本発明は、溶融金属に電磁気場を印加して固液共存状態金属スラリを製造する固液共存状態金属材料製造装置に関する。
固液共存状態の金属スラリ、すなわち半溶融あるいは半凝固金属スラリは、通常、半凝固成形法(Reocasting)および半溶融成形法(Thixocasting)などの複合加工法の中間品である。そして、半凝固金属スラリとは、半凝固領域の温度で液相と球状の結晶粒とが適切な割合で混在した状態でチクソトロピー(Thixotropic)性により小さな力によっても変形が可能であり、かつ流動性に優れて液相のように成形加工が容易な状態の金属材料である。
ここで、半凝固成形方法とは、完全に凝固されずに所定の粘性を有する固液共存状態の半凝固金属スラリを鋳造または鍛造してビレットや最終成形品を製造する加工法をいう。このような半凝固成形方法は、半溶融成形方法とともに半凝固あるいは半溶融成形方法と呼ばれるが、ここで、半溶融成形方法とは、半凝固成形方法により製造されたビレットを半溶融状態のスラリに再加熱した後、このスラリを鋳造あるいは鍛造して最終製品に製造する加工法をいう。
そして、このような半凝固あるいは半溶融成形法は、鋳造や溶融鍛造など溶融金属を利用する一般的な成形方法に比べて色々な長所を有している。例えば、これら半凝固あるいは半溶融成形法で使用する半溶融金属スラリは溶融金属より低温で流動性を有するので、このスラリに露出されるダイの温度を溶融金属の場合よりさらに低めることができ、これによりダイの寿命が延びる。
また、スラリがシリンダに沿って押し出される時に乱流の発生が少なくて鋳造過程で空気の混入を減らし、これにより最終製品への気孔発生を減らすことができる。その他にも凝固収縮が少なくて作業性が改善され、製品の機械的特性および耐食性が向上し、製品の軽量化が可能である。これにより、自動車や航空機産業分野、電気電子情報通信装備などの新素材として利用できる。
このように、これら半凝固成形方法あるいは半溶融成形法では、いずれも半凝固状態の金属スラリを使用するが、上述のように、半凝固成形法では溶融金属を所定の方法により冷却したスラリを使用し、半溶融成形法では固相のビレットを再加熱して得られたスラリを使用する。ここで、半凝固金属スラリは、金属の液相線と固相線との間で液相と固相とが共存する領域、すなわち、金属の半凝固領域の温度で金属内部の結晶粒界が部分的には溶解され、部分的には固相成分として残留する状態の金属材料を意味し、半凝固成形法により製造された、すなわち溶融金属から冷却されて得られた半凝固状態のスラリをいう。
また、従来の半凝固成形方法としては、製造過程によって、溶融金属中に複数の結晶核を生成させてから、この結晶核を成長させて半凝固状態の金属スラリを製造する核生成方法と、溶融金属中に初期凝固層である樹枝状結晶を成長させてから、この樹脂状結晶を破砕して半凝固状態の金属スラリを製造する攪拌方法とに大別されている。
ところで、従来の核生成方法では、溶融金属の注湯温度を非常に低く維持しなければならず、冷却速度を非常に遅くして工程を徐々に進行させて複数の結晶核を生成させてから、これら結晶核を成長させるものである。このため、半凝固状態の金属スラリの製造時間が長すぎて、実際の量産工程に適用することが難しいという問題がある。
一方、従来の攪拌方法は、溶融金属を冷却する時に主に液相線以下の温度で攪拌して既に生成された樹枝状結晶組織を破砕することによって半凝固成形に適合に球状の粒子に作る方法である。この攪拌方法には、機械的攪拌法や電磁気的攪拌法、ガスバブリング、低周波、高周波あるいは電磁気波振動を利用するか、電気的衝撃による攪拌法などが利用されている。
そして、液相固相混合物を製造する方法としては、溶融金属が固相化する間に強く攪拌しながら冷却している。さらに、この液相固相混合物を製造するための製造装置は、容器に固液混合物を注湯した状態で攪拌棒により攪拌するが、この攪拌棒は所定の粘性を有する固液混合物を攪拌して流動させることによって混合物内の樹枝状構造を破砕するか、破砕された樹枝状構造を分散させるものである(例えば、特許文献1参照。)。
ところが、上記液相固相混合物を製造する方法では、冷却過程で既に形成された樹枝状結晶形態を粉砕し、この粉砕した樹枝状結晶を結晶核として球状の結晶を得ている。このため、初期凝固層の形成による潜熱の発生により冷却速度の減少と製造時間の増加および攪拌容器内での温度不均一による不均一な結晶状態など多くの問題を有している。また、この液相固相混合物を製造するための製造装置の場合にも、機械的攪拌が有する限界によって容器内の温度分布が不均一であり、チャンバ内で作動するために作業時間および後続工程への連係が非常に難しい限界を有している。
また、半凝固合金スラリの製造装置としては、コイル付き電磁気場印加手段の内側に順次に冷却マニホールドおよび金型を備えている。そして、この金型の上側は溶融金属が連続して注湯されるように形成されており、冷却マニホールドには冷却水が流れて金型を冷却するように構成されている。さらに、上記半凝固合金スラリの製造装置による半凝固合金スラリの製造方法によれば、まず、金型の上側から溶融金属を注湯し、この溶融金属が金型内を通過しながら冷却マニホールドにより固相化領域を形成するが、ここで電磁気場印加手段により磁場が印加されて樹枝状組織を破砕しながら冷却が進み、下部からインゴットが形成される(例えば、特許文献2参照。)。
ところが、上記半凝固合金スラリの製造方法においても、凝固した後に振動を加えて樹枝状組織を破砕するものであるため、工程上および組織構成上多くの問題を有している。また、上記半凝固合金スラリの製造装置の場合にも、溶融金属が上部から下部に進みながら連続してインゴットを形成しているが、この溶融金属を連続して成長させることによって金属の状態を調節し難く、全体的な工程制御が容易ではない。さらには、電磁気場を印加する前の段階で金型を水冷させているため、この金型の壁体付近と中心付近とでの温度差が著しく大きい。
この外にも、この種の半凝固成形法あるいは半溶融成形法は、多様に存在するが、いずれも既に形成された溶融金属中の樹枝状組織を破砕して、この樹枝状組織を結晶核として使用するものである。
また、半凝固鋳造用金属スラリの製造方法としては、液相線温度の付近または液相線より50℃まで高い温度で溶融金属を容器に注湯する。この後、溶融金属が冷却される過程で溶融金属の少なくとも一部が液相線温度以下になる時点、すなわち最初に液相線温度を通過する時点で、例えば超音波振動により溶融金属に運動を加える。さらに、この溶融金属に運動を加えた後、徐々に冷却して粒相結晶形態の金属組織を有する半凝固鋳造用金属スラリを製造している(例えば、特許文献3参照。)。
ところが、上記半凝固鋳造用金属スラリの製造方法でも、超音波振動などの力が冷却初期に形成される樹枝状結晶組織を破砕するために使われている。また、注湯温度を液状線温度より高くすれば、粒相の結晶形態を得難く、同時に溶湯を急激に冷却し難い。さらに、表面部と中心部の組織が不均一になる。
さらに、半溶融金属の成形方法としては、溶融金属を容器に注湯した後、振動バーを溶融金属中に浸漬させて溶融金属と直接接触させた状態で振動させて溶融金属に振動を与えている。具体的には、振動バーの振動力を溶融金属に伝達することによって、液相線温度以下で結晶核を有する固液共存状態の合金を形成する。この後、所定の液相率を示す成形温度まで溶融金属を容器内で冷却しながら30秒以上60分以下の間維持することによって結晶核を成長させて半溶融金属を得る。ところが、この方法で得られる結晶核の大きさは約100μmであり、工程時間が相当長く、所定大きさ以上の容器に適用し難い(例えば、特許文献4参照。)。
また、半溶融金属スラリの製造方法としては、冷却と攪拌とを同時に精密に制御することによって半溶融金属スラリを製造している。具体的には、溶融金属を混合容器に注湯した後、混合容器周囲に設置された固定子アセンブリを作動させて容器内の溶融金属を急速に攪拌するのに十分な起磁力を発生させる。さらに、混合容器の周囲に設けられて容器および溶融金属の温度を精密に調節する作用をするサーマルジャケットを利用して溶融金属の温度を急速に落とす。溶融金属が冷却される時に溶融金属は攪拌され続け、固相率が低い時には速い攪拌を提供し、固相率が増加するにつれて増大した起電力を提供する方式で調節される(例えば、特許文献5参照。)。
米国特許第3948650号明細書(第3−8欄および図3)
米国特許第4465118号明細書(第4−12欄、図1、図2、図5および図6)
特開平11−33692号公報(第3−5頁および図1)
特開平10−128516号公報(第4−7頁および図3)
米国特許第6432160号明細書(第7−15欄、図1Aないし図2Bおよび図4)
上述したように、上記従来の半凝固金属スラリの製造方法およびその製造装置では、冷却過程で既に形成された樹枝状結晶形態を粉砕して粒相の金属組織にするために剪断力を利用している。したがって、溶融金属の少なくとも一部が液相線以下に下がってはじめて振動などの力が有効に作用するので、初期凝固層の形成による潜熱の発生により冷却速度の減少および製造時間の増加など各種の問題を避けにくい。また、得られた金属組織も容器内での温度の不均一によって全体的に均一でかつ微細な組織を得難く、溶融金属の容器への注湯温度を調節しなければ容器壁面部と中心部との温度差によって組織の不均一性がさらに増大してしまう。
さらに、上述した半凝固金属スラリの製造方法では、連続鋳造の方法でビレットを成型する方法であっても、半凝固金属スラリを製造した後に、この半凝固金属スラリを直接成型工程によって成型品とするのは容易ではないという問題を有している。
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、耐久性低下を防止でき、エネルギ損失を減らせる固液共存状態金属材料製造装置を提供することを目的とする。
請求項1記載の固液共存状態金属材料製造装置は、軸方向を傾斜して配設され溶融金属が注湯される筒状の注湯部と、この注湯部に設けられこの注湯部内に溶融金属を注湯させる注湯口と、この注湯口よりも前記注湯部の下端側を開閉可能にする開閉手段と、この開閉手段より上端側で前記注湯口より下端側の前記注湯部に所定の電磁気場を印加する攪拌部と、一端側にスラリ吐出口が設けられ、前記注湯部の軸方向に対して鋭角に交わる軸方向を有し、この注湯部の下端が連通し、前記開閉手段の開動作によって前記注湯部で製造された固液金属状態金属スラリが前記スラリ吐出口より他端側に送られる筒状の圧送部と、この圧送部の他端側から進退可能に挿入され、この圧送部へと送られた固液共存状態金属スラリを前記スラリ吐出口に向けて押圧する圧送部押圧手段とを具備したものである。
そして、注湯部の注湯口より下端側を開閉手段にて閉塞した状態で、この注湯部の注湯口から溶融金属を注湯して、この注湯部への攪拌部による所定の電磁気場の印加により固液共存状態金属スラリを製造する。この後、注湯部の注湯口より下端側を開閉手段にて開放して、注湯部で製造した固液共存状態金属スラリを圧送部のスラリ吐出口より他端側に送る。さらに、この圧送部のスラリ吐出口より他端側に送られた固液共存状態金属スラリを圧送部押圧手段にてスラリ吐出口に向けて押圧する。この結果、固液共存状態金属スラリの押圧による装置の耐久性低下を防止できるとともに、エネルギ損失を減らすことができ、注湯部で製造された固液共存状態金属スラリがより確実に圧送部のスラリ吐出口から吐出される。
請求項2記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1記載の固液共存状態金属材料製造装置において、注湯部の上端側から進退可能に挿入され、この注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを押圧する注湯部押圧手段を具備したものである。
そして、注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを注湯部押圧手段にて押圧することにより、この注湯部で製造された固液共存状態金属スラリがより確実に圧送部のスラリ吐出口より他端側に送られる。
請求項3記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1または2記載の固液共存状態金属材料製造装置において、開閉手段は、閉動作によって注湯部に注湯される溶融金属を受け止め、開動作によって前記注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを自重にて落下させる蓋体であるものである。
そして、蓋体の閉動作によって注湯部に注湯される溶融金属を受け止めることができるとともに、この蓋体の開動作によって注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを自重にて落下できるから、この注湯部での固液共存状態金属スラリの製造、およびこの注湯部から圧送部への固液共存状態金属スラリの送りをより容易にできる。
請求項4記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1ないし3いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置において、圧送部のスラリ吐出口から吐出される固液共存状態金属スラリの温度を調節する第1の温度調節手段を具備したものである。
そして、圧送部のスラリ吐出口から吐出される固液共存状態金属スラリの温度を第1の温度調節手段で調節することにより、圧送部のスラリ吐出口から吐出される固液共存状態金属スラリがより高品質になる。
請求項5記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1ないし4いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置において、注湯部に注湯された溶融金属の温度を調節する第2の温度調節手段を具備したものである。
そして、注湯部に注湯された溶融金属の温度を第2の温度調節手段にて調節することにより、この注湯部で製造される固液共存状態金属スラリがより高品質になる。
請求項6記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1ないし5いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置において、注湯部は、非磁性材にて構成されているものである。
そして、注湯部を非磁性材にて構成することにより、この注湯部に電磁気場を印加しても誘導加熱を起さず発熱しなくなるので、この注湯部に注湯した溶融金属が冷却しやすい。よって、この注湯部に注湯される溶湯金属への攪拌部による電磁気場の印加をより効率良くできるから、固液共存状態金属スラリをより効率よく製造できる。
請求項7記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1ないし6いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置において、注湯部は、上端側から下端側に向けて拡開したテーパ状に形成されているものである。
そして、溶融金属が注湯される上端側から下端側に向けて拡開したテーパ状に注湯部を形成したことにより、この注湯部の下端側から圧送部への固液共存状態金属スラリの圧送が容易になる。
請求項8記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1ないし7いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置において、注湯部に注湯された溶融金属に初期凝固層が形成されない程度の電磁気場を、溶融金属が注湯部に注湯される前から攪拌部にて印加させ、前記注湯部に注湯した溶融金属に結晶核が生成された時点で前記注湯部に対する電磁気場の印加を終了させる制御手段を具備したものである。
そして、注湯部に注湯された溶融金属に初期凝固層が形成されない程度の電磁気場を、溶融金属が注湯部に注湯される前から攪拌部にて制御手段が印加させ、注湯部に注湯した溶融金属に結晶核が生成された時点で注湯部に対する電磁気場の印加を制御手段が終了させる。この結果、注湯部に注湯した溶融金属に初期凝固層を形成させることなく、この溶融金属への電磁気場の印加にて、この溶融金属中に結晶核を生成できる。このため、この溶融金属中の初期凝固層の形成による凝固潜熱を発生させることなく、この溶融金属中の結晶核を成長させて固液共存状態金属スラリを製造できる。
請求項1記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、固液共存状態金属スラリの押圧による装置の耐久性低下を防止できるとともに、エネルギ損失を減らすことができる。さらに、注湯部で製造された固液共存状態金属スラリをより確実に圧送部のスラリ吐出口から吐出できる。
請求項2記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを注湯部押圧手段にて押圧することにより、この注湯部で製造された固液共存状態金属スラをより確実に圧送部のスラリ吐出口より他端側に送ることができる。
請求項3記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1または2記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、蓋体の閉動作にて注湯部に注湯される溶融金属を受け止めることができ、この蓋体の開動作にて注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを自重にて落下できるから、この注湯部での固液共存状態金属スラリの製造、およびこの注湯部から圧送部への固液共存状態金属スラリの送りをより容易にできる。
請求項4記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1ないし3いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、圧送部のスラリ吐出口から吐出される固液共存状態金属スラリをより高品質にできる。
請求項5記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1ないし4いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、注湯部で製造される固液共存状態金属スラリをより高品質にできる。
請求項6記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1ないし5いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、注湯部に電磁気場を印加しても誘導加熱を起さず発熱しなくなり、この注湯部に注湯した溶融金属を冷却しやすいので、この注湯部に注湯される溶湯金属への攪拌部による電磁気場の印加をより効率良くできるから、固液共存状態金属スラリをより効率よく製造できる。
請求項7記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1ないし6いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、溶融金属が注湯される上端側から下端側に向けて拡開したテーパ状に注湯部を形成したことにより、この注湯部の下端側から圧送部への固液共存状態金属スラリの圧送を容易にできる。
請求項8記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1ないし7いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、注湯部に注湯した溶融金属に初期凝固層を形成させることなく、この溶融金属への電磁気場の印加にて、この溶融金属中に結晶核を生成できるため、この溶融金属中の初期凝固層の形成による凝固潜熱を発生させることなく、この溶融金属中の結晶核を成長させて固液共存状態金属スラリを製造できる。
以下、本発明の第1の関連技術を図面を参照して説明する。
まず、固液共存状態金属スラリとしての半凝固金属スラリSを成形する固液共存状態金属製造装置である半凝固成形装置は、半凝固金属スラリSを利用して所定の形状の成形品、例えば押出材Eを成形する半凝固金属成形方法を用いた装置である。
そして、この半凝固成形装置に用いられている半凝固成形方法は、図1ないし図7に示すように、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注入して半凝固金属スラリSを製造した後、この半凝固金属スラリSを加圧して成形するものであって、低圧によっても押出およびフォーミングなどの成形工程が可能である。このとき、第2のスリーブ22への溶融金属Mの注入が完了する前に電磁気場を印加して攪拌する。すなわち、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯する前、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯すると同時に、またはこの第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯する最中、すなわち注湯しながら電磁気場による攪拌をすることによって、初期樹枝状組織の生成を遮断する。このとき、この攪拌には電磁気場の代わりに超音波などを利用することもできる。
すなわち、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注入する前から電磁気場を印加して、この第2のスリーブ22に注湯された溶融金属Mを電磁攪拌することによって、この溶融金属M中に初期凝固層および樹枝状結晶の生成を遮断する。このとき、電磁気場の印加は溶融金属Mを攪拌できる強度でなされる。
具体的には、まず、電磁気場を印加する攪拌部1に取り囲まれた第2のスリーブ22の所定領域であるスラリ製造領域Tに電磁気場を印加した状態で溶融金属Mを注入する。このときの電磁気場の印加は、注湯される溶融金属M中に初期凝固層および樹枝状結晶が形成されないほどの強度でなされる。
この後、図7に示すように、注湯工程として溶融金属Mを注湯温度TPで第2のスリーブ22内に注湯する。このとき、この第2のスリーブ22には電磁気場が印加されて攪拌が実施され得る状態とされている。この際、溶融金属Mの注湯と同時に電磁気場の攪拌を実施できるとともに、この溶融金属Mが注湯される途中で電磁気場の攪拌を実施することもできる。
このように、第2のスリーブ22への溶融金属Mの注湯が完了する前に電磁気場の攪拌を実施することによって、この溶融金属Mが低温の第2のスリーブ22の内壁で初期凝固層に形成されず、これにより樹枝状組織に成長することもない。すなわち、電磁気場を第2のスリーブ22に印加させた状態で溶融金属Mを、この第2のスリーブ22内に注湯することによって、溶融金属Mが注湯された第2のスリーブ22の壁面部と中心部、上部と下部間に温度差がほとんどない。したがって、従来の技術で発生するスラリ注湯容器壁面付近での初期凝固が起きず、この第2のスリーブ22内の溶融金属Mの全体が均一に液相線温度直下に急速に冷却されて多数の結晶核を同時に発生できるからである。このため、この第2のスリーブ22内の溶融金属M全体に亘って微細な結晶核が同時に発生し、この溶融金属M全体が均一に液相線温度直下に急速に冷却させて多数の結晶核が同時に発生する。
これは、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注湯する前から、または注湯と同時に電磁気場を印加することによって活発な初期攪拌作用により内部の溶融金属Mと表面の溶融金属Mとがよく攪拌されて溶融金属M内での熱伝逹が速く、第2のスリーブ22の内壁での初期凝固層の形成が抑制されるからである。
また、よく攪拌されている溶融金属Mと低温の第2のスリーブ22の内壁との対流熱伝逹が増加して溶融金属M全体の温度を急速に冷却させる。すなわち、注湯された溶融金属Mが注湯と同時に電磁気場攪拌により分散粒子に分散され、この分散粒子が結晶核として第2のスリーブ22内に均一に分布され、これにより第2のスリーブ22全体にわたって温度差が発生しなくなる。これに対し、上述の従来の技術によれば、注湯された溶融金属が低温のスリーブの内壁と接触して急速な対流熱伝逹により初期凝固層での樹枝状結晶として成長する。
そして、このような原理は凝固潜熱と関連して説明できる。すなわち、第2のスリーブ22の壁面での溶融金属Mの初期凝固が発生しないので、それ以上凝固潜熱が発生せず、これにより溶融金属Mの冷却は単に溶融金属Mの比熱(凝固潜熱の約1/400に過ぎない)に該当する程度の熱量の放出だけで可能になる。
したがって、従来の技術においてスラリ注湯容器の内側壁面部でよく発生する初期凝固層での樹枝状結晶が形成されずに、第2のスリーブ22内の溶融金属Mが、この第2のスリーブ22の壁面から中心部に亘って全体が均一かつ急速に温度が低下する様子を示す。このときの温度を下げるのに必要な時間は溶融金属Mの注湯後約1秒以上10秒以下程度の短い時間にすぎない。これにより、多数の結晶核が第2のスリーブ22内の溶融金属M全体にわたって均一に生成され、結晶核生成密度の増加により結晶核間の距離は非常に短くなって樹枝状結晶が形成されずに独立的に成長して球状粒子を形成する。
これは溶融金属Mが注湯される最中に電磁気場が印加される場合にも同じである。すなわち、溶融金属Mの注湯が完了する前に電磁気場を印加することにより、第2のスリーブ22の内壁面に初期凝固層が形成されなくなる。
このとき、溶融金属Mの注湯温度Tpは液相線温度より高く、液相線+100℃より低い温度(溶湯過熱度=0℃以上100℃以下)に維持されることが望ましい。上述のように、溶融金属Mが注湯された第2のスリーブ22内全体が均一に冷却されるので、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注湯する前に液相線温度付近まで冷却させる必要がなく、液相線+100℃程度高い温度を維持してもよいからである。
一方、溶融金属をスラリ製造容器に注湯した後、溶融金属の一部が液相線以下になる時点でスラリ製造容器に電磁気場を印加する従来の方法によれば、スラリ製造容器の壁面に初期凝固層が形成されながら凝固潜熱が発生するが、凝固潜熱は比熱の約400倍程度であるため、スラリ製造容器全体の溶融金属の温度が下がるには長時間がかかる。したがって、このような従来の方法では、液相線程度または液相線より50℃程度高い温度まで溶融金属の温度を冷却させた後、スラリ製造容器に注湯することが一般であった。
また、電磁気場攪拌を終了する時点は、図7に示すように、第2のスリーブ22内の溶融金属Mが一部分でも、この溶融金属Mの温度が液相線温度Tl以下に下がった時に、すなわち、この溶融金属Mの固相率が約0.001程度で所定の結晶核が形成された後ならいつ終了しても問題にならない。言い換えると、この電磁気場攪拌を終了する時点は、第2のスリーブ22内の溶融金属Mの温度が液相線付近に至った時点である。さらに、この電磁気場攪拌を終了する時点は、第2のスリーブ22内の溶融金属M中に結晶核が均一に生成された時点である。
ここで、溶融金属Mから半凝固金属スラリSを製造する際の核生成密度は、溶融金属Mとして使用される合金系によらず、この溶融金属Mの固相率が0.0001(10−4)以上となった時点で、すべての合金系における結晶核生成が完了する。また、溶融金属Mの固相率を0.0001の単位まで計測するのは容易ではない。工業的に利用し得る半凝固金属スラリSを製造する目的で、この半凝固金属スラリSの原料として用いられる溶融金属Mの結晶核生成を確実に終了させるためには、この溶融金属Mの固相率を0.0001とする必要はなく、0.001以上で充分であり、生産性の観点から0.001以上とすることがより好ましい。
すなわち、溶融金属M中にいかに結晶核生成の核を増加させるかについては、この溶融金属M中に結晶核生成が生じる間だけ、この溶融金属Mに電磁気場を印加するだけで足りる。したがって、この溶融金属Mに電磁気場をより長時間印加して、この溶融金属Mの固相率を0.001以上としても半凝固金属スラリSを製造できるが、この溶融金属Mの固相率が0.1以上になった状態でも電磁気場を印加し続けるのは、エネルギ効率面で望ましくなく、製造される半凝固金属スラリSの凝固組織が粗大化され、かつ工程時間が伸びるために望ましくないからである。
さらに、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯してこの溶融金属Mを冷却させる段階まで電磁気場を印加して後続の加圧する段階、例えばダイカスト工程や熱間鍛造工程などの成形工程前に電磁気場攪拌を停止させてもよい。これは既に第2のスリーブ22のスラリ製造領域T全体にわたって結晶核が均一に分布しているために、この結晶核を中心として結晶粒が成長する段階での電磁気場攪拌は製造される半凝固金属スラリSの特性に影響を及ぼさないからである。
したがって、上記電磁気場攪拌は、少なくとも溶融金属Mの固相率が0.001以上0.7以下になるまで持続させる。言い換えると、この電磁気場攪拌は、溶融金属Mの固相率が0.001以上0.7以下となった時点で、この溶融金属Mが注湯された第2のスリーブ22に対する電磁気場の印加が終了される。ただし、上記電磁気場攪拌の持続時間は、エネルギ効率面を考えれば、少なくとも第2のスリーブ22内の溶融金属Mの固相率が0.001以上0.4以下になるまで持続させ、さらに望ましくは溶融金属Mの固相率が0.001以上0.1以下になるまで持続させる。
一方、第2のスリーブ22への溶融金属Mの注湯が完了する前に電磁気場を印加して、均一な分布の結晶核を形成した後、冷却工程として第2のスリーブ22を冷却させて生成された結晶核の成長を加速させる。したがって、このような冷却工程は、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯するときからしてもよい。また、この冷却工程の間にも電磁気場を持続的に印加させてもよい。したがって、この冷却工程は、第2のスリーブ22に電磁気場が印加される間にしてもよい。これにより、第2のスリーブ22で半凝固状態の半凝固金属スラリSを製造した後、これを直ちに後続工程である成形工程で使用できる。なお、このような冷却工程は、別途の第2の温度調節装置44にてすることもあるが、自然的に空冷させてもよい。
さらに、このような冷却工程は、後続工程としての加圧工程などの成形工程前まで持続できる。すなわち、溶融金属Mが0.1以上0.7以下の固相率に到達する時点t2まで冷却工程を維持させる。具体的に、半凝固金属スラリSが鋳込まれて製造される製品の肉厚が薄く形状が複雑な場合には、実験的に、溶融金属Mの固相率が0.1となるまで冷却して、この溶融金属Mをより液状にして、半凝固金属スラリSが鋳型内で凝固するまでの時間を長くし、この半凝固金属スラリSの鋳型への流れ込み速度を速くする必要があるからである。
これに対し、この半凝固金属スラリSが鋳込まれて製造される製品の肉厚が厚く形状が単純な場合には、実験的に、溶融金属Mの固相率が0.7となるまで冷却して、この溶融金属Mをより固状にし、半凝固金属スラリSが鋳型内で凝固するまでの時間を短くして、この半凝固金属スラリSの流れ込み速度を遅くしても問題がないからである。
この結果、半凝固金属スラリSの製造に用いる溶融金属Mの固相率を0.1以上0.7以下にすれば、この溶融金属Mとして用いられる合金系に関わらず、この溶融金属Mから製造された半凝固金属スラリSにより、あらゆる形状のダイキャスト製品を製造できる。また、溶融金属Mの第2のスリーブ22への注湯時点から固相率0.1以上0.7以下の半凝固金属スラリSへと形成される時点までの所要時間が30秒以上60秒以下にすぎない。したがって、溶融金属Mから半凝固金属スラリSを60秒内、すなわち1分以内に製造するためには、この溶融金属Mの固相率が0.1以上0.7以下となるまで冷却すればよい。
このとき、この溶融金属Mの冷却速度は0.2℃/sec以上5.0℃/sec以下程度とするが、より好ましくは、結晶核の分布度および粒子の微細度によって0.2℃/sec以上2.0℃/sec以下にする。これは、溶融金属Mに電磁気場を印加して半凝固金属スラリSを製造する場合には、結晶核の分布度および粒子の微細度などの観点から、電磁気場を印加して結晶核生成が終了した溶融金属Mを、少なくとも0.2℃/sec以上の冷却速度で冷却する必要があるからである。
すなわち、この溶融金属Mの冷却速度を0.2℃/sec以下にした場合には、この溶融金属M中の結晶核が成長し過ぎて大きくなり過ぎてしまい、この溶融金属Mから半凝固金属スラリSを製造する際に必要な時間が長くなるので、この溶融金属Mから製造される半凝固金属スラリSの生産性および機械的な性質が低下してしまう。このため、この溶融金属Mの冷却速度を少なくとも0.2℃/sec以上にする必要があるとともに、この溶融金属Mの冷却速度は、基本的に速ければ速いほど半凝固金属スラリSの製造に必要な時間を短縮でき、エネルギ効率を向上できるので好ましい。
ところが、この溶融金属Mの冷却速度を5℃/sec以上にすると、この溶融金属Mを冷却する際に、この溶融金属M中に樹枝状結晶が形成されてデンドライト化して凝固してしまう。また、この溶融金属M中に形成された結晶核間の距離が大きい場合には、この溶融金属Mを0.2℃/sec程度の比較的ゆっくりとした速度で冷却することにより、この溶融金属M中の結晶核を大きく成長できる。これに対し、この溶融金属M中に形成された結晶核間の距離が小さい場合には、この溶融金属M中の結晶核を余り大きく成長させる必要がないので、この溶融金属Mを5℃/sec程度の比較的速い速度で冷却することが好ましい。
さらに、この溶融金属Mが注湯される第2のスリーブ22の断面積が大きい場合には、この溶融金属Mを0.2℃/sec程度の比較的ゆっくりとした速度で冷却することが好ましい。これに対し、溶融金属Mが注湯される第2のスリーブ22の断面積が小さい場合には、この溶融金属Mを5℃/sec程度の比較的速い速度で冷却しても、溶融金属M中の結晶核を十分に成長できる。
ここで、第2のスリーブ22に注湯した溶融金属M中での結晶核の生成は、この第2のスリーブ22に注湯する際の溶融金属Mの温度、すなわち注湯温度に依存する。なお、この注湯温度としては、溶融金属Mの液相線温度+100℃のように、この液相線温度からどの程度加熱したかを示す加熱度によって示すことができる。そして、この加熱度は、溶融金属Mを第2のスリーブ22に注湯してから、この溶融金属M中に結晶核が生成されるまでの段階に重要な影響を及ぼす。
これに対し、溶融金属M中に結晶核を生成させた後から、鋳込んだ半凝固金属スラリSの凝固が完了するまでの結晶成長は、この溶融金属Mから製造された半凝固金属スラリSを鋳込んで製造される製品の肉厚が重要な影響を及ぼす。したがって、電磁気場を印加して結晶核生成が終了した後に、この結晶核を成長させる際の溶融金属Mの冷却速度は、この溶融金属Mを第2のスリーブ22に注湯する前の結晶核を生成するための溶融金属Mの加熱度と、この溶融金属Mから形成された半凝固金属スラリSから製造される製品の肉厚とのそれぞれに依存する。すなわち、溶融金属Mの加熱度が一定で製品の肉厚が決まれば、鋳込んだ半凝固金属スラリSの冷却速度が自然に決まる。
ここで、溶融金属Mの加熱度が高い場合には、この溶融金属M中に生成される結晶核の数、すなわち核生成数が減少するので、この溶融金属Mの冷却速度を遅くする必要がある。また、この溶融金属Mの加熱度が低い場合には、この溶融金属M中に生成される核生成数が増加するので、この溶融金属Mの冷却速度を速くできるから、この溶融金属Mから製造される半凝固金属スラリSの粒子の細微化が可能となる。
したがって、この溶融金属Mの冷却速度を0.2℃/sec以上5℃/sec以下とし、この溶融金属Mを第2のスリーブ22に注湯する時の温度を、この溶融金属Mの液相線+100℃より低くすれば、鋳物産業において使用し得る範囲で、かつ所定の固相率を有する半凝固状態の半凝固金属スラリSを製造でき、これを直ちに加圧することにより押圧成形やプレス成形などをして所定の成形品に成形する。
このとき、この半凝固金属スラリSを製造する時間を顕著に短縮できるが、溶融金属Mの第2のスリーブ22への注湯時点から固相率0.1以上0.7以下の金属スラリ形態の金属材料に形成される時点までかかる時間は30秒以上60秒以下にすぎない。これにより製造された半凝固金属スラリSを使用して製品を成形すれば均一でかつ緻密な球状の結晶構造を得ることができる。
次に、上記半凝固金属成形法を用いた半凝固成形装置を図1ないし図6を参照して説明する。
図1ないし図6に示す半凝固成形装置は、いわゆるバッチ式であり、電磁気場を印加する攪拌部1と細長円筒状の筒状部としてのスリーブ2とを備えている。このスリーブ2は、圧送部としての第1の筒状部である射出用の第1のスリーブ21と、注湯部としての第2の筒状部であるEMS用の第2のスリーブ22とによって軸方向に沿った中央部が分割されて構成されている。
まず、このスリーブ2の第2のスリーブ22は、両端が開放されて開口された細長円筒状であり、上下方向に沿った軸方向を有する状態から、水平方向に沿った軸方向を有する状態となるように回動可能に設置されている。また、この第2のスリーブ22は、この軸方向に沿った一端である上端となる注湯口25と、この注湯口25に対向した他端である下端となるスラリ排出口26とのそれぞれが同心状に連通した状態で開口している。そして、この第2のスリーブ22は、注湯口25から液相の溶融金属Mが注湯されて、この溶融金属Mが内部に収容されて受容できるように構成されている。
また、この第2のスリーブ22は、この第2のスリーブ22の内部に注湯した溶融金属Mから製造された半凝固金属スラリSがスラリ排出口26から排出されるように構成されている。さらに、この第2のスリーブ22の周面部は、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯させる側である注湯口25側からスラリ排出口26側に向けて徐々に拡開したテーパ状に形成されている。言い換えると、この第2のスリーブ22の周面部は、この第2のスリーブ22の一端側から他端側に向かう方向である、半凝固金属スラリSの排出方向に向けて内径寸法が徐々に大きくなるように拡径している。
さらに、この第2のスリーブ22の周辺部には、この第2のスリーブ22内に注湯された溶融金属Mに電磁気場を印加する攪拌手段としての円筒状の攪拌部1が設置されて取り付けられている。この攪拌部1は、第2のスリーブ22とともに回動できるように、この第2のスリーブ22に固定されている。
また、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26には、開閉手段としての蓋体である円形平板状の開閉型のストッパ3が取り付けられている。このストッパ3は、図示しない駆動装置に接続されており、第2のスリーブ22と同じ材質にて形成されている。また、このストッパ3は、図1に示すように、第2のスリーブ22の注湯口25を上方に向けた状態で、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26を開閉可能に閉塞して、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mが注湯されるスラリ製造領域Tの閉塞部としての底部4を形成し、この第2のスリーブ22を容器状にする。
さらに、このストッパ3は、第2のスリーブ22を回動させて水平にした状態で、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26を開放させて、この第2のスリーブ22内で形成された半凝固金属スラリSを第2のスリーブ22のスラリ排出口26から外部へと離脱させて排出させる。なお、このストッパ3としては、第2のスリーブ22の下端であるスラリ排出口26を開閉できるものであれば、一側が第2のスリーブ22のスラリ排出口26の周縁に回動可能にヒンジ固定されたドア状であっても良く、中央部が分割されて両方向に開放される構成など、どのような構成であってもよい。
さらに、この第2のスリーブ22の外側には、図2に示すように、第2の温度調節手段としての第2の温度調節装置44が取り付けられている。この第2の温度調節装置44は、第2のスリーブ22内の溶融金属M、あるいはこの第2のスリーブ22内で製造された半凝固金属スラリSを冷却する。また、この第2の温度調節装置44は、冷却水パイプ45が螺旋状に内蔵された円筒状の冷却手段としての冷却装置であるウォータジャケット46を備えている。
そして、このウォータジャケット46は、第2のスリーブ22の外側を取り囲むように、この第2のスリーブ22の外側に同心状に取り付けられている。ここで、このウォータジャケット46内の冷却水パイプ45は、第2のスリーブ22内に埋設させてもよい。また、このような冷却水パイプ45以外でも第2のスリーブ22内の溶融金属Mや半凝固金属スラリSを冷却できる構成であればいかなる冷却装置であってもよい。
さらに、第2の温度調節装置44は、加熱手段としての加熱装置である電熱コイル47を備えている。この電熱コイル47は、ウォータジャケット46の外側を取り囲むように、このウォータジャケット46の外側に螺旋状に巻回された状態で同心状に取り付けられている。ここで、この電熱コイル47としては、この電熱コイル47以外のいかなる加熱機構であってもよい。
したがって、第2の温度調節装置44は、第2のスリーブ22内の溶融金属Mあるいは半凝固金属スラリSの温度を調節できる構造であればいかなる構成であってもよい。また、この第2の温度調節装置44は、第2のスリーブ22内の溶融金属Mを適正な速度で冷却する。さらに、この第2の温度調節装置44は、第2のスリーブ22の全体に亘って設置できるが、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mが収容されるスラリ製造領域Tの周囲のみに集中的に設置することもできる。なお、この第2の温度調節装置44を設けずに、第2のスリーブ22内の溶融金属Mを自然冷却させて、所望する固相率の半凝固金属スラリSを製造させてもよい。
具体的に、この第2の温度調節装置44は、第2のスリーブ22内に収容された溶融金属Mを0.1以上0.7以下の固相率に到達するまで冷却する。また、この第2の温度調節装置44は、冷却速度が調節されて、第2のスリーブ22内の溶融金属Mを0.2℃/s以上5.0℃/s以下の冷却速度で冷却させ、より好ましくは0.2℃/s以上2.0℃/sの冷却速度で冷却させる。
このとき、この第2の温度調節装置44は、攪拌部1による電磁気場の攪拌が終了した後にすることもあり、電磁気場の攪拌とは関係なく、すなわち電磁気場の印加が持続されている間にもできるとともに、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯する段階からもできる。
一方、攪拌部1は、この攪拌部1の内側に所定の空間部12が形成されており、この空間部12を包んで取り囲むように電磁気場印加用コイル装置11が配設されて取り付けられている。この電磁気場印加用コイル装置11は、図示しないフレームに固定されている。また、この電磁気場印加用コイル装置11は、所定の強度の電磁気場を空間部12に印加して、この空間部12に収容される第2のスリーブ22内の溶融金属Mを電磁気場攪拌する。ここで、この電磁気場印加用コイル装置11は、通常の電磁気場攪拌に使用できるコイル装置であればよい。また、攪拌部1は、電磁気場以外の超音波攪拌などの超音波攪拌装置でもよい。
ここで、この電磁気場印加用コイル装置11は、第2のスリーブ22の外側に密着して結合させることもできる。そして、この電磁気場印加用コイル装置11により第2のスリーブ22に注入される溶融金属Mを、この第2のスリーブ22に注入する段階から徹底的に攪拌させる。このため、この電磁気場印加用コイル装置11は、図3に示すように、第2のスリーブ22の回動に連動して回動されるように構成されている。すなわち、この第2のスリーブ22に電磁気場印加用コイル装置11が固定されている。なお、この第2のスリーブ22だけが回動するように構成してもよい。
さらに、電磁気場印加用コイル装置11には、図1および図3ないし図6に示すように、攪拌部1による電磁気場の印加を調整する制御手段としての電磁気場印加調節部13が電気的に連結されて接続されている。この電磁気場印加調節部13としては、制御装置が用いられており、電源の印加を決定する図示しないスイッチング手段や、電圧、周波数および電磁気力などを調節して印加される電磁気波を調節する電磁気波制御手段などを有している。すなわち、この電磁気場印加調節部13は、電磁気場の強度や作動時間などを調節する。
また、この電磁気場印加調節部13は、攪拌部1の電磁気場印加用コイル装置11を駆動させて、第2のスリーブ22に注湯される溶融金属Mに初期凝固層としての樹枝状結晶が形成されないほど、すなわち樹脂状結晶が形成されない程度の電磁気場を、溶融金属Mが第2のスリーブ22に注湯される前の段階から、この第2のスリーブ22に印加させる。さらに、この電磁気場印加調節部13は、注湯された溶融金属Mの温度が液相線近くに到達した時点、すなわち溶融金属Mに結晶核が生成された時点で第2のスリーブ22に対する電磁気場の印加を終了するように電磁気場印加用コイル装置11を調節する。
よって、この電磁気場印加調節部13にて電磁気場印加用コイル装置11の電磁気場印加時点を調節するが、このような電磁気場の印加は、製造された半凝固金属スラリSが圧縮されるまで終了させずに持続させてもよい。ただし、エネルギ効率の点から半凝固金属スラリSの製造過程まで電磁気場にて攪拌できる。したがって、この電磁気場による攪拌は、製造される半凝固金属スラリSの固相率が少なくとも0.001以上0.7以下になるまで持続する。また、この電磁気場による攪拌は、好ましくは製造される半凝固金属スラリSの固相率が少なくとも0.001以上0.4以下になるまで持続する。さらに、この電磁気場による攪拌は、より好ましくは溶融金属Mの固相率が0.001以上0.1以下になる時点で終了する。なお、このような固相率になるまでの時間は、予め実験によって調べることができる。
一方、第1のスリーブ21および第2のスリーブ22は、図1に示すように、対向する端部の一側が結合されてこれを中心に第2のスリーブ22の他端側が所定の角度θで下方に向けて回動できるように構成されている。ここで、この第2のスリーブ22の回動角度θは90°以内にすることが望ましい。また、この第2のスリーブ22は、攪拌部1の内側に位置しており、この攪拌部1の電磁気場印加用コイル装置11の同心状となるように空間部12に設置されている。
さらに、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22は、金属材、絶縁性素材あるいは非磁性材にて構成されている。すなわち、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22は、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22自体の融点が収容される溶融金属Mの温度より高いものを使用することが望ましい。
特に、第2のスリーブ22は、この第2のスリーブ22内に注湯される溶融金属Mを急速に冷却できるように、伝導性に優れ、かつ磁性を有さない非磁性体としての非磁性材である金属などにて形成されている。すなわち、この第2のスリーブ22は、金属材あるいは絶縁性素材としての非磁性体である非磁性金属材料あるいは非磁性セラミック材料にて構成されて備えられている。したがって、この第2のスリーブ22を非磁性体で構成したことにより、電磁気場の印加によって第2のスリーブ22自体が誘導加熱を起さず発熱しなくなるから、この第2のスリーブ22内に注湯した溶融金属Mを冷却させるのに有利であるので、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注湯しているときから、この溶融金属Mを冷却できる。また、この第2のスリーブ22を非磁性金属材で形成する場合には、この第2のスリーブ22自体の融点が、この第2のスリーブ22内に収容される溶融金属Mの温度より高いものを使用することが望ましい。
なお、この第2のスリーブ22は、この第2のスリーブ22自体の温度を溶融金属Mの温度まで上昇させると、この第2のスリーブ22自体が溶けてしまうおそれがあるから、この第2のスリーブ22の温度を溶融金属Mの温度まで上昇させることができない。したがって、この第2のスリーブ22では、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯した直後に、この溶融金属Mに電磁気場を印加した場合には、第2のスリーブ22と溶融金属Mとの温度差が大きく、この溶融金属Mの第2のスリーブ22と接する部分周辺では瞬間的に樹枝状結晶が形成されてしまう。
一方、第1のスリーブ21は、地面に対して水平な軸方向を有するように配置されている。また、第2のスリーブ22は、第1のスリーブ21と結合される部分である他端側のスラリ排出口26側を中心に所定の角度で回動可能に構成されている。さらに、この第2のスリーブ22は、この第2のスリーブ22内に注湯されて収容された溶融金属Mへの電磁攪拌によって半凝固金属スラリSを形成するスラリ製造領域Tを形成する。また、第1のスリーブ21は、第2のスリーブ22内で形成された半凝固金属スラリSを加圧して成形するための領域となる。
したがって、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22は、電磁気場攪拌によって溶融金属Mから半凝固金属スラリSを製造するスラリ製造容器の機能と、製造された半凝固金属スラリSを加圧成型する成形枠としての機能とを兼ね備えている。ここで、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22は、必ずしも両端が開放された構造でなくてもよく、相互に連結されて第2のスリーブ22内で製造された半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21へと圧送して、この第1のスリーブ21から吐出できる構造であればよい。
具体的に、この第1のスリーブ21は、両端が開放されて開口された細長円筒状であり、水平方向に沿った軸方向を有する状態に設置されて固定されている。また、この第1のスリーブ21は、第2のスリーブ22と略同径に形成されている。そして、この第1のスリーブ21の軸方向に沿った一端側には、蓋体としてのキャップ体20が取り付けられている。このキャップ体20の中央部には、所定の形状に開口されたスラリ吐出口23が形成されている。このスラリ吐出口23は、第1のスリーブ21内から半凝固金属スラリSが抜け出るように構成されている。さらに、このスラリ吐出口23は、第2のスリーブ22に結合される側の反対側の端部に設けられている。
さらに、このスラリ吐出口23の下流側には、このスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSを所定の形状の成形品である押出材Eを成形する成形部としての押出部6を備えた押出装置が配設されて取り付けられている。この押出部6は、この押出部6の構成によってスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSの形状が決定される。ここで、この押出部6は、第2のスリーブ22におけるスラリ吐出口23の外側に位置して配設されている。
さらに、この押出部6は、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から吐出される半凝固金属スラリSを移送して搬送する移送手段としての移送ローラ61を備えている。この移送ローラ61の移送面60の上方には、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSを冷却する冷却手段としての複数の噴霧型の冷却装置62が取り付けられている。また、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23の外側の上方には、このスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSを所定の長さでカットして切断するカッタ63が上下動可能に設置されている。このカッタ63は、刃先を下方に向けて設置されており、スラリ吐出口23から半凝固金属スラリSが所定の長さ吐出された際に下方へと移動して、この半凝固金属スラリSを所定の長さで切断する。
したがって、この押出部6は、移送ローラ61、冷却装置62およびカッタ63によって、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から押し出されて吐出された半凝固金属スラリSを移送させるとともに急冷させて所定の長さでカットして所定の形状の線材または板材などの押出材Eを成形させる。
よって、この第1のスリーブ21のスラリ吐出口23は、このスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSが押出部6で搬送されるので、このスラリ吐出口23から吐出される半凝固金属スラリSの形状を決定させる。よって、このスラリ吐出口23は、押出部6によって形状が調節される。さらに、このスラリ吐出口23は、このスラリ吐出口23から押出されて吐出される押出材Eの形状に対応しており、この押出材Eが断面円形の線材である場合には円形であり、この押出材Eが断面矩形状の板材である場合には長方形などの矩形状である。
一方、第1のスリーブ21におけるスラリ吐出口23に対向した軸方向に沿った他端側には、スラリ挿入口24が開口形成されている。これらスラリ吐出口23とスラリ挿入口24とは同心状に連通している。さらに、このスラリ挿入口24は、第2のスリーブ22のスラリ排出口26に同心状に連通するように、このスラリ排出口26に等しい形状に形成されている。よって、第1のスリーブ21は、第2のスリーブ22内で製造された半凝固金属スラリSがスラリ挿入口24から挿入されてスラリ吐出口23から吐出されて排出されるように構成されている。
すなわち、この第1のスリーブ21の周面部は、スラリ挿入口24側からスラリ吐出口23側に向けて徐々に拡開したテーパ状に形成されている。言い換えると、この第1のスリーブ21の周面部は、この第1のスリーブ21の他端側から一端側に向かう方向である、半凝固金属スラリSの排出方向に向けて内径寸法が徐々に大きくなるように拡径している。したがって、この第1のスリーブ21は、この第1のスリーブ21の内径が第2のスリーブ22の内径より大きい、すなわち(第1のスリーブ21の内径)≧(第2のスリーブ22の内径)の関係となるように構成されている。
また、この第1のスリーブ21の外側には、図1および図3ないし図6に示すように、第1の温度調節手段としての第1の温度調節装置41が取り付けられている。この第1の温度調節装置41は、第1のスリーブ21内の所定領域の温度を調整して、この第1のスリーブ21内の半凝固金属スラリSの温度を調節する。すなわち、この第1の温度調節装置41は、第1のスリーブ21内で押圧されて加圧される半凝固金属スラリSの急冷を防止する。したがって、この第1の温度調節装置41としては、所定の保温効果を有するものが望ましい。
具体的に、この第1の温度調節装置41は、パイプ42が螺旋状に内蔵された円筒状のウォータジャケット43を備えている。このウォータジャケット43は、第1のスリーブ21の外側を取り囲むように、この第2のスリーブ22の外側に同心状に取り付けられている。よって、この第1の温度調節装置41は、パイプ42内を流れる媒体の温度を適当に調節することによって第1のスリーブ21内の半凝固金属スラリSの温度を調節可能にする。
ここで、このウォータジャケット43内のパイプ42は、第1のスリーブ21に埋設させてもよい。また、このようなパイプ42以外でも第1のスリーブ21内の半凝固金属スラリSの温度を調節できる構成であればよい。すなわち、第1の温度調節装置41としては、図示しない電熱ヒータなどを使用してもよい。
一方、第2のスリーブ22の注湯口25には、第1の押圧手段としての第1のプランジャ52が進退可能に挿入される。この第1のプランジャ52は、図示しない制御部により制御される別途のシリンダ装置に連結されて、互いに連通された第1のスリーブ21および第2のスリーブ22内をピストン往復動する。ここで、この第1のプランジャ52の先端面である押圧面54は、この第1のプランジャ52の移動方向に直交する平坦な平面とされている。
さらに、この第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22内に半凝固金属スラリSが製造された状態で、この第2のスリーブ22の注湯口25から挿入されて、この第2のスリーブ22の一端側を閉塞する。さらに、この第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22の注湯口25に挿入された状態で、この第2のスリーブ22とともに回動して、第2のスリーブ22の注湯口25からの半凝固金属スラリSの漏れを防止する。また、この第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22のスラリ排出口26が第1のスリーブ21のスラリ挿入口24に連通され、これらスラリ排出口26とスラリ挿入口24との間がストッパ3にて開放された状態で、第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23側に向けて押圧して圧送して、この半凝固金属スラリSをスラリ吐出口23から押出部6の移送ローラ61の移送面60上へと吐出させる。
言い換えると、この第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22内に電磁気場が印加され、この第2のスリーブ22が冷却される間、すなわち第2のスリーブ22で溶融金属Mから半凝固金属スラリSを製造する間において、図1に示すように、第2のスリーブ22の注湯口25から外側に抜かれている。さらに、この第1のプランッジャ52は、第2のスリーブ22内で半凝固金属スラリSが形成された後に、図3に示すように、第2のスリーブ22の注湯口25から挿入されて、この第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを押圧すべく駆動される。そして、この第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22の回動に連動して回動して駆動するように構成されており、この第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21側に向けて加圧して圧送させる。
なお、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22には、図示しない熱電対を内蔵させるとともに、この熱電対を制御部に電気的に接続させて、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22内の溶融金属Mあるいは半凝固金属スラリSなどの温度情報を制御部に送出させてもよい。
さらに、第2のスリーブ22の注湯口25から溶融金属Mを注湯する際には、注入部としての注湯容器51が用いられる。この注湯容器51は、第2のスリーブ22の注湯口25に液相の溶融金属Mを注湯させる。そして、この注湯容器51としては、制御部に電気的に連結された通常の鉢、すなわちレードル(Ladle)を使用できる。ここで、この注湯容器51としては、通常の鉢以外にも金属を溶融させた炉を直接連結されるなど、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯できればいかなる構成であってもよい。
次に、上記第1の関連技術の半凝固成形装置の作用を説明する。
まず、図1に示すように、第2のスリーブ22の注湯口25側を第1のスリーブ21に対して上方に向けて90゜回動させて、この第2のスリーブ22の注湯口25を上方に向けて開口させるとともに、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26をストッパ3にて閉塞させて、この第2のスリーブ22の注湯口25から溶融金属Mを注湯できる容器形状にする。
次いで、電磁気場印加調節部13にて攪拌部1の電磁気場印加用コイル装置11を可動させて、第2のスリーブ22内に注湯される溶融金属Mに初期凝固層あるいは樹枝状結晶が形成されない程度の電磁気場を第2のスリーブ22に印加させる。
このとき、電磁気場印加用コイル装置11にて望ましくは250V、60Hzおよび500Gaussの電磁気場を印加させるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、状況によって適当に調節する。
この状態で、別途の炉で溶融された溶融金属Mを、注湯容器51にて移送して電磁気場の影響下にある第2のスリーブ22の注湯口25から、この第2のスリーブ22内に注湯する。ここで、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注湯した際に、この溶融金属Mが第2のスリーブ22のスラリ排出口26とストッパ3との間から漏れ出ないように、この第2のスリーブ22内に注湯した溶融金属Mが瞬時に半凝固金属スラリSとなるとともに、この半凝固金属スラリSが第2のスリーブ22のスラリ排出口26とストッパ3との間から漏れ出さないように、この半凝固金属スラリSの固相率を比較的高くする。
このとき、炉と第2のスリーブ22とを直接連結させて溶融された液相の溶融金属Mを直ちに第2スリーブ22内に注湯することもできる。また、このときの溶融金属Mは、この溶融金属Mの液相線温度+100℃程度の温度となっても良い。さらに、第2のスリーブ22には、別の図示しないガス供給管を連結させて、この第2のスリーブ22内に注湯される溶融金属Mの酸化を防止するために窒素ガス(N2)やアルゴンガス(Ar)などの不活性ガスを注入してもよい。
このように、完全に溶融された液相の溶融金属Mを電磁気場攪拌がなされている第2のスリーブ22内に注湯することにより、この第2のスリーブ22全体に亘って初期凝固層の形成なしに微細な再結晶粒子が分布し、この再結晶粒子が速く成長して樹枝状構造の生成が発生しなくなる。
なお、この第2のスリーブ22への電磁気場印加用コイル装置11による電磁気場の印加を、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯すると同時にしてもよい。
また、この電磁気場印加用コイル装置11による電磁気場の印加は、第2のスリーブ22内で製造された半凝固金属スラリSを第1のプランジャ52にて押圧するまで継続させるが、この半凝固金属スラリSとなる以前の溶融金属Mの固相率が少なくとも0.001以上0.7以下となるまで持続させて終了させる。
ただし、エネルギ効率次元で半凝固金属スラリSの製造過程まで電磁気場を攪拌するため、この電磁気場印加用コイル装置11による電磁気場の印加は、少なくとも溶融金属Mの固相率が少なくとも0.001以上0.4以下となるまで、より望ましくは、この溶融金属Mの固相率が0.001以上0.1以下となるまで持続させる。なお、この電磁気場印加用コイル装置11による電磁気場の印加を継続させる時間は、実験によって予め求めることができる。
さらに、この電磁気場印加用コイル装置11による電磁気場の印加を終了した後、あるいはこの電磁気場の印加を持続している間に、第2のスリーブ22内の溶融金属Mが0.1以上0.7以下の固相率に至るまで所定の冷却速度で第2の温度調節装置44によって冷却させる冷却段階を経て半凝固金属スラリSを製造する。
このとき、この第2のスリーブ22内の溶融金属Mの冷却速度は、第2の温度調節装置44によって0.2℃/sec以上5℃/sec以下、より望ましくは0.2℃/sec以上2℃/sec以下に調整される。ここで、第2のスリーブ22内の溶融金属Mの固相率が0.1以上0.7以下に至るまでの時間t2は、実験によって予め求めることができる。
なお、第2のスリーブ22内の溶融金属Mから製造された半凝固金属スラリSは、第2のスリーブ22のスラリ排出口26を第1のスリーブ21のスラリ挿入口24に結合させた状態で、これらスラリ排出口26とスラリ挿入口24との間をストッパ3にて連通させた際に、これらスラリ排出口26とスラリ挿入口24との間から半凝固金属スラリSの一部が漏れ出ない程度の固相率を有している。
次いで、第2のスリーブ22内で半凝固金属スラリSを製造した後、図3に示すように、第2のスリーブ22の注湯口25から第1のプランジャ52が挿入された状態で、この第2のスリーブ22の注湯口25側を下方に向けて90゜回動させて、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26を第1のスリーブ21のスラリ挿入口24にストッパ3を介して同心状に連結させて結合させる。このとき、第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22の回動に連動して回動する。
この後、ストッパ3を下方へと移動させて、第2のスリーブ22のスラリ排出口26を開放させ、このスラリ排出口26を第1のスリーブ21のスラリ挿入口24に同心状に連通させる。
この状態で、図4に示すように、第1のプランジャ52を第1のスリーブ21のスラリ吐出口23側に向けて移動させて、第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを第2のスリーブ22内から第1のスリーブ21に圧送するとともに圧縮して、この半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から押出部6へと吐出させて排出させる。
このとき、第1のスリーブ21内で圧縮が進行している半凝固金属スラリSの温度が第1の温度調節装置41にて所定の温度に保持される。
そして、この第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から吐出される半凝固金属スラリSは、押出部6の移送ローラ61の移送面60上へと吐出されて、この移送ローラ61にて移送されるとともに冷却装置62にて急冷される。
この後、図5に示すように、この押出部6の移送ローラ61にて移送され冷却装置62にて急冷された半凝固金属スラリSは、所定の長さでカッタ63にて切断されて所定の形状の押出材Eとされてから、さらに移送ローラ61にて移送される。
そして、図6に示すように、押出材Eをカッタ63にて切断した後に第1のスリーブ21内に残った半凝固金属スラリであるビスケットBは、第1のプランジャ52を元の位置に復帰させてから、第2のスリーブ22の注湯口25側を上方に向けて90゜回動させて、第1のスリーブ21のスラリ挿入口24を開口させた状態で、別途の図示しない取出し棒による押し出しにて外部へと取り出される。
さらに、このビスケットBを第1のスリーブ21から取り出した後には、図1に示すように、第2のスリーブ22のスラリ排出口26をストッパ3にて閉塞して、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを収容可能にした後、この第2のスリーブ22に再度溶融金属Mを注湯して押出材Eの成形過程を反復させる。この結果、このような反復過程によって組織が微細でかつ全体的に均一な押出材Eを得ることができる。
上述したように、上記第1の関連技術によれば、溶融金属Mの液相線より高い温度での短時間の攪拌だけで、第2のスリーブ22の壁面での核生成密度を顕著に高めて粒子の球状化を実現できるから、微細でかつ均一な球状化粒子の半凝固金属スラリSを第2のスリーブ22で製造できる。このため、溶融金属Mの電磁気場による攪拌時間を大きく短縮できるので、この溶融金属Mの電磁気場攪拌に必要なエネルギの消耗を少なくできる。さらに、断面が円筒状以外の非対称な形状の第2のスリーブ22であっても、微細でかつ均一な球状化粒子の半凝固金属スラリSを製造できる。
また、この第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSをスラリの状態で第1のスリーブ21を介した押出部6への押し出しを進行できる。このため、高品質の押出材Eを低圧の加圧力で得ることができ、低圧による成形が可能であるから、電力損失を防止でき、作業時間を短縮できる。同時に、半凝固金属スラリSの押圧による装置部品の耐久性の低下を防止できるとともに、エネルギ損失を減らすことができるから、短時間に高品質の押出材Eを連続して成形できる。
この結果、全体的に均一でかつ微細な構成の組織を有する押出材Eを得ることができる。さらに、この押出材Eを製造する際のエネルギ効率を改善できるから、製造コストを節減でき、この押出材Eの機械的性能を向上できる。さらに、この押出材Eを成形する際の成型工程を簡便化できるとともに、この押出材Eの製造時間の短縮を実現できるから、この押出材Eを製造するための全体工程を単純化でき、この押出材Eの生産性を向上できる。
なお、上記第1の関連技術では、第2のスリーブ22の一端側の注湯口25から溶融金属Mを注湯し、この注湯口25から第1のプランジャ52を挿入して第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを圧送したが、図8に示す第2の関連技術のように、第2のスリーブ22の周面部を一端側に向けて分岐させて別途の注湯口である注入口28を形成し、この注入口28から第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注入させるとともに、この第2のスリーブ22の注湯口25に第1のプランジャ52を常に挿入させた構成であってもよい。
さらに、図9ないし図11に示す第3の関連技術のように、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23の外側に、押出部6の代わりとして成形ダイ8を有するダイキャスティング装置を設置することもできる。そして、この成形ダイ8は、移動ダイ81と固定ダイ82と備えており、これら移動ダイ81と固定ダイ82とが合わさって、これら移動ダイ81と固定ダイ82との間に所定の形状の成形空間である成形空洞83を形成させる。さらに、固定ダイ82には、成形空洞83に半凝固金属スラリSを注入させる注入口84が形成されている。この注入口84は、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23に連通した状態で連結されており、このスラリ吐出口23から吐出される半凝固金属スラリSを成形空洞83へと注入させる。さらに、第1のスリーブの一端側にはキャップ体20が取り付けられておらず、この第1のスリーブ21の一端側がスラリ吐出口23とされている。
また、移動ダイ81および固定ダイ82は、一対の支持プレート85a,85bに取り付けられて設けられている。これら支持プレート85a,85bは、図示しない全体設備に取り付けられており、移動ダイ81および固定ダイ82を支持する。ここで、移動ダイ81は、これら移動ダイ81と固定ダイ82との間の成形空洞83での半凝固金属スラリSの成形が完了した後に、固定ダイ82から分離されて成形空洞83で形成された所定の形状の成形品である鋳材としてのダイキャスト材Dを分離可能にする。
すなわち、図9に示すように、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯して半凝固金属スラリSとした後、図10に示すように、第2のスリーブ22のスラリ排出口26を第1のスリーブ21のスラリ挿入口24に結合させてから、図11に示すように、第2のスリーブ22のスラリ排出口26を開口させる。
この状態で、第1のプランジャ52にて第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21のスラリ吐出口23側に向けて加圧する。そして、この第1のプランジャ52による押圧にて第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSを成形ダイ8へと注入させる。このとき、この半凝固金属スラリSは、成形ダイ8の注入口84から成形空洞83内に注入されて急冷されて、この成形空洞83の形状に対応したダイキャスト材Dとなる。このダイキャスト材Dの成形が終了した後には、移動ダイ81を後退させて固定ダイ82から分離させ、これら移動ダイ81と固定ダイ82との間の成形空洞83からダイキャスト材Dを引き出す。
この結果、第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSをスラリの状態でダイキャスティングできるから、高品質のダイキャスト材Dを低圧の加圧力で得ることができ、電力損失を防止でき、作業時間を短縮できるので、上記第1の関連技術の形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、成形ダイ8に注入される半凝固金属スラリSの温度を低くでき、この成形ダイ8に半凝固金属スラリSを低圧で注入できるので、この成形ダイ8の寿命の低下を防止できる。
次いで、図12および図13に示す第1の実施の形態のように、第1のスリーブ21の周面部に第2のスリーブ22の他端側を連結させて、この第1のスリーブ21から第2のスリーブ22が分岐して連結された構成にすることもできる。この場合、第1のスリーブ21は、この第1のスリーブ21の軸方向を地面に対して水平にした状態で設置されている。そして、第2のスリーブ22は、第1のスリーブ21の周面部から、この第1のスリーブ21の一端側であるとともに上方に向けて分岐されて連結されている。そして、この第1のスリーブ21の他端側の開口部31には、加圧用の第2の押圧手段としての第2のプランジャ53が進退可能に挿入されている。ここで、この第2のプランジャ53の先端面である押圧面55は、この第2のプランジャ53の移動方向に直交する平坦な平面とされている。
さらに、この第1のスリーブ21の一端側のスラリ吐出口23の外側には成形ダイ8が結合されている。なお、成形部として成形ダイ8を取り付けたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、この成形ダイ8の代わりに押出部6やプレス成形部7などを取り付けることもできる。
また、第2のスリーブ22は、この第2のスリーブ22の一端側の注湯口25側を上方に向け、他端側のスラリ排出口26を下方に向けた状態で約45゜の角度で傾斜している。そして、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26は、第1のスリーブ21の軸方向に沿った略中間部に連結されて連通されている。さらに、この第2のスリーブ22の他端側には、この第2のスリーブ22の他端側を開閉可能に閉塞するストッパ3が上方から取り外し可能に挿入されて取り付けられている。また、この第2のスリーブ22の外周部には、攪拌部1が取り付けられている。この攪拌部1は、ストッパ3が取り付けられている位置よりも第2のスリーブ22の一端側を覆っている。
さらに、第2のスリーブ22には、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注湯させる注入口28が取り付けられている。この注入口28は、第2のスリーブ22における攪拌部1が取り付けられた位置よりも一端側に取り付けられており、この第2のスリーブ22の周面部から上方に向けて突出している。また、この注入口28は、第2のスリーブ22内に連通しており、第2のスリーブ22内における攪拌部1にて電磁気場が印加されるスラリ製造領域Tに溶融金属Mを注湯させる。
そして、図12に示すように、第2のスリーブ22の他端側をストッパ3にて閉塞した状態で、この第2のスリーブ22の注入口28から溶融金属Mを注湯して、この第2のスリーブ22内に注湯した溶融金属Mを攪拌部1による電磁気場の印加によって半凝固金属スラリSとする。次いで、ストッパ3を上方に移動させて第2のスリーブ22のスラリ排出口26を開放させた後、この第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21内へと移動させて吐出させる。このとき、第1のプランジャ52を第1のスリーブ21側に移動させて、この第1のプランジャ52にて第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを押圧して、この半凝固金属スラリSの第1のスリーブ21への吐出を促進させる。
この後、この半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21内に流入させた状態で、図13に示すように、第2のプランジャ53を第1のスリーブ21のスラリ吐出口23側に向けて移動して、この第1のスリーブ21内の半凝固金属スラリSを加圧してスラリ吐出口23から吐出させて成形ダイ8に注入させる。このとき、この成形ダイ8に注入された半凝固金属スラリSは、この成形ダイ8の注入口84を通じて成形空洞83内に注入されて成形されつつ急速に冷却されて成形空洞83の形状に対応したダイキャスト材Dに製造される。さらに、この成形ダイ8の成形空洞83でのダイキャスト材Dの製造が終了した後に、移動ダイ81を後退させて固定ダイ82から離させて、このダイキャスト材Dを成形空洞83から引き出す。
この結果、第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSをスラリの状態でダイキャスティングできるから、高品質のダイキャスト材Dを低圧の加圧力で得ることができ、電力損失を防止でき、作業時間を短縮できるとともに、成形ダイ8に注入される半凝固金属スラリSの温度を低くでき、この成形ダイ8に半凝固金属スラリSを低圧で注入できるので、上記第3の関連技術と同様の作用効果を奏することができる。
さらに、図14に示す第2の実施の形態のように、第1のスリーブ21の軸方向を地面に対して垂直に設置し、この第1のスリーブ21から第2のスリーブ22の注湯口25側を斜め上方に向けて分岐させて結合させ、第2のスリーブ22の注入口28を上方に向けて開口させた構成とすることもできる。この場合、第2のスリーブ22内で製造した半凝固金属スラリSを自重による重力の作用によって第1のスリーブ21内における成形ダイ8側により容易に移動できるから、この成形ダイ8にてダイキャスト材Dを成形する工程をより速くできる。
なお、上記第1および第2の実施の形態では、第1のプランジャ52の先端面である押圧面54を、この第1のプランジャ52の移動方向に直交する平坦な平面としたが、図15に示す第3の実施の形態のように、第1のプランジャ52を第1のスリーブ21側に移動させた際に、この第1のプランジャ52の押圧面54が第1のスリーブ21の内周面と面一になるように、この第1のプランジャ52の押圧面54を、この第1のプランジャ52の移動方向に対して約45゜ほど傾斜させる構成とすることもできる。
この場合、この第1のプランジャ52の押圧面54は、第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを第1のプランジャ52にて押圧した際に、この半凝固金属スラリS全部を第1のスリーブ21内に移動できるように、この第1のスリーブ21の内周面に等しい横断面凹弧状に形成されている。すなわち、この第1のプランジャ52の押圧面54は、第1のスリーブ21のスラリ挿入口24を、この第1のスリーブ21の内周面に沿って閉塞できるように構成されている。したがって、この第1のプランジャ52の押圧面54の傾斜角度は、第1のスリーブ21に対する第2のスリーブ22の傾斜角度に等しい。
また、図16に示す第4の実施の形態のように、軸方向を地面に対して垂直に設置した第1のスリーブ21の上端側に成形ダイ8を取り付けるとともに、この第1のスリーブ21の下端側から第2のプランジャ53を進退可能に挿入させて取り付けても、上記第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
さらに、上記各関連技術および各実施の形態において、多様な金属あるいは合金、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、亜鉛、亜鉛合金、銅、銅合金、鉄および鉄合金などのいずれの半凝固金属成形方法であっても汎用的に適用できる。すなわち、固液共存状態成形用、いわゆる半凝固あるいは半溶融成形用に利用できるものであればいずれも利用でき、その中でもアルミニウム、マグネシウム、銅、亜鉛、鉄およびこれらの合金よりなる群から選択されることが望ましい。これら合金は、最終成形品で要求される物性によって色々な任意の金属を含むことができる。
すなわち、溶融金属Mとして用いられる合金系が何かという問題ではなく、凝固理論的に考察すると、スリーブ2に注湯する前の溶融金属Mの温度は、この溶融金属Mとして用いられる合金系の比熱の問題で議論できる。したがって、第2のスリーブ22に注湯する前の溶融金属Mの温度は、この溶融金属Mとして用いられた合金系の液相線よりいくら高い温度でも可能であるかどうかは、比熱の値そのものが問題となる。
そして、アルミニウムの比熱は、約0.25kcal/gであり、このアルミニウム以外の他の合金系、例えばマグネシウム(約0.18kcal/g)、亜鉛(約0.1kcal/g)、銅(約0.1kcal/g)、鉄(約0.1kcal/g)それぞれの比熱は、アルミニウムよりも小さい。したがって、アルミニウム以外の他の合金系では、アルミニウムに比べ、奪わなければならない熱量が少ないという効果があるため、これらいずれの合金系の溶融金属Mを液相線+100℃とした状態で、この溶融金属Mをスリーブ2に注湯しても、これら溶融金属Mには初期凝固層が形成されず、これら溶融金属Mから潜熱が生じない。このため、これら溶融金属Mから比熱だけを奪えば、これら溶融金属M中の結晶核を成長できるので、これらいずれの合金系であっても同様の作用効果を奏することができる。
理論的に、液相から固相へと変化する温度(Tl)と固相から液相へと変化する温度(TS)との差、すなわちTl−TS=ΔTが0でなければ、どのような合金系においても、溶融金属Mの温度をTlとTSとの間に調整することによって、溶融金属M中に結晶核を形成できる。
一方、鋳物産業において、一般的に使用される純アルミニウムには、1%程度の不純物が含有されている。なお、アルミニウム以外のマグネシウム、亜鉛、銅および鉄のそれぞれについても、鋳物産業において一般的に使用される純マグネシウム、純亜鉛、純銅および純鉄には、1%程度の不純物が含有されている。
したがって、液相から固相へと変化する温度(Tl)と固相から液相へと変化する温度(TS)との差が0でなく、比熱がアルミニウムより小さく、かつ電磁気場の印加で溶融金属Mに磁場が形成されるマグネシウム、亜鉛、亜鉛合金、銅、銅合金、鉄および鉄合金であっても、アルミニウム合金と同様の結果を原理的に得ることができる。
さらに、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯した後に、この第2のスリーブ22内に注湯した溶融金属Mに対して電磁気場印加用コイル装置11にて電磁気場を印加して、この溶融金属Mから半凝固金属スラリSを製造する半凝固成形装置であっても、電磁気場印加調節部13の制御を調整することによって対応させて用いることができる。
本発明は、半凝固金属スラリを製造し、この半凝固金属スラリを半溶融金属成形法にて成形して各種金属成形品を製造できる。
本発明の第1の関連技術の固液共存状態金属材料製造装置に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置の第2の温度調節手段を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置の第2のスリーブ内で固液共存状態金属スラリを押圧する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置の第1のスリーブから固液共存状態金属スラリを吐出する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置で成形品を成形した工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置で成形品を成形した後のビスケットを排出する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置での時間に対する溶融金属の注湯温度を示す二次グラフである。
本発明の固液共存状態金属材料製造装置の第2の関連技術を示す概略断面図である。
本発明の固液共存状態金属材料製造装置の第3の関連技術に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置の第2のスリーブ内で固液共存状態金属スラリを押圧する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置で成形品を成形した工程を示す概略断面図である。
本発明の固液共存状態金属材料製造装置の第1の実施の形態に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置で成形品を成形した工程を示す概略断面図である。
本発明の固液共存状態金属材料製造装置の第2の実施の形態に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
本発明の固液共存状態金属材料製造装置の第3の実施の形態に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
本発明の固液共存状態金属材料製造装置の第4の実施の形態に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
符号の説明
1 攪拌部
3 開閉手段としての蓋体であるストッパ
13 制御手段としての電磁気場印加調節部
21 圧送部としての第1のスリーブ
22 注湯部としての第2のスリーブ
23 スラリ吐出口
28 注湯口としての注入口
41 第1の温度調節手段としての第1の温度調節装置
44 第2の温度調節手段としての第2の温度調節装置
52 注湯部押圧手段としての第1のプランジャ
53 圧送部押圧手段としての第2のプランジャ
M 溶融金属
S 固液共存状態金属スラリとしての半凝固金属スラリ
本発明は、溶融金属に電磁気場を印加して固液共存状態金属スラリを製造する固液共存状態金属材料製造装置に関する。
固液共存状態の金属スラリ、すなわち半溶融あるいは半凝固金属スラリは、通常、半凝固成形法(Reocasting)および半溶融成形法(Thixocasting)などの複合加工法の中間品である。そして、半凝固金属スラリとは、半凝固領域の温度で液相と球状の結晶粒とが適切な割合で混在した状態でチクソトロピー(Thixotropic)性により小さな力によっても変形が可能であり、かつ流動性に優れて液相のように成形加工が容易な状態の金属材料である。
ここで、半凝固成形方法とは、完全に凝固されずに所定の粘性を有する固液共存状態の半凝固金属スラリを鋳造または鍛造してビレットや最終成形品を製造する加工法をいう。このような半凝固成形方法は、半溶融成形方法とともに半凝固あるいは半溶融成形方法と呼ばれるが、ここで、半溶融成形方法とは、半凝固成形方法により製造されたビレットを半溶融状態のスラリに再加熱した後、このスラリを鋳造あるいは鍛造して最終製品に製造する加工法をいう。
そして、このような半凝固あるいは半溶融成形法は、鋳造や溶融鍛造など溶融金属を利用する一般的な成形方法に比べて色々な長所を有している。例えば、これら半凝固あるいは半溶融成形法で使用する半溶融金属スラリは溶融金属より低温で流動性を有するので、このスラリに露出されるダイの温度を溶融金属の場合よりさらに低めることができ、これによりダイの寿命が延びる。
また、スラリがシリンダに沿って押し出される時に乱流の発生が少なくて鋳造過程で空気の混入を減らし、これにより最終製品への気孔発生を減らすことができる。その他にも凝固収縮が少なくて作業性が改善され、製品の機械的特性および耐食性が向上し、製品の軽量化が可能である。これにより、自動車や航空機産業分野、電気電子情報通信装備などの新素材として利用できる。
このように、これら半凝固成形方法あるいは半溶融成形法では、いずれも半凝固状態の金属スラリを使用するが、上述のように、半凝固成形法では溶融金属を所定の方法により冷却したスラリを使用し、半溶融成形法では固相のビレットを再加熱して得られたスラリを使用する。ここで、半凝固金属スラリは、金属の液相線と固相線との間で液相と固相とが共存する領域、すなわち、金属の半凝固領域の温度で金属内部の結晶粒界が部分的には溶解され、部分的には固相成分として残留する状態の金属材料を意味し、半凝固成形法により製造された、すなわち溶融金属から冷却されて得られた半凝固状態のスラリをいう。
また、従来の半凝固成形方法としては、製造過程によって、溶融金属中に複数の結晶核を生成させてから、この結晶核を成長させて半凝固状態の金属スラリを製造する核生成方法と、溶融金属中に初期凝固層である樹枝状結晶を成長させてから、この樹脂状結晶を破砕して半凝固状態の金属スラリを製造する攪拌方法とに大別されている。
ところで、従来の核生成方法では、溶融金属の注湯温度を非常に低く維持しなければならず、冷却速度を非常に遅くして工程を徐々に進行させて複数の結晶核を生成させてから、これら結晶核を成長させるものである。このため、半凝固状態の金属スラリの製造時間が長すぎて、実際の量産工程に適用することが難しいという問題がある。
一方、従来の攪拌方法は、溶融金属を冷却する時に主に液相線以下の温度で攪拌して既に生成された樹枝状結晶組織を破砕することによって半凝固成形に適合に球状の粒子に作る方法である。この攪拌方法には、機械的攪拌法や電磁気的攪拌法、ガスバブリング、低周波、高周波あるいは電磁気波振動を利用するか、電気的衝撃による攪拌法などが利用されている。
そして、液相固相混合物を製造する方法としては、溶融金属が固相化する間に強く攪拌しながら冷却している。さらに、この液相固相混合物を製造するための製造装置は、容器に固液混合物を注湯した状態で攪拌棒により攪拌するが、この攪拌棒は所定の粘性を有する固液混合物を攪拌して流動させることによって混合物内の樹枝状構造を破砕するか、破砕された樹枝状構造を分散させるものである(例えば、特許文献1参照。)。
ところが、上記液相固相混合物を製造する方法では、冷却過程で既に形成された樹枝状結晶形態を粉砕し、この粉砕した樹枝状結晶を結晶核として球状の結晶を得ている。このため、初期凝固層の形成による潜熱の発生により冷却速度の減少と製造時間の増加および攪拌容器内での温度不均一による不均一な結晶状態など多くの問題を有している。また、この液相固相混合物を製造するための製造装置の場合にも、機械的攪拌が有する限界によって容器内の温度分布が不均一であり、チャンバ内で作動するために作業時間および後続工程への連係が非常に難しい限界を有している。
また、半凝固合金スラリの製造装置としては、コイル付き電磁気場印加手段の内側に順次に冷却マニホールドおよび金型を備えている。そして、この金型の上側は溶融金属が連続して注湯されるように形成されており、冷却マニホールドには冷却水が流れて金型を冷却するように構成されている。さらに、上記半凝固合金スラリの製造装置による半凝固合金スラリの製造方法によれば、まず、金型の上側から溶融金属を注湯し、この溶融金属が金型内を通過しながら冷却マニホールドにより固相化領域を形成するが、ここで電磁気場印加手段により磁場が印加されて樹枝状組織を破砕しながら冷却が進み、下部からインゴットが形成される(例えば、特許文献2参照。)。
ところが、上記半凝固合金スラリの製造方法においても、凝固した後に振動を加えて樹枝状組織を破砕するものであるため、工程上および組織構成上多くの問題を有している。また、上記半凝固合金スラリの製造装置の場合にも、溶融金属が上部から下部に進みながら連続してインゴットを形成しているが、この溶融金属を連続して成長させることによって金属の状態を調節し難く、全体的な工程制御が容易ではない。さらには、電磁気場を印加する前の段階で金型を水冷させているため、この金型の壁体付近と中心付近とでの温度差が著しく大きい。
この外にも、この種の半凝固成形法あるいは半溶融成形法は、多様に存在するが、いずれも既に形成された溶融金属中の樹枝状組織を破砕して、この樹枝状組織を結晶核として使用するものである。
また、半凝固鋳造用金属スラリの製造方法としては、液相線温度の付近または液相線より50℃まで高い温度で溶融金属を容器に注湯する。この後、溶融金属が冷却される過程で溶融金属の少なくとも一部が液相線温度以下になる時点、すなわち最初に液相線温度を通過する時点で、例えば超音波振動により溶融金属に運動を加える。さらに、この溶融金属に運動を加えた後、徐々に冷却して粒相結晶形態の金属組織を有する半凝固鋳造用金属スラリを製造している(例えば、特許文献3参照。)。
ところが、上記半凝固鋳造用金属スラリの製造方法でも、超音波振動などの力が冷却初期に形成される樹枝状結晶組織を破砕するために使われている。また、注湯温度を液状線温度より高くすれば、粒相の結晶形態を得難く、同時に溶湯を急激に冷却し難い。さらに、表面部と中心部の組織が不均一になる。
さらに、半溶融金属の成形方法としては、溶融金属を容器に注湯した後、振動バーを溶融金属中に浸漬させて溶融金属と直接接触させた状態で振動させて溶融金属に振動を与えている。具体的には、振動バーの振動力を溶融金属に伝達することによって、液相線温度以下で結晶核を有する固液共存状態の合金を形成する。この後、所定の液相率を示す成形温度まで溶融金属を容器内で冷却しながら30秒以上60分以下の間維持することによって結晶核を成長させて半溶融金属を得る。ところが、この方法で得られる結晶核の大きさは約100μmであり、工程時間が相当長く、所定大きさ以上の容器に適用し難い(例えば、特許文献4参照。)。
また、半溶融金属スラリの製造方法としては、冷却と攪拌とを同時に精密に制御することによって半溶融金属スラリを製造している。具体的には、溶融金属を混合容器に注湯した後、混合容器周囲に設置された固定子アセンブリを作動させて容器内の溶融金属を急速に攪拌するのに十分な起磁力を発生させる。さらに、混合容器の周囲に設けられて容器および溶融金属の温度を精密に調節する作用をするサーマルジャケットを利用して溶融金属の温度を急速に落とす。溶融金属が冷却される時に溶融金属は攪拌され続け、固相率が低い時には速い攪拌を提供し、固相率が増加するにつれて増大した起電力を提供する方式で調節される(例えば、特許文献5参照。)。
米国特許第3948650号明細書(第3−8欄および図3)
米国特許第4465118号明細書(第4−12欄、図1、図2、図5および図6)
特開平11−33692号公報(第3−5頁および図1)
特開平10−128516号公報(第4−7頁および図3)
米国特許第6432160号明細書(第7−15欄、図1Aないし図2Bおよび図4)
上述したように、上記従来の半凝固金属スラリの製造方法およびその製造装置では、冷却過程で既に形成された樹枝状結晶形態を粉砕して粒相の金属組織にするために剪断力を利用している。したがって、溶融金属の少なくとも一部が液相線以下に下がってはじめて振動などの力が有効に作用するので、初期凝固層の形成による潜熱の発生により冷却速度の減少および製造時間の増加など各種の問題を避けにくい。また、得られた金属組織も容器内での温度の不均一によって全体的に均一でかつ微細な組織を得難く、溶融金属の容器への注湯温度を調節しなければ容器壁面部と中心部との温度差によって組織の不均一性がさらに増大してしまう。
さらに、上述した半凝固金属スラリの製造方法では、連続鋳造の方法でビレットを成型する方法であっても、半凝固金属スラリを製造した後に、この半凝固金属スラリを直接成型工程によって成型品とするのは容易ではないという問題を有している。
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、耐久性低下を防止でき、エネルギ損失を減らせる固液共存状態金属材料製造装置を提供することを目的とする。
請求項1記載の固液共存状態金属材料製造装置は、軸方向を傾斜して配設され溶融金属が注湯される筒状の注湯部と、この注湯部に設けられこの注湯部内に溶融金属を注湯させる注湯口と、この注湯口よりも前記注湯部の下端側を開閉可能にする開閉手段と、この開閉手段より上端側で前記注湯口より下端側の前記注湯部に所定の電磁気場を印加する攪拌部と、一端側にスラリ吐出口が設けられこのスラリ吐出口側が水平および下側のいずれかに向けた状態で配設され、前記注湯部の軸方向に対し前記スラリ吐出口の反対側である他端側に向けて鋭角に交わる軸方向を有し、この注湯部の下端が連通し、前記開閉手段の開動作によって前記注湯部で製造された固液共有状態金属スラリがこの注湯部の下端より前記スラリ吐出口側に送られる筒状の圧送部と、この圧送部の他端側から一端側に向けて進退可能に挿入され、この圧送部へと送られた固液共存状態金属スラリを前記スラリ吐出口に向けて押圧する圧送部押圧手段とを具備したものである。
そして、注湯部の注湯口より下端側を開閉手段にて閉塞した状態で、この注湯部の注湯口から溶融金属を注湯して、この注湯部への攪拌部による所定の電磁気場の印加により固液共存状態金属スラリを製造する。この後、注湯部の注湯口より下端側を開閉手段にて開放して、注湯部で製造した固液共存状態金属スラリをこの注湯部の下端より圧送部のスラリ吐出口側に送る。さらに、この注湯部の下端より圧送部のスラリ吐出口側に送られた固液共存状態金属スラリを圧送部押圧手段にてスラリ吐出口に向けて押圧する。この結果、固液共存状態金属スラリの押圧による装置の耐久性低下を防止できるとともに、エネルギ損失を減らすことができ、注湯部で製造された固液共存状態金属スラリがより確実に圧送部のスラリ吐出口から吐出される。
請求項2記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1記載の固液共存状態金属材料製造装置において、注湯部の上端側から進退可能に挿入され、この注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを押圧する注湯部押圧手段を具備したものである。
そして、注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを注湯部押圧手段にて押圧することにより、この注湯部で製造された固液共存状態金属スラリがより確実に圧送部のスラリ吐出口より他端側に送られる。
請求項3記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1または2記載の固液共存状態金属材料製造装置において、開閉手段は、閉動作によって注湯部に注湯される溶融金属を受け止め、開動作によって前記注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを自重にて落下させる蓋体であるものである。
そして、蓋体の閉動作によって注湯部に注湯される溶融金属を受け止めることができるとともに、この蓋体の開動作によって注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを自重にて落下できるから、この注湯部での固液共存状態金属スラリの製造、およびこの注湯部から圧送部への固液共存状態金属スラリの送りをより容易にできる。
請求項4記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1ないし3いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置において、注湯部は、非磁性材にて構成されているものである。
そして、注湯部を非磁性材にて構成することにより、この注湯部に電磁気場を印加しても誘導加熱を起さず発熱しなくなるので、この注湯部に注湯した溶融金属が冷却しやすい。よって、この注湯部に注湯される溶湯金属への攪拌部による電磁気場の印加をより効率良くできるから、固液共存状態金属スラリをより効率よく製造できる。
請求項5記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1ないし4いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置において、注湯部は、上端側から下端側に向けて拡開したテーパ状に形成されているものである。
そして、溶融金属が注湯される上端側から下端側に向けて拡開したテーパ状に注湯部を形成したことにより、この注湯部の下端側から圧送部への固液共存状態金属スラリの圧送が容易になる。
請求項6記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1ないし5いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置において、注湯部に注湯された溶融金属に初期凝固層が形成されない程度の電磁気場を、溶融金属が注湯部に注湯される前から攪拌部にて印加させ、前記注湯部に注湯した溶融金属に結晶核が生成された時点で前記注湯部に対する電磁気場の印加を終了させる制御手段を具備したものである。
そして、注湯部に注湯された溶融金属に初期凝固層が形成されない程度の電磁気場を、溶融金属が注湯部に注湯される前から攪拌部にて制御手段が印加させ、注湯部に注湯した溶融金属に結晶核が生成された時点で注湯部に対する電磁気場の印加を制御手段が終了させる。この結果、注湯部に注湯した溶融金属に初期凝固層を形成させることなく、この溶融金属への電磁気場の印加にて、この溶融金属中に結晶核を生成できる。このため、この溶融金属中の初期凝固層の形成による凝固潜熱を発生させることなく、この溶融金属中の結晶核を成長させて固液共存状態金属スラリを製造できる。
請求項1記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、固液共存状態金属スラリの押圧による装置の耐久性低下を防止できるとともに、エネルギ損失を減らすことができる。さらに、注湯部で製造された固液共存状態金属スラリをより確実に圧送部のスラリ吐出口から吐出できる。
請求項2記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを注湯部押圧手段にて押圧することにより、この注湯部で製造された固液共存状態金属スラリをより確実に圧送部のスラリ吐出口より他端側に送ることができる。
請求項3記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1または2記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、蓋体の閉動作にて注湯部に注湯される溶融金属を受け止めることができ、この蓋体の開動作にて注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを自重にて落下できるから、この注湯部での固液共存状態金属スラリの製造、およびこの注湯部から圧送部への固液共存状態金属スラリの送りをより容易にできる。
請求項4記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1ないし3いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、注湯部に電磁気場を印加しても誘導加熱を起さず発熱しなくなり、この注湯部に注湯した溶融金属を冷却しやすいので、この注湯部に注湯される溶湯金属への攪拌部による電磁気場の印加をより効率良くできるから、固液共存状態金属スラリをより効率よく製造できる。
請求項5記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1ないし4いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、溶融金属が注湯される上端側から下端側に向けて拡開したテーパ状に注湯部を形成したことにより、この注湯部の下端側から圧送部への固液共存状態金属スラリの圧送を容易にできる。
請求項6記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1ないし5いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、注湯部に注湯した溶融金属に初期凝固層を形成させることなく、この溶融金属への電磁気場の印加にて、この溶融金属中に結晶核を生成できるため、この溶融金属中の初期凝固層の形成による凝固潜熱を発生させることなく、この溶融金属中の結晶核を成長させて固液共存状態金属スラリを製造できる。
以下、本発明の第1の関連技術を図面を参照して説明する。
まず、固液共存状態金属スラリとしての半凝固金属スラリSを成形する固液共存状態金属製造装置である半凝固成形装置は、半凝固金属スラリSを利用して所定の形状の成形品、例えば押出材Eを成形する半凝固金属成形方法を用いた装置である。
そして、この半凝固成形装置に用いられている半凝固成形方法は、図1ないし図7に示すように、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注入して半凝固金属スラリSを製造した後、この半凝固金属スラリSを加圧して成形するものであって、低圧によっても押出およびフォーミングなどの成形工程が可能である。このとき、第2のスリーブ22への溶融金属Mの注入が完了する前に電磁気場を印加して攪拌する。すなわち、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯する前、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯すると同時に、またはこの第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯する最中、すなわち注湯しながら電磁気場による攪拌をすることによって、初期樹枝状組織の生成を遮断する。このとき、この攪拌には電磁気場の代わりに超音波などを利用することもできる。
すなわち、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注入する前から電磁気場を印加して、この第2のスリーブ22に注湯された溶融金属Mを電磁攪拌することによって、この溶融金属M中に初期凝固層および樹枝状結晶の生成を遮断する。このとき、電磁気場の印加は溶融金属Mを攪拌できる強度でなされる。
具体的には、まず、電磁気場を印加する攪拌部1に取り囲まれた第2のスリーブ22の所定領域であるスラリ製造領域Tに電磁気場を印加した状態で溶融金属Mを注入する。このときの電磁気場の印加は、注湯される溶融金属M中に初期凝固層および樹枝状結晶が形成されないほどの強度でなされる。
この後、図7に示すように、注湯工程として溶融金属Mを注湯温度TPで第2のスリーブ22内に注湯する。このとき、この第2のスリーブ22には電磁気場が印加されて攪拌が実施され得る状態とされている。この際、溶融金属Mの注湯と同時に電磁気場の攪拌を実施できるとともに、この溶融金属Mが注湯される途中で電磁気場の攪拌を実施することもできる。
このように、第2のスリーブ22への溶融金属Mの注湯が完了する前に電磁気場の攪拌を実施することによって、この溶融金属Mが低温の第2のスリーブ22の内壁で初期凝固層に形成されず、これにより樹枝状組織に成長することもない。すなわち、電磁気場を第2のスリーブ22に印加させた状態で溶融金属Mを、この第2のスリーブ22内に注湯することによって、溶融金属Mが注湯された第2のスリーブ22の壁面部と中心部、上部と下部間に温度差がほとんどない。したがって、従来の技術で発生するスラリ注湯容器壁面付近での初期凝固が起きず、この第2のスリーブ22内の溶融金属Mの全体が均一に液相線温度直下に急速に冷却されて多数の結晶核を同時に発生できるからである。このため、この第2のスリーブ22内の溶融金属M全体に亘って微細な結晶核が同時に発生し、この溶融金属M全体が均一に液相線温度直下に急速に冷却させて多数の結晶核が同時に発生する。
これは、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注湯する前から、または注湯と同時に電磁気場を印加することによって活発な初期攪拌作用により内部の溶融金属Mと表面の溶融金属Mとがよく攪拌されて溶融金属M内での熱伝逹が速く、第2のスリーブ22の内壁での初期凝固層の形成が抑制されるからである。
また、よく攪拌されている溶融金属Mと低温の第2のスリーブ22の内壁との対流熱伝逹が増加して溶融金属M全体の温度を急速に冷却させる。すなわち、注湯された溶融金属Mが注湯と同時に電磁気場攪拌により分散粒子に分散され、この分散粒子が結晶核として第2のスリーブ22内に均一に分布され、これにより第2のスリーブ22全体にわたって温度差が発生しなくなる。これに対し、上述の従来の技術によれば、注湯された溶融金属が低温のスリーブの内壁と接触して急速な対流熱伝逹により初期凝固層での樹枝状結晶として成長する。
そして、このような原理は凝固潜熱と関連して説明できる。すなわち、第2のスリーブ22の壁面での溶融金属Mの初期凝固が発生しないので、それ以上凝固潜熱が発生せず、これにより溶融金属Mの冷却は単に溶融金属Mの比熱(凝固潜熱の約1/400に過ぎない)に該当する程度の熱量の放出だけで可能になる。
したがって、従来の技術においてスラリ注湯容器の内側壁面部でよく発生する初期凝固層での樹枝状結晶が形成されずに、第2のスリーブ22内の溶融金属Mが、この第2のスリーブ22の壁面から中心部に亘って全体が均一かつ急速に温度が低下する様子を示す。このときの温度を下げるのに必要な時間は溶融金属Mの注湯後約1秒以上10秒以下程度の短い時間にすぎない。これにより、多数の結晶核が第2のスリーブ22内の溶融金属M全体にわたって均一に生成され、結晶核生成密度の増加により結晶核間の距離は非常に短くなって樹枝状結晶が形成されずに独立的に成長して球状粒子を形成する。
これは溶融金属Mが注湯される最中に電磁気場が印加される場合にも同じである。すなわち、溶融金属Mの注湯が完了する前に電磁気場を印加することにより、第2のスリーブ22の内壁面に初期凝固層が形成されなくなる。
このとき、溶融金属Mの注湯温度Tpは液相線温度より高く、液相線+100℃より低い温度(溶湯過熱度=0℃以上100℃以下)に維持されることが望ましい。上述のように、溶融金属Mが注湯された第2のスリーブ22内全体が均一に冷却されるので、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注湯する前に液相線温度付近まで冷却させる必要がなく、液相線+100℃程度高い温度を維持してもよいからである。
一方、溶融金属をスラリ製造容器に注湯した後、溶融金属の一部が液相線以下になる時点でスラリ製造容器に電磁気場を印加する従来の方法によれば、スラリ製造容器の壁面に初期凝固層が形成されながら凝固潜熱が発生するが、凝固潜熱は比熱の約400倍程度であるため、スラリ製造容器全体の溶融金属の温度が下がるには長時間がかかる。したがって、このような従来の方法では、液相線程度または液相線より50℃程度高い温度まで溶融金属の温度を冷却させた後、スラリ製造容器に注湯することが一般であった。
また、電磁気場攪拌を終了する時点は、図7に示すように、第2のスリーブ22内の溶融金属Mが一部分でも、この溶融金属Mの温度が液相線温度Tl以下に下がった時に、すなわち、この溶融金属Mの固相率が約0.001程度で所定の結晶核が形成された後ならいつ終了しても問題にならない。言い換えると、この電磁気場攪拌を終了する時点は、第2のスリーブ22内の溶融金属Mの温度が液相線付近に至った時点である。さらに、この電磁気場攪拌を終了する時点は、第2のスリーブ22内の溶融金属M中に結晶核が均一に生成された時点である。
ここで、溶融金属Mから半凝固金属スラリSを製造する際の核生成密度は、溶融金属Mとして使用される合金系によらず、この溶融金属Mの固相率が0.0001(10−4)以上となった時点で、すべての合金系における結晶核生成が完了する。また、溶融金属Mの固相率を0.0001の単位まで計測するのは容易ではない。工業的に利用し得る半凝固金属スラリSを製造する目的で、この半凝固金属スラリSの原料として用いられる溶融金属Mの結晶核生成を確実に終了させるためには、この溶融金属Mの固相率を0.0001とする必要はなく、0.001以上で充分であり、生産性の観点から0.001以上とすることがより好ましい。
すなわち、溶融金属M中にいかに結晶核生成の核を増加させるかについては、この溶融金属M中に結晶核生成が生じる間だけ、この溶融金属Mに電磁気場を印加するだけで足りる。したがって、この溶融金属Mに電磁気場をより長時間印加して、この溶融金属Mの固相率を0.001以上としても半凝固金属スラリSを製造できるが、この溶融金属Mの固相率が0.1以上になった状態でも電磁気場を印加し続けるのは、エネルギ効率面で望ましくなく、製造される半凝固金属スラリSの凝固組織が粗大化され、かつ工程時間が伸びるために望ましくないからである。
さらに、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯してこの溶融金属Mを冷却させる段階まで電磁気場を印加して後続の加圧する段階、例えばダイカスト工程や熱間鍛造工程などの成形工程前に電磁気場攪拌を停止させてもよい。これは既に第2のスリーブ22のスラリ製造領域T全体にわたって結晶核が均一に分布しているために、この結晶核を中心として結晶粒が成長する段階での電磁気場攪拌は製造される半凝固金属スラリSの特性に影響を及ぼさないからである。
したがって、上記電磁気場攪拌は、少なくとも溶融金属Mの固相率が0.001以上0.7以下になるまで持続させる。言い換えると、この電磁気場攪拌は、溶融金属Mの固相率が0.001以上0.7以下となった時点で、この溶融金属Mが注湯された第2のスリーブ22に対する電磁気場の印加が終了される。ただし、上記電磁気場攪拌の持続時間は、エネルギ効率面を考えれば、少なくとも第2のスリーブ22内の溶融金属Mの固相率が0.001以上0.4以下になるまで持続させ、さらに望ましくは溶融金属Mの固相率が0.001以上0.1以下になるまで持続させる。
一方、第2のスリーブ22への溶融金属Mの注湯が完了する前に電磁気場を印加して、均一な分布の結晶核を形成した後、冷却工程として第2のスリーブ22を冷却させて生成された結晶核の成長を加速させる。したがって、このような冷却工程は、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯するときからしてもよい。また、この冷却工程の間にも電磁気場を持続的に印加させてもよい。したがって、この冷却工程は、第2のスリーブ22に電磁気場が印加される間にしてもよい。これにより、第2のスリーブ22で半凝固状態の半凝固金属スラリSを製造した後、これを直ちに後続工程である成形工程で使用できる。なお、このような冷却工程は、別途の第2の温度調節装置44にてすることもあるが、自然的に空冷させてもよい。
さらに、このような冷却工程は、後続工程としての加圧工程などの成形工程前まで持続できる。すなわち、溶融金属Mが0.1以上0.7以下の固相率に到達する時点t2まで冷却工程を維持させる。具体的に、半凝固金属スラリSが鋳込まれて製造される製品の肉厚が薄く形状が複雑な場合には、実験的に、溶融金属Mの固相率が0.1となるまで冷却して、この溶融金属Mをより液状にして、半凝固金属スラリSが鋳型内で凝固するまでの時間を長くし、この半凝固金属スラリSの鋳型への流れ込み速度を速くする必要があるからである。
これに対し、この半凝固金属スラリSが鋳込まれて製造される製品の肉厚が厚く形状が単純な場合には、実験的に、溶融金属Mの固相率が0.7となるまで冷却して、この溶融金属Mをより固状にし、半凝固金属スラリSが鋳型内で凝固するまでの時間を短くして、この半凝固金属スラリSの流れ込み速度を遅くしても問題がないからである。
この結果、半凝固金属スラリSの製造に用いる溶融金属Mの固相率を0.1以上0.7以下にすれば、この溶融金属Mとして用いられる合金系に関わらず、この溶融金属Mから製造された半凝固金属スラリSにより、あらゆる形状のダイキャスト製品を製造できる。また、溶融金属Mの第2のスリーブ22への注湯時点から固相率0.1以上0.7以下の半凝固金属スラリSへと形成される時点までの所要時間が30秒以上60秒以下にすぎない。したがって、溶融金属Mから半凝固金属スラリSを60秒内、すなわち1分以内に製造するためには、この溶融金属Mの固相率が0.1以上0.7以下となるまで冷却すればよい。
このとき、この溶融金属Mの冷却速度は0.2℃/sec以上5.0℃/sec以下程度とするが、より好ましくは、結晶核の分布度および粒子の微細度によって0.2℃/sec以上2.0℃/sec以下にする。これは、溶融金属Mに電磁気場を印加して半凝固金属スラリSを製造する場合には、結晶核の分布度および粒子の微細度などの観点から、電磁気場を印加して結晶核生成が終了した溶融金属Mを、少なくとも0.2℃/sec以上の冷却速度で冷却する必要があるからである。
すなわち、この溶融金属Mの冷却速度を0.2℃/sec以下にした場合には、この溶融金属M中の結晶核が成長し過ぎて大きくなり過ぎてしまい、この溶融金属Mから半凝固金属スラリSを製造する際に必要な時間が長くなるので、この溶融金属Mから製造される半凝固金属スラリSの生産性および機械的な性質が低下してしまう。このため、この溶融金属Mの冷却速度を少なくとも0.2℃/sec以上にする必要があるとともに、この溶融金属Mの冷却速度は、基本的に速ければ速いほど半凝固金属スラリSの製造に必要な時間を短縮でき、エネルギ効率を向上できるので好ましい。
ところが、この溶融金属Mの冷却速度を5℃/sec以上にすると、この溶融金属Mを冷却する際に、この溶融金属M中に樹枝状結晶が形成されてデンドライト化して凝固してしまう。また、この溶融金属M中に形成された結晶核間の距離が大きい場合には、この溶融金属Mを0.2℃/sec程度の比較的ゆっくりとした速度で冷却することにより、この溶融金属M中の結晶核を大きく成長できる。これに対し、この溶融金属M中に形成された結晶核間の距離が小さい場合には、この溶融金属M中の結晶核を余り大きく成長させる必要がないので、この溶融金属Mを5℃/sec程度の比較的速い速度で冷却することが好ましい。
さらに、この溶融金属Mが注湯される第2のスリーブ22の断面積が大きい場合には、この溶融金属Mを0.2℃/sec程度の比較的ゆっくりとした速度で冷却することが好ましい。これに対し、溶融金属Mが注湯される第2のスリーブ22の断面積が小さい場合には、この溶融金属Mを5℃/sec程度の比較的速い速度で冷却しても、溶融金属M中の結晶核を十分に成長できる。
ここで、第2のスリーブ22に注湯した溶融金属M中での結晶核の生成は、この第2のスリーブ22に注湯する際の溶融金属Mの温度、すなわち注湯温度に依存する。なお、この注湯温度としては、溶融金属Mの液相線温度+100℃のように、この液相線温度からどの程度加熱したかを示す加熱度によって示すことができる。そして、この加熱度は、溶融金属Mを第2のスリーブ22に注湯してから、この溶融金属M中に結晶核が生成されるまでの段階に重要な影響を及ぼす。
これに対し、溶融金属M中に結晶核を生成させた後から、鋳込んだ半凝固金属スラリSの凝固が完了するまでの結晶成長は、この溶融金属Mから製造された半凝固金属スラリSを鋳込んで製造される製品の肉厚が重要な影響を及ぼす。したがって、電磁気場を印加して結晶核生成が終了した後に、この結晶核を成長させる際の溶融金属Mの冷却速度は、この溶融金属Mを第2のスリーブ22に注湯する前の結晶核を生成するための溶融金属Mの加熱度と、この溶融金属Mから形成された半凝固金属スラリSから製造される製品の肉厚とのそれぞれに依存する。すなわち、溶融金属Mの加熱度が一定で製品の肉厚が決まれば、鋳込んだ半凝固金属スラリSの冷却速度が自然に決まる。
ここで、溶融金属Mの加熱度が高い場合には、この溶融金属M中に生成される結晶核の数、すなわち核生成数が減少するので、この溶融金属Mの冷却速度を遅くする必要がある。また、この溶融金属Mの加熱度が低い場合には、この溶融金属M中に生成される核生成数が増加するので、この溶融金属Mの冷却速度を速くできるから、この溶融金属Mから製造される半凝固金属スラリSの粒子の細微化が可能となる。
したがって、この溶融金属Mの冷却速度を0.2℃/sec以上5℃/sec以下とし、この溶融金属Mを第2のスリーブ22に注湯する時の温度を、この溶融金属Mの液相線+100℃より低くすれば、鋳物産業において使用し得る範囲で、かつ所定の固相率を有する半凝固状態の半凝固金属スラリSを製造でき、これを直ちに加圧することにより押圧成形やプレス成形などをして所定の成形品に成形する。
このとき、この半凝固金属スラリSを製造する時間を顕著に短縮できるが、溶融金属Mの第2のスリーブ22への注湯時点から固相率0.1以上0.7以下の金属スラリ形態の金属材料に形成される時点までかかる時間は30秒以上60秒以下にすぎない。これにより製造された半凝固金属スラリSを使用して製品を成形すれば均一でかつ緻密な球状の結晶構造を得ることができる。
次に、上記半凝固金属成形法を用いた半凝固成形装置を図1ないし図6を参照して説明する。
図1ないし図6に示す半凝固成形装置は、いわゆるバッチ式であり、電磁気場を印加する攪拌部1と細長円筒状の筒状部としてのスリーブ2とを備えている。このスリーブ2は、圧送部としての第1の筒状部である射出用の第1のスリーブ21と、注湯部としての第2の筒状部であるEMS用の第2のスリーブ22とによって軸方向に沿った中央部が分割されて構成されている。
まず、このスリーブ2の第2のスリーブ22は、両端が開放されて開口された細長円筒状であり、上下方向に沿った軸方向を有する状態から、水平方向に沿った軸方向を有する状態となるように回動可能に設置されている。また、この第2のスリーブ22は、この軸方向に沿った一端である上端となる注湯口25と、この注湯口25に対向した他端である下端となるスラリ排出口26とのそれぞれが同心状に連通した状態で開口している。そして、この第2のスリーブ22は、注湯口25から液相の溶融金属Mが注湯されて、この溶融金属Mが内部に収容されて受容できるように構成されている。
また、この第2のスリーブ22は、この第2のスリーブ22の内部に注湯した溶融金属Mから製造された半凝固金属スラリSがスラリ排出口26から排出されるように構成されている。さらに、この第2のスリーブ22の周面部は、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯させる側である注湯口25側からスラリ排出口26側に向けて徐々に拡開したテーパ状に形成されている。言い換えると、この第2のスリーブ22の周面部は、この第2のスリーブ22の一端側から他端側に向かう方向である、半凝固金属スラリSの排出方向に向けて内径寸法が徐々に大きくなるように拡径している。
さらに、この第2のスリーブ22の周辺部には、この第2のスリーブ22内に注湯された溶融金属Mに電磁気場を印加する攪拌手段としての円筒状の攪拌部1が設置されて取り付けられている。この攪拌部1は、第2のスリーブ22とともに回動できるように、この第2のスリーブ22に固定されている。
また、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26には、開閉手段としての蓋体である円形平板状の開閉型のストッパ3が取り付けられている。このストッパ3は、図示しない駆動装置に接続されており、第2のスリーブ22と同じ材質にて形成されている。また、このストッパ3は、図1に示すように、第2のスリーブ22の注湯口25を上方に向けた状態で、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26を開閉可能に閉塞して、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mが注湯されるスラリ製造領域Tの閉塞部としての底部4を形成し、この第2のスリーブ22を容器状にする。
さらに、このストッパ3は、第2のスリーブ22を回動させて水平にした状態で、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26を開放させて、この第2のスリーブ22内で形成された半凝固金属スラリSを第2のスリーブ22のスラリ排出口26から外部へと離脱させて排出させる。なお、このストッパ3としては、第2のスリーブ22の下端であるスラリ排出口26を開閉できるものであれば、一側が第2のスリーブ22のスラリ排出口26の周縁に回動可能にヒンジ固定されたドア状であっても良く、中央部が分割されて両方向に開放される構成など、どのような構成であってもよい。
さらに、この第2のスリーブ22の外側には、図2に示すように、第2の温度調節手段としての第2の温度調節装置44が取り付けられている。この第2の温度調節装置44は、第2のスリーブ22内の溶融金属M、あるいはこの第2のスリーブ22内で製造された半凝固金属スラリSを冷却する。また、この第2の温度調節装置44は、冷却水パイプ45が螺旋状に内蔵された円筒状の冷却手段としての冷却装置であるウォータジャケット46を備えている。
そして、このウォータジャケット46は、第2のスリーブ22の外側を取り囲むように、この第2のスリーブ22の外側に同心状に取り付けられている。ここで、このウォータジャケット46内の冷却水パイプ45は、第2のスリーブ22内に埋設させてもよい。また、このような冷却水パイプ45以外でも第2のスリーブ22内の溶融金属Mや半凝固金属スラリSを冷却できる構成であればいかなる冷却装置であってもよい。
さらに、第2の温度調節装置44は、加熱手段としての加熱装置である電熱コイル47を備えている。この電熱コイル47は、ウォータジャケット46の外側を取り囲むように、このウォータジャケット46の外側に螺旋状に巻回された状態で同心状に取り付けられている。ここで、この電熱コイル47としては、この電熱コイル47以外のいかなる加熱機構であってもよい。
したがって、第2の温度調節装置44は、第2のスリーブ22内の溶融金属Mあるいは半凝固金属スラリSの温度を調節できる構造であればいかなる構成であってもよい。また、この第2の温度調節装置44は、第2のスリーブ22内の溶融金属Mを適正な速度で冷却する。さらに、この第2の温度調節装置44は、第2のスリーブ22の全体に亘って設置できるが、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mが収容されるスラリ製造領域Tの周囲のみに集中的に設置することもできる。なお、この第2の温度調節装置44を設けずに、第2のスリーブ22内の溶融金属Mを自然冷却させて、所望する固相率の半凝固金属スラリSを製造させてもよい。
具体的に、この第2の温度調節装置44は、第2のスリーブ22内に収容された溶融金属Mを0.1以上0.7以下の固相率に到達するまで冷却する。また、この第2の温度調節装置44は、冷却速度が調節されて、第2のスリーブ22内の溶融金属Mを0.2℃/s以上5.0℃/s以下の冷却速度で冷却させ、より好ましくは0.2℃/s以上2.0℃/sの冷却速度で冷却させる。
このとき、この第2の温度調節装置44は、攪拌部1による電磁気場の攪拌が終了した後にすることもあり、電磁気場の攪拌とは関係なく、すなわち電磁気場の印加が持続されている間にもできるとともに、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯する段階からもできる。
一方、攪拌部1は、この攪拌部1の内側に所定の空間部12が形成されており、この空間部12を包んで取り囲むように電磁気場印加用コイル装置11が配設されて取り付けられている。この電磁気場印加用コイル装置11は、図示しないフレームに固定されている。また、この電磁気場印加用コイル装置11は、所定の強度の電磁気場を空間部12に印加して、この空間部12に収容される第2のスリーブ22内の溶融金属Mを電磁気場攪拌する。ここで、この電磁気場印加用コイル装置11は、通常の電磁気場攪拌に使用できるコイル装置であればよい。また、攪拌部1は、電磁気場以外の超音波攪拌などの超音波攪拌装置でもよい。
ここで、この電磁気場印加用コイル装置11は、第2のスリーブ22の外側に密着して結合させることもできる。そして、この電磁気場印加用コイル装置11により第2のスリーブ22に注入される溶融金属Mを、この第2のスリーブ22に注入する段階から徹底的に攪拌させる。このため、この電磁気場印加用コイル装置11は、図3に示すように、第2のスリーブ22の回動に連動して回動されるように構成されている。すなわち、この第2のスリーブ22に電磁気場印加用コイル装置11が固定されている。なお、この第2のスリーブ22だけが回動するように構成してもよい。
さらに、電磁気場印加用コイル装置11には、図1および図3ないし図6に示すように、攪拌部1による電磁気場の印加を調整する制御手段としての電磁気場印加調節部13が電気的に連結されて接続されている。この電磁気場印加調節部13としては、制御装置が用いられており、電源の印加を決定する図示しないスイッチング手段や、電圧、周波数および電磁気力などを調節して印加される電磁気波を調節する電磁気波制御手段などを有している。すなわち、この電磁気場印加調節部13は、電磁気場の強度や作動時間などを調節する。
また、この電磁気場印加調節部13は、攪拌部1の電磁気場印加用コイル装置11を駆動させて、第2のスリーブ22に注湯される溶融金属Mに初期凝固層としての樹枝状結晶が形成されないほど、すなわち樹脂状結晶が形成されない程度の電磁気場を、溶融金属Mが第2のスリーブ22に注湯される前の段階から、この第2のスリーブ22に印加させる。さらに、この電磁気場印加調節部13は、注湯された溶融金属Mの温度が液相線近くに到達した時点、すなわち溶融金属Mに結晶核が生成された時点で第2のスリーブ22に対する電磁気場の印加を終了するように電磁気場印加用コイル装置11を調節する。
よって、この電磁気場印加調節部13にて電磁気場印加用コイル装置11の電磁気場印加時点を調節するが、このような電磁気場の印加は、製造された半凝固金属スラリSが圧縮されるまで終了させずに持続させてもよい。ただし、エネルギ効率の点から半凝固金属スラリSの製造過程まで電磁気場にて攪拌できる。したがって、この電磁気場による攪拌は、製造される半凝固金属スラリSの固相率が少なくとも0.001以上0.7以下になるまで持続する。また、この電磁気場による攪拌は、好ましくは製造される半凝固金属スラリSの固相率が少なくとも0.001以上0.4以下になるまで持続する。さらに、この電磁気場による攪拌は、より好ましくは溶融金属Mの固相率が0.001以上0.1以下になる時点で終了する。なお、このような固相率になるまでの時間は、予め実験によって調べることができる。
一方、第1のスリーブ21および第2のスリーブ22は、図1に示すように、対向する端部の一側が結合されてこれを中心に第2のスリーブ22の他端側が所定の角度θで下方に向けて回動できるように構成されている。ここで、この第2のスリーブ22の回動角度θは90°以内にすることが望ましい。また、この第2のスリーブ22は、攪拌部1の内側に位置しており、この攪拌部1の電磁気場印加用コイル装置11の同心状となるように空間部12に設置されている。
さらに、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22は、金属材、絶縁性素材あるいは非磁性材にて構成されている。すなわち、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22は、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22自体の融点が収容される溶融金属Mの温度より高いものを使用することが望ましい。
特に、第2のスリーブ22は、この第2のスリーブ22内に注湯される溶融金属Mを急速に冷却できるように、伝導性に優れ、かつ磁性を有さない非磁性体としての非磁性材である金属などにて形成されている。すなわち、この第2のスリーブ22は、金属材あるいは絶縁性素材としての非磁性体である非磁性金属材料あるいは非磁性セラミック材料にて構成されて備えられている。したがって、この第2のスリーブ22を非磁性体で構成したことにより、電磁気場の印加によって第2のスリーブ22自体が誘導加熱を起さず発熱しなくなるから、この第2のスリーブ22内に注湯した溶融金属Mを冷却させるのに有利であるので、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注湯しているときから、この溶融金属Mを冷却できる。また、この第2のスリーブ22を非磁性金属材で形成する場合には、この第2のスリーブ22自体の融点が、この第2のスリーブ22内に収容される溶融金属Mの温度より高いものを使用することが望ましい。
なお、この第2のスリーブ22は、この第2のスリーブ22自体の温度を溶融金属Mの温度まで上昇させると、この第2のスリーブ22自体が溶けてしまうおそれがあるから、この第2のスリーブ22の温度を溶融金属Mの温度まで上昇させることができない。したがって、この第2のスリーブ22では、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯した直後に、この溶融金属Mに電磁気場を印加した場合には、第2のスリーブ22と溶融金属Mとの温度差が大きく、この溶融金属Mの第2のスリーブ22と接する部分周辺では瞬間的に樹枝状結晶が形成されてしまう。
一方、第1のスリーブ21は、地面に対して水平な軸方向を有するように配置されている。また、第2のスリーブ22は、第1のスリーブ21と結合される部分である他端側のスラリ排出口26側を中心に所定の角度で回動可能に構成されている。さらに、この第2のスリーブ22は、この第2のスリーブ22内に注湯されて収容された溶融金属Mへの電磁攪拌によって半凝固金属スラリSを形成するスラリ製造領域Tを形成する。また、第1のスリーブ21は、第2のスリーブ22内で形成された半凝固金属スラリSを加圧して成形するための領域となる。
したがって、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22は、電磁気場攪拌によって溶融金属Mから半凝固金属スラリSを製造するスラリ製造容器の機能と、製造された半凝固金属スラリSを加圧成型する成形枠としての機能とを兼ね備えている。ここで、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22は、必ずしも両端が開放された構造でなくてもよく、相互に連結されて第2のスリーブ22内で製造された半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21へと圧送して、この第1のスリーブ21から吐出できる構造であればよい。
具体的に、この第1のスリーブ21は、両端が開放されて開口された細長円筒状であり、水平方向に沿った軸方向を有する状態に設置されて固定されている。また、この第1のスリーブ21は、第2のスリーブ22と略同径に形成されている。そして、この第1のスリーブ21の軸方向に沿った一端側には、蓋体としてのキャップ体20が取り付けられている。このキャップ体20の中央部には、所定の形状に開口されたスラリ吐出口23が形成されている。このスラリ吐出口23は、第1のスリーブ21内から半凝固金属スラリSが抜け出るように構成されている。さらに、このスラリ吐出口23は、第2のスリーブ22に結合される側の反対側の端部に設けられている。
さらに、このスラリ吐出口23の下流側には、このスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSを所定の形状の成形品である押出材Eを成形する成形部としての押出部6を備えた押出装置が配設されて取り付けられている。この押出部6は、この押出部6の構成によってスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSの形状が決定される。ここで、この押出部6は、第2のスリーブ22におけるスラリ吐出口23の外側に位置して配設されている。
さらに、この押出部6は、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から吐出される半凝固金属スラリSを移送して搬送する移送手段としての移送ローラ61を備えている。この移送ローラ61の移送面60の上方には、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSを冷却する冷却手段としての複数の噴霧型の冷却装置62が取り付けられている。また、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23の外側の上方には、このスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSを所定の長さでカットして切断するカッタ63が上下動可能に設置されている。このカッタ63は、刃先を下方に向けて設置されており、スラリ吐出口23から半凝固金属スラリSが所定の長さ吐出された際に下方へと移動して、この半凝固金属スラリSを所定の長さで切断する。
したがって、この押出部6は、移送ローラ61、冷却装置62およびカッタ63によって、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から押し出されて吐出された半凝固金属スラリSを移送させるとともに急冷させて所定の長さでカットして所定の形状の線材または板材などの押出材Eを成形させる。
よって、この第1のスリーブ21のスラリ吐出口23は、このスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSが押出部6で搬送されるので、このスラリ吐出口23から吐出される半凝固金属スラリSの形状を決定させる。よって、このスラリ吐出口23は、押出部6によって形状が調節される。さらに、このスラリ吐出口23は、このスラリ吐出口23から押出されて吐出される押出材Eの形状に対応しており、この押出材Eが断面円形の線材である場合には円形であり、この押出材Eが断面矩形状の板材である場合には長方形などの矩形状である。
一方、第1のスリーブ21におけるスラリ吐出口23に対向した軸方向に沿った他端側には、スラリ挿入口24が開口形成されている。これらスラリ吐出口23とスラリ挿入口24とは同心状に連通している。さらに、このスラリ挿入口24は、第2のスリーブ22のスラリ排出口26に同心状に連通するように、このスラリ排出口26に等しい形状に形成されている。よって、第1のスリーブ21は、第2のスリーブ22内で製造された半凝固金属スラリSがスラリ挿入口24から挿入されてスラリ吐出口23から吐出されて排出されるように構成されている。
すなわち、この第1のスリーブ21の周面部は、スラリ挿入口24側からスラリ吐出口23側に向けて徐々に拡開したテーパ状に形成されている。言い換えると、この第1のスリーブ21の周面部は、この第1のスリーブ21の他端側から一端側に向かう方向である、半凝固金属スラリSの排出方向に向けて内径寸法が徐々に大きくなるように拡径している。したがって、この第1のスリーブ21は、この第1のスリーブ21の内径が第2のスリーブ22の内径より大きい、すなわち(第1のスリーブ21の内径)≧(第2のスリーブ22の内径)の関係となるように構成されている。
また、この第1のスリーブ21の外側には、図1および図3ないし図6に示すように、第1の温度調節手段としての第1の温度調節装置41が取り付けられている。この第1の温度調節装置41は、第1のスリーブ21内の所定領域の温度を調整して、この第1のスリーブ21内の半凝固金属スラリSの温度を調節する。すなわち、この第1の温度調節装置41は、第1のスリーブ21内で押圧されて加圧される半凝固金属スラリSの急冷を防止する。したがって、この第1の温度調節装置41としては、所定の保温効果を有するものが望ましい。
具体的に、この第1の温度調節装置41は、パイプ42が螺旋状に内蔵された円筒状のウォータジャケット43を備えている。このウォータジャケット43は、第1のスリーブ21の外側を取り囲むように、この第2のスリーブ22の外側に同心状に取り付けられている。よって、この第1の温度調節装置41は、パイプ42内を流れる媒体の温度を適当に調節することによって第1のスリーブ21内の半凝固金属スラリSの温度を調節可能にする。
ここで、このウォータジャケット43内のパイプ42は、第1のスリーブ21に埋設させてもよい。また、このようなパイプ42以外でも第1のスリーブ21内の半凝固金属スラリSの温度を調節できる構成であればよい。すなわち、第1の温度調節装置41としては、図示しない電熱ヒータなどを使用してもよい。
一方、第2のスリーブ22の注湯口25には、第1の押圧手段としての第1のプランジャ52が進退可能に挿入される。この第1のプランジャ52は、図示しない制御部により制御される別途のシリンダ装置に連結されて、互いに連通された第1のスリーブ21および第2のスリーブ22内をピストン往復動する。ここで、この第1のプランジャ52の先端面である押圧面54は、この第1のプランジャ52の移動方向に直交する平坦な平面とされている。
さらに、この第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22内に半凝固金属スラリSが製造された状態で、この第2のスリーブ22の注湯口25から挿入されて、この第2のスリーブ22の一端側を閉塞する。さらに、この第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22の注湯口25に挿入された状態で、この第2のスリーブ22とともに回動して、第2のスリーブ22の注湯口25からの半凝固金属スラリSの漏れを防止する。また、この第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22のスラリ排出口26が第1のスリーブ21のスラリ挿入口24に連通され、これらスラリ排出口26とスラリ挿入口24との間がストッパ3にて開放された状態で、第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23側に向けて押圧して圧送して、この半凝固金属スラリSをスラリ吐出口23から押出部6の移送ローラ61の移送面60上へと吐出させる。
言い換えると、この第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22内に電磁気場が印加され、この第2のスリーブ22が冷却される間、すなわち第2のスリーブ22で溶融金属Mから半凝固金属スラリSを製造する間において、図1に示すように、第2のスリーブ22の注湯口25から外側に抜かれている。さらに、この第1のプランッジャ52は、第2のスリーブ22内で半凝固金属スラリSが形成された後に、図3に示すように、第2のスリーブ22の注湯口25から挿入されて、この第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを押圧すべく駆動される。そして、この第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22の回動に連動して回動して駆動するように構成されており、この第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21側に向けて加圧して圧送させる。
なお、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22には、図示しない熱電対を内蔵させるとともに、この熱電対を制御部に電気的に接続させて、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22内の溶融金属Mあるいは半凝固金属スラリSなどの温度情報を制御部に送出させてもよい。
さらに、第2のスリーブ22の注湯口25から溶融金属Mを注湯する際には、注入部としての注湯容器51が用いられる。この注湯容器51は、第2のスリーブ22の注湯口25に液相の溶融金属Mを注湯させる。そして、この注湯容器51としては、制御部に電気的に連結された通常の鉢、すなわちレードル(Ladle)を使用できる。ここで、この注湯容器51としては、通常の鉢以外にも金属を溶融させた炉を直接連結されるなど、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯できればいかなる構成であってもよい。
次に、上記第1の関連技術の半凝固成形装置の作用を説明する。
まず、図1に示すように、第2のスリーブ22の注湯口25側を第1のスリーブ21に対して上方に向けて90゜回動させて、この第2のスリーブ22の注湯口25を上方に向けて開口させるとともに、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26をストッパ3にて閉塞させて、この第2のスリーブ22の注湯口25から溶融金属Mを注湯できる容器形状にする。
次いで、電磁気場印加調節部13にて攪拌部1の電磁気場印加用コイル装置11を可動させて、第2のスリーブ22内に注湯される溶融金属Mに初期凝固層あるいは樹枝状結晶が形成されない程度の電磁気場を第2のスリーブ22に印加させる。
このとき、電磁気場印加用コイル装置11にて望ましくは250V、60Hzおよび500Gaussの電磁気場を印加させるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、状況によって適当に調節する。
この状態で、別途の炉で溶融された溶融金属Mを、注湯容器51にて移送して電磁気場の影響下にある第2のスリーブ22の注湯口25から、この第2のスリーブ22内に注湯する。ここで、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注湯した際に、この溶融金属Mが第2のスリーブ22のスラリ排出口26とストッパ3との間から漏れ出ないように、この第2のスリーブ22内に注湯した溶融金属Mが瞬時に半凝固金属スラリSとなるとともに、この半凝固金属スラリSが第2のスリーブ22のスラリ排出口26とストッパ3との間から漏れ出さないように、この半凝固金属スラリSの固相率を比較的高くする。
このとき、炉と第2のスリーブ22とを直接連結させて溶融された液相の溶融金属Mを直ちに第2スリーブ22内に注湯することもできる。また、このときの溶融金属Mは、この溶融金属Mの液相線温度+100℃程度の温度となっても良い。さらに、第2のスリーブ22には、別の図示しないガス供給管を連結させて、この第2のスリーブ22内に注湯される溶融金属Mの酸化を防止するために窒素ガス(N2)やアルゴンガス(Ar)などの不活性ガスを注入してもよい。
このように、完全に溶融された液相の溶融金属Mを電磁気場攪拌がなされている第2のスリーブ22内に注湯することにより、この第2のスリーブ22全体に亘って初期凝固層の形成なしに微細な再結晶粒子が分布し、この再結晶粒子が速く成長して樹枝状構造の生成が発生しなくなる。
なお、この第2のスリーブ22への電磁気場印加用コイル装置11による電磁気場の印加を、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯すると同時にしてもよい。
また、この電磁気場印加用コイル装置11による電磁気場の印加は、第2のスリーブ22内で製造された半凝固金属スラリSを第1のプランジャ52にて押圧するまで継続させるが、この半凝固金属スラリSとなる以前の溶融金属Mの固相率が少なくとも0.001以上0.7以下となるまで持続させて終了させる。
ただし、エネルギ効率次元で半凝固金属スラリSの製造過程まで電磁気場を攪拌するため、この電磁気場印加用コイル装置11による電磁気場の印加は、少なくとも溶融金属Mの固相率が少なくとも0.001以上0.4以下となるまで、より望ましくは、この溶融金属Mの固相率が0.001以上0.1以下となるまで持続させる。なお、この電磁気場印加用コイル装置11による電磁気場の印加を継続させる時間は、実験によって予め求めることができる。
さらに、この電磁気場印加用コイル装置11による電磁気場の印加を終了した後、あるいはこの電磁気場の印加を持続している間に、第2のスリーブ22内の溶融金属Mが0.1以上0.7以下の固相率に至るまで所定の冷却速度で第2の温度調節装置44によって冷却させる冷却段階を経て半凝固金属スラリSを製造する。
このとき、この第2のスリーブ22内の溶融金属Mの冷却速度は、第2の温度調節装置44によって0.2℃/sec以上5℃/sec以下、より望ましくは0.2℃/sec以上2℃/sec以下に調整される。ここで、第2のスリーブ22内の溶融金属Mの固相率が0.1以上0.7以下に至るまでの時間t2は、実験によって予め求めることができる。
なお、第2のスリーブ22内の溶融金属Mから製造された半凝固金属スラリSは、第2のスリーブ22のスラリ排出口26を第1のスリーブ21のスラリ挿入口24に結合させた状態で、これらスラリ排出口26とスラリ挿入口24との間をストッパ3にて連通させた際に、これらスラリ排出口26とスラリ挿入口24との間から半凝固金属スラリSの一部が漏れ出ない程度の固相率を有している。
次いで、第2のスリーブ22内で半凝固金属スラリSを製造した後、図3に示すように、第2のスリーブ22の注湯口25から第1のプランジャ52が挿入された状態で、この第2のスリーブ22の注湯口25側を下方に向けて90゜回動させて、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26を第1のスリーブ21のスラリ挿入口24にストッパ3を介して同心状に連結させて結合させる。このとき、第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22の回動に連動して回動する。
この後、ストッパ3を下方へと移動させて、第2のスリーブ22のスラリ排出口26を開放させ、このスラリ排出口26を第1のスリーブ21のスラリ挿入口24に同心状に連通させる。
この状態で、図4に示すように、第1のプランジャ52を第1のスリーブ21のスラリ吐出口23側に向けて移動させて、第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを第2のスリーブ22内から第1のスリーブ21に圧送するとともに圧縮して、この半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から押出部6へと吐出させて排出させる。
このとき、第1のスリーブ21内で圧縮が進行している半凝固金属スラリSの温度が第1の温度調節装置41にて所定の温度に保持される。
そして、この第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から吐出される半凝固金属スラリSは、押出部6の移送ローラ61の移送面60上へと吐出されて、この移送ローラ61にて移送されるとともに冷却装置62にて急冷される。
この後、図5に示すように、この押出部6の移送ローラ61にて移送され冷却装置62にて急冷された半凝固金属スラリSは、所定の長さでカッタ63にて切断されて所定の形状の押出材Eとされてから、さらに移送ローラ61にて移送される。
そして、図6に示すように、押出材Eをカッタ63にて切断した後に第1のスリーブ21内に残った半凝固金属スラリであるビスケットBは、第1のプランジャ52を元の位置に復帰させてから、第2のスリーブ22の注湯口25側を上方に向けて90゜回動させて、第1のスリーブ21のスラリ挿入口24を開口させた状態で、別途の図示しない取出し棒による押し出しにて外部へと取り出される。
さらに、このビスケットBを第1のスリーブ21から取り出した後には、図1に示すように、第2のスリーブ22のスラリ排出口26をストッパ3にて閉塞して、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを収容可能にした後、この第2のスリーブ22に再度溶融金属Mを注湯して押出材Eの成形過程を反復させる。この結果、このような反復過程によって組織が微細でかつ全体的に均一な押出材Eを得ることができる。
上述したように、上記第1の関連技術によれば、溶融金属Mの液相線より高い温度での短時間の攪拌だけで、第2のスリーブ22の壁面での核生成密度を顕著に高めて粒子の球状化を実現できるから、微細でかつ均一な球状化粒子の半凝固金属スラリSを第2のスリーブ22で製造できる。このため、溶融金属Mの電磁気場による攪拌時間を大きく短縮できるので、この溶融金属Mの電磁気場攪拌に必要なエネルギの消耗を少なくできる。さらに、断面が円筒状以外の非対称な形状の第2のスリーブ22であっても、微細でかつ均一な球状化粒子の半凝固金属スラリSを製造できる。
また、この第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSをスラリの状態で第1のスリーブ21を介した押出部6への押し出しを進行できる。このため、高品質の押出材Eを低圧の加圧力で得ることができ、低圧による成形が可能であるから、電力損失を防止でき、作業時間を短縮できる。同時に、半凝固金属スラリSの押圧による装置部品の耐久性の低下を防止できるとともに、エネルギ損失を減らすことができるから、短時間に高品質の押出材Eを連続して成形できる。
この結果、全体的に均一でかつ微細な構成の組織を有する押出材Eを得ることができる。さらに、この押出材Eを製造する際のエネルギ効率を改善できるから、製造コストを節減でき、この押出材Eの機械的性能を向上できる。さらに、この押出材Eを成形する際の成型工程を簡便化できるとともに、この押出材Eの製造時間の短縮を実現できるから、この押出材Eを製造するための全体工程を単純化でき、この押出材Eの生産性を向上できる。
なお、上記第1の関連技術では、第2のスリーブ22の一端側の注湯口25から溶融金属Mを注湯し、この注湯口25から第1のプランジャ52を挿入して第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを圧送したが、図8に示す第2の関連技術のように、第2のスリーブ22の周面部を一端側に向けて分岐させて別途の注湯口である注入口28を形成し、この注入口28から第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注入させるとともに、この第2のスリーブ22の注湯口25に第1のプランジャ52を常に挿入させた構成であってもよい。
さらに、図9ないし図11に示す第3の関連技術のように、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23の外側に、押出部6の代わりとして成形ダイ8を有するダイキャスティング装置を設置することもできる。そして、この成形ダイ8は、移動ダイ81と固定ダイ82と備えており、これら移動ダイ81と固定ダイ82とが合わさって、これら移動ダイ81と固定ダイ82との間に所定の形状の成形空間である成形空洞83を形成させる。さらに、固定ダイ82には、成形空洞83に半凝固金属スラリSを注入させる注入口84が形成されている。この注入口84は、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23に連通した状態で連結されており、このスラリ吐出口23から吐出される半凝固金属スラリSを成形空洞83へと注入させる。さらに、第1のスリーブの一端側にはキャップ体20が取り付けられておらず、この第1のスリーブ21の一端側がスラリ吐出口23とされている。
また、移動ダイ81および固定ダイ82は、一対の支持プレート85a,85bに取り付けられて設けられている。これら支持プレート85a,85bは、図示しない全体設備に取り付けられており、移動ダイ81および固定ダイ82を支持する。ここで、移動ダイ81は、これら移動ダイ81と固定ダイ82との間の成形空洞83での半凝固金属スラリSの成形が完了した後に、固定ダイ82から分離されて成形空洞83で形成された所定の形状の成形品である鋳材としてのダイキャスト材Dを分離可能にする。
すなわち、図9に示すように、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯して半凝固金属スラリSとした後、図10に示すように、第2のスリーブ22のスラリ排出口26を第1のスリーブ21のスラリ挿入口24に結合させてから、図11に示すように、第2のスリーブ22のスラリ排出口26を開口させる。
この状態で、第1のプランジャ52にて第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21のスラリ吐出口23側に向けて加圧する。そして、この第1のプランジャ52による押圧にて第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSを成形ダイ8へと注入させる。このとき、この半凝固金属スラリSは、成形ダイ8の注入口84から成形空洞83内に注入されて急冷されて、この成形空洞83の形状に対応したダイキャスト材Dとなる。このダイキャスト材Dの成形が終了した後には、移動ダイ81を後退させて固定ダイ82から分離させ、これら移動ダイ81と固定ダイ82との間の成形空洞83からダイキャスト材Dを引き出す。
この結果、第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSをスラリの状態でダイキャスティングできるから、高品質のダイキャスト材Dを低圧の加圧力で得ることができ、電力損失を防止でき、作業時間を短縮できるので、上記第1の関連技術の形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、成形ダイ8に注入される半凝固金属スラリSの温度を低くでき、この成形ダイ8に半凝固金属スラリSを低圧で注入できるので、この成形ダイ8の寿命の低下を防止できる。
次いで、図12および図13に示す第1の実施の形態のように、第1のスリーブ21の周面部に第2のスリーブ22の他端側を連結させて、この第1のスリーブ21から第2のスリーブ22が分岐して連結された構成にすることもできる。この場合、第1のスリーブ21は、この第1のスリーブ21の軸方向を地面に対して水平にした状態で設置されている。そして、第2のスリーブ22は、第1のスリーブ21の周面部から、この第1のスリーブ21の一端側であるとともに上方に向けて分岐されて連結されている。そして、この第1のスリーブ21の他端側の開口部31には、加圧用の第2の押圧手段としての第2のプランジャ53が進退可能に挿入されている。ここで、この第2のプランジャ53の先端面である押圧面55は、この第2のプランジャ53の移動方向に直交する平坦な平面とされている。
さらに、この第1のスリーブ21の一端側のスラリ吐出口23の外側には成形ダイ8が結合されている。なお、成形部として成形ダイ8を取り付けたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、この成形ダイ8の代わりに押出部6やプレス成形部7などを取り付けることもできる。
また、第2のスリーブ22は、この第2のスリーブ22の一端側の注湯口25側を上方に向け、他端側のスラリ排出口26を下方に向けた状態で約45゜の角度で傾斜している。そして、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26は、第1のスリーブ21の軸方向に沿った略中間部に連結されて連通されている。さらに、この第2のスリーブ22の他端側には、この第2のスリーブ22の他端側を開閉可能に閉塞するストッパ3が上方から取り外し可能に挿入されて取り付けられている。また、この第2のスリーブ22の外周部には、攪拌部1が取り付けられている。この攪拌部1は、ストッパ3が取り付けられている位置よりも第2のスリーブ22の一端側を覆っている。
さらに、第2のスリーブ22には、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注湯させる注入口28が取り付けられている。この注入口28は、第2のスリーブ22における攪拌部1が取り付けられた位置よりも一端側に取り付けられており、この第2のスリーブ22の周面部から上方に向けて突出している。また、この注入口28は、第2のスリーブ22内に連通しており、第2のスリーブ22内における攪拌部1にて電磁気場が印加されるスラリ製造領域Tに溶融金属Mを注湯させる。
そして、図12に示すように、第2のスリーブ22の他端側をストッパ3にて閉塞した状態で、この第2のスリーブ22の注入口28から溶融金属Mを注湯して、この第2のスリーブ22内に注湯した溶融金属Mを攪拌部1による電磁気場の印加によって半凝固金属スラリSとする。次いで、ストッパ3を上方に移動させて第2のスリーブ22のスラリ排出口26を開放させた後、この第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21内へと移動させて吐出させる。このとき、第1のプランジャ52を第1のスリーブ21側に移動させて、この第1のプランジャ52にて第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを押圧して、この半凝固金属スラリSの第1のスリーブ21への吐出を促進させる。
この後、この半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21内に流入させた状態で、図13に示すように、第2のプランジャ53を第1のスリーブ21のスラリ吐出口23側に向けて移動して、この第1のスリーブ21内の半凝固金属スラリSを加圧してスラリ吐出口23から吐出させて成形ダイ8に注入させる。このとき、この成形ダイ8に注入された半凝固金属スラリSは、この成形ダイ8の注入口84を通じて成形空洞83内に注入されて成形されつつ急速に冷却されて成形空洞83の形状に対応したダイキャスト材Dに製造される。さらに、この成形ダイ8の成形空洞83でのダイキャスト材Dの製造が終了した後に、移動ダイ81を後退させて固定ダイ82から離させて、このダイキャスト材Dを成形空洞83から引き出す。
この結果、第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSをスラリの状態でダイキャスティングできるから、高品質のダイキャスト材Dを低圧の加圧力で得ることができ、電力損失を防止でき、作業時間を短縮できるとともに、成形ダイ8に注入される半凝固金属スラリSの温度を低くでき、この成形ダイ8に半凝固金属スラリSを低圧で注入できるので、上記第3の関連技術と同様の作用効果を奏することができる。
さらに、図14に示す第2の実施の形態のように、第1のスリーブ21の軸方向を地面に対して垂直に設置し、この第1のスリーブ21から第2のスリーブ22の注湯口25側を斜め上方に向けて分岐させて結合させ、第2のスリーブ22の注入口28を上方に向けて開口させた構成とすることもできる。この場合、第2のスリーブ22内で製造した半凝固金属スラリSを自重による重力の作用によって第1のスリーブ21内における成形ダイ8側により容易に移動できるから、この成形ダイ8にてダイキャスト材Dを成形する工程をより速くできる。
なお、上記第1および第2の実施の形態では、第1のプランジャ52の先端面である押圧面54を、この第1のプランジャ52の移動方向に直交する平坦な平面としたが、図15に示す第3の実施の形態のように、第1のプランジャ52を第1のスリーブ21側に移動させた際に、この第1のプランジャ52の押圧面54が第1のスリーブ21の内周面と面一になるように、この第1のプランジャ52の押圧面54を、この第1のプランジャ52の移動方向に対して約45゜ほど傾斜させる構成とすることもできる。
この場合、この第1のプランジャ52の押圧面54は、第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを第1のプランジャ52にて押圧した際に、この半凝固金属スラリS全部を第1のスリーブ21内に移動できるように、この第1のスリーブ21の内周面に等しい横断面凹弧状に形成されている。すなわち、この第1のプランジャ52の押圧面54は、第1のスリーブ21のスラリ挿入口24を、この第1のスリーブ21の内周面に沿って閉塞できるように構成されている。したがって、この第1のプランジャ52の押圧面54の傾斜角度は、第1のスリーブ21に対する第2のスリーブ22の傾斜角度に等しい。
また、図16に示す第4の関連技術のように、軸方向を地面に対して垂直に設置した第1のスリーブ21の上端側に成形ダイ8を取り付けるとともに、この第1のスリーブ21の下端側から第2のプランジャ53を進退可能に挿入させて取り付けることもできる。
さらに、上記各関連技術および各実施の形態において、多様な金属あるいは合金、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、亜鉛、亜鉛合金、銅、銅合金、鉄および鉄合金などのいずれの半凝固金属成形方法であっても汎用的に適用できる。すなわち、固液共存状態成形用、いわゆる半凝固あるいは半溶融成形用に利用できるものであればいずれも利用でき、その中でもアルミニウム、マグネシウム、銅、亜鉛、鉄およびこれらの合金よりなる群から選択されることが望ましい。これら合金は、最終成形品で要求される物性によって色々な任意の金属を含むことができる。
すなわち、溶融金属Mとして用いられる合金系が何かという問題ではなく、凝固理論的に考察すると、スリーブ2に注湯する前の溶融金属Mの温度は、この溶融金属Mとして用いられる合金系の比熱の問題で議論できる。したがって、第2のスリーブ22に注湯する前の溶融金属Mの温度は、この溶融金属Mとして用いられた合金系の液相線よりいくら高い温度でも可能であるかどうかは、比熱の値そのものが問題となる。
そして、アルミニウムの比熱は、約0.25kcal/gであり、このアルミニウム以外の他の合金系、例えばマグネシウム(約0.18kcal/g)、亜鉛(約0.1kcal/g)、銅(約0.1kcal/g)、鉄(約0.1kcal/g)それぞれの比熱は、アルミニウムよりも小さい。したがって、アルミニウム以外の他の合金系では、アルミニウムに比べ、奪わなければならない熱量が少ないという効果があるため、これらいずれの合金系の溶融金属Mを液相線+100℃とした状態で、この溶融金属Mをスリーブ2に注湯しても、これら溶融金属Mには初期凝固層が形成されず、これら溶融金属Mから潜熱が生じない。このため、これら溶融金属Mから比熱だけを奪えば、これら溶融金属M中の結晶核を成長できるので、これらいずれの合金系であっても同様の作用効果を奏することができる。
理論的に、液相から固相へと変化する温度(Tl)と固相から液相へと変化する温度(TS)との差、すなわちTl−TS=ΔTが0でなければ、どのような合金系においても、溶融金属Mの温度をTlとTSとの間に調整することによって、溶融金属M中に結晶核を形成できる。
一方、鋳物産業において、一般的に使用される純アルミニウムには、1%程度の不純物が含有されている。なお、アルミニウム以外のマグネシウム、亜鉛、銅および鉄のそれぞれについても、鋳物産業において一般的に使用される純マグネシウム、純亜鉛、純銅および純鉄には、1%程度の不純物が含有されている。
したがって、液相から固相へと変化する温度(Tl)と固相から液相へと変化する温度(TS)との差が0でなく、比熱がアルミニウムより小さく、かつ電磁気場の印加で溶融金属Mに磁場が形成されるマグネシウム、亜鉛、亜鉛合金、銅、銅合金、鉄および鉄合金であっても、アルミニウム合金と同様の結果を原理的に得ることができる。
さらに、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯した後に、この第2のスリーブ22内に注湯した溶融金属Mに対して電磁気場印加用コイル装置11にて電磁気場を印加して、この溶融金属Mから半凝固金属スラリSを製造する半凝固成形装置であっても、電磁気場印加調節部13の制御を調整することによって対応させて用いることができる。
本発明は、半凝固金属スラリを製造し、この半凝固金属スラリを半溶融金属成形法にて成形して各種金属成形品を製造できる。
本発明の第1の関連技術の固液共存状態金属材料製造装置に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置の第2の温度調節手段を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置の第2のスリーブ内で固液共存状態金属スラリを押圧する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置の第1のスリーブから固液共存状態金属スラリを吐出する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置で成形品を成形した工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置で成形品を成形した後のビスケットを排出する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置での時間に対する溶融金属の注湯温度を示す二次グラフである。
本発明の固液共存状態金属材料製造装置の第2の関連技術を示す概略断面図である。
本発明の固液共存状態金属材料製造装置の第3の関連技術に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置の第2のスリーブ内で固液共存状態金属スラリを押圧する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置で成形品を成形した工程を示す概略断面図である。
本発明の固液共存状態金属材料製造装置の第1の実施の形態に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置で成形品を成形した工程を示す概略断面図である。
本発明の固液共存状態金属材料製造装置の第2の実施の形態に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
本発明の固液共存状態金属材料製造装置の第3の実施の形態に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
本発明の固液共存状態金属材料製造装置の第4の実施の形態に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
符号の説明
1 攪拌部
3 開閉手段としての蓋体であるストッパ
13 制御手段としての電磁気場印加調節部
21 圧送部としての第1のスリーブ
22 注湯部としての第2のスリーブ
23 スラリ吐出口
28 注湯口としての注入口
52 注湯部押圧手段としての第1のプランジャ
53 圧送部押圧手段としての第2のプランジャ
M 溶融金属
S 固液共存状態金属スラリとしての半凝固金属スラリ
本発明は、溶融金属に電磁気場を印加して固液共存状態金属スラリを製造する固液共存状態金属材料製造装置に関する。
固液共存状態の金属スラリ、すなわち半溶融あるいは半凝固金属スラリは、通常、半凝固成形法(Reocasting)および半溶融成形法(Thixocasting)などの複合加工法の中間品である。そして、半凝固金属スラリとは、半凝固領域の温度で液相と球状の結晶粒とが適切な割合で混在した状態でチクソトロピー(Thixotropic)性により小さな力によっても変形が可能であり、かつ流動性に優れて液相のように成形加工が容易な状態の金属材料である。
ここで、半凝固成形方法とは、完全に凝固されずに所定の粘性を有する固液共存状態の半凝固金属スラリを鋳造または鍛造してビレットや最終成形品を製造する加工法をいう。このような半凝固成形方法は、半溶融成形方法とともに半凝固あるいは半溶融成形方法と呼ばれるが、ここで、半溶融成形方法とは、半凝固成形方法により製造されたビレットを半溶融状態のスラリに再加熱した後、このスラリを鋳造あるいは鍛造して最終製品に製造する加工法をいう。
そして、このような半凝固あるいは半溶融成形法は、鋳造や溶融鍛造など溶融金属を利用する一般的な成形方法に比べて色々な長所を有している。例えば、これら半凝固あるいは半溶融成形法で使用する半溶融金属スラリは溶融金属より低温で流動性を有するので、このスラリに露出されるダイの温度を溶融金属の場合よりさらに低めることができ、これによりダイの寿命が延びる。
また、スラリがシリンダに沿って押し出される時に乱流の発生が少なくて鋳造過程で空気の混入を減らし、これにより最終製品への気孔発生を減らすことができる。その他にも凝固収縮が少なくて作業性が改善され、製品の機械的特性および耐食性が向上し、製品の軽量化が可能である。これにより、自動車や航空機産業分野、電気電子情報通信装備などの新素材として利用できる。
このように、これら半凝固成形方法あるいは半溶融成形法では、いずれも半凝固状態の金属スラリを使用するが、上述のように、半凝固成形法では溶融金属を所定の方法により冷却したスラリを使用し、半溶融成形法では固相のビレットを再加熱して得られたスラリを使用する。ここで、半凝固金属スラリは、金属の液相線と固相線との間で液相と固相とが共存する領域、すなわち、金属の半凝固領域の温度で金属内部の結晶粒界が部分的には溶解され、部分的には固相成分として残留する状態の金属材料を意味し、半凝固成形法により製造された、すなわち溶融金属から冷却されて得られた半凝固状態のスラリをいう。
また、従来の半凝固成形方法としては、製造過程によって、溶融金属中に複数の結晶核を生成させてから、この結晶核を成長させて半凝固状態の金属スラリを製造する核生成方法と、溶融金属中に初期凝固層である樹枝状結晶を成長させてから、この樹脂状結晶を破砕して半凝固状態の金属スラリを製造する攪拌方法とに大別されている。
ところで、従来の核生成方法では、溶融金属の注湯温度を非常に低く維持しなければならず、冷却速度を非常に遅くして工程を徐々に進行させて複数の結晶核を生成させてから、これら結晶核を成長させるものである。このため、半凝固状態の金属スラリの製造時間が長すぎて、実際の量産工程に適用することが難しいという問題がある。
一方、従来の攪拌方法は、溶融金属を冷却する時に主に液相線以下の温度で攪拌して既に生成された樹枝状結晶組織を破砕することによって半凝固成形に適合に球状の粒子に作る方法である。この攪拌方法には、機械的攪拌法や電磁気的攪拌法、ガスバブリング、低周波、高周波あるいは電磁気波振動を利用するか、電気的衝撃による攪拌法などが利用されている。
そして、液相固相混合物を製造する方法としては、溶融金属が固相化する間に強く攪拌しながら冷却している。さらに、この液相固相混合物を製造するための製造装置は、容器に固液混合物を注湯した状態で攪拌棒により攪拌するが、この攪拌棒は所定の粘性を有する固液混合物を攪拌して流動させることによって混合物内の樹枝状構造を破砕するか、破砕された樹枝状構造を分散させるものである(例えば、特許文献1参照。)。
ところが、上記液相固相混合物を製造する方法では、冷却過程で既に形成された樹枝状結晶形態を粉砕し、この粉砕した樹枝状結晶を結晶核として球状の結晶を得ている。このため、初期凝固層の形成による潜熱の発生により冷却速度の減少と製造時間の増加および攪拌容器内での温度不均一による不均一な結晶状態など多くの問題を有している。また、この液相固相混合物を製造するための製造装置の場合にも、機械的攪拌が有する限界によって容器内の温度分布が不均一であり、チャンバ内で作動するために作業時間および後続工程への連係が非常に難しい限界を有している。
また、半凝固合金スラリの製造装置としては、コイル付き電磁気場印加手段の内側に順次に冷却マニホールドおよび金型を備えている。そして、この金型の上側は溶融金属が連続して注湯されるように形成されており、冷却マニホールドには冷却水が流れて金型を冷却するように構成されている。さらに、上記半凝固合金スラリの製造装置による半凝固合金スラリの製造方法によれば、まず、金型の上側から溶融金属を注湯し、この溶融金属が金型内を通過しながら冷却マニホールドにより固相化領域を形成するが、ここで電磁気場印加手段により磁場が印加されて樹枝状組織を破砕しながら冷却が進み、下部からインゴットが形成される(例えば、特許文献2参照。)。
ところが、上記半凝固合金スラリの製造方法においても、凝固した後に振動を加えて樹枝状組織を破砕するものであるため、工程上および組織構成上多くの問題を有している。また、上記半凝固合金スラリの製造装置の場合にも、溶融金属が上部から下部に進みながら連続してインゴットを形成しているが、この溶融金属を連続して成長させることによって金属の状態を調節し難く、全体的な工程制御が容易ではない。さらには、電磁気場を印加する前の段階で金型を水冷させているため、この金型の壁体付近と中心付近とでの温度差が著しく大きい。
この外にも、この種の半凝固成形法あるいは半溶融成形法は、多様に存在するが、いずれも既に形成された溶融金属中の樹枝状組織を破砕して、この樹枝状組織を結晶核として使用するものである。
また、半凝固鋳造用金属スラリの製造方法としては、液相線温度の付近または液相線より50℃まで高い温度で溶融金属を容器に注湯する。この後、溶融金属が冷却される過程で溶融金属の少なくとも一部が液相線温度以下になる時点、すなわち最初に液相線温度を通過する時点で、例えば超音波振動により溶融金属に運動を加える。さらに、この溶融金属に運動を加えた後、徐々に冷却して粒相結晶形態の金属組織を有する半凝固鋳造用金属スラリを製造している(例えば、特許文献3参照。)。
ところが、上記半凝固鋳造用金属スラリの製造方法でも、超音波振動などの力が冷却初期に形成される樹枝状結晶組織を破砕するために使われている。また、注湯温度を液状線温度より高くすれば、粒相の結晶形態を得難く、同時に溶湯を急激に冷却し難い。さらに、表面部と中心部の組織が不均一になる。
さらに、半溶融金属の成形方法としては、溶融金属を容器に注湯した後、振動バーを溶融金属中に浸漬させて溶融金属と直接接触させた状態で振動させて溶融金属に振動を与えている。具体的には、振動バーの振動力を溶融金属に伝達することによって、液相線温度以下で結晶核を有する固液共存状態の合金を形成する。この後、所定の液相率を示す成形温度まで溶融金属を容器内で冷却しながら30秒以上60分以下の間維持することによって結晶核を成長させて半溶融金属を得る。ところが、この方法で得られる結晶核の大きさは約100μmであり、工程時間が相当長く、所定大きさ以上の容器に適用し難い(例えば、特許文献4参照。)。
また、半溶融金属スラリの製造方法としては、冷却と攪拌とを同時に精密に制御することによって半溶融金属スラリを製造している。具体的には、溶融金属を混合容器に注湯した後、混合容器周囲に設置された固定子アセンブリを作動させて容器内の溶融金属を急速に攪拌するのに十分な起磁力を発生させる。さらに、混合容器の周囲に設けられて容器および溶融金属の温度を精密に調節する作用をするサーマルジャケットを利用して溶融金属の温度を急速に落とす。溶融金属が冷却される時に溶融金属は攪拌され続け、固相率が低い時には速い攪拌を提供し、固相率が増加するにつれて増大した起電力を提供する方式で調節される(例えば、特許文献5参照。)。
米国特許第3948650号明細書(第3−8欄および図3)
米国特許第4465118号明細書(第4−12欄、図1、図2、図5および図6)
特開平11−33692号公報(第3−5頁および図1)
特開平10−128516号公報(第4−7頁および図3)
米国特許第6432160号明細書(第7−15欄、図1Aないし図2Bおよび図4)
上述したように、上記従来の半凝固金属スラリの製造方法およびその製造装置では、冷却過程で既に形成された樹枝状結晶形態を粉砕して粒相の金属組織にするために剪断力を利用している。したがって、溶融金属の少なくとも一部が液相線以下に下がってはじめて振動などの力が有効に作用するので、初期凝固層の形成による潜熱の発生により冷却速度の減少および製造時間の増加など各種の問題を避けにくい。また、得られた金属組織も容器内での温度の不均一によって全体的に均一でかつ微細な組織を得難く、溶融金属の容器への注湯温度を調節しなければ容器壁面部と中心部との温度差によって組織の不均一性がさらに増大してしまう。
さらに、上述した半凝固金属スラリの製造方法では、連続鋳造の方法でビレットを成型する方法であっても、半凝固金属スラリを製造した後に、この半凝固金属スラリを直接成型工程によって成型品とするのは容易ではないという問題を有している。
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、耐久性低下を防止でき、エネルギ損失を減らせる固液共存状態金属材料製造装置を提供することを目的とする。
請求項1記載の固液共存状態金属材料製造装置は、鉛直方向に対して軸方向を傾斜して配設され溶融金属が注湯される筒状の注湯部と、この注湯部に設けられこの注湯部内に溶融金属を注湯させる注湯口と、この注湯口よりも前記注湯部の下端側を開閉可能にする開閉手段と、この開閉手段より上端側で前記注湯口より下端側の前記注湯部に所定の電磁気場を印加する攪拌部と、一端側にスラリ吐出口が設けられこのスラリ吐出口側が水平および下側のいずれかに向けた状態で配設され、前記注湯部の軸方向に対し前記スラリ吐出口の反対側である他端側に向けて鋭角に交わる軸方向を有し、この注湯部の下端が連通し、前記開閉手段の開動作によって前記注湯部で製造された固液共存状態金属スラリが、この固液共存状態金属スラリの上面を前記スラリ吐出口側の反対側となる他端側に位置した状態であるとともに前記注湯部の下端より前記スラリ吐出口側に送られる筒状の圧送部と、この圧送部の他端側から一端側に向けて進退可能に挿入され、この圧送部へと送られた固液共存状態金属スラリを前記スラリ吐出口に向けて押圧する圧送部押圧手段とを具備したものである。
そして、注湯部の注湯口より下端側を開閉手段にて閉塞した状態で、この注湯部の注湯口から溶融金属を注湯して、この注湯部への攪拌部による所定の電磁気場の印加により固液共存状態金属スラリを製造する。この後、注湯部の注湯口より下端側を開閉手段にて開放して、注湯部で製造した固液共存状態金属スラリをこの注湯部の下端より圧送部のスラリ吐出口側に送る。さらに、この注湯部の下端より圧送部のスラリ吐出口側に送られた固液共存状態金属スラリを圧送部押圧手段にてスラリ吐出口に向けて押圧する。この結果、固液共存状態金属スラリの押圧による装置の耐久性低下を防止できるとともに、エネルギ損失を減らすことができ、注湯部で製造された固液共存状態金属スラリがより確実に圧送部のスラリ吐出口から吐出される。
請求項2記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1記載の固液共存状態金属材料製造装置において、注湯部の上端側から進退可能に挿入され、この注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを押圧する注湯部押圧手段を具備したものである。
そして、注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを注湯部押圧手段にて押圧することにより、この注湯部で製造された固液共存状態金属スラリがより確実に圧送部のスラリ吐出口より他端側に送られる。
請求項3記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1または2記載の固液共存状態金属材料製造装置において、開閉手段は、閉動作によって注湯部に注湯される溶融金属を受け止め、開動作によって前記注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを自重にて落下させる蓋体であるものである。
そして、蓋体の閉動作によって注湯部に注湯される溶融金属を受け止めることができるとともに、この蓋体の開動作によって注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを自重にて落下できるから、この注湯部での固液共存状態金属スラリの製造、およびこの注湯部から圧送部への固液共存状態金属スラリの送りをより容易にできる。
請求項4記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1ないし3いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置において、注湯部は、非磁性材にて構成されているものである。
そして、注湯部を非磁性材にて構成することにより、この注湯部に電磁気場を印加しても誘導加熱を起さず発熱しなくなるので、この注湯部に注湯した溶融金属が冷却しやすい。よって、この注湯部に注湯される溶湯金属への攪拌部による電磁気場の印加をより効率良くできるから、固液共存状態金属スラリをより効率よく製造できる。
請求項5記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1ないし4いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置において、注湯部は、上端側から下端側に向けて拡開したテーパ状に形成されているものである。
そして、溶融金属が注湯される上端側から下端側に向けて拡開したテーパ状に注湯部を形成したことにより、この注湯部の下端側から圧送部への固液共存状態金属スラリの圧送が容易になる。
請求項6記載の固液共存状態金属材料製造装置は、請求項1ないし5いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置において、注湯部に注湯された溶融金属に初期凝固層が形成されない程度の電磁気場を、溶融金属が注湯部に注湯される前から攪拌部にて印加させ、前記注湯部に注湯した溶融金属に結晶核が生成された時点で前記注湯部に対する電磁気場の印加を終了させる制御手段を具備したものである。
そして、注湯部に注湯された溶融金属に初期凝固層が形成されない程度の電磁気場を、溶融金属が注湯部に注湯される前から攪拌部にて制御手段が印加させ、注湯部に注湯した溶融金属に結晶核が生成された時点で注湯部に対する電磁気場の印加を制御手段が終了させる。この結果、注湯部に注湯した溶融金属に初期凝固層を形成させることなく、この溶融金属への電磁気場の印加にて、この溶融金属中に結晶核を生成できる。このため、この溶融金属中の初期凝固層の形成による凝固潜熱を発生させることなく、この溶融金属中の結晶核を成長させて固液共存状態金属スラリを製造できる。
請求項1記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、固液共存状態金属スラリの押圧による装置の耐久性低下を防止できるとともに、エネルギ損失を減らすことができる。さらに、注湯部で製造された固液共存状態金属スラリをより確実に圧送部のスラリ吐出口から吐出できる。
請求項2記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを注湯部押圧手段にて押圧することにより、この注湯部で製造された固液共存状態金属スラリをより確実に圧送部のスラリ吐出口より他端側に送ることができる。
請求項3記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1または2記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、蓋体の閉動作にて注湯部に注湯される溶融金属を受け止めることができ、この蓋体の開動作にて注湯部で製造された固液共存状態金属スラリを自重にて落下できるから、この注湯部での固液共存状態金属スラリの製造、およびこの注湯部から圧送部への固液共存状態金属スラリの送りをより容易にできる。
請求項4記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1ないし3いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、注湯部に電磁気場を印加しても誘導加熱を起さず発熱しなくなり、この注湯部に注湯した溶融金属を冷却しやすいので、この注湯部に注湯される溶湯金属への攪拌部による電磁気場の印加をより効率良くできるから、固液共存状態金属スラリをより効率よく製造できる。
請求項5記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1ないし4いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、溶融金属が注湯される上端側から下端側に向けて拡開したテーパ状に注湯部を形成したことにより、この注湯部の下端側から圧送部への固液共存状態金属スラリの圧送を容易にできる。
請求項6記載の固液共存状態金属材料製造装置によれば、請求項1ないし5いずれか記載の固液共存状態金属材料製造装置の効果に加え、注湯部に注湯した溶融金属に初期凝固層を形成させることなく、この溶融金属への電磁気場の印加にて、この溶融金属中に結晶核を生成できるため、この溶融金属中の初期凝固層の形成による凝固潜熱を発生させることなく、この溶融金属中の結晶核を成長させて固液共存状態金属スラリを製造できる。
以下、本発明の第1の前提技術を図面を参照して説明する。
まず、固液共存状態金属スラリとしての半凝固金属スラリSを成形する固液共存状態金属製造装置である半凝固成形装置は、半凝固金属スラリSを利用して所定の形状の成形品、例えば押出材Eを成形する半凝固金属成形方法を用いた装置である。
そして、この半凝固成形装置に用いられている半凝固成形方法は、図1に示すように、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注入して半凝固金属スラリSを製造した後、この半凝固金属スラリSを加圧して成形するものであって、低圧によっても押出およびフォーミングなどの成形工程が可能である。このとき、第2のスリーブ22への溶融金属Mの注入が完了する前に電磁気場を印加して攪拌する。すなわち、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯する前、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯すると同時に、またはこの第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯する最中、すなわち注湯しながら電磁気場による攪拌をすることによって、初期樹枝状組織の生成を遮断する。このとき、この攪拌には電磁気場の代わりに超音波などを利用することもできる。
すなわち、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注入する前から電磁気場を印加して、この第2のスリーブ22に注湯された溶融金属Mを電磁攪拌することによって、この溶融金属M中に初期凝固層および樹枝状結晶の生成を遮断する。このとき、電磁気場の印加は溶融金属Mを攪拌できる強度でなされる。
具体的には、まず、電磁気場を印加する攪拌部1に取り囲まれた第2のスリーブ22の所定領域であるスラリ製造領域Tに電磁気場を印加した状態で溶融金属Mを注入する。このときの電磁気場の印加は、注湯される溶融金属M中に初期凝固層および樹枝状結晶が形成されないほどの強度でなされる。
この後、図3に示すように、注湯工程として溶融金属Mを注湯温度TPで第2のスリーブ22内に注湯する。このとき、この第2のスリーブ22には電磁気場が印加されて攪拌が実施され得る状態とされている。この際、溶融金属Mの注湯と同時に電磁気場の攪拌を実施できるとともに、この溶融金属Mが注湯される途中で電磁気場の攪拌を実施することもできる。
このように、第2のスリーブ22への溶融金属Mの注湯が完了する前に電磁気場の攪拌を実施することによって、この溶融金属Mが低温の第2のスリーブ22の内壁で初期凝固層に形成されず、これにより樹枝状組織に成長することもない。すなわち、電磁気場を第2のスリーブ22に印加させた状態で溶融金属Mを、この第2のスリーブ22内に注湯することによって、溶融金属Mが注湯された第2のスリーブ22の壁面部と中心部、上部と下部間に温度差がほとんどない。したがって、従来の技術で発生するスラリ注湯容器壁面付近での初期凝固が起きず、この第2のスリーブ22内の溶融金属Mの全体が均一に液相線温度直下に急速に冷却されて多数の結晶核を同時に発生できるからである。このため、この第2のスリーブ22内の溶融金属M全体に亘って微細な結晶核が同時に発生し、この溶融金属M全体が均一に液相線温度直下に急速に冷却させて多数の結晶核が同時に発生する。
これは、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注湯する前から、または注湯と同時に電磁気場を印加することによって活発な初期攪拌作用により内部の溶融金属Mと表面の溶融金属Mとがよく攪拌されて溶融金属M内での熱伝逹が速く、第2のスリーブ22の内壁での初期凝固層の形成が抑制されるからである。
また、よく攪拌されている溶融金属Mと低温の第2のスリーブ22の内壁との対流熱伝逹が増加して溶融金属M全体の温度を急速に冷却させる。すなわち、注湯された溶融金属Mが注湯と同時に電磁気場攪拌により分散粒子に分散され、この分散粒子が結晶核として第2のスリーブ22内に均一に分布され、これにより第2のスリーブ22全体にわたって温度差が発生しなくなる。これに対し、上述の従来の技術によれば、注湯された溶融金属が低温のスリーブの内壁と接触して急速な対流熱伝逹により初期凝固層での樹枝状結晶として成長する。
そして、このような原理は凝固潜熱と関連して説明できる。すなわち、第2のスリーブ22の壁面での溶融金属Mの初期凝固が発生しないので、それ以上凝固潜熱が発生せず、これにより溶融金属Mの冷却は単に溶融金属Mの比熱(凝固潜熱の約1/400に過ぎない)に該当する程度の熱量の放出だけで可能になる。
したがって、従来の技術においてスラリ注湯容器の内側壁面部でよく発生する初期凝固層での樹枝状結晶が形成されずに、第2のスリーブ22内の溶融金属Mが、この第2のスリーブ22の壁面から中心部に亘って全体が均一かつ急速に温度が低下する様子を示す。このときの温度を下げるのに必要な時間は溶融金属Mの注湯後約1秒以上10秒以下程度の短い時間にすぎない。これにより、多数の結晶核が第2のスリーブ22内の溶融金属M全体にわたって均一に生成され、結晶核生成密度の増加により結晶核間の距離は非常に短くなって樹枝状結晶が形成されずに独立的に成長して球状粒子を形成する。
これは溶融金属Mが注湯される最中に電磁気場が印加される場合にも同じである。すなわち、溶融金属Mの注湯が完了する前に電磁気場を印加することにより、第2のスリーブ22の内壁面に初期凝固層が形成されなくなる。
このとき、溶融金属Mの注湯温度Tpは液相線温度より高く、液相線+100℃より低い温度(溶湯過熱度=0℃以上100℃以下)に維持されることが望ましい。上述のように、溶融金属Mが注湯された第2のスリーブ22内全体が均一に冷却されるので、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注湯する前に液相線温度付近まで冷却させる必要がなく、液相線+100℃程度高い温度を維持してもよいからである。
一方、溶融金属をスラリ製造容器に注湯した後、溶融金属の一部が液相線以下になる時点でスラリ製造容器に電磁気場を印加する従来の方法によれば、スラリ製造容器の壁面に初期凝固層が形成されながら凝固潜熱が発生するが、凝固潜熱は比熱の約400倍程度であるため、スラリ製造容器全体の溶融金属の温度が下がるには長時間がかかる。したがって、このような従来の方法では、液相線程度または液相線より50℃程度高い温度まで溶融金属の温度を冷却させた後、スラリ製造容器に注湯することが一般であった。
また、電磁気場攪拌を終了する時点は、図3に示すように、第2のスリーブ22内の溶融金属Mが一部分でも、この溶融金属Mの温度が液相線温度Tl以下に下がった時に、すなわち、この溶融金属Mの固相率が約0.001程度で所定の結晶核が形成された後ならいつ終了しても問題にならない。言い換えると、この電磁気場攪拌を終了する時点は、第2のスリーブ22内の溶融金属Mの温度が液相線付近に至った時点である。さらに、この電磁気場攪拌を終了する時点は、第2のスリーブ22内の溶融金属M中に結晶核が均一に生成された時点である。
ここで、溶融金属Mから半凝固金属スラリSを製造する際の核生成密度は、溶融金属Mとして使用される合金系によらず、この溶融金属Mの固相率が0.0001(10−4)以上となった時点で、すべての合金系における結晶核生成が完了する。また、溶融金属Mの固相率を0.0001の単位まで計測するのは容易ではない。工業的に利用し得る半凝固金属スラリSを製造する目的で、この半凝固金属スラリSの原料として用いられる溶融金属Mの結晶核生成を確実に終了させるためには、この溶融金属Mの固相率を0.0001とする必要はなく、0.001以上で充分であり、生産性の観点から0.001以上とすることがより好ましい。
すなわち、溶融金属M中にいかに結晶核生成の核を増加させるかについては、この溶融金属M中に結晶核生成が生じる間だけ、この溶融金属Mに電磁気場を印加するだけで足りる。したがって、この溶融金属Mに電磁気場をより長時間印加して、この溶融金属Mの固相率を0.001以上としても半凝固金属スラリSを製造できるが、この溶融金属Mの固相率が0.1以上になった状態でも電磁気場を印加し続けるのは、エネルギ効率面で望ましくなく、製造される半凝固金属スラリSの凝固組織が粗大化され、かつ工程時間が伸びるために望ましくないからである。
さらに、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯してこの溶融金属Mを冷却させる段階まで電磁気場を印加して後続の加圧する段階、例えばダイカスト工程や熱間鍛造工程などの成形工程前に電磁気場攪拌を停止させてもよい。これは既に第2のスリーブ22のスラリ製造領域T全体にわたって結晶核が均一に分布しているために、この結晶核を中心として結晶粒が成長する段階での電磁気場攪拌は製造される半凝固金属スラリSの特性に影響を及ぼさないからである。
したがって、上記電磁気場攪拌は、少なくとも溶融金属Mの固相率が0.001以上0.7以下になるまで持続させる。言い換えると、この電磁気場攪拌は、溶融金属Mの固相率が0.001以上0.7以下となった時点で、この溶融金属Mが注湯された第2のスリーブ22に対する電磁気場の印加が終了される。ただし、上記電磁気場攪拌の持続時間は、エネルギ効率面を考えれば、少なくとも第2のスリーブ22内の溶融金属Mの固相率が0.001以上0.4以下になるまで持続させ、さらに望ましくは溶融金属Mの固相率が0.001以上0.1以下になるまで持続させる。
一方、第2のスリーブ22への溶融金属Mの注湯が完了する前に電磁気場を印加して、均一な分布の結晶核を形成した後、冷却工程として第2のスリーブ22を冷却させて生成された結晶核の成長を加速させる。したがって、このような冷却工程は、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯するときからしてもよい。また、この冷却工程の間にも電磁気場を持続的に印加させてもよい。したがって、この冷却工程は、第2のスリーブ22に電磁気場が印加される間にしてもよい。これにより、第2のスリーブ22で半凝固状態の半凝固金属スラリSを製造した後、これを直ちに後続工程である成形工程で使用できる。なお、このような冷却工程は、別途の第2の温度調節装置44にてすることもあるが、自然的に空冷させてもよい。
さらに、このような冷却工程は、後続工程としての加圧工程などの成形工程前まで持続できる。すなわち、溶融金属Mが0.1以上0.7以下の固相率に到達する時点t2まで冷却工程を維持させる。具体的に、半凝固金属スラリSが鋳込まれて製造される製品の肉厚が薄く形状が複雑な場合には、実験的に、溶融金属Mの固相率が0.1となるまで冷却して、この溶融金属Mをより液状にして、半凝固金属スラリSが鋳型内で凝固するまでの時間を長くし、この半凝固金属スラリSの鋳型への流れ込み速度を速くする必要があるからである。
これに対し、この半凝固金属スラリSが鋳込まれて製造される製品の肉厚が厚く形状が単純な場合には、実験的に、溶融金属Mの固相率が0.7となるまで冷却して、この溶融金属Mをより固状にし、半凝固金属スラリSが鋳型内で凝固するまでの時間を短くして、この半凝固金属スラリSの流れ込み速度を遅くしても問題がないからである。
この結果、半凝固金属スラリSの製造に用いる溶融金属Mの固相率を0.1以上0.7以下にすれば、この溶融金属Mとして用いられる合金系に関わらず、この溶融金属Mから製造された半凝固金属スラリSにより、あらゆる形状のダイキャスト製品を製造できる。また、溶融金属Mの第2のスリーブ22への注湯時点から固相率0.1以上0.7以下の半凝固金属スラリSへと形成される時点までの所要時間が30秒以上60秒以下にすぎない。したがって、溶融金属Mから半凝固金属スラリSを60秒内、すなわち1分以内に製造するためには、この溶融金属Mの固相率が0.1以上0.7以下となるまで冷却すればよい。
このとき、この溶融金属Mの冷却速度は0.2℃/sec以上5.0℃/sec以下程度とするが、より好ましくは、結晶核の分布度および粒子の微細度によって0.2℃/sec以上2.0℃/sec以下にする。これは、溶融金属Mに電磁気場を印加して半凝固金属スラリSを製造する場合には、結晶核の分布度および粒子の微細度などの観点から、電磁気場を印加して結晶核生成が終了した溶融金属Mを、少なくとも0.2℃/sec以上の冷却速度で冷却する必要があるからである。
すなわち、この溶融金属Mの冷却速度を0.2℃/sec以下にした場合には、この溶融金属M中の結晶核が成長し過ぎて大きくなり過ぎてしまい、この溶融金属Mから半凝固金属スラリSを製造する際に必要な時間が長くなるので、この溶融金属Mから製造される半凝固金属スラリSの生産性および機械的な性質が低下してしまう。このため、この溶融金属Mの冷却速度を少なくとも0.2℃/sec以上にする必要があるとともに、この溶融金属Mの冷却速度は、基本的に速ければ速いほど半凝固金属スラリSの製造に必要な時間を短縮でき、エネルギ効率を向上できるので好ましい。
ところが、この溶融金属Mの冷却速度を5℃/sec以上にすると、この溶融金属Mを冷却する際に、この溶融金属M中に樹枝状結晶が形成されてデンドライト化して凝固してしまう。また、この溶融金属M中に形成された結晶核間の距離が大きい場合には、この溶融金属Mを0.2℃/sec程度の比較的ゆっくりとした速度で冷却することにより、この溶融金属M中の結晶核を大きく成長できる。これに対し、この溶融金属M中に形成された結晶核間の距離が小さい場合には、この溶融金属M中の結晶核を余り大きく成長させる必要がないので、この溶融金属Mを5℃/sec程度の比較的速い速度で冷却することが好ましい。
さらに、この溶融金属Mが注湯される第2のスリーブ22の断面積が大きい場合には、この溶融金属Mを0.2℃/sec程度の比較的ゆっくりとした速度で冷却することが好ましい。これに対し、溶融金属Mが注湯される第2のスリーブ22の断面積が小さい場合には、この溶融金属Mを5℃/sec程度の比較的速い速度で冷却しても、溶融金属M中の結晶核を十分に成長できる。
ここで、第2のスリーブ22に注湯した溶融金属M中での結晶核の生成は、この第2のスリーブ22に注湯する際の溶融金属Mの温度、すなわち注湯温度に依存する。なお、この注湯温度としては、溶融金属Mの液相線温度+100℃のように、この液相線温度からどの程度加熱したかを示す加熱度によって示すことができる。そして、この加熱度は、溶融金属Mを第2のスリーブ22に注湯してから、この溶融金属M中に結晶核が生成されるまでの段階に重要な影響を及ぼす。
これに対し、溶融金属M中に結晶核を生成させた後から、鋳込んだ半凝固金属スラリSの凝固が完了するまでの結晶成長は、この溶融金属Mから製造された半凝固金属スラリSを鋳込んで製造される製品の肉厚が重要な影響を及ぼす。したがって、電磁気場を印加して結晶核生成が終了した後に、この結晶核を成長させる際の溶融金属Mの冷却速度は、この溶融金属Mを第2のスリーブ22に注湯する前の結晶核を生成するための溶融金属Mの加熱度と、この溶融金属Mから形成された半凝固金属スラリSから製造される製品の肉厚とのそれぞれに依存する。すなわち、溶融金属Mの加熱度が一定で製品の肉厚が決まれば、鋳込んだ半凝固金属スラリSの冷却速度が自然に決まる。
ここで、溶融金属Mの加熱度が高い場合には、この溶融金属M中に生成される結晶核の数、すなわち核生成数が減少するので、この溶融金属Mの冷却速度を遅くする必要がある。また、この溶融金属Mの加熱度が低い場合には、この溶融金属M中に生成される核生成数が増加するので、この溶融金属Mの冷却速度を速くできるから、この溶融金属Mから製造される半凝固金属スラリSの粒子の細微化が可能となる。
したがって、この溶融金属Mの冷却速度を0.2℃/sec以上5℃/sec以下とし、この溶融金属Mを第2のスリーブ22に注湯する時の温度を、この溶融金属Mの液相線+100℃より低くすれば、鋳物産業において使用し得る範囲で、かつ所定の固相率を有する半凝固状態の半凝固金属スラリSを製造でき、これを直ちに加圧することにより押圧成形やプレス成形などをして所定の成形品に成形する。
このとき、この半凝固金属スラリSを製造する時間を顕著に短縮できるが、溶融金属Mの第2のスリーブ22への注湯時点から固相率0.1以上0.7以下の金属スラリ形態の金属材料に形成される時点までかかる時間は30秒以上60秒以下にすぎない。これにより製造された半凝固金属スラリSを使用して製品を成形すれば均一でかつ緻密な球状の結晶構造を得ることができる。
次に、上記半凝固金属成形法を用いた半凝固成形装置を図1および図2を参照して説明する。
図1および図2に示す半凝固成形装置は、いわゆるバッチ式であり、電磁気場を印加する攪拌部1と細長円筒状の筒状部としてのスリーブ2とを備えている。このスリーブ2は、圧送部としての第1の筒状部である射出用の第1のスリーブ21と、注湯部としての第2の筒状部であるEMS用の第2のスリーブ22とによって軸方向に沿った中央部が分割されて構成されている。
まず、このスリーブ2の第2のスリーブ22は、両端が開放されて開口された細長円筒状であり、上下方向に沿った軸方向を有する状態から、水平方向に沿った軸方向を有する状態となるように回動可能に設置されている。また、この第2のスリーブ22は、この軸方向に沿った一端である上端となる注湯口25と、この注湯口25に対向した他端である下端となるスラリ排出口26とのそれぞれが同心状に連通した状態で開口している。そして、この第2のスリーブ22は、注湯口25から液相の溶融金属Mが注湯されて、この溶融金属Mが内部に収容されて受容できるように構成されている。
また、この第2のスリーブ22は、この第2のスリーブ22の内部に注湯した溶融金属Mから製造された半凝固金属スラリSがスラリ排出口26から排出されるように構成されている。さらに、この第2のスリーブ22の周面部は、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯させる側である注湯口25側からスラリ排出口26側に向けて徐々に拡開したテーパ状に形成されている。言い換えると、この第2のスリーブ22の周面部は、この第2のスリーブ22の一端側から他端側に向かう方向である、半凝固金属スラリSの排出方向に向けて内径寸法が徐々に大きくなるように拡径している。
さらに、この第2のスリーブ22の周辺部には、この第2のスリーブ22内に注湯された溶融金属Mに電磁気場を印加する攪拌手段としての円筒状の攪拌部1が設置されて取り付けられている。この攪拌部1は、第2のスリーブ22とともに回動できるように、この第2のスリーブ22に固定されている。
また、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26には、開閉手段としての蓋体である円形平板状の開閉型のストッパ3が取り付けられている。このストッパ3は、図示しない駆動装置に接続されており、第2のスリーブ22と同じ材質にて形成されている。また、このストッパ3は、図1に示すように、第2のスリーブ22の注湯口25を上方に向けた状態で、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26を開閉可能に閉塞して、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mが注湯されるスラリ製造領域Tの閉塞部としての底部4を形成し、この第2のスリーブ22を容器状にする。
さらに、このストッパ3は、第2のスリーブ22を回動させて水平にした状態で、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26を開放させて、この第2のスリーブ22内で形成された半凝固金属スラリSを第2のスリーブ22のスラリ排出口26から外部へと離脱させて排出させる。なお、このストッパ3としては、第2のスリーブ22の下端であるスラリ排出口26を開閉できるものであれば、一側が第2のスリーブ22のスラリ排出口26の周縁に回動可能にヒンジ固定されたドア状であっても良く、中央部が分割されて両方向に開放される構成など、どのような構成であってもよい。
さらに、この第2のスリーブ22の外側には、図2に示すように、第2の温度調節手段としての第2の温度調節装置44が取り付けられている。この第2の温度調節装置44は、第2のスリーブ22内の溶融金属M、あるいはこの第2のスリーブ22内で製造された半凝固金属スラリSを冷却する。また、この第2の温度調節装置44は、冷却水パイプ45が螺旋状に内蔵された円筒状の冷却手段としての冷却装置であるウォータジャケット46を備えている。
そして、このウォータジャケット46は、第2のスリーブ22の外側を取り囲むように、この第2のスリーブ22の外側に同心状に取り付けられている。ここで、このウォータジャケット46内の冷却水パイプ45は、第2のスリーブ22内に埋設させてもよい。また、このような冷却水パイプ45以外でも第2のスリーブ22内の溶融金属Mや半凝固金属スラリSを冷却できる構成であればいかなる冷却装置であってもよい。
さらに、第2の温度調節装置44は、加熱手段としての加熱装置である電熱コイル47を備えている。この電熱コイル47は、ウォータジャケット46の外側を取り囲むように、このウォータジャケット46の外側に螺旋状に巻回された状態で同心状に取り付けられている。ここで、この電熱コイル47としては、この電熱コイル47以外のいかなる加熱機構であってもよい。
したがって、第2の温度調節装置44は、第2のスリーブ22内の溶融金属Mあるいは半凝固金属スラリSの温度を調節できる構造であればいかなる構成であってもよい。また、この第2の温度調節装置44は、第2のスリーブ22内の溶融金属Mを適正な速度で冷却する。さらに、この第2の温度調節装置44は、第2のスリーブ22の全体に亘って設置できるが、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mが収容されるスラリ製造領域Tの周囲のみに集中的に設置することもできる。なお、この第2の温度調節装置44を設けずに、第2のスリーブ22内の溶融金属Mを自然冷却させて、所望する固相率の半凝固金属スラリSを製造させてもよい。
具体的に、この第2の温度調節装置44は、第2のスリーブ22内に収容された溶融金属Mを0.1以上0.7以下の固相率に到達するまで冷却する。また、この第2の温度調節装置44は、冷却速度が調節されて、第2のスリーブ22内の溶融金属Mを0.2℃/s以上5.0℃/s以下の冷却速度で冷却させ、より好ましくは0.2℃/s以上2.0℃/sの冷却速度で冷却させる。
このとき、この第2の温度調節装置44は、攪拌部1による電磁気場の攪拌が終了した後にすることもあり、電磁気場の攪拌とは関係なく、すなわち電磁気場の印加が持続されている間にもできるとともに、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯する段階からもできる。
一方、攪拌部1は、この攪拌部1の内側に所定の空間部12が形成されており、この空間部12を包んで取り囲むように電磁気場印加用コイル装置11が配設されて取り付けられている。この電磁気場印加用コイル装置11は、図示しないフレームに固定されている。また、この電磁気場印加用コイル装置11は、所定の強度の電磁気場を空間部12に印加して、この空間部12に収容される第2のスリーブ22内の溶融金属Mを電磁気場攪拌する。ここで、この電磁気場印加用コイル装置11は、通常の電磁気場攪拌に使用できるコイル装置であればよい。また、攪拌部1は、電磁気場以外の超音波攪拌などの超音波攪拌装置でもよい。
ここで、この電磁気場印加用コイル装置11は、第2のスリーブ22の外側に密着して結合させることもできる。そして、この電磁気場印加用コイル装置11により第2のスリーブ22に注入される溶融金属Mを、この第2のスリーブ22に注入する段階から徹底的に攪拌させる。このため、この電磁気場印加用コイル装置11は、第2のスリーブ22の回動に連動して回動されるように構成されている。すなわち、この第2のスリーブ22に電磁気場印加用コイル装置11が固定されている。なお、この第2のスリーブ22だけが回動するように構成してもよい。
さらに、電磁気場印加用コイル装置11には、図1に示すように、攪拌部1による電磁気場の印加を調整する制御手段としての電磁気場印加調節部13が電気的に連結されて接続されている。この電磁気場印加調節部13としては、制御装置が用いられており、電源の印加を決定する図示しないスイッチング手段や、電圧、周波数および電磁気力などを調節して印加される電磁気波を調節する電磁気波制御手段などを有している。すなわち、この電磁気場印加調節部13は、電磁気場の強度や作動時間などを調節する。
また、この電磁気場印加調節部13は、攪拌部1の電磁気場印加用コイル装置11を駆動させて、第2のスリーブ22に注湯される溶融金属Mに初期凝固層としての樹枝状結晶が形成されないほど、すなわち樹脂状結晶が形成されない程度の電磁気場を、溶融金属Mが第2のスリーブ22に注湯される前の段階から、この第2のスリーブ22に印加させる。さらに、この電磁気場印加調節部13は、注湯された溶融金属Mの温度が液相線近くに到達した時点、すなわち溶融金属Mに結晶核が生成された時点で第2のスリーブ22に対する電磁気場の印加を終了するように電磁気場印加用コイル装置11を調節する。
よって、この電磁気場印加調節部13にて電磁気場印加用コイル装置11の電磁気場印加時点を調節するが、このような電磁気場の印加は、製造された半凝固金属スラリSが圧縮されるまで終了させずに持続させてもよい。ただし、エネルギ効率の点から半凝固金属スラリSの製造過程まで電磁気場にて攪拌できる。したがって、この電磁気場による攪拌は、製造される半凝固金属スラリSの固相率が少なくとも0.001以上0.7以下になるまで持続する。また、この電磁気場による攪拌は、好ましくは製造される半凝固金属スラリSの固相率が少なくとも0.001以上0.4以下になるまで持続する。さらに、この電磁気場による攪拌は、より好ましくは溶融金属Mの固相率が0.001以上0.1以下になる時点で終了する。なお、このような固相率になるまでの時間は、予め実験によって調べることができる。
一方、第1のスリーブ21および第2のスリーブ22は、図1に示すように、対向する端部の一側が結合されてこれを中心に第2のスリーブ22の他端側が所定の角度θで下方に向けて回動できるように構成されている。ここで、この第2のスリーブ22の回動角度θは90°以内にすることが望ましい。また、この第2のスリーブ22は、攪拌部1の内側に位置しており、この攪拌部1の電磁気場印加用コイル装置11の同心状となるように空間部12に設置されている。
さらに、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22は、金属材、絶縁性素材あるいは非磁性材にて構成されている。すなわち、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22は、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22自体の融点が収容される溶融金属Mの温度より高いものを使用することが望ましい。
特に、第2のスリーブ22は、この第2のスリーブ22内に注湯される溶融金属Mを急速に冷却できるように、伝導性に優れ、かつ磁性を有さない非磁性体としての非磁性材である金属などにて形成されている。すなわち、この第2のスリーブ22は、金属材あるいは絶縁性素材としての非磁性体である非磁性金属材料あるいは非磁性セラミック材料にて構成されて備えられている。したがって、この第2のスリーブ22を非磁性体で構成したことにより、電磁気場の印加によって第2のスリーブ22自体が誘導加熱を起さず発熱しなくなるから、この第2のスリーブ22内に注湯した溶融金属Mを冷却させるのに有利であるので、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注湯しているときから、この溶融金属Mを冷却できる。また、この第2のスリーブ22を非磁性金属材で形成する場合には、この第2のスリーブ22自体の融点が、この第2のスリーブ22内に収容される溶融金属Mの温度より高いものを使用することが望ましい。
なお、この第2のスリーブ22は、この第2のスリーブ22自体の温度を溶融金属Mの温度まで上昇させると、この第2のスリーブ22自体が溶けてしまうおそれがあるから、この第2のスリーブ22の温度を溶融金属Mの温度まで上昇させることができない。したがって、この第2のスリーブ22では、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯した直後に、この溶融金属Mに電磁気場を印加した場合には、第2のスリーブ22と溶融金属Mとの温度差が大きく、この溶融金属Mの第2のスリーブ22と接する部分周辺では瞬間的に樹枝状結晶が形成されてしまう。
一方、第1のスリーブ21は、地面に対して水平な軸方向を有するように配置されている。また、第2のスリーブ22は、第1のスリーブ21と結合される部分である他端側のスラリ排出口26側を中心に所定の角度で回動可能に構成されている。さらに、この第2のスリーブ22は、この第2のスリーブ22内に注湯されて収容された溶融金属Mへの電磁攪拌によって半凝固金属スラリSを形成するスラリ製造領域Tを形成する。また、第1のスリーブ21は、第2のスリーブ22内で形成された半凝固金属スラリSを加圧して成形するための領域となる。
したがって、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22は、電磁気場攪拌によって溶融金属Mから半凝固金属スラリSを製造するスラリ製造容器の機能と、製造された半凝固金属スラリSを加圧成型する成形枠としての機能とを兼ね備えている。ここで、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22は、必ずしも両端が開放された構造でなくてもよく、相互に連結されて第2のスリーブ22内で製造された半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21へと圧送して、この第1のスリーブ21から吐出できる構造であればよい。
具体的に、この第1のスリーブ21は、両端が開放されて開口された細長円筒状であり、水平方向に沿った軸方向を有する状態に設置されて固定されている。また、この第1のスリーブ21は、第2のスリーブ22と略同径に形成されている。そして、この第1のスリーブ21の軸方向に沿った一端側には、蓋体としてのキャップ体20が取り付けられている。このキャップ体20の中央部には、所定の形状に開口されたスラリ吐出口23が形成されている。このスラリ吐出口23は、第1のスリーブ21内から半凝固金属スラリSが抜け出るように構成されている。さらに、このスラリ吐出口23は、第2のスリーブ22に結合される側の反対側の端部に設けられている。
さらに、このスラリ吐出口23の下流側には、このスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSを所定の形状の成形品である押出材Eを成形する成形部としての押出部6を備えた押出装置が配設されて取り付けられている。この押出部6は、この押出部6の構成によってスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSの形状が決定される。ここで、この押出部6は、第2のスリーブ22におけるスラリ吐出口23の外側に位置して配設されている。
さらに、この押出部6は、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から吐出される半凝固金属スラリSを移送して搬送する移送手段としての移送ローラ61を備えている。この移送ローラ61の移送面60の上方には、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSを冷却する冷却手段としての複数の噴霧型の冷却装置62が取り付けられている。また、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23の外側の上方には、このスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSを所定の長さでカットして切断するカッタ63が上下動可能に設置されている。このカッタ63は、刃先を下方に向けて設置されており、スラリ吐出口23から半凝固金属スラリSが所定の長さ吐出された際に下方へと移動して、この半凝固金属スラリSを所定の長さで切断する。
したがって、この押出部6は、移送ローラ61、冷却装置62およびカッタ63によって、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から押し出されて吐出された半凝固金属スラリSを移送させるとともに急冷させて所定の長さでカットして所定の形状の線材または板材などの押出材Eを成形させる。
よって、この第1のスリーブ21のスラリ吐出口23は、このスラリ吐出口23から吐出された半凝固金属スラリSが押出部6で搬送されるので、このスラリ吐出口23から吐出される半凝固金属スラリSの形状を決定させる。よって、このスラリ吐出口23は、押出部6によって形状が調節される。さらに、このスラリ吐出口23は、このスラリ吐出口23から押出されて吐出される押出材Eの形状に対応しており、この押出材Eが断面円形の線材である場合には円形であり、この押出材Eが断面矩形状の板材である場合には長方形などの矩形状である。
一方、第1のスリーブ21におけるスラリ吐出口23に対向した軸方向に沿った他端側には、スラリ挿入口24が開口形成されている。これらスラリ吐出口23とスラリ挿入口24とは同心状に連通している。さらに、このスラリ挿入口24は、第2のスリーブ22のスラリ排出口26に同心状に連通するように、このスラリ排出口26に等しい形状に形成されている。よって、第1のスリーブ21は、第2のスリーブ22内で製造された半凝固金属スラリSがスラリ挿入口24から挿入されてスラリ吐出口23から吐出されて排出されるように構成されている。
すなわち、この第1のスリーブ21の周面部は、スラリ挿入口24側からスラリ吐出口23側に向けて徐々に拡開したテーパ状に形成されている。言い換えると、この第1のスリーブ21の周面部は、この第1のスリーブ21の他端側から一端側に向かう方向である、半凝固金属スラリSの排出方向に向けて内径寸法が徐々に大きくなるように拡径している。したがって、この第1のスリーブ21は、この第1のスリーブ21の内径が第2のスリーブ22の内径より大きい、すなわち(第1のスリーブ21の内径)≧(第2のスリーブ22の内径)の関係となるように構成されている。
また、この第1のスリーブ21の外側には、図1に示すように、第1の温度調節手段としての第1の温度調節装置41が取り付けられている。この第1の温度調節装置41は、第1のスリーブ21内の所定領域の温度を調整して、この第1のスリーブ21内の半凝固金属スラリSの温度を調節する。すなわち、この第1の温度調節装置41は、第1のスリーブ21内で押圧されて加圧される半凝固金属スラリSの急冷を防止する。したがって、この第1の温度調節装置41としては、所定の保温効果を有するものが望ましい。
具体的に、この第1の温度調節装置41は、パイプ42が螺旋状に内蔵された円筒状のウォータジャケット43を備えている。このウォータジャケット43は、第1のスリーブ21の外側を取り囲むように、この第2のスリーブ22の外側に同心状に取り付けられている。よって、この第1の温度調節装置41は、パイプ42内を流れる媒体の温度を適当に調節することによって第1のスリーブ21内の半凝固金属スラリSの温度を調節可能にする。
ここで、このウォータジャケット43内のパイプ42は、第1のスリーブ21に埋設させてもよい。また、このようなパイプ42以外でも第1のスリーブ21内の半凝固金属スラリSの温度を調節できる構成であればよい。すなわち、第1の温度調節装置41としては、図示しない電熱ヒータなどを使用してもよい。
一方、第2のスリーブ22の注湯口25には、第1の押圧手段としての第1のプランジャ52が進退可能に挿入される。この第1のプランジャ52は、図示しない制御部により制御される別途のシリンダ装置に連結されて、互いに連通された第1のスリーブ21および第2のスリーブ22内をピストン往復動する。ここで、この第1のプランジャ52の先端面である押圧面54は、この第1のプランジャ52の移動方向に直交する平坦な平面とされている。
さらに、この第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22内に半凝固金属スラリSが製造された状態で、この第2のスリーブ22の注湯口25から挿入されて、この第2のスリーブ22の一端側を閉塞する。さらに、この第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22の注湯口25に挿入された状態で、この第2のスリーブ22とともに回動して、第2のスリーブ22の注湯口25からの半凝固金属スラリSの漏れを防止する。また、この第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22のスラリ排出口26が第1のスリーブ21のスラリ挿入口24に連通され、これらスラリ排出口26とスラリ挿入口24との間がストッパ3にて開放された状態で、第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを、第1のスリーブ21のスラリ吐出口23側に向けて押圧して圧送して、この半凝固金属スラリSをスラリ吐出口23から押出部6の移送ローラ61の移送面60上へと吐出させる。
言い換えると、この第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22内に電磁気場が印加され、この第2のスリーブ22が冷却される間、すなわち第2のスリーブ22で溶融金属Mから半凝固金属スラリSを製造する間において、図1に示すように、第2のスリーブ22の注湯口25から外側に抜かれている。さらに、この第1のプランッジャ52は、第2のスリーブ22内で半凝固金属スラリSが形成された後に、第2のスリーブ22の注湯口25から挿入されて、この第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを押圧すべく駆動される。そして、この第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22の回動に連動して回動して駆動するように構成されており、この第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21側に向けて加圧して圧送させる。
なお、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22には、図示しない熱電対を内蔵させるとともに、この熱電対を制御部に電気的に接続させて、これら第1のスリーブ21および第2のスリーブ22内の溶融金属Mあるいは半凝固金属スラリSなどの温度情報を制御部に送出させてもよい。
さらに、第2のスリーブ22の注湯口25から溶融金属Mを注湯する際には、注入部としての注湯容器51が用いられる。この注湯容器51は、第2のスリーブ22の注湯口25に液相の溶融金属Mを注湯させる。そして、この注湯容器51としては、制御部に電気的に連結された通常の鉢、すなわちレードル(Ladle)を使用できる。ここで、この注湯容器51としては、通常の鉢以外にも金属を溶融させた炉を直接連結されるなど、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯できればいかなる構成であってもよい。
次に、上記第1の前提技術の半凝固成形装置の作用を説明する。
まず、図1に示すように、第2のスリーブ22の注湯口25側を第1のスリーブ21に対して上方に向けて90゜回動させて、この第2のスリーブ22の注湯口25を上方に向けて開口させるとともに、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26をストッパ3にて閉塞させて、この第2のスリーブ22の注湯口25から溶融金属Mを注湯できる容器形状にする。
次いで、電磁気場印加調節部13にて攪拌部1の電磁気場印加用コイル装置11を可動させて、第2のスリーブ22内に注湯される溶融金属Mに初期凝固層あるいは樹枝状結晶が形成されない程度の電磁気場を第2のスリーブ22に印加させる。
このとき、電磁気場印加用コイル装置11にて望ましくは250V、60Hzおよび500Gaussの電磁気場を印加させるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、状況によって適当に調節する。
この状態で、別途の炉で溶融された溶融金属Mを、注湯容器51にて移送して電磁気場の影響下にある第2のスリーブ22の注湯口25から、この第2のスリーブ22内に注湯する。ここで、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注湯した際に、この溶融金属Mが第2のスリーブ22のスラリ排出口26とストッパ3との間から漏れ出ないように、この第2のスリーブ22内に注湯した溶融金属Mが瞬時に半凝固金属スラリSとなるとともに、この半凝固金属スラリSが第2のスリーブ22のスラリ排出口26とストッパ3との間から漏れ出さないように、この半凝固金属スラリSの固相率を比較的高くする。
このとき、炉と第2のスリーブ22とを直接連結させて溶融された液相の溶融金属Mを直ちに第2スリーブ22内に注湯することもできる。また、このときの溶融金属Mは、この溶融金属Mの液相線温度+100℃程度の温度となっても良い。さらに、第2のスリーブ22には、別の図示しないガス供給管を連結させて、この第2のスリーブ22内に注湯される溶融金属Mの酸化を防止するために窒素ガス(N2)やアルゴンガス(Ar)などの不活性ガスを注入してもよい。
このように、完全に溶融された液相の溶融金属Mを電磁気場攪拌がなされている第2のスリーブ22内に注湯することにより、この第2のスリーブ22全体に亘って初期凝固層の形成なしに微細な再結晶粒子が分布し、この再結晶粒子が速く成長して樹枝状構造の生成が発生しなくなる。
なお、この第2のスリーブ22への電磁気場印加用コイル装置11による電磁気場の印加を、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯すると同時にしてもよい。
また、この電磁気場印加用コイル装置11による電磁気場の印加は、第2のスリーブ22内で製造された半凝固金属スラリSを第1のプランジャ52にて押圧するまで継続させるが、この半凝固金属スラリSとなる以前の溶融金属Mの固相率が少なくとも0.001以上0.7以下となるまで持続させて終了させる。
ただし、エネルギ効率次元で半凝固金属スラリSの製造過程まで電磁気場を攪拌するため、この電磁気場印加用コイル装置11による電磁気場の印加は、少なくとも溶融金属Mの固相率が少なくとも0.001以上0.4以下となるまで、より望ましくは、この溶融金属Mの固相率が0.001以上0.1以下となるまで持続させる。なお、この電磁気場印加用コイル装置11による電磁気場の印加を継続させる時間は、実験によって予め求めることができる。
さらに、この電磁気場印加用コイル装置11による電磁気場の印加を終了した後、あるいはこの電磁気場の印加を持続している間に、第2のスリーブ22内の溶融金属Mが0.1以上0.7以下の固相率に至るまで所定の冷却速度で第2の温度調節装置44によって冷却させる冷却段階を経て半凝固金属スラリSを製造する。
このとき、この第2のスリーブ22内の溶融金属Mの冷却速度は、第2の温度調節装置44によって0.2℃/sec以上5℃/sec以下、より望ましくは0.2℃/sec以上2℃/sec以下に調整される。ここで、第2のスリーブ22内の溶融金属Mの固相率が0.1以上0.7以下に至るまでの時間t2は、実験によって予め求めることができる。
なお、第2のスリーブ22内の溶融金属Mから製造された半凝固金属スラリSは、第2のスリーブ22のスラリ排出口26を第1のスリーブ21のスラリ挿入口24に結合させた状態で、これらスラリ排出口26とスラリ挿入口24との間をストッパ3にて連通させた際に、これらスラリ排出口26とスラリ挿入口24との間から半凝固金属スラリSの一部が漏れ出ない程度の固相率を有している。
次いで、第2のスリーブ22内で半凝固金属スラリSを製造した後、第2のスリーブ22の注湯口25から第1のプランジャ52が挿入された状態で、この第2のスリーブ22の注湯口25側を下方に向けて90゜回動させて、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26を第1のスリーブ21のスラリ挿入口24にストッパ3を介して同心状に連結させて結合させる。このとき、第1のプランジャ52は、第2のスリーブ22の回動に連動して回動する。
この後、ストッパ3を下方へと移動させて、第2のスリーブ22のスラリ排出口26を開放させ、このスラリ排出口26を第1のスリーブ21のスラリ挿入口24に同心状に連通させる。
この状態で、第1のプランジャ52を第1のスリーブ21のスラリ吐出口23側に向けて移動させて、第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを第2のスリーブ22内から第1のスリーブ21に圧送するとともに圧縮して、この半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から押出部6へと吐出させて排出させる。
このとき、第1のスリーブ21内で圧縮が進行している半凝固金属スラリSの温度が第1の温度調節装置41にて所定の温度に保持される。
そして、この第1のスリーブ21のスラリ吐出口23から吐出される半凝固金属スラリSは、押出部6の移送ローラ61の移送面60上へと吐出されて、この移送ローラ61にて移送されるとともに冷却装置62にて急冷される。
この後、この押出部6の移送ローラ61にて移送され冷却装置62にて急冷された半凝固金属スラリSは、所定の長さでカッタ63にて切断されて所定の形状の押出材Eとされてから、さらに移送ローラ61にて移送される。
そして、押出材Eをカッタ63にて切断した後に第1のスリーブ21内に残った半凝固金属スラリであるビスケットBは、第1のプランジャ52を元の位置に復帰させてから、第2のスリーブ22の注湯口25側を上方に向けて90゜回動させて、第1のスリーブ21のスラリ挿入口24を開口させた状態で、別途の図示しない取出し棒による押し出しにて外部へと取り出される。
さらに、このビスケットBを第1のスリーブ21から取り出した後には、図1に示すように、第2のスリーブ22のスラリ排出口26をストッパ3にて閉塞して、この第2のスリーブ22に溶融金属Mを収容可能にした後、この第2のスリーブ22に再度溶融金属Mを注湯して押出材Eの成形過程を反復させる。この結果、このような反復過程によって組織が微細でかつ全体的に均一な押出材Eを得ることができる。
上述したように、上記第1の前提技術によれば、溶融金属Mの液相線より高い温度での短時間の攪拌だけで、第2のスリーブ22の壁面での核生成密度を顕著に高めて粒子の球状化を実現できるから、微細でかつ均一な球状化粒子の半凝固金属スラリSを第2のスリーブ22で製造できる。このため、溶融金属Mの電磁気場による攪拌時間を大きく短縮できるので、この溶融金属Mの電磁気場攪拌に必要なエネルギの消耗を少なくできる。さらに、断面が円筒状以外の非対称な形状の第2のスリーブ22であっても、微細でかつ均一な球状化粒子の半凝固金属スラリSを製造できる。
また、この第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSをスラリの状態で第1のスリーブ21を介した押出部6への押し出しを進行できる。このため、高品質の押出材Eを低圧の加圧力で得ることができ、低圧による成形が可能であるから、電力損失を防止でき、作業時間を短縮できる。同時に、半凝固金属スラリSの押圧による装置部品の耐久性の低下を防止できるとともに、エネルギ損失を減らすことができるから、短時間に高品質の押出材Eを連続して成形できる。
この結果、全体的に均一でかつ微細な構成の組織を有する押出材Eを得ることができる。さらに、この押出材Eを製造する際のエネルギ効率を改善できるから、製造コストを節減でき、この押出材Eの機械的性能を向上できる。さらに、この押出材Eを成形する際の成型工程を簡便化できるとともに、この押出材Eの製造時間の短縮を実現できるから、この押出材Eを製造するための全体工程を単純化でき、この押出材Eの生産性を向上できる。
なお、図4および図5に示す第1の実施の形態のように、第1のスリーブ21の周面部に第2のスリーブ22の他端側を連結させて、この第1のスリーブ21から第2のスリーブ22が分岐して連結された構成にすることもできる。この場合、第1のスリーブ21は、この第1のスリーブ21の軸方向を地面に対して水平にした状態で設置されている。そして、第2のスリーブ22は、第1のスリーブ21の周面部から、この第1のスリーブ21の一端側であるとともに上方に向けて分岐されて連結されている。そして、この第1のスリーブ21の他端側の開口部31には、加圧用の第2の押圧手段としての第2のプランジャ53が進退可能に挿入されている。ここで、この第2のプランジャ53の先端面である押圧面55は、この第2のプランジャ53の移動方向に直交する平坦な平面とされている。
さらに、この第1のスリーブ21の一端側のスラリ吐出口23の外側には成形ダイ8が結合されている。なお、成形部として成形ダイ8を取り付けたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、この成形ダイ8の代わりに押出部6やプレス成形部7などを取り付けることもできる。
また、第2のスリーブ22は、この第2のスリーブ22の一端側の注湯口25側を上方に向け、他端側のスラリ排出口26を下方に向けた状態で約45゜の角度で傾斜している。そして、この第2のスリーブ22のスラリ排出口26は、第1のスリーブ21の軸方向に沿った略中間部に連結されて連通されている。さらに、この第2のスリーブ22の他端側には、この第2のスリーブ22の他端側を開閉可能に閉塞するストッパ3が上方から取り外し可能に挿入されて取り付けられている。また、この第2のスリーブ22の外周部には、攪拌部1が取り付けられている。この攪拌部1は、ストッパ3が取り付けられている位置よりも第2のスリーブ22の一端側を覆っている。
さらに、第2のスリーブ22には、この第2のスリーブ22内に溶融金属Mを注湯させる注入口28が取り付けられている。この注入口28は、第2のスリーブ22における攪拌部1が取り付けられた位置よりも一端側に取り付けられており、この第2のスリーブ22の周面部から上方に向けて突出している。また、この注入口28は、第2のスリーブ22内に連通しており、第2のスリーブ22内における攪拌部1にて電磁気場が印加されるスラリ製造領域Tに溶融金属Mを注湯させる。
そして、図4に示すように、第2のスリーブ22の他端側をストッパ3にて閉塞した状態で、この第2のスリーブ22の注入口28から溶融金属Mを注湯して、この第2のスリーブ22内に注湯した溶融金属Mを攪拌部1による電磁気場の印加によって半凝固金属スラリSとする。次いで、ストッパ3を上方に移動させて第2のスリーブ22のスラリ排出口26を開放させた後、この第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21内へと移動させて吐出させる。このとき、第1のプランジャ52を第1のスリーブ21側に移動させて、この第1のプランジャ52にて第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを押圧して、この半凝固金属スラリSの第1のスリーブ21への吐出を促進させる。
この後、この半凝固金属スラリSを第1のスリーブ21内に流入させた状態で、図5に示すように、第2のプランジャ53を第1のスリーブ21のスラリ吐出口23側に向けて移動して、この第1のスリーブ21内の半凝固金属スラリSを加圧してスラリ吐出口23から吐出させて成形ダイ8に注入させる。このとき、この成形ダイ8に注入された半凝固金属スラリSは、この成形ダイ8の注入口84を通じて成形空洞83内に注入されて成形されつつ急速に冷却されて成形空洞83の形状に対応したダイキャスト材Dに製造される。さらに、この成形ダイ8の成形空洞83でのダイキャスト材Dの製造が終了した後に、移動ダイ81を後退させて固定ダイ82から離させて、このダイキャスト材Dを成形空洞83から引き出す。
この結果、第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSをスラリの状態でダイキャスティングできるから、高品質のダイキャスト材Dを低圧の加圧力で得ることができ、電力損失を防止でき、作業時間を短縮できるとともに、成形ダイ8に注入される半凝固金属スラリSの温度を低くでき、この成形ダイ8に半凝固金属スラリSを低圧で注入できるので、上記第1の前提技術と同様の作用効果を奏することができる。
さらに、図6に示す第2の実施の形態のように、第1のスリーブ21の軸方向を地面に対して垂直に設置し、この第1のスリーブ21から第2のスリーブ22の注湯口25側を斜め上方に向けて分岐させて結合させ、第2のスリーブ22の注入口28を上方に向けて開口させた構成とすることもできる。この場合、第2のスリーブ22内で製造した半凝固金属スラリSを自重による重力の作用によって第1のスリーブ21内における成形ダイ8側により容易に移動できるから、この成形ダイ8にてダイキャスト材Dを成形する工程をより速くできる。
なお、上記第1および第2の実施の形態では、第1のプランジャ52の先端面である押圧面54を、この第1のプランジャ52の移動方向に直交する平坦な平面としたが、図7に示す第3の実施の形態のように、第1のプランジャ52を第1のスリーブ21側に移動させた際に、この第1のプランジャ52の押圧面54が第1のスリーブ21の内周面と面一になるように、この第1のプランジャ52の押圧面54を、この第1のプランジャ52の移動方向に対して約45゜ほど傾斜させる構成とすることもできる。
この場合、この第1のプランジャ52の押圧面54は、第2のスリーブ22内の半凝固金属スラリSを第1のプランジャ52にて押圧した際に、この半凝固金属スラリS全部を第1のスリーブ21内に移動できるように、この第1のスリーブ21の内周面に等しい横断面凹弧状に形成されている。すなわち、この第1のプランジャ52の押圧面54は、第1のスリーブ21のスラリ挿入口24を、この第1のスリーブ21の内周面に沿って閉塞できるように構成されている。したがって、この第1のプランジャ52の押圧面54の傾斜角度は、第1のスリーブ21に対する第2のスリーブ22の傾斜角度に等しい。
さらに、上記第1の前提技術および各実施の形態において、多様な金属あるいは合金、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、亜鉛、亜鉛合金、銅、銅合金、鉄および鉄合金などのいずれの半凝固金属成形方法であっても汎用的に適用できる。すなわち、固液共存状態成形用、いわゆる半凝固あるいは半溶融成形用に利用できるものであればいずれも利用でき、その中でもアルミニウム、マグネシウム、銅、亜鉛、鉄およびこれらの合金よりなる群から選択されることが望ましい。これら合金は、最終成形品で要求される物性によって色々な任意の金属を含むことができる。
すなわち、溶融金属Mとして用いられる合金系が何かという問題ではなく、凝固理論的に考察すると、スリーブ2に注湯する前の溶融金属Mの温度は、この溶融金属Mとして用いられる合金系の比熱の問題で議論できる。したがって、第2のスリーブ22に注湯する前の溶融金属Mの温度は、この溶融金属Mとして用いられた合金系の液相線よりいくら高い温度でも可能であるかどうかは、比熱の値そのものが問題となる。
そして、アルミニウムの比熱は、約0.25kcal/gであり、このアルミニウム以外の他の合金系、例えばマグネシウム(約0.18kcal/g)、亜鉛(約0.1kcal/g)、銅(約0.1kcal/g)、鉄(約0.1kcal/g)それぞれの比熱は、アルミニウムよりも小さい。したがって、アルミニウム以外の他の合金系では、アルミニウムに比べ、奪わなければならない熱量が少ないという効果があるため、これらいずれの合金系の溶融金属Mを液相線+100℃とした状態で、この溶融金属Mをスリーブ2に注湯しても、これら溶融金属Mには初期凝固層が形成されず、これら溶融金属Mから潜熱が生じない。このため、これら溶融金属Mから比熱だけを奪えば、これら溶融金属M中の結晶核を成長できるので、これらいずれの合金系であっても同様の作用効果を奏することができる。
理論的に、液相から固相へと変化する温度(Tl)と固相から液相へと変化する温度(TS)との差、すなわちTl−TS=ΔTが0でなければ、どのような合金系においても、溶融金属Mの温度をTlとTSとの間に調整することによって、溶融金属M中に結晶核を形成できる。
一方、鋳物産業において、一般的に使用される純アルミニウムには、1%程度の不純物が含有されている。なお、アルミニウム以外のマグネシウム、亜鉛、銅および鉄のそれぞれについても、鋳物産業において一般的に使用される純マグネシウム、純亜鉛、純銅および純鉄には、1%程度の不純物が含有されている。
したがって、液相から固相へと変化する温度(Tl)と固相から液相へと変化する温度(TS)との差が0でなく、比熱がアルミニウムより小さく、かつ電磁気場の印加で溶融金属Mに磁場が形成されるマグネシウム、亜鉛、亜鉛合金、銅、銅合金、鉄および鉄合金であっても、アルミニウム合金と同様の結果を原理的に得ることができる。
さらに、第2のスリーブ22に溶融金属Mを注湯した後に、この第2のスリーブ22内に注湯した溶融金属Mに対して電磁気場印加用コイル装置11にて電磁気場を印加して、この溶融金属Mから半凝固金属スラリSを製造する半凝固成形装置であっても、電磁気場印加調節部13の制御を調整することによって対応させて用いることができる。
本発明は、半凝固金属スラリを製造し、この半凝固金属スラリを半溶融金属成形法にて成形して各種金属成形品を製造できる。
本発明の第1の前提技術の固液共存状態金属材料製造装置に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置の第2の温度調節手段を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置での時間に対する溶融金属の注湯温度を示す二次グラフである。
本発明の固液共存状態金属材料製造装置の第1の実施の形態に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
同上固液共存状態金属材料製造装置で成形品を成形した工程を示す概略断面図である。
本発明の固液共存状態金属材料製造装置の第2の実施の形態に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
本発明の固液共存状態金属材料製造装置の第3の実施の形態に溶融金属を注湯する工程を示す概略断面図である。
符号の説明
1 攪拌部
3 開閉手段としての蓋体であるストッパ
13 制御手段としての電磁気場印加調節部
21 圧送部としての第1のスリーブ
22 注湯部としての第2のスリーブ
23 スラリ吐出口
28 注湯口としての注入口
52 注湯部押圧手段としての第1のプランジャ
53 圧送部押圧手段としての第2のプランジャ
M 溶融金属
S 固液共存状態金属スラリとしての半凝固金属スラリ