以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。各実施形態の説明で結晶の格子方向および格子面を使用する場合があるが、ここで、格子方向及び格子面の記号の説明をしておく。個別方位は[]、集合方位は< >、個別面は( )、集合面は{ }でそれぞれ示すことにする。尚、負の指数については、結晶学上、”−”(バー)を数字の上に付けることになっているが、明細書作成の都合上、数字の前に負号を付けることにする。
[第1実施形態]
第1実施形態に係るGaN単結晶基板及びその製造方法を、図1A〜図1Dの製造工程図を用いて説明する。
まず、図1Aに示す第1の工程で、GaAs基板2を気相成長装置の反応容器内に設置する。なお、GaAs基板2として、GaAs(111)面がGa面となっているGaAs(111)A基板、または、GaAs(111)面がAs面となっているGaAs(111)B基板の何れかを用いることができる。
GaAs基板2を気相成長装置の反応容器内に設置した後、当該GaAs基板2上にGaNからなるバッファ層4を形成する。バッファ層4の形成方法としては、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法、有機金属塩化物気相成長法、MOCVD法等の気相成長法がある。以下、これらの各気相成長法について詳説する。
まず、HVPE法について説明する。図2は、HVPE法に使用する常圧の気相成長装置を示す図である。この装置は、第1のガス導入ポート51、第2のガス導入ポート53、第3のガス導入ポート55、及び排気ポート57を有する反応チャンバ59と、この反応チャンバ59を加熱するための抵抗加熱ヒータ61と、から構成されている。また、反応チャンバ59内には、Gaメタルのソースボート63と、GaAs基板2を支持する回転支持部材65とが設けられている。
このような気相成長装置を用いたバッファ層4の好適な形成方法を説明すると、GaAs基板2としてGaAs(111)A基板を用いる場合は、抵抗加熱ヒータ61によりGaAs基板2の温度を約450℃〜約530℃に昇温保持した状態で、第2のガス導入ポート53より塩化水素(HCl)を分圧4×10−4atm〜4×10−3atmでGaメタルのソースボート63に導入する。この処理により、Gaメタルと塩化水素(HCl)とが反応し、塩化ガリウム(GaCl)が生成される。次いで、第1のガス導入ポート51よりアンモニア(NH3)を分圧0.1atm〜0.3atmで導入し、GaAs基板2付近で当該NH3とGaClとを反応させ、窒化ガリウム(GaN)を生成させる。尚、第1のガス導入ポート51及び第2のガス導入ポート53には、キャリアガスとして水素(H2)を導入する。また、第3のガス導入ポート55には、水素(H2)のみを導入する。このような条件下で、約20分〜約40分間GaNを成長させることにより、GaAs基板2上に、厚さ約500オングストローム〜約1200オングストロームのGaNからなるバッファ層4を形成する。HVPE法を用いた場合は、塩化ガリウム(GaCl)の合成量を増加させてもバッファ層の成長速度はさほど変化せず、反応律速であると考えられる。
また、GaAs基板2としてGaAs(111)B基板を用いる場合も、GaAs(111)A基板を用いる場合とほぼ同様の条件でバッファ層を形成することができる。
次に、有機金属塩化物気相成長法について説明する。図3は、有機金属塩化物気相成長法に使用する成長装置を示す図である。この装置は、第1のガス導入ポート71、第2のガス導入ポート73、第3のガス導入ポート75、及び排気ポート77を有する反応チャンバ79と、この反応チャンバ79を加熱するための抵抗加熱ヒータ81と、から構成されている。また、反応チャンバ79内には、GaAs基板2を支持する回転支持部材83が設けられている。
このような成長装置を用いたバッファ層4の形成方法を説明すると、GaAs基板2としてGaAs(111)A基板を用いる場合は、抵抗加熱ヒータ81によりGaAs基板2の温度を約450℃〜約530℃に昇温保持した状態で、第1のガス導入ポート71よりトリメチルガリウム(TMG)を分圧4×10−4atm〜2×10−3atmで導入するとともに、第2のガス導入ポート73より塩化水素(HCl)を分圧4×10−4atm〜2×10−3atmで等量だけ導入する。この処理により、トリメチルガリウム(TMG)と塩化水素(HCl)とが反応し、塩化ガリウム(GaCl)が生成される。次いで、第3のガス導入ポート75よりアンモニア(NH3)を分圧0.1atm〜0.3atmで導入し、GaAs基板2付近で当該NH3とGaClとを反応させ、窒化ガリウム(GaN)を生成させる。尚、第1のガス導入ポート71、第2のガス導入ポート73、及び第3のガス導入ポート75には、それぞれキャリアガスとして水素(H2)を導入する。このような条件下で、約20分〜約40分間GaNを成長させることにより、GaAs基板2上に、厚さ約500オングストローム〜約1200オングストロームのGaNからなるバッファ層4を形成する。このとき、バッファ層4の成長速度を、約0.08μm/hr〜約0.18μm/hrにすることができる。
また、GaAs基板2としてGaAs(111)B基板を用いる場合も、GaAs(111)A基板を用いる場合とほぼ同様の条件でバッファ層を形成することができる。
また、MOCVD法とは、コールドウォール型の反応炉において、加熱されたGaAs基板2上に、Gaを含む例えばトリメチルガリウム(TMG)等の有機金属とアンモニア(NH3)とをキャリアガスと共に吹きつけ、GaAs基板2上にGaNを成長させる方法である。ここで、Gaを含む有機金属等をGaAs基板2に吹き付ける際の当該GaAs基板2の温度は、GaAs(111)A基板を用いる場合は約450℃〜約600℃で、GaAs(111)B基板を用いる場合は約450℃〜約550℃にすることが好ましい。また、Gaを含む有機金属として、TMGの他に、例えばトリエチルガリウム(TEG)等を用いることができる。
以上がバッファ層4を形成する気相成長法である。バッファ層4を形成した後、当該バッファ層4上にGaNからなる第1のエピタキシャル層(下層エピタキシャル層)6を成長させる。第1のエピタキシャル層6の成長には、バッファ層4の形成方法と同様に、HVPE法、有機金属塩化物気相成長法、MOCVD法等の気相成長法を使用することができる。以下、第1のエピタキシャル層6をこれらの気相成長法で成長させる場合の好適な条件を説明する。
HVPE法により第1のエピタキシャル層6を成長させる場合は、バッファ層4の形成と同様に、図2に示す装置を使用することができる。そして、GaAs基板2としてGaAs(111)A基板を用いる場合は、抵抗加熱ヒータ61によりGaAs基板2の温度を約920℃〜約1030℃に昇温保持させた状態で第1のエピタキシャル層6を成長させる。このとき、第1のエピタキシャル層6の成長速度を約20μm/hr〜約200μm/hrにすることができる。なお、成長速度は、GaCl分圧、すなわち、HCl分圧に対する依存性が大きく、HCl分圧は、5×10−4atm〜5×10−2atmの範囲を取り得る。一方、GaAs基板2としてGaAs(111)B基板を用いる場合は、抵抗加熱ヒータ61によりGaAs基板2の温度を約850℃〜約950℃に昇温保持させた状態で第1のエピタキシャル層6を成長させる。
有機金属塩化物気相成長法により第1のエピタキシャル層6を成長させる場合は、バッファ層4の形成と同様に、図3に示す装置を使用することができる。そして、GaAs基板2としてGaAs(111)A基板を用いる場合は、抵抗加熱ヒータ81によりGaAs基板2の温度を約920℃〜約1030℃に昇温保持させた状態で第1のエピタキシャル層6を成長させる。このとき、第1のエピタキシャル層6の成長速度を約10μm/hr〜約60μm/hrにすることができる。なお、成長速度を上げるに為には、TMGの分圧を上げることでGaClの分圧を上げればよいが、ガス配管の温度でのTMGの平衡蒸気圧以上の分圧であった場合、ガス配管内壁へTMGの液化が起こり、配管の汚染や詰まりが発生するため、TMGの分圧はむやみに上げられず、約5×10−3atmが上限であると考えられる。このため、成長速度も60μm/hr程度が上限であると考えられる。
一方、GaAs基板2としてGaAs(111)B基板を用いる場合は、抵抗加熱ヒータ81によりGaAs基板2の温度を約850℃〜約950℃に昇温保持させた状態で第1のエピタキシャル層6を成長させる。このとき、第1のエピタキシャル層6の成長速度を約10μm/hr〜約50μm/hrにすることができる。尚、反応チャンバ79内に導入するトリメチルガリウム等の分圧は、上記の理由から、5×10−3atmが上限となる。
MOCVD法により第1のエピタキシャル層6を成長させる場合は、Gaを含む有機金属等をGaAs基板2に吹き付ける際の当該GaAs基板2の温度は、GaAs(111)A基板を用いる場合は約750℃〜約900℃で、GaAs(111)B基板を用いる場合は約730℃〜約820℃にすることが好ましい。以上が、第1のエピタキシャル層6の成長条件である。
続いて、図1Bに示す第2の工程を説明する。図1Bに示す第2の工程では、製造途中のウエハを成長装置から取り出して、エピタキシャル層6上にSiN又はSiO2から成るマスク層8を形成する。マスク層8は、厚さ約100nm〜約500nmのSiN膜又はSiO2膜をプラズマCVD等により形成し、このSiN膜又はSiO2膜をフォトリソグラフィ技術でパターンニングすることにより形成される。
図4は、図1Bに示す第2の工程におけるウエハの平面図である。図1B及び図4に示されているように、本実施形態のマスク層8には、複数のストライプ状のストライプ窓10が形成されている。ストライプ窓10は、GaNからなる第1のエピタキシャル層6の<10−10>方向に延在するように形成されている。尚、図4の矢印は、第1のエピタキシャル層6の結晶方位を示している。
マスク層8を形成した後、図1Cに示す第3の工程に進む。第3の工程では、マスク層8を形成したウエハを再び気相成長装置の反応容器内に設置する。そして、マスク層8と第1のエピタキシャル層6のストライプ窓10から露出している部分との上に第2のエピタキシャル層12を成長させる。第2のエピタキシャル層12の成長方法としては、第1のエピタキシャル層6の成長方法と同様に、HVPE法、有機金属塩化物気相成長法、MOCVD法等がある。尚、第2のエピタキシャル層12の厚さは、約150μm〜約1000μmにすることが好ましい。
ここで、図5A〜図5Dを用いて、第2のエピタキシャル層12の成長過程を詳細に説明する。図5Aに示されているように、GaNからなる第2のエピタキシャル層12の成長初期においては、第2のエピタキシャル層12はマスク層8上には成長せず、GaN核としてストライプ窓10内における第1のエピタキシャル層6上にのみ成長する。そして、成長が進むに従って、第2のエピタキシャル層12の厚みが増し、この厚みの増加に伴って、図5Bのように、マスク層8上において、第2のエピタキシャル層12のラテラル成長(lateral growth)が生じる。これにより、図5Cに示すように、マスク層8上で両側から成長してきたエピタキシャル層12が繋がり、それらが一体化する。ラテラル成長により一体化した後は、図5Dに示すように、第2のエピタキシャル層12は上方に向かって成長し、厚みが増していく。尚、第2のエピタキシャル層12は、ラテラル成長により隣接するエピタキシャル層12と一体化すると、一体化する前よりも厚み方向への成長速度が速くなる。以上が、第2のエピタキシャル層12の成長過程である。
ここで、図4の説明で述べたように、ストライプ窓10は、GaNからなる第1のエピタキシャル層6の<10−10>方向に延在するように形成されているため、ストライプ窓10の幅方向と第1のエピタキシャル層6の<1−210>方向とがほぼ一致する。そして、一般的に、GaNエピタキシャル層は、<1−210>方向へ成長する速度が速いため、第2のエピタキシャル層12のラテラル成長が始まってから隣接するエピタキシャル層12同士が一体化するまでの時間が短縮される。このため、第2のエピタキシャル層12の成長速度が速くなる。
尚、ストライプ窓10は、必ずしも第1のエピタキシャル層6の<10−10>方向に延在させる必要はなく、例えば、エピタキシャル層6の<1−210>方向に延在するように形成してもよい。
次に、第2のエピタキシャル層12の転位密度について説明する。図5Aに示されているように、第2のエピタキシャル層12の内部には、複数の転位14が存在する。しかし、図5Dに示されているように、第2のエピタキシャル層12が横方向に成長しても、転位14は横方向には殆ど広がらない。また、たとえ転位14が横方向に広がったとしても、水平方向に延びて上下面を貫通する貫通転位とはならない。このため、マスク層8のストライプ窓10の形成されていない部分(以下、「マスク部」という。)の上方には、ストライプ窓10の上方の領域よりも転位密度の低い低転位密度領域16が形成される。これにより、第2のエピタキシャル層12の転位密度を減少させることができる。また、ラテラル成長により隣接するエピタキシャル層12同士が一体化した図5Cの状態からエピタキシャル層12が上方へ向かって急成長する際に、転位14は殆ど上方に延びない。このため、第2のエピタキシャル層12の上面は、ボイドや貫通転位が無く埋め込み性及び平坦性に優れた面になる。
以上のように第2のエピタキシャル層12を形成した後、図1Dに示す第4の工程に進む。第4の工程では、ウエハをエッチング装置内に設置し、アンモニア系エッチング液でGaAs基板2を完全に除去する。さらに、GaAs基板2を除去した後、GaAs基板2の除去面、すなわちバッファ層4の下面に研磨処理を施して本実施形態に係るGaN単結晶基板13が完成する。
尚、第2のエピタキシャル層12の一部に異常粒成長が生じた場合や、第2のエピタキシャル層12の層厚が不均一になった場合は、第2のエピタキシャル層12の上面に研磨処理を施して鏡面に仕上げる。具体的には、第2のエピタキシャル層12の上面にラッピング研磨を施した後、さらに、バフ研磨を施すことが好ましい。
また、図1B及び図4に示されているマスク部の幅Pは、約2μm〜約20μmの範囲内であることが好ましい。マスク部の幅Pを前記下限よりも小さくすると、第2のエピタキシャル層12のラテラル成長の効果が低減する傾向にあり、一方、幅Pを前記上限よりも大きくすると、第2のエピタキシャル層12の成長時間が長くなって量産性が低下する傾向にある。さらに、ストライプ窓10の窓幅Qは約0.3μm〜約10μmの範囲内にすることが好ましい。ストライプ窓10の窓幅Qをこの範囲にすることで、マスクの効果を引き出すことができる。
また、図1Aに示す第1の工程で、GaNからなるバッファ層4を成長させる場合を述べたが、GaNの代わりにAlNからなるバッファ層4を成長させてもよい。この場合は、MOVPE法を使用することができる。具体的には、反応容器内をあらかじめ十分に真空排気した後、常圧にて、GaAs(111)A基板を用いる場合は約550℃〜約700℃に、GaAs(111)B基板を用いる場合は約550℃〜約700℃にGaAs基板2を昇温保持した状態で、キャリアガスとして水素、原料ガスとしてトリメチルアルミニウム(TMA)とアンモニア(NH3)を導入する。そして、このような処理により、GaAs基板2上に、厚さ約100オングストローム〜約1000オングストロ−ムのAlNからなるバッファ層4が形成される。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係るGaN単結晶基板及びその製造方法を、図6A〜図6Dの製造工程図を用いて説明する。
まず、図6Aに示す第1の工程において、GaAs基板2上に、直接SiN又はSiO2から成るマスク層8を形成する。マスク層8は、厚さ約100nm〜約500nmのSiN膜又はSiO2膜をプラズマCVD等により形成し、このSiN膜又はSiO2膜をフォトリソグラフィ技術でパターンニングすることにより形成される。
図7は、図6Aに示す第1の工程におけるウエハの平面図である。図6A及び図7に示されているように、本実施形態のマスク層8にも、第1実施形態と同様に複数のストライプ状のストライプ窓10が形成されている。なお、ストライプ窓10は、GaAs基板2の<11−2>方向に延在するように形成されている。また、図7の矢印は、GaAs基板2の結晶方位を示している。
マスク層8を形成した後、図6Bに示す第2の工程に進み、ストライプ窓10内のGaAs基板2上にバッファ層24を形成する。バッファ層24は、第1実施形態と同様に、HVPE法、有機金属塩化物気相成長法、MOCVD法などで形成することができる。尚、バッファ層24の厚さは、約50nm〜約120nmにすることが好ましい。
次に、図6Cに示す第3の工程において、バッファ層24上にGaNからなるエピタキシャル層26を成長させる。エピタキシャル層26は、第1実施形態と同様に、HVPE法、有機金属塩化物気相成長法、MOCVD法などにより、厚さ約150μm〜約1000μmまで成長させることが好ましい。また、この場合も、エピタキシャル層のラテラル成長によって、エピタキシャル層26の結晶欠陥、特に、マスク層8のマスク部上方、及び、エピタキシャル層26の上面の結晶欠陥を低減させることができる。
ここで、上述のように、ストライプ窓10は、GaAs基板2の<11−2>方向に延在するように形成されいるため、ストライプ窓10の幅方向とGaAs基板2の<1−10>方向とがほぼ一致する。そして、一般的に、GaNエピタキシャル層は、GaAs基板2の<1−10>方向へ成長する速度が速いため、エピタキシャル層26のラテラル成長が始まってから隣接するエピタキシャル層26同士が一体化するまでの時間が短縮される。このため、エピタキシャル層26の成長速度が速くなる。
尚、ストライプ窓10は、必ずしもGaAs基板2の<11−2>方向に延在させる必要はなく、例えば、GaAs基板2の<1−10>方向に延在するように形成してもよい。
エピタキシャル層26を成長させた後、図6Dに示す第4の工程に進み、GaAs基板2を除去して本実施形態のGaN単結晶基板27が完成する。尚、GaAs基板2の除去方法としては、例えばエッチングがある。アンモニア系エッチング液を用いてGaAs基板2に約1時間ウエットエッチングを施すことにより、当該GaAs基板2を除去することができる。なお、王水を用いて、GaAs基板2にウエットエッチングを施すこともできる。また、GaAs基板2を除去した後、GaAs基板2の除去面、すなわちマスク層8及びバッファ層24の下面に研磨処理を施してもよい。さらに、第1実施形態と同様に、エピタキシャル層26の上面に研磨処理を施してもよい。
以上のように、本実施形態のGaN単結晶基板の製造方法によれば、エピタキシャル層を1回成長させるだけで結晶欠陥が少なく内部応力の小さなGaN基板を製造することができるため、第1実施形態と比べて製造工程数を低減でき、かつ、コスト削減を図ることができる。
[第3実施形態]
第3実施形態の説明をする前に、本実施形態に係るGaN単結晶基板及びその製造方法を完成させるに至った経緯を説明する。
光半導体デバイスの特性を向上させる要求に応えるため、本発明者らは、より高品質のGaN基板を製作すべく試行錯誤を繰り返した。その結果、本発明者らは、高品質のGaN基板を製作するためには、成長したGaNエピタキシャル層の内部応力を低減させることが重要であることを見出した。
一般に、GaNエピタキシャル層の内部応力は、熱応力と真の内部応力とに分けて考えることができる。この熱応力は、GaAs基板とエピタキシャル層との熱膨張係数の差に起因して生じるものである。また、この熱応力によりGaN基板が反る方向を予測することができるが、GaAs基板を除去しない状態におけるGaN基板全体の実際の反りが、予測した方向とは反対の方向であること、さらにGaAs基板を除去した後にもGaN基板に大きな反りが発生することから、GaNエピタキシャル層に真の内部応力が存在することが明らかとなった。
真の内部応力は、成長の初期段階から存在するものであり、成長したGaNエピタキシャル層中の真の内部応力は、測定の結果、0.2×10
9〜2.0×10
9dyn/cm
2程度であることが分かった。ここで、真の内部応力の算出するために用いたストーニー(Stoney)の式を説明する。基板上に薄膜が形成されたウエハにおいて、内部応力σは、下記数式(1):
〔数式(1)中、σは内部応力、Eは剛性率、νはポアソン比、bは基板の厚さ、dは薄膜の厚さ、Iは基板の直径、δはウエハの撓みを示す。〕
によって与えられる。GaN単結晶の場合は、d=bとして、下記数式(2):
〔数式(2)中、記号は数式(1)と同じものを示す。〕
となる。この数式(2)に基づいて、本発明者らは、上述のようなエピタキシャル層における真の内部応力の値を算出した。
真の内部応力や熱応力等の内部応力が存在すると、基板に反りが生じたり、クラック等が発生し、広面積、高品質のGaN単結晶基板を得ることができない。そこで、本発明者らは、真の内部応力が発生する原因を追及した。その結果到達した真の内部応力の発生原因は以下の通りである。即ち、GaNエピタキシャル層は、一般的に結晶が六角柱状となっており、この柱状粒の界面にはわずかな傾きを持った粒界が存在し、原子配列の不整合が観察される。さらに、GaNエピタキシャル層中には、多くの転位が存在する。そして、これら粒界や転位が、欠陥の増殖、消滅を通じてGaNエピタキシャル層の体積収縮等を生じさせ、真の内部応力の発生原因になっているのである。
かかる真の内部応力の発生原因を踏まえて完成された発明の実施形態が、第3実施形態〜第7実施形態に係るGaN単結晶基板及びその製造方法である。
以下、第3実施形態に係るGaN単結晶基板及びその製造方法を、図8A〜図8Dの製造工程図を用いて説明する。
図8Aに示す第1の工程では、第1実施形態と同様の方法で、GaAs基板2上にGaNからなるバッファ層4およびGaNからなる第1のエピタキシャル層(下層エピタキシャル層)6を成長させる。次いで、図8Bに示す第2の工程では、第1のエピタキシャル層6上にSiN又はSiO2からなるマスク層28を形成する。本実施形態が第1実施形態と異なる点は、このマスク層28の形状にある。
ここで、図9を用いて、マスク層28の形状を説明する。図9に示されているように、本実施形態では、マスク層28に、正方形の開口窓30が複数形成されている。そして、各開口窓10を第1のエピタキシャル層6の<10−10>方向にピッチLで配列し、<10−10>窓群32が形成されている。そして、この<10−10>窓群32は、各開口窓10の中心位置が隣り合う<10−10>窓群32の各開口窓10の中心位置に対して<10−10>方向に1/2Lずらしながら、第1のエピタキシャル層6の<1−210>方向にピッチdで複数並設されている。尚、ここでいう各開口窓30の中心位置とは、各開口窓30の重心位置を意味する。また、各開口窓30を一辺の長さが2μmの正方形とし、ピッチLを6μm、ピッチdを5μmとした。
次に、図8Cに示す第3の工程では、第1実施形態と同様の方法で、マスク層28上に第2のエピタキシャル層34を成長させる。
ここで、図10A及び図10Bを用いて、第2のエピタキシャル層34の成長過程を説明する。図10Aは、第2のエピタキシャル層34の成長初期段階を示している。この図に示されているように、成長初期において、各開口窓30から正六角錐または正六角錐台のGaN結晶粒36が成長する。そして、図10Bに示されているように、このGaN結晶粒36がマスク層28上にラテラル成長すると、各々のGaN結晶粒36は、他のGaN結晶粒36との間に隙間(ピット)を設けることなく繋がる。そして、各GaN結晶粒36がマスク層28を覆い、表面が鏡面状の第2のエピタキシャル層34が形成される。
即ち、<10−10>方向に各開口窓30の中心を1/2Lずらしながら、<10−10>窓群32を<1−210>方向に複数並設しているため、正六角錐台のGaN結晶粒36は隙間を殆ど生じることなく成長し、この結果、真の内部応力が大幅に低減される。
また、第1実施形態と同様に、第2のエピタキシャル層34のマスク層28のマスク部上方に相当する領域では、GaN結晶粒36のラテラル成長の効果により転位が殆ど発生しない。
第2のエピタキシャル層34を成長させた後、図8Dに示す第4の工程に進み、GaAs基板2をエッチング処理等によって除去し、本実施形態のGaN単結晶基板35が完成する。
本実施形態では、上述のように、マスク層28の各開口窓30の形状を一辺が2μmの方形としたが、マスク層28の開口窓30の形状及び寸法はこれに限られず、成長条件等に応じて適宜調整することが望ましい。例えば、一辺が1〜5μmの方形、直径が1〜5μmの円形にすることができる。さらに、各窓10の形状は、方形、円形に限られることはなく、楕円形、多角形にすることもできる。この場合、各開口窓30の面積は、0.7μm2〜50μm2にすることが望ましい。各開口窓30の面積をこの範囲よりも大きくしすぎると、各開口窓30内のエピタキシャル層34で欠陥が多発し、内部応力が増加する傾向にある。一方、各開口窓30の面積をこの範囲よりも小さくしすぎると、各開口窓30の形成が困難となり、また、エピタキシャル層34の成長速度も低下してしまう傾向にある。また、各開口窓30の総面積は、マスク層28の全ての開口窓30及びマスク部を合わせた全面積の10〜50%であることが望ましい。各開口窓30の総面積をこの範囲にした場合、GaN単結晶基板の欠陥密度及び内部応力を著しく低減することができる。
また、本実施形態では、ピッチLを6μm、ピッチdを5μmとしたが、ピッチL及びピッチdの長さは、これに限定されるものではない。ピッチLは、3〜10μmの範囲にすることが望ましい。ピッチLが10μmよりも長すぎると、GaN結晶粒36同士が繋がるまでの時間が増加し、第2のエピタキシャル層34の成長に多大な時間を費やすことになる。一方、ピッチLが3μmよりも短すぎると、結晶粒36がラテラル成長する距離が短くなり、ラテラル成長の効果が小さくなってしまう。また、同様の理由から、ピッチdは、0.75L≦d≦1.3Lとなる範囲にすることが望ましい。特に、d=0.87Lのとき、即ち<10−10>方向に隣接する二つの開口窓30と、この二つの開口窓34の<1−210>方向に存在すると共に、この二つの開口窓34までの距離が最も短い一つの開口窓30とを結ぶと正三角形ができるときに、全面に結晶粒が隙間無く並びエピタキシャル層34に生じるピットが最も少なくなり、GaN単結晶基板の欠陥密度及び内部応力を最小にすることができる。
また、<10−10>窓群32の各開口窓30が隣接する<10−10>窓群32の各開口窓30と<10−10>方向にずれている距離は、必ずしも正確に1/2Lである必要はなく、2/5L〜3/5L程度であれば、内部応力の低減を図ることができる。
尚、マスク層28の厚さは、約0.05μm〜約0.5μmの範囲にすることが望ましい。これは、マスク層28がこの範囲よりも厚すぎるとGaNの成長中にクラックが入ってしまい、一方、この範囲よりも薄すぎるとGaNの成長中にGaAs基板が蒸発損傷を受けるからである。
[第4実施形態]
次に、第4実施形態に係るGaN単結晶基板及びその製造方法を、図11A〜図11Dの製造工程図を用いて説明する。本実施形態は、マスク層の形状以外は、第2実施形態と同様である。
まず、図11Aに示す第1の工程において、GaAs基板2上に直接、SiN又はSiO2から成るマスク層38を形成する。マスク層38は、厚さ約100nm〜約500nmのSiN膜又はSiO2膜をプラズマCVD等により形成し、このSiN膜又はSiO2膜をフォトリソグラフィ技術でパターンニングすることにより形成される。
図12は、図11Aに示す第1の工程におけるウエハの平面図である。図12に示されているように、本実施形態のマスク層38の形状は、第3実施形態のマスク層28と同様の形状である。マスク層38には、複数の開口窓40が形成されている。そして、各開口窓40がGaAs基板2の<11−2>方向にピッチLで配列され、<11−2>窓群42が形成されている。そして、この<11−2>窓群42は、各開口窓40の中心位置が隣り合う<11−2>窓群42の各開口窓40の中心位置に対して<11−2>方向に1/2Lずれながら、GaAs基板2の<1−10>方向にピッチdで複数並設されている。本実施形態のマスク層38が第3実施形態のマスク層28と異なるのは、このような各開口窓の配列方向のみである。
マスク層38を形成した後、図11Bに示す第2の工程で、開口窓40内のGaAs基板2上にバッファ層24を形成する。
次いで、図11Cに示す第3の工程でバッファ層24上にGaNからなるエピタキシャル層26を成長させる。
本実施形態においても、第3実施形態と同様に、成長初期において、各開口窓40から正六角錐台のGaN結晶粒が成長する。そして、このGaN結晶粒がマスク層38上にラテラル成長すると、各々のGaN結晶粒は、他のGaN結晶粒との間に隙間(ピット)を設けることなく繋がる。そして、各GaN結晶粒がマスク層38を覆い、表面が鏡面状のエピタキシャル層26が形成される。
即ち、GaAs基板2の<11−2>方向に各開口窓40の中心を1/2Lずらしながら、<11−2>窓群42を<1−10>方向に複数並設しているため、正六角錐台のGaN結晶粒は隙間を殆ど生じることなく成長し、この結果、真の内部応力が大幅に低減される
尚、各開口窓40は、必ずしもGaAs基板2の<11−2>方向に延在させる必要はなく、例えば、GaAs基板2の<1−10>方向に延在するように形成してもよい。
エピタキシャル層26を成長させた後、図11Dに示す第4の工程に進み、GaAs基板2を除去して本実施形態のGaN単結晶基板39が完成する。なお、GaN単結晶基板39の表面や裏面の粗さが大きいときは、表面および裏面を研磨してもよい。
以上のように、本実施形態のGaN単結晶基板の製造方法によれば、エピタキシャル層を1回成長させるだけで、結晶欠陥が大幅に低減したGaN基板を製造することができ、コスト削減を図ることができる。
[第5実施形態]
図13A〜図13Eを用いて、第5実施形態のGaN単結晶基板及びその製造方法を説明する。
まず、図13Aに示す第1の工程で、第4実施形態と同様にGaAs基板2上に好ましくは厚さ約100nm〜約500nmのマスク層38を形成する。
次に、図13Bに示す第2の工程で、開口窓40内のGaAs基板2上に、好ましくは厚さ約500nm〜約1200nmのバッファ層24を形成する。
次いで、図13Cに示す第3の工程で、バッファ層24及びマスク層38上にGaNからなる第1のエピタキシャル層44を成長させる。第1のエピタキシャル層44の厚さは、約50μm〜約300μmの範囲内にすることが好ましい。本実施形態においても、第3実施形態および第4実施形態と同様に、各開口窓40から成長するGaN結晶粒は、他のGaN結晶粒との間に隙間(ピット)を設けることなく繋がり、マスク層38を埋め込むような構造となる。
図13Dに示す第4の工程では、第1のエピタキシャル層44を形成したウェハをエッチング装置内に配置し、王水で約10時間エッチングすることにより、GaAs基板2を完全に除去する。このようにして、一旦、厚さ約50μm〜約300μmの薄厚のGaN単結晶基板を形成する。
図13Eに示す第5の工程では、第1のエピタキシャル層44上に、上述のHVPE法、有機金属塩化物気相成長法、MOCVD法等によって、GaNからなる第2のエピタキシャル層46を厚さ約100μm〜約700μm成長させる。これにより、厚さ約150μm〜約1000μmのGaN単結晶基板47が形成される。
以上のように、本実施形態では、第2のエピタキシャル層46を成長させる前にGaAs基板2を除去するため、GaAs基板2と、バッファ層24及びエピタキシャル層44,46との熱膨張係数の差に起因する熱応力の発生を防止することができる。このため、GaAs基板2を途中で除去せずにエピタキシャル層を最後まで成長させる場合と比較して、反りやクラックの少ない高品質のGaN単結晶基板を作製することができる。
尚、上述のように、第1のエピタキシャル層44の厚さを約300μm以下にするのは、第1のエピタキシャル層44が厚すぎると、熱応力の影響が大きくなるためである。一方、第1のエピタキシャル層44の厚さを約50μm以上にするのは、第1のエピタキシャル層44が薄すぎると、機械的強度が弱く、ハンドリングが困難なためである。
また、ここではマスク層として第4実施形態のマスク層を用いる場合を説明したが、本実施形態のマスク層に、第2実施形態のようなストライプ窓を有するマスク層を用いてもよい。さらに、GaN単結晶基板47の表面や裏面の粗さが大きいときは、表面および裏面を研磨してもよい。
[第6実施形態]
次に、図14を用いて、第6実施形態に係るGaN単結晶基板及びその製造方法を説明する。本実施形態のバッファ層およびエピタキシャル層の形成方法は、第3実施形態の方法と同じであり、マスク層の開口窓の形状のみ第3実施形態と異なる。
図14は、本実施形態で用いたマスク層48の各開口窓の形状及び配置を示した図である。図のように、各開口窓は長方形(短冊状)に形成され、マスク層48の直ぐ下の層である第1のエピタキシャル層6の<10−10>方向を長手方向とする長方形窓50となっている。各長方形窓50が第1のエピタキシャル層6の<10−10>方向にピッチLで配列されて、<10−10>長方形窓群52が形成されている。そして、この<10−10>長方形窓群52は、隣り合う<10−10>長方形窓群52と<10−10>方向に各長方形窓50の中心位置を1/2Lずらしながら、第1のエピタキシャル層6の<1−210>方向にピッチdで複数並設されている。
尚、ピッチLは、長方形窓50の長手方向の長さが長い場合に、第2のエピタキシャル層が<10−10>方向にラテラル成長しない領域が広くなって、内部応力が低減されにくくなることに鑑み、約4μm〜約20μmの範囲にすることが望ましい。また、長手方向、即ち<10−10>方向に隣り合う長方形窓50間のマスクの長さは、約1μm〜約4μmにすることが望ましい。これは、<10−10>方向へのGaNの成長が遅いため、マスク長さを長くし過ぎると、第2のエピタキシャル層の形成に長時間を費やしてしまうからである。
また、第1のエピタキシャル層6の<1−210>方向に隣り合う長方形窓群52間のマスク幅(d−w)は、約2μm〜約10μmにすることが望ましい。マスク幅(d−w)が広すぎると、六角柱状の結晶粒が連続化するのに時間がかかり、一方、マスク幅(d−w)が狭すぎると、ラテラル成長の効果が得られず、結晶欠陥が低減されにくくなるためである。さらに、各長方形窓50の幅wは、約1μm〜約5μmにすることが望ましい。これは、幅wを広くしすぎると、各長方形窓50内のGaN層で欠陥が多発する傾向にあり、他方、幅wを狭くしすぎると、各長方形窓50の形成が困難となり、第2のエピタキシャル層の成長速度も低下する傾向にあるからである。
このようなマスク層48を形成した後、第3実施形態と同様に、マスク層48上にGaNからなる第2のエピタキシャル層12を成長させるが、本実施形態においても、第2のエピタキシャル層12の成長初期において、各長方形窓50から正六角錐台のGaN結晶粒が成長する。そして、このGaN結晶粒がマスク層48上にラテラル成長すると、各々のGaN結晶粒は、他のGaN結晶粒との間に隙間(ピット)を設けることなく繋がり、マスク層48を埋め込むような構造となる。
即ち、第1のエピタキシャル層6の<10−10>方向に各長方形窓50の中心位置を1/2Lずらしながら、<10−10>長方形窓群52を第1のエピタキシャル層6の<1−210>方向に複数並設しているため、正六角錐台のGaN結晶粒はピットを生じることなく成長し、結晶欠陥の低減および真の内部応力の低減を図ることができる。
また、第3実施形態と同様に、第2のエピタキシャル層のマスク層48のマスク部上方に相当する領域では、GaN結晶粒のラテラル成長の効果により転位が殆ど発生しない。
さらに、各長方形窓50の長手方向が第1のエピタキシャル層6の<10−10>方向と一致するように各長方形窓50が形成されているため、マスク層48上に成長させる第2のエピタキシャル層の成長速度を速めることができる。これは、GaNの成長初期に成長速度の速い{1−211}面が現れて、<1−210>方向への成長速度が増加し、各長方形窓50内に形成された島状のGaN結晶粒が連続膜化するまでの時間が短くなるためである。
また、本実施形態とは異なり、第1のエピタキシャル層6を介さず、直接GaAs基板2上にマスク層48を形成しても、マスク層48上に形成する第2のエピタキシャル層の成長速度を向上することができる。この場合は、長方形窓50の長手方向が、マスク層48の下層のGaAs基板2の<11−2>方向と一致するように形成することが好ましい。
[第7実施形態]
次に、図15を用いて、第7実施形態に係るGaN単結晶基板及びその製造方法を説明する。本実施形態は、マスク層の窓の形状に特徴がある。バッファ層およびエピタキシャル層は、上記各実施形態と同様に形成する。
図15に示されているように、本実施形態では、マスク層58の各開口窓が正六角リング状に形成された六角窓60となっている。そして、この六角窓60の六つの各辺が、マスク層58の下層のエピタキシャル層の<10−10>方向と一致するように形成されている。六角窓60の各辺をこの方向に形成することにより、マスク層58上に形成するエピタキシャル層の成長速度を速めることができる。これは、GaNの成長初期に、成長速度の速い{1−211}面が<1−210>方向に成長するためである。尚、六角窓60の窓幅aは約2μm、外側の正六角形の一辺の長さbは約5μm、隣接する六角窓60間のマスク幅wは約3μmにすることが望ましい。但し、これらの値は、この範囲に限定されるものではない。また、図15中の矢印は、マスク層58の下層のエピタキシャル層の結晶方位を示している。
マスク層58上にエピタキシャル層を成長させた後、ウエハにエッチング処理を施すことにより、GaAs基板を完全に除去する。更に、GaAs基板の除去面を研磨処理して、本実施形態のGaN単結晶基板を形成する。
本実施形態のGaN単結晶基板も、上記各実施形態と同様に、マスク層上のエピタキシャル層のマスク部上方に相当する領域では、GaN結晶粒のラテラル成長の効果により転位が殆ど発生しない。
なお、本実施形態とは異なり、エピタキシャル層を介さず直接GaAs基板上にマスク層58を形成しても、マスク上に形成するエピタキシャル層の成長速度を向上させることができる。この場合は、この六角窓42の六つの各辺が、GaAs基板の<11−2>方向と一致するように形成する。
[第8実施形態]
次に、図16A〜図16Fを用いて、第8実施形態に係るGaN単結晶基板及びその製造方法を説明する。
図16Aに示す第1の工程におけるマスク層8の形成、図16Bに示す第2の工程におけるバッファ層24の形成、図16Cに示す第3の工程におけるエピタキシャル層26の成長、図16Dに示す第4の工程におけるGaAs基板2の除去は、第2実施形態の同様に行われるため、説明は省略する。尚、GaAs基板2が除去されたGaN単結晶基板の厚さは、第2実施形態と同様に約50μm〜約300μm程度、あるいは、それ以上であることが望ましい。
図16Eに示す第5の工程では、図16Dに示すGaN単結晶を種結晶として、エピタキシャル層26上にGaNからなるエピタキシャル層62を成長させて、GaN単結晶のインゴット64を形成する。尚、エピタキシャル層62の成長方法としては、上記各実施形態と同様にHVPE法、有機金属塩化物気相成長法、MOCVD法等があるが、本実施形態では、この他、昇華法を採用してもよい。昇華法は、図22に示すような成長装置90を用いて行われる成長法であり、より詳しくは、原料とするGaN粉末92と基板2とが対向して設置された反応炉94内に、高温中でNH3ガス等を流し込み、これによりGaN粉末の蒸発拡散を進行させながらNH3ガスを流し込み、基板2上にGaNを成長させる気相成長方法である。この昇華法は、微妙な制御が困難であるが、エピタキシャル層の厚付け、即ち、インゴットの作製には適している。本実施形態では、反応炉の温度を約1000℃〜約1300℃に設定し、窒素ガスをキャリアガスとして、アンモニアを約10sccm〜約100sccm流し込む。
次に、図16Fに示す第6の工程では、GaN単結晶のインゴット64を複数枚のGaN単結晶基板66にする。インゴット64を複数枚のGaN単結晶基板にする方法としては、インゴット64を内周歯のスライサー等により切断する方法とGaN単結晶の劈開面に沿ってインゴット64を劈開する方法とがある。尚、切断処理と劈開処理の両方を用いてもよい。
以上のように、本実施形態によれば、GaN単結晶のインゴットを複数枚に切断又は劈開するため、簡単な作業で、結晶欠陥が低減されたGaN単結晶基板を複数枚得ることができる。すなわち、上記各実施形態と比較して、量産性を向上させることができる。
尚、インゴット64の高さは、約1cm以上にすることが好ましい。インゴット64が1cmよりも低すぎると量産効果がないためである。
また、本実施形態の製造方法は、図6Aから図6Dに示す第2実施形態の製造工程を経たGaN単結晶基板上に基づいてインゴット64を形成するものであるが、本実施形態はこの方法には限られない。この他、第1実施形態〜第7実施形態の製造工程を経たGaN単結晶基板に基づいてインゴット64を形成するようにしてもよい。
尚、本実施形態のGaN単結晶基板66は、故意のドーピングなしで、キャリア濃度がn型で1×1016cm−3〜1×1020cm−3の範囲内、電子移動度が60cm2〜800cm2の範囲内、比抵抗が1×10−4Ωcm〜1×10Ωcmの範囲内になるように制御可能であることが実験により判明した。
[第9実施形態]
次に、図17A〜図17Cを用いて、第9実施形態に係るGaN単結晶基板及びその製造方法を説明する。
図17Aに示す第1の工程では、GaAs基板2上に、マスク層8及びバッファ層24を形成する。マスク層8およびバッファ層24の形成方法は、上記各実施形態と同様である。
次に、図17Bに示す第2の工程では、GaNからなるエピタキシャル層68を一気に成長させて、インゴット70を形成する。エピタキシャル層68の成長方法は、第8実施形態のエピタキシャル層62の成長方法と同様である。尚、インゴット70の高さは、約1cm以上にすることが好ましい。
図17Cに示す第3の工程では、第8実施形態の第6の工程と同様に、切断処理又は劈開処理によって、GaN単結晶のインゴット70を複数枚のGaN単結晶基板72にする。
以上のように、本実施形態によれば、GaN単結晶のインゴットを複数枚に切断又は劈開するため、簡単な作業で、結晶欠陥が低減されたGaN単結晶基板を複数枚得ることができる。すなわち、第1実施形態〜第7実施形態と比較して、量産性を向上させることができる。さらに、GaNエピタキシャル層の成長は一回だけなので、第8実施形態と比較しても、製造プロセスの簡略化およびコスト削減を図ることができる。
尚、本実施形態のGaN単結晶基板72も、第8実施形態のGaN単結晶基板66と同様に、故意のドーピングなしで、キャリア濃度がn型で1×1016cm−3〜1×1020cm−3の範囲内、電子移動度が60cm2〜800cm2の範囲内、比抵抗が1×10−4Ωcm〜1×10Ωcmの範囲内になるように制御可能であることが実験により判明した。
[第10実施形態]
図18A〜図18Bを用いて、第10実施形態に係るGaN単結晶基板及びその製造方法を説明する。
まず、図18Aに示す第1の工程で、上記第8実施形態で製造されたGaN単結晶基板66上にエピタキシャル層74を成長させて、GaN単結晶のインゴット76を形成する。エピタキシャル層74の成長方法には、上記各実施形態と同様に、HVPE法、有機金属塩化物気相成長法、MOCVD法、昇華法等を用いることができる。
次に、図18Bに示す第2の工程では、切断処理又は劈開処理によって、GaN単結晶のインゴット76を複数枚のGaN単結晶基板78にする。これにより、本実施形態のGaN単結晶基板78が得られる。
以上のように、本実施形態では、既に製造されたGaN単結晶基板に基づいてインゴットを作製するため、簡単な作業で、結晶欠陥が低減されたGaN単結晶基板を複数枚得ることができる。尚、本実施形態では、第8実施形態で製造されたGaN単結晶基板66を種結晶としてインゴットを作製したが、インゴットの種結晶はこれには限られない。例えば、第9実施形態のGaN単結晶基板72を種結晶として用いることもできる。
[第11実施形態]
図19A〜図19Cを用いて、第11実施形態に係るGaN単結晶基板及びその製造方法を説明する。
まず、図19Aに示す第1の工程で、GaAs基板2上に、厚さ約50nm〜約120nmのバッファ層79を形成する。
次に、図19Bに示す第2の工程で、マスク層を形成せずに、バッファ層79上にGaNからなるエピタキシャル層81を成長させて、高さ約1cm以上のGaN単結晶のインゴット83を形成する。尚、エピタキシャル層81を成長させるには、HVPE法、有機金属塩化物気相成長法、MOCVD法、昇華法等を用いることができる。ここで、本実施形態ではマスク層を形成しないため、エピタキシャル層のラテラル成長は起こらず結晶欠陥は少なくないが、エピタキシャル層を厚くすることで転位を低減することができる。
最後に、図19Cに示す第3の工程では、切断処理又は劈開処理によって、GaN単結晶のインゴット83を複数枚のGaN単結晶基板85にする。
以上のように、本実施形態によれば、GaN単結晶のインゴットを複数枚に切断又は劈開するため、簡単な作業で、結晶欠陥が低減されたGaN単結晶基板を複数枚得ることができる。すなわち、第1実施形態〜第7実施形態と比較して、量産性を向上させることができる。
[発光デバイス及び電子デバイス]
上記各実施形態により製造されるGaN単結晶基板は、n型で導電性を有するため、その上にMOCVD法などでInGaN活性層を含むGaN系の層をエピタキシャル成長させることにより、発光ダイオード等の発光デバイスや電界効果トランジスタ(MESFET)等の電子デバイスを形成することができる。これらの発光デバイス等は、上記各実施形態で製造された結晶欠陥が少ない高品質のGaN基板を使用して作製されているため、サファイア基板を用いた発光デバイス等と比較して特性が著しく向上する。また、GaN単結晶基板に成長させたエピタキシャル層の(0001)面がGaN単結晶基板の(0001)面に対して平行にホモエピタキシャル成長し、劈開面が一致するため、上記発光デバイス等は優れた性能を有する。
図20は、第3実施形態で得られたGaN単結晶基板35を用いた発光ダイオード80を示す図である。この発光ダイオード80は、GaN単結晶基板35上に、GaNバッファ層101と、Siドープn型GaN障壁層102と、厚さ30オングストロームのアンドープIn0.45Ga0.55N井戸層103と、Mgドープp型Al0.2Ga0.8N障壁層104と、Mgドープp型GaNコンタクト層105と、を成長させた量子井戸構造となっている。この発光ダイオード80は、アンドープInGaN井戸層103の組成比により発光色を変化することができ、たとえばInの組成比を0.2にすると青色発光になる。
この発光ダイオード80の特性を調べた結果、従来のサファイア基板を用いた発光ダイオードの発光輝度が0.5cdであったのに対し、2.5cdと5倍になった。
尚、かかる発光ダイオードの基板として、第3実施形態のGaN単結晶基板35に限られず、他の実施形態のGaN単結晶基板も当然使用することができる。
図21は、第3実施形態で得られたGaN単結晶基板35を用いた半導体レーザ82を示す図である。半導体レーザ82は、GaN単結晶基板35上に、GaNバッファ層111と、n−GaNコンタクト層112と、n−In0.05Ga0.95Nクラッド層113と、n−Al0.08Ga0.92Nクラッド層114と、n−GaNガイド層115と、SiドープIn0.15Ga0.85N(35オングストローム)/In0.02Ga0.08N(70オングストローム)多層によるMQW層116と、p−Al0.2Ga0.8N内部クラッド層117と、p−GaNガイド層118と、p−Al0.08Ga0.92Nクラッド119層と、p−GaNコンタクト層120と、を成長させ、その上下面から電極をとる構造となっている。
この半導体レーザ82では、従来は数分程度であった発振寿命が100時間を超え、大幅な特性向上を実現することができた。具体的には、従来、約1.5分程度であった発振寿命が、約120時間と増加した。
尚、かかる半導体レーザとして、第3実施形態のGaN単結晶基板35に限られず、他の実施形態のGaN単結晶基板も当然使用することができる。
さらに、図示は省略するが、本実施形態のGaN単結晶基板をもとに電界効果トランジスタ(MESFET)を製作した。この電界効果トランジスタの特性を調べた結果、500℃という高温においても43mS/mmという高い相互コンダクタンス(gm)が得られ、本実施形態のGaN単結晶基板は、電子デバイス用の基板としても有効であることが分かった。
実施例1
第1実施形態のGaN単結晶基板及びその製造方法の実施例である実施例1について、図1A〜図1Dを参照して説明する。
GaAs基板2には、GaAs(111)面がGa面となっているGaAs(111)A基板を使用した。また、バッファ層4、第1のエピタキシャル層6、及び第2のエピタキシャル層12は、全て図3に示す気相成長装置を用いて有機金属塩化物気相成長法によって形成した。
まず、図1Aに示す第1の工程で、バッファ層4を有機金属塩化物気相成長法によって形成した。この際、抵抗加熱ヒータ81によってGaAs基板2の温度を約500℃に昇温保持し、トリメチルガリウム(TMG)を分圧6×10−4atm、塩化水素を分圧6×10−4atm、アンモニアを分圧0.13atmでそれぞれ反応チャンバ79内に導入した。そして、バッファ層4の厚さを約800オングストロームにした。
次に、バッファ層4上に、有機金属塩化物気相成長法によって第1のエピタキシャル層6を成長させた。この際、抵抗加熱ヒータ81によってGaAs基板2の温度を約970℃に昇温保持し、トリメチルガリウム(TMG)を分圧2×10−3atm、塩化水素を分圧2×10−3atm、アンモニアを分圧0.2atmでそれぞれ反応チャンバ79内に導入した。そして、約15μm/hrの成長速度で、第1のエピタキシャル層6の厚さを約4μmにした。
次に、図1Bに示す第2の工程で、第1のエピタキシャル層6上にSiO2からなるマスク層8を形成した。この際、ストライプ窓10の長手方向を第1のエピタキシャル層6の[10−10]に向け、マスク層8の厚さを約300nm、マスク部の幅Pを約5μm、窓幅Qを約2μmとした。
次に、図1Cに示す第3の工程で、有機金属塩化物気相成長法によって第2のエピタキシャル層12を成長させた。この際、抵抗加熱ヒータ81によってGaAs基板2の温度を約970℃に昇温保持し、トリメチルガリウム(TMG)を分圧2×10−3atm、塩化水素を分圧2×10−3atm、アンモニアを分圧0.25atmでそれぞれ反応チャンバ79内に導入した。そして、約20μm/hrの成長速度で、第2のエピタキシャル層12の厚さを約100μmにした。
次に、図1Dに示す第4の工程で、ウエハをエッチング装置に設置し、アンモニア系エッチング液でGaAs基板2を約1時間ウエットエッチングすることで、GaAs基板2を完全に除去した。そして最後に、GaAs基板2の除去面に研磨処理を施して、GaN単結晶基板13を完成させた。
本実施例により製造されたGaN単結晶基板の諸特性は以下のようであった。すなわち、このGaN単結晶基板は、基板面が(0001)面となっており、その結晶性はX線解析によるX線半値幅4.5分、そして、転位密度が単位面積当たり107(cm−2)程度であった。これにより、従来のサファイア基板上にGaNエピタキシャル層を形成した場合の欠陥密度が単位面積当たり109(cm−2)であったのに比べて、結晶欠陥が大幅に低減したことが分かった。
実施例2
次に、第1実施形態の他の実施例である実施例2について、図1A〜図1Dを参照して説明する。
GaAs基板2には、GaAs(111)A基板を使用した。また、バッファ層4、第1のエピタキシャル層6、及び第2のエピタキシャル層12は、全て図2に示す気相成長装置を用いてHVPE法によって形成した。
まず、図1Aに示す第1の工程で、バッファ層4をHVPE法によって形成した。この際、抵抗加熱ヒータ61によってGaAs基板2の温度を約500℃に昇温保持し、塩化水素を分圧5×10−3atm、アンモニアを分圧0.1atmでそれぞれ反応チャンバ59内に導入した。そして、バッファ層4の厚さを約800オングストロームにした。
次に、バッファ層4上に、HVPE法によって第1のエピタキシャル層6を成長させた。この際、抵抗加熱ヒータ61によってGaAs基板2の温度を約970℃に昇温保持し、塩化水素を分圧2×10−2atm、アンモニアを分圧0.25atmでそれぞれ反応チャンバ79内に導入した。そして、成長速度を約80μm/hrにして、第1のエピタキシャル層6の厚さを約4μmにした。
次に、図1Bに示す第2の工程で、第1のエピタキシャル層6上にマスク層8を形成した。この際、ストライプ窓10の長手方向を第1のエピタキシャル層6の[10−10]に向け、マスク層8の厚さを約300nm、マスク部の幅Pを約5μm、窓幅Qを約2μmとした。
次に、図1Cに示す第3の工程で、HVPE法によって第2のエピタキシャル層12を成長させた。この際、抵抗加熱ヒータ61によってGaAs基板2の温度を約970℃に昇温保持し、塩化水素を分圧2.5×10−2atm、アンモニアを分圧0.25atmでそれぞれ反応チャンバ79内に導入した。そして、成長速度を約100μm/hrにして、第2のエピタキシャル層12の厚さを約100μmにした。このように、本実施例では、HVPE法を用いているため、有機金属塩化物気相成長法を用いた実施例1と比較して、エピタキシャル層の成長速度を速くすることができた。
次に、図1Dに示す第4の工程で、ウエハをエッチング装置に設置し、アンモニア系エッチング液でGaAs基板2を約1時間ウエットエッチングすることで、GaAs基板2を完全に除去した。そして最後に、GaAs基板2の除去面に研磨処理を施して、GaN単結晶基板13を完成させた。
本実施例により製造されたGaN単結晶基板の諸特性は以下のようであった。すなわち、このGaN単結晶基板は、基板面が(0001)面となっており、その結晶性はX線解析によるX線半値幅4.5分、そして、転位密度が単位面積当たり5×107(cm−2)程度であった。これにより、従来のサファイア基板上にGaNエピタキシャル層を形成した場合の欠陥密度が単位面積当たり109(cm−2)であったのに比べて、結晶欠陥が大幅に低減したことが分かった。
実施例3
次に、第2実施形態の実施例である実施例3について、図6A〜図6Dを参照して説明する。
GaAs基板2には、GaAs(111)面がAs面となっているGaAs(111)B基板を使用した。また、バッファ層24及び第2のエピタキシャル層26は、ともに図3に示す気相成長装置を用いて有機金属塩化物気相成長法によって形成した。
まず、図6Aに示す第1の工程で、GaAs基板2上にマスク層8を形成した。この際、ストライプ窓10の長手方向をGaAs基板2の[11−2]に向け、マスク層8の厚さを約350nm、マスク部の幅Pを約4μm、窓幅Qを約2μmとした。
次に、図6Bに示す第2の工程で、ストライプ窓10内のGaAs基板2上にバッファ層24を有機金属塩化物気相成長法によって形成した。この際、抵抗加熱ヒータ81によってGaAs基板2の温度を約500℃に昇温保持し、トリメチルガリウム(TMG)を分圧6×10−4atm、塩化水素を分圧6×10−4atm、アンモニアを分圧0.1atmでそれぞれ反応チャンバ79内に導入した。そして、バッファ層24の厚さを約700オングストロームにした。
次に、図6Cに示す第3の工程で、バッファ層24上に、有機金属塩化物気相成長法によってエピタキシャル層26を成長させた。この際、抵抗加熱ヒータ81によってGaAs基板2の温度を約820℃に昇温保持し、トリメチルガリウム(TMG)を分圧3×10−3atm、塩化水素を分圧3×10−3atm、アンモニアを分圧0.2atmでそれぞれ反応チャンバ79内に導入した。そして、成長速度を約30μm/hrにして、エピタキシャル層26の厚さを約100μmにした。
次に、図6Dに示す第4の工程で、ウエハをエッチング装置に設置し、アンモニア系エッチング液でGaAs基板2を約1時間ウエットエッチングすることで、GaAs基板2を完全に除去した。そして最後に、GaAs基板2の除去面に研磨処理を施して、GaN単結晶基板27を完成させた。
本実施例により製造されたGaN単結晶基板は、転位密度が単位面積当たり2×107(cm−2)程度であった。すなわち、本実施例により製造されたGaN単結晶基板は、実施例1および実施例2のGaN単結晶基板よりは転位密度が大きかったものの、従来のサファイア基板上にGaNエピタキシャル層を形成した場合よりも結晶欠陥が大幅に低減したことが分かった。また、本実施例では、実施例1および実施例2よりも製造工程数が少ないため、コスト削減を図ることができた。
実施例4
次に、第3実施形態の実施例である実施例4について、図8A〜図8Dを参照して説明する。
GaAs基板2には、GaAs(111)A基板を使用した。また、バッファ層4、第1のエピタキシャル層6、及び第2のエピタキシャル層34は、全て図3に示す気相成長装置を用いて有機金属塩化物気相成長法によって形成した。
まず、図8Aに示す第1の工程で、バッファ層4を有機金属塩化物気相成長法によって形成した。この際、抵抗加熱ヒータ81によってGaAs基板2の温度を約500℃に昇温保持し、トリメチルガリウム(TMG)を分圧6×10−4atm、塩化水素を分圧6×10−4atm、アンモニアを分圧0.1atmでそれぞれ反応チャンバ79内に導入した。そして、バッファ層4の厚さを約700オングストロームにした。
次に、バッファ層4上に、有機金属塩化物気相成長法によって第1のエピタキシャル層6を成長させた。この際、抵抗加熱ヒータ81によってGaAs基板2の温度を約970℃に昇温保持し、トリメチルガリウム(TMG)を分圧2×10−3atm、塩化水素を分圧2×10−3atm、アンモニアを分圧0.2atmでそれぞれ反応チャンバ79内に導入した。そして、約15μm/hrの成長速度で、第1のエピタキシャル層6の厚さを約2μmにした。
次に、図8Bに示す第2の工程で、第1のエピタキシャル層6上にSiO2からなるマスク層28を形成した。この際、開口窓30を1辺の長さが2μmの正方形とし、<10−10>窓群32のピッチLを6μm、ピッチdを5μmとした。また、隣り合う<10−10>窓群32同士を、<10−10>方向に3μmずつずらした。
次に、図8Cに示す第3の工程で、有機金属塩化物気相成長法によって第2のエピタキシャル層34を成長させた。この際、抵抗加熱ヒータ81によってGaAs基板2の温度を約1000℃に昇温保持し、トリメチルガリウム(TMG)を分圧4×10−3atm、塩化水素を分圧4×10−3atm、アンモニアを分圧0.2atmでそれぞれ反応チャンバ79内に導入した。そして、成長速度を約25μm/hrにして、第2のエピタキシャル層12の厚さを約100μmにした。
次に、図8Dに示す第4の工程で、ウエハをエッチング装置に設置し、王水でGaAs基板2を約10時間エッチングすることで、GaAs基板2を完全に除去した。そして最後に、GaAs基板2の除去面に研磨処理を施して、GaN単結晶基板35を完成させた。
本実施例により製造されたGaN単結晶基板の諸特性は以下のようであった。すなわち、欠陥密度は、約3×107(cm−2)程度であり、従来よりも著しく低減されていた。また、クラックも観察されなかった。また、別途マスク層形成工程を省いて製造したGaN単結晶基板の曲率半径は約65mmであったが、本実施例のGaN単結晶基板の曲率半径は約770mmで、GaN単結晶基板の反りをかなり低減させることができた。また、従来0.05GPaであった内部応力も、本実施例のGaN単結晶基板では約0.005GPaと約1/10に低減していた。尚、GaN単結晶基板の内部応力は、上述のストーニーの式(数式(2))により算出した。また、ホール測定により電気特性を算出したところ、n型でキャリア濃度2×1018cm−3、キャリア移動度180cm2/V・Sであった。
実施例5
次に、第5実施形態の実施例である実施例5について、図13A〜図13Eを参照して説明する。
GaAs基板2には、GaAs(111)A基板を使用した。また、バッファ層24、第1のエピタキシャル層44、及び第2のエピタキシャル層46は、全て図2に示す気相成長装置を用いてHVPE法によって形成した。
まず、図13Aに示す第1の工程で、GaAs基板2上にマスク層38を形成した。この際、開口窓40を直径が2μmの円形とし、<11−2>窓群のピッチLを6μm、ピッチdを5.5μmとした。また、隣り合う<11−2>窓群同士を、<11−2>方向に3μmずつずらした。
次に、図13Bに示す第2の工程で、開口窓40内のGaAs基板2上にバッファ層24をHVPE法によって形成した。この際、抵抗加熱ヒータ61によってGaAs基板2の温度を約500℃に昇温保持し、トリメチルガリウム(TMG)を分圧6×10−4atm、塩化水素を分圧6×10−4atm、アンモニアを分圧0.1atmでそれぞれ反応チャンバ59内に導入した。そして、バッファ層24の厚さを約700オングストロームにした。
次に、図13Cに示す第3の工程で、バッファ層24上に、HVPE法によって第1のエピタキシャル層44を成長させた。この際、抵抗加熱ヒータ61によってGaAs基板2の温度を約970℃に昇温保持し、トリメチルガリウム(TMG)を分圧5×10−3atm、塩化水素を分圧5×10−3atm、アンモニアを分圧0.25atmでそれぞれ反応チャンバ59内に導入した。そして、成長速度を約25μm/hrにして、第1のエピタキシャル層44の厚さを約50μmにした。
次に、図13Dに示す第4の工程で、ウェハをエッチング装置内に配置し、王水で約10時間エッチングして、GaAs基板2を完全に除去した。このようにして、一旦、厚さ約50μmの薄厚のGaN単結晶基板を形成した。
続いて、図13Eに示す第5の工程で、第1のエピタキシャル層44上に、HVPEによって、成長温度100℃にて塩化水素の分圧2×10−2atm、アンモニアの分圧0.2atmで、約100μm/hrの成長速度でGaNからなる第2のエピタキシャル層46を厚さ約130μm成長させた。これにより、厚さ約180μmのGaN単結晶基板47を形成した。
以上のようにして形成された本実施例のGaN単結晶基板は、測定の結果、基板表面での欠陥密度が2×107/cm2程度と著しく低減されており、クラックも観察されなかった。また、GaN単結晶基板の反りを従来よりも低減することができ、内部応力も0.002GPaと非常に小さいことが分かった。
実施例6
次に、第8実施形態の実施例である実施例6について、図16A〜図16Fを参照して説明する。
本実施例では、GaAs基板2としてGaAs(111)A基板を使用した。また、バッファ層24、エピタキシャル層26、及びエピタキシャル層62は、全て図2に示す気相成長装置を用いてHVPE法によって形成した。
まず、図16Aに示す第1の工程で、GaAs基板2上にマスク層8を形成した。この際、ストライプ窓10の長手方向をGaAs基板2の[11−2]に向け、マスク層8の厚さを約300nm、マスク部の幅Pを約5μm、窓幅Qを約3μmとした。
次に、図16Bに示す第2の工程で、GaAs基板2の温度を約500℃にした状態で、ストライプ窓10内のGaAs基板2上にバッファ層24をHVPE法によって形成した。尚、バッファ層24の厚さは、約800オングストロームにした。
次に、図16Cに示す第3の工程で、GaAs基板2の温度を約950℃にした状態で、バッファ層24上にHVPE法によってエピタキシャル層26を約200μm成長させた。
次に、図16Dに示す第4の工程で、GaAs基板2を王水でエッチング除去した。
図16Eに示す第5の工程では、反応チャンバ59内の温度を1020℃にした状態で、エピタキシャル層26上にHVPE法によってエピタキシャル層62をさらに厚付けし、GaN単結晶のインゴット64を形成した。インゴット64は、上面の中央部が少し窪んだ形状で、底から上面中央部までの高さは約2cm、外径は約55mmであった。
続いて、図16Fに示す第6の工程で、内周歯のスライサーによってインゴット64を切断し、外径約50mm、厚さ約350μmのGaN単結晶基板66を20枚得た。このGaN単結晶基板66には、顕著な反りの発生は見られなかった。尚、切断処理後に、GaN単結晶基板66には、ラッピング研磨および仕上げ研磨を施した。
上述の実施例1〜実施例5では、1回の製造処理により1枚の単結晶基板しか得られないが、本実施例においては、1回の製造処理により20枚の基板が得られた。また、製造コストは、実施の約65%に低減された。このように、本実施例では、大幅なコスト削減が図れ、さらに、1枚あたりの製造時間を短縮することができた。
尚、インゴット64の最上端部から得られたGaN単結晶基板66の電気特性を測定した結果、キャリア濃度はn型2×1018cm−3で、電子移動度は、200cm2/Vs、比抵抗は、0.017Ωcmであった。
また、インゴット64の最下端部から得られたGaN単結晶基板66の電気特性を測定した結果、キャリア濃度はn型8×1018cm-3で、電子移動度は、150cm2/Vs、比抵抗は、0.006Ωcmであった。
従って、インゴット64の中間部の特性は、この間の値、あるいは近傍にあることを品質保証でき、全量検査をする手間を省くことができる。
尚、このGaN単結晶基板66を用いてInGaNを発光層とするLEDを作製したところ、従来のサファイア基板上のものと比較して、発光輝度が約5倍に向上した。発光輝度が向上した理由は、従来のLEDでは、活性層内に多くの貫通転位が存在しているのに対し、本実施例においては発光層内に貫通転位が存在しないためであると考えられる。
実施例7
次に、第8実施形態の他の実施例である実施例7について、図16A〜図16Fを参照して説明する。
本実施例では、GaAs基板2としてGaAs(111)A基板を使用した。また、バッファ層24、エピタキシャル層26、及びエピタキシャル層62は、全て図3に示す気相成長装置を用いて有機金属塩化物気相成長法によって形成した。
まず、図16Aに示す第1の工程で、GaAs基板2上にマスク層8を形成した。この際、ストライプ窓10の長手方向をGaAs基板2の[11−2]に向け、マスク層8の厚さを約500nm、マスク部の幅Pを約5μm、窓幅Qを約3μmとした。
次に、図16Bに示す第2の工程で、GaAs基板2の温度を約490℃にした状態で、ストライプ窓10内のGaAs基板2上にバッファ層24をHVPE法によって形成した。尚、バッファ層24の厚さは、約800オングストロームにした。
次に、図16Cに示す第3の工程で、GaAs基板2の温度を約970℃にした状態で、バッファ層24上に有機金属塩化物気相成長法によってエピタキシャル層26を約25μm成長させた。
次に、図16Dに示す第4の工程で、GaAs基板2を王水でエッチング除去した。
図16Eに示す第5の工程では、反応チャンバ79内の温度を1000℃にした状態で、エピタキシャル層26上にHVPE法によってエピタキシャル層62をさらに厚付けし、GaN単結晶のインゴット64を形成した。インゴット64は、上面の中央部が少し窪んだ形状で、底から上面中央部までの高さは約3cm、外径は約30mmであった。
続いて、図16Fに示す第6の工程で、内周歯のスライサーによってインゴット64を切断し、外径約20〜約30mm、厚さ約400μmのGaN単結晶基板66を25枚得た。このGaN単結晶基板66には、顕著な反りの発生は見られなかった。尚、切断処理後に、GaN単結晶基板66には、ラッピング研磨および仕上げ研磨を施した。
上述の実施例1〜実施例5では、1回の製造処理により1枚の単結晶基板しか得られないが、本実施例においては、1回の製造処理により25枚の基板が得られた。また、製造コストは、実施の約65%に低減された。このように、本実施例では、大幅なコスト削減が図れ、さらに、1枚あたりの製造時間を短縮することができた。
尚、インゴット64の中間部から得られたGaN単結晶基板66の電気特性を測定した結果、キャリア濃度はn型2×1018cm−3で、電子移動度は、250cm2/Vs、比抵抗は、0.015Ωcmであった。
実施例8
次に、第9実施形態の実施例である実施例8について、図17A〜図17Cを参照して説明する。
本実施例では、GaAs基板2としてGaAs(111)A基板を使用した。また、バッファ層24およびエピタキシャル層68は、ともに図2に示す成長装置を用いてHVPE法によって形成した。
まず、図17Aに示す第1の工程で、GaAs基板2上にマスク層8を形成した。この際、ストライプ窓10の長手方向をGaAs基板2の[11−2]に向け、マスク層8の厚さを約250nm、マスク部の幅Pを約5μm、窓幅Qを約3μmとした。そして、マスク層8を形成した後、GaAs基板2の温度を約500℃にした状態で、ストライプ窓10内のGaAs基板2上にバッファ層24をHVPE法によって形成した。尚、バッファ層24の厚さは、約900オングストロームにした。
次に、図17Bに示す第2の工程で、GaAs基板2の温度を約1000℃にした状態で、バッファ層24上にHVPE法によってエピタキシャル層68を成長させて、GaN単結晶のインゴット70を形成した。インゴット70は、上面の中央部が少し窪んだ形状で、底から上面中央部までの高さは約1.6cmであった。
続いて、図17Cに示す第3の工程で、内周歯のスライサーによってインゴット70を切断し、厚さ約300μmのGaN単結晶基板72を12枚得た。このGaN単結晶基板72には、顕著な反りの発生は見られなかった。尚、切断処理後に、GaN単結晶基板72には、ラッピング研磨および仕上げ研磨を施した。
上述の実施例1〜実施例5では、1回の製造処理により1枚の単結晶基板しか得られないが、本実施例においては、1回の製造処理により12枚の基板が得られた。また、製造コストは、実施例1の約60%に低減された。このように、本実施例では、大幅なコスト削減が図れ、さらに、1枚あたりの製造時間を短縮することができた。
尚、インゴット70の中間部から得られたGaN単結晶基板72の電気特性を測定した結果、キャリア濃度はn型1×1019cm-3で、電子移動度は、100cm2/Vs、比抵抗は、0.005Ωcmであった。
実施例9
次に、第10実施形態の実施例である実施例9について、図18A〜図18Bを参照して説明する。
まず、図18Aに示す第1の工程で、実施例6で製造されたGaN単結晶基板上にエピタキシャル層74を成長させて、GaN単結晶のインゴット76を形成した。この際、エピタキシャル層74は、HVPE法により、GaAs基板2の温度を約1010℃にした状態で成長させた。また、インゴット76は、上面の中央部が少し窪んだ形状で、底から上面中央部までの高さは約2.5cmで、外径は約55mmであった。
次に、図18Bに示す第2の工程では、内周歯のスライサーによってインゴット76を切断し、外径約50mm、厚さ約600μmのGaN単結晶基板78を15枚得た。
実施例1〜実施例5では、1回の製造処理により1枚の単結晶基板しか得られないが、本実施例においては、1回の製造処理により15枚の基板が得られた。また、製造コストは、実施例1と同様のプロセスで製造した場合と比較して約55%に低減された。このように、本実施例では、大幅なコスト削減が図れ、さらに、1枚あたりの製造時間を短縮することができた。
尚、インゴット76の中間部から得られたGaN単結晶基板78の電気特性を測定した結果、キャリア濃度はn型1×1017cm-3で、電子移動度は、650cm2/Vs、比抵抗は、0.08Ωcmであった。
実施例10
次に、第10実施形態の他の実施例である実施例10について、図18A〜図18Bを参照して説明する。
まず、図18Aに示す第1の工程で、実施例7で製造されたGaN単結晶基板上にエピタキシャル層74を成長させて、GaN単結晶のインゴット76を形成した。この際、エピタキシャル層74は、図22に示した成長装置を用いて、昇華法により、GaAs基板2の温度を約1200℃にした状態で成長させた。尚、反応容器内に流し込んだアンモニアは、20sccmであった。また、インゴット76は、実施例6〜実施例9のインゴットと比べると平坦で、底から上面までの高さは約0.9cmで、外径は約35mmであった。
次に、図18Bに示す第2の工程では、内周歯のスライサーによってインゴット76を切断し、外径約35mm、厚さ約500μmのGaN単結晶基板78を5枚得た。
実施例1〜実施例5では、1回の製造処理により1枚の単結晶基板しか得られないが、本実施例においては、1回の製造処理により5枚の基板が得られた。また、製造コストは、実施例1の約80%に低減された。このように、本実施例では、大幅なコスト削減が図れ、さらに、1枚あたりの製造時間を短縮することができた。
尚、インゴット76の中間部から得られたGaN単結晶基板78の電気特性を測定した結果、キャリア濃度はn型1×1018cm-3で、電子移動度は、200cm2/Vs、比抵抗は、0.03Ωcmであった。
実施例11
次に、第11実施形態の実施例である実施例11について、図19A〜図19Cを参照して説明する。
まず、図19Aに示す第1の工程で、HVPE法によって、約500℃にされたGaAs基板2上に、厚さ約90nmのGaNからなるバッファ層79を形成した。尚、GaAs基板として、GaAs(111)B基板を使用した。
次に、図19Bに示す第2の工程で、HVPE法によって、バッファ層79上にGaNからなるエピタキシャル層81を成長させて、GaN単結晶のインゴット83を形成した。この際、エピタキシャル層81は、HVPE法により、GaAs基板2の温度を約1030℃にした状態で成長させた。また、インゴット83は、上面の中央部が少し窪んだ形状で、底から上面中央部までの高さは約1.2cmであった。
最後に、図19Cに示す第3の工程で、内周歯のスライサーによってインゴット83を切断し、厚さ約300μmのGaN単結晶基板85を10枚得た。
実施例1〜実施例5では、1回の製造処理により1枚の単結晶基板しか得られないが、本実施例においては、1回の製造処理により10枚の基板が得られた。また、製造コストは、実施例1の約70%に低減された。このように、本実施例では、大幅なコスト削減が図れ、さらに、1枚あたりの製造時間を短縮することができた。
尚、インゴット83の中間部から得られたGaN単結晶基板78の電気特性を測定した結果、キャリア濃度はn型1×1019cm-3で、電子移動度は、100cm2/Vs、比抵抗は、0.005Ωcmであった。