野において公知であり、本明細書の記載に基づいて当業者は容易に実施することができる。
別の局面において、本発明は、遺伝形質が調節された遺伝子がコードするポリペプチドを生産する方法を提供する。この方法は、(a)生物または細胞の遺伝子の複製におけるエラープローン頻度を変化させる工程;(b)得られた該生物または細胞を再生産する工程;(c)該生物または細胞において変異を同定する工程;および(d)同定された変異を含む遺伝子がコードするポリペプチドを生産する工程、を包含する。ここで、エラープローン頻度の変化および得られた生物または細胞の再生産に関する技術は、本明細書において上述したとおりであり、当業者は適宜本明細書の記載に従って、その実施形態を選択し本発明実施することができる。
生物または細胞における変異の同定もまた、当該分野において周知の技術を用いて行うことができる。そのような同定技術としては、例えば、配列決定、PCR、サザンブロッティングなどの分子生物学的技術、ウェスタンブロッティングのような免疫化学的技術、顕微鏡観察、肉眼観察など、種々の方法があるがそれらに限定されない。
同定された変異を含む遺伝子がコードするポリペプチドの生産もまた、いったん変異を担う遺伝子が同定されたならば、当業者は当該分野において周知の技術を用いて行うことができる。そのような生産としては、例えば、ペプチド合成機による合成、遺伝子操作技術を用いて上記遺伝子をコードする核酸分子を合成し、その核酸分子で細胞を形質転換しその遺伝子を発現させ、発現産物を回収すること、あるいは改変された生物または細胞自体から精製することによって得る方法などが挙げられるがそれらに限定されない。そのように得られたポリペプチドが目的の配列を有するかどうかは、当該分野において周知の技術を用いて、配列決定することによってあるいはプロテインチップなどの技術を用いて確認することができる。
別の局面において、本発明は、本発明の方法によって生産された、ポリペプチドを提供する。このようなポリペプチドもまた、従来の技術では達成され得なかった進化速度によって得られる生物または細胞に由来する遺伝子がコードするものであることから、その遺伝子がコードするポリペプチドの存在自体が新規であることは明らかである。そのようなポリペプチドの特徴としては、例えば、SNPsの分布に偏りがある;ゲノムに変異が多く蓄積している領域とそうでない領域がモザイク状に分布する傾向を示す;同じゲノム領域でも、個体によって変異の蓄積の仕方が異なる傾向を示す(特に選択圧のかからない領域において著しい;同一個体の精子のゲノムの特定領域(特に冗長な部分)の変異の分布はランダムではなく、著しい偏りを示すなどという遺伝形質を反映したアミノ酸配列となっているポリペプチドとしての顕著な特徴が挙げられるがそれらに限定されない。このような性質を確認する実験は、当該分野において公知であり、本明細書の記載に基づいて当業者は容易に実施することができる。
別の局面において、本発明は、遺伝形質が調節された生物または細胞の代謝物を生産する方法を提供する。この方法は、(a)生物または細胞の遺伝子の複製におけるエラープローン頻度を変化させる工程;(b)得られた該生物または細胞を再生産する工程;(c)該生物または細胞において変異を同定する工程;および(d)同定された変異を含む代謝物を生産する工程、を包含する。ここで、エラープローン頻度の変化および得られた生物または細胞の再生産に関する技術は、本明細書において上述したとおりであり、当業者は適宜本明細書の記載に従って、その実施形態を選択し本発明実施することができる。
ここで、本明細書において「代謝物」とは、細胞において細胞の生存活動(代謝)によって得られる分子をいう。そのような代謝物としては、例えば、アミノ酸、脂肪酸およびその誘導体、ステロイド、単糖、プリン、ピリミジン、ヌクレオチド、核酸、タンパク質などの化合物が挙げられるがそれらに限定されない。また、これらの高分子化合物を加水分解により分解して得られる物質、炭水化物または脂肪酸を酸化して得られる物質なども代謝物という。代謝物は、細胞内に存在することもあり、細胞外に排出されることもある。
本発明の方法において、生物または細胞における変異の同定もまた、当該分野において周知の技術を用いて行うことができる。そのような同定技術としては、例えば、代謝物の同定(成分分析など)、配列決定、PCR、サザンブロッティングなどの分子生物学的技術、ウェスタンブロッティングのような免疫化学的技術、顕微鏡観察、肉眼観察など、種々の方法があるがそれらに限定されない。代謝物の同定技術は、代謝物に応じて当業者が適宜選択することができる。
別の局面において、本発明は、本発明の方法によって生産された代謝物を提供する。このような代謝物もまた、従来の技術では達成され得なかった進化速度によって得られる生物または細胞に由来するものであることから、その代謝物の存在自体が新規であることは明らかである。そのような代謝物の特徴としては、例えば、自己に対して毒性を及ぼしにくい;未来の代謝物を先取りしているなどの特徴が挙げられるがそれらに限定されない。このような性質を確認する実験は、当該分野において公知であり、本明細書の記載に基づいて当業者は容易に実施することができる。
別の局面において、本発明は、生物または細胞の遺伝形質を調節するための核酸分子を提供する。この該核酸分子は、エラープローン頻度を調節されたDNAポリメラーゼをコードする核酸配列を含む。このようなDNAポリメラーゼは、真核生物におけるDNAポリメラーゼδおよびDNAポリメラーゼεならびにそれに対応するDNAポリメラーゼからなる群より選択される少なくとも1つのポリメラーゼにおいて、校正活性が調節されたDNAポリメラーゼであってもよい。このような校正活性の調節は、このようなポリメラーゼの3’→5’エキソヌクレアーゼ活性中心(あるいは、ExoIモチーフ、校正機能活性部位)(例えば、ヒトDNAポリメラーゼδでは316番目のアスパラギン酸および318番目のグルタミン酸ならびにその周辺部位)の改変が挙げられるがそれらに限定されない。
好ましくは、本発明の核酸分子に含まれるDNAポリメラーゼをコードする配列は、DNAポリメラーゼδまたはεをコードすることが有利である。このようなDNAポリメラーゼは、校正機能を天然に有しているからであり、そのような機能を改変することが比較的容易であるからである。
別の局面において、本発明は、本発明の生物または細胞の遺伝形質を調節するための核酸分子を含む、ベクターを提供する。このようなベクターは、プラスミドベクターであってもよい。このようなベクターは、好ましくは、プロモーター配列、エンハンサー配列などを適宜含み得る。このようなベクターは、生物または細胞の遺伝形質を調節するためのキットの構成要件として含まれ、販売されてもよい。
他の局面において、本発明は、生物または細胞の遺伝形質を調節するための核酸分子を含む、細胞を提供する。このような細胞には、本発明の核酸分子は、ベクターの形態で含まれてもよいが、必ずしもそうでなくてもよい。このような細胞は、生物または細胞の遺伝形質を調節するためのキットの構成要件として含まれ、販売されてもよい。好ましい実施形態では、この細胞は、真核生物細胞であることが有利であり得るが、それに限定されない。単に核酸分子を増幅するための目的に使用される場合は、原核生物細胞が使用されること好ましいことがあり得る。
別の局面において、本発明は、生物または細胞の遺伝形質を調節するための核酸分子を含む、生物または細胞を提供する。このような生物は、生物または細胞の遺伝形質を調節するためのキットの構成要件として含まれていてもよい。
別の局面において、本発明は、本発明の方法によって得られる生物またはその一部(例えば、臓器、組織、細胞など)が生産する、生産物質を提供する。本発明によって得られる生物またはその一部は、従来方法では得られなかった生物を提供することから、その生産物質は、新規物質を含み得る。
別の局面において、本発明は、本発明の生物または細胞を病態モデルとして使用して薬剤の効果を試験する工程、コントロールとして野生型の生物または細胞を使用して薬剤の効果を試験する工程、および病態モデルとコントロールとの対比を行う工程を包含する、薬剤の試験方法を提供する。このような病態モデルは、従来の方法では達成できなかった自然病態発生モデルであることから、それを用いた薬剤の試験方法では、従来方法で生えられなかった天然での試験に近い結果が得られ、その信頼性が高くなることになる。従って、医薬などの開発期間が有意に短縮できるという効果を奏する。あるいは、得られた結果における副作用などの有害情報の精度が高まるという効果も得られ得る。
別の局面において、本発明は、生物または細胞の遺伝形質の変換速度を調節するために使用される、少なくとも2つのポリメラーゼのセットであって、このポリメラーゼのエラープローン頻度は互いに異なる、セットに関する。このようなセットのポリメラーゼがこのような方法に使用されたことは従来なく、その用途はまさしく新しいものであるといえる。ここで、使用されるポリメラーゼは導入が予定される生物または細胞において機能するものである限り、どのようなものであってもよい。従って、2つ以上の種に由来するものであってもよいが、好ましくは同一動物種由来であることが好ましい。上述の用途に使用されるポリメラーゼは、例えば、遺伝子導入によって生物または細胞に導入され得る。
別の局面において、本発明は、遺伝形質が調節された生物または細胞を生産するために使用される、少なくとも2つのポリメラーゼのセットであって、このポリメラーゼのエラープローン頻度は互いに異なる、セットを提供する。このようなセットのポリメラーゼがこのような方法に使用されたことは従来なく、その用途はまさしく新しいものであるといえる。ここで、使用されるポリメラーゼは導入が予定される生物または細胞において機能するものである限り、どのようなものであってもよい。従って、2つ以上の種に由来するものであってもよいが、好ましくは同一動物種由来であることが好ましい。上述の用途に使用されるポリメラーゼは、例えば、遺伝子導入によって生物または細胞に導入され得る。
別の局面において、本発明は、生物または細胞の遺伝形質の変換速度を調節するための、少なくとも2つのポリメラーゼのセットの使用であって、このポリメラーゼのエラープローン頻度は互いに異なる、使用に関する。このような使用の際の、ポリメラーゼの説明は、本明細書において上述したとおりであり、かつ、以下のような実施例に記載されるように使用し、製造することができる。
別の局面において、本発明は、遺伝形質が調節された生物または細胞を生産するための、少なくとも2つのポリメラーゼのセットの使用であって、このポリメラーゼのエラープローン頻度は互いに異なる、使用に関する。このような使用の際の、ポリメラーゼの説明は、本明細書において上述したとおりであり、かつ、以下のような実施例に記載されるように使用し、製造することができる。
(ディスパリティー準種ハイブリッドモデル)
A.不均一複製精度を有する準種の変異体分布
本発明の別の局面において、ゲノムの集団からなる準種であって、各々が二進数の塩基配列長n(すなわち、2nの可能な遺伝型または配列空間)が存在すると仮定する。ここで、最高の適合性を有する配列を本明細書において「マスター配列」と呼ぶ。集団サイズは、非常に大きくかつ安定しているものを選択する。1つのテンプレート配列の複製によって、1つの直接コピー配列が生成され、そして複製誤差が1工程によって変異体に固定される。塩基の置換が生じ、配列長は一定である。配列分解は無視することができる。計算の容易のため、本発明者らは、マスター配列(I0)のすべてのi誤差変異体の合計を変異体クラスIi(i=0,1,...n)へと分類する。相対濃度の対応する合計をxiとする。すると、xiにおける変化率は、
とあらわされ、ここで、Aiは、変異体クラスIiの複製率定数(または適合性)であり、fは総濃度定数を維持し、そしてΣiAjxiである。Qiiは、Iiの完全にエラーフリーの複製による複製の精度またはIiの生成確率を表し、QijはIjの誤複製によるIiの生成確率である。
ゲノム配列はポリメラーゼで複製される。Ekとは、本明細書において異なる精度を有するp種類のポリメラーゼ(k=1、2...p)があると仮定する。Ekの相対濃度は、ckによって示される。ポリメラーゼEkの単一塩基レベルの精度は、0≦qk≦1であらわされ、塩基あたりの誤差率は1−qkである。同じポリメラーゼによって1つの配列は一貫して複製されることから、Ekのゲノムあたりの誤差率は、n(1−qk)となる。次いで、準種のゲノムあたりの平均誤差率は、nΣkck(1−qk)=mであらわされる。均一な複製精度を有するものを形質転換する場合(例えば、M.Eigen、1971前出)、以下のように計算することができる。
ここで、
である。
変異体の定常分布であるlimt→∞xi=yiは、準種である。これは、行列の固有ベクトルであるW={AjQij}で示される。図5は、均一複製精度および不均一複製精度を有する準種の例を示す。ここでは、単純な単一ピーク適合性空間を用いた。複製速度定数A0は、マスター配列に割り当てられ、すべての他の変異他クラスは同じ適合性を有するとする。
均一な複製精度を有するパリティー準種は、エラー閾値以下はマスター配列の付近に局在化する(図5(a))。誤差の閾値がm=2,3付近になると、移行は非常にシャープになり、マスター配列の濃度は10桁ほど減少する(c=0、図6)。このような現象はエラーカタストロフィーと呼ぶ。エラー閾値より高いところでは、準種の局在化は均一の分布に置き換えられる。ここではここの濃度は非常に小さい(例えば、yi=8.88×10−16)。現実の有限集団では、誤差の蓄積によりマスター配列の遺伝情報を維持することは淘汰を重ねるにつれ難しくなる。エラー閾値より低いもののみが準種の進化を可能にし、進化速度はエラー閾値の付近で最大に達するようである。
本発明のディスパリティーモデルでは、(図5b〜d)、2つの種類のポリメラーゼが存在すると仮定する。ここでは、2つの異なる精度を有すると仮定する。ポリメラーゼEiはエラーフリーであり、q1=1であり、E2は、エラープローンであり、0≦q2≦1である。ここで各々は、cおよび1−cの相対濃度で存在する。この場合、完全なエラーフリーポリメラーゼという仮定は非現実的であるように見えるが、DNAベースの微生物におけるプルーフリーディング誤差率は、非常に低く、1ゲノムあたり0.003誤差/複製であるとされ、この場合無視することができる。
エラーフリーポリメラーゼの相対濃度が低い場合、0<c<1であり、エラーの閾値は、cが増え、エラーカタストロフィーが減少するにつれより高い平均誤差率へとシフトする(図5bおよび図6)。c=0.1では、エラー閾値は消えた(図5c)。マスター配列の相対濃度は、徐々に減少し、最後には、パリティー均一分布よりも107倍高い濃度で消滅した(図6ではc=0.1)。c>0.1の場合、平均誤差率にかかわらず、マスター配列は、充分な濃度で存在する(図5dおよび6)。図6では、ccrit=0.1付近の準種動力学の劇的な変化を示す。ディスパリティ準種モデルでは、マスター配列から遠くはなれた変異体が準種局在の喪失なしに存在することができる。したがって、このことは、進化速度がエラーカタストロフィーなしに増大することができることを意味する。
B.複数の複製因子での準種についてのエラー閾値
ディスパリティーモデルについての誤差閾値を考慮して、本発明者らは、2つの困難性を見出した。(i)天然におけるゲノムサイズは大きすぎる、ウイルスでさえ103以上であり、細菌でn>106であり、これらの計算は大変である。(ii)天然のゲノム複製は、2つ以上の単位(複製因子)へと分かれており、複数のポリメラーゼが同時に関与する。複数の複製因子がエラー閾値に関与するようである。本発明者らは、ここで、マスター配列の相対平衡濃度の近似を用いてエラー閾値を算出した。
ここで、A0は、マスター配列の複製率定数であり、Ai≠0は他の変異体配列の全体の平均である。Q00は、マスター配列の完全なエラーフリー複製の複製精度である。この近似は、数1においてマスター配列に対して変異体が逆変異することを無視した結果である。正確な解への適合は、ゲノムサイズが大きくなるにつれ増大する。マスター配列の相対平衡濃度は、臨界誤差率が以下を満たした場合に消失する:
ここで、sは、マスター配列の淘汰優越性である。複数の複製因子を用いてディスパリティー0モデルに関するQ00を得るために、本発明者らは、E1およびE2という2つの種類のポリメラーゼがあると仮定し、これらはそれぞれcおよび1−cの相対濃度で存在すると仮定した。プルーフリーディングポリメラーゼは、非常に少なく無視し得た。したがって、ポリメラーゼE1は、エラーフリーであり、q1=1である。E2は、エラープローンであり、0≦q2≦1であり、ゲノムあたりの平均誤差率は以下のとおりである:
エラープローンポリメラーゼE2によってゲノムを複製する確率は、二項分布によって得られる。エラープローンポリメラーゼE2による非エラー確率は、ポアソン近似によって得られる。ここでは、ゲノムサイズは、複製因子の数に比べて非常に大きいと仮定されている。これらを乗すると、
が得られ、ここで、aは、ゲノムにおけるすべての複製因子の数である。数5および数7の方程式を組み合わせると、ディスパリティーモデルに関するエラー閾値が得られる:
図7は、種々の数の複製因子でのエラーフリーポリメラーゼの相対濃度の函数としてエラー閾値を示す。パリティーモデルでのエラー閾値はc=0であり、複製因子の数には影響を受けない。ディスパリティーモデルにおいてc>0では、エラーフリーポリメラーゼの臨界濃度で生じる特異点は
であり、これは、エラー閾値の非常にシャープな増加をもたらす。このことは、c≧ccritでは、エラー閾値が消えることを示す。ccritは、複製因子の数が増大するにつれ増大する。
許容可能な誤差率は、方程式数6および数8から得られる。
c≧ccritである場合、2つの拘束がある。(i)ゲノムサイズnは有限である。(ii)エラープローンポリメラーゼは非ゼロの精度qminを現実の生物では有する。Escherichia coliの完全なプルーフリーディングフリーのDNAポリメラーゼの誤差率は、1−qmin=10−5であるとされる。図8では、E.coliのパラメータに基づいて許容可能な誤差率の例を示す。このプロットは、形状がλ遷移に似る。s=10では、E.coliのmpmsは、1ゲノムあたり31エラー/複製となる。この誤差率は、パリティーモデルのエラー閾値(ln(s)=2.3)と比べても充分かつ有意に高い。
本発明者らは、エラーフリーのポリメラーゼおよびエラープローンのポリメラーゼが存在するディスパリティー準種ハイブリッドモデルを提供した。この結果、準種の動力学は、誤差率でのみ決定されるのではなく、ポリメラーゼの異なる精度のものの比率によっても、および/またはゲノムを変える複製因子の数によっても決定され得ることが判明した。1つの顕著な知見としては、エラーフリーおよびエラープローンのポリメラーゼの共存が伝統的なパリティーモデルに比較して準種に関するエラー閾値が劇的に上昇したということがある。このことは従来技術ではわからなかった本発明の効果であるといえる。
多くの生物は、天然では、連続的に変化する環境で生きている。これは、微生物病原体およびがん細胞で特に当てはまる。これらの細胞は、宿主の免疫系にさらされるからである。有利な変異体を見出す確率は、マスター遺伝子からのHamming距離が増大するにつれ増加する。なぜなら、変異体の数が多くなり、距離が増大するにつれ可能な候補が増えるからである。
誤差率における単なる均一な増大は、一過性とはいえ悪性の変異体がかなり増えるという欠点を有する。パリティー準種のエラー閾値が非常に小さいことから、変異体の分布範囲はマスター遺伝子から短い距離の範囲内に限られている。パリティー準種は、局所的な低いピークにとらわれており、マスター配列からはるかに離れた飛びぬけたピークへと達することがない。他方、ディスパリティー準種では、遺伝情報を失うことなく、エラー閾値を増大させることができ、マスター配列から距離が増えると、有利な変異体を生成する数が増える。このディスパリティー準種は、配列空間にわたって、長い配列を検索することができ、最終的により高いピークを見出すことができる。
エラープローンポリメラーゼの処理能力は、プルーフリーディング能を有する主要な複製ポリメラーゼよりも低いようである。複数の複製因子を伴うディスパリティーモデルは、この観察を計算に入れている。このモデルでは、エラーは、エラープローンポリメラーゼが関与する複数の複製因子にのみ集中する。エラープローン複製は、特定の遺伝子領域に限定され、この領域の誤差率は、他の遺伝子が最小に抑えられている間も非常に増大する。
したがって、本発明で提供するように、少なくとも2種類のエラープローン頻度を達成するDNAの複製因子(例えば、ポリメラーゼ)を生体内に有することによって、その生体は、従来に増して顕著に増大した進化速度を呈することができ、かつ、正常な個体を維持することができることが判明した。このような効果は、従来達成されていなかったものである。
本明細書において引用された、特許、特許出願、科学文献などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、この発明は以下の例に限定されるものではない。以下の実施例において用いられる試薬、支持体などは、例外を除き、Sigma(St.Louis,USA)、和光純薬(大阪、日本)などから市販されるものを用いた。以下において使用した動物は、日本の大学において規定される飼育規準を遵守して飼育および実験した。
(実施例1:酵母を用いた、薬剤耐性株および高温耐性株の作製)
本実施例では、真核生物の代表例として、酵母を用い本発明による不均衡変異酵母の遺伝形質の変換速度の調節を実証した。
不均衡変異の育種分野への有用性を確認するために薬剤耐性能、高温耐性能を持つ酵母の育種を行った。
校正機能の調節は、DNAポリメラーゼδおよびDNAポリメラーゼεの校正機能(Alan Morrison &,Akio Sugino,Mol.Gen.Genet.(1994)242:289−296)に変異を導入することによって行った。
(材料)
本実施例では、対象生物として酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いた。正常株として、AMY52−3D:MATα,ura3−52 leu2−1 ade2−1 his1−7 hom3−10 trp1−289 canR(大阪大学杉野教授より入手)を用いた。その作製方法は以下のとおりである。
酵母の正常株として、菌株保存センター(ATCC;American Type Culture Collection)からMYA−868(CG378)を入手した。
エラープローン頻度の調節は、DNAポリメラーゼδまたはεの校正機能の変更によって行った。校正機能の変更は、不均衡変異株(DNAポリメラーゼδまたはεの校正部分に欠失を持つ菌株)を作製することによって行った。変異株は、この正常株において、DNAポリメラーゼpolδ、polεの特定部位(Morrison.A,& Sugino.A, Mol.Gen.Genet.(1994) 242:289−296)を定法( Sambrook et al., Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版、Cold Spring Harbor Laboratory(Cold Spring Harbor,N.Y.1989)、前出)に従って、部位特異的変異誘発(site directed mutagenesis)を用いて塩基の置換を行い作製した。具体的にはpolδでは、322(D)→(A),324(E)→(A)、polεでは、291(D)→(A),293(E)→(A)へと変換した。これをDNAポリメラーゼδ変異株(AMY128−1:Pol3−01 MATα,ura3−52 leu2−1 lys1−1 ade2−1 his1−7 hom3−10 trp1−289 canR;大阪大学杉野教授より入手、DNAポリメラーゼε変異株(AMY2−6:pol2−4 MATα,ura3−52 leu2−1 lys1−1 ade2−6 his1−7 hom3−10 try1−289 canR;大阪大学杉野教授より入手)として用いたが、このような株の等価物は、部位特異的変異誘発を用いて、polδでは、322(D)→(A),324(E)→(A)、polεでは、291(D)→(A),293(E)→(A)という変異を導入することによって、当業者が製造することができることが理解される。
(方法−薬剤耐性株の作製)
上記3株を完全培地(YPD培地:10g Yeast Extract(Difco),20g BactoPepton(Difco),20g Glucose(和光))を含む寒天平板培地に撒き、単一コロニーをランダムに各5個ずつ集めた。これらをYPD液体培地3mlに植え、30℃で振蕩培養し終濃度約1×106まで増やした。
これらを、1ミリグラム/リットルのシクロヘキシミド(Sigma、St Louis、MO,USA)を含むYPD平板培地に希釈して植菌した。対照として薬剤を含まないYPD平板培地に植菌した。2日間30℃で培養し、生じたコロニー数を計数した。
(方法−高温耐性株の取得)
上記3株の単一コロニーから液体培養にて順次培養温度を上げていき馴養した。馴養は次の通りに行った。
37℃2日 → 28℃1日 → 38℃2日 → 28℃1日 → 39℃2日 → 28℃1日 → 40℃2日 → 28℃1日 最後の培養を冷蔵保存(「馴養済み培養」)。
この後、馴養を次の通りに継続して行った。
37℃2日 → 28℃1日 → 38℃2日 → 28℃1日 → 39℃2日 → 28℃1日 → 40℃2日 → 28℃1日 → 41℃2日 → 28℃1日 最後の培養を冷蔵保存(「馴養済み培養II」)。
(成長曲線の測定)
完全液体培地(YPD)中にて振蕩培養した。成長すなわち細胞密度の測定は530nmの吸光度(OD)を指標にして行った。吸光度は分光光度計(日立)を用いて測定した。正常株および薬剤変異株の成長曲線のための実験は28℃、高温耐性株の成長曲線は38.5℃にて行った。
(結果−薬剤耐性株)
薬剤を含まない培地で増殖させる間にシクロヘキシミド耐性菌がDNAポリメラーゼδおよびDNAポリメラーゼε変異株では出現したが、野生型では現れなかった。
δ変異株から得られた耐性株は、10ml/Lのシクロヘシミドまで生育することができることを観察した。
野生型、変異株の成長特性を比較したが、増殖速度に違いはなかった(表2および図1を参照)。
(結果−高温耐性株)
馴養済み培養を40℃にて2日間培養した後平面寒天培地に植菌し、38.5℃にて培養した。親株は高温ではまったく生育できないが、変異株は生育することを確認した(図3A〜B=写真)。
野生株、変異株の高温下での成長特性を比較したが、野生株では増殖の停止が確認された(表3および図2を参照)。
さらに、馴養済み培養を41℃まで継続したものを使用すると、41℃でも培養し得る変異株が生成していたことが明らかになった(図4A〜B)。
酵母は、大腸菌に代表されるグラム陰性細菌と異なる遺伝子複製機構を有することから、本発明のエラープローン頻度調節による遺伝形質の変換速度の調節をその生物の生存に影響を与えることなく行うことができるか不明であった。
本実施例により、真核生物である酵母でも、エラープローン頻度調節による遺伝形質の変換速度の調節により、その生存に影響を与えることなく、生物の遺伝形質の変換速度を調節することができることが実証された。
(実施例2:プラスミドを用いた変異導入)
本実施例では、プラスミドベクター(「不均衡変異誘導プラスミド」)を用いた真核生物への遺伝形質の変換速度の調節を実証した。
校正機能の調節は、実施例1と同様、DNAポリメラーゼδおよびDNAポリメラーゼεの校正機能(Alan Morrison,& Akio Sugino,Mol.Gen.Genet.(1994)242:289−296)に変異を導入することによって行った。
変異DNAポリメラーゼ(pol)δまたはDNAポリメラーゼεを発現するプラスミドベクターを作製した。ベクターを酵母細胞へトランスフェクトし形質転換させ、突然変異を生じさせ、シクロヘキシミド等薬剤を含む平板培地にて培養し、出現する薬剤耐性コロニーを計測した。
(材料)
本実施例では、対象生物として酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いた。正常株として、AMY52−3D:MATα,ura3−52 leu2−1 ade2−1 his1−7 hom3−10 trp1−289 canR(ATCC、前出)を用いた。エラープローン頻度の調節は、変異型DNAポリメラーゼδまたはεを野生型正常株に導入することによって行った。
変異型DNAポリメラーゼδおよびεをコードする配列は、実施例1で用いたDNAポリメラーゼδ変異株(AMY128−1:Pol3−01 MATα,ura3−52 leu2−1 lys1−1 ade2−1 his1−7 hom3−10 trp1−289 canR)、DNAポリメラーゼε変異株(AMY2−6:pol2−4 MATα,ura3−52 leu2−1 lys1−1 ade2−6 his1−7 hom3−10 try1−289 canR))から生産した。
使用したプラスミドベクターは、プロモーターとしてGalを含み、そのプロモーターに作動可能に変異型DNAポリメラーゼδまたはεをコードする核酸配列(配列番号33および35)をそれぞれ連結したものを含んだ。
(方法)
(ベクターの作製)
分子生物学に関する技術は、本質的に、Sambrook,J.,et al.,前出に基づいた。polδ、polε変異株(DNAポリメラーゼδ変異株(AMY128−1:Pol3−01 MATα,ura3−52 leu2−1 lys1−1 ade2−1 his1−7 hom3−10 trp1−289 canR)、およびDNAポリメラーゼε変異株(AMY2−6:pol2−4 MATα,ura3−52 leu2−1 lys1−1 ade2−6 his1−7 hom3−10 try1−289 canR))よりpol部位をPCR法にて増幅させpolδ、polεを回収する。pol部位の回収に使用したプライマーは、以下の配列である:
正方向(polδ(forward)):配列番号37:5’−CCCGAGCTCATGAGTGAAAAAAGATCCCTT−’3(δ)
逆方向pol3(reverse):配列番号38:5’−CCCGCGGCCGCTTACCATTTGCTTAATTGT−’3(δ)
正方向polε(forward):配列番号39:5’−CCCGAGCTCATGATGTTTGGCAAGAAAAAA−’3(ε)
逆方向pol2(reverse):配列番号40:5’−CCCGCGGCCGCTCATATGGTCAAATCAGCA−’3(ε)
このPCR産物を、GALプロモーターを持つベクターへ挿入する。
(形質転換)
このプラスミドベクターは、リン酸カルシウム法にて酵母の正常株中へトランスフェクトする。
(変異導入)
形質転換した酵母を48〜72時間ガラクトースを含む液体培地にて28℃にて振蕩培養する。
(薬剤耐性の確認)
シクロヘキシミドを含む平板培地(含ガラクトース)にて24時間、28℃にて培養。生育してきたコロニー数を計測する。
(結果)
薬剤を含まない培地で増殖させる間にシクロヘキシミド耐性菌がDNAポリメラーゼδおよびDNAポリメラーゼε変異株では出現したが、野生型では現れなかった。
(実施例3:動物としてマウスなどを用いた、変異生物の作製)
本実施例では、真核生物の代表例として、動物であるマウスを用いて不均衡変異生物の作製を行った。
ジーンターゲッテイングの技術を用いて、DNA複製校正能が不均衡な複製複合体を持つマウスを作製した。
複製校正の機能調節は、DNAポリメラーゼδ(配列番号55(核酸配列)および56(アミノ酸配列))および/またはDNAポリメラーゼε(配列番号57(核酸配列)および58(アミノ酸配列))の校正機能を調節することによって行った。変異は、polδでは、315(D)→(A),317(E)→(A)、polεでは、275(D)→(A), 277(E)→(A)とすることによって行った。
(ジーンターゲッテイング技術)
ジーンターゲティング技術は、本質的には、Yagi T.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87 :9918−9922,1990、ジーンターゲティングの最新技術 八木健編集 別冊実験医学 2000,4に従った。変異polを持つターゲッテイングベクターを用いマウスES細胞の相同組み換えを行った。
組換えES細胞をマウス初期胚へ導入し胚盤胞を形成させた。この胚盤胞を偽妊娠マウスへ移植しキメラマウスを作製した。
キメラマウスの交配を行い生殖細胞へ変異が導入されたマウスを選択し、交配をすすめ変異がホモとなる変異マウスを作製した。
本実施例では、目的の形質として、発癌を指標に選択を行った。
(手順)
(1.ES細胞の調製)
胚の内部細胞塊より調製されたマウスES細胞(熊本大学動物資源開発研究センター、熊本、日本より入手可能)を、フィーダー細胞(マウス胎仔線維芽細胞;大阪大学八木教授より入手)を用いて、培地としてDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)へウシ胎仔血清を20〜30%加えたものを用いて、5%CO2中で37℃下にて行った。
フィーダー細胞の調製は、ジーンターゲットの最新技術 八木健編集 別冊実験医学 2000,4に従って、マウス胎仔線維芽細胞から初代培養することによって得た。
(2.ターゲッテイングベクターによるpol遺伝子の相同組換え)
ターゲッテイングベクターは、相同組換えをおこしたES細胞を効率よく得るため、ポジティブ・ネガティブ法(Evans,MJ,Kaufman,MH,Nature,292,154−156 (1981))に基づいたベクターを作製した(Capecchi,MR,Science 244:1288−1292(1989))。
ターゲティングベクターの作製:ターゲティングベクターの作製は、Molecular Cloning,2nd edition, Sambrook,J.et al、前出、およびAusubel,F.M.Current Protocols in Molecular Biology,Green Publishing Associates and Wiley−Interscience,NY,1987前出に記載される技術に基づいた。
ターゲッテイングベクターは、変異polδ および/またはpol ε 遺伝子をポジティブ遺伝子とネガティブ遺伝子との間に挟んだ。ポジティブ遺伝子としてはネオマイシン耐性遺伝子を用い、ネガティブ遺伝子としてはジフテリアテキシンを用いた。
Pol変異としては、polδおよびpolεの双方ともに校正活性部位(配列番号55および56(δ)、配列番号57および58(ε);polδでは、315(D)→(A),317(E)→(A)、polεでは、275(D)→(A),277(E)→(A))へ1塩基変異を導入し活性を欠失しておいた(Morrison.A,and Sugino A.Mol.Gen.Genet.242:289−296,1994;Goldsby R.E.et al.Pro.Natl.Acad.Sci.USA,99 :15560−15565,2002)。
(3.ES細胞へのベクターの導入)
エレクトロポーレーション法を用いてベクターをES細胞へ導入した。培養はG418(Sigma,St Louis,MO,USA)を含む培地(DMEM(Flow Laboratory)にて行った。
(4.組換えES細胞の回収)
G418存在下での培養の後、出現したコロニーをプレート(DMEM培地,Flow Laboratory)へ移した。
(5.相同組換え体の確認)
ES細胞より、ゲノムDNAを抽出して、変異polが目的のとおり導入されているか、サザンブロット法および/またはPCR法により確認した。
(6.キメラマウスの作製−組換えES細胞の胚への導入)
マイクロインジェクション法を用いて上述のように調製された組み換え細胞を胚盤胞へ導入する。ジーンターゲティングの最新技術 八木健編集 別冊実験医学 2000,4に記載の常法に従って、胚盤胞としてはES細胞とは毛色の違うホストマウス胚を選択する。
(7.キメラマウスの作製−偽妊娠マウスへの胚移植)
ES細胞が129系マウス由来の場合はC57BL/6マウスの胚盤胞内に注入し、ES細胞がTT−2細胞の場合はICRマウスの8細胞期胚に注入し偽妊娠マウスを作製する。ES細胞を注入したマウス胚は仮親の子宮内または卵管内へそれぞれ移植を行ってキメラマウスを誕生させる。
(8.キメラマウスの作製−マウス掛け合わせ)
キメラマウスの掛け合わせを行い、変異polが目的どおり生殖細胞へ導入されたことをPCR法および/またはDNA配列決定等にて確認した。さらに掛け合わせを進めホモ変異polを持つマウスを作製する。
(結果)
本実施例で作製されたマウスおよび改変後の細胞について、発癌しているマウスを選択したところ、所望のとおり、従来技術に比べて比較にならない程度の速度で癌を自然に発生したモデルが提供されることがわかる。また、改変後の細胞は、増殖は自然とほぼ同様であるのに対して、その変異率は、1回に2個以上の程度で、従来の変異で得られる変異率とは顕著に異なることがわかる。
(別の形質)
同様の実験を行い、糖尿病、高血圧、動脈硬化、肥満、痴呆、神経障害等についての選択を行ったところ、同様に発症速度が極度に高まっているが、それぞれの症状を自然に発生したモデルを提供することができる。従って、本発明の方法は、動物においても適用可能であることが判明する。
(別の動物)
次に、同様の実験を、ラットをモデルとして行った。ラットについても同様にpol δ(配列番号60のアミノ酸配列において315位および317位のDおよびEをアラニンにする)に変異を入れることによって、発癌モデルを迅速に作製することができる。
(実施例4:別の手順を用いた変異生物の作製)
次に、別のマウスモデルを用いて、変異生物が作製され得るかどうかを実証した。以下にその手順を示す。
(材料および方法)
<Pold1のcDNAの調製>
生後4週齢のC57BL/6マウス(日本チャールス・リバー)の精巣よりTRIzol Reagent(Invitrogen)を用いることにより、mRNAを抽出した。抽出したmRNAよりSuperScript III(Invitrogen)とOligo−dTプライマーとを利用することで逆転写反応を行いマウス精巣の全cDNAを作製した。作製した全cDNAよりKozak配列を含むように設計されたPold1遺伝子(配列番号86(核酸配列)および配列番号87(アミノ酸配列))の5’末端側プライマーSpeI−5’Pold1(GACTAGTGGCTATCTTGTGGCGGGAA)(配列番号67)および3’末端側プライマーEcoRI−3’Pold1(GGAATTCCTTGTCCCGTGTCAGGTCA)(配列番号68)を用いたPCR法によってPold1遺伝子のcDNA断片の増幅を行った。このようにして野生型のPold1のcDNAを得た。このcDNAにPold1遺伝子の3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を欠失させるための変異(D400A)(配列番号88(核酸配列)および配列番号89(アミノ酸配列))を導入した。そのために変異導入用プライマー配列(CAGAACTTTGCCCTCCCATACCTC)(配列番号69)およびこれと相補的なプライマーを用いてPCR連結(ligation)反応を行うことで、変異型のPold1のcDNA作成をした。これらのcDNAの配列(配列番号70)は、ABI3100 Sequencer(Applied Biosystems、CA、USA)によって全cDNAの塩基配列を読み、データベースによるものと同一の配列であることを確認した。このcDNAを用いてすべての実験を行った。野生型および変異型のPold1のcDNAの調製をするのに用いたPCR法については、すべてKOD DNAポリメラーゼ(polymerase)(TOYOBO、Osaka,Japan)を使用した。
<プロモーター配列のクローニング>
mPGK2:455−bpのmPGK2プロモーターの断片(配列番号94)は、C57BL/6マウスのゲノムDNAより、5’mPGK2−sacII プライマー(TCCCCGCGGCTGCAGAGGATTTTCCACAG)(配列番号71)と3’mPGK2−SpeIプライマー(GGACTAGTATGGTATGCACAACAGCCTC)(配列番号72)を利用してPCR法を行うことによりクローニングを行った。PCR法にはKOD DNAポリメラーゼ(TOYOBO、Osaka,Japan)を使用した。
Fthl17:5725−bpのFthl17遺伝子の上流配列のDNA断片(配列番号95)は、5’Fthl17−sacIIプライマー(TCCCCGCGGAGTGGTTGTGGGAGACTTAC)(配列番号73)および3’Fthl17−SpeIプライマー(GGACTAGTCAGTCCCACAGTCCCAAAGT)(配列番号74)を利用することでクローニングを行った。PCR法には、LA Taqポリメラーゼ(polymerase)(TaKaRa)を利用し、その緩衝液にはGC緩衝液(製造業者が提供)を使用した。
<トランスジェニックマウスの作製>
トランスジェニックマウス作製用に調製したベクターDNA(2ng/ml)をC57BL/6マウスの受精卵の前核中にマイクロマニュピレーターを用いて注入した。遺伝子を注入した受精卵のうち翌日2細胞期に発生した胚を偽妊娠させておいた雌のICRマウスの卵管内に移植することで、トランスジェニックマウスを作製した。
<トランスジーンの有無の確認>
細かく刻んだマウスの尾をプロテイナーゼK(ナカライテスク)を含む可溶化バッファー(50mM Tris−HCl,10mM EDTA,200mM NaCl,1% SDS)に入れて55℃で一晩インキュベーションした。その後、フェノール/クロロホルムによる抽出を2回行い、エタノール沈澱を行うことでマウスのゲノムDNAを調製した。それぞれのマウスのゲノムDNAについて、トランスジェニックマウス#1については、Cre−Fプライマー(CTGAGAGTGATGAGGTTC)(配列番号75)およびCre−Rプライマー(CTAATCGCCATCTTCCAGCAG)(配列番号76)によって、トランスジェニックマウス#2については、Neo−Fプライマー(GCTCGACGTTGTCACTGAAG)(配列番号77)およびNeo−Rプライマー(CCAACGCTATGTCCTGATAG)(配列番号78)によってPCRを行い、トランスジーンの有無を判定した。ここでのPCR法は、Ex−Taqポリメラーゼ(TaKaRa、Kyoto,Japan)を用いて行った。
<免疫染色>
mPGK2(生後14週齢)とFthl17(生後13週齢)とのF0世代のトランスジェニックマウスを実験に使用した。ネンブタール((50mg/ml)=大日本製薬)によって麻酔したマウス個体を開腹させ、まず片方の精巣上体を切り取った。その後、4%パラホルムアルデヒドによって灌流固定を行い、左右2つの精巣を採取しそれを4%パラホルムアルデヒドに浸して4時間置いた。PBS(作り方(NaCl 8g,Na2HPO4 1.15g,KCL 0.2g,KH2PO4 0.2gに水を加えて1Lにする))で軽く洗った後、20%ショ糖リン酸緩衝液(0.1M リン酸(ナトリウム)バッファー(pH7.3),20%sucrose)に浸して4℃に一晩置いた。一晩置いた組織をOCT化合物((Tissue−Tek)=サクラファインテック)に浸して急冷した後、クライオスタットで5mmの厚さの切片を作成した。20%ブロッキングワン(ナカライテスク)と0.05% Tween20を含むPBSでインキュベートした。その後で、4000倍に希釈したマウス抗Cre リコンビナーゼモノクローナル抗体(MAB3120,Chemicon)とインキュベーションした。二次抗体としては、ビオチン化抗マウスIgG抗体(Vector Laboratories Inc.)を使用した。発色は、3,3−ジアミノベンジジン(diaminobenzidine=DAB)(同仁化学)および過酸化水素(ナカライテスク)を用いて行った。DABによる発色後、メチルグリーン(メルク)によって対比染色を行った。
<人工授精>
C57BL/6マウスの雌(日本チャールス・リバー)に妊馬血清ゴナドトロピン(PMSG)(CALBIOCHEM)を一匹あたり5IUとなるように腹腔内に投与した。その46〜48時間後にヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)(帝国臓器)をPMSGと同様に一匹あたり5IUとなるように腹腔内に投与した。その12時間後にマウスを頚椎脱臼によって安楽死させ、卵子塊を摘出した。摘出した卵子塊を0.3mg/mlのヒアルロニダーゼ(SIGMA)を含むM2培地に入れて10分間37℃にてインキュベーションし、未受精卵を採取した。免疫染色用に用いたmPGK2とFthl17のそれぞれのトランスジェニックマウスから灌流固定を行う前に、精巣上体を摘出し、そのうちの精巣上体尾部より精子を採取した。採取した精子は体外受精用培地のTYH培地中で37℃,5%CO2インキュベーターに置き活性化させた後に、未受精卵を含むTYH培地中に添加した。そのまま5%CO2インキュベーターに6時間静置した後、卵の洗浄を行い、胚培養用培地WMに移し翌日まで37℃,5%CO2インキュベーターにて培養をおこなった。翌日に二細胞期になったものだけを、ICR系の偽妊娠マウスの卵管内へ移植した。
<mRNAによる遺伝子発現の確認>
TRIzol Reagent(Invitrogen)を用いることにより、トランスジェニックマウス#2の尾よりmRNAを抽出した。抽出したmRNAよりSuperScript III(Invitrogen)およびOligo−dTプライマーを利用することで逆転写反応を行い得られたcDNAに対して、Neo−Fプライマー(GCTCGACGTTGTCACTGAAG)(配列番号79)およびNeo−Rプライマー(CCAACGCTATGTCCTGATAG)(配列番号80)によってPCRを行い、mRNAの発現の有無を判定した。ここでのPCR法は、Ex−Taq polymerase(TaKaRa)を用いて行った。
<Cre リコンビナーゼを用いた組み換え効率の解析>
ターゲティングベクター(図18)のうちlox66とlox71の間の領域の配列をpBluescript IIの上に作製した。作製したベクター200ngをCre reaction Buffer(BD Biosciences),1mg/ml BSA存在下、室温でCreリコンビナーゼ(BD Biosciences)と2時間反応させた。反応後は、70℃で5分間インキュベーションしてCreリコンビナーゼを失活させた。反応液を熱ショックにてコンピテント細胞に形質転換させ、LB−Ampプレート(LB培地に、1.5%のagar powder(ナカライテスク)を加え、オートクレーブ。オートクレーブ後、100μg/mLのアンピシリン(SIGMA)を加える。)に播き、翌日コロニーをピックアップした。コロニーをLB−Amp培地にて培養した後で、プラスミド抽出をおこなった。組み換わったかどうかの判定は、ABI sequencer 3100による配列決定の結果によって行った。
トランスジェニックマウスを作製する目的は、変異型Pold1を精子形成期特異的に過剰発現させることによって、進化速度を調節することができるかどうかを確認することである。
また、Creリコンビナーゼの発現を行うことにより、loxP配列を有するマウスにおいて精子形成期に特異的な発現の制御を可能とすることも考慮した。精子形成期特異的に変異型Pold1およびCreリコンビナーゼをともに発現することを可能にするトランスジェニックマウス#1と、loxP配列を利用することで組織特異的な変異型Pold1の過剰発現を可能にするトランスジェニックマウス#2の2種類のトランスジェニックマウスの作成を試みた(図9)。
(a)トランスジェニックマウス#1
トランスジェニックマウス #1は、精子形成期において特異的に変異型Pold1とCreリコンビナーゼの発現を引き起こすようなトランスジェニックマウスである。その作製においては、精子形成期に遺伝子の発現を引き起こすプロモーターの選択が重要な問題となる。DNAポリメラーゼδは、マウスの精巣では精原細胞期と精母細胞から減数分裂期の前期まで発現することが示唆されている(Dia Kamelら(1997)Biology of Reproduction 57,1367−1374)。
そこで、精原細胞期または精母細胞期の段階で発現を引き起こすプロモーターの利用を考えた。マウスホスホグリセレートキナーゼ2(mPGK2)遺伝子のプロモーターは、精母細胞での過剰発現を行いたいときにしばしば使用されるプロモーターである(Nadia A.Higgyら(1995)Dev.Genetics 16,190−200)。精子形成期に特異的な発現をひき起こすプロモーターの候補のひとつとしてmPGK2のプロモーターを利用することにした。また、mPGK2のプロモーターより精子形成の早い段階である精原細胞期において発現を促すプロモーターも利用しようと考えた。しかしながら、精原細胞期や精母細胞期に特異的な発現を示すプロモーターは、今までほとんど報告されていない。そこで、精原細胞に特異的に発現していると言われている遺伝子の上流の配列をPCR法の利用によりクローニングすることで精子形成期に特異的な新規のプロモーターを開発することにした。cDNAサブトラクション法により新たに見つけられた精原細胞に特異的な発現を示す遺伝子(P.Jeremy Wangら(2001)Nature genetics,27,422−426)のなかからフェリチン重鎖ポリペプチド様17(Ferritin heavy polypeptide−like 17=Fthl17)遺伝子を選び、その上流の約5.7kbpの配列(配列番号81)を精原細胞期に特異的な発現を示すプロモーターとして利用することとした。以上の2種類の精子形成期特異的なプロモーターを用いることで、トランスジェニックマウス#1用のベクターの作製を行った。実際に作製したベクターの概略図が図9である。変異型Pold1 遺伝子とCre リコンビナーゼをIRES(internal ribosome entry site)の配列でつなぎ、精子形成期に特異的に発現を引き起こすことが期待されるプロモーターによって、同時に両方の遺伝子の発現が行われるようなベクターを作製した。
作製したベクターDNAを受精卵前核にマイクロインジェクションすることによってトランスジェニックマウスを作製した。産まれてきたマウスのトランスジーンの有無は、Creリコンビナーゼに特異的なプライマーを用いたPCR法によって判定した(図10)。その結果、mPGK2のプロモーターを用いたものは2系統(産子数46匹中)、Fthl17の上流配列を利用したものは1系統(産子数27匹中)がトランスジェニックマウスであることが確認された。誕生したトランスジェニックマウスは、どれも外見では正常のものとの区別はつかなかった。それぞれのプロモーターの発現領域を解析するために、mPGK2(生後14週齢)およびFthl17(生後13週齢)のそれぞれのF0世代のトランスジェニックマウスの精巣を採取して、マウスの抗Creリコンビナーゼモノクローナル抗体を用いて免疫染色を行った(図11)。図11は、DABによって2次抗体の発色(黒茶色)を行い、細胞内に存在するRNAを染色するメチルグリーンで対比染色(青緑色)を行ったものである。コントロールのものも精細管の基底膜部に強い黒茶色の発色がみられる。これは一次抗体にマウスで作製した抗体を用いていることから生じるバックグラウンドである。今回の免疫染色の結果では精細管内部の黒茶色の発色が外来性のCre リコンビナーゼの発現箇所である。図11から、mPGK2のプロモーターを用いたトランスジェニックマウスとFthl17の上流配列を用いたトランスジェニックマウス、そのどちらの精巣においても精細管内にCre リコンビナーゼが発現していることが確かめられた。このことにより、Fthl17の上流配列5.7kbpの領域にも何らかのプロモーター活性を有する可能性があることが示唆された。また、Fthl17の上流配列を用いたトランスジェニックマウス精巣におけるCre リコンビナーゼの染色結果では、mPGK2のプロモーターを用いたものより発色が弱かったことから、Fthl17の上流配列がもつと思われるプロモーター活性(発現能力)はmPGK2のプロモーターと比べるとその発現能力が弱い可能性があることも示唆された。Russelらは、マウス,ラット,イヌにおいて精巣の組織学的な解析を行っており、精子形成のステージを選別する基準についてまとめている(Russell LD,Ettlin RA,Hikim APS,Cleggand ED.(1990),Histological and Histopathological Evaluation of Testis.Clearwater,FL:Cache River Press)。これに従い、今回得られた2種類のプロモーターを用いたトランスジェニックマウス#1の染色像において精子形成のどのステージの細胞に発現がみられるのかさらに解析を行った。mPGK2のプロモーターを用いたものは、主に後期精母細胞に発現がみられた(図12)。これは、従来言われていた領域とは異なる部分で発現していることになる。またFthl17の上流配列をプロモーターとして利用したものについては、精母細胞期から精原細胞期にかけて発現がみられるのが確認された(図13)。今回の染色の結果からは、精原細胞における発現については基底膜を染めるバックグラウンドとの区別が難しくその発現の有無を判定することはできなかった。
今回誕生したF0世代のmPGK2のプロモーターを用いたトランスジェニックマウスとFthl17の上流配列を用いたトランスジェニックマウスの内訳は、mPGK2(雄1,雌2),Fthl17(雄1)である。このうちのそれぞれの雄の精巣を免疫染色の試料として使用した。免疫染色に利用することにしたF0世代の雄のマウスは、生後9週齢の頃より繁殖のために交配を開始した。実際に行った交配の結果についてまとめたのが表4(A)である。
表4(A)では、腹部の膨大が確認されたものを妊娠数として数えた。mPGK2のプロモーターを用いた雄のトランスジェニックマウスでは、交配翌日に妊娠が確認されたものもあったにも関わらず、交配によって結局一匹もその子供が産まれることはなかった。さらに、免疫染色を行う際には、それぞれのトランスジェニックマウスに麻酔をかけた後、灌流固定を行う前に精巣上体を採取し、精巣上体から得られた精子を用いて人工授精を試みた(表4(B))。
どちらのマウスから採取した精子とも未授精卵の周りに集まり、今回観察したかぎりでは精子の異常はみられなかった。Fthl17の上流配列を利用したトランスジェニックマウスにおいては、人工授精を行った翌日には通常より低い割合ながら2細胞期に進むものもみられ、それを移植した仮親からの子供の出産が確認された。しかしながら、mPGK2のプロモーターを用いたトランスジェニックマウスでは、人工授精を行った後、前核期まで進んだ受精卵は存在したが、翌日に2細胞期になっているものはひとつもなかった。これらのことから、今回免疫染色に用いたmPGK2のプロモーターを用いたトランスジェニックマウスの雄に関しては、精子形成においてなんらかの異常がある可能性が示唆された。なお、mPGK2のプロモーターを用いたF0世代のトランスジェニックマウスのうちの雌は、正常なマウスと同様に出産を行っており、特に異常性はみられなかった。
(b)トランスジェニックマウス#2
トランスジェニックマウス#2は、組織特異的にCre リコンビナーゼを発現するマウスとかけ合わせることで、変異型Pold1をその組織特異的に過剰発現することを目的としたトランスジェニックマウスである。そのベクターの配列は、全身で過剰発現をさせるプロモーターであるCAGプロモーターと2つのloxP配列で挟まれたネオマイシン耐性遺伝子、そしてその後ろに、変異型Pold1をつなぐことで作製した(図9)。ネオマイシン耐性遺伝子の後ろには転写終結を意味するpolyAシグナルが付加されているので、このことにより組織特異的なCreリコンビナーゼの発現によって変異型pold1の発現を開始させることが可能となるようなマウスを作成した。トランスジェニックマウス#2の作製法などは、トランスジェニックマウス#1の場合と同様である。ネオマイシン耐性遺伝子に対する特異的なプライマーを用いたPCR法によって(図10)、4系統(産子数20匹中)がトランスジェニックマウスであることが確認された。4系統誕生したトランスジェニックマウスのうち3系統のF0世代のマウスについては、正常のものと同様の発育を示した。従って、本発明の遺伝形質の変換速度の調節によっても、マウスに異常はそれほど発生しなかったといえる。
生存している3系統のトランスジェニックマウス#2のそれぞれの尾よりmRNAを抽出し、ネオマイシン耐性遺伝子に対する特異的なプライマーを用いて行ったRT−PCR法によって、ネオマイシン耐性遺伝子の発現が確認された。
(ターゲティングマウスの作製)
コンディショナルターゲティングマウスは、組織また時期特異的に正常型のPold1遺伝子が変異型Pold1遺伝子に置き換わるようなもので、なるべくもとのDNAポリメラーゼδの発現様式を維持したかたちでの作製を考えた。Creリコンビナーゼを用いた組み換え反応では、2つのloxP配列の方向を向かい合わせるようにしてつなぎあわせると、2つのloxP配列間で組み換えが行われ、loxP配列に挟まれた領域が逆さになるようにして置き換わらせることができる。しかしながら、2つのloxP配列の方向を向かい合わせるだけでは、その間の置き換わりは可逆的な反応過程になってしまう。この組み換え反応の過程を不可逆的にするためにはloxP配列の一部に変異を入れたもの(lox66, lox71)を利用することが知られている(Kimi Arakiら(1997)Nucleic Acids Res.,25,868−872)。
コンディショナルターゲティングマウスの作製を行うにあたり、この変異の入ったloxP配列を使用することにした。Lox66とlox71の方向を向き合わせて配置し、その間に変異型Pold1の変異位置を含むexon10の正常型のexon10の配列、そして変異型のexon10を相補的にした配列を直列につなぐことを考えた(図14)。このようなベクターを作製してターゲティングマウスを作製すると、Creリコンビナーゼの発現によってふたつのlox配列間で組み換えが生じた後では、スプライシングに利用されるexon10が正常型から変異型へと入れ替わることが期待される(図15)。そうすることによって、内在性のDNAポリメラーゼδがCreリコンビナーゼの発現によって、正常型から変異型へと置き換えられるように考えた。ターゲティングベクターを作製するにあたっては、スプライシングを行うのに必須とされている配列を含むようにexon10の両端のイントロン部分を調製した。
しかしながら、lox66およびlox71の配列は、変異を含んだ配列であることから、Creリコンビナーゼによる組み換え反応の効率が、通常のloxP配列を用いたものと比べて低いことが考えられる。またlox66とlox71の配列を用いて方向を向き合わせたときでも反応が正しく起こるかどうかを調べるためにCreリコンビナーゼの酵素で実際に組換え反応をすることで解析を行った。そこで、lox66とlox71との間に2つのexon10を含む配列(lox66−71の組み換え配列と呼ぶことにする)をpBluescript IIの上で作製し、Creリコンビナーゼの酵素と反応させることで、組み換え反応の効率を調べることができないかと考えた。反応が行われていることに対するポジティブコントロールの実験として、トランスジェニックマウス#2のベクター配列を用いたところ、Creリコンビナーゼによる組み換え反応は15分間の反応では50%,2時間の反応では100%のプラスミドに組み換えが起こったことが碓認された。lox66−71の組み換え配列に対して2時間反応を行ったところ、低頻度(1/3)ながら正しく組み換わったものが確認された。このことから、組み換え反応はlox66−71の組み換え配列に対しても行われることが碓認された。
(遺伝形質の変換速度の調節)
これらのマウスを、遺伝形質の変換工程(例えば、高温、高湿度、高塩濃度など)の過程に曝すと、そうでないマウスに比べて、適応する個体数が顕著に増加することが分かる。
本実施例の方法により、DNAポリメラーゼδの校正活性を欠失させることで、リーディング,ラギングの両DNA鎖に不均衡な変異を蓄積させることができることが明らかになった。精子形成期に特異的に変異の入ったDNAポリメラーゼdを発現させることで、マウス個体の全身に生じる変異率をできるかぎり上げないこと。遺伝子操作などによる副次的な影響をできる限り抑えることができることが明らかになった。本実施例では、これらの要求を満たすような不均衡進化マウスの作製が実現される。
トランスジェニックマウス#1では、精子形成期に特異的に発現するプロモーターについて調べることができた。現在までに知られている精子形成期に特異的な発現を示すプロモーターの多くは、減数分裂後の精子細胞期に特異的に発現するものであったが、本実施例では、精原細胞期やまたは精母細胞期のようにDNA鎖の複製を行っている雄性生殖細胞において特異的に発現するプロモーターの利用を意図していたところ、その条件に該当するようなプロモーターはmPGK2のプロモーター以外には、有効なものがなかったことから、本実施例では、Fthl17遺伝子の上流配列を新規のプロモーターとして利用することを考えた。結果として、少なくとも精母細胞での発現が確認された。精原細胞に関しては、利用することのできるCAG−CAT−GFPのトランスジェニックマウス (今回作製したトランスジェニックマウス#2と類似した構造のベクターを用いて作製されたトランスジェニックマウスである。このマウスでは、Creリコンビナーゼの発現によってGFPの発現が開始されるようになっている。)とかけ合わせることで、今回作製したトランスジェニックマウス#1のCreリコンビナーゼの発現領域にGFPが発現すると考えられるので、そのときのGFPの発現領域と今回得られたCreリコンビナーゼの発現領域との結果を合わせることで、本実施例のプロモーターによる発現領域を分析することが可能である。なお、今回プロモーターとして用いたFthl17の上流配列中には、TATAボックスなどの基本転写因子結合配列はみられなかった。
mPGK2のプロモーターでの発現は、以前までにあった報告と比べて精子形成期の後の段階に発現がみられた。
トランスジェニックマウス#1で作製された2種類のトランスジェニックマウスでは、今回の結果から、発現領域が異なることが示唆された。従って、これらのマウスを用いて、変換効率の調節のために、どの領域での発現が効果的であるかを比較することができるので有用であると考える。精子形成期に特異的にCreリコンビナーゼの発現を行うトランスジェニックマウスの作製は、組織特異的に生じるloxP配列の組み換えを利用した調整的遺伝子欠損マウスを得ることも可能になり、生殖細胞における研究材料としての利用も可能である。
トランスジェニックマウス#2は、組織特異的にCreリコンビナーゼを発現するマウスとかけ合わせることで、組織特異的に変異型のPold1を過剰発現することができる。トランスジェニックマウス#1では、プロモーターの発現が行われなくなると変異型Pold1の発現も行われなくなってしまうが、このマウスとかけ合わせることで、プロモーターでの発現が終了した後も発現させ続けることができる。また、例えば脳や肝臓などの組織に特異的にCreリコンビナーゼを発現しているトランスジェニックマウスとのかけ合わせにより、その過剰発現による体細胞レベルへの影響も検討できる。
本実施例の結果から、ノックアウトマウスでもまた、遺伝形質の変換速度を調節することが理解される。
(実施例5:植物としてイネを用いた、変異生物の作製)
次に、本実施例では、真核生物の代表例として、植物であるイネを用いて不均衡変異生物の作製を行う。
ジーンターゲッテイングの技術は、本質的に、Yagi T.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:9918−9922,1990 、ジーンターゲティングの最新技術 八木健編集 別冊実験医学 2000,4に基づいた。本実施例では、DNA複製校正能が不均衡な複製複合体(Morrison,A.,et al.Mol.Gen.Genet.,242:289−296,1994)を持つ植物を作製する。
改変する目的となる遺伝形質として、耐病性(いもち病)および耐寒性を選択する。
(ジーンターゲッティング技術)
変異DNAポリメラーゼ(pol)(Morrison,A et al.Mol.Gen.Genet.,242:289−296,1994)を持つターゲッテイングベクターを作製しカルス細胞等の植物細胞のpol遺伝子と相同組み換えを行った。その後、細胞の分化を進め植物体を形成させる。
(手順)
(1.カルス細胞の調製)
カルス細胞の調製は、本質的に、Plant Tissue Culture:Theory and Practice,Bhojwani,S.S.and Razdan,N.K.,Elsevier,Amsterdam,1983に記載される周知技術に基づいて行う。具体的には、植物体よりカルス細胞を作製する(Davies,R.1981.Nature.,291:531−532およびLuo,Z.,et al.Plant Mol.Bio.Rep.,7:69−77,1989)。
(2.pol遺伝子の相同組み換え)
相同組み換えをおこした細胞を効率よく得るため、マウスのジーンターゲッテイング法にて用いられているポジティブ・ネガティブ法(Yagi,T.et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:9918−9922,1990、Capecchi M.R.,Science,244(16),1288−1292,1989)に準じて相同組み換えを行う。
ターゲティングベクターの作製:ターゲティングベクターの作製は、Molecular Cloning,2nd edition, Sambrook,J.et al、前出、およびAusubel,F.M.,Current Protocols in Molecular Biology,Green Publishing Associates and Wiley−Interscience,NY,1987前出に記載される技術に基づく。
ターゲッテイングベクターは、変異polδおよび/またはpolε遺伝子をポジティブ遺伝子とネガティブ遺伝子との間に挟む。ポジティブ遺伝子としてはハイグロマイシン耐性遺伝子を用い、ネガティブ遺伝子としてはジフテリアトキシンを用いる(Terada R.et al.,:Nature Biotech.,20:1030−1034,2002)。
Pol変異としては、polδに校正活性部位(配列番号48の320位(D)および322位(E)をそれぞれアラニン(A)に変更)へ塩基変異を導入し活性を欠失しておいた(Morrison.A,and Sugino.A,Mol.Gen.Genet.242:289−296,1994;Goldsby R.E.et al.Pro.Natl.Acad.Sci.USA,99 :15560−15565,2002)。
(3.カルス細胞へのベクターの導入)
カルス細胞へのベクターの導入は、本質的に、植物バイオテクノロジーII.山田康之・大山莞爾編.東京化学同人1991に記載の技術に基づく。本実施例では、エレクトロポーレーション法またはアグロバクテリウム法等を用いてベクターをカルス細胞へ導入した。培養はハイグロマイシン(100μg/ml、インビトロゲン社)を含む培地(DMEM (Flow Laboratory))にて行う。
(4.組み換え細胞の回収)
ハイグロマイシン存在下での培養の後、組換え細胞を回収する(Terada R.,et al.,:Nature Biotech.,20:1030−1034,2002)。
(5.相同組み換え体の確認)
組み換え体からゲノムDNAを抽出して、変異polが目的どおりES細胞に導入されているか、サザンブロット法・PCR法により確認する(ジーンターゲティングの最新技術 八木健編集 別冊実験医学 2000,4)。
(6.植物体の作出)
植物体の作出は、本質的に、植物バイオテクノロジーII.山田康之・大山莞爾編.東京化学同人1991、植物組織培養の技術.竹内正幸・中島哲夫・古谷力編 朝倉書店1988に基づいて行う。本実施例では、カルスより分化を行い、植物体を形成させる。その後、葯・種子などに由来する1倍体細胞、および/または植物体の掛け合わせ等の後作製されるホモ型の2倍体細胞等を用いてpol変異に由来するミューテーター変異としての性質を当該分野において周知の技法に従って確認する(Maki,H.et al.,J.Bacteriology,153(3),1361−1367,1983;Miller,J.H.1992,A Short course in bacterial genetics,Cold Spring Harber Laboratory Press,Cold Spring Harber,N.Y.)。
(結果)
本実施例で得られた変異が導入された植物は、所望のとおり耐寒性および耐病(いもち病など)性を得た植物が従来技術に比較して迅速に得られたことが観察される。また、改変後の細胞は、増殖は自然とほぼ同様であるのに対して、その変異率は、1世代に2個以上の程度で、従来の変異で得られる変異率とは顕著に異なることがわかる。
(実施例6:シロイヌナズナでの実証)
次に、シロイヌナズナを用いて、変異生物を作製した。
(方法および材料)
(polδ cDNAのクローニング)
polδ(At1g42120)(配列番号90(核酸配列)および配列番号91(アミノ酸配列))はシロイヌナズナ根由来の全mRNAから、以下のプライマーを用いてPCR法により増幅させ、pBluescript SK2(TOYOBO)にサブクローニングした。
Xba1−42120−F: 5’−CTGAGTCTAGATTTCCCGCCATGGAAATCG−3’(配列番号82)
2g42120−Sac1−R: 5’−AGCAACGAGCTCTTATGATTGGTTTATCTG−3’(配列番号83)
(変異型polδ遺伝子polδ(D316A)(配列番号92(核酸配列)および配列番号93(アミノ酸配列))の作製)
polδcDNAの316番目のアミノ酸がDからAになるよう、以下のプライマーを用いて点突然変異を誘発させた。
2g42120−D316A−F:5’−ATTTGCTGTCGATAATATCAGATTTCTTGG−3’(配列番号84)
2g42120R:5’−GAGTGAGGATTTGTACATGATCTGAAGG−3’(配列番号85)
(形質転換用のベクターの作製)
植物で遺伝子を恒常的に発現させるバイナリープラスミドは、pBI121(CLONTECH)を改変して作製した。pBI121のβ−グルクロニダーゼ遺伝子を制限酵素XbaIおよびSacIを用いて切り出し、代わりにpolδ(D316A)を入れた(以下polδ(D316A)と呼ぶ)。
また形質転換のコントロール用ベクターとして、上記のpBI121(以下GUSと呼ぶ)と、pBI121のβ−グルクロニダーゼ遺伝子をGFP に置き換えたもの(以下GFPと呼ぶ)も作製した。
(カルスの作製)
シロイヌナズナ種子(エコタイプは、Columbia)を発芽用培地にまき、4℃で2、3日間低温処理した後、プレートを培養器(22℃)に移し暗黒下で10日間生育させた。徒長した胚軸を約1cmの長さに切り、CIM培地上に10日間置きカルス化させた。
(アグロバクテリウムを用いたカルスの形質転換)
GUSまたはGFPまたはpolδ(D316A)を含むバイナリープラスミドをもったアグロバクテリウムpMP90株を50mg/Lのカナマイシンを含むLB培地に接種し、28℃で2日間振とう培養した。OD600=0.8程度まで増殖したアグロバクテリウムの培養液1.4mlを卓上遠心機で5分間遠心して集菌し、1mlのAIM(後述)に懸濁した。カルス化した胚軸断片を5mlのAIMを入れた60mmシャーレに移し、ここに1mlのアグロバクテリウム懸濁液を加え、約20分間室温で振とうした。滅菌した濾紙にカルスを載せ余分な水分をのぞいた後、新しいCIMプレートにカルスを移した。3日後に形質転換したカルスをAIMの入った60mmシャーレに移し、25分間、60rpmで旋回させ洗浄した。洗浄は5回繰り返して行った。
洗浄後のカルスは濾紙の上で水分を取り除き、カルベニシリン50mg/L、カナマイシン50mg/Lを含むCIM培地(後述)(自製した)で生育させた。
なお、カルスへの形質転換効率は、95%以上だった(GFPを導入した個体のみ測定。GFP蛍光を発するか否かでチェックした)。
(カルスの継代および変異株のスクリーニング)
カルスは10日置きに新しいCIMプレートに植え替えた。その際、1つのカルスを2つに割り、片方は継代用のCIMプレートに、もう片方はスクリーニング用のプレートに移して各条件での耐性株の選抜を行った。
スクリーニング用のプレートには、200mMまたは300mMのNaClを加えた。継代とスクリーニングは、上記のようにして10日置きに繰り返し行った。
(培地の組成)
発芽用培地(1 Liter):
Murashige Minimal Organic Medium(GIBCO BRL) 1/2包
スクロース 10g
Gelllan Gum (和光製薬) 5g
(CIM(1 Liter))
Gamborg’s B5 Medium Salt Mixture(日本製薬)
1包
グルコース 20g
ミオイノシトール 100mg
5% Mes−KOH (pH5.7) 10ml
Gelllan Gum 5g
オートクレーブ後、以下をくわえる。
塩酸チアミン 20mg
ニコチン酸 1mg
塩酸ピリドキシン 1mg
ビオチン 10mg
2,4−D 0.5mg
カイネチン 0.05mg
(AIM(1 Liter))
Gamborg’s B5 Medium Salt Mixture(日本製薬)
1包
グルコース 20g
5% Mes−KOH (pH5.7) 10ml
(結果)
以上の結果、用いた遺伝子(GFP、GUS(形質転換のコントロール)、polδ(D316A))は、いずれも形質転換効率が95%以上であった(GFPを導入した個体のみ測定。GFP蛍光を発するか否かでチェックした)。
(進化条件)
以下のような遺伝形質の変化条件に本実施例の植物を暴露した。
変異体の選抜には、以下の条件を用いた。
1)37℃ プレートを37℃インキュベーターに入れる。
2)200mL NaCl 培地に200mL NaClをくわえ、22℃で生育させる。
3)300mL NaCl 培地に300mL NaClをくわえ、22℃で生育させる。
(変異の選択結果)
各処理における結果は以下の通りであった。表の数字は、左から順に、無処理と同じくらい生育しているカルスの数(耐性)/あまり生育は良くないが死んではいないカルスの数(弱い耐性)/死んでいるカルスの数(感受性)を示す。
処理 GFP polδ
37℃ 0/24/27 1/18/10
200mL NaCl 0/20/145 0/58/112
300mL NaCl 0/0/165 0/4/146
以上のように、高温処理において、耐性となった植物が増加していた。また、塩濃度に関しては、200mL NaClでは耐性を示すカルスの個数が、コントロールよりpolδの方が多かった。従って、塩濃度に対する耐性もまた、本発明の方法によって植物に付与することができることが明らかになった。特に、300mM NaClでは、コントロールでは、耐性が得られなかったのに対して、本発明の方法では、耐性を得ることができた。
(実施例7:シロイヌナズナを用いた連続耐性実験)
次に、世代を経ても耐性などの遺伝形質の変換が伝播するかどうかを確認した。実験条件は、実施例6と同じものを用いた。
以下に試験した個体数を示す。
<スクリーニング方法>
カルスを作製し、ある程度大きくなったら半分に割った。片方は通常培地で元の大きさまで育て、片方は選択培地で培養し耐性獲得を実験した。通常培地のカルスが十分大きくなったら半分を通常培地、半分を選択培地で培養し2回目のスクリーニングとした。以下6回のスクリーニングを行った。300mMでは耐性カルスが取れなかったため、全ての実験は200mMで行った。
その模式図を図16に示す。
<不連続実験>
6回のスクリーニングで「不連続」に耐性カルスが出現した個数をカウントする。一度耐性を獲得しても耐性が失われる場合は擬陽性と考えられる。
<連続実験>
擬陽性を除くため、連続して耐性を獲得したカルス数をカウントした。6回目までのスクリーニングで連続して耐性を示したカルス数を示す。
このように、連続して耐性を示したのは、変異polδを有する株のみであった。この株は、6世代を経ても、耐性を保持しており、遺伝形質の変換が速度のみならず、安定性でも従来方法よりも優れていることが明らかになった。
(実施例8:ES細胞での実験)
次に、ES細胞でも本発明が実施可能であるかどうかを実証した。以下にその手順を示す。
<ES細胞の調製>
C57BL/6とCBAのF1マウス胚由来のES細胞株(TT−2細胞)(大阪大学八木研究室で作製された。通常のプロトコールによって作製したものと同じである。)をES細胞培養液(ESM)(20%FBS、0.1mM NEAA、1mM ピルビン酸、LIF(エスグロアムラド社)、メルカプトエタノールを含むDMEM培地)を用いてフィーダー細胞上で培養し増殖させた。
導入したベクター(図17を参照)はタンパク質発現用ベクターであるpcDNA3.1(+)に変異型Pold1,正常型Pold1,EGFP遺伝子のcDNAをそれぞれ組み込んだもので、制限酵素消化により線状化してから、遺伝子導入用に使用した。増殖させておいたES細胞を0.25%トリプシン溶液で剥がし、1つのキュベットあたりES細胞が2.0×106個になるように調製し、25nMに調製したベクターDNA溶液100μlとよく混和させ、エレクトロポレーション法によって遺伝子導入をおこなった。
エレクトロポレーション後、48時間はESMを用いて培養し、その後はG418(終濃度200μg/mL)(SIGMA)を加えたESM培地で培養することで、遺伝子導入細胞のセレクションを行った。培養は、ゼラチンコートしたプレート上でおこなった。その後のES細胞の培養においては、Penicillin−Streptomycin(GIBCO 市販品を100倍希釈で使用)存在下で実験を行った。
<6TGアッセイ>
増殖させ、トリプシン(2.5%、GIBCO)で処理したES細胞を、10cm dishに5.0×106cell/ディッシュになるようにまき、6−TG(終濃度2μg/ml;Sigma,hybridoma tested)とG418存在下において、耐性コロニーのセレクションを行った。このセレクションの際も、ゼラチンによりコーティングしたディッシュ(FALCON 353003細胞培養dishに、0.1%ゼラチン溶液を浸し37℃で30分インキュベーションしたもの(ゼラチンはsigma))上で培養した。培地の交換は、二日に一度おこない、細胞を播いた日を0日として、11日目のコロニーの数を数えた。コロニーは、増殖性がよく大きく成長したもののみをカウントした。
<実験の結果>
変異型Pold1については、エレクトロポレーションから独立に行ったロットが2種類で、それぞれ#1,#2と表示する。すべてについて、10cmディッシュに6枚ずつ播いて、耐性コロニーの出現を待った。コロニーの数を下に表す。(0×6はコロニーがひとつも生えなかったディッシュが6枚ということを表す)
変異型Pold1 3×1、1×2、0×9
野生型Pold1 0×6
EGFPによるコントロール 0×6
本実施例の結果において、増殖してくるコロニーは変異型Pold1を導入したものでしかみられなかった。得られたコロニーについては、変異の対象遺伝子であるHGPRT遺伝子の部分の配列決定を行うことによって、変異の導入を確認することができる。
このように、変異型Pold1遺伝子の過剰発現により、マウスES細胞において、変異が入り易いことが明らかになった。従って、ES細胞でも、遺伝形質の変換が調節可能であり、その速度および安定性が進歩していることが明らかになった。
(実施例9:グラム陽性細菌)
本実施例では、グラム陽性細菌の例として、枯草菌であるBacillus subtilisを宿主細胞として用いて、変異を導入する。変異は、配列番号15に示されるポリメラーゼCの425位および427位の、それぞれアスパラギン酸およびグルタミン酸を変異させる。このポリメラーゼC変異体をBacillus subtilisにプラスミド(pHY300PLK(TAKARA))にて導入後、進化すべき条件にかける。
この変異株を作製後、例えば、中程度の高温(例えば、42℃)から徐々に温度を50℃以上に上昇させる。
枯草菌(Bacillus subtilis)は、最も良く研究された土壌細菌の一種であり、成育温度は、20−50℃、pH 6−7、30分で菌体は2倍に増殖するといわれている。
上述のように、進化条件にかけた場合、本実施例のBacillusは、55℃でも生育する株が得られる。この株は、継代してもその性質が保たれていることが分かる。
従って、大腸菌とは異なるDNA複製メカニズムを有する細菌であっても、進化の速度を調節することができることがわかる。
(実施例10:遺伝子の取り出し)
本実施例では、遺伝形質の変化を担う遺伝子を単離する。ここでは、実施例1において薬剤耐性を獲得した生物を単離し、その後、改変前のオリジナルの生物および改変後の生物において、薬剤耐性を担うと考えられる遺伝子の配列を決定する。その結果、ジャイレース(またはトポイソメラーゼII)サブユニットAおよびトポイソメラーゼIV遺伝子が改変されていることがわかる。この配列を適切なプライマーを用いてPCR増幅し、全長遺伝子を単離する。その遺伝子を改変前のものおよび改変後のものをポリペプチド合成し、活性を測定すると、確かに活性が変化していることがわかる。このように、本発明の方法は、実際に、遺伝子レベルで迅速に変異を導入することができることが明らかになる。
(実施例11:新規生産物質の取り出し)
本実施例では、改変の結果得られた新規生産物質を単離する。ここでは、実施例1において薬剤耐性を獲得した生物を単離し、その後、HPLCなどのクロマトグラフィー分析(例えば、HPLCなど)によって、改変前のオリジナルの生物には存在せず、改変後の生物において存在する物質を同定し、これを新規生産物質として単離する。その結果、ジャイレース(またはトポイソメラーゼII)サブユニットAおよびトポイソメラーゼIV遺伝子産物が新規生産物質であることがわかる。このように、本発明の方法は、実際に、新規生産物質を生産するにおいても有用であることが明らかになる。
(実施例12:他のエラープローン頻度改変方法)
上記変異に変えて、ポリメラーゼδおよびεのポリメラーゼ部分の活性を障害する変異を導入し、DNA複製の精度を下げることも可能である。
(実施例13:エラープローン頻度と進化速度の関係)
上記実施例1で得られた酵母の薬剤耐性獲得、アルコール耐性獲得、および高温度耐性獲得実験において、対照として従来の変異の入れ方(放射線、化学薬品修理など)を用いたものと比較する。これらの従来の変異の入れ方における上述の耐性獲得スピードは、本発明において顕著に上昇した。これは、同時期に実験を開始して、本実施例では耐性獲得株が得られたのに対して、従来技術では得られていないことに如実に反映されている。
また、本実施例において変異率が段階的に違ったものを使用し、耐性獲得のタイムコースを比較することによって、進化速度を算出することができる。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。