JP2004285402A - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.08mass%以下、Si:2.0〜8.0mass%およびMn:0.005〜3.0mass%を含み、Alを100ppm以下に低減すると共に、N、SおよびSeをそれぞれ50ppm以下に低減した成分組成を有する、鋼スラブに、熱間圧延を施したのち、1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、次いで脱炭焼鈍を行い、その後焼鈍分離剤を塗布してから最終仕上焼鈍を施して、方向性電磁鋼板を製造するに当り、最終冷間圧延後の鋼板における、圧延直角方向端部の酸素目付量および圧延直角方向中央部の酸素目付量を、所定の条件に従って調整する。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、変圧器その他電気機器の鉄心などに用いて好適な、磁気特性および被膜密着性の良好な方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性電磁鋼板の製造には、インヒビターと呼ばれる析出物を使用して、最終仕上焼鈍中に二次再結晶を発現させることが、一般的な技術として使用されている。例えば、特許文献1に記載されたAlNおよびMnSを使用する方法や、特許文献2に記載されたMnSおよびMnSeを使用する方法などが、工業的に実用化されている。これらとは別に、特許文献3にはCuSeとBNとを添加する技術が、また特許文献4にはTi、Zr、Vの窒化物を使用する技術が、それぞれ記載されるように、さらに数多くの技術が知られている。
【0003】
これらのインヒビターを利用する方法は、安定して二次再結晶粒を発達させるのに有用な方法であるが、析出物を微細に分散させる必要があるため、熱間圧延前のスラブ加熱温度を1300℃以上の高温で行う。このスラブの高温加熱は、加熱を実現する上での設備コストがかかり、かつ熱間圧延時に生成するスケール量も多大になることから、歩留りが低下するだけでなく、熱延設備のメンテナンス等の問題にも発展する。
【0004】
一方、インヒビターを使用しないで方向性電磁鋼板を製造する方法としては、特許文献5、特許文献6、特許文献7および特許文献8に、それぞれ開示されている。これらの技術に共通していることは、表面エネルギーを駆動力として<110>面を優先的に成長させることを意図している点にある。表面エネルギー差を有効に利用するためには、表面の寄与を大きくするために板厚を薄くすることが必然的に要求される。例えば、特許文献5に開示される技術では板厚が0.2mm以下、特許文献6に開示される技術では板厚が0.15mm以下に制限されている。しかしながら、現行で使用されている方向性電磁鋼板の板厚は、0.20mm以上がほとんどであるため、かような通常製品は、上記の表面エネルギーを使用する方法で得ることは困難である。
【0005】
さらに、表面エネルギーを使用するためには、表面酸化物の生成を抑制した状態で高温の最終仕上焼鈍を行わなければならない。例えば、特許文献5に開示の技術では、118O℃以上の温度で、上記焼鈍の雰囲気として、真空中または不活性ガス、或いは水素ガスまたは水素ガスおよび窒素ガスの混合ガスにて行うことが、その請求項中に記載されている。同様に、特許文献6に開示の技術では、950〜1100℃の温度で不活性ガス雰囲気、水素ガス、または水素ガスおよび不活性ガスの混合雰囲気にて、さらに雰囲気を減圧することが推奨されている。特許文献8に開示の技術でも、1000〜1300℃の温度で酸素分圧が0.5Pa以下の非酸化性雰囲気または真空中にて最終仕上焼鈍を行っている。
【0006】
以上のように、表面エネルギーを利用して良好な磁気特性を得ようとすると、最終仕上焼鈍の雰囲気は不活性ガスや水素として、さらに推奨される条件として真空とすることが求められるが、高温および真空の両立は設備的に難しいため、コスト高となる。また、表面エネルギーを利用した場合には、原理的には{110}面の選択のみが可能であり、圧延方向に<001>方向が揃ったゴス粒のみの成長が選択される訳ではない。方向性電磁鋼板は圧延方向に磁化容易軸<001>を揃えることでこそ磁気特性は向上するので、{110}面の選択のみでは原理的に良好な磁気特性は得られない。そのため、表面エネルギーを利用する方法で良好な磁気特性を得ることのできる、圧延条件や焼鈍条件は限られたものになり磁気特性は不安定である。
【0007】
また、表面エネルギーを利用する方法では、表面酸化層の形成を抑制して最終仕上焼鈍を行わねばならず、たとえばMgOのような焼純分離剤を塗布焼鈍することができないため、最終仕上焼鈍後には通常の方向性電磁綱板と同様な酸化物被膜を形成することはできない。例えば、フォルステライト被膜は、焼純分離剤としてMgOを主成分として塗布した時に形成される被膜であるが、この被膜は鋼板表面に張力を与えること及びフォルステライト被膜の上にさらに塗布焼き付けるリン酸塩を主体とする絶縁張力コーティングの密着性を確保する機能を担っている。したがって、フォルステライト被膜の無い場合には鉄損は大幅に劣化する。
【0008】
上述したように、インヒビターを使用する方法では、熱延前の高温スラブ加熱に付随する設備コストや製造コストの問題点があり、インヒビターを使用せず表面エネルギーを利用する方法では、鋼板板厚が限定されること、二次再結晶方位の集積が劣ること、表面酸化被膜がないために鉄損が劣るという問題点がある。これらの問題点を解決できる方法として、インヒビターを含有しない素材において、ゴス方位を二次再結晶させる技術が、特許文献9に開示されている。
【0009】
【特許文献1】
特公昭40−15644号公報
【特許文献2】
特公昭51−13469号公報
【特許文献3】
特公昭58−42244号公報
【特許文献4】
特公昭46−40855号公報
【特許文献5】
特開昭64−55339号公報
【特許文献6】
特開平2−57635号公報
【特許文献7】
特開平7−76732号公報
【特許文献8】
特開平7−197126号公報
【特許文献9】
特開2000−129356号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献9に開示の方法では、最終仕上焼鈍時にホットポイントとなる鋼板の圧延直角方向端部において窒化が生じ易く、これに起因して鋼板圧延直角方向端部での磁気特性や曲げ特性が劣化し易いという問題点が新たに発生し、工業的な生産という観点からは改善が必要であった。
【0011】
この発明では、このインヒビターを含有しない素材を用いてゴス方位を二次再結晶させる技術において、さらに優れた磁気特性および被膜特性を得る方途について提案することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
すなわち、この発明の要旨構成は、次のとおりである。
(1)C:0.08mass%以下、Si:2.0〜8.0mass%およびMn:0.005〜3.0mass%を含み、Alを100ppm以下に低減すると共に、N、SおよびSeをそれぞれ50ppm以下に低減した成分組成を有する、鋼スラブに、熱間圧延を施したのち、1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、次いで脱炭焼鈍を行い、その後焼鈍分離剤を塗布してから最終仕上焼鈍を施して、方向性電磁鋼板を製造するに当り、
最終冷間圧延後の鋼板における、圧延直角方向端部の酸素目付量O(E)および圧延直角方向中央部の酸素目付量O(C)を、下記の条件に従って調整することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
記
O(E)≦0.10g/m2
O(C)≦0.15g/m2
O(E)<O(C)
【0013】
(2)上記(1)において、さらに熱間圧延後に熱延板焼鈍を行うに当り、この熱延板焼鈍温度を、熱延板における圧延直角方向中央部に比し、同圧延直角方向端部で低く設定することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0014】
(3)上記(1)または(2)において、鋼スラブが、さらにNi:0.01〜1.50mass%、Sn:0.01〜0.50mass%、Sb:0.005〜0.50mass%、Cu:0.01〜0.50mass%、P:0.005〜0.50mass%およびCr:0.01〜1.50mass%の1種または2種以上を含有することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体的に説明する。
この発明では、インヒビターを使用しないで二次再結晶を発現させる方法を利用する。
さて、発明者らは、ゴス方位粒が二次再結晶する理由について鋭意研究を重ねた結果、一次再結晶組織における方位差角が20〜45°である粒界が重要な役割を果たしていることを発見し、Acta Material 45巻(1997)1285頁に報告した。
【0016】
すなわち、方向性電磁鋼板の二次再結晶直前の状態である一次再結晶組織を解析し、様々な結晶方位を持つ各々の結晶粒周囲の粒界について、粒界方位差角が20〜45°である粒界の全体に対する割合(mass%)について調査した結果を、図1に示す。図1において、結晶方位空間はオイラー角(Φ1、Φ、Φ2)のΦ2=45°断面を用いて表示しており、ゴス方位など主な方位を模式的に表示してある。
【0017】
図1は、方向性電磁鋼板の一次再結晶組織における、方位差角20〜45°である粒界の存在頻度を示したものであるが、ゴス方位が最も高い頻度を持つことがわかる。ここに、方位差角20〜45°の粒界は、C .G .Dunnらによる実験データ(AIME Transaction 188巻(1949)368 頁)によれば、高エネルギー粒界である。この高エネルギー粒界は、粒界内の自由空間が大きく乱雑な構造をしている。 粒界拡散は、粒界を通じて原子が移動する過程であるので、粒界中の自由空間の大きい高エネルギー粒界のほうが粒界拡散が速い。
【0018】
二次再結晶は、インヒビターと呼ばれる析出物の拡散律速による成長・粗大化に伴って発現することが知られている。高エネルギー粒界上の析出物は、仕上焼鈍中に優先的に粗大化が進行するので、ゴス方位となる粒の粒界が優先的にピン止めがはずれて粒界移動を開始し、ゴス方位粒が成長すると考えられる。
【0019】
発明者らは、上記の研究をさらに発展させて、二次再結晶におけるゴス方位粒の優先的成長の本質的要因は、一次再結晶組織中の高エネルギー粒界の分布状態にあり、インヒビターの役割は、高エネルギー粒界であるゴス方位粒の粒界と他の粒界との移動速度差を生じさせることにあることを見出した。
従って、この理論に従えば、インヒビターを用いなくとも、粒界の移動速度差を生じさせることができれば、ゴス方位に二次再結晶させることが可能となる。
【0020】
さて、鋼中に存在する不純物元素は、粒界とくに高エネルギー粒界に偏析し易いため、不純物元素を多く含む場合には、高エネルギー粒界と他の粒界との移動速度に差がなくなっているものと考えられる。
よって、素材を高純度化し、上記のような不純物元素の影響を排除することにより、高エネルギー粒界の構造に依存する本来的な移動速度差が顕在化して、ゴス方位粒に二次再結晶させることが可能になる。
【0021】
さらに、粒界の移動速度差を利用して安定した二次再結晶を可能とするためには、一次再結晶組織をできる限り均一な粒径分布に保つことが肝要である。なぜなら、均一な粒径分布が保たれている場合には、ゴス方位粒以外の結晶粒は粒界移動速度の小さい低エネルギー粒界の頻度が高いために、粒成長が抑制されている状態、すなわちTexture Inhibitionが効果的に発揮され、粒界移動速度が大きい高エネルギー粒界の頻度が最大である、ゴス方位粒の選択的粒成長が促進されて、ゴス方位への二次再結晶が実現するからである。
【0022】
これに対して、粒径分布が一様でない場合には、隣接する結晶粒同士の粒径差を駆動力とする正常粒成長が起こるため、すなわち粒界の移動速度差とは異なる要因で成長可能となる結晶粒が選択されるために、上記したTexture Inhibitionの効果が発揮されずに、ゴス方位粒の選択的粒成長が起こらなくなる。
【0023】
ところが、工業的生産では、インヒビター成分を完全に除去することは困難なので、実際はこれら成分が不可避的に含有されてしまい、さらには熱延時の加熱温度が高い場合、加熱時に固溶した微量不純物としてのインヒビター形成成分が熱延中に不均一に微細析出する。その結果、不均一に分布した析出物により、粒界移動が局所的に抑制されて粒径分布も極めて不均一になり、上記したとおりゴス方位への二次再結晶粒の発達が阻害される。従って、インヒビター形成成分をほぼ皆無な状態にすることが理想的であるが、実用上は、インヒビター形成成分を低減しつつ、熱延時の加熱温度を圧延可能な範囲でできる限り低めに抑えることが、不可避的に含まれてしまう微量のインヒビター形成成分の微細析出を回避して無害化するために有効である。
【0024】
さらに、発明者らは、上記のインヒビターを使用しないで二次再結晶を発現させる技術を基本とし、さらなる磁気特性の向上を所期して被膜の特に密着性を高める方途について鋭意究明した。
【0025】
すなわち、Si:3.3mass%、C:0.05mass%、Mn:0.03mass%、Al:30ppm、S:10ppm、Se:0.1ppm、N:30ppmを含み残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、1100℃に再加熱した後、熱間圧延を施し、板厚2.2mmの熱延コイルとし、900〜1050℃×1分の熱延板焼鈍を施した後冷却し、スケール酸洗除去後に巻き取って熱延焼鈍板コイルとした後、冷間圧延によって板厚0.30mmの冷間圧延板とした。ついで、850℃×2分の脱炭焼鈍を施したのち、MgOを主成分とする焼純分離剤を塗布し、1150℃×20時間の最終仕上焼鈍に供した。その際、熱延板焼鈍時の焼鈍炉における加熱条件を変更して、コイル幅方向(鋼板の圧延直角方向)の温度分布を制御することにより、最終冷間圧延板における圧延直角方向の酸素目付量分布を種々に変化させた。かくして得られた製品の磁気特性、曲げ回数および被膜外観の測定並びに評価結果を、表1に示す。なお、曲げ回数とは、JIS C2550に規定された繰り返し曲げ試験により測定され、その回数の多少にて、製品の斜角切断時の割れ防止や巻トランス製造時の割れ防止に影響を与える加工性を評価するためのものである。
【0026】
【表1】
【0027】
表1によれば、冷間圧延板の圧延直角方向端部(以下、単に端部と示す)の酸素目付量が0.14g/m2以上では磁気特性B8は1.86T以下にとどまり、かつ曲げ回数が2回以下に劣化していることがわかる。これに対し、冷間圧延板の圧延直角方向端部の酸素目付量が0.09g/m2以下となると、曲げ回数が10回を超えて方向性電磁鋼板としては加工性に問題のないレベルとなることがわかる。
【0028】
このように冷間圧延板端部での曲げ回数と磁気特性が改善するのは、冷間圧延板端部の酸素目付量を低減することによって、その後の脱炭焼鈍工程で表面に形成される酸化物の物性の活性化が抑制される結果、仕上焼鈍時の鋼板中への窒素の浸入、すなわち窒化が抑制されて有害な窒化物の析出が生じなくなることに起因する、と考えられる。インヒビター形成成分、特にAlを含有する鋼では、鋼板表面から窒素が浸入したとしても、そのほとんどは鋼板表面付近においてインヒビターであるAlNとして析出するため、窒化が起こったとしても大きな悪影響を被ることはない。しかし、インヒビター形成成分を含有しない場合は、窒素が鋼板の中心へと深く浸入して室化珪素等の窒化物を形成する。このようにして形成される窒化物は最終仕上焼鈍における純化焼鈍でも容易に除去することはできず、磁気特性の劣化に繋がるのである。また、このような窒化物の残存によって、製品板の曲げ特性も同時に劣化したものと考えられる。
【0029】
一方、冷間圧延板端部の酸素目付量が0.09g/m2以下とした条件でも、冷間圧延板端部と同圧延直角方向中央部(以下、単に中央部と示す)との酸素目付量が同じ場合には、磁気特性が若干劣り、同端部の酸素目付量を同中央部のそれより低減することによって、磁気特性が向上する。このように冷間圧延板端部の酸素目付量を同中央部よりも低減することで磁気特性を改善できるのは、冷間圧延板中央部における脱炭焼鈍後の酸化物の物性を鋼板端部より高活性化することによって、同端部と中央部との二次再結晶挙動に差異が生じ、これが好影響を与えるたものと推定される。また、冷間圧延板中央部の酸素目付量が0.15g/m2を超えると被膜外観にむらを生じている。これは、脱炭焼鈍後酸化物物性が高活性化し過ぎたために、被膜に対して悪影響が生じたものと考えられる。
【0030】
上記のとおり、発明者らは、冷間圧延板端部および中央部の両方の酸素目付量が製品品質に大きな影響を与えることを新たに見出した。そこで、これらを種々に変化させた試験片を大量に作製し、それらの磁気特性と曲げ特性とを調査した。
【0031】
その結果を図1に示すように、冷間圧延板端部の酸素目付量をO(E)および同中央部の酸素目付量をO(C)としたときに、O(E)≦0.10g/m2、O(C)≦0.15g/m2、かつO(E)<O(C)とした条件を満足することによって、磁気特性、曲げ特性および被膜外観の全てにおいて良好な品質を得られることがわかる。
【0032】
以上の実験結果から、インヒビターを含有しない素材を用いてゴス方位を二次再結晶させる技術において、優れた磁気特性、曲げ特性および被膜外観を得る方法として、冷間圧延板端部の酸素目付量O(E)および同中央部の酸素目付量O(C)について、O(E)≦0.10g/m2およびO(C)≦0.15g/m2、かつO(E)<O(C)の条件に従って規制することが、極めて有効であるとの知見を得て、この発明を完成したのである。
【0033】
ここで、冷間圧延板端部とは、幅方向(圧延直角方向)の最エッジ部から100mmまでの範囲をいう。また、同中央部とは、板幅の中心から±100mmの範囲をいう。
【0034】
次に、この発明において、素材であるスラブの成分組成を、上記した範囲に限定した理由について説明する。
C:0.02〜0.08mass%
Cは0.08mass%を超えると、製品のCを磁気時効の起こらない50ppm以下に低減することが困掛になるので0.08mass%以下に限定される。また、0.02mass%未満のときには、一次再結晶組織の劣化により磁性劣化を招くため、0.02mass%以上とする。
【0035】
Si:2.0〜8.0mass%
Siは、鋼の電気抵抗を高めて鉄損の低減に有効に寄与するが、含有量が2.0mass%に満たないと十分な鉄損低減効果が得られず、一方8.0mass%を超えると加工性が著しく劣化して冷間圧延が困難になるため、Si量は2.0〜8.0mass%の範囲に限定した。
【0036】
Mn:0.005〜3.0mass%
Mnは、熱間加工性を良好にするために必要な元素であるが、0.005mass%未満であると効果がなく一方3.0mass%を超えると磁束密度が低下するため、0.005〜3.0mass%とする。
【0037】
Al:100ppm以下、N、S、Se:それぞれ50ppm以下
インヒビター形成元素であるAlは100ppm以下、N、S、Seについてもそれぞれ50ppm以下に低減することが、良好に二次再結晶させる上で必須である。その他の窒化物形成元素であるTi、Nb、B、Ta、V等についてもそれぞれ50ppm以下に低減することも鉄損の劣化を防ぎ、良好な加工性を確保する上で有効である。
【0038】
以上、基本成分および抑制成分について説明したが、この発明では、その他にも以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
熱延板組織を改善して磁気特性を向上させるために、Niを添加することができる。添加量が0.005mass%未満であると磁気特性の向上量が小さく、一方1.50mass%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化するため、添加量は0.005〜1.50mass%とする。
【0039】
また、鉄損を向上させる目的で、Sn:0.01〜0.50mass%、Sb:0.005〜0.50mass%、Cu:0.01〜0.50mass%、P:0.005〜0.50mass%およびCr:0.01〜1.5mass%のいずれか1種を単独で、または2種以上を複合して添加できる。それぞれ添加量が下限量より少ない場合には鉄損向上効果がなく、一方上限量を超えると二次再結晶粒の発達が抑制される。
【0040】
上記の成分を有する溶鋼は通常の造魂法、連続鋳造法でスラブを製造してもよいし、100mm以下の厚さの薄鋳片を直接鋳造法で製造してもよい。ここでは、この薄鋳片を含めてスラブと称する。スラブは通常の方法で加熱して熱間圧延するが、鋳造後加熱せずに直ちに熱間圧延してもよい。一方、薄鋳片の場合には熱間圧延しても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進んでもよい。
【0041】
熱間圧延前のスラブ加熱温度は、1250℃以下に抑えることが、熱間圧延時に生成するスケール量を低減する上で特に望ましい。また、結晶組織の微細化および不可避的に混入するインヒビター成分の弊害を無害化して、均一な整粒一次再結晶組織を実現する意味でも、スラブ加熱温度の低温化が望ましい。
【0042】
次いで、必要に応じて熱延板焼鈍を施す。ゴス組織を製品板において高度に発達させるためには、熱延板焼鈍温度は800℃以上1100℃以下が好適である。熱延板焼鈍温度が800℃未満であると、熱間圧延でのバンド組織が残留し、整粒の一次再結晶組織を実現することが困難になり二次再結晶の発達が阻害される。熱延板焼鈍温度が1100℃を超えると、不可避的に混入するインヒビター成分が固溶し冷却時に不均一に再析出するために、整粒一次再結晶組織を実現することが困難となり二次再結晶の発達が阻害される。また、熱延板焼鈍温度がl100℃を超えると、熱延板焼鈍後の粒径が粗大化しすぎることも、整粒の一次再結晶組織を実現する上で極めて不利である。
【0043】
なお、熱延板焼鈍後、1回の冷間圧延で製品厚とする、上記の方法以外に、必要に応じて、熱延板焼鈍を施した後、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚とする方法も適用できる。
【0044】
この発明においては、最終冷間厚延板の酸素目付量が特に重要であり、最終冷間圧延板の端部の酸素目付量O(E)および同中央部の酸素目付量O(C)を、
O(E)≦0.10g/m2
O(C)≦0.15g/m2
O(E)<O(C)
に従って制御する必要がある。
【0045】
最終冷間厚延板の酸素目付量を上記の範囲に制御するためには、まず、熱延板焼鈍を施す場合や中間焼鈍を施す場合におけるコイル幅方向での焼鈍温度分布を変化させる方法がある。その際、焼鈍温度が高くなるほど、その後の最終冷間圧延板での酸素目付量が高くなる傾向があることから、コイル幅方向端部の焼鈍温度をコイル中央部の焼鈍温度以下にすることが好ましい。そして、これらの焼鈍によってコイル端部とコイル中央部の酸素目付量に差が生じるようにしておき、さらに必要に応じてこれら焼鈍後に行うショットブラストの強度や酸洗の程度を変化させることを組み合わせて、冷延鋼板端部と同中央部とのそれぞれの酸素目付量を、上記の範囲とすることができる。
【0046】
なお、熱延板焼鈍や中間焼鈍を行わない場合、もしくは焼鈍を行ってもコイル幅方向に温度分布を与えない場合であっても、焼鈍後に施すショットブラストの強度を鋼板幅方向で変化させたり、酸洗時に鋼板中央部にマスクをする等により酸洗量を幅方向で変化させるなどして、酸素目付量を上記の範囲とすることができる。
【0047】
ついで、最終板厚となった冷間圧延板に脱炭焼鈍を施し、Cを磁気時効の起こらない50ppm以下、好ましくは30ppm以下に低減する。脱炭焼鈍は湿潤雰囲気を使用して700〜1000℃の範囲で行うことが好適である。脱炭焼鈍後に浸珪法によってSi量を増加させる技術を併用してもよい。その後、焼鈍分離剤を塗布し、最終仕上焼鈍を施すことにより二次再結晶組織を発達させるとともにフォルステライト被膜を形成させる。最終仕上焼鈍は二次再結晶発現のために800℃以上で行うことが好ましい。最終仕上焼純後は平坦化焼鈍に形状矯正することが好ましい。また、鉄損を改善するために、鋼板表面に張力を付与する絶縁コーティングを施すことが有効である。
【0048】
【実施例】
実施例1
C:0.04mass%、Si:3.0mass%、Mn:0.04mass%、All:70ppm、S:17ppm、Se:1ppmおよびN:25ppmを含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる溶鋼を用いて、連続鋳造により鋼スラブとなし、1100℃に加熱後、熱間圧延により2.2mm厚の熱延板とした。ついで、種々の鋼板幅方向温度条件にて熱延板焼鈍を施したのちに冷却し、さらに種々の条件でショットブラストを施した後に、スケールを酸洗により除去してから、コイルに巻取った。その後、冷間圧延により、最終板厚0.3mmとした後、850℃×2分の脱炭焼鈍を施し、MgOを主成分とする焼純分離剤を塗布して、1150℃×20時間の最終仕上焼鈍に供した。
【0049】
かくして得られた製品の磁気特性、曲げ特性および被膜外観について調査した結果を表2に示す。表2によれば、この発明にしたがって得られた製品は、磁気特性、曲げ特性および被膜外観ともに優れていることがわかる。
【0050】
【表2】
【0051】
実施例2
表3に示す成分を含有し、残部Feおよび不可避的不鈍物からなる溶鋼を用いて、連続鋳造により鋼スラブとなし、1100℃に加熱後、熱間圧延により2.2mm厚の熱延板とした。なお、表3に示されていないSおよびSeについては、それぞれ50ppm以下に低減した。
【0052】
ついで、熱延板焼鈍を1000℃で施したのちに冷却し、ショットブラストの強度を鋼板端部では強くし、同中央部では比較的弱くして施した後に、スケールを酸洗により除去してから、コイルに巻取った。このコイルを冷間圧延により最終板厚0.27mmとすることにより、冷間圧延板端部での酸素目付量を0.09g/m2、同中央部での酸素目付量を0.13g/m2とした。この後、850℃×2分の脱炭焼鈍を施し、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して、l150℃×20時間の最終仕上焼鈍に供した。
【0053】
かくして得られた製品の磁気特性、曲げ特性および被膜外観について調査した結果を表3に示す。表3によれば、この発明にしたがって得られた製品は、磁気特性、曲げ特性および被膜外観ともに優れていることがわかる。
【0054】
【表3】
【0055】
【発明の効果】
この発明によれば、インヒビター成分を含有しない鋼を用いて、良好な磁気特性と被膜特性とを有する方向性電磁鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】結晶方位空間を示すグラフである。
【図2】冷間圧延板酸素目付量と製品品質の関係を示すグラフである。
Claims (3)
- C:0.08mass%以下、Si:2.0〜8.0mass%およびMn:0.005〜3.0mass%を含み、Alを100ppm以下に低減すると共に、N、SおよびSeをそれぞれ50ppm以下に低減した成分組成を有する、鋼スラブに、熱間圧延を施したのち、1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、次いで脱炭焼鈍を行い、その後焼鈍分離剤を塗布してから最終仕上焼鈍を施して、方向性電磁鋼板を製造するに当り、
最終冷間圧延後の鋼板における、圧延直角方向端部の酸素目付量O(E)および圧延直角方向中央部の酸素目付量O(C)を、下記の条件に従って調整することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
記
O(E)≦0.10g/m2
O(C)≦0.15g/m2
O(E)<O(C) - 請求項1において、さらに熱間圧延後に熱延板焼鈍を行うに当り、この熱延板焼鈍温度を、熱延板における圧延直角方向中央部に比し、同圧延直角方向端部で低く設定することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 請求項1または2において、鋼スラブが、さらにNi:0.01〜1.50mass%、Sn:0.01〜0.50mass%、Sb:0.005〜0.50mass%、Cu:0.01〜0.50mass%、P:0.005〜0.50mass%およびCr:0.01〜1.50mass%の1種または2種以上を含有することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
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