JP2004222526A - フタル酸エステルを分解する方法、およびフタル酸エステルを含む廃水の処理方法 - Google Patents
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Abstract
【解決すべき課題】フタル酸シクロアルキルエステルとフタル酸直鎖アルキル及び/又は分岐アルキルエステルとを同時に分解させる方法、及び、フタル酸シクロアルキルエステルとフタル酸直鎖アルキル及び/又は分岐アルキルエステルを含む廃水を分解・処理する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物とを用いてフタル酸エステルを分解、またはフタル酸エステルを含む廃水を分解・処理する。
【選択図】 なし
【課題を解決するための手段】フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物とを用いてフタル酸エステルを分解、またはフタル酸エステルを含む廃水を分解・処理する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フタル酸エステルを分解する方法、およびフタル酸エステルを含む廃水の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
いわゆる環境ホルモンは、動物の性転換や精子密度の減少等の生殖器官形成の異常を生じせしめる内分泌撹乱活性を有する物質であり、人体への悪影響が深刻な問題となっている。フタル酸エステルは、内分泌撹乱活性を示す環境ホルモンとしての疑いが持たれているため、その分解、除去は重要な課題となっている。
【0003】
フタル酸エステルはプラスチックの可塑剤として広く使用されている。工場または生活廃水に混入したフタル酸エステルを分解、除去するには工場や下水処理場の活性汚泥としてフタル酸を分解する能力のある微生物を用いて分解・除去することが好ましい。
【0004】
従来、微生物によりフタル酸エステルを分解する能力のある微生物としてはいくつか報告されている。
【0005】
【非特許文献1】微生物の分離法、663−673、R&Dプランニング.(1986)
【非特許文献2】J.Bacteriol.,183(12),3689−703(2001)
【特許文献1】特開2001−120258号
【特許文献2】特開2002−142754号
【0006】
非特許文献1には、ロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリス(Rhodoccocus Nocardia erythropolis)、ロドコッカス・ノカルディア・レストリクタ(Rhodoccocus Nocardia restricta)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、シュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescence)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、バークホルデリア・シュードモナス・セバシア(Burkholderia Pseudomonas cepacia)、デルフチア・シュードモナス・アシドボランス(Delftia Pseudomonas acidovorans)、エロモナス(Aeromonas)属に属する微生物がフタル酸エステルを分解する能力を有することが報告されている。非特許文献2にはアルトロバクター・ケイセリ(Arthrobacter keyseri)がフタル酸エステルを分解する能力を有することが報告されている。特許文献1及び特許文献2にもフタル酸エステルを分解する能力を有することが開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの文献に報告されている微生物が分解しうるフタル酸エステルは、フタル酸ジメチルエステル、フタル酸ジ(n−ブチル)エステル、あるいはフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル等のフタル酸と直鎖または分岐鎖のアルコールとのエステルであって、環境省がホルモン戦略計画“SPEED 98”において「優先してリスク評価に取り組むべき化学物質」として定めている化学物質の一つである、フタル酸ジ(シクロヘキシル)エステルのような環状構造を有するアルコールとフタル酸とのエステルであるフタル酸シクロアルキルエステルを分解できる微生物については報告されていない。
【0008】
本発明者らはフタル酸シクロアルキルエステルを分解しうる微生物、アルトロバクター属に属する微生物がフタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力のあることを見出し、別に提案している。しかし、このアルトロバクター属に属する菌は基質特異性がありこの菌単独ではフタル酸エステルの全種類を分解することができないことが判明した。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、フタル酸シクロアルキルエステルとフタル酸直鎖アルキル及び/又は分岐アルキルエステルとを同時に分解させる方法を提供することにある。本発明の別の課題は、フタル酸シクロアルキルエステルとフタル酸直鎖アルキル及び/又は分岐アルキルエステルを含む廃水を分解・処理する方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明はフタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物とフタル酸2−エチルヘキシルエステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物とを用いることを特徴とするフタル酸エステルの分解方法である。
【0011】
アルトロバクター属に属する微生物は、アルトロバクターC1株であることが好ましい。
【0012】
ロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物は、ロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリスであることが好ましい。
【0013】
上記フタル酸エステルはフタル酸直鎖および/または分岐鎖アルキルエステルと、フタル酸シクロアルキルエステルとを含有するフタル酸エステル類であることが好ましい。
【0014】
フタル酸分岐鎖アルキルエステルはフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルであることが好ましい。
【0015】
フタル酸シクロアルキルエステルはフタル酸ジ(シクロヘキシル)エステルであることが好ましい。
【0016】
フタル酸直鎖アルキルエステルはフタル酸ジエチルエステル及び/またはフタル酸ジ(n−ブチル)エステルであることが好ましい。
【0017】
本発明の他の発明は、フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物とを用いることを特徴とするフタル酸エステルを含む廃水の処理方法である。
【0018】
アルトロバクター属に属する微生物がアルトロバクターC1株であることが好ましい。
【0019】
ロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物は、ロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリスであることが好ましい。
【0020】
フタル酸エステルはフタル酸直鎖および/または分岐鎖アルキルエステル、及びフタル酸シクロアルキルエステルであることが好ましい。
【0021】
フタル酸分岐鎖アルキルエステルはフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルであることが好ましい。
【0022】
フタル酸シクロアルキルエステルはフタル酸ジ(シクロヘキシル)エステルであることが好ましい。
【0023】
フタル酸直鎖アルキルエステルはフタル酸ジエチル及び/またはフタル酸ジ(n−ブチル)エステルであることが好ましい。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物とを用いることを特徴とするフタル酸エステルの分解方法である。
【0025】
本発明の分解方法では少なくとも2種類の微生物を用いる。1種類目の微生物は、フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物である。被検微生物がフタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するか否かは、本明細書の実施例に具体的に説明した方法により、当業者は容易に確認することができる。また、アルトロバクター属に属するか否かは、微生物分類学の分野において通常用いられる手法に従って当業者が容易に確認できる。
【0026】
本発明の方法で用いることのできるフタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物のうち好ましく用いられる微生物は、本発明者らがスクリ−ニングしたアルトロバクターC1株、あるいはアルトロバクター・ケイセリである。これらのうちではアルトロバクターC1株が特にフタル酸シクロアルキルエステル分解能が優れている。本発明の方法で用いることのできるアルトロバクターC1株は、フタル酸シクロアルキルエステルを含む規定培地中で30℃にて30時間培養した場合、フタル酸シクロアルキルエステルの80%以上を分解し、好ましくは90%以上を分解し、より好ましくは95%以上を分解し、そして最も好ましくは100%を分解することが出来る。
【0027】
本発明で好ましく用いることのできるアルトロバクター C1株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1−1−1中央第6)に平成15年1月16日付けで受託番号FERM P−19186として寄託されている。
【0028】
本発明の方法で好ましく用いることのできるフタル酸シクロアルキルエステル分解能を有するアルトロバクター属に属する微生物は、フタル酸シクロアルキルエステル分解能を保持している限り、上記C1株に変異誘発処理を行うことにより得られるか、または天然に変異を受けた誘導体であってもよい。そのような変異誘発処理は当該分野で周知であり、そのような変異誘発処理を行うための変異原としては、α線、β線、γ線およびX線のような物理的変異原、ならびにニトロソグアニジンおよびベンゾピレンのような化学的変異原が挙げられる。
【0029】
本発明の方法で用いる2種類の微生物のうちの2つ目の微生物は、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物である。被検微生物がフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するか否かは、本明細書の実施例に具体的に説明した方法により、当業者は容易に確認することができる。また、ロドコッカス・ノカルディア属に属するか否かは、微生物分類学の分野において通常用いられる手法に従って当業者が容易に確認できる。
【0030】
本発明の方法で用いることのできるフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物のうち好ましく用いられる微生物は、ロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリスである。
【0031】
本発明の方法で好ましく用いることのできるロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリス株は、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル分解能を保持している限り、寄託されている原菌株を変異誘発処理することにより得られるか、または天然に変異を受けた誘導体であってもよい。そのような変異誘発処理は当該分野で周知であり、そのような変異誘発処理を行うための変異原としては、α線、β線、γ線およびX線のような物理的変異原、ならびにニトロソグアニジンおよびベンゾピレンのような化学的変異原が挙げられる。
【0032】
本明細書における「フタル酸エステル」とは、以下の式に示す構造を有する化合物をいう。
【0033】
【化1】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子又は置換もしくは無置換アルキル基を示す。但し、R1およびR2のうち少なくとも1つは置換もしくは無置換アルキル基を示す。)
【0034】
本明細書において特に限定しない限り、アルキル基は、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基であり、直鎖、分岐鎖状または環状、及びそれらの組み合わせからなるアルキル基を包含する。シクロアルキル基とは、脂環状構造を有するアルキル基のことであり、環上には1又は2個以上の直鎖、分岐鎖状、または環状のアルキル基を有していてもよい。シクロアルキル基の炭素数は、好ましくは5〜20個である。
【0035】
直鎖アルキル基の例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−へプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デセニル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基などを挙げることができる。
【0036】
フタル酸直鎖アルキルエステルの例としては、フタル酸モノメチルエステル、フタル酸モノエチルエステル、フタル酸モノ(n−プロピル)エステル、フタル酸モノ(n−ブチル)エステル、フタル酸モノ−n−ペンチル)エステル、フタル酸モノ(n−ヘキシル)エステル、フタル酸モノ(n−へプチル)エステル、フタル酸モノ(n−オクチル)エステル、フタル酸モノ(n−ノニル)エステル、フタル酸モノ(n−デシル)エステル、フタル酸モノ(n−ウンデシル)エステル、フタル酸モノ(n−ドデシル)エステル、フタル酸ジメチルエステル、フタル酸ジエチルエステル、フタル酸ジ(n−プロピル)エステル、フタル酸ジ(n−ブチル)エステル、フタル酸ジ(n−ペンチル)エステル、フタル酸ジ(n−ヘキシル)エステル、フタル酸ジ(n−へプチル)エステル、フタル酸ジ(n−オクチル)エステル、フタル酸ジ(n−ノニル)エステル、フタル酸ジ(n−デシル)エステル、フタル酸ジ(n−ウンデシル)エステル、フタル酸ジ(n−ドデシル)エステル等を挙げることが出来る。本発明ではこれらの中では、フタル酸ジエチルエステル、フタル酸ジ(n―プロピル)エステル、フタル酸ジ(n−ブチル)エステルが好ましい。
【0037】
分岐鎖アルキル基の例としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、4−エチルヘキシル基、5−エチルヘキシル基、2−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、6−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘプチル基、4−エチルヘプチル基、5−エチルヘプチル基、6−エチルヘプチル基、2−メチルオクチル基、3−メチルオクチル基、4−メチルオクチル基、5−メチルオクチル基、6−メチルオクチル基、7−メチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルオクチル基、4−エチルオクチル基、5−エチルオクチル基、6−エチルオクチル基、7−エチルオクチル基などを挙げることができる。本発明では、これらの中では特に2−エチルヘキシル基を対象とする。
【0038】
フタル酸の分岐鎖アルキルエステルの具体例としては、例えば、フタル酸モノ(イソプロピル)エステル、フタル酸モノ(イソブチル)エステル、フタル酸モノ(2−メチルペンチル)エステル、フタル酸モノ(2−メチルヘキシル)エステル、フタル酸モノ(2−メチルへプチル)エステル、フタル酸モノ(2−メチルオクチル)エステル、フタル酸モノ(2−エチルペンチル)エステル、フタル酸モノ(2−エチルヘキシル)エステル、フタル酸モノ(2−エチルへプチル)エステル、フタル酸モノ(2−エチルオクチル)エステル、フタル酸ジ(イソプロピル)エステル、フタル酸ジ(イソブチル)エステル、フタル酸ジ(2−メチルペンチル)エステル、フタル酸ジ(2−メチルヘキシル)エステル、フタル酸ジ(2−メチルへプチル)エステル、フタル酸ジ(2−メチルオクチル)エステル、フタル酸ジ(2−エチルペンチル)エステル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル、フタル酸ジ(2−エチルへプチル)エステル、フタル酸ジ(2−エチルオクチル)エステル等を挙げることが出来る。これらの中では特にフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルが好ましい。
【0039】
本明細書におけるシクロアルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基、メチルシクロペンチル基、n−プロピルシクロペンチル基、イソプロピルシクロペンチル基、n−ブチルシクロペンチル基、イソブチルシクロペンチル基、tert−ブチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、n−プロピルシクロヘキシル基、イソプロピルシクロヘキシル基、n−ブチルシクロヘキシル基、イソブチルシクロヘキシル基、tert−ブチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、n−プロピルシクロヘプチル基、イソプロピルシクロヘプチル基、n−ブチルシクロヘプチル基、イソブチルシクロヘプチル基、tert−ブチルシクロヘプチル基、メチルシクロオクチル基、n−プロピルシクロオクチル基、イソプロピルシクロオクチル基、n−ブチルシクロオクチル基、イソブチルシクロオクチル基、tert−ブチルシクロオクチル基等を挙げることができる。これらの中では、シクロヘキシル基が好ましい。
【0040】
フタル酸シクロアルキルエステルの例としては、フタル酸モノ(シクロペンチル)エステル、フタル酸モノ(シクロヘキシル)エステル、フタル酸モノ(シクロヘプチル)エステル、フタル酸モノ(シクロオクチル)エステル、フタル酸モノ(シクロノニル)エステル、フタル酸モノ(シクロデシル)エステル、フタル酸モノ(シクロウンデシル)エステル、フタル酸モノ(シクロドデシル)エステル、フタル酸モノ(メチルシクロペンチル)エステル、フタル酸モノ(n−プロピルシクロペンチル)エステル、フタル酸モノ(イソプロピルシクロペンチル)エステル、フタル酸モノ(n−ブチルシクロペンチル)エステル、フタル酸モノ(イソブチルシクロペンチル)エステル、フタル酸モノ(tert−ブチルシクロペンチル)エステル、フタル酸モノ(メチルシクロヘキシル)エステル、フタル酸モノ(n−プロピルシクロヘキシル)エステル、フタル酸モノ(イソプロピルシクロヘキシル)エステル、フタル酸モノ(n−ブチルシクロヘキシル)エステル、フタル酸モノ(イソブチルシクロヘキシル)エステル、フタル酸モノ(tert−ブチルシクロヘキシル)エステル、フタル酸ジ(ノシクロペンチル)エステル、フタル酸ジ(シクロヘキシル)エステル、フタル酸ジ(シクロヘプチル)エステル、フタル酸ジ(シクロオクチル)エステル、フタル酸ジ(シクロノニル)エステル、フタル酸ジ(シクロデシル)エステル、フタル酸ジ(シクロウンデシル)エステル、フタル酸ジ(シクロドデシル)エステル、フタル酸ジ(メチルシクロペンチル)エステル、フタル酸ジ(n−プロピルシクロペンチル)エステル、フタル酸ジ(イソプロピルシクロペンチル)エステル、フタル酸ジ(n−ブチルシクロペンチル)エステル、フタル酸ジ(イソブチルシクロペンチル)エステル、フタル酸ジ(tert−ブチルシクロペンチル)エステル、フタル酸ジ(メチルシクロヘキシル)エステル、フタル酸ジ(n−プロピルシクロヘキシル)エステル、フタル酸ジ(イソプロピルシクロヘキシル)エステル、フタル酸ジ(n−ブチルシクロヘキシル)エステル、フタル酸ジ(イソブチルシクロヘキシル)エステル、フタル酸ジ(tert−ブチルシクロヘキシル)エステル等を挙げることができる。本発明は、これらのフタル酸シクロアルキルエステルの中では特にフタル酸ジ(シクロヘキシル)エステルを対象とする。
【0041】
本発明のフタル酸エステルを分解する方法においては、上記のフタル酸エステルを含む培地、好ましくは規定培地で、上記の少なくとも2種類の微生物を用いて好気性条件で培養することによって達成できる。
【0042】
本明細書中で用いられる「規定培地」とは、基質以外の構成成分が全て規定されている培地をいう。規定培地は、一般的な微生物の培地であり得る。例えば、M9培地、普通ブイヨン培地、ハートインフュジョン培地、トリプトソイブイヨン培地、ツァペックドックス氏培地、NB培地などの培地であり得る。
【0043】
普通ブイヨン培地は、水を溶媒として、培地1リットルあたり、肉エキス3g、ペプトン10g、および塩化ナトリウム5gを含み、pHが7.0に調整された培地である。ハートインフュジョン培地は、水を溶媒として、培地1リットルあたり、ウシ心臓滲出液500g、ペプトン10g、および塩化ナトリウム5gを含み、pHが7.4に調整された培地である。トリプトソイブイヨン培地は、水を溶媒として、培地1リットルあたり、トリプトン17g、ソイペプトン3g、ブドウ糖2.5g、および塩化ナトリウム5gを含み、pHが7.3に調整された培地である。ツァペックドックス氏培地は、水を溶媒として、培地1リットルあたり、ショ糖 30g、K2HPO4 1g、MgSO4・7H2O 0.5g、KCL 0.5g、NaNO3 2g、およびFeSO4・7H2O 0.01gを含み、pHが5.6に調整された培地である。NB培地は、水を溶媒として、培地1リットルあたり、肉エキス3g、ポリペプトン5g、酵母エキス2g、および塩化ナトリウム2gを含み、pHが7.0に調整された培地である。
【0044】
本発明のフタル酸エステルを分解する方法では、まず微生物の培養に適切な培養液を調製する。次いで、この培養液に、上記したフタル酸シクロアルキルエステルを分解させる能力を有する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解しうる微生物を添加する。添加する微生物は、予め前培養を行ってもよいし、そうでなくともよい。予め前培養を行うことが好ましい。培養液に添加する微生物の量は、適切に選択され得るが、通常、培養液1mLあたり約103〜109個、好ましくは約104〜108個、より好ましくは約106〜108個である。
【0045】
フタル酸エステルを含む培養液に、フタル酸シクロアルキルエステルを分解させる能力を有する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有する微生物とを添加した後、この培養液を、約10℃〜約45℃、好ましくは約20℃〜約40℃、最も好ましくは約30℃にて培養し、フタル酸エステルを分解する。
【0046】
培養・分解を行う際には、培養液を攪拌してもよいし、攪拌しなくともよい。好ましくは、培養液を攪拌しながら培養を行う。好気性条件を保つために、培養液に空気、あるいは酸素を吹き込みながら培養することが好ましい。
【0047】
本発明はまた、フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物とを用いることを特徴とするフタル酸エステルを含む廃水の処理方法に係わる。
【0048】
フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物としては、上記した本発明のアルトロバクターC1株、あるいはアルトロバクター・ケイセリを用いることが好ましい。これらの中では本発明のアルトロバクターC1株を用いることが好ましい。
【0049】
本発明の廃水の処理方法で用いることのできるフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物のうち好ましく用いられる微生物は、ロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリスである。
【0050】
本発明の廃水の処理方法では、上記フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物とを、フタル酸エステル、好ましくは上記フタル酸直鎖アルキルエステルおよび/または分岐鎖アルキルエステルと、フタル酸シクロアルキルエステルとを含有するフタル酸エステル類を含む廃水中で、好気性条件で培養することによって達成できる。
【0051】
本発明の廃水の処理方法では、これらのフタル酸エステルの混合物を含有した廃水にフタル酸シクロアルキルエステルを分解させる能力を有する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有する微生物を添加した後、この混合液、またはこれらの混合菌を含んだ活性汚泥含有廃水を、約10℃〜約45℃、好ましくは約20℃〜約40℃、最も好ましくは約30℃にて処理することにより廃水中のフタル酸エステルを分解・処理する。
【0052】
廃水の処理を行う際には、混合液、あるいは活性汚泥を含んだ廃水は攪拌してもよいし、攪拌しなくともよい。好ましくは、混合液を攪拌しながら培養を行う。好気性条件を保つために、混合液に空気、あるいは酸素を吹き込みながら処理を行うことが好ましい。
【0053】
【発明の効果】
本発明によれば、フタル酸シクロアルキルエステル、フタル酸直鎖アルキルエステル、及びフタル酸分岐鎖アルキルエステルを一挙に分解させることが出来る。また、本発明によれば、フタル酸シクロアルキルエステル、フタル酸直鎖アルキルエステル及びフタル酸分岐鎖アルキルエステルを含む廃水からフタル酸エステルを一挙に分解・処理することができる。
【0054】
本発明のフタル酸エステルの分解方法、あるいは廃水の処理方法は、好ましくはプラスチックの可塑剤を大量に用いる軟質塩化ビニルシート製造工場か、そのような軟質塩化ビニルを大量に使用する自動車部品工場の廃水処理施設、あるいは生活廃水に混入したフタル酸エステルを分解、除去するための下水処理施設で採用することができる。
【0055】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明につき詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら制限されるものではない。
【0056】
【実施例1】
《用いた微生物のスクリーニング》
フタル酸シクロアルキルエステル分解菌とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル分解菌の2つの微生物は次のようにして活性汚泥からスクリーニングして用いた。
【0057】
《フタル酸シクロアルキルエステル分解菌の濃縮》
下水場の活性汚泥サンプルを図1の実容積3Lの好気性処理装置に添加し、フタル酸ジ(シクロヘキシル)エステル(以下「DCHP」という。)を1g/L含む表1の組成の合成廃水を30℃、通気量1vvmの条件下で1.2L/日の流量で供給することによりDCHP分解微生物の濃縮を行った。
【0058】
【表1】
【0059】
《DCHP分解菌の単離》
上記DCHP含有合成廃水を供給している槽内液からフタル酸シクロアルキルエステル分解微生物の単離を試みた。すなわち、上記DCHP含有合成廃水からフタル酸寒天培地とフタル酸エステル液体培地での培養を繰り返すことによりDCHPを唯一の炭素源として生育を示すC1株を単離した。
【0060】
《DCHP分解微生物の同定》
上記方法で得られた株の種を同定するために、C1株の形態観察および16Sr−DNAの塩基配列に基づく系統解析を行った。その結果、C1株はアルトロバクター属に分類され、最近縁種はアルトロバクター・ケイセリ(相同性99%)であった。
【0061】
《フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル分解菌の濃縮》
下水場の活性汚泥サンプルを図1の実容積3Lの好気性処理装置に添加し、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル(以下「DEHP」という。)を1g/L含む表1の組成の合成廃水を、30℃、通気量1vvmの条件下で1.2L/日の流量で供給することによりDEHP分解微生物の濃縮を行った。
【0062】
《DEHP分解菌の単離》
上記DEHP含有合成廃水を供給している槽内液からDEHP分解微生物の単離を試みた。すなわち、上記DEHP含有合成廃水からフタル酸寒天培地とフタル酸エステル液体培地での培養を繰り返すことによりDEHPを唯一の炭素源として生育を示すE1株を単離した。
【0063】
《DEHP分解微生物の同定》
上記方法で得られた株の種を同定するために、E1株の形態観察および16Sr−DNAの塩基配列に基づく系統解析を行った。その結果、E1株はロドコッカス・ノカルディア属に分類され、ロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリスに属すると見なされた。
【0064】
【実施例2】
《アルトロバクターC1株とロドコッカス・ノカルディアE1株の混合菌のフタル酸エステル分解性能》
フタル酸(n−ブチルベンジル)エステル500mg/Lを含む表1の無機塩培地10mLを用いて混合菌を72時間振盪培養した。培養を停止し、培養液中のフタル酸(n−ブチルベンジル)エステルの量とTOC(全有機炭素)濃度を測定した。その結果、フタル酸(n−ブチルベンジル)エステルはほぼ完全に酸化分解されていた。
【0065】
【実施例3】
実施例2において、フタル酸(n−ブチルベンジル)エステルの代わりにフタル酸ジ(n−ブチル)エステル500mg/Lを含む培地を用いる以外は実施例2と同様に行った。結果を表2に示す。
【0066】
【実施例4】
実施例2において、フタル酸(n−ブチルベンジル)エステルの代わりにフタル酸ジ(シクロヘキシル)エステル500mg/Lを含む培地を用いる以外は実施例2と同様に行った。結果を表2に示す。
【0067】
【実施例5】
実施例2において、フタル酸(n−ブチルベンジル)エステルの代わりにフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル500mg/Lを含む培地を用いる以外は実施例2と同様に行った。結果を表2に示す。
【0068】
【実施例6】
実施例2において、フタル酸(n−ブチルベンジル)エステルの代わりにフタル酸ジエチルエステル500mg/Lを含む培地を用いる以外は実施例2と同様に行った。結果を表2に示す。
【0069】
【実施例7】
実施例2において、フタル酸(n−ブチルベンジル)エステルの代わりにフタル酸ジ(n−プロピル)エステル500mg/Lを含む培地を用いる以外は実施例2と同様に行った。結果を表2に示す
【0070】
【参考例1〜6】
実施例2〜7において、アルトロバクターC1株とロドコッカス・ノカルディアE1株の混合菌の代わりにアルトロバクターC1株のみを用いる以外は実施例2〜7と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0071】
【参考例7〜12】
実施例2〜7において、アルトロバクターC1株とロドコッカス・ノカルディアE1株の混合菌の代わりにロドコッカス・ノカルディアE1株のみを用いる以外は実施例2〜7と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0072】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の実施例でフタル酸エステルの分解試験を行った装置の模式図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、フタル酸エステルを分解する方法、およびフタル酸エステルを含む廃水の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
いわゆる環境ホルモンは、動物の性転換や精子密度の減少等の生殖器官形成の異常を生じせしめる内分泌撹乱活性を有する物質であり、人体への悪影響が深刻な問題となっている。フタル酸エステルは、内分泌撹乱活性を示す環境ホルモンとしての疑いが持たれているため、その分解、除去は重要な課題となっている。
【0003】
フタル酸エステルはプラスチックの可塑剤として広く使用されている。工場または生活廃水に混入したフタル酸エステルを分解、除去するには工場や下水処理場の活性汚泥としてフタル酸を分解する能力のある微生物を用いて分解・除去することが好ましい。
【0004】
従来、微生物によりフタル酸エステルを分解する能力のある微生物としてはいくつか報告されている。
【0005】
【非特許文献1】微生物の分離法、663−673、R&Dプランニング.(1986)
【非特許文献2】J.Bacteriol.,183(12),3689−703(2001)
【特許文献1】特開2001−120258号
【特許文献2】特開2002−142754号
【0006】
非特許文献1には、ロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリス(Rhodoccocus Nocardia erythropolis)、ロドコッカス・ノカルディア・レストリクタ(Rhodoccocus Nocardia restricta)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、シュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescence)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、バークホルデリア・シュードモナス・セバシア(Burkholderia Pseudomonas cepacia)、デルフチア・シュードモナス・アシドボランス(Delftia Pseudomonas acidovorans)、エロモナス(Aeromonas)属に属する微生物がフタル酸エステルを分解する能力を有することが報告されている。非特許文献2にはアルトロバクター・ケイセリ(Arthrobacter keyseri)がフタル酸エステルを分解する能力を有することが報告されている。特許文献1及び特許文献2にもフタル酸エステルを分解する能力を有することが開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの文献に報告されている微生物が分解しうるフタル酸エステルは、フタル酸ジメチルエステル、フタル酸ジ(n−ブチル)エステル、あるいはフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル等のフタル酸と直鎖または分岐鎖のアルコールとのエステルであって、環境省がホルモン戦略計画“SPEED 98”において「優先してリスク評価に取り組むべき化学物質」として定めている化学物質の一つである、フタル酸ジ(シクロヘキシル)エステルのような環状構造を有するアルコールとフタル酸とのエステルであるフタル酸シクロアルキルエステルを分解できる微生物については報告されていない。
【0008】
本発明者らはフタル酸シクロアルキルエステルを分解しうる微生物、アルトロバクター属に属する微生物がフタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力のあることを見出し、別に提案している。しかし、このアルトロバクター属に属する菌は基質特異性がありこの菌単独ではフタル酸エステルの全種類を分解することができないことが判明した。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、フタル酸シクロアルキルエステルとフタル酸直鎖アルキル及び/又は分岐アルキルエステルとを同時に分解させる方法を提供することにある。本発明の別の課題は、フタル酸シクロアルキルエステルとフタル酸直鎖アルキル及び/又は分岐アルキルエステルを含む廃水を分解・処理する方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明はフタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物とフタル酸2−エチルヘキシルエステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物とを用いることを特徴とするフタル酸エステルの分解方法である。
【0011】
アルトロバクター属に属する微生物は、アルトロバクターC1株であることが好ましい。
【0012】
ロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物は、ロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリスであることが好ましい。
【0013】
上記フタル酸エステルはフタル酸直鎖および/または分岐鎖アルキルエステルと、フタル酸シクロアルキルエステルとを含有するフタル酸エステル類であることが好ましい。
【0014】
フタル酸分岐鎖アルキルエステルはフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルであることが好ましい。
【0015】
フタル酸シクロアルキルエステルはフタル酸ジ(シクロヘキシル)エステルであることが好ましい。
【0016】
フタル酸直鎖アルキルエステルはフタル酸ジエチルエステル及び/またはフタル酸ジ(n−ブチル)エステルであることが好ましい。
【0017】
本発明の他の発明は、フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物とを用いることを特徴とするフタル酸エステルを含む廃水の処理方法である。
【0018】
アルトロバクター属に属する微生物がアルトロバクターC1株であることが好ましい。
【0019】
ロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物は、ロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリスであることが好ましい。
【0020】
フタル酸エステルはフタル酸直鎖および/または分岐鎖アルキルエステル、及びフタル酸シクロアルキルエステルであることが好ましい。
【0021】
フタル酸分岐鎖アルキルエステルはフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルであることが好ましい。
【0022】
フタル酸シクロアルキルエステルはフタル酸ジ(シクロヘキシル)エステルであることが好ましい。
【0023】
フタル酸直鎖アルキルエステルはフタル酸ジエチル及び/またはフタル酸ジ(n−ブチル)エステルであることが好ましい。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物とを用いることを特徴とするフタル酸エステルの分解方法である。
【0025】
本発明の分解方法では少なくとも2種類の微生物を用いる。1種類目の微生物は、フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物である。被検微生物がフタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するか否かは、本明細書の実施例に具体的に説明した方法により、当業者は容易に確認することができる。また、アルトロバクター属に属するか否かは、微生物分類学の分野において通常用いられる手法に従って当業者が容易に確認できる。
【0026】
本発明の方法で用いることのできるフタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物のうち好ましく用いられる微生物は、本発明者らがスクリ−ニングしたアルトロバクターC1株、あるいはアルトロバクター・ケイセリである。これらのうちではアルトロバクターC1株が特にフタル酸シクロアルキルエステル分解能が優れている。本発明の方法で用いることのできるアルトロバクターC1株は、フタル酸シクロアルキルエステルを含む規定培地中で30℃にて30時間培養した場合、フタル酸シクロアルキルエステルの80%以上を分解し、好ましくは90%以上を分解し、より好ましくは95%以上を分解し、そして最も好ましくは100%を分解することが出来る。
【0027】
本発明で好ましく用いることのできるアルトロバクター C1株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1−1−1中央第6)に平成15年1月16日付けで受託番号FERM P−19186として寄託されている。
【0028】
本発明の方法で好ましく用いることのできるフタル酸シクロアルキルエステル分解能を有するアルトロバクター属に属する微生物は、フタル酸シクロアルキルエステル分解能を保持している限り、上記C1株に変異誘発処理を行うことにより得られるか、または天然に変異を受けた誘導体であってもよい。そのような変異誘発処理は当該分野で周知であり、そのような変異誘発処理を行うための変異原としては、α線、β線、γ線およびX線のような物理的変異原、ならびにニトロソグアニジンおよびベンゾピレンのような化学的変異原が挙げられる。
【0029】
本発明の方法で用いる2種類の微生物のうちの2つ目の微生物は、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物である。被検微生物がフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するか否かは、本明細書の実施例に具体的に説明した方法により、当業者は容易に確認することができる。また、ロドコッカス・ノカルディア属に属するか否かは、微生物分類学の分野において通常用いられる手法に従って当業者が容易に確認できる。
【0030】
本発明の方法で用いることのできるフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物のうち好ましく用いられる微生物は、ロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリスである。
【0031】
本発明の方法で好ましく用いることのできるロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリス株は、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル分解能を保持している限り、寄託されている原菌株を変異誘発処理することにより得られるか、または天然に変異を受けた誘導体であってもよい。そのような変異誘発処理は当該分野で周知であり、そのような変異誘発処理を行うための変異原としては、α線、β線、γ線およびX線のような物理的変異原、ならびにニトロソグアニジンおよびベンゾピレンのような化学的変異原が挙げられる。
【0032】
本明細書における「フタル酸エステル」とは、以下の式に示す構造を有する化合物をいう。
【0033】
【化1】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子又は置換もしくは無置換アルキル基を示す。但し、R1およびR2のうち少なくとも1つは置換もしくは無置換アルキル基を示す。)
【0034】
本明細書において特に限定しない限り、アルキル基は、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基であり、直鎖、分岐鎖状または環状、及びそれらの組み合わせからなるアルキル基を包含する。シクロアルキル基とは、脂環状構造を有するアルキル基のことであり、環上には1又は2個以上の直鎖、分岐鎖状、または環状のアルキル基を有していてもよい。シクロアルキル基の炭素数は、好ましくは5〜20個である。
【0035】
直鎖アルキル基の例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−へプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デセニル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基などを挙げることができる。
【0036】
フタル酸直鎖アルキルエステルの例としては、フタル酸モノメチルエステル、フタル酸モノエチルエステル、フタル酸モノ(n−プロピル)エステル、フタル酸モノ(n−ブチル)エステル、フタル酸モノ−n−ペンチル)エステル、フタル酸モノ(n−ヘキシル)エステル、フタル酸モノ(n−へプチル)エステル、フタル酸モノ(n−オクチル)エステル、フタル酸モノ(n−ノニル)エステル、フタル酸モノ(n−デシル)エステル、フタル酸モノ(n−ウンデシル)エステル、フタル酸モノ(n−ドデシル)エステル、フタル酸ジメチルエステル、フタル酸ジエチルエステル、フタル酸ジ(n−プロピル)エステル、フタル酸ジ(n−ブチル)エステル、フタル酸ジ(n−ペンチル)エステル、フタル酸ジ(n−ヘキシル)エステル、フタル酸ジ(n−へプチル)エステル、フタル酸ジ(n−オクチル)エステル、フタル酸ジ(n−ノニル)エステル、フタル酸ジ(n−デシル)エステル、フタル酸ジ(n−ウンデシル)エステル、フタル酸ジ(n−ドデシル)エステル等を挙げることが出来る。本発明ではこれらの中では、フタル酸ジエチルエステル、フタル酸ジ(n―プロピル)エステル、フタル酸ジ(n−ブチル)エステルが好ましい。
【0037】
分岐鎖アルキル基の例としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、4−エチルヘキシル基、5−エチルヘキシル基、2−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、6−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘプチル基、4−エチルヘプチル基、5−エチルヘプチル基、6−エチルヘプチル基、2−メチルオクチル基、3−メチルオクチル基、4−メチルオクチル基、5−メチルオクチル基、6−メチルオクチル基、7−メチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルオクチル基、4−エチルオクチル基、5−エチルオクチル基、6−エチルオクチル基、7−エチルオクチル基などを挙げることができる。本発明では、これらの中では特に2−エチルヘキシル基を対象とする。
【0038】
フタル酸の分岐鎖アルキルエステルの具体例としては、例えば、フタル酸モノ(イソプロピル)エステル、フタル酸モノ(イソブチル)エステル、フタル酸モノ(2−メチルペンチル)エステル、フタル酸モノ(2−メチルヘキシル)エステル、フタル酸モノ(2−メチルへプチル)エステル、フタル酸モノ(2−メチルオクチル)エステル、フタル酸モノ(2−エチルペンチル)エステル、フタル酸モノ(2−エチルヘキシル)エステル、フタル酸モノ(2−エチルへプチル)エステル、フタル酸モノ(2−エチルオクチル)エステル、フタル酸ジ(イソプロピル)エステル、フタル酸ジ(イソブチル)エステル、フタル酸ジ(2−メチルペンチル)エステル、フタル酸ジ(2−メチルヘキシル)エステル、フタル酸ジ(2−メチルへプチル)エステル、フタル酸ジ(2−メチルオクチル)エステル、フタル酸ジ(2−エチルペンチル)エステル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル、フタル酸ジ(2−エチルへプチル)エステル、フタル酸ジ(2−エチルオクチル)エステル等を挙げることが出来る。これらの中では特にフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルが好ましい。
【0039】
本明細書におけるシクロアルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基、メチルシクロペンチル基、n−プロピルシクロペンチル基、イソプロピルシクロペンチル基、n−ブチルシクロペンチル基、イソブチルシクロペンチル基、tert−ブチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、n−プロピルシクロヘキシル基、イソプロピルシクロヘキシル基、n−ブチルシクロヘキシル基、イソブチルシクロヘキシル基、tert−ブチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、n−プロピルシクロヘプチル基、イソプロピルシクロヘプチル基、n−ブチルシクロヘプチル基、イソブチルシクロヘプチル基、tert−ブチルシクロヘプチル基、メチルシクロオクチル基、n−プロピルシクロオクチル基、イソプロピルシクロオクチル基、n−ブチルシクロオクチル基、イソブチルシクロオクチル基、tert−ブチルシクロオクチル基等を挙げることができる。これらの中では、シクロヘキシル基が好ましい。
【0040】
フタル酸シクロアルキルエステルの例としては、フタル酸モノ(シクロペンチル)エステル、フタル酸モノ(シクロヘキシル)エステル、フタル酸モノ(シクロヘプチル)エステル、フタル酸モノ(シクロオクチル)エステル、フタル酸モノ(シクロノニル)エステル、フタル酸モノ(シクロデシル)エステル、フタル酸モノ(シクロウンデシル)エステル、フタル酸モノ(シクロドデシル)エステル、フタル酸モノ(メチルシクロペンチル)エステル、フタル酸モノ(n−プロピルシクロペンチル)エステル、フタル酸モノ(イソプロピルシクロペンチル)エステル、フタル酸モノ(n−ブチルシクロペンチル)エステル、フタル酸モノ(イソブチルシクロペンチル)エステル、フタル酸モノ(tert−ブチルシクロペンチル)エステル、フタル酸モノ(メチルシクロヘキシル)エステル、フタル酸モノ(n−プロピルシクロヘキシル)エステル、フタル酸モノ(イソプロピルシクロヘキシル)エステル、フタル酸モノ(n−ブチルシクロヘキシル)エステル、フタル酸モノ(イソブチルシクロヘキシル)エステル、フタル酸モノ(tert−ブチルシクロヘキシル)エステル、フタル酸ジ(ノシクロペンチル)エステル、フタル酸ジ(シクロヘキシル)エステル、フタル酸ジ(シクロヘプチル)エステル、フタル酸ジ(シクロオクチル)エステル、フタル酸ジ(シクロノニル)エステル、フタル酸ジ(シクロデシル)エステル、フタル酸ジ(シクロウンデシル)エステル、フタル酸ジ(シクロドデシル)エステル、フタル酸ジ(メチルシクロペンチル)エステル、フタル酸ジ(n−プロピルシクロペンチル)エステル、フタル酸ジ(イソプロピルシクロペンチル)エステル、フタル酸ジ(n−ブチルシクロペンチル)エステル、フタル酸ジ(イソブチルシクロペンチル)エステル、フタル酸ジ(tert−ブチルシクロペンチル)エステル、フタル酸ジ(メチルシクロヘキシル)エステル、フタル酸ジ(n−プロピルシクロヘキシル)エステル、フタル酸ジ(イソプロピルシクロヘキシル)エステル、フタル酸ジ(n−ブチルシクロヘキシル)エステル、フタル酸ジ(イソブチルシクロヘキシル)エステル、フタル酸ジ(tert−ブチルシクロヘキシル)エステル等を挙げることができる。本発明は、これらのフタル酸シクロアルキルエステルの中では特にフタル酸ジ(シクロヘキシル)エステルを対象とする。
【0041】
本発明のフタル酸エステルを分解する方法においては、上記のフタル酸エステルを含む培地、好ましくは規定培地で、上記の少なくとも2種類の微生物を用いて好気性条件で培養することによって達成できる。
【0042】
本明細書中で用いられる「規定培地」とは、基質以外の構成成分が全て規定されている培地をいう。規定培地は、一般的な微生物の培地であり得る。例えば、M9培地、普通ブイヨン培地、ハートインフュジョン培地、トリプトソイブイヨン培地、ツァペックドックス氏培地、NB培地などの培地であり得る。
【0043】
普通ブイヨン培地は、水を溶媒として、培地1リットルあたり、肉エキス3g、ペプトン10g、および塩化ナトリウム5gを含み、pHが7.0に調整された培地である。ハートインフュジョン培地は、水を溶媒として、培地1リットルあたり、ウシ心臓滲出液500g、ペプトン10g、および塩化ナトリウム5gを含み、pHが7.4に調整された培地である。トリプトソイブイヨン培地は、水を溶媒として、培地1リットルあたり、トリプトン17g、ソイペプトン3g、ブドウ糖2.5g、および塩化ナトリウム5gを含み、pHが7.3に調整された培地である。ツァペックドックス氏培地は、水を溶媒として、培地1リットルあたり、ショ糖 30g、K2HPO4 1g、MgSO4・7H2O 0.5g、KCL 0.5g、NaNO3 2g、およびFeSO4・7H2O 0.01gを含み、pHが5.6に調整された培地である。NB培地は、水を溶媒として、培地1リットルあたり、肉エキス3g、ポリペプトン5g、酵母エキス2g、および塩化ナトリウム2gを含み、pHが7.0に調整された培地である。
【0044】
本発明のフタル酸エステルを分解する方法では、まず微生物の培養に適切な培養液を調製する。次いで、この培養液に、上記したフタル酸シクロアルキルエステルを分解させる能力を有する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解しうる微生物を添加する。添加する微生物は、予め前培養を行ってもよいし、そうでなくともよい。予め前培養を行うことが好ましい。培養液に添加する微生物の量は、適切に選択され得るが、通常、培養液1mLあたり約103〜109個、好ましくは約104〜108個、より好ましくは約106〜108個である。
【0045】
フタル酸エステルを含む培養液に、フタル酸シクロアルキルエステルを分解させる能力を有する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有する微生物とを添加した後、この培養液を、約10℃〜約45℃、好ましくは約20℃〜約40℃、最も好ましくは約30℃にて培養し、フタル酸エステルを分解する。
【0046】
培養・分解を行う際には、培養液を攪拌してもよいし、攪拌しなくともよい。好ましくは、培養液を攪拌しながら培養を行う。好気性条件を保つために、培養液に空気、あるいは酸素を吹き込みながら培養することが好ましい。
【0047】
本発明はまた、フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物とを用いることを特徴とするフタル酸エステルを含む廃水の処理方法に係わる。
【0048】
フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物としては、上記した本発明のアルトロバクターC1株、あるいはアルトロバクター・ケイセリを用いることが好ましい。これらの中では本発明のアルトロバクターC1株を用いることが好ましい。
【0049】
本発明の廃水の処理方法で用いることのできるフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物のうち好ましく用いられる微生物は、ロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリスである。
【0050】
本発明の廃水の処理方法では、上記フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物とを、フタル酸エステル、好ましくは上記フタル酸直鎖アルキルエステルおよび/または分岐鎖アルキルエステルと、フタル酸シクロアルキルエステルとを含有するフタル酸エステル類を含む廃水中で、好気性条件で培養することによって達成できる。
【0051】
本発明の廃水の処理方法では、これらのフタル酸エステルの混合物を含有した廃水にフタル酸シクロアルキルエステルを分解させる能力を有する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有する微生物を添加した後、この混合液、またはこれらの混合菌を含んだ活性汚泥含有廃水を、約10℃〜約45℃、好ましくは約20℃〜約40℃、最も好ましくは約30℃にて処理することにより廃水中のフタル酸エステルを分解・処理する。
【0052】
廃水の処理を行う際には、混合液、あるいは活性汚泥を含んだ廃水は攪拌してもよいし、攪拌しなくともよい。好ましくは、混合液を攪拌しながら培養を行う。好気性条件を保つために、混合液に空気、あるいは酸素を吹き込みながら処理を行うことが好ましい。
【0053】
【発明の効果】
本発明によれば、フタル酸シクロアルキルエステル、フタル酸直鎖アルキルエステル、及びフタル酸分岐鎖アルキルエステルを一挙に分解させることが出来る。また、本発明によれば、フタル酸シクロアルキルエステル、フタル酸直鎖アルキルエステル及びフタル酸分岐鎖アルキルエステルを含む廃水からフタル酸エステルを一挙に分解・処理することができる。
【0054】
本発明のフタル酸エステルの分解方法、あるいは廃水の処理方法は、好ましくはプラスチックの可塑剤を大量に用いる軟質塩化ビニルシート製造工場か、そのような軟質塩化ビニルを大量に使用する自動車部品工場の廃水処理施設、あるいは生活廃水に混入したフタル酸エステルを分解、除去するための下水処理施設で採用することができる。
【0055】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明につき詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら制限されるものではない。
【0056】
【実施例1】
《用いた微生物のスクリーニング》
フタル酸シクロアルキルエステル分解菌とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル分解菌の2つの微生物は次のようにして活性汚泥からスクリーニングして用いた。
【0057】
《フタル酸シクロアルキルエステル分解菌の濃縮》
下水場の活性汚泥サンプルを図1の実容積3Lの好気性処理装置に添加し、フタル酸ジ(シクロヘキシル)エステル(以下「DCHP」という。)を1g/L含む表1の組成の合成廃水を30℃、通気量1vvmの条件下で1.2L/日の流量で供給することによりDCHP分解微生物の濃縮を行った。
【0058】
【表1】
【0059】
《DCHP分解菌の単離》
上記DCHP含有合成廃水を供給している槽内液からフタル酸シクロアルキルエステル分解微生物の単離を試みた。すなわち、上記DCHP含有合成廃水からフタル酸寒天培地とフタル酸エステル液体培地での培養を繰り返すことによりDCHPを唯一の炭素源として生育を示すC1株を単離した。
【0060】
《DCHP分解微生物の同定》
上記方法で得られた株の種を同定するために、C1株の形態観察および16Sr−DNAの塩基配列に基づく系統解析を行った。その結果、C1株はアルトロバクター属に分類され、最近縁種はアルトロバクター・ケイセリ(相同性99%)であった。
【0061】
《フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル分解菌の濃縮》
下水場の活性汚泥サンプルを図1の実容積3Lの好気性処理装置に添加し、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル(以下「DEHP」という。)を1g/L含む表1の組成の合成廃水を、30℃、通気量1vvmの条件下で1.2L/日の流量で供給することによりDEHP分解微生物の濃縮を行った。
【0062】
《DEHP分解菌の単離》
上記DEHP含有合成廃水を供給している槽内液からDEHP分解微生物の単離を試みた。すなわち、上記DEHP含有合成廃水からフタル酸寒天培地とフタル酸エステル液体培地での培養を繰り返すことによりDEHPを唯一の炭素源として生育を示すE1株を単離した。
【0063】
《DEHP分解微生物の同定》
上記方法で得られた株の種を同定するために、E1株の形態観察および16Sr−DNAの塩基配列に基づく系統解析を行った。その結果、E1株はロドコッカス・ノカルディア属に分類され、ロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリスに属すると見なされた。
【0064】
【実施例2】
《アルトロバクターC1株とロドコッカス・ノカルディアE1株の混合菌のフタル酸エステル分解性能》
フタル酸(n−ブチルベンジル)エステル500mg/Lを含む表1の無機塩培地10mLを用いて混合菌を72時間振盪培養した。培養を停止し、培養液中のフタル酸(n−ブチルベンジル)エステルの量とTOC(全有機炭素)濃度を測定した。その結果、フタル酸(n−ブチルベンジル)エステルはほぼ完全に酸化分解されていた。
【0065】
【実施例3】
実施例2において、フタル酸(n−ブチルベンジル)エステルの代わりにフタル酸ジ(n−ブチル)エステル500mg/Lを含む培地を用いる以外は実施例2と同様に行った。結果を表2に示す。
【0066】
【実施例4】
実施例2において、フタル酸(n−ブチルベンジル)エステルの代わりにフタル酸ジ(シクロヘキシル)エステル500mg/Lを含む培地を用いる以外は実施例2と同様に行った。結果を表2に示す。
【0067】
【実施例5】
実施例2において、フタル酸(n−ブチルベンジル)エステルの代わりにフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステル500mg/Lを含む培地を用いる以外は実施例2と同様に行った。結果を表2に示す。
【0068】
【実施例6】
実施例2において、フタル酸(n−ブチルベンジル)エステルの代わりにフタル酸ジエチルエステル500mg/Lを含む培地を用いる以外は実施例2と同様に行った。結果を表2に示す。
【0069】
【実施例7】
実施例2において、フタル酸(n−ブチルベンジル)エステルの代わりにフタル酸ジ(n−プロピル)エステル500mg/Lを含む培地を用いる以外は実施例2と同様に行った。結果を表2に示す
【0070】
【参考例1〜6】
実施例2〜7において、アルトロバクターC1株とロドコッカス・ノカルディアE1株の混合菌の代わりにアルトロバクターC1株のみを用いる以外は実施例2〜7と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0071】
【参考例7〜12】
実施例2〜7において、アルトロバクターC1株とロドコッカス・ノカルディアE1株の混合菌の代わりにロドコッカス・ノカルディアE1株のみを用いる以外は実施例2〜7と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0072】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の実施例でフタル酸エステルの分解試験を行った装置の模式図である。
Claims (14)
- フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物とを用いることを特徴とするフタル酸エステルの分解方法。
- アルトロバクター属に属する微生物がアルトロバクターC1株(受託番号FERMP−19186)であることを特徴とする請求項1のフタル酸エステルの分解方法。
- ロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物がロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリスであることを特徴とする請求項1〜2のフタル酸エステルの分解方法。
- フタル酸エステルがフタル酸直鎖および/または分岐鎖アルキルエステル、及びフタル酸シクロアルキルエステルを含有するフタル酸エステル類であることを特徴とする請求項1〜3のフタル酸エステルの分解方法。
- フタル酸分岐鎖アルキルエステルがフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルであることを特徴とする請求項4のフタル酸エステルの分解方法。
- フタル酸シクロアルキルエステルがフタル酸ジ(シクロヘキシル)エステルであることを特徴とする請求項4〜5記載のフタル酸エステルの分解方法。
- フタル酸直鎖アルキルエステルがフタル酸ジエチルエステル及び/またはフタル酸ジ(n−ブチル)エステルであることを特徴とする請求項4〜6記載のフタル酸エステルの分解方法。
- フタル酸シクロアルキルエステルを分解する能力を有するアルトロバクター属に属する微生物とフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルを分解する能力を有するロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物とを用いることを特徴とするフタル酸エステルを含む廃水の処理方法。
- アルトロバクター属に属する微生物がアルトロバクターC1株であることを特徴とする請求項8記載のフタル酸エステルを含む廃水の処理方法。
- ロドコッカス・ノカルディア属に属する微生物がロドコッカス・ノカルディア・エリスロポリスであることを特徴とする請求項8〜9のフタル酸エステルを含む廃水の処理方法。
- フタル酸エステルがフタル酸直鎖および/または分岐鎖アルキルエステル、及びフタル酸シクロアルキルエステルを含有するフタル酸エステル類であることを特徴とする請求項8〜10のフタル酸エステルを含む廃水の処理方法。
- フタル酸分岐鎖アルキルエステルがフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルであることを特徴とする請求項11のフタル酸エステルを含む廃水の処理方法。
- フタル酸シクロアルキルエステルがフタル酸ジ(シクロヘキシル)エステルであることを特徴とする請求項11記載のフタル酸エステルを含む廃水の処理方法。
- フタル酸直鎖アルキルエステルがフタル酸ジエチルエステル及び/またはフタル酸ジ(n−ブチル)エステルであることを特徴とする請求項11記載のフタル酸エステルを含む廃水の処理方法。
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2003
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WO2006136173A2 (en) * | 2005-06-24 | 2006-12-28 | Danmarks Tekniske Universitet | Anaerobic microbial degradation of phthalic acid esters |
WO2006136173A3 (en) * | 2005-06-24 | 2007-07-05 | Univ Danmarks Tekniske | Anaerobic microbial degradation of phthalic acid esters |
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