本発明の実施形態を示す前に、まず、本願発明者らが本発明を完成するに至った経緯を示す。
上述したように、ウロキナーゼやt−PAなどの血栓溶解薬の作用機序は、プラスミンの量が増加することにより血栓溶解を亢進させるというものである。
ところで、血栓はプラスミンにより溶解される。そのため、プラスミン活性を亢進させることにより血栓溶解を亢進させることができるのではないか、と本願発明者らは考えた。そして、このプラスミン活性を亢進させるポリペプチドを見つけだしてこのポリペプチドを用いて医薬品を合成すれば、従来の血栓溶解薬の作用機序とは全く異なる作用機序を備えた血栓溶解促進薬を合成することができる、と彼らは考え、特許文献1に開示する発明を完成させるに至った。
しかし、特許文献1に開示する発明は、プラスミン活性を亢進させる特定のポリペプチドを示したにすぎなかった。ここで、生体内では、上述のように、プラスミノーゲンがフィブリン上でt−PAにより活性化されてプラスミンが合成され、このプラスミンがフィブリンを溶解する。そのため、t−PA活性を亢進させることにより血栓溶解を亢進させることができるのではないか、と本願発明者らは考えた。また、ウロキナーゼは、フィブリンと結合しないがプラスミノーゲンをプラスミンに変換する。よって、ウロキナーゼとt−PAとは略同一の機能を有しているため、ウロキナーゼについてもt−PAと同様に考え、t−PA活性を亢進させるポリペプチドとウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチドとをそれぞれ特定するに至った。
また、本願発明者らは、血栓溶解を亢進させる物質をヒトに投与するため、できれば上記ポリペプチドがヒトのHb由来であることが好ましい、と考えた。そのため、ヒト由来のHbから採取したポリペプチドを用いて、プラスミン活性を亢進させるポリペプチド、t−PA活性を亢進させるポリペプチド及びウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチドを特定するに至った。
以下に、本発明における実施形態及び実施例を示す。なお、本発明は、以下の実施形態及び実施例に限定されない。
(A)本実施形態におけるポリペプチドもしくはそのアミドもしくはそのエステルまたはその塩
−ポリペプチドもしくはそのアミドもしくはそのエステルまたはその塩−
以下において、「本実施形態のポリペプチド」と「本実施形態の効果的なポリペプチド」とを記載している。「本実施形態のポリペプチド」には、血栓溶解を亢進させるポリペプチドのみならず血栓溶解を亢進させないポリペプチドも含まれている。「本実施形態の効果的なポリペプチド」は、血栓溶解を亢進させるポリペプチドのみを意味する。
本実施形態におけるポリペプチドは、ヒトのHbのβ鎖由来のポリペプチドとウシのHbのβ鎖由来のポリペプチドとである。
ヒトのHbのβ鎖に由来のポリペプチドは、N末端側から20個ずつのアミノ酸からなるポリペプチド(配列番号:1から8)とC末端側がリジンとなるようにヒトのHbのβ鎖のアミノ酸配列を切断してなるポリペプチド(配列番号:9から19)とである。
配列番号:1から8に記載のアミノ酸配列は、それぞれ、以下にBH286からBH293と記載しているポリペプチドのアミノ酸配列である。そして、具体的には、BH286はヒトのHbのβ鎖のN末端側の1番目から20番目までのアミノ酸配列であり、BH287はヒトのHbのβ鎖のN末端側の21番目から40番目までのアミノ酸配列である。BH288以下は同様である。
配列番号:9から19に記載のアミノ酸配列は、それぞれ、以下にVH8やSA9などのBH以外のアルファベットから始まる記号が付されているポリペプチドのアミノ酸配列である。この記号の先頭の2つのアルファベットはこのポリペプチドのN末端アミノ酸及びその隣のアミノ酸を示し、数字はこのポリペプチドが含有しているアミノ酸の個数を示す。具体的には、VH8は、N末端アミノ酸がバリン(V)であり、そのバリンの隣のアミノ酸がヒスチジン(H)であり、これら2つのアミノ酸を含む8個のアミノ酸からなるポリペプチドである。そして、VH8のアミノ酸配列は配列番号:9に記載しており、SA9のアミノ酸配列は配列番号:10に記載しており、ヒトのHbのβ鎖のN末端側からC末端側へいくにつれて数字が大きくなるように配列番号を付している。なお、これらのポリペプチドを用いた理由は、プラスミンがセリンプロテアーゼであり、C末端がリジンとなるようにポリペプチドを切断するプロテアーゼであるためである。
ウシのHbのβ鎖由来のポリペプチド(配列番号:20から25)は、ウシのHbのβ鎖のポリペプチドの一部のポリペプチドのアミノ酸配列と酷似したアミノ酸配列を有するポリペプチド(配列番号:20から23)と、ウシのHbのβ鎖の一部のポリペプチド(配列番号:24と25)とである。
配列番号:20から23に記載のアミノ酸配列は、それぞれ、以下にBH207、BH208、BH209及びBH210と記載しているポリペプチドのアミノ酸配列である。なお、タンパク質アミノ酸データベースGenomeNetのCLUSTALWを用いて各ポリペプチドのアミノ酸配列とヒトのHbのβ鎖のアミノ酸配列との相同性を求めると、BH207は76.5%の相同性を示し、BH208は80.0%の相同性を示し、BH209は85.7%の相同性を示し、BH210は71.4%の相同性を示している。
配列番号:24に記載のアミノ酸配列は、ウシのHbのβ鎖のN末端側の1番目から20番目までのアミノ酸配列であり、以下にFO152−1と記載している。また、配列番号:25に記載のアミノ酸配列は以下にFO152−2と記載しているポリペプチドのアミノ酸配列である。そして、FO152−2は、ウシのHbのβ鎖のN末端側の61番目から75番目までのアミノ酸配列において、73番目のグリシンがアスパラギンに置換され75番目のリジンがメチオニンに置換されたポリペプチドである。
そして、本実施形態の効果的なポリペプチドは、配列番号:1で表されるアミノ酸配列(BH286)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、配列番号:4で表されるアミノ酸配列(BH289)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、配列番号:5で表されるアミノ酸配列(BH290)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、配列番号:6で表されるアミノ酸配列(BH291)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、配列番号:9で表されるアミノ酸配列(VH8)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、配列番号:10で表されるアミノ酸配列(SA9)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、配列番号:11で表されるアミノ酸配列(VN42)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、配列番号:14で表されるアミノ酸配列(VL16)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、配列番号:16で表されるアミノ酸配列(LH25)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するポリペプチド、配列番号:20で表されるアミノ酸配列(BH207)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するポリペプチド及び配列番号:22で表されるアミノ酸配列(BH209)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するポリペプチドである。
BH209は、プラスミン活性を亢進させるポリペプチドである。そのため、このポリペプチドはフィブリンを分解して可溶性FDPを生成する反応、すなわち血栓を溶解する反応を亢進させ、それにより血栓溶解は亢進される。また、VN42、VL16及びLH25はt−PA活性を亢進させるポリペプチドであり、BH286、BH289、BH290、BH291、VH8、SA9、VL16及びBH207はウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチドである。そのため、これらのポリペプチドはプラスミノーゲンをプラスミンに変換する反応を亢進させる。そして、プラスミンがフィブリンを分解するため、t−PA活性やウロキナーゼ活性を亢進させることにより血栓溶解が亢進されることとなる。以上より、本実施形態の効果的なポリペプチドは、血栓溶解を亢進させる。
ここで、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドとしては、例えば、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有し、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列を有するポリペプチドと実質的に同質の活性を有するポリペプチドなどが好ましい。なお、実質的に同質の活性とは、それらの活性が性質的に(例、生理化学的に、または薬理学的に)同質であることを示す。
また、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列と例えば約70%以上、好ましくは約80%以上、好ましくは約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列などがあげられる。
アミノ酸配列の相同性は、上述のタンパク質アミノ酸データベースGenomeNetのCLUSTALWを用いて計算することができる。また、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Allignment Search Tool)を用い、条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。
特に、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、上記のアミノ酸配列の他、(i) 配列番号:1で表されるアミノ酸配列中の1〜5個(好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは、1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii) 配列番号:1で表されるアミノ酸配列に1〜5個(好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは、1個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iii) 配列番号:1で表されるアミノ酸配列に1〜5個(好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは、1個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(iv) 配列番号:1で表されるアミノ酸配列中の1〜5個(好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは、1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、(v) 上記(i)〜(iv)を組み合わせたアミノ酸配列などがあげられる。
さらに、このポリペプチドは、血栓の溶解を亢進させる機能を失わない限り、主鎖または側鎖に置換基または官能基が導入されていてもよいし、この官能基が保護されていてもよいし、アミノ基が保護されていてもよいし、カルボキシル基が金属塩などの塩となっていてもよい。すなわち、本実施形態のポリペプチドには、それらの誘導体も含まれる。
そして、例えば、配列番号:4などで表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドが意味するところは上述の通りである。
また、上記のポリペプチドは、そのポリペプチドのアミド、そのポリペプチドのエステル、そのポリペプチドの塩であってもよい。すなわち、本実施形態のポリペプチドのC末端は、カルボキシル基(-COOH)以外に、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)、エステル(-COOR)であってもよい。また、エステルにおけるRは、炭素数が6以下のアルキル基、炭素数が3以上8以下のシクロアルキル基、炭素数が6以上12以下のアリール基、炭素数が7以上14以下のアラルキル基や、経口用エステルとして汎用されるピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
また、本実施形態のポリペプチドには、N末端のアミノ酸残基(例、メチオニン残基)のアミノ基が炭素数6以下のアシル基などで保護されているもの、生体内で切断されて生成するN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、炭素数が6以下のアシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質などの複合蛋白質なども含まれる。
また、塩の具体例としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸、有機酸)とアミノ基などとの塩や塩基(例、アルカリ金属塩)とカルボキシル基などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。このような塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが挙げられる。
そして、例えば、ウロキナーゼ活性を亢進させるBH286のアミド、そのエステルまたはその塩であっても、BH286と同様にウロキナーゼ活性を亢進させることができる。また、t−PA活性を亢進させるVN42のアミド、そのエステルまたはその塩であっても、VN42と同様にt−PA活性を亢進させることができる。また、プラスミン活性を亢進させるポリペプチドであるBH209のアミド、そのエステルまたはその塩であっても、BH209と同様にプラスミン活性を亢進させることができる。
−ポリペプチドの製造方法−
本実施形態におけるポリペプチドなどは、公知のペプチドの製造方法を用いて製造することができる。公知のペプチド合成法としては、固相合成法・液相合成法などの化学合成法(ペプチド合成法)、生体・培養細胞から精製単離する方法、遺伝子組み換え技術を用いて生産する方法などを挙げることができるが、いずれの方法を用いて製造してもよい。
化学合成法を用いて合成する場合、アミノ酸とアミノ酸とのペプチド結合を繰り返し行うことによりポリペプチドを製造する。ポリペプチドの製造後、通常の精製法、例えば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶などを組み合わせてポリペプチドを精製単離する。なお、上記の製造方法で得られるポリペプチドが遊離体である場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができる。また、上記の製造方法で得られるポリペプチドが塩である場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
生体・培養細胞から精製単離することにより本実施形態のポリペプチドを採取する場合、ヒトや哺乳動物の組織または細胞をホモジナイズした後、酸などを用いて抽出し、その抽出液を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを組み合わせることにより精製単離すればよい。
遺伝子組み換え技術を用いて生産する場合、ポリペプチドを生産するための発現系(宿主−ベクター系)として、細菌・酵母・昆虫細胞・哺乳動物細胞などの発現系を用いることができる。このように、遺伝子工学的手法を用いてポリペプチドを製造すると、配列番号:1のアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドは配列番号:1で表されるポリペプチドの変異体である。なお、ここにいう変異とは、公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するとともに、天然に存在する同様の変異体を単離精製したものをも意味する。
そして、配列番号:1などの比較的短鎖のポリペプチドは、化学合成法を用いて製造すれば容易かつ簡便に取得することができる。また、ある担体に、アミノ基が保護されたアミノ酸を順次導入してペプチドを形成させる固相合成法を用いて合成することが好ましい。因みに、多数のアミノ酸からなる長鎖のポリペプチドは、遺伝子組換え技術を用いて製造すれば量産できるため好ましい。
(B)本実施形態における抗体
−抗体−
本実施形態における抗体は、本実施形態の効果的なポリペプチド、またはこのポリペプチドのフラグメントを特異的に認識する。すなわち、本実施形態の抗体は、本実施形態の効果的なポリペプチドなどを抗原とする抗体である。なお、本実施形態の抗体は、モノクローナル抗体であってもよいし、ポリクローナル抗体であってもよい。
また、この抗体は、本実施形態のポリペプチドの関係する動物の疾患やヒトの疾患を治療する抗体医薬品、診断薬として利用できる。具体的には、ある動物から採取した血液などの試料とこの抗体とを免疫反応させる。そして、この試料とこの抗体とが免疫反応をおこせば、この試料に本実施形態の効果的なポリペプチドが含まれていることを意味する。すなわち、この試料の持ち主である動物は本実施形態の効果的なポリペプチドが関係している疾患を発症している、と診断される。逆に、この試料とこの抗体とが免疫反応をおこしていなければ、その試料中には本実施形態の効果的なポリペプチドが存在しないことを意味している。すなわち、この試料の持ち主である動物は本実施形態の効果的なポリペプチドが関係している疾患を発症していない、と診断される。
以上より、抗体は、機能が不明である多くのタンパク質(ポリペプチド)を含む試料から、本実施形態の効果的なポリペプチドと同様の性質を有する可能性のあるポリペプチドを検出するための試薬(検出試薬)として利用することができる。すなわち、ここでいう抗体には、本実施形態に効果的なポリペプチド及びこのポリペプチドと同様の性質を有する可能性のあるポリペプチドを検出するためにこの抗体が含まれている検出試薬も含まれる。
そして、本実施形態の抗体が診断薬として利用される場合、この抗体が担体に固定されてキット化されていることが好ましい。これにより、血液などの試料から、容易に血栓溶解を亢進させるポリペプチドを検出することができる。よって、この抗体は、検出試薬として検出キットに含まれている抗体をも包含する。さらに、この検出キットは、試料とこの抗体との反応の精度を挙げるための試薬、検出用試薬の利便性や保存性等を向上させるための試薬がさらに添加されていてもよい。例えば、試料の保存のために、防腐剤が添加されていてもよい。
なお、上記免疫反応を判定する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、蛍光抗体法、免疫沈降法、ウェスタンブロット法、アフィニティークロマトグラフィー法、コロニーブロット法などの公知の手法を用いることができる。
−抗体の製造方法−
本実施形態のモノクローナル抗体は、公知あるいはそれに準じる方法に従って製造することができる。
まず、本実施形態の効果的なポリペプチドを温血動物に対して投与する。このとき、担体及び希釈剤とともに投与されることが好ましく、また、投与により抗体産出が可能な部位に投与されることが好ましい。さらに、抗体産生能を高めるために、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。また、サル・ウサギ・イヌ・モルモット・マウス・ラット・ヒツジ・ヤギ・ニワトリなどの温血動物に投与することが好ましく、より好ましくはマウス及びラットである。
次に、この温血動物から抗体価の認められた個体を選択して最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取する。そして、それらに含まれる抗体産生細胞と同種または異種動物の骨髄腫細胞とを融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。このとき、抗血清中の抗体価の測定は、例えば、標識化ポリペプチドと抗血清とを反応させたのち、抗体に結合した標識剤の活性を測定するという公知の方法を用いることができる。
このようにして製造されたモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを公知の方法によりスクリーニングすることにより、モノクローナル抗体を検出する。スクリーニングにおいて、モノクローナル抗体はポリペプチド抗原を直接または担体とともに吸着させた固相などに結合して検出される場合が多いため、公知の分離精製方法を用いてモノクローナル抗体のみを得る。これにより、本実施形態のモノクローナル抗体を得ることができる。
本実施形態のポリクローナル抗体は、公知あるいはそれに準じる方法に従って製造することができる。具体的には、まず、免疫抗原(ポリペプチド抗原)、または免疫抗原とキャリアー蛋白質との複合体をつくり、この免疫抗原などを温血動物に投与する。そして、その免疫動物から血液・腹水などを採取し、公知のスクリーニング方法によりその採取した体液から本実施形態のポリペプチドに対する抗体含有物(すなわち、本実施形態の抗体を含む化合物)を採取して、分離精製を行う。これにより、本実施形態のポリクローナル抗体を製造することができる。
(C)本実施形態における検出方法
本実施形態における検出方法は、ポリペプチドを含む試料と血栓溶解を亢進させるポリペプチドを特異的に認識する抗体とを免疫反応させることにより、その試料中から血栓の溶解を亢進させるポリペプチドを検出する方法である。すなわち、この検出方法では、試料と本実施形態の抗体とを免疫反応させる。なお、免疫反応及びその反応の判定方法などについては、上記(B)に記載した通りである。
本実施形態の抗体が診断薬として利用される場合、この抗体が担体に固定されてキット化されていることが好ましく、これにより、血液などの試料から、容易に血栓溶解を亢進させるポリペプチドを検出することができる。従って、本実施形態の効果的なポリペプチドは、この検出方法により検出されたポリペプチドであってもよい。
(D)本実施形態におけるスクリーニング方法
本実施形態におけるスクリーニング方法は、フィブリン平板法や合成発色基質法を用いて、ポリペプチドのプラスミン活性などを評価する方法である。以下に、フィブリン平板法及び合成発色基質法を説明する。
−フィブリン平板法−
フィブリン平板法では、まず、フィブリノーゲン及びトロンビンからなるフィブリン膜上に、ポリペプチド及び血栓溶解酵素を含む試料溶液と血栓溶解酵素のみを含む対照溶液とをそれぞれ静置する。すると、試料溶液及び対照溶液に含まれている血栓溶解酵素により、フィブリンが溶解される。静置後一定時間が経過してから、試料溶液による溶解面積と対照溶液による溶解面積とを測定する。そして、試料溶液による溶解面積が対照溶液による溶解面積よりも大きければ、このポリペプチドは血栓溶解酵素活性を亢進させるポリペプチドであると評価される。
−合成発色基質法−
合成発色基質法では、まず、ポリペプチド、血栓溶解酵素及び合成発色基質が含まれている試料溶液と血栓溶解酵素及び合成発色基質が含まれている対照溶液とを調製する。
ここで、合成発色基質は、特定のアミノ酸と色素分子とが結合してなるタンパク質である。しかし、この結合は血栓溶解酵素により解離される。そのため、例えば、試料溶液内のポリペプチドが血栓溶解を亢進させるポリペプチドであれば、血栓溶解酵素は活性化され、その結果、アミノ酸と色素分子との結合は解離されて色素分子が遊離される。そして、この色素分子は遊離されると特定の波長の光を吸収する。
溶液調製後、試料溶液と対照溶液とに上記光を照射する。そして、試料溶液が示した吸光度の値が対照溶液が示した吸光度の値よりも大きければ、試料溶液中で遊離している色素分子は試料溶液中で遊離している色素分子よりも多いことを意味する。そのため、このポリペプチドは血栓溶解酵素活性を亢進させるポリペプチドであると評価される。
以上より、フィブリン平板法及び合成発色基質法などのスクリーニング方法を用いれば、血栓溶解を亢進させるポリペプチドのみを採取できる。よって、これらのスクリーニング方法は、血栓溶解を亢進させるポリペプチドの製造方法、すなわち、本実施形態の有効なポリペプチドの製造方法として有用である。
ここで、本実施形態のスクリーニング方法を用いて血栓溶解を亢進させるポリペプチドを製造する方法を示す。
フィブリン平板法を用いて血栓溶解を亢進させるポリペプチドを製造する場合には、まず、試料溶液内のポリペプチドが血栓溶解を亢進させるポリペプチドであるか否かを調べる。具体的には、上述のように、フィブリン膜における試料溶液による溶解面積の大きさと対照溶液による溶解面積の大きさとを比較する。そして、試料溶液による溶解面積の大きさの方が対照溶液による溶解面積の大きさよりも大きければ、その試料溶液からポリペプチドのみを抽出して精製すればよい。なお、この抽出・精製方法は、公知の方法を用いることができる。
また、合成発色基質法を用いて血栓溶解を亢進させるポリペプチドを製造する場合には、まず、試料溶液内のポリペプチドが血栓溶解を亢進させるポリペプチドであるか否かを調べる。具体的には、上述のように、特定の波長における試料溶液の吸光度と特定の波長における対照溶液の吸光度とを比較する。そして、特定の波長における試料溶液の吸光度が特定の波長における対照溶液の吸光度よりも大きければ、その試料溶液からポリペプチドのみを抽出して精製すればよい。なお、この抽出・精製方法は、公知の方法を用いることができる。
以上より、本実施形態のスクリーニング方法を用いて血栓溶解を亢進させるポリペプチドを製造することができる。そのため、本実施形態の効果的なポリペプチドは、このスクリーニング方法により採取されたポリペプチドであってもよい。
(E)本実施形態におけるポリヌクレオチド及び組換えベクター
本実施形態におけるポリヌクレオチドは、本実施形態の効果的なポリペプチド、本実施形態の検出方法により得られるポリペプチド及び本実施形態のスクリーニング方法により得られるポリペプチドをコードする塩基配列を有するものであればよい。
ポリヌクレオチドは、アイソトープラベル化されたもの・フルオレセインなどにより蛍光標識されたもの・ビオチン化されたもの・酵素標識されたものなどの公知の方法で標識化されたものであることが好ましい。また、ポリヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。さらに、ポリヌクレオチドには、本実施形態のポリペプチドをコードする塩基配列以外に、非翻訳領域(UTR)の塩基配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの塩基配列が含まれていてもよい。
本実施形態のポリペプチドを完全にコードするポリヌクレオチドのクローニングの手段としては、公知のPCR(polymerase chain reaction)法を用いて本実施形態のポリペプチドの部分塩基配列を有する合成遺伝子プライマーを増幅させる方法、または、本実施形態のポリペプチドの全領域をコードする塩基配列もしくは本実施形態のポリペプチドの一部の領域をコードする塩基配列をベクター配列につなぐことにより本実施形態のポリヌクレオチドを構成し、このポリヌクレオチドを適当な宿主で増幅させることにより本実施形態のポリヌクレオチドを所望に増幅させる方法、などを挙げることができる。
本実施形態の組換えベクターは、本発明のポリヌクレオチドを含有し、哺乳動物において発現する。そして、下記(F)で示すように、本実施形態のポリヌクレオチド及び組換えベクターを適当な宿生(細菌・酵母など)に導入すれば、本実施形態の効果的なポリペプチドを発現させることができる。
(F)本実施形態における血栓溶解促進薬
本実施形態の効果的なポリペプチド、本実施形態の検出方法により得られるポリペプチド及び本実施形態のスクリーニング方法を用いて得られるポリペプチドは、いずれも血栓溶解を亢進させるポリペプチドである。それゆえ、これらのポリペプチドを用いて血栓溶解促進薬を合成することができる。
具体的には、本実施形態の効果的なポリペプチドが減少あるいは欠損している患者がいる場合に、本実施形態のポリヌクレオチドを患者に投与して生体内で本実施形態の効果的なポリペプチドを発現させる、細胞に本実施形態のポリヌクレオチドを挿入して本実施形態の効果的なポリペプチドを発現させた後にその細胞を患者に移植する、本実施形態の効果的なポリペプチドを患者に投与する、などによって、患者における本発明のポリペプチドの役割を十分に、あるいは正常に発揮させることができる。
本実施形態のポリヌクレオチドを血栓溶解促進薬として使用する場合は、そのポリヌクレオチドを単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどの適当なベクターに挿入した後、常套手段に従って、ヒトまたは温血動物に投与することができる。本実施形態のポリヌクレオチドは、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤などの生理学的に認められる担体とともに製剤化し遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルなどにより、患者の体内へ投与される。
本実施形態の効果的なポリペプチドを血栓溶解促進薬として使用する場合は、少なくとも90%、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上に精製されたポリペプチドを使用するのが好ましい。
本実施形態の効果的なポリペプチドは、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤・カプセル剤・エリキシル剤・マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、または懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的(好ましくは皮下投与)に使用できる。例えば、本実施形態の効果的なポリペプチドを生理学的に認められる担体・香味剤・賦形剤・ベヒクル・防腐剤・安定剤・結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造することができる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な用量が得られるようにするものである。
錠剤・カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン・コーンスターチ・トラガント・アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチゼラチン・アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖・乳糖・サッカリンのような甘味剤、ペパーミント・アカモノ油・チェリーのような香味剤などを挙げることができる。調剤単位形態がカプセルである場合には、さらに油脂のような液状担体を含有させることができる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなベヒクル中の活性物質、胡麻油・椰子油などのような天然産出植物油などを溶解または懸濁させるなどの通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水・ブドウ糖・その他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール・D−マンニトール・塩化ナトリウムなど)などがあげられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノールなど)・ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール・ポリエチレングリコールなど)・非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80TM・HCO-50など)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油・大豆油などがあげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル・ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液・酢酸ナトリウム緩衝液など)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム・塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン・ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール・フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルに充填される。
(G)本実施形態における効果
以上より、本実施形態の効果的なポリペプチドは、プラスミン活性やt−PA活性やウロキナーゼ活性を亢進させ、その結果、血栓溶解を亢進させることができる。そのため、本実施形態の効果的なポリペプチドは、従来の血栓溶解薬の作用機序とは全く異なる作用機序を備えた医薬品を提供できる。そして、本実施形態の効果的なポリペプチドが含有されている医薬品、すなわち本実施形態の血栓溶解促進薬を投与しても、副作用を引き起こしにくい。
また、本実施形態の抗体は、プラスミン活性やt−PA活性やウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチドを特異的に認識する。また、本実施形態の検出方法では、これらのポリペプチドを検出することができる。以上より、この抗体を用いてこの検出方法により検出されたポリペプチドは、確実に血栓溶解を亢進させる。
さらに、本実施形態のスクリーニング方法では、ポリペプチドがプラスミン活性を亢進させるか否か、ポリペプチドがt−PA活性を亢進させるか否か、ポリペプチドがウロキナーゼ活性を亢進させるか否かを評価する。そして、例えば、このスクリーニング方法でプラスミン活性などを亢進させると評価されたポリペプチドは、確実に血栓溶解を亢進させる。
また、本実施形態のポリヌクレオチド及び組換えベクターは、プラスミン活性やt−PA活性やウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチドをコードする。そのため、このポリヌクレオチド及び組換えベクターを患者の体内に投与することにより、患者の体内でプラスミンなどの活性を亢進させることができる。
本明細書および図面において、アミノ酸などを略号で表示する場合、IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによる略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものであり、その例を下記する。またアミノ酸に関し光学異性体があり得る場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
Gly又はG :グリシン
Ala又はA :アラニン
Val又はV :バリン
Leu又はL :ロイシン
Ile又はI :イソロイシン
Ser又はS :セリン
Thr又はT :スレオニン
Cys又はC :システイン
Met又はM :メチオニン
Glu又はE :グルタミン酸
Asp又はD :アスパラギン酸
Lys又はK :リジン
Arg又はR :アルギニン
His又はH :ヒスチジン
Phe又はF :フェニルアラニン
Tyr又はY :チロシン
Trp又はW :トリプトファン
Pro又はP :プロリン
Asn又はN :アスパラギン
Gln又はQ :グルタミン
以下に、実施例1から実施例4を示す。これらの実施例では、配列番号:1から25に記載のアミノ酸配列を含有するポリペプチド(実施例では、単に、「配列番号:1のポリペプチド」などという。)をスクリーニングして、プラスミン活性を亢進させるポリペプチド、t−PA活性を亢進させるポリペプチド及びウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチドを特定した。
<実施例1>
実施例1では、配列番号:1から8の8個のポリペプチドの中で、プラスミン活性を亢進させるポリペプチド及びウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチドを特定することを試みた。具体的には、上記実施形態に記載のフィブリン平板法を用いて8個のポリペプチドをそれぞれスクリーニングした。以下に、プラスミン活性、ウロキナーゼ活性の順に、その手法及び結果を示す。
(A)プラスミン活性
−フィブリン平板法−
まず、配列番号:1のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、0.1mg/mL、1mg/mL、 10mg/mL、100mg/mL、1mg/mLのポリペプチドの濃度が異なる5種類のポリペプチド溶液を生成した。また、ヒト由来のプラスミン(Plasminogen from human plasma, P5661、SIGMA-ALDRICH FINE CHEMICALS, St. Louis, MO, USA製)を0.85%生理的食塩水に溶かして、0.5IU/mLのプラスミン溶液を生成した。
次に、0.1mg/mLのポリペプチド溶液とプラスミン溶液とを等量混合して、試料溶液を調製した。また、プラスミン溶液と0.85%生理食塩水とを等量混合して、対照溶液を調製した。
続いて、以下に示す2通りの測定方法を用いて、フィブリン膜における溶解面積を測定した。1つ目の測定方法では、調製後すぐに、試料溶液及び対照溶液をそれぞれ20mLずつはかりとってフィブリン膜上にそれぞれ静置した。そして、18時間後に試料溶液による溶解面積及び対照溶液による溶解面積をそれぞれ測定した。2つ目の測定方法では、調製後、試料溶液を37℃で1時間加温させ、試料溶液内でプラスミンとポリペプチドとを充分に反応させた。その後、その試料溶液及び対照溶液をそれぞれ20mLずつはかりとってフィブリン膜上にそれぞれ静置し、18時間後に試料溶液による溶解面積及び対照溶液による溶解面積をそれぞれ測定した。
そして、試料溶液及び対照溶液に対して、フィブリン膜への静置作業から溶解面積の測定作業までの作業をそれぞれ2回行い、その2回の測定結果を平均して試料溶液による溶解面積及び対照溶液による溶解面積とした。それから、対照溶液による溶解面積を基準として試料溶液による溶解面積と対照溶液による溶解面積との差(比率)を求めた。以上の作業を、濃度が1mg/mL、10mg/mL、100mg/mL、1mg/mLのポリペプチド溶液に対しても行った。そして、5種類の試料溶液が示す比率のうち最もプラスミン活性が亢進されていることを示す数値、すなわち、比率の最大値をこのポリペプチド溶液が示す比率として採用した。上記一連の作業を、配列番号:2のポリペプチドから配列番号:8のポリペプチドに対しても行った。
表1に結果を示す。なお、表1において、「直ちに測定」は上述の1つ目の測定方法により測定した結果であり、「37℃、1時間加温」は上述の2つ目の測定方法により測定した結果である。そして、この表に記載されている数値は、上述の比率の最大値である。
表1に記載されている数値は上述の比率の最大値であるため、プラスミン活性を亢進させるポリペプチドはこの表において+に大きな値を示しているポリペプチドである。
表1に示すように、BH291以外のポリペプチドの比率は+を示した。そして、BH291以外の全てのポリペプチドにおいて、「直ちに測定」して求まった比率よりも「37℃、1時間加温」して求まった比率の方が大きかった。そのため、BH291以外のポリペプチドは、プラスミンと充分に反応させることによりプラスミン活性を亢進させることがわかった。そして、その傾向はBH292に顕著に表れた。
(B)ウロキナーゼ活性
−フィブリン平板法−
まず、配列番号:1のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、0.1mg/mL、1mg/mL、 10mg/mL、100mg/mL、1mg/mLのポリペプチドの濃度が異なる5種類のポリペプチド溶液を生成した。また、ヒト由来のウロキナーゼ(ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター、三菱ウェルファーマ製)を0.85%生理的食塩水に溶かして、25IU/mLのウロキナーゼ溶液を生成した。
次に、0.1mg/mLのポリペプチド溶液とウロキナーゼ溶液とを等量混合して、試料溶液を調製した。また、ウロキナーゼ溶液と0.85%生理食塩水とを等量混合して、対照溶液を調製した。その後は本実施例1の(A)に記載の手順に従い、各溶解面積をそれぞれ測定した。
表2に結果を示す。なお、表2において、「直ちに測定」及び「37℃、1時間加温」が意味するところは上述の通りである。
表2に記載されている数値も上述の比率の最大値であるため、ウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチドはこの表において+に大きな値を示しているポリペプチドである。
表2に示すように、いずれのポリペプチドの比率も+の値を示した。そして、全てのポリペプチドにおいて、「直ちに測定」して求まった比率よりも「37℃、1時間加温」して求まった比率の方が大きかった。そのため、これらのポリペプチドは、ウロキナーゼと充分に反応させることによりウロキナーゼ活性を亢進させることがわかった。そして、その傾向はBH286とBH289とBH290とに顕著に表れた。
<実施例2>
実施例2では、配列番号:1から8に記載している8個のポリペプチドと配列番号:20から25に記載している6個のポリペプチドとを用いて、ウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチドを特定することを試みた。具体的には、上記実施形態に記載のフィブリン平板法及び合成発色基質法を用いて各ポリペプチドをそれぞれスクリーニングした。以下に、フィブリン平板法、合成発色基質法の順に、その手法及び結果を示す。
−フィブリン平板法−
まず、配列番号:1のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、0.1mg/mL、1mg/mL、10mg/mL、100mg/mL、1mg/mLのポリペプチドの濃度が異なる5種類のポリペプチド溶液を生成した。また、ヒト由来のウロキナーゼ(ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター、三菱ウェルファーマ製)を0.85%生理的食塩水に溶かして、25IU/mLのウロキナーゼ溶液を生成した。
次に、0.1mg/mLのポリペプチド溶液とウロキナーゼ溶液とを等量混合して、試料溶液を調製した。その後は上記実施例1の(A)に記載の手順に従い、各溶解面積をそれぞれ測定した。なお、本実施例における比率(Fibrinolytic activity)は、対照溶液による溶解面積に対する試料溶液による溶解面積の比率である。
図1に結果を示す。なお、図1では、対照溶液を「control」として表記している。
図1に示すように、対照溶液によるFibrinolytic activityを100%としている。そのため、ウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチドは、Fibrinolytic activity値が100%より大きい値を示しているポリペプチドである。
図1に示すように、ヒト由来のHbではBH290及びBH291がウロキナーゼ活性を亢進させ、ウシ由来のHbではBH207がウロキナーゼ活性を亢進させた。
−合成発色基質法−
まず、配列番号:1のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、125mg/L、250mg/L、500mg/L、1g/Lの4種類のポリペプチド溶液を生成した。また、合成発色基質S-2444(Chromogenix製)を蒸留水に溶かして、1mMの合成発色基質S-2444溶液を生成した。また、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(UK、ウロキナーゼ、三菱ウェルファーマ製)を0.85%生理的食塩水に溶かして、50IU/mLのウロキナーゼ溶液を生成した。
次に、125mg/Lのポリペプチド溶液を5mLと、合成発色基質S-2444溶液を50mLと、ウロキナーゼ溶液を2.5mLと、50mM、pH8.4のTris/HCl bufferを200mLとを37℃に加温したマイクロプレート内で攪拌して試料溶液を調製した。そして、250mg/Lのポリペプチド溶液、500mg/Lのポリペプチド溶液及び1g/Lのポリペプチド溶液を用いて、上記の方法に従いポリペプチド濃度の異なる4種類の試料溶液を調製した。また、合成発色基質S-2444溶液を50mLと、ウロキナーゼ溶液を2.5mLと、50mM、pH8.4のTris/HCl bufferを200mLとを37℃に加温したマイクロプレート内で攪拌して対照溶液を調製した。
そして、各試料溶液及び対照溶液に対して、Benchmark microplate reader(BIO-RAD Lab.製)を用いて405nmにおける吸光度の変化を30分に亘って測定した。上記一連の作業を、配列番号:2のポリペプチドから配列番号:8のポリペプチド及び配列番号:20のポリペプチドから配列番号:25のポリペプチドに対しても行った。
図2に結果を示す。なお、図2では、対照溶液を「control」として表記している。
ウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチドは、対照溶液の吸光度よりも大きな値の吸光度を示すポリペプチドである。そして、図2に示すように、ヒトのHb由来のBH290、BH291、BH292及びBH293がウロキナーゼ活性を亢進させた。
<実施例3>
実施例3では、配列番号:9から19に記載している11個のポリペプチドとリジンとを用いて、プラスミン活性を亢進させるポリペプチド、t−PA活性を亢進させるポリペプチド及びウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチドを特定することを試みた。具体的には、フィブリン平板法及び合成発色基質法を用いて、各ポリペプチドをそれぞれスクリーニングした。以下に、プラスミン活性、t−PA活性及びウロキナーゼ活性の順に、その手法及び結果を示す。
(A)プラスミン活性
−フィブリン平板法−
まず、配列番号:9のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、1g/Lのポリペプチド溶液を生成した。また、ヒト由来のプラスミン(Plasmin from human plasma, P4895、Sigma-Aldrich Fine Chemicals, St. Louis, MO, USA製)を0.85%生理的食塩水に溶かして、1IU/mLのプラスミン溶液を生成した。
次に、ポリペプチド溶液とプラスミン溶液とを等量混合して、試料溶液を調製した。また、プラスミン溶液と0.85%生理食塩水とを等量混合して、対照溶液を調製した。
続いて、試料溶液及び対照溶液をそれぞれ20mLずつはかりとって、フィブリン膜上にそれぞれ静置し、そのフィブリン膜を37℃で18時間加温した。その後、試料溶液による溶解面積及び対照溶液による溶解面積をそれぞれ測定した。
そして、試料溶液及び対照溶液に対して、フィブリン膜への静置作業から溶解面積の測定作業までの作業をそれぞれ2回行い、その2回の測定結果を平均して試料溶液による溶解面積及び対照溶液による溶解面積とした。それから、上記実施例2に記載した比率 (Fibrinolytic activity)を求めた。上記一連の作業を、配列番号:10のポリペプチドから配列番号:19のポリペプチドに対しても行った。
図3に結果を示す。なお、図3では、対照溶液を「control」として表記している。
対照溶液のFibrinolytic activity値を100%としているため、プラスミン活性を亢進させるポリペプチドはFibrinolytic activity値が100%より大きい値を示しているポリペプチドである。そして、図3に示すように、VH8やSA9やVN42などのN末端側のポリペプチドがプラスミン活性を若干亢進させた。
−合成発色基質法−
まず、配列番号:9のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、125mg/L、250mg/L、500mg/L、1g/Lの4種類のポリペプチド溶液を生成した。また、合成発色基質S-2251(Chromogenix製)を蒸留水に溶かして、1mMの合成発色基質S-2251溶液を生成した。また、ヒト由来のプラスミン(Plasmin from human plasma, P4895、Sigma-Aldrich Fine Chemicals, St. Louis, MO, USA製)を0.85%生理的食塩水に溶かして、1IU/mLのプラスミン溶液を生成した。
次に、125mg/Lのポリペプチド溶液を5mLと、合成発色基質S-2251溶液を50mLと、プラスミン溶液を2.5mLと、50mM、pH7.4のTris/HCl bufferを200mLとを37℃に加温したマイクロプレート内で攪拌して試料溶液を調製した。そして、250mg/Lのポリペプチド溶液、500mg/Lのポリペプチド溶液及び1g/Lのポリペプチド溶液を用いて、上記方法に従いポリペプチド濃度の異なる4種類の試料溶液を調製した。また、合成発色基質S-2251溶液を50mLと、プラスミン溶液を2.5mLと、50mM、pH7.4のTris/HCl bufferを200mLとを37℃に加温したマイクロプレート内で攪拌して対照溶液を調製した。その後は上記実施例2の合成発色基質法に記載の方法に従い、405nmにおける吸光度の各変化をそれぞれ測定した。
図4に結果を示す。なお、図4では、対照溶液を「control」として表記している。
プラスミン活性を亢進させるポリペプチドは、「control」のabsorbance値よりも大きな absorbance値を示しているポリペプチドである。そして、図4に示すように、EF12の125mg/L及びYH2の125mg/Lが、プラスミン活性を若干、亢進させる傾向を示した。
(B)t−PA活性
−フィブリン平板法−
まず、配列番号:9のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、1g/Lのポリペプチド溶液を生成した。また、組織型プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA、single-type tissue-type plasminogen activator, T-7770、Sigma Chemical Co.製)を0.85%生理的食塩水に溶かして、200IU/mLのt−PA溶液を生成した。
次に、ポリペプチド溶液とt−PA溶液とを等量混合して、試料溶液を調製した。その後は本実施例の(A)のフィブリン平板法で記載の方法に従い、各溶解面積をそれぞれ測定した。
図5に結果を示す。
図5に示すように、t−PA活性を著しく亢進させるポリペプチドはほとんどなく、LH25とVN42とがt−PA活性を若干亢進させた。
−合成発色基質法−
まず、配列番号:9のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、125mg/L、250mg/L、500mg/L、1g/Lの4種類のポリペプチド溶液を生成した。また、合成発色基質S-2288(Chromogenix製)を蒸留水に溶かして、1mMの合成発色基質S-2288溶液を生成した。また、ヒト由来のt−PA(single-type tissue-type plasminogen activator, T-7770、Sigma Chemical Co.製)を0.85%生理的食塩水に溶かして、1IU/mLのt−PA溶液を生成した。
次に、125mg/Lのポリペプチド溶液を5mLと、合成発色基質S-2288溶液を50mLと、t−PA溶液を2.5mLと、50mM、pH8.4のTris/HCl bufferを200mLとを37℃に加温したマイクロプレート内で攪拌して試料溶液を調製した。その後は上記実施例2の合成発色基質法に記載の方法に従い、405nmにおける吸光度の各変化をそれぞれ測定した。
図6に結果を示す。
図6に示すように、AH4とVL16とGT13とLH25とがt−PA活性を著しく亢進させた。また、これら4つのポリペプチド溶液では125mg/Lのポリペプチド溶液がt−PA活性を最も著しく亢進させたため、125mg/L以下のポリペプチド溶液について追試を行った。具体的には、ポリペプチドの濃度が15.6mg/L以上125mg/L以下のポリペプチド溶液を用いて上記の試料溶液を調製し、405nmにおける吸光度の各変化をそれぞれ測定したが(不図示)、125mg/Lのポリペプチド溶液がt−PA活性を最も著しく亢進させた。
(C)ウロキナーゼ活性
−フィブリン平板法−
まず、配列番号:9のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、1g/Lのポリペプチド溶液を生成した。また、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(UK、ウロキナーゼ、三菱ウェルファーマ製)を0.85%生理的食塩水に溶かして、50IU/mLのウロキナーゼ溶液を生成した。
次に、ポリペプチド溶液とウロキナーゼ溶液とを等量混合して、試料溶液を調製した。その後は本実施例の(A)のフィブリン平板法に記載の方法に従い、各溶解面積をそれぞれ測定した。
図7に結果を示す。
図7に示すように、Lysine以外の全てのポリペプチドがウロキナーゼ活性を亢進させた。特に、SA9は、対照溶液に対して4.95倍を示し、ウロキナーゼ活性を最も著しく亢進させた。
−合成発色基質法−
まず、配列番号:9のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、125mg/L、250mg/L、500mg/L、1g/Lの4種類のポリペプチド溶液を生成した。また、合成発色基質S-2444(Chromogenix製)を蒸留水に溶かして、1mMの合成発色基質S-2444溶液を生成した。また、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(UK、ウロキナーゼ、三菱ウェルファーマ製)を0.85%生理的食塩水に溶かして、50IU/mLのウロキナーゼ溶液を生成した。
次に、125mg/Lのポリペプチド溶液を5mLと、合成発色基質S-2444溶液を50mLと、ウロキナーゼ溶液を2.5mLと、50mM、pH8.4のTris/HCl bufferを200mLとを37℃に加温したマイクロプレート内で攪拌して試料溶液を調製した。その後は上記実施例2の合成発色基質法に記載の方法に従い、405nmにおける吸光度の各変化をそれぞれ測定した。
図8に結果を示す。
図8に示すように、リジン及びVN42以外のポリペプチドがウロキナーゼ活性を亢進させた。その中でも、LH25がウロキナーゼ活性を著しく亢進させた。そして、ウロキナーゼ活性を亢進させたポリペプチド溶液については、ポリペプチドの濃度が15.6mg/L以上125mg/L以下のポリペプチド溶液を用いて上記の試料溶液を調製し、405nmにおける吸光度の各変化をそれぞれ測定したが(不図示)、125mg/Lのポリペプチド溶液がウロキナーゼ活性を最も著しく亢進させた。
<実施例4>
実施例4では、配列番号:20から25に記載している6個のポリペプチドを用いて、プラスミン活性を亢進させるポリペプチド、ウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチド及びt−PA活性を亢進させるポリペプチドを特定した。以下に、プラスミン活性、ウロキナーゼ活性、t−PA活性の順に、その手法及び結果を示す。
(A)プラスミン活性
−フィブリン平板法−
まず、配列番号:20のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、1g/Lのポリペプチド溶液を生成した。また、ヒト由来のプラスミン(Plasmin from human plasma, P4895、Sigma-Aldrich Fine Chemicals, St. Louis, MO, USA製)を0.85%生理的食塩水に溶かして、0.2IU/mLのプラスミン溶液を生成した。
次に、ポリペプチド溶液とプラスミン溶液とを等量混合して、試料溶液を調製した。また、プラスミン溶液と0.85%生理食塩水とを等量混合して、対照溶液を調製した。その後は上記実施例1の(A)に記載した方法に従い、各溶解面積をそれぞれ測定した。
表3に結果を示す。なお、表3における「直ちに測定」及び「37℃、1時間加温」は、上記実施例1で記載した通りである。
表3に記載されている数値は、上記実施例1における比率の最大値である。そのため、プラスミン活性を亢進させるポリペプチドは、この表において+に大きな値を示しているポリペプチドである。
表3に示すように、BH209の比率とFO152−1の比率とが+を示した。そして、これら2つのポリペプチドでは、「直ちに測定」して求まった比率よりも「37℃、1時間加温」して求まった比率の方が大きかった。そのため、これらのポリペプチドは、プラスミンと充分に反応することによりプラスミン活性を亢進させることがわかった。
−フィブリノーゲン溶液を用いたスクリーニング法−
リジンセファロースカラムクロマトグラフィにより、プラスミンが予め除去されたウシ由来のフィブリノーゲン(0.4% Clottable protein)溶液を用いて、プラスミン活性を測定した。
まず、配列番号:20のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、1g/Lのポリペプチド溶液を生成した。また、ヒト由来のプラスミン(Plasmin from human plasma, P4895、Sigma-Aldrich Fine Chemicals, St. Louis, MO, USA製)を0.85%生理的食塩水に溶かして、0.4IU/mLのプラスミン溶液を生成した。
次に、2種類の試料溶液を調製した。第1の試料溶液として、ポリペプチド溶液とフィブリノーゲン溶液とを混合後、プラスミン溶液を混合してなる溶液を調製した。第2の試料溶液として、ポリペプチド溶液とプラスミン溶液とを混合後、フィブリノーゲン溶液を混合してなる溶液を調製した。なお、両試料溶液には、50mLのポリペプチド溶液と、25mLのプラスミン溶液と、2mLのフィブリノーゲン溶液と、2mLの50mM、pH7.4のTris/HCl bufferとが混合されていた。また、25mLのプラスミン溶液と、2mLのフィブリノーゲン溶液と、2mLの50mM、pH7.4のTris/HCl bufferとを混合して、対照溶液を調製した。
続いて、以下に示す2通りの測定方法を用いて、280nmにおける吸光度を測定した。1つ目の測定方法では、調整後すぐに、溶液を恒温セルホルダー(131-0040温度計セルホルダー、株式会社日立製作所製)に入れて、分光光度計(U-3210型自記分光光度計、株式会社日立製作所製)を用いて、30秒ごとの280nmにおける吸光度の変化を37℃の恒温下で5分間測定した。2つ目の測定方法では、調整後、溶液を37℃で1時間加温させ、その後、その溶液を恒温セルホルダー(同上、同社製)に入れて、分光光度計(同上、同社製)を用いて、30秒ごとの280nmにおける吸光度の変化を37℃の恒温下で5分間測定した。
そして、各測定方法において、対照溶液の吸光度に対する第1の試料溶液の吸光度の割合と対照溶液の吸光度に対する第2の試料溶液の吸光度の割合とを求めた。上記一連の作業を、配列番号:21のポリペプチドから配列番号:25のポリペプチドに対して行った。
表4に結果を示す。なお、表4における「ペプチド+Fbg」は第1の試料溶液を意味し、「ペプチド+Pln」は第2の試料溶液を意味する。また、「直ちに測定」及び「37℃、1時間加温」の意味するところは上述の通りである。
表4に示すように、「直ちに測定」した場合には、「ペプチド+Fbg」を用いて測定しても「ペプチド+Pln」を用いて測定しても、プラスミン活性が亢進されることはなかった。
BH208とFO152−1とFO152−2とでは、「ペプチド+Fbg」を用いて「37℃、1時間加温」したときにはプラスミン活性は亢進されなかったが、「ペプチド+Pln」を用いて「37℃、1時間加温」したときにはプラスミン活性は亢進された。このことから、これらのポリペプチドとフィブリノーゲンとが会合するとプラスミンの作用部位はブロックされてしまうが、逆に、これらのポリペプチドとプラスミンとが会合するとポリペプチドとフィブリノーゲンとの反応性が高まり、その結果、プラスミン活性が亢進される、と考えられる。
BH207では、「ペプチド+Fbg」を用いて「37℃、1時間加温」したときに比べ、「ペプチド+Pln」を用いて「37℃、1時間加温」したときの方が、プラスミン活性は若干亢進された。
BH210は、BH208などと逆の傾向を示した。すなわち、このポリペプチドとフィブリノーゲンとが会合することによりプラスミン活性が亢進される、と考えられる。
−合成発色基質法−
まず、配列番号:20のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、1g/Lのポリペプチド溶液を生成した。また、合成発色基質S-2251(Chromogenix製)を蒸留水に溶かして、1mMの合成発色基質S-2251溶液を生成した。また、ウシ由来のプラスミン(Plasmin from bivine plasma, P7911、Sigma-Aldrich Fine Chemicals, St. Louis, MO, USA製)を0.85%生理的食塩水に溶かして、0.1IU/mLのプラスミン溶液を生成した。
次に、2種類の試料溶液を調製した。第1の試料溶液として、ポリペプチド溶液と合成発色基質S-2251溶液とを混合後、プラスミン溶液を混合してなる溶液を調製した。第2の試料溶液として、ポリペプチド溶液とプラスミン溶液とを混合後、合成発色基質S-2251溶液を混合してなる溶液を調製した。なお、両試料溶液には、50mLのポリペプチド溶液と、500mLの合成発色基質S-2251溶液と、25mLのプラスミン溶液と、2mLの50mM、pH7.4のTris/HCl bufferとが混合されていた。また、25mLのプラスミン溶液と、500mLの合成発色基質S-2251溶液と、2mLの50mM、pH7.4のTris/HCl bufferと、50mLの0.85%生理食塩水とを混合して、対照溶液を調製した。
続いて、以下に示す2通りの測定方法を用いて、405nmにおける吸光度を測定した。1つ目の方法では、調整後すぐに、その溶液を恒温セルホルダー(同上、同社製)に入れて、分光光度計(同上、同社製)を用いて、30秒ごとの405nmにおける吸光度の変化を37℃の恒温下で5分間測定した。2つ目の方法では、調整後その溶液を37℃で1時間加温させ、その後、この溶液を恒温セルホルダー(同上、同社製)に入れて、分光光度計(同上、同社製)を用いて、30秒ごとの405nmにおける吸光度の変化を37℃の恒温下で5分間測定した。そして、各測定方法において、対照溶液の吸光度に対する第1の試料溶液の吸光度の割合と、対照溶液の吸光度に対する第2の試料溶液の吸光度の割合とを求めた。上記一連の作業を、配列番号:21のポリペプチドから配列番号:25のポリペプチドに対して行った。
表5に結果を示す。なお、表5における「ペプチド+S-2251」は上記第1の試料溶液を意味する。また、「ペプチド+Pln」、「直ちに測定」及び「37℃、1時間加温」の意味するところは上述の通りである。
表5に示すように、BH207とBH210とはそれぞれ同様の傾向を示し、BH208とBH209とはそれぞれ同様の傾向を示した。
BH207とBH210とは、どちらの測定方法を用いた場合であっても、「ペプチド+S-2251」を用いたときよりも「ペプチド+Pln」を用いたときの方が、プラスミン活性は亢進された。このことから、これらのポリペプチドとS-2251とが会合するとプラスミンの作用部位がブロックされてしまうが、逆に、これらのポリペプチドとプラスミンとが会合するとポリペプチドとS-2251との反応性が高まり、その結果、プラスミン活性が亢進される、と考えられる。また、「直ちに測定」した場合に比べ「37℃、1時間加温」した場合の方が、プラスミン活性は著しく亢進された。
BH208とBH209とは、どちらの測定方法を用いて測定した場合も、どちらの試料溶液を用いて測定した場合も、プラスミン活性は亢進された。その中でも特に、「ペプチド+S-2251」を用いて「37℃、1時間加温」した場合にプラスミン活性は著しく亢進されたため、これらのポリペプチドとS-2251とが会合したときにプラスミン活性が最も亢進される、と考えられる。
FO152−2は、どちらの測定方法を用いて測定した場合でも、どちらの溶液を用いて測定した場合でも、プラスミン活性が亢進された。そして、「ペプチド+Pln」を用いたときよりも「ペプチド+S-2251」を用いたときの方が、プラスミン活性は亢進された。また、「37℃、1時間加温」したときよりも「直ちに測定」したときの方が、プラスミン活性は亢進された。
(B)ウロキナーゼ活性
−フィブリン平板法−
まず、ウシ由来のフィブリノーゲン(Fibrinogen from bovine plasma、ITOHAM FOODS Inc., Hyogo, Japan製)を、1%NaCl添加1/15Mリン酸緩衝液(pH7.4)に溶かして、0.4%のClottable proteinとなるように調製して、フィブリノーゲン溶液を生成した。また、ヒト由来のトロンビン(日本薬局方ヒト・トロンビン、トロンビンーヨシトミ、三菱ウェルファーマ株式会社製、大阪)を0.85%生理的食塩水に溶かして、50IU/mLのトロンビン溶液を生成した。
次に、フィブリノーゲン溶液を8mLと、1/15M、pH7.4のPhoshate buffer溶液を8mLとを9cm径のペトリ皿に分注して、ヒト由来のトロンビンを0.1mL加えて水平面に1時間静置してフィブリン平板を作製した。
続いて、配列番号:20のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、0.1mg/mL、1mg/mL、10mg/mL、100mg/mL、1mg/mLの5種類のポリペプチド溶液を生成した。また、ヒト由来のウロキナーゼ(ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター、三菱ウェルファーマ製)を0.85%生理的食塩水に溶かして、50IU/mLのウロキナーゼ溶液を生成した。
そして、0.1mg/mLのポリペプチド溶液とウロキナーゼ溶液とを等量混合して、試料溶液を調製した。その後は本実施例の(A)のフィブリン平板法に記載の方法に従い、各溶解面積をそれぞれ測定した。
表6に結果を示す。
表6に示すように、全てのポリペプチドがウロキナーゼ活性を亢進させた。このウロキナーゼ活性の度合いは、「37℃、18時間加温」したときの方が「直ちに測定」したときよりも大きくなった。特に、BH207とFO152−1とFO152−2とでは、ウロキナーゼ活性が著しく亢進された。
−合成発色基質法−
まず、配列番号:20のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、1g/Lのポリペプチド溶液を生成した。また、合成発色基質S-2444(Chromogenix製)を蒸留水に溶かして、2mMの合成発色基質S-2444溶液を生成した。また、ヒト由来のウロキナーゼ(ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター、三菱ウェルファーマ製)を0.85%の生理食塩水に溶かして50IU/mLのウロキナーゼ溶液を生成した。
次に、2種類の試料溶液を調製した。第1の試料溶液として、ポリペプチド溶液と合成発色基質S-2444溶液とを混合後、ウロキナーゼ溶液を混合してなる溶液を調製した。第2の試料溶液として、ポリペプチド溶液とウロキナーゼ溶液とを混合後、合成発色基質S-2444溶液を混合してなる溶液を調製した。なお、両試料溶液には、21mLのポリペプチド溶液と、6mLの合成発色基質S-2444溶液と、21mLのウロキナーゼ溶液と、162mLの3mM、pH8.8のTris/HCl bufferとが混合されていた。また、6mLの合成発色基質S-2444溶液と、21mLのウロキナーゼ溶液と、162mLの3mM、pH8.8のTris/HCl bufferと21mLの0.85%生理食塩水とを混合して、対照溶液を調製した。その後は本実施例の(A)の合成発色基質法に記載の方法に従い、405nmにおける吸光度の各変化をそれぞれ測定した。
表7に結果を示す。なお、表5における「ペプチド+S-2444」は上記第1の試料溶液を意味し、「ペプチド+UK」は上記第2の試料溶液を意味する。また、「直ちに測定」及び「37℃、1時間加温」の意味するところは上述の通りである。
表7に示すように、FO152−2では、どちらの測定方法を用いて測定してもどちらの溶液を用いて測定しても、ウロキナーゼ活性は亢進された。特に、「ペプチド+UK」を用いて「直ちに測定」した場合に、ウロキナーゼ活性は大きく亢進された。
(C)t−PA活性
−フィブリン平板法−
まず、配列番号:20のポリペプチドを0.85%の生理食塩水に溶かして、0.1mg/mL、1mg/mL、10mg/mL、100mg/mL、1mg/mLの5種類のポリペプチド溶液を生成した。また、ヒト由来のt−PA(Single-chain t-PA From human melanoma cell culture, Sigma Chemical Co.製)を0.85%生理的食塩水に溶かして50IU/mLのt−PA溶液を生成した。
そして、0.1mg/mLのポリペプチド溶液とt−PA溶液とを等量混合して、試料溶液を調製した。その後は本実施例の(B)のフィブリン平板法に記載の方法に従い、各溶解面積をそれぞれ測定した。
表8に結果を示す。
表8に示すように、BH208とBH209とでは、どちらの測定方法を用いて測定しても、t−PA活性は亢進された。その亢進の度合いは、「直ちに測定」したときの方が「37℃、18時間加温」したときに比べて大きかった。よって、これらのポリペプチドでは、フィブリンと会合することによりt−PA活性が亢進されると考えられる。
<実施例のまとめ>
上記実施例1及び2より、ウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチドはBH286とBH289とBH290とBH291とである。
上記実施例3より、t−PA活性を亢進させるポリペプチドはVN42とVL16とLH25とであり、ウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチドはVH8とSA9とVL16とである。
上記実施例1及び4より、プラスミン活性を亢進させるポリペプチドはBH209であり、ウロキナーゼ活性を亢進させるポリペプチドはBH207である。
そして、ポリペプチドがプラスミン活性やt−PA活性やウロキナーゼ活性などを亢進させるポリペプチドであれば、そのポリペプチドは血栓溶解を亢進させるポリペプチドであるといえる。よって、BH286、BH289、BH290、BH291、VH8、SA9、VN42、VL16、LH25、BH207及びBH209は、血栓溶解を亢進させるポリペプチドである。そのため、これらのポリペプチドの少なくとも一つを含む医薬品は血栓溶解促進薬であるとともに、従来の血栓溶解薬と異なりプラスミン活性やt−PA活性やウロキナーゼ活性を亢進させることにより血栓溶解を亢進させることができるため副作用を引き起こす危険性は極めて低い。