この発明は、複数の駆動力源を有する車両におけるハイブリッド駆動装置に関するものである。
従来、ハイブリッド車としては、エンジンおよびモータ・ジェネレータを駆動力源として備えた車両が知られている。このようなハイブリッド車においては、エンジンとモータ・ジェネレータとを協調制御することにより、エンジンを燃費の良い運転領域で制御し、かつ、エミッションの低減を図ることが可能である。
この種のハイブリッド車の一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されたハイブリッド車においては、エンジンの出力側に、モータ・ジェネレータおよびロックアップクラッチおよび変速機が配置されている。この変速機は、入力軸および出力軸と、入力軸から出力軸に至る経路に配置された複数の遊星歯車機構と、これらの遊星歯車機構の回転要素の状態を選択的に切り換える複数の摩擦係合装置とを有している。また、複数の摩擦係合装置の係合・解放を制御する油圧制御装置が設けられている。そして、車速およびアクセル開度などに基づいて、変速判断をおこない、変速を実行する条件が成立した場合は、複数の摩擦係合装置の係合・解放状態を切り換えることにより、入力軸と出力軸との間における変速比が段階的に制御される構成となっている。
また、特許文献1に記載されたハイブリッド車においては、第5速から第4速にダウンシフトする判断が成立すると、ロックアップクラッチが解放され、ついで、エンジントルクが増大される。その後、第5速を設定する摩擦係合装置と、第4速を設定する摩擦係合装置との間で、反力トルクの受け持ち関係が切り替わる。このため、変速機に対する入力トルクが変化すると、摩擦係合装置同士の切り替えタイミングに影響を及ぼし、ショックが生じる。そこで、エンジントルクの変動に対応してモータ・ジェネレータを制御することにより、変速機に対する入力トルクの変動を抑制している。なお、エンジンおよびモータ・ジェネレータおよび変速機を備えたハイブリッド車の一例が、特許文献2および特許文献3に記載されており、モータ・ジェネレータおよび有段変速機を有する電気自動車の一例が、特許文献4に記載されており、内燃機関および自動変速機を有する車両において、自動変速機の変速時における変速ショックを抑制する技術が、特許文献5および特許文献6に記載されている。
特開2000−83303号公報
特開2002−225578号公報
特開2000−346187号公報
特開2000−295709号公報
特開2001−214771号公報
特開平10−89114号公報
ところで、特許文献1に記載されたハイブリッド車においては、変速機での変速中、入力軸における入力トルクの変化を抑制している。しかしながら、変速機における変速途中、より具体的には、トルク相では摩擦係合装置同士による反力トルクの受け持ち関係が切り換わるため、過渡的に反力トルクが低下して出力軸に伝達されるトルクが低下する。その結果、車両の駆動力が変化し、ショックとして体感される可能性があった。
この発明は、上記の事情を背景としてなされたものであり、変速機の変速段階がトルク相にある場合に、車両の駆動力変化が生じることを抑制することのできるハイブリッド駆動装置を提供することを目的としている。
上記の目的を達成するために請求項1の発明は、車両の駆動力源として第1の原動機および第2の原動機を含む複数の原動機を有し、前記第1の原動機の出力側に変速機が設けられているとともに、前記変速機が、その変速段階でトルク相についでイナーシャ相を経由する構成を有しているハイブリッド駆動装置において、前記変速機における変速開始が予測された場合は、前記トルク相が開始される前に前記車両の駆動力が変化することを抑制するように、前記第1の原動機および前記第2の原動機のトルクを、前記変速開始の予測前におけるトルクとは異なるトルクに変更する補正制御を実行する第1の制御手段と、前記トルク相が開始された場合は、前記トルク相における車両の駆動力の変化を抑制するように、前記第2の原動機のトルクを変化させる第2の制御手段と、前記トルク相からイナーシャ相に切り換わった場合は、前記第1の原動機のトルクを前記トルク相の開始前のトルクに戻す補正制御を実行する第3の制御手段とを備えていることを特徴とするものである。ここで、「変速機における変速開始が予測された場合」とは、「所定時間後に変速が開始される可能性があることが事前に察知された場合」を意味している。
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記第1の原動機にはエンジンが含まれ、前記第2の原動機にはモータ・ジェネレータが含まれていることを特徴とするものである。
請求項3の発明は、請求項2の構成に加えて、前記変速機でアップシフトを開始することが予測された場合は、前記トルク相が開始される前に前記車両の駆動力が変化することを抑制するように、エンジントルクを増加し、かつ、前記モータ・ジェネレータによる回生トルクを増加させる構成を、前記第1の制御手段が有しており、前記車両における駆動力の変化を抑制するように、前記モータ・ジェネレータの回生トルクを低下させる構成を、前記第2の制御手段が有していることを特徴とするものである。
請求項4の発明は、車両の駆動力源としてエンジンを含む複数の原動機を有し、前記エンジンの出力側に変速機が設けられているとともに、前記変速機が、その変速段階でトルク相についでイナーシャ相を経由する構成を有しているハイブリッド駆動装置において、前記トルク相が開始されてからエンジントルクを変更するための予備制御を、前記トルク相の開始前に実行する構成と、この予備制御の実行により、前記トルク相の開始前に車両の駆動力が変化することを抑制する制御を、複数のトルク制御装置を用いて実行する構成とを備えた第1のエンジントルク制御手段と、前記トルク相が開始された場合は、このトルク相における車両の駆動力の変化を抑制するように、前記複数のトルク制御装置を用いてエンジントルクを変更する第2のエンジントルク制御手段とを有していることを特徴とするものである。
請求項5の発明は、請求項4の構成に加えて、前記複数の原動機にはモータ・ジェネレータが含まれることを特徴とするものである。
請求項6の発明は、請求項4または5の構成に加えて、前記複数のトルク制御装置には、吸入空気量制御装置および点火時期制御装置が含まれており、前記トルク相開始前に、吸入空気量を増加させ、かつ、点火時期を遅角させてエンジントルクを変更するための予備制御を実行し、かつ、この予備制御を実行した場合でも、前記トルク相の開始前に車両の駆動力が変化することを抑制する構成を、前記第1のエンジントルク制御手段が更に有しており、前記トルク相における前記車両の駆動力の変化を抑制するように、吸入空気量を一定に制御し、かつ、点火時期を進角させてエンジントルクを上昇させる構成を、前記第2のエンジントルク制御手段が更に有していることを特徴とするものである。
請求項7の発明は、請求項2の構成に加えて、前記トルク相の開始前に、前記エンジントルクを変更するための予備制御を実行し、かつ、この予備制御の実行により前記トルク相の開始前に前記車両の駆動力が変化することを抑制する制御を実行する場合に、複数のトルク制御装置を用いる第4の制御手段を、更に有しており、前記トルク相が開始された場合は、このトルク相における車両の駆動力の変化を抑制するように、前記複数のトルク制御装置を用いてエンジントルクを制御する第5の制御手段を、更に有していることを特徴とするものである。
請求項8の発明は、請求項7の構成に加えて、前記複数のトルク制御装置には、吸入空気量制御装置および点火時期制御装置が含まれており、前記トルク相の開始前に、吸入空気量を増加させ、かつ、点火時期を遅角させてエンジントルクを変更するための予備制御を実行し、かつ、この予備制御の実行により、前記トルク相の開始前に前記車両の駆動力が変化することを抑制する構成を、前記第4の制御手段が更に有しており、前記トルク相における前記車両の駆動力の変化を抑制するように、吸入空気量および点火時期を制御してエンジントルクを制御する構成を、前記第5の制御手段が更に有していることを特徴とするものである。
請求項9の発明は、請求項3の構成に加えて、前記トルク相が開始されてから前記エンジントルクを制御するための予備制御を、前記トルク相の開始前に実行し、かつ、この予備制御の実行により前記トルク相の開始前に前記車両の駆動力が変化することを抑制する制御を実行するにあたり、複数のトルク制御装置を用いる第6の制御手段と、前記トルク相が開始された場合は、このトルク相における前記車両の駆動力の変化を抑制するように、前記複数のトルク制御装置を用いてエンジントルクを制御する第7の制御手段とを有していることを特徴とするものである。
請求項10の発明は、請求項9の構成に加えて、前記複数のトルク制御装置には、吸入空気量制御装置および点火時期制御装置が含まれており、吸入空気量を増加させ、かつ、点火時期を遅角させてエンジントルクを制御するための予備制御を、前記トルク相が開始される前に実行し、かつ、この予備制御の実行により、前記トルク相の開始前に車両の駆動力が変化することを抑制する構成を、前記第6の御手段が更に有しており、前記トルク相における車両の駆動力の変化を抑制するように、吸入空気量および点火時期を制御してエンジントルクを制御する構成を、前記第7の制御手段が更に有していることを特徴とするものである。
請求項11の発明は、請求項1ないし10のいずれかの構成に加えて、前記複数の原動機のいずれかの回転数に基づいて、前記トルク相における車両の駆動力を推定し、その駆動力の推定結果に基づいて、前記トルク相における車両の駆動力の変化を抑制する制御内容を決定する駆動力推定手段を、更に有していることを特徴とするものである。
各請求項の発明には、第1の原動機またはエンジンのトルクが伝達される車輪と、第2の原動機またはモータ・ジェネレータのトルクが伝達される車輪とが同じである構成のパワートレーンと、第1の原動機またはエンジンのトルクが伝達される車輪と、第2の原動機またはモータ・ジェネレータのトルクが伝達される車輪とが異なる構成のパワートレーンとが含まれる。
請求項1の発明によれば、変速機における変速の開始が予測された場合は、トルク相が開始される前に、第1の原動機および第2の原動機のトルクを、変速の開始予測前におけるトルクとは異なるトルクに変更する補正制御を実行する。したがって、変速機でトルク相が開始される前に、車両における駆動力が変化することを抑制できる。また、変速機で変速が開始され、かつ、変速段階がトルク相である場合は、第2の原動機のトルクを補正することにより、車両における駆動力の変化を抑制することが可能である。なお、第2の原動機におけるトルクの制御応答性の方が、第1の原動機におけるトルクの制御応答性よりも高い場合は、車両の駆動力の低下を抑制する機能が一層向上する。さらに、トルク相が終了してイナーシャ相になった場合は、第1の原動機のトルクを、トルク相の開始前のトルクに戻すことが可能であり、第1の原動機の運転状態を、変速開始前と同じ運転状態に復帰させることが可能である。
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、モータ・ジェネレータは電流値の制御により、トルクを制御することが可能であり、エンジンは燃料の燃焼状態を制御することにより、トルクを制御することが可能である。このように、モータ・ジェネレータにおけるトルクの制御応答性の方が、エンジンにおけるトルクの制御応答性よりも高いため、トルク相でモータ・ジェネレータのトルクを制御することにより、車両の駆動力の低下を抑制する機能が一層向上する。さらに、トルク相が終了してイナーシャ相になった場合は、エンジントルクを、トルク相の開始前のトルクに戻すことが可能であり、エンジンにおける燃料消費状態を、変速開始前と同じ状態に復帰させることが可能である。
請求項3の発明によれば、請求項2の発明と同様の効果が生じる他に、「変速機でアップシフトを開始すること」が予測された場合は、トルク相が開始される前に、エンジントルクを増加し、かつ、モータ・ジェネレータによる回生トルクを増加させる制御が実行される。このため、トルク相が開始される前に、車両の駆動力が変化することを抑制できる。また、トルク相において、モータ・ジェネレータの回生トルクを低下させることにより、車両における駆動力の低下を抑制することが可能である。
請求項4の発明によれば、変速機でトルク相が開始されてからエンジントルクを変更するための予備制御を、トルク相の開始前に実行することが可能である。また、予備制御の実行により、トルク相の開始前に車両の駆動力が変化することを抑制することが可能である。さらに、トルク相が開始された場合は、複数のトルク制御装置を用いてエンジントルクを変更することにより、車両の駆動力が変化することを抑制できる。
請求項5の発明によれば、請求項4の発明と同様の効果を得られる他に、トルク相が開始された場合は、複数のトルク制御装置の制御によるエンジントルクの変更に加えて、モータ・ジェネレータのトルクを変更して、車両の駆動力が変化することを抑制することも可能である。
請求項6の発明によれば、請求項4または5の発明と同様の効果を得られる他に、トルク相の開始前に、吸入空気量を増加させ、かつ、点火時期を遅角させてエンジントルクを変更するための予備制御が実行されるが、この予備制御を実行した場合でも、トルク相の開始前には車両の駆動力が変化することを抑制することができる。そして、トルク相が開始された場合は、吸入空気量を一定に制御し、かつ、点火時期を進角させてエンジントルクを上昇させることにより、トルク相における車両の駆動力の変化を抑制することができる。
請求項7の発明によれば、請求項2の発明と同様の効果を得られる他に、トルク相の開始前に、エンジントルクを変更するための予備制御を実行し、かつ、予備制御の実行によりトルク相の開始前に車両の駆動力が変化することを抑制する場合は、複数のトルク制御装置が用いられる。そして、トルク相が開始された場合は、複数のトルク制御装置を用いて、エンジントルクを制御することにより、トルク相における車両の駆動力の変化を抑制することが可能である。
請求項8の発明によれば、請求項7の発明と同様の効果を得られる他に、トルク相の開始前に、吸入空気量を増加させ、かつ、点火時期を遅角させてエンジントルクを変更するための予備制御が実行されるが、トルク相の開始前には車両の駆動力が変化することを抑制できる。そして、トルク相が開始された場合は、吸入空気量および点火時期を制御してエンジントルクを制御することにより、車両の駆動力の変化を抑制することが可能である。
請求項9の発明によれば、請求項3の発明と同様の効果を得られる他に、トルク相が開始されてからエンジントルクを制御するための予備制御を、トルク相の開始前に実行する。しかし、予備制御が実行された場合でも、トルク相の開始前に車両の駆動力が変化することを抑制することが可能である。さらに、トルク相が開始された場合は、複数のトルク制御装置を用いて、エンジントルクを制御することにより、車両の駆動力の変化を抑制することが可能である。
請求項10の発明によれば、請求項9の発明と同様の効果を得られる他に、吸入空気量を増加させ、かつ、点火時期を遅角させてエンジントルクを制御するための予備制御を、トルク相が開始される前に実行することが可能である。この予備制御が実行された場合でも、トルク相の開始前には車両の駆動力は変化しない。さらに、トルク相が開始された場合は、吸入空気量および点火時期を制御してエンジントルクを制御することにより、車両の駆動力の変化を抑制することが可能である。
請求項11の発明によれば、請求項1ないし10のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、いずれかの原動機の回転数に基づいて、トルク相における車両の駆動力が推定される。そして、車両の駆動力の推定結果に基づいて、トルク相における車両の駆動力の変化を抑制する制御内容を決定することが可能である。したがって、トルク相における駆動力の変化を抑制する制御精度が一層向上する。
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。図2は、この発明で対象とする車両Veのパワートレーンおよび制御系統の一例を示している。図2に示す車両Veは、駆動力源としてのエンジン3およびモータ・ジェネレータ(MG2)2を有するハイブリッド車である。さらに車両Veは、エンジン3の動力をモータ・ジェネレータ(MG1)1および中間軸4に分配する動力分配装置5と、中間軸4からデファレンシャル6に至る経路に配置された変速機7とを有している。先ずエンジン3について説明すると、エンジン3は、内燃機関、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどのように、燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置である。以下、エンジン3としてガソリンエンジンを用いた場合について説明する。エンジン3は、電子スロットルバルブ3A、燃料噴射量制御装置3B、点火時期制御装置3Cなどにより、エンジン出力を電気的に制御できるように構成されている。
前記モータ・ジェネレータ1,2および動力分配装置5および変速機7はケーシング8内に収納されている。そして、モータ・ジェネレータ1は、ケーシング8に固定されたステータ9と、回転可能なロータ10とを有している。動力分配装置5は、シングルピニオン型の遊星歯車機構を有している。すなわち、動力分配装置5は、モータ・ジェネレータ1のロータ10と一体回転するサンギヤ11と、サンギヤ11と同軸上に配置されたリングギヤ12と、サンギヤ10およびリングギヤ12に噛合されたピニオンギヤ13を保持するキャリヤ14とを有している。このキャリヤ14は入力軸15と一体回転するように連結され、入力軸15とエンジン3のクランクシャフト(図示せず)とが連結されている。また、リングギヤ12は中間軸4と一体回転するように連結されている。
前記モータ・ジェネレータ2は、ケーシング8に固定されたステータ16と、回転可能なロータ17とを有しており、ロータ17と中間軸4とが動力伝達可能に連結されている。一方、変速機7は、図2に示す例では、一組のラビニョ型遊星歯車機構によって構成されている。すなわち、歯数が異なる第1サンギヤ18および第2サンギヤ19とが同軸上に配置されており、その第1サンギヤ18にショートピニオン20が噛合されている。第1サンギヤ18は中間軸4と一体回転するように構成されている。また、ショートピニオン20はロングピニオン21に噛合されており、そのロングピニオン21が、第2サンギヤ19に噛合されている。また、第1サンギヤ18と同軸上にリングギヤ22が設けられており、ロングピニオン21は、リングギヤ22に噛合されている。
さらに、ショートピニオン20およびロングピニオン21を、それぞれ自転可能に保持し、かつ、一体的に公転可能に保持するキャリヤ23が設けられている。このように、第1サンギヤ18およびリングギヤ22およびショートピニオン20およびロングピニオン21により、ダブルピニオン型遊星歯車機構が形成されている。また、第2サンギヤ19およびリングギヤ22およびロングピニオン21により、シングルピニオン型遊星歯車機構が形成されている。なお、リングギヤ22とデファレンシャル6とを連結するプロペラシャフト24が設けられている。
つぎに、変速機7を構成する各回転要素の回転・停止を制御するとともに、中間軸4と回転要素とを接続・遮断する摩擦係合装置について説明する。まず、第2サンギヤ19を選択的に固定する第1ブレーキB1と、キャリア23を選択的に固定する第2ブレーキB2と、キャリヤ23が正方向に回転することを許容し、かつ、キャリヤ23が逆方向に回転することを防止するワンウェイクラッチF1とが設けられている。
ここで、正方向とは、エンジン3の回転方向と同じ回転方向であり、逆方向とはエンジン3の回転方向とは逆方向である。また、第2サンギヤ19と中間軸4とを選択的に接続・遮断するクラッチC1が設けられている。これらの第1ブレーキB1および第2ブレーキB2およびクラッチC1として、この実施例では、摩擦力によって係合力を生じるいわゆる摩擦係合装置が用いられている。この摩擦係合装置としては、多板形式の摩擦係合装置、あるいはバンド形式の摩擦係合装置を採用することができる。そして、これらの第1ブレーキB1および第2ブレーキB2およびクラッチC1を制御するアクチュエータとしての油圧制御装置25が設けられている。なお、デファレンシャル6には、ドライブシャフト26を経由して車輪(後輪)27が連結されている。
さらに、モータ・ジェネレータ1,2にはインバータ28を経由して蓄電装置29が接続されている。蓄電装置29としては、バッテリまたはキャパシタを用いることが可能である。したがって、モータ・ジェネレータ1,2と、蓄電装置29との間で電力の授受をおこなうことが可能である。なお、特に図示しないが、モータ・ジェネレータ1とモータ・ジェネレータ2との間で、蓄電装置29を経由することなく、直接電力の授受をおこなうことの可能な電気回路を構成することも可能である。
つぎに車両Veの制御系統について説明すると、車両Veの全体を制御するコントローラとしての電子制御装置30が設けられており、電子制御装置30には、シフトポジション、車速、加速要求、制動要求、エンジン回転数、モータ・ジェネレータ1,2の回転数等の信号が入力される。この電子制御装置30からは、エンジン3およびモータ・ジェネレータ1,2および油圧制御装置25を制御する信号が出力される。
上記のように構成された車両Veの制御例を説明する。まず、車速および加速要求などの条件および電子制御装置30に記憶されているデータに基づいて、動力分配装置5および変速機7が制御される。この動力分配装置5の制御と、変速機7の制御とは協調して実行される。ここでは、便宜上、先に動力分配装置5の制御について説明する。まず、車速および加速要求に基づいて車両Veにおける要求駆動力が求められ、その要求駆動力に基づいて目標エンジン出力が算出される。そして、電子制御装置30に記憶されているエンジン3の最適燃費データに基づいて、目標エンジン出力に対応する目標エンジン回転数および目標エンジントルクが算出される。そして、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に近づけるように、動力分配装置5の変速比が制御される。動力分配装置5の変速比とは、キャリヤ14の回転数とリングギヤ12の回転数との比である。具体的には、モータ・ジェネレータ1の出力を制御することにより、サンギヤ11とリングギヤ12とキャリヤ14との差動作用により、動力分配装置5の変速比が無段階に制御される。この動力分配装置5の変速比の制御と並行して、実エンジントルクを目標エンジントルクに近づけるように、電子スロットルバルブ3Aなどが制御される。
つぎに、変速機7の制御について説明する。この実施例では、シフトポジションとして前進ポジションおよび後進ポジションを選択可能であり、前進ポジションが選択された場合は、変速機7で、第1速ないし第3速の変速段(変速比)を選択的に切り換え可能である。これに対して、後進ポジション(Rev)が選択された場合は、変速比が固定される。各シフトポジションに対応する摩擦係合装置(クラッチ・ブレーキ)の係合・解放状態を図3の図表に基づいて説明する。図3において、「○」は摩擦係合装置が係合されることを示し、「×」は摩擦係合装置が解放されることを示し、「(○)」は摩擦係合装置が解放または係合のいずれでもよいことを示す。
また、変速機7を構成する回転要素の状態を、図4の共線図に基づいて説明する。この図4の共線図には、サンギヤ18,19およびキャリヤ23およびリングギヤ22の回転数および回転方向が示されている。この図4の共線図において、「正」は回転要素が正方向に回転することを示し、「逆」は回転要素が逆方向に回転することを示し、「零」は回転要素が停止することを示す。ここで、「正方向」および「逆方向」の意味は、前述した意味と同じである。また、図4の共線図においては、前進ポジションで選択される第1速ないし第3速において、リングギヤ22の回転数は、便宜上、同一として示されている。なお、図4の共線図において、白抜きの矢印は各回転要素に作用するトルクの向きを示す。
まず、車速および加速要求などに基づいて、第1速(1st)が選択された場合は、ワンウェイクラッチF1が係合され、クラッチC1およびブレーキB1は解放される。変速機7で第1速が設定された場合において、中間軸4にトルクが伝達されて、そのサンギヤ18が正方向に回転すると、ワンウェイクラッチF1の係合により固定されたキャリヤ23が反力要素となり、サンギヤ18のトルクがリングギヤ22に伝達される。このリングギヤ22のトルクは、プロペラシャフト24およびデファレンシャル6およびドライブシャフト26を経由して車輪27に伝達され、駆動力が発生する。この第1速が設定された場合は、変速機7が、サンギヤ18の回転数よりもリングギヤ22の回転数の方が低速となる、いわゆる減速状態にある。なお、ブレーキB2を係合させて第1速を設定することも可能である。ブレーキB1の係合により第1速が設定された場合も、キャリヤ23が固定されて、図4の共線図における第1速と同じ状態となる。
一方、車両Veの走行中に第2速(2nd)を設定する条件が成立した場合は、ブレーキB1が係合され、クラッチC1およびブレーキB2およびワンウェイクラッチF1が解放される。このように、変速機7で第2速が設定された場合において、中間軸4にトルクが伝達されて、そのサンギヤ18が正方向に回転すると、ブレーキB1の係合により固定されたサンギヤ19が反力要素となり、サンギヤ18のトルクがリングギヤ22に伝達されて、駆動力が発生する。この第2速が設定された場合は、変速機7が、サンギヤ18の回転数よりもリングギヤ22の回転数の方が低速となる、いわゆる減速状態にある。
さらに、車両Veの走行中に第3速(3rd)を設定する条件が成立した場合は、クラッチC1が係合され、ブレーキB1およびブレーキB2およびワンウェイクラッチF1が解放される。このように、変速機7で第3速が設定された場合は、サンギヤ18とサンギヤ19とが一体回転するように連結される。このため、中間軸4にトルクが伝達された場合は、そのサンギヤ18,19およびキャリヤ23およびリングギヤ22が正方向に一体回転し、駆動力が発生する。すなわち、第3速が設定された場合は、変速機7が、中間軸4の回転数とリングギヤ22の回転数とが同一となる状態、いわゆる直結状態にある。このように、変速機7は、第1速ないし第3速の変速段に対応する変速比を段階的に切り換えることが可能な有段変速機である。
上記のように、変速機7で第1速ないし第3速のいずれかを設定する場合は、エンジン駆動モードまたは電気自動車モードまたはハイブリッドモードの各モードを選択的に切り換え可能である。エンジン駆動モードとは、エンジントルクを中間軸4に伝達するモードであり、モータ・ジェネレータ2では、力行も回生もおこなわない。これに対して、電気自動車モードが選択された場合は、モータ・ジェネレータ2を力行させ、そのトルクが中間軸4に伝達され、エンジントルクは中間軸4には伝達されない。さらに、ハイブリッドモードが選択された場合は、エンジントルクが中間軸4に伝達され、かつ、モータ・ジェネレータ2が力行され、そのトルクが中間軸4に伝達される。
なお、シフトポジションとして後進ポジション(Rev)が選択された場合は、ブレーキB2が係合され、かつ、クラッチC1およびブレーキB1およびワンウェイクラッチF1が解放される。このように、変速機7で後進ポジションが設定された場合は、図4の共線図に示すように、モータ・ジェネレータ2が力行され、かつ、逆方向に回転されるとともに、ブレーキB2により固定されるキャリヤ23が反力要素となり、リングギヤ22が逆方向に回転して、駆動力が発生する。以上のように、図2に示された車両Veは、エンジントルクおよびモータ・ジェネレータ2のトルクが同じ車輪27に伝達される構成のパワートレーンである。
つぎに、車両Veで実行可能な制御例を、図1のフローチャートに基づいて説明する。図1の制御例は、請求項1および請求項2および請求項3の発明に対応する制御例である。まず、電子制御装置30に入力される信号が処理され、その処理結果に応じた制御が実行される(ステップS1)。例えば、変速機7で第1速が設定された場合は、動力分配装置5においては、モータ・ジェネレータ1が力行され、かつ、逆方向に回転されて、エンジントルクの反力トルクがモータ・ジェネレータ1により受け持たれる。また、モータ・ジェネレータ2は回生され、かつ、正方向に回転されて、モータ・ジェネレータ2で発電された電力が、モータ・ジェネレータ1に供給される。
このステップS1についで、変速機7で変速を実行することが予想されるか否かが判断される(ステップS2)。例えば、実車速が上昇しており、第1速から第2速にアップシフトする所定車速に近づいている場合は、ステップS2で肯定的に判断される。このステップS2で肯定的に判断された場合は、アップシフトによるトルク相が開始される前に、エンジントルクを、ステップS2の判断前のトルクよりも増加する制御が実行される(ステップS3)。また、トルク相の開始前に、プロペラシャフト24に伝達されるトルクが変化することがないように、モータ・ジェネレータ2の回生トルクを増加する、言い換えれば、発電量を増加する制御が実行される(ステップS4)。
このステップS4についで、ステップS2で予想されたとおりに、変速機7で変速を実行するか否かが再確認される(ステップS5)。例えば、実車速が前記所定車速以上となり、ステップS5で肯定的に判断された場合は、変速機7で第1速から第2速にアップシフトする制御が実行され、トルク相が開始される(ステップS6)。すなわち、ブレーキB1を係合する制御が開始され、この制御にともないワンウェイクラッチF1が自動的に解放される。このトルク相においては、サンギヤ18に入力されるトルクの反力トルクを受け持つ要素が、ワンウェイクラッチF1からブレーキB1に切り換えられる途中で反力トルクが低下するため、プロペラシャフト24に伝達されるトルクが、変速途中で過渡的に低下する可能性がある。
そこで、ステップS6に次ぐステップS7においては、エンジントルクを略一定に制御する一方、モータ・ジェネレータ2における回生トルクを低下する制御が実行され、モータ・ジェネレータ2の回転方向が正回転に切り換えられ、かつ、モータ・ジェネレータ2が力行される。このため、プロペラシャフト24を経由して車輪27に伝達されるトルクを略一定に制御することが可能であり、車両Veの駆動力の変化が抑制される。なお、上記のトルク相では、サンギヤ18の回転数は変化しない。
ステップS7についで、ブレーキB1で受け持つ反力トルクが所定値以上まで上昇すると、イナーシャ相が開始される、すなわち、サンギヤ18の回転数が低下し始める(ステップS8)。また、このステップS8についで、モータ・ジェネレータ2の力行トルクを、第2速に対応するトルクまで上昇させる制御が実行される(ステップS9)。さらに、このステップS9では、モータ・ジェネレータ1の回転数が、零を経由させて正方向に切り換えられ、かつ、力行から回生に切り換えることにより、動力分配装置5の無段変速制御が実行される。
この動力分配装置5の無段変速制御と並行して、ステップS9では、エンジントルクを低下させ、かつ、第1速で設定していたエンジントルクに戻す制御が実行される。なお、ステップS8およびステップS9において、中間軸4に伝達されるエンジントルクおよびモータ・ジェネレータ2のトルクが変化した場合でも、変速段階がイナーシャ相であるために、プロペラシャフト24を経由して車輪7に伝達されるトルクの変化は生じない。
上記のステップS9についで、サンギヤ18の回転数が、第2速に相当する変速機7の変速比および車速などから求められる回転数に同期した時点でイナーシャ相が終了、すなわち、変速が終了して、変速機7の変速段が第2速となり(ステップS10)、リターンされる。
これに対して、ステップS5の判断時点で、車速が低下して、第1速を維持する場合は、ステップS5で否定的に判断される。このように、ステップS5で否定的に判断された場合は、エンジントルクを第1速に相当するエンジントルクに戻す、つまり、低下させる制御が実行されるとともに(ステップS11)、エンジントルクの低下による駆動力変化が生じないように、モータ・ジェネレータ2の発電量を第1速に対応する発電量に戻す、すなわち、発電量を低下させる制御が実行され(ステップS12)、リターンする。なお、ステップS2で否定的に判断された場合は、そのままリターンされる。
ここで、図1の制御に対応して実行される動力分配装置5の無段変速制御、および動力分配装置5における回転要素の状態の一例を、図5の共線図に基づいて説明する。変速機7で第1速が設定されている場合は、図5の共線図に示すように、エンジン3が正方向に回転されており、モータ・ジェネレータ1が力行され、かつ、逆方向に回転することにより、サンギヤ11が反力要素となる。そして、変速機7で第1速から第2速にアップシフトされる場合は、モータ・ジェネレータ1の回転数が零を経由して正方向に切り換えられ、かつ、モータ・ジェネレータ1が力行から回生に切り換えられて、サンギヤ11が反力トルクを受け持つこととなる。
このように、モータ・ジェネレータ1の回転方向が切り換えられ、かつ、正方向における回転数が上昇することにともない、リングギヤ12の回転数が低下している。なお、図5の共線図は、便宜上、エンジン回転数が一定である場合を示している。このように、変速機7のアップシフト制御と並行して、動力分配装置5においては、その変速比が大きくなるようにダウンシフト制御が実行される。
つぎに、図1に示す制御例に対応するタイムチャートの一例を図6に基づいて説明する。図6のタイムチャートは、便宜上、エンジン回転数が一定として示されている。まず、時刻t1以前においては変速機7で第1速が設定されており、ワンウェイクラッチF1により、略一定の反力トルクが受け持たれている。また、モータ・ジェネレータ1は力行され、かつ、逆方向に回転されており、その回転数が略一定に制御されている。このため、エンジン回転数Neも略一定に制御され、エンジントルクTeは略一定に制御されている。この時刻t1以前において、エンジン3の出力(回転数×トルク)は、最適燃費データに基づいて制御される。さらに、モータ・ジェネレータ2は回生され、その電力がモータ・ジェネレータ1に供給される。
そして、時刻t1において、前述したステップS2で肯定的に判断されると、時刻t1以降でエンジントルクが上昇され、かつ、モータ・ジェネレータ2の回生トルクが増加され、かつ、エンジントルクの反力トルクを受け持つモータ・ジェネレータ1の力行トルクが減少される。上記の制御にともない、時刻t1以降はワンウェイクラッチF1で受け持つ反力トルクが上昇している。なお、プロペラシャフト24に伝達されるトルク、すなわち、出力トルクは、時刻t1以降も略一定である。
ついで、時刻t2になりステップS5で肯定的に判断された場合は、トルク相が開始される。すなわち、ワンウェイクラッチF1で受け持つ反力トルクが低下し、かつ、ブレーキB1で受け持つ反力トルクが増加する。このように変速機7の変速段階がトルク相である場合は、動力分配装置5において、モータ・ジェネレータ1の回転数が一定に制御され、かつ、エンジントルクは略一定に制御されている。これに対して、モータ・ジェネレータ2の回生トルクが低下され、ついで、回生から力行に切り換えられる。
したがって、トルク相において、ワンウェイクラッチF1とブレーキB1との間で反力トルクの分担関係の切り換えがおこなわれる変速過渡状態においても、出力トルクを実線で示すように略一定に制御することが可能となる。したがって、車両Veの駆動力の変化、具体的には駆動力の低下を抑制することができ、変速ショックとして体感されることを回避できる。
ついで、時刻t3から変速機7ではイナーシャ相が開始、つまり、モータ・ジェネレータ2の回転数が低下するとともに、モータ・ジェネレータ2の力行トルクが更に上昇される。これと並行して、動力分配装置5では、モータ・ジェネレータ1の回転数が零に近づけられるとともに、エンジントルクが低下される。そして、時刻t4以降は、モータ・ジェネレータ2の力行トルクが、第2速に対応するトルクに制御される。これと並行して、動力分配装置5においては、モータ・ジェネレータ1の回転方向が正方向に切り換えられ、かつ、モータ・ジェネレータ1が回生される。さらには、モータ・ジェネレータ1の回生トルクは略一定に制御され、エンジントルクも略一定に制御される。つまり、時刻t4以降、エンジン出力は、時刻t1以前と同じ状態に戻されている。したがって、エンジン3の運転状態を最適燃費データに応じて制御することが可能であり、燃費の低下を抑制できる。さらに、変速機7における変速段階の進行にともない、モータ・ジェネレータ2の回転数がエンジン回転数以下となり、かつ、動力分配装置5における変速段階の進行にともない、モータ・ジェネレータ1の回転数がエンジン回転数以上になる。
そして、モータ・ジェネレータ2の回転数が、変速機7の第2速に対応する変速比および車速から求められる回転数に同期する時刻t5において、イナーシャ相が終了、すなわち変速機7における変速が終了し、時刻t5以降は変速機7で第2速が設定されている。
これに対して、比較例に対応する出力トルクが、図6の共線図に破線で示されている。この比較例は、「トルク相でプロペラシャフトに伝達されるトルクを増加する制御」を実行しない場合に相当するものであり、この比較例では、時刻t2からトルク相の開始にともない出力トルクが低下する。一方、時刻t3から、第2速で係合される摩擦係合装置で受け持たれる反力トルクが増加することにともない、変速機の出力トルクが増加する。したがって、比較例では、トルク相で駆動力の変化が生じ、ショックとして体感される。つまり、実施例1の制御は、「比較例における出力トルクの低下分を補償する制御」と言い換えることができる。
また、この実施例1においては、トルク相が開始される前から、モータ・ジェネレータ2で発電をおこない、その電力を、モータ・ジェネレータ1を力行する場合に用いる構成となっている。したがって、蓄電装置29の出力もしくは定格の大型化を抑制することが可能である。さらに、この実施例1では、トルク相が開始される前から、エンジントルクを増加させ、かつ、モータ・ジェネレータ2で発電をおこない、トルク相が開始されてから、モータ・ジェネレータ2の発電量を低下させて、トルク相における出力トルクの低下を抑制する構成である。したがって、エンジン3のトルク制御応答性と、モータ・ジェネレータ2のトルク制御応答性とを比較すると、エンジン3は動力発生原理の特性上、トルクの変化応答性がモータ・ジェネレータ2に比べて低い。そこで、この実施例1では、モータ・ジェネレータ2のトルク制御により、変速機7の出力トルクの低下を達成するため、変速機7の出力トルクの低下を、応答遅れを生じることなく確実に抑制することが可能である。
ここで、図1に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS1,S2,S3,S4が、この発明の第1の制御手段に相当し、ステップS6,S7が、この発明の第2の制御手段に相当し、ステップS8,S9が、この発明の第3の制御手段に相当する。また、エンジン3が、この発明の第1の原動機に相当し、モータ・ジェネレータ2が、この発明の第2の原動機に相当し、「変速機7のアップシフト」が、この発明の「変速機の変速」に相当し、モータ・ジェネレータ2の回生トルクもしくは発電量が、この発明における「モータ・ジェネレータのトルク」に相当し、「エンジントルクを上昇させ、かつ、モータ・ジェネレータ2の回生トルクを低下させる制御」が、この発明における「エンジントルクおよびモータ・ジェネレータのトルクを共に制御」に相当する。
つぎに、図2に示す車両Veで実行可能な他の制御例を、図7のフローチャートに基づいて説明する。この実施例2は、請求項4および請求項5および請求項6の発明に対応する実施例である。この図7のフローチャートの各ステップの制御において、図1のフローチャートの各ステップの制御と同じ制御である場合は、図1のステップ番号と同じステップ番号を付してある。図7のフローチャートにおいて、ステップS2で肯定的に判断された場合は、電子スロットルバルブ3Aの開度を増加して吸入空気量を増加する制御が実行される(ステップS21)。このステップS21と並行して、点火時期を遅角させる制御が実行される(ステップS22)。このステップS21,S22の制御により、「トルク相が開始される前の段階で出力トルクが変化すること。」を防止できる。
このステップS22についでステップS5に進み、このステップS5で肯定的に判断された場合は、ステップS6を経由してステップS23に進む。このステップS23では、電子スロットルバルブ3Aの開度が略一定に制御され、かつ、点火時期を進角させる制御が共に実行されて、エンジントルクが上昇する。このステップS23についで、ステップS8を経由してステップS24に進む。このステップS24においては、電子スロットルバルブ3Aの開度を減少させ、かつ、点火時期を略一定に維持する制御が実行されて、エンジントルクが低下される。また、ステップS24においては、エンジントルクが、トルク相の開始前と同じトルクになった以降、電子スロットルバルブ3Aの開度および点火時期が略一定に制御されて、そのエンジントルクが維持される。このステップS24についで、ステップS10を経由してリターンされる。
一方、前記ステップS5で否定的に判断された場合は、電子スロットルバルブ3Aの開度を、ステップS2で肯定される以前の開度に戻す制御が実行される(ステップS25)とともに、点火時期を、ステップS2で肯定される以前の点火時期に戻す制御が実行され(ステップS26)、リターンする。なお、ステップS2で否定的に判断された場合は、そのままリターンされる。
この図7のフローチャートに対応するタイムチャートの一例を、図8に基づいて説明する。時刻t1以前においては、電子スロットルバルブの開度および点火時期が一定に制御されており、エンジントルクも一定となっている。時刻t1でステップS2の判断が肯定されると、電子スロットルバルブの開度を増加し、かつ、点火時期を遅角させる制御が実行される。この時刻t1以降もエンジントルクは略一定に制御されているため、ワンウェイクラッチF1で受け止める反力トルクも、略一定となっている。また、モータ・ジェネレータ2は、時刻t1以前から正回転で、回生制御されており、時刻t1以降もモータ・ジェネレータ2の回生トルクは略一定に制御される。さらに、モータ・ジェネレータ1は時刻t1以前から逆回転で力行制御されており、時刻t1以降もモータ・ジェネレータ1の力行トルクは略一定に制御される。
ついで、時刻t2でアップシフトが開始、つまり、ブレーキB1の係合が開始され、かつ、ワンウェイクラッチF1の解放が開始されるというトルク相に移行する。このトルク相が開始された場合は、電子スロットルバルブの開度は略一定に制御される一方、点火時期を進角させる制御が実行されて、エンジントルクが上昇する。この点火時期制御および電子スロットルバルブの開度の制御により、トルク相においても、変速機7の出力トルクの低下が抑制され、車両Veの駆動力の低下を抑制できる。また、このトルク相においては、モータ・ジェネレータ2の回生トルクが低下され、ついで、モータ・ジェネレータ2を力行に切り換える制御が実行される。
そして、時刻t3でトルク相が終了してイナーシャ相が開始されると、電子スロットルバルブの開度が低下され、かつ、点火時期が略一定に制御されて、エンジントルクが低下する。このイナーシャ相において、エンジントルクは、トルク相の開始前のトルクに戻され、かつ、モータ・ジェネレータ2の力行トルクは、第2速に対応する力行トルクまで上昇される。なお、図8のタイムチャートにおいて、その他のパラメータの経時変化は、図6のタイムチャートで示したパラメータの経時変化と略同じである。
このように、実施例2においても、実施例1と同様の効果を得ることが可能である。また、電子スロットルバルブ3Aの制御に基づくエンジントルクの制御応答性と、点火時期制御装置3Bの制御に基づくエンジントルクの制御応答性とを比較すると、点火時期制御装置3Bの制御に基づくエンジントルクの応答性の方が高い。そこで、この実施例2においては、「トルク相が開始される前に、電子スロットルバルブ3Aの開度を増加させ、かつ、点火時期を遅角させる」という予備制御を実行するとともに、「トルク相が開始された場合は、制御応答性が高い点火時期制御装置3Bの制御により、トルク相における出力トルクの低下を抑制する構成」となっている。
つまり、この実施例2においては、トルク相でエンジントルクを制御する場合に、電子スロットルバルブ3Aおよび点火時期制御装置3Bを用いるのであるが、電子スロットルバルブ3Aの制御応答性が低いため、トルク相になってから電子スロットルバルブ3Aを制御したのでは応答遅れが生じる可能性がある。そこで、この実施例2では、トルク相の開始前に電子スロットルバルブ3Aの開度を増加する制御を実行している。しかし、トルク相の開始前に、車両Veの駆動力変化が生じることがないように、トルク相の開始前に、電子スロットルバルブ3Aの開度を増加する制御と並行して、点火時期を遅角させる制御が実行される。そして、トルク相が開始された場合は、制御応答性が高い方の点火時期制御装置3Bにより点火時期を進角させることにより、応答遅れを生じることなく、駆動力の変化を抑制することが可能である。
ここで、図7に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS1,S2,S21,S22が、この発明における第1のエンジントルク制御手段に相当し、ステップS6,S23が、この発明の第2のエンジントルク制御手段に相当する。また、実施例2で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、電子スロットルバルブ3Aが、この発明の吸入空気量制御装置およびトルク制御装置に相当し、点火時期制御装置3Bが、この発明のトルク制御装置に相当し、電子スロットルバルブ3Aおよび点火時期制御装置3Bが、この発明の「複数のトルク制御装置」に相当する。また、「トルク相が開始される前に、電子スロットルバルブ3Aの開度を増加させ、かつ、点火時期を遅角させる制御」が、この発明における予備制御に相当する。
つぎに、図2に示す車両Veで実行可能な他の制御例を、図9のフローチャートに基づいて説明する。この実施例3は、請求項7ないし請求項10の発明に対応する実施例であり、実施例1と実施例2とを組み合わせたものである。この図9におけるフローチャートの各ステップの制御において、図1のフローチャートの各ステップの制御と同じ制御である場合は、図1のステップ番号と同じステップ番号を付してある。図9のフローチャートにおいては、ステップS2で肯定的に判断された場合は、ステップS31の制御が実行される。このステップS31の制御には、ステップS3またはステップS21の制御のうちの少なくとも一方が含まれる。このステップS31についで、ステップS32の制御が実行されて、ステップS5に進む。このステップS32の制御には、ステップS4またはステップS22の制御のうちの少なくとも一方が含まれる。
そして、ステップS5に進み、このステップS5で肯定的に判断された場合は、ステップS6を経由してステップS33に進む。このステップS33では、ステップS7またはステップS23のうちの少なくとも一方の制御が実行される。このステップS33の制御を実行した後は、ステップS8を経由してステップS34に進む。このステップS34においては、ステップS9またはステップS24の少なくとも一方の制御が実行される。このステップS34の制御についでステップS10に進み、制御ルーチンをリターンする。
一方、ステップS5で否定的に判断された場合は、ステップS35の制御が実行される。このステップS35においては、ステップS11またはステップS25のうちの少なくとも一方の制御が実行される。このステップS35の制御と並行してステップS36の制御が実行され、この制御ルーチンを終了する。このステップS36においては、ステップS12またはステップS26のうちの少なくとも一方の制御が実行される。なお、前記ステップS2で否定的に判断された場合は、この制御ルーチンをリターンする。
この実施例3の制御に対応するタイムチャートの一例を、図10に基づいて説明する。この図10においても、図6および図8で示されているパラメータと同じパラメータについて、その経時変化が示されている。図10において、時刻t1以前における各パラメータの状態は、図8の場合と同じである。図10においては、時刻t1でステップS2で肯定的に判断されて、ステップS31,S32の制御が実行されている。図10のタイムチャートにおいては、ステップS3,S4の処理およびステップS21,S22の処理を共に実行した場合が示されており、時刻t1以降はエンジントルクが上昇している。なお、図10において、時刻t1以降におけるその他のパラメータの経時変化は、図6の場合と同じである。
ついで、時刻t2でトルク相が開始されると、ステップS7,S23の制御が共に実行されている。このトルク相ではエンジントルクが上昇されて、出力トルクが略一定に制御されている。さらに、時刻t3でトルク相からイナーシャ相に切り換わると、ステップS9,S24の制御が共に実行されている。さらにまた、時刻t4以降は、各パラメータの経時変化が、図10の場合と同様になっている。
このように、実施例3の制御を実行した場合においても、変速機7の変速段階がトルク相である場合に、変速機7の出力トルクを略一定に制御することが可能であり、実施例1と同様の効果を得ることが可能である。ここで、図9のフローチャートで示した機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、ステップS1,S2,S31,S32が、この発明の第4の制御手段および第6の制御手段に相当し、ステップS6,S33が、この発明の第5の制御手段および第7の制御手段に相当する。
なお、実施例1のステップS7、または実施例3のステップS33において、モータ・ジェネレータ2の出力を制御する場合に、以下のような制御を実行することも可能である。すなわち、車両Veの加速度の変化、または、中間軸4やプロペラシャフト24やドライブシャフト26の回転方向のねじれ量の変化を、モータ・ジェネレータ2の回転数から算出し、その算出結果に基づいて、トルク相におけるワンウェイクラッチF1の反力トルクの低下量を推定する。
そして、変速機7の出力トルクを略一定に制御するために、モータ・ジェネレータ2のトルクを制御する場合に、反力トルクの低下量に基づいて、モータ・ジェネレータ2のトルクをフィードバック制御することが可能である。したがって、トルク相における変速機7の出力トルクを略一定に保持する制御精度が、一層高精度化する。さらに、反力トルクを受け持つ要素のトルク容量のバラツキや経時変化がある場合でも、その反力要素のトルク容量に応じてモータ・ジェネレータ2のトルクをフィードバック制御することが可能であり、トルク相における出力トルクの補償精度が一層向上する。このように、モータ・ジェネレータ2の回転数に基づいて、トルク相で変速機7から出力されるトルク、言い換えれば、車両Veの駆動力を推定し、その駆動力の推定結果に基づいて、トルク相における車両Veの駆動力の変化を抑制する制御の内容が決定される。なお、図1および図7および図9の制御例が、請求項11に対応しており、図1のステップS7および図7のステップS23および図9のステップS33が、この発明における駆動力推定手段に相当する。
なお、各実施例において、エンジントルクを制御するトルク制御装置として、電子スロットルバルブ3Aおよび点火時期制御装置3Bが挙げられているが、燃料噴射量制御装置3Cにより、エンジントルクを制御することも可能である。つまり、エンジントルクを制御するトルク制御装置には、燃料噴射量制御装置3Cも含まれる。なお、図2に示すパワートレーンのモータ・ジェネレータ2に代えて、リングギヤ22からプロペラシャフト24に至る動力伝達経路に接続されたモータ・ジェネレータ50を有する車両にも、各実施例を適用可能である。このモータ・ジェネレータ50が、ロータ51およびステータ52を有し、ロータ51が、リングギヤ22またはプロペラシャフト24に連結される。
さらに各実施例においては、第1の原動機としてエンジンが記載され、第2の原動機としてモータ・ジェネレータが記載されているが、この発明における複数の原動機には、エンジンおよびモータ・ジェネレータの他に、フライホイールシステム、油圧モータ、ガスタービンなどが含まれる。また、この発明において、第1の原動機および第2の原動機として、動力の発生原理が異なる原動機を選択してもよいし、動力の発生原理が同じ原動機を選択してもよい。すなわち、この発明における「複数の原動機」の「複数」には、「数量が複数」という意味と、「動力の発生原理、または種類や特性が複数」という意味とが含まれる。
上記の各実施例においては、摩擦力もしくは係合力により、反力トルクを受け持つ装置としての摩擦係合装置を有する変速機が示されている。これに対して、電磁力により反力トルクを受け持つ装置、すなわち、電磁クラッチまたは電磁ブレーキを用いた変速機を有するハイブリッド車にも、この発明を適用することが可能である。さらに、同期噛み合い機構の制御により、変速比の切り換えがおこなわれる構成の変速機を有するハイブリッド車にも、この発明を適用可能である。つまり、変速比(変速段)の切り換え途中で、トルク受け持ち要素の切り換えがおこなわれて、トルク相およびイナーシャ相を経由して変速が終了する構成の有段変速機を有するハイブリッド車であれば、この発明を適用可能である。
また、特に図示しないが、エンジントルクが前輪に伝達され、モータ・ジェネレータのトルクが後輪に伝達される構成のパワートレーンを有する車両に対しても、この発明を適用可能である。さらに、図示しないが、エンジントルクが後輪に伝達され、モータ・ジェネレータのトルクが前輪に伝達される構成のパワートレーンを有する車両に対しても、この発明を適用可能である。さらに各実施例は、変速機でダウンシフトを実行する場合において、トルク相における駆動力の変化を抑制する制御にも適用可能である。
この発明で対象とする車両で実行可能な制御の実施例1を示すフローチャートである。
この発明で対象とする車両のパワートレーンおよびその制御系統を示す模式図である。
図2に示す変速機で選択される変速段と、摩擦係合装置係合・解放状態との関係を示す図表である。
図2に示す変速機の回転要素の状態を示す共線図である。
図2に示す動力分配装置の各要素の状態を示す共線図である。
図1に示すフローチャートに対応するタイムチャートの一例を示す図である。
この発明で対象とする車両で実行可能な制御の実施例2を示すフローチャートである。
図7に示すフローチャートに対応するタイムチャートの一例を示す図である。
この発明で対象とする車両で実行可能な制御の実施例3を示すフローチャートである。
図9に示すフローチャートに対応するタイムチャートの一例を示す図である。
符号の説明
1,2,50…モータ・ジェネレータ、 3…エンジン、 3A…電子スロットルバルブ、 3B…点火時期制御装置、 3C…燃料噴射量制御装置、 7…変速機、 30…電子制御装置、 Ve…車両。