〔実施例1〕
本発明の実施の一形態について図に基づいて説明する。
図1(a)および図1(b)は、本実施の形態にかかる表示素子(本表示素子)の概略構成を示す断面図である。本表示素子は、駆動回路や信号線(データ信号線)、走査線(走査信号線)、スイッチング素子等とともに表示装置に配されて用いられる。
図13は、本表示素子を用いる表示装置の要部の概略構成を示すブロック図であり、図14は、図13に示す表示装置に用いられる本表示素子(表示素子120)の周辺の概略構成を示す模式図である。
図13に示すように、本実施の形態にかかる表示装置100は、画素10…がマトリクス状に配された表示パネル102と、駆動回路としてのソースドライバ103およびゲートドライバ104と、電源回路106等とを備えている。
上記各画素10には、図14に示すように、本表示素子(表示素子120)およびスイッチング素子21が設けられている。
また、上記表示パネル102には、複数のデータ信号線SL1〜SLn(nは2以上の任意の整数を示す)と、各データ信号線SL1〜SLnにそれぞれ交差する複数の走査信号線GL1〜GLm(mは2以上の任意の整数を示す)とが設けられ、これらデータ信号線SL1〜SLnおよび走査信号線GL1〜GLmの組み合わせ毎に、上記画素10…が設けられている。
上記電源回路106は、上記ソースドライバ103およびゲートドライバ104に、上記表示パネル102にて表示を行うための電圧を供給し、これにより、上記ソースドライバ103は、上記表示パネル102のデータ信号線SL1〜SLnを駆動し、ゲートドライバ104は、表示パネル102の走査信号線GL1〜GLmを駆動する。
上記スイッチング素子21としては、例えばFET(電界効果型トランジスタ)あるいはTFT(薄膜トランジスタ)等が用いられ、上記スイッチング素子21のゲート電極22が走査信号線GLiに、ドレイン電極23がデータ信号線SLiに、さらに、ソース電極24が、表示素子120に接続されている。また、表示素子120の他端は、全画素10…に共通の図示しない共通電極線に接続されている。これにより、上記各画素10において、走査信号線GLi(iは1以上の任意の整数を示す)が選択されると、スイッチング素子21が導通し、図示しないコントローラから入力される表示データ信号に基づいて決定される信号電圧が、ソースドライバ103によりデータ信号線SLi(iは1以上の任意の整数を示す)を介して表示素子120に印加される。表示素子120は上記走査信号線GLiの選択期間が終了してスイッチング素子21が遮断されている間、理想的には、遮断時の電圧を保持し続ける。
本表示素子は、対向する2枚の基板(基板1および2)間に、光学変調層である誘電性物質層3が挟持されてなる。また、基板1における基板2との対向面には、誘電性物質層3に電界を印加するための電界印加手段である櫛形電極(櫛歯状の電極)4・5が互いに対向配置されている。さらに、基板1および2における、両基板の対向面とは反対側の面には、それぞれ偏光板6および7が備えられている。
なお、図1(a)は櫛形電極4・5間に電界が印加されていない状態(電圧(電界)無印加状態(OFF状態))を表しており、図1(b)は櫛形電極4・5間に電界が印加されている状態(電圧(電界)印加状態(ON状態))を表している。
基板1および2は、ガラス基板で構成されている。ただし、基板1および2の材質はこれに限るものではなく、基板1および2のうち、少なくとも一方が透明な基板であればよい。なお、本表示素子における両基板間の間隔、すなわち誘電性物質層3の厚みは10μmである。ただし、両基板間の間隔はこれに限定されるものではなく、任意に設定すればよい。
図2は、櫛形電極4・5の配置および偏光板6・7の吸収軸方向を説明するための説明図である。この図に示すように、本表示素子では、櫛歯状に形成された櫛形電極4および5が対向配置されている。なお、櫛型電極4・5は、線幅5μm、電極間距離(電極間隔)5μmで形成されているが、これに限らず、例えば、基板1と基板2との間のギャップに応じて任意に設定することができる。また、櫛形電極4・5の材料としては、ITO(インジウム錫酸化物)等の透明電極材料、アルミニウム等の金属電極材料等、電極材料として従来公知の各種材料を用いることができる。
また、図2に示すように、両基板にそれぞれ設けられた偏光板6・7は、互いの吸収軸が直交するとともに、各偏光板における吸収軸と櫛形電極4・5における櫛歯部分の電極伸長方向とが約45度の角度をなすように備えられている。このため、各偏光板における吸収軸は、櫛形電極4・5の電界印加方向に対して、約45度の角度をなす。
誘電性物質層3は、非特許文献5および6に記載されているBABH8からなる。このBABH8の構造式は、下記構造式(1)で表される。
なお、両基板1・2の対向面上に、ラビング処理が施された配向膜を、必要に応じて形成してもよい。この場合、基板1側に形成される配向膜は、櫛形電極4・5を覆うように形成してもよい。
次に、本表示素子の表示原理について説明する。
上記のような構成からなる本表示素子において、誘電性物質層3の温度を、図示しない外部加温装置によって136.7℃以上161℃以下に制御する。この温度範囲では、BABH8は、格子定数が約6nmと光学波長より1桁以上も小さく、光学波長未満(可視光の波長未満)のスケールの、キュービック対称性(立方晶の対称性)を有する秩序構造からなるキュービック相(cubic phase,立方晶相)を示す。なお、非特許文献5には、図5〜図7に示すような、キュービック相の構造モデルが示されている。
上記したように、BABH8は、秩序構造が光学波長未満であるため透明である。すなわち、上記温度範囲において、電界無印加の場合には、誘電性物質層3は光学的に等方性を示す(巨視的に見て等方であればよい)。したがって、本表示素子は、直交ニコル下において良好な黒表示を行うことができる。
一方、誘電性物質層3の温度を136.7℃以上161℃以下に制御しながら、櫛形電極4・5間に電界を印加すると、キュービック対称性を有する構造に歪が生じ、光学的異方性を発現する。すなわち、BABH8は、上記の温度範囲において、電界無印加状態では光学的に等方性であり、電界印加により光学的異方性が発現する。
このように、本表示素子は、電界を印加することによってキュービック対称性を有する構造に歪が生じ、複屈折が発生するので、良好な白表示を行うことができる。なお、複屈折が発生する方向は一定であり、その大きさが電界印加によって変化する。また、櫛形電極4・5間に印加する電圧(電界)と透過率との関係を示す電圧透過率曲線は、上記のような広い温度範囲において、安定した曲線となる。
以上のように、本表示素子では、136.7℃以上161℃以下の約20Kの温度範囲において安定した電圧透過率曲線を得ることができる。このため、本表示素子では、温度制御を極めて容易に行うことができる。
なお、本表示素子は、等方相(いわゆる液体相)を用いない点が、従来の電気光学効果を用いた液晶表示素子と異なっている。ここで、等方相とは、分子の配向方向が等方的である相を意味する。すなわち、本表示素子における誘電性物質層3は熱的に安定な相であり、従来の等方相(いわゆる液体相)を用いた液晶表示素子のような急激な温度依存性が発現せず、温度制御が極めて容易である。なお、本表示素子と従来の液晶表示素子との相違点については、後でさらに詳しく説明する。
また、本表示素子は、キュービック対称性を有する構造に生じる歪、すなわち、媒質における光学的異方性の程度の変化を用いて表示を行うので、液晶分子の配向方向を変化させて表示を行う従来の液晶表示素子よりも、広視野角特性を実現できる。さらに、本表示素子は、複屈折が発生する方向が一定であり、光軸方向が変化しないため、より広い視野角特性を実現できる。
また、本表示素子は、微小領域の構造(結晶のような格子)の歪によって発現する異方性を用いて表示を行っている。このため、従来の液晶表示素子の表示原理のように、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響するといった問題がなく、1ms程度の高速応答を実現することができる。すなわち、従来の液晶表示素子の表示原理では液晶分子の配向方向の変化を利用していたため、液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響していたが、本表示素子では、微小領域の構造の歪を利用するため、液晶固有の粘度の影響が小さく、高速応答を実現することができる。したがって、本表示素子は、その高速応答性を利用して、例えばフィールドシーケンシャルカラー方式の表示装置に適用することもできる。
ここで、本表示素子と、従来の液晶表示素子との相違点について、詳しく説明する。
図3(a)および図3(b)は、従来の電気光学効果を用いた液晶表示素子の一例である液晶表示素子20の概略構成を示す説明図である。
これらの図に示すように、液晶表示素子20は、誘電性物質層3aの材質が本表示素子における誘電性物質層3の材質と異なる以外は、本表示素子と同様の構成である。すなわち、液晶表示素子20における誘電性物質層3aには、下記の構造式(2)を有する化合物が封入されている。なお、この化合物は、33.3℃未満でネマチック相を示し、それ以上の温度では等方相を示す。
この液晶表示素子20を、図示しない外部加温装置によってネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度(相転移温度よりもわずかに高い温度)に保ち、電界印加を行うことにより、透過率を変化させることができる。
なお、図3(a)は、ネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度に保った液晶表示素子20における、電界無印加状態での液晶分子の配向状態を示す説明図である。また、図3(b)は、ネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度に保った液晶表示素子20における、電界印加状態での液晶分子の配向状態を示す説明図である。
図3(a)に示すように、電界無印加状態では、上記化合物からなる誘電性物質層3aは等方相であるため、光学的に等方であり、液晶表示素子20の表示状態は黒表示となる。一方、電界印加時には図3(b)に示すように、電界が印加されている領域において、電界方向に上記化合物の分子の長軸方向が配向し、複屈折が発現するので、透過率を変調できる。
図3(c)は、液晶表示素子20をネマチック相−等方相の相転移直上近傍の温度に保ち、印加する電圧(電界)を変化させた場合の電圧透過率曲線である。この図に示すように、液晶表示素子20の透過率は、印加する電圧に応じて変化する。
ここで、非特許文献4によると、電界印加により発生する複屈折は、
△n=λBE2
で記述できる。なお、λは光の波長、Bはカー定数、Eは印加電界強度である。
そして、このカー定数Bは
B∝(T−Tni)−1
に比例する。
したがって、転移点(Tni)近傍では弱い電界強度で駆動できていたとしても、温度(T)が上昇するとともに急激に必要な電界強度が増大する。このため、相転移直上の温度では、約100V以下の電圧で、透過率を十分に変調させることができるが、相転移温度から十分遠い温度(相転移温度よりも十分に高い温度)では透過率を変調させるために必要な電圧が大きくなる。したがって、液晶表示素子20では、駆動温度範囲がネマチック相−等方相相転移点近傍に制限され、極めて高精度な温度制御(典型的には0.1K程度の範囲)が必要となる。
なお、上記の説明では、基板面に平行な方向に電界を印加する方式の液晶表示素子20について説明したが、他の方式でも同様である。例えば、図8(a)および図8(b)に示す液晶表示素子30のように、基板面法線方向に電界を印加する場合でも、高精度な温度制御が必要である。
液晶表示素子30では、液晶表示素子20における櫛形電極4および5に代えて、透明電極4aおよび5aが、基板1および2の対向面にそれぞれ備えられている。つまり、液晶表示素子30は、液晶表示素子20と同様、電気光学効果を用いた液晶表示素子の一例である。
この液晶表示素子30を、誘電性物質層3aに封入した媒質の相転移温度直上近傍の温度に保つと、電界無印加時には、図8(a)に示すように、誘電性物質層3aは等方相となり、電界印加時には、図8(b)に示すように、液晶分子の長軸方向が電界に垂直な方向に配向する。
このような構成の液晶表示素子30においても、液晶表示素子20の場合と同様に、相転移温度よりも十分に高い温度では、透過率を変調させるために必要な電圧(電界)が大きくなる。したがって、液晶表示素子30についても、極めて高精度な温度制御が必要となる。
これに対して、本表示素子は、上記したように、微小領域の構造(結晶のような格子)の歪によって発現する異方性を用いて表示を行っている。そして、BABH8は、136.7℃以上161℃以下の広い温度範囲でキュービック相を示し、この広い温度範囲(約24K)において安定した電圧透過率曲線が得られるので、本表示素子では温度制御が極めて容易となる。すなわち、本表示素子では、BABH8を、電界印加によって光学的異方性の程度が変化する状態であるキュービック相を示す温度に保つだけでよいので、温度制御を容易にすることができる。
次に、本表示素子および従来の液晶表示素子における、表示原理の相違点について、さらに詳しく説明する。
図4は、本表示素子および従来の液晶表示素子における、表示原理の違いを説明するための説明図であり、電界印加時および電界無印加時における屈折率楕円体の形状および方向を模式的に表したものである。なお、図4では、従来の液晶表示素子として、TN方式、VA(Vertical Alignment、垂直配向)方式、IPS(In Plane Switchig、面内応答)方式を用いた方式の液晶表示素子における表示原理を示している。
この図に示すように、TN方式の液晶表示素子は、対向する基板間に液晶層が挟持されており、両基板上にそれぞれ透明電極(電極)が備えられた構成である。そして、電界無印加時には、液晶層における液晶分子の長軸方向がらせん状に捻られて配向しているが、電界印加時には、液晶分子の長軸方向が電界方向に沿って配向する。この場合における平均的な屈折率楕円体は、図4に示すように、電界無印加時には長軸方向が基板面に平行な方向を向いており、電界印加時には長軸方向が基板面法線方向を向く。すなわち、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は楕円であり、電界印加によって、その長軸方向(屈折率楕円体の向き)が変化する。すなわち、屈折率楕円体が回転する。なお、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は、ほぼ変わらない。
また、VA方式の液晶表示素子は、TN方式と同様、対向する基板間に液晶層が挟持されており、両基板上にそれぞれ透明電極(電極)が備えられた構成である。ただし、VA方式の液晶表示素子では、電界無印加時には、液晶層における液晶分子の長軸方向が、基板面に対して略垂直な方向に配向しているが、電界印加時には、液晶分子の長軸方向が電界に垂直な方向に配向する。この場合における平均的な屈折率楕円体は、図4に示すように、電界無印加時には長軸方向が基板面法線を向いており、電界印加時には長軸方向が基板面に平行な方向を向く。すなわち、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は楕円であり、その長軸方向が変化する(屈折率楕円体が回転する)。また、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は、ほぼ変わらない。
また、IPS方式の液晶表示素子は、1つの基板上に対向する1対の電極が備えられており、両電極間の領域に液晶層が形成される構成である。そして、電界印加によって液晶分子の配向方向を変化させ、電界無印加時と電界印加時とで、異なる表示状態を実現できるようになっている。したがって、IPS方式の液晶表示素子でも、図4に示すように、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形状は楕円であり、その長軸方向が変化する(屈折率楕円体が回転する)。また、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形は、ほぼ変わらない。
このように、従来の液晶表示素子では、電界無印加時でも液晶分子が何らかの方向に配向しており、電界を印加することによってその配向方向を変化させて表示(透過率の変調)を行っている。すなわち、屈折率楕円体の長軸方向が電界印加によって回転(変化)することを利用して表示を行っている。また、電界無印加時と電界印加時とで、屈折率楕円体の形はほぼ変わらない。つまり、従来の液晶表示素子では、液晶分子の可視光以上における配向秩序度はほぼ一定であり、配向方向を変化させることによって表示を行っている。
これに対して、本表示素子では、上記のように、誘電性物質層3に封入する媒質としてBABH8(電界無印加時に光学的等方性を示し、電界印加によって光学的異方性が発現する媒質を用いる場合)を用いる場合、図4に示すように、電界無印加時には屈折率楕円体が従来の液晶表示素子とは異なり、球状となる。すなわち、電界無印加時には等方的(可視光以上のスケールでの配向秩序度≒0)である(光学的等方性を示す)。
そして、電界を印加することによって異方性(可視光以上のスケールでの配向秩序度>0)が発現して、屈折率楕円体が楕円になる(光学的異方性を示す)。すなわち、本表示素子では、電界無印加時には屈折率楕円体の形が等方的(nx=ny=nz)であり、電界印加によって屈折率楕円体の形に異方性(nx>ny)が発現する。ここで、nx,ny,nzは、それぞれ、基板面に平行であって両電極の対向方向に平行な方向、基板面に平行であって両電極の対向方向に直交する方向、基板面に垂直な方向、に対する屈折率を表している。
なお、可視光以上における配向秩序度≒0(配向秩序度がほとんど無い)というのは、可視光より小さいスケールで見た場合には、液晶分子などがある方向に並んでいる割合が多い(配向秩序がある)が、可視光より大きいスケールで見ると、配向方向が平均化されていて配向秩序が無いことを意味している。例えば、図7に示したキュービック相では、小さいスケールで見ると場所ごとにいくつかの液晶分子が並んでいるが、図7に示した立方体全体より大きいスケールで見ると配向方向は平均化されている。したがって、図7に示したキュービック相は、可視光以上のスケールで見た場合、配向秩序度はほとんど無いといえる。
すなわち、本発明において、可視光波長以上のスケールでの配向秩序度≒0とは、配向秩序度が可視光波長域、及び、可視光波長域より大きい波長の光に対して何ら影響を与えない程度に小さいことを示す。例えば、クロスニコル下で黒表示を実現している状態を示す。一方、本発明において、可視光波長以上のスケールでの配向秩序度>0とは、可視光波長以上のスケールでの配向秩序度が、ほぼゼロの状態よりも大きいことを示し、例えば、クロス二コル下で白表示を実現している状態を示す。(この場合、階調表示であるグレーも含まれる)。
また、上記電界印加時の屈折率楕円体の長軸方向は、電界方向に対して平行(誘電異方性が正の媒質の場合)、または、垂直(誘電異方性が負の媒質を用いる場合)となる。
これに対して、従来の液晶表示素子では、電界印加によって屈折率楕円体の長軸方向を回転させて表示を行うので、屈折率楕円体の長軸方向は、電界方向に対して平行または垂直になるとは限らない。
このように、本表示素子では、分子の配向方向は一定(電界印加方向は変化しない)であり、可視光以上における配向秩序度を変調させることによって表示を行っている。すなわち、本表示素子では、媒質そのものの光学的異方性(または可視光以上における配向秩序)の程度が変化する。したがって、本表示素子と従来の液晶表示素子とでは、表示原理が大きく異なっている。
なお、本表示素子では、誘電性物質層3に封入する媒質として、BABH8を用いたが、これに限るものではない。誘電性物質層3に封入する媒質は、物性上は液体ではなく、電界を印加することによって配向秩序度が変化する、すなわち、電界印加によって光学的異方性の程度が変化する媒質であればよい。
例えば、電界無印加時には光学的等方性を示し、電界印加により光学的異方性が発現する媒質を用いることができる。すなわち、電界無印加時には光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有しており、光学波長領域において透明な物質であって、電界印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する媒質を用いることができる。
あるいは、電界無印加時に光学的異方性を有し、電界印加により光学的異方性が消失して光学波長未満の配向秩序(秩序構造)となり、光学的等方性を示す媒質を用いてもよい。
したがって、例えば、BABH8以外の、キュービック相を示す分子からなる媒質を用いてもよく、あるいは、キュービック相以外の配向秩序(秩序構造)を有する分子からなる媒質を用いてもよい。また、例えば、コポリマー、両親媒性分子、デンドリマー分子、液晶などからなる媒質を用いてもよい。本表示素子の誘電性物質層3に用いることができる媒質のいくつかの例を、以下に媒質例として示す。
〔媒質例1〕スメクチックD相(SmD)
本表示素子(例えば図1及び図2に示した表示素子)の誘電性物質層3に封入する媒質として、液晶相の一つであるスメクチックD相(SmD)を示す分子からなる媒質を適用できる。
スメクチックD相を示す液晶性物質としては、例えば、ANBC16がある。なお、ANBC16については、非特許文献1(p.21,図1構造1(n=16))や、非特許文献6(p.888,Table1,化合物(compound no.)1,化合物1a,化合物1a−1)に記載されている。これらの分子構造を、以下に列挙する。
4’n-alkoxy-3’-nitro-biphenyl-4-carboxylic acids
n-15 Cr 127 SmC 187 Cub 198 SmA 204 I
この液晶性物質(ANBC16、上記化学構造式(3)においてn=16)は、171.0℃〜197.2℃の温度範囲において、スメクチックD相を示す。スメクチックD相は、複数の分子がジャングルジム(登録商標)のような三次元的格子を形成しており、その格子定数は数十nm以下であり、光学波長未満である。すなわち、スメクチックD相は、キュービック対称性を有しており、光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する。なお、本実施形態に示したANBC16の格子定数は約6nmである。このため、スメクチックD相は、光学的には等方性を示す。
また、ANBC16がスメクチックD相を示す上記の温度領域において、ANBC16からなる誘電性物質層3に電界を印加すれば、分子自身に誘電異方性が存在するため、分子が電界方向に向こうとして格子構造に歪が生じる。すなわち、誘電性物質層3に光学的異方性が発現する。
したがって、ANBC16を本表示素子の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。なお、ANBC16に限らず、スメクチックD相を示す物質であれば、電界印加時と電界無印加時とで光学的異方性の程度が変化するので、本表示素子の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
〔媒質例2〕液晶マイクロエマルション
本表示素子(例えば図1及び図2に示した表示素子)の誘電性物質層3に封入する媒質として、液晶マイクロエマルションを適用できる。ここで、液晶マイクロエマルションとは、山本らによって名づけられた、O/W型マイクロエマルション(油の中に水を界面活性剤で水滴の形で溶解させた系で、油が連続相となる)の油分子をサーモトロピック液晶分子で置換したシステム(混合系)の総称である(非特許文献2参照)。
液晶マイクロエマルションの具体例として、例えば、非特許文献2に記載されている、ネマチック液晶相を示すサーモトロピック液晶(温度転移形液晶)であるPentylcyanobiphenyl(5CB)と、逆ミセル相を示すリオトロピック液晶(lyotropic liquid crystal,濃度転移形液晶、ライオトロピック液晶)であるDidodecyl ammonium bromide(DDAB)の水溶液との混合系がある。この混合系は、図9および図10のような模式図で表される構造を有している。
また、この混合系は、典型的には逆ミセルの直径が50Å程度、逆ミセル間の距離が200Å程度である。これらのスケールは光学波長より一桁程度小さい。すなわち、上記の混合系(液晶マイクロエマルション)は光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する。また、逆ミセルが三次元空間的にランダムに存在しており、各逆ミセルを中心に5CBが放射状に配向している。したがって、上記の混合系は、光学的には等方性を示す。
そして、上記の混合系からなる媒質に電界を印加すれば、5CBに誘電異方性が存在するため、分子自身が電界方向に向こうとする。すなわち、逆ミセルを中心に放射状に配向していたため光学的に等方であった系に、配向異方性が発現し、光学的異方性が発現する。したがって、上記の混合系を本表示素子の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。なお、上記の混合系に限らず、電界無印加と電界印加時とで光学的異方性の程度が変化する液晶マイクロエマルションであれば、本表示素子の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
〔媒質例3〕リオトロピック液晶相
本表示素子(例えば図1及び図2に示した表示素子)の誘電性物質層3に封入する媒質として、特定の相を有するリオトロピック液晶(ライオトロピック液晶)を適用できる。ここで、リオトロピック液晶とは、一般に液晶を形成する主たる分子が、他の性質を持つ溶媒(水や有機溶剤など)に溶けているような他成分系の液晶を意味するものとする。また、上記の特定の相とは、電界印加時と電界無印加時とで、光学的異方性の程度が変化する相である。このような特定の相としては、例えば、非特許文献7に記載されているミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相がある。図11に、リオトロピック液晶相の分類図を示す。
両親媒性物質である界面活性剤には、ミセル相を発現する物質がある。例えば、イオン性界面活性剤である硫酸ドデシルナトリウムの水溶液やパルチミン酸カリウムの水溶液などは球状ミセルを形成する。また、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと水との混合液では、ノニルフェニル基が疎水基として働き、オキシエチレン鎖が親水基として働くことにより、ミセルを形成する。他にも、スチレン−エチレンオキシドブロック共重合体の水溶液でもミセルを形成する。
例えば、球状ミセルは、分子が空間的全方位にパッキングして(分子集合体を形成して)球状を示す。また、球状ミセルのサイズは、光学波長未満であるため、光学波長領域では異方性を示さず等方的に見える。すなわち、球状ミセルは、光学波長未満の秩序構造(配向秩序)を有する。しかしながら、このような球状ミセルに電界を印加すれば、球状ミセルが歪むため異方性を発現する。よって、球状ミセル相を示すリオトロピック液晶を、本表示素子の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。なお、球状ミセル相に限らず、他の形状のミセル相、すなわち、紐状ミセル相、楕円状ミセル相、棒状ミセル相などを示すリオトロピック液晶を誘電性物質層3に封入しても、略同様の効果を得ることができる。
また、濃度、温度、界面活性剤の条件によっては、親水基と疎水基が入れ替わった逆ミセルが形成されることが一般に知られている。このような逆ミセルは、光学的にはミセルと同様の効果を示す。したがって、逆ミセル相を示すリオトロピック液晶を、誘電性物質層3に封入する媒質として適用することにより、ミセル相を示すリオトロピック液晶を用いた場合と同等の効果を奏する。なお、媒質例2で説明した液晶マイクロエマルションは、逆ミセル相(逆ミセル構造)を示すリオトロピック液晶の一例である。
また、非イオン性界面活性剤ペンタエチレングリコール−ドデシルエーテル(Pentaethylenglychol-dodecylether、C12E5)の水溶液には、図11に示したような、スポンジ相やキュービック相を示す濃度および温度領域が存在する。このようなスポンジ相やキュービック相は、光学波長未満の秩序(配向秩序、秩序構造)を有しているので、光学波長領域では透明な物質である。すなわち、これらの相からなる媒質は、光学的には等方性を示す。そして、これらの相からなる媒質に電界を印加すると、配向秩序(秩序構造)に歪が生じて光学的異方性が発現する。したがって、スポンジ相やキュービック相を示すリオトロピック液晶も、本表示素子の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
〔媒質例4〕液晶微粒子分散系
本表示素子(例えば図1及び図2に示した表示素子)の誘電性物質層3に封入する媒質として、ミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相などの、電界印加時と電界無印加時とで光学的異方性の程度が変化する相を示す液晶微粒子分散系を適用できる。ここで、液晶微粒子分散系とは、溶媒中に微粒子を混在させた混合系である。
このような液晶微粒子分散系としては、例えば、非イオン性界面活性剤ペンタエチレングリコール−ドデシルエーテル(Pentaethylenglychol-dodecylether、C12E5)の水溶液に、表面を硫酸基で修飾した直径100Å程度のラテックス粒子を混在させた、液晶微粒子分散系がある。この液晶微粒子分散系では、スポンジ相が発現する。また、このスポンジ相の配向秩序(秩序構造)は光学波長未満である。したがって、上記媒質例3の場合と同様、上記の液晶微粒子分散系を、本表示素子の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
なお、上記のラテックス粒子を媒質例2の液晶マイクロエマルションにおけるDDABと置き換えることによって、媒質例2の液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることもできる。
また、溶媒中に分散させる微粒子は、1種または2種以上のものにより構成されることが好ましい。
また、平均粒子径が0.2μm以下の微粒子を用いることが好ましい。平均粒子径0.2μm以下の微小な大きさの微粒子を用いることにより、誘電性物質層3内における微粒子の分散性が安定し、長時間経っても微粒子が凝集したり、相が分離したりしない。したがって、例えば、微粒子が沈殿して局所的な微粒子のムラが生じることより、表示素子としてムラが生じることを充分に抑制できる。
また、各微粒子の粒子間距離は200nm以下であることが好ましく、190nm以下であることがさらに好ましい。
三次元的に分布した粒子に光を入射すると、ある波長において回折光が生じる。この回折光の発生を抑制すれば、光学的等方性が向上し、表示素子のコントラストが上昇する。
三次元的に分布した粒子による回折光は入射する角度にも依存するが、回折される波長λは概ねλ=2dで与えられる。ここで、dは粒子間距離である。
ここで、回折光の波長が400nm以下であれば、人間の目にほとんど認識されない。このため、λ≦400nmとすることが好ましく、その場合、粒子間距離dを200nm以下とすればよい。
さらに、国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l'Eclairage)では、人間の目で認識できない波長は380nm以下と定めている。このため、λ≦380nmとすることがさらに好ましく、その場合、粒子間距離dを190nm以下とすればよい。
また、粒子間距離が長いと粒子間の相互作用が充分に働かず、ミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相などの相が発現しにくくなるので、この観点からも、粒子間距離は200nm以下であることが好ましく、190nm以下であることがさらに好ましい。
また、誘電性物質層3における微粒子の濃度(含有量)を、この微粒子と誘電性物質層3に封入される媒質との総重量に対して、0.05wt%〜20wt%とすることが好ましい。誘電性物質層3における微粒子の濃度が0.05wt%〜20wt%となるように調製することにより、微粒子の凝集を抑制することができる。
なお、誘電性物質層3に封入する微粒子は特に限定されるものではなく、透明なものでも不透明なものでもよい。また、微粒子は、高分子などの有機質微粒子であってもよく、無機質微粒子や金属系微粒子などであってもよい。
有機質微粒子を用いる場合、例えば、ポリスチレンビーズ、ポリメチルメタクリレートビーズ、ポリヒドロキシアクリレートビーズ、ジビニルベンゼンビーズなどのポリマービーズ形態の微粒子を用いることが好ましい。また、これらの微粒子は架橋されていてもよく、架橋されていなくてもよい。無機質微粒子を用いる場合、例えば、ガラスビーズやシリカビーズ等の微粒子を用いることが好ましい。
金属系微粒子を用いる場合、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属が好ましい。例えば、チタニア、アルミナ、パラジウム、銀、金、銅が好ましく、これらの金属あるいはこれら金属元素の酸化物などからなる微粒子を用いることが好ましい。これら金属系微粒子は1種類の金属のみで用いてもよいし、2種類以上の金属を合金化、複合化して形成してもよい。例えば、銀粒子の周りをチタニアやパラジウムで覆ってもよい。銀粒子だけで金属微粒子を構成すると、銀の酸化により表示素子の特性が変化する恐れがあるが、パラジウムなどの金属で表面を覆うことにより銀の酸化が防げる。また、ビーズの形態の金属系微粒子はそのまま用いても良く、加熱処理したものや、ビーズ表面に有機物を付与したものを用いてもよい。付与する有機物としては液晶性を示すものが好ましい。例えば下記の構造式(4)からなる化合物が好ましい。
ここで、nは0〜2の整数である。
また、6員環Aは、下記の官能基のいずれかが好ましい。
また、6員環B,Cは、1,4−フェニレン基、または、1,4−トランスシクロヘキシル基(trans−1,4−シクロヘキシレン基)等の6員環構造を有する置換基を示す。ただし、6員環B,Cは、上記例示の置換基にのみ限定されるものではなく、下記構造
を有する置換基のうち、何れか一種の置換基を有していればよく、互いに同じであっても異なっていても構わない。なお、上記置換基において、mは1〜4の整数を示す。
また、上記構造式(4)におけるY1、Y2およびY3は、それぞれ、10個までの炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状のアルキル基またはアルケニル基であり、この基中に存在する1個のCH2基または隣接していない2個のCH2基は、−O−、−S−、−CO−O−および/または−O−CO−、により置き換えられていてもよく、単結合、―CH2CH2―、―CH2O―、―OCH2―、―OCO―、―COO―、―CH=CH―、―C≡C―、―CF=CF―、―(CH2)4―、―CH2CH2CH2O―、―OCH2CH2CH2―、―CH=CHCH2CH2O―、―CH2CH2CH=CH―を含んでいてもよい。また、キラル炭素を含んでいてもよく、含まなくてもよい。また、Y1、Y2およびY3は、上記したいずれかの構造を有していれば、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
また、上記構造式(4)におけるRは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基を表す。
また、金属微粒子の表面に付与する有機物は、金属1モルに対して1モル以上50モル以下の割合であることが好ましい。
上記の有機物を付与した金属系微粒子は、例えば、金属イオンを溶媒に溶解または分散してから、上記有機物と混合し、これを還元することによって得られる。上記溶媒としては水、アルコール類、エーテル類を用いることができる。
また、分散させる微粒子としてフラーレン、および/または、カーボンナノチューブで形成されたものを用いてもよい。フラーレンとしては、炭素原子を球殻状に配置したものであればよく、例えば炭素原子数nが24から96の安定した構造のものが好ましい。このようなフラーレンとしては、例えば、炭素原子60個からなるC60の球状閉殻炭素分子群などが上げられる。また、カーボンナノチューブとしては、例えば、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒形状のナノチューブなどが好ましい。
また、微粒子の形状は特に限定されるものではなく、例えば、球状、楕円体状、塊状、柱状、錐状や、これらの形態に突起を持った形態、これらの形態に孔が開いている形態などであってもよい。また、微粒子の表面形態についても特に限定されるものではなく、例えば、平滑でも良く、凹凸や孔、溝を有していてもよい。
〔媒質例5〕デンドリマー
本表示素子(例えば図1及び図2に示した表示素子)の誘電性物質層3に封入する媒質として、デンドリマー(デンドリマー分子)を適用できる。ここで、デンドリマーとは、モノマー単位ごとに枝分かれのある三次元状の高分岐ポリマーである。
デンドリマーは、枝分かれが多いために、ある程度以上の分子量になると球状構造となる。この球状構造は、光学波長未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学波長領域では透明な物質であり、電界印加によって配向秩序の程度が変化して光学的異方性が発現する(光学的異方性の程度が変化する)。したがって、デンドリマーを、本表示素子の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
また、上記媒質例2の液晶マイクロエマルションにおけるDDABを、デンドリマー物質に置き換えることにより、上記媒質例2の液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることができ、本表示素子の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
〔媒質例6〕コレステリックブルー相
本表示素子(例えば図1及び図2に示した表示素子)の誘電性物質層3に封入する媒質として、コレステリックブルー相を示す分子からなる媒質を適用できる。なお、図11には、コレステリックブルー相の概略構造が示されている。
図11に示したように、コレステリックブルー相は、高い対称性の構造を有している。また、コレステリックブルー相は、光学波長未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学波長領域では概ね透明な物質であり、電界印加によって配向秩序の程度が変化して光学的異方性が発現する(光学的異方性の程度が変化する)。すなわち、コレステリックブルー相は、おおむね光学的に等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。よって、コレステリックブルー相を示す分子からなる媒質を、本表示素子の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
なお、コレステリックブルー相を示す物質としては、例えば、JC1041(混合液晶、チッソ社製)を48.2mol%、5CB(4-cyano-4’-pentyl biphenyl、ネマチック液晶)を47.4mol%、ZLI−4572(カイラルドーパント、メルク社製)を4.4mol%混合した物質がある。この物質は、330.7Kから331.8Kの温度範囲で、コレステリックブルー相を示す。
また、コレステリックブルー相を示す他の物質として、例えば、ZLI−2293(混合液晶、メルク社製)を67.1wt%、P8PIMB(1,3-phenylene bis[4-(4-8-alkylphenyliminomethyl-benzoate、バナナ型(屈曲型)液晶、下記構造式(7)参照)を15wt%、MLC−6248(カイラル剤、メルク社製)を17.9wt%混合した物質を用いてもよい。この物質は、77.2℃から82.1℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
また、上記の各物質の混合比を適宜変更して用いてもよい。例えば、ZLI−2293を69.7wt%、P8PIMBを15wt%、MLC−6248(カイラル剤)を15.3wt%混合した物質は80.8℃から81.6℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
また、コレステリックブルー相を示すさらに他の物質として、例えば、ZLI−2293(混合液晶、メルク社製)を67.1wt%、MHPOBC(4-(1-methylheptyloxycarbonyl)phenyl-4’-octylcarboxybiphenyl-4-carboxylate、直線状液晶、下記構造式(8)参照)を15wt%、MLC−6248(カイラル剤、メルク社製)を17.9wt%混合した物質を用いてもよい。この物質は、83.6℃から87.9℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
また、上記の各物質の混合比を適宜変更して用いてもよい。例えば、ZLI−2293を69.7wt%、MHPOBCを15wt%、MLC−6248(カイラル剤)を15.3wt%混合した物質は87.8℃から88.4℃の温度範囲でコレステリックブルー相を示す。
なお、ZLI−2293とMLC−6248とを混合するだけではコレステリックブルー相を発現させることはできなかったが、バナナ型(屈曲型)をした液晶P8PIMBや直線状液晶MHPOBCを添加することによりコレステリックブルー相を示した。
また、上記の例では、直線状液晶としてラセミ体を用いたが、必ずしもラセミ体に限定されるものではなく、カイラル体を用いてもよい。またカイラル炭素を1つ、あるいは複数以上含んでいてよい。また、直線状液晶を用いる場合、直線状液晶MHPOBCのように反傾構造(一層ごとに異なる方向を向いている)を持つものを用いることが好ましい。
また、直線状液晶とは、化学構造式においてほぼ横長の直線に近い液晶分子を表すために用いた総称であり、実際の立体配置は化学構造式のように一平面内にあるとは限らず、折れ曲がっていることがあることはいうまでもない。
また、バナナ型(屈曲型)液晶とは、化学構造式において屈曲部を有する液晶分子を表わすために用いた総称であり、P8PIMBに限定されるものではない。例えば、化学構造式における屈曲部が、フェニレン基などのベンゼン環であってもよく、あるいは、ナフタレン環やメチレン鎖などで結合されてなるものであってもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(9)〜(12)に示す化合物が挙げられる。
また、アゾ基が含まれているバナナ型(屈曲型)液晶を用いてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(13)に示す化合物などが挙げられる。
また、上記した各バナナ型(屈曲型)液晶は結合部(屈曲部)の左右で対称的な化学構造を持っているが、これに限らず、結合部の左右で非対称な化学構造を持っていてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(14)に示す化合物が挙げられる。
また、上記した各バナナ型(屈曲型)液晶分子はカイラル炭素を含んでいないが、必ずしもこれに限定されるものではなく、カイラル炭素を1つ、あるいは複数含んでいてもよい。このようなバナナ型(屈曲型)液晶としては、例えば、下記構造式(15)に示す化合物が挙げられる。
また、上記したように、本発明に適したコレステリックブルー相は光学波長未満の欠陥秩序を有しているので、光学波長領域では概ね透明であり、概ね光学的に等方性を示す。ここで、概ね光学的に等方性を示すというのは、コレステリックブルー相は液晶の螺旋ピッチを反映した色を呈するが、この螺旋ピッチによる呈色を除いて、光学的に等方性を示すことを意味する。なお、螺旋ピッチを反映した波長の光を選択的に反射にする現象は、選択反射と呼ばれる。この選択反射の波長域が可視域に無い場合には呈色しない(呈色が人間の目に認識されない)が、可視域にある場合にはその波長に対応した色を示す。
ここで、400nm以上の選択反射波長域または螺旋ピッチを持つ場合、コレステリックブルー相(ブルー相)では、その螺旋ピッチを反映した色に呈色する。すなわち、可視光が反射されるので、それによって呈する色が人間の目に認識されてしまう。したがって、例えば、本発明の表示素子でフルカラー表示を実現してテレビなどに応用する場合、その反射ピークが可視域にあるのは好ましくない。
なお、選択反射波長は、上記媒質の持つ螺旋軸への入射角度にも依存する。このため、上記媒質の構造が一次元的ではないとき、つまりコレステリックブルー相のように三次元的な構造を持つ場合には、光の螺旋軸への入射角度は分布を持ってしまう。したがって、選択反射波長の幅にも分布ができる。
このため、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチは可視域以下、つまり400nm以下であることが好ましい。ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチが400nm以下であれば、上記のような呈色が人間の目にほとんど認識されない。
また、国際照明委員会CIE(Commission Internationale de l'Eclairage)では、人間の目の認識できない波長は380nm以下であると定められている。したがって、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチが380nm以下であることがより好ましい。この場合、上記のような呈色が人間の目に認識されることを確実に防止できる。
また、上記のような呈色は、螺旋ピッチ、入射角度だけでなく、誘電性媒質の平均屈折率とも関係する。このとき、呈色する色の光は波長λ=nPを中心とした波長幅Δλ=PΔnの光である。ここで、nは平均屈折率、Pは螺旋ピッチである。また、Δnは屈折率の異方性である。
Δnは、誘電性物質によりそれぞれ異なるが、例えば液晶性物質を上記誘電性物質層3に封入する物質として用いた場合、液晶性物質の平均屈折率は1.5程度、Δnは0.1程度なので、この場合、呈色する色が可視域にないためには、螺旋ピッチPは、λ=400nmとすると、P=400/1.5=267nmになる。また、ΔλはΔλ=0.1×267=26.7になる。したがって、上記のような呈色が人間の目にほとんど認識されないようにするためには、上記媒質の螺旋ピッチを、267nmから26.7nmの約半分である13.4nmを引いた253nm以下にすればよい。すなわち、上記のような呈色を防止するためには、上記媒質の螺旋ピッチが253nm以下であることが好ましい。
また、上記の説明では、λ=nPの関係において、λを400nmとしたが、λを国際照明委員会CIEが人間の目の認識できない波長として定めている380nmとした場合には、呈色する色が可視域外とするための螺旋ピッチは240nm以下となる。すなわち、上記媒質の螺旋ピッチを240nm以下とすることにより、上記ような呈色を確実に防止することができる。
例えば、JC1041(混合液晶、チッソ社製)を50.0wt%、5CB(4-cyano-4’-pentyl biphenyl、ネマチック液晶)を38.5wt%、ZLI−4572(カイラルドーパント、メルク社製)を11.5wt%混合した物質がある。この物質は、約53℃以下で液体的な等方相から光学的な等方相に相転移するが、螺旋ピッチが約220nmであり、可視域以下にあるために呈色しなかった。
上述のように、本発明に適したコレステリックブルー相は光学波長未満の欠陥秩序を有している。欠陥構造は隣り合う分子が大きく捩れていることに起因していているので、コレステリックブルー相を示す誘電性媒質は大きなねじれ構造を発現させるためにカイラル性を示す必要がある。大きな捩れ構造を発現させるためには、誘電性媒質にカイラル剤を加えることが好ましい。
カイラル剤の濃度としてはカイラル剤の持つ捩れ力にもよるが、8wt%または4mol%以上であることが好ましい。カイラル剤の割合が8wt%または4mol%以上とすることにより、コレステリックブルー相の温度範囲が約1℃以上になった。カイラル剤の割合が8wt%または4mol%未満の場合は、コレステリックブルー相の温度範囲が狭くなった。
また、カイラル剤の濃度が11.5wt%以上であることが、さらに好ましい。カイラル剤の濃度が11.5wt%以上の場合、螺旋ピッチが約220nmになり呈色しなかった。
また、カイラル剤の濃度は15wt%以上であることが、さらに好ましい。バナナ型(屈曲型)液晶や反傾構造をもつ直線状液晶を添加することによりコレステリックブルー相を発現させる場合、カイラル剤の濃度が15wt%以上であれば、コレステリックブルー相の温度範囲が約1℃になった。また、カイラル剤の濃度を17.9wt%に増やすことにより、コレステリックブルー相の温度範囲はさらに広がった。
このように、カイラル剤の濃度が高いとコレステリックブルー相を発現しやすくなり、さらにコレステリックブルー相が持つ螺旋ピッチも短くなるので好ましい。
ただし、カイラル剤の添加量が多くなり過ぎると、誘電性物質層3全体の液晶性が低下するという問題が生じる。液晶性の欠如は、電界印加時における光学的異方性の発生度合いの低下に繋がり、表示素子としての機能の低下を招く。また、液晶性が低下することにより、コレステリックブルー相の安定性の低下に繋がり、コレステリックブルー相の温度範囲の拡大が見込めなくなる。このため、カイラル剤の添加濃度の上限値が決まり、本願本発明者等の解析によれば、その上限濃度は80wt%であることがわかった。すなわち、カイラル剤の濃度は80wt%以下であることが好ましい。
また、本実施の形態では、カイラル剤としてはZLI−4572やMLC−6248を用いたが、これに限るものではない。一例として、S811(E.Merck社製)など市販品を用いてもよい。また、軸不斉のカイラル剤を用いても良い。軸不斉のカイラル剤としては、例えば、軸不斉ビナフチル誘導体(下記化合物(16)参照)を用いることができる。
ここで、nは4〜14の整数である。
なお、この化合物(16)はnが奇数の時に単独でブルー相を示すことがある。例えば、n=7の場合には約103℃から約94℃の範囲でブルー相を示す。したがって、この化合物(16)が単独でブルー相を示す(液晶性がある)場合には、誘電性物質層3に封入する媒質として、この化合物(16)を単独で用いても良いし、また、化合物(16)をカイラル剤として用いても良い。
なお、上記の説明では、コレステリックブルー相におけるカイラル剤添加による効果を述べてきたが、カイラル剤添加による上記の効果はコレステリックブルー相に限定されるものではなく、スメクチックブルー相やネマチック相等の液晶相を示す誘電性媒質においても、略同様の効果を得ることができる。
〔媒質例7〕スメクチックブルー(BPSm)相
本表示素子(例えば図1及び図2に示した表示素子)の誘電性物質層3に封入する媒質として、スメクチックブルー(BPSm)相を示す分子からなる媒質を適用できる。なお、図11には、スメクチックブルー相の概略構造が示されている。
図11に示したように、スメクチックブルー相は、コレステリックブルー相と同様、高い対称性の構造を有している。また、光学波長未満の秩序(秩序構造、配向秩序)を有しているので、光学波長領域では概ね透明な物質であり、電界印加によって配向秩序の程度が変化して光学的異方性が発現する(光学的異方性の程度が変化する)。すなわち、スメクチックブルー相は、おおむね光学的に等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。よって、スメクチックブルー相を示す分子からなる媒質を、本表示素子の誘電性物質層3に封入する媒質として適用できる。
なお、スメクチックブルー相を示す物質としては、例えば、非特許文献8に記載されているFH/FH/HH−14BTMHCがある。この物質は、74.4℃〜73.2℃でBPSm3相、73.2℃〜72.3℃でBPSm2相、72.3℃〜72.1℃でBPSm1相を示す。
また、スメクチックブルー相を示す媒質を用いる場合には、コレステリックブルー相を示す媒質を用いる場合と同様、ブルー相の選択反射波長域または螺旋ピッチは400nm以下であることが好ましく、380nm以下であることがより好ましい。さらに、螺旋ピッチは253nm以下であることが好ましく、240nm以下であることがより好ましい。
また、本表示素子の誘電性物質層3に用いる媒質としては、光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有していて、電界印加により光学的異方性の程度が変化する媒質であればよく、スメクチックブルー相やコレステリックブルー相に類似した相を持つ物質でもよい。
スメクチックブルー相やコレステリックブルー相に類似した相を示す物質としては、例えば下記の化合物(17)および(18)の混合物があげられる。
ここで、Lは2〜10の整数を表し、mは2〜14の整数を表し、nは0〜6の整数である。
なお、化合物(17)と化合物(18)とを混合する場合には、2×(n+1)=mの関係を満たすように混合することが好ましい。また、化合物(17)と化合物(18)との混合割合は、適宜設定すればよい。例えばL=6、m=6、n=2の場合、化合物(17)と化合物(18)とを等量混合すると、スメクチックブルー相に類似した相(光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する相)を約143℃から約130℃の範囲で示す。また、L=6、m=6、n=2の場合に、化合物(17)を30%、化合物(18)を70%の割合で混合したときには、約132℃から約120℃の範囲で光学波長未満の配向秩序(秩序構造)を有する相を示す。
また、誘電性物質(誘電性物質層3に封入する媒質)のネマティック相状態における、550nmでの屈折率異方性をΔnとし、1kHzでの誘電率異方性をΔεとすると、Δn×Δεが2.9以上であることが好ましい。
ここで、屈折率異方性(Δn)は、電界印加時の楕円(屈折率楕円体)の主軸方向(すなわち、光波の偏光の成分方向)の屈折率(異常光屈折率)をne、上記楕円の主軸方向に垂直な方向の屈折率(常光屈折率)をnoとすると、Δn=ne−noで表される。すなわち、本発明において、上記屈折率異方性(Δn)は、Δn=ne−no(ne:異常光屈折率、no:常光屈折率)で示される複屈折変化を示す。
また、誘電率異方性(誘電率変化)(Δε)は、誘電率の異方性を示し、液晶分子の長軸方向における誘電率をεe、液晶分子の短軸方向における誘電率をεoとすると、Δε=εe−εoで表される値である。
次に、誘電性物質層3に上記媒質例4の液晶微粒子分散系を封入した本表示素子について行った、駆動電圧の測定結果について説明する。
溶媒としては上記化合物(2)を用いた。この誘電性物質(液晶微粒子分散系)のΔn×Δεは約2.2であった。また、誘電性物質層3の厚みを10μm、櫛型電極4・5の電極間距離を3.3μmで形成した。なお、上記屈折率異方性Δnは、アッベ屈折計(アタゴ製「4T(商品名)」)を使用し、波長550nmにて測定した。また、上記誘電率異方性Δεは、インピーダンスアナライザー(東陽テクニカ社製「SI1260(商品名)」)を使用し、周波数1kHzにて測定した。
このように形成した本表示素子について、駆動電圧を変化させながら透過率を測定したところ、透過率が最大となる駆動電圧は約28Vであった(図12参照)。
ところで、非特許文献4によると、電界印加により発生する複屈折△n(E)は、
△n(E)=λBE2
で記述できる。ここで、λは光の波長、Bはカー定数、Eは印加電界強度である。
また、複屈折が変化することにより透過率Tは下式のように変化する。
T=sin2(π×Δn(E)×d/λ)=sin2(πBE2d)
ここで、dは誘電性物質層3の厚さである。
したがって、上式より、透過率が最大になるのは、πBE2d=π/2
の場合である。
また、上式よりΔB=Δn(E)/λE2=ΔnQ(E)/λE2
である。ここで、Q(E)は配向秩序パラメータである。
また、非特許文献4によると、Q∝Δε×E2である。
よって、透過率が最大となる駆動電圧Vは、櫛型電極4・5の電極間距離をSとすると、
V=ES=S×sqrt(1/(2×B×d))∝S×sqrt(1/(Δn×Δε)×d)
になる。
以上の結果をもとに、上記誘電性物質を本表示素子に封入して測定した電圧−透過率特性、及び、上記駆動電圧とΔn×Δεの関係式から見積もった、透過率が最大となる電圧値(V(V))と、Δn×Δεとの関係を図12に示す。
図12に示すように、屈折率異方性Δnと誘電率異方性Δεとの積(Δn×Δε)が2.9以上の誘電率物質を使用し、誘電性物質層3の厚みを10μm、櫛型電極4・5の電極間距離を3.3μmとした場合、透過率が最大となる駆動電圧は24Vになる。
本表示素子をアクティブマトリクス駆動の表示装置に適用する場合には、櫛歯電極4・5に印加する電界のON/OFFを切り替えるスイッチング素子(TFT素子)を用いる。スイッチング素子(TFT素子)のゲート電極の膜厚と膜質とを最適化した場合に、ゲート電極に印加することが可能な耐圧(電圧)を測定したところ、最大で63Vであった。したがって、この耐圧からゲート電極の電位がHigh(すなわち、ゲート電極ON)のときの電圧10Vおよびゲート電極の電位がLow(すなわち、ゲート電極OFF)のときの電圧−5V分を差し引いた48Vpp(63−10−5=48Vpp(peak-to-peak))が、誘電性物質層3に印加することができる最大限の電圧値である。この電圧値は、実効値(rms:root-mean-square)で言えば±24Vになる。
したがって、誘電性物質層3の厚みを10μm、櫛型電極4・5の電極間距離を3.3μmとする場合には、屈折率異方性Δnと誘電率異方性Δεとの積(Δn×Δε)が2.9以上の誘電率物質を使用することにより、スイッチング素子の耐圧範囲内で、透過率を最大とすることができる。
なお、Δn×Δεが2.9以上の誘電率物質としては、例えば、化合物(19)があげられる。
ここで、Rはアルキル基を表す。化合物(19)はΔεが約25、Δnが約0.15であり、Δn×Δε=3.75にある。
また、櫛歯電極構造の本表示素子において、さらに透過率が最大となる駆動電圧を下げるためには、櫛歯電極間隔を狭くすることが考えられるが、製造上の精度やプロセスマージン、プロセスコスト等の制限から、櫛歯電極間隔を狭くすることには限界がある。
また、櫛歯電極構造の本表示素子において、さらに駆動電圧を下げるためには、誘電性物質層3の厚さをさらに厚くすることも考えられる。しかしながら、誘電性物質層の厚さを単純に厚くしても、電界が印加される厚みは、必ずしも誘電性物質層の厚さの増加分だけ増えるわけではない。このため、誘電性物質層3の厚みを10μmから、さらに厚くしても駆動電圧の低減には効果的ではない。
また、本実施の形態においては、上記媒質の光学的異方性の程度を変化させる手段として、主に、電界の印加を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、電界以外の外場を印加することにより、外場印加時と無印加時とで、光学的異方性の程度を変化させてもよい。後述する他の実施例についても同様である。
例えば、電界を印加する代わりに、磁場を印加するようにしてもよい。すなわち、本発明にかかる表示素子は、少なくとも一方が透明な一対の基板間に挟持された媒質に、外場を印加することによって表示を行う表示素子であって、上記媒質は、外場を印加することによって光学的異方性の程度が変化するものであってもよい。
この場合、媒質の磁気異方性を用いることにより、磁場印加時と無印加時とで媒質の光学的異方性の程度を変化させることになる。このため、媒質としては、磁化率の異方性の大きいものが好ましい。
有機分子の場合、磁化率への寄与のほとんどは反磁性磁化率によるものなので、磁界の変化によってπ電子が分子内で環状に運動できる場合に、その絶対値が大きくなる。したがって、例えば分子内に芳香環がある場合に、磁界の方向に対して芳香環が垂直に向くような場合に磁化率の絶対値が大きくなる。この場合、芳香環の水平面方向の磁化率の絶対値は垂直方向に比べて小さいので、磁化率の異方性が大きくなる。よって、媒質は分子内に6員環などの環状構造があるものが好ましい。
また、磁化率の異方性を上げるには媒質内の電子スピンを配列させることも好ましい。分子内にNやOやNOのラジカルの電子スピンを導入することにより、分子が安定なスピンを持つことができる。スピンを平行に配列させるためには、例えば平面上の共役系分子を積み重ねることにより実現できる。例えば、中心のコア部分が積み重なりカラムを形成しているディスコチック液晶が好適である。
また、上記媒質の光学的異方性の程度を変化させるための外場として、光を用いることもできる。この場合、外場として用いる光の波長は特に限定されるものではないが、例えばNd:YAGレーザーで532nmの光を発振させて媒質に照射することにより、媒質の光学的異方性の程度を変化させることができる。
この場合に用いる媒質は、特に限定されるものではなく、光照射により光学的異方性の程度が変化する媒質であればよい。例えば、上記した電界を用いる場合の各媒質例と同様のものを用いることができる。また、ペンチルシアノビフェニル(5CB、上記構造式(2))を用いてもよい。
また、外場として光を用いる場合、媒質中に色素が少量含まれていることが好ましい。色素を少量添加することにより、色素を添加しない場合に比べて、光学的異方性の程度の変化が大きくなる。なお、媒質中における色素の含有量は0.01wt%以上、5%未満であることが好ましい。0.01%未満だと、色素の量が少ないために光学的異方性の程度の変化にほとんど寄与せず、5%以上だと励起光が色素に吸収されてしまうからである。
例えば、ペンチルシアノビフェニル(5CB)をそのまま媒質として用いてもよいが、この物質に色素を加えたものを媒質として用いてもよい。加える色素としては特に限定されるものではないが、色素の吸収帯が励起光の波長を含むものが好ましい。例えば、1AAQ(1-amino-anthroquinone、アルドリッチ(Aldrich)社製、下記化学構造式(20)参照)を加えてもよい。
ペンチルシアノビフェニル(5CB)に、1AAQを0.03%加えることにより、光励起による光学的異方性の程度の変化は、1AAQを加える前に比べて10倍程度大きくなった。
なお、電界以外の外場を印加することによって媒質の光学的異方性の程度を変化させる構成においても、電界を印加することによって媒質の光学的異方性の程度を変化させる構成と同様、媒質の選択反射波長域または螺旋ピッチは400nm以下であることが好ましい。
また、上記表示素子において、上記光学的異方性を発生させる手段としては、上記したように、例えば電界、磁場、光等が挙げられるが、そのなかでも、電界が、上記表示素子の設計および駆動制御が容易であることから好ましい。
したがって、上記表示素子は、外場印加手段として、例えば、電極等の電界印加手段や、電磁石等の磁場印加手段等を備えていてもよく、上記外場印加手段としては、上記表示素子の設計および駆動制御の点から、電界印加手段であることが好ましい。
なお、本発明において、上記外場印加手段としては、外場の印加前後で上記媒質の光学的異方性の程度を変化させることができるものであれば特に限定されるものではなく、上記外場印加手段としては、電極等の電界印加手段や、電磁石等の磁場印加手段の他に、レーザ装置、例えば上記Nd:YAGレーザ等の光照射手段(励起光生成手段)等を用いることができる。
よって、本発明において、上記外場印加手段は、上記表示素子自身が備えていてもよく、上記表示素子とは別に設けられていてもよい。
つまり、本発明にかかる表示装置は、上記外場印加手段が設けられた表示素子を備えるものであってもよく、上記表示素子とは別に上記外場印加手段を備えているものであってもよい。言い換えれば、上記表示装置は、本発明にかかる上記表示素子と、該表示素子における媒質に外場を印加する外場印加手段とを備えている構成を有していてもよい。
また、本発明の表示素子では、光学的異方性の程度が変化する媒質として、例えば、電界(外場)を印加することによって秩序構造(配向秩序)が変化し、光学的異方性の程度が変化するものを用いることができる。例えば、電界(外場)印加時または無印加時に光学波長以下の秩序構造を有し、電界印加によって秩序構造が変化して光学的異方性の程度が変化する媒質を用いてもよい。あるいは、電界(外場)無印加時に光学的異方性を示す秩序構造を有し、電界印加によって秩序構造が変化して光学的異方性の程度が変化する媒質を用いてもよい。つまり、本発明の表示素子は、少なくとも一方が透明な一対の基板間に挟持された媒質に電界(外場)を印加することによって表示を行う表示素子であって、上記媒質は、電界を印加することによって秩序構造が変化して光学的異方性の程度が変化するものであってもよい。
なお、本発明において、電界の印加により媒質の光学異方性の程度が変化するとは、前記したように、電界の印加に伴って屈折率楕円体の形状が変化することを示す。例えば、上記したように電界無印加時に光学的等方性を示し、電界を印加することによって光学的異方性の程度が変化する場合、つまり、電界を印加することによって光学的異方性が発現する場合、屈折率楕円体の形状は、電界の印加により、球状から楕円に変化する。また、上記媒質が電界無印加時に光学的異方性を示し、電界印加時に光学的等方性を示す場合、屈折率楕円体の形状は、電界の印加により、楕円から球状に変化する。また、上記媒質が、電界無印加時に光学的異方性を示し、電界を印加することによって、電界印加前と比較して光学的異方性の程度が大きくなるか、あるいは、小さくなる場合、屈折率楕円体の長軸方向あるいは短軸方向の長さが電界の印加により伸縮し、電界印加前後で長軸および短軸の割合が変化する(この結果、例えば曲率が変化する)。これにより、例えば、電界印加後に光学的異方性の程度がより大きくなる場合、電界印加により、電界印加前(電界無印加時)よりも短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比率がより大きな楕円となる。また、電界印加後に光学的異方性の程度がより小さくなる場合、電界印加により、電界印加前(電界無印加時)よりも短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比率がより小さな楕円(つまり、上記比率が1に近づく(ほぼ球状も含む))となる。
この場合、液晶分子の配向方向の変化を利用する従来の液晶表示素子のように液晶固有の粘度が応答速度に大きく影響することがないので、従来の液晶表示素子よりも高速応答を実現できる。
また、この場合、上記媒質を、外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態(外場を印加することによって秩序構造に歪みが生じ、光学的異方性の程度が変化する状態)となる温度に保つだけでよいので、温度制御を容易にすることができる。つまり、例えば上記した特許文献1に記載されているような、電界印加による有極性分子における電子の偏りを利用する従来の電気光学効果を利用した表示装置では、駆動温度範囲が液晶相の相転移点近傍の温度に制限され、極めて高精度な温度制御が必要であるという問題があった。これに対して、上記の構成によれば、上記媒質を、外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態となる温度に保つだけでよいので、温度制御を容易にすることができる。
例えば、上記したBABH8を上記媒質として用いる場合、24.3Kの温度範囲(136.7℃〜161℃)において、上記媒質を、電界(外場)印加によって光学的異方性の程度が変化する状態に保つことができる。また、上記したANBC16を上記媒質として用いる場合、26.2Kの温度範囲(171.0℃〜197.2℃)において、上記媒質を、電界(外場)印加によって光学的異方性の程度が変化する状態に保つことができる。なお、上記媒質が外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態となる温度範囲の上限は特に限定されるものではなく、上記した各媒質よりもさらに広い温度範囲で所定の秩序構造を示す媒質を用いてもよい。また、上記媒質が外場印加時または外場無印加時に所定の秩序構造を示す状態となる温度範囲の下限は0.1Kよりも大きいことが好ましく、1K以上であることがより好ましい。
また、本発明の表示素子に用いられる媒質は、電界(外場)を印加することによって光学的異方性の程度が変化するものであればよく、必ずしもカー効果を示す媒質、すなわち電界の2乗に比例して屈折率が変化する媒質である必要はない。
〔実施例2〕
本表示素子において、誘電性物質層3に封入する物質を、透明な誘電性物質である4’-n-alkoxy-3’-nitrobiphenyl-4-carboxylic acids (ANBC−22)とした。ANBC−22の化学構造は化合物(3)(n=22)である。
なお、基板1および2には、ガラス基板を用いた。また、両基板間の間隔は、ビーズをあらかじめ散布しておくことにより、4μmになるように調整した。すなわち、誘電性物質層3の厚さを4μmとした。
櫛形電極4・5は、ITOからなる透明電極とした。また、両基板の内側(対向面)には、ラビング処理を施したポリイミドからなる配向膜を形成した。ラビング方向はスメクチックC相において明状態となる方向が望ましく、典型的には偏光板軸方向と45度の角度をなしていることが望ましい。なお、基板1側の配向膜については、櫛形電極4・5を覆うように形成した。
偏光板6・7は、図2に示したように、互いの吸収軸が直交するとともに、各偏光板における吸収軸と櫛形電極4・5における櫛歯部分の電極伸長方向とが約45度の角度をなすように、それぞれ基板1および2の外側(対向面の反対側)に設けた。
このようにして得られた表示素子は、スメクチックC相―キュービック相相転移温度よりも低温側の温度では、スメクチックC相となる。なお、スメクチックC相は、電界無印加状態において光学的異方性を示す。
そして、この表示素子を、外部加温装置によりスメクチックC相−キュービック相の相転移近傍の温度(相相転移温度の低温側10K程度まで)に保ち、電界印加(50V程度の交流電場(0より大きく数百kHzまで))を行ったところ、透過率を変化させることができた。すなわち、電界無印加時に光学的異方性を示すスメクチックC相(明状態)に、電界を印加することにより、等方的なキュービック相(暗状態)に変化させることができた。すなわち、上記の表示素子は、電界無印加時に光学的異方性を示し、電界を印加することによって光学的等方性を示す。なお、この場合、屈折率楕円体は楕円(電界無印加時)から球状(電界印加時)に変化する。
なお、各偏光板の吸収軸と櫛形電極がなす角度は45度に限らず、0〜90度のあらゆる角度で表示を行うことが出来た。なぜなら、明状態は電界無印加時で実現しており、ラビング方向と偏光板吸収軸方向の関係だけで達成できる。また、暗状態は電界印加による媒質の光学的等方相への電界誘起相転移で実現しているために、各偏光板吸収軸が互いに直交していればよく、櫛型電極方向との関係によらない。
したがって、配向処理は必ずしも必要ではなく、アモルファス配向状態(ランダム配向状態)でも表示を行うことが出来た。
また、基板1および2に、それぞれ電極を設け、基板面法線方向の電界を発生させても、ほぼ同様の結果が得られた。すなわち、電界方向は基板面水平方向だけでなく、基板面法線方向でもほぼ同様な結果が得られた。
このように、本表示素子の誘電性物質層3に封入する媒質として、電界無印加時に光学的異方性を有し、電界印加により光学的異方性が消失して光学的等方性を示す媒質を用いてもよい。
なお、本表示素子における誘電性物質層3に用いられる媒質は、正の誘電異方性を有するものであっても、負の誘電異方性を有するものであってもよい。正の誘電率異方性を有する媒質を用いた場合には、基板におおむね平行な電界にて駆動する必要があるが、負の誘電異方性を有する媒質を適用した場合にはその限りではない。
例えば、基板に斜めの電界によっても駆動可能であり、垂直な電界によっても駆動可能である。この場合には、対向する一対の基板(基板1および2)の双方に電極を備え、両基板に備えられた電極間に電界を印加することによって、誘電性物質層3に電界を印加することになる。
また、電界を基板面平行方向に印加する場合であっても、あるいは、基板面垂直方向または基板面に対して斜め方向に印加する場合であっても、電極の形状、材質、電極の数、および配置位置等は適宜変更すればよい。例えば、透明電極を用いて基板面に対して垂直に電界を印加すれば、開口率の点で有利である。
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態として開示した技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。