JP2004151640A - 光学補償フィルム、楕円偏光板及び液晶表示装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】フィルムの面内方向のリターデーションが15〜70nm、厚み方向のそれが80〜350nmにある溶液流延製膜法により形成された光学補償フィルムにおいて、80℃、90%RH、50時間経過時における寸法変化率が流延製膜時のフィルム搬送方向に平行な方向(延伸方向に直交する面内方向)に−0.7〜+0.7%の範囲にあり、且つ流延製膜時のフィルム搬送方向に直交する方向(延伸方向に平行な方向)に−0.2〜+0.2%の範囲にあることを特徴とする光学補償フィルム。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は光学補償フィルム、楕円偏光板及び液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在では、パーソナルコンピュータのマルチメディア化が進み、液晶ディスプレイは大型化と同時に表示品質に優れるTFT液晶が主流となり、視野角特性の高度な改善が求められている。
【0003】
その目的のためにTFT型液晶の表示モードとして、従来のTN型のみならず横電界方式(IPS)、垂直配向方式(VA)などが提案され実用化されている。更に、動画表示に優れる高速駆動が可能なベンド配向方式(OCB)も実用化が進みつつある。IPS方式を除くこれらの表示方式は、視野角特性に一長一短があり、いずれも光学補償フィルムを用いることにより、大幅に視野角特性を改善することが可能である。特に、光学的に二軸性の光学補償フィルムは、これらのいずれの表示方式に対しても視野角改善のために有用であることが知られている。
【0004】
これらの光学補償フィルムは、通常、偏光板と一体化された形で楕円偏光板として使用される。例えば、視野角補償楕円偏光板は、積層された構成を有し、典型的な例としては、第一の透明支持体(通常、セルローストリアセテートフィルム)/偏光子/複屈折性透明支持体(光学補償フィルム)の構成からなる。この場合の複屈折性透明支持体は、偏光子との接着が容易な第一の透明支持体と同等のセルローストリアセテートフィルム(TACフィルムとも言う)に粘着剤などを介して積層配置されたものでもよく、もちろん複屈折性透明支持体自体がセルロースエステルなどの偏光子との接着性に優れる複屈折性材料であってもよい。更に、TACフィルム上に複屈折性層として液晶性化合物を塗布などにより積層固定化したものであってもよいし、それ自身が複屈折性を有するセルロースエステルフィルム上に、更に他の複屈折性層(液晶性化合物を塗布して固定化したものなど)を積層したものであってもよい。
【0005】
具体的には、複屈折性支持体を保護フィルムとして用いる場合の楕円偏光板は、第一の透明支持体として、各々、流延製膜法により作製した30〜80μmの膜厚のセルローストリアセテートフィルムを使用し、偏光子はヨウ素をドープしたポリビニルアルコールを延伸したものを使用し、偏光子を第一の透明支持体と前述の複屈折性を有する第二の透明支持体によりラミネートして形成される。好ましくは、複屈折性支持体として、光学的二軸性を有する透明支持体、特に好ましくは30〜150μmの膜厚の延伸したセルロースエステルフィルムを用いることである。
【0006】
偏光子の吸収軸と複屈折性層の遅相軸との配置の相互関係から、偏光板の連続生産時にロール・ツー・ロールでラミネートを可能とするためには、幅手方向に延伸したセルロースエステルフィルムが、本発明に係る光学的に二軸性を有する透明支持体として好ましく用いられる。
【0007】
幅手方向に延伸する方法としては、製膜した高分子フィルムを当該樹脂のガラス転移点付近の適切な温度に加熱して、テンター方式の幅手延伸機を用いる方法が一般的である。しかしこの方法では、特にセルロースエステルのように可塑剤などを含有するフィルムの場合には、延伸時に可塑剤がフィルムからブリードアウトして飛散することによりフィルムの物性変化、フィルムの不均一性などの原因となるなどの問題を抱えていた。また、一度延伸時に確定された高分子主鎖の配向(例えば、流延方向に配向)を延伸により再配向させることによる歪みの残存も、吸湿時の寸法安定性の劣化の原因となっていた。
【0008】
光学補償フィルムの品質はLCDの表示品質に極めて重要な役割を果たしており、非常に高い均一性が求められ、具体的には物理的な均一性のみならず、光学的な均一性も非常に重要な課題として挙げげられる。フィルムの持つ面内及び厚み方法のリターデーションの均一性、フィルムの持つ光学的な遅相軸の分布(以下、配向角分布)の均一性が乱れることにより、フィルムをLCD部材として組み込んだ際、黒表示時に光漏れ等を起こす原因となり、実用上甚大な欠陥をもたらしていた。
【0009】
このような現象を予測するための評価方法として、通常、光学補償フィルム、特にセルロースエステルからなる当該フィルムは、60℃、90%RHにおける特定時間(例えば、24時間)経過時の寸法変化率を測定することが行われている。しかしながら、本研究者らは鋭意検討の末、この条件による評価のみでは実際の使用環境における表示品質の低下は、十分に対応していないことを見出すに至った。従って、十分な表示品位を確保するためには異なる因子により制御することが必要であった。具体的には、光漏れ、ムラの発生は、高温高湿度条件において発生する歪みが原因であり、光学補償フィルムを作製する場合に、この歪みが緩和される条件が必要であった。
【0010】
これらの課題に対しては、一般的には流延製膜時にフィルム中の残存溶媒存在下で連続的に延伸する方法により改善することが可能である。具体的には、TACフィルムについて、残留溶媒量15質量%にて、130℃で25%延伸を行った例などが記載されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、延伸終了時点の残留溶媒量を制御することにより、80℃、90%RH条件下における寸法変化率を小さくするという点に着目したものではなかった。
【0011】
更に、上述の延伸したポリマーフィルムの残留溶媒量を0.01〜1.00質量%の範囲とすることにより、熱等の環境変化による寸法安定性を改善できることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。具体的には、80℃、ドライ、24時間条件の他に、60℃、95%、24時間条件による寸法変化しか評価されていなかった。しかしながら、10%以上延伸された高分子フィルム、特にセルロースエステルフィルムにおいては、60℃、95%RH条件下ではなく80℃、90%RH条件下における寸法変化率が少ないことが、楕円偏光板として液晶セルに貼合されて実際に使用される場合の光学的な均一性の悪さに起因する表示ムラを改善し、且つ高湿度環境下における寸法変化に起因する光漏れを改善することは着目されていなかった。
【0012】
一方、一定量のある種の可塑剤を加えることにより、80℃、90%RH、50時間の劣化試験の結果、寸法変化が0.02%に抑えられることが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、ここで開示されているフィルムにおいては、面内位相差の遅相軸方向はより延伸倍率の大きい流延方向(MD方向)となり、本発明とは異なるものであり、また流延方向と直交する方向の寸法安定性に関しては開示されていない。
【0013】
【特許文献1】
特開2002−40242号公報
【0014】
【特許文献2】
特開2002−90532号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、光学的に二軸性の光学補償フィルムを用いた楕円偏光板を組み込んだ液晶表示装置の視野角特性の劣化、即ち光学補償フィルムの温度及び湿度による歪みに起因する黒表示時の光漏れを防止することを可能とする光学補償フィルムを提供することである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成された。
【0017】
1)前記一般式(1)で表されるR0値が15乃至70nmの範囲にあり、Rt値が80乃至350nmの範囲にあることを特徴とする溶液流延製膜法により形成された高分子フィルムであって、80℃、90%RH、50時間経過時における寸法変化率が流延製膜時のフィルム搬送方向に平行な方向(延伸方向に直交する面内方向)に−0.7乃至+0.7%の範囲にあり、且つ流延製膜時のフィルム搬送方向に直交する方向(延伸方向に平行な方向)に−0.2乃至+0.2%の範囲にあることを特徴とする光学補償フィルム。
【0018】
2)流延製膜後、延伸を行うことにより作製されたものであって延伸温度が130℃以上、150℃以下、延伸完了時のフィルムの残留溶媒量が12%以上、20%以下であることを特徴とする前記1)に記載の光学補償フィルム。
【0019】
3)前記光学補償フィルムが光弾性係数の絶対値が60×10−12cm2/N以下の高分子を含み、膜厚に対するR0値発現性が0.25nm/μm以上であることを特徴とする前記1)または2)に記載の光学補償フィルム。
【0020】
4)前記高分子がセルロース誘導体であることを特徴とする前記3)に記載の光学補償フィルム。
【0021】
5)前記セルロース誘導体がセルロースエステルであって、セルロースエステルの総置換度が2.3〜2.85の範囲であり、アセチル基の置換度が1.4〜2.85の範囲であることを特徴とする前記4)に記載の光学補償フィルム。
【0022】
6)前記光学補償フィルムが酢化度59.0乃至61.5%の範囲にあるセルロースアセテートと少なくとも二つの芳香環を有する芳香族化合物を0.01乃至15質量部含むことを特徴とする前記1)〜5)のいずれか1項に記載の光学補償フィルム。
【0023】
7)前記1)〜6)のいずれか1項に記載の光学補償フィルム上に、液晶性化合物を固定化してなる光学異方性層が直接または間接的に積層されたものであることを特徴とする光学補償フィルム。
【0024】
8)偏光子の少なくとも一方の面に前記1)〜7)のいずれか1項に記載の光学補償フィルムが直接または他の層を介して間接的に貼合されていることを特徴とする楕円偏光板。
【0025】
9)偏光子の吸収軸と前記1)〜7)のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの遅相軸が実質的に直交するように配置されていることを特徴とする楕円偏光板。
【0026】
10)液晶セルとその両側に配置された二枚の偏光板からなる液晶表示装置であって、少なくとも一方の偏光板が前記8)または9)に記載の楕円偏光板であり、液晶セル面側に前記1)〜7)のいずれか1項に記載の光学補償フィルムが配置されていることを特徴とする液晶表示装置。
【0027】
以下、本発明について詳述する。
即ち、本発明者らは、表示品質に優れる温度湿度による歪みの発生の少ない延伸した高分子フィルムは、延伸方向(二軸延伸の場合には面内位相差が生じる、いわゆる遅相軸方向であり、通常、延伸倍率の高い方向である)とフィルム面内におけるその直交方向とが、各々湿熱条件下における寸法安定性に寄与する主因子が異なることを見出した。具体的には、延伸方向の寸法安定性は延伸時の残留溶媒量に強く依存し、一方、延伸方向と直交方向は延伸時の温度に対して依存性が高く、残留溶媒量に対しては相対的に依存性が低いことを見出し、延伸方向とそれに直交する方向の寸法安定性を改善することが可能となった。
【0028】
本発明の溶液流延に次ぐインライン延伸操作により作製される光学的に二軸性の高分子フィルムについて、セルロースエステルフィルムを例として、その製造方法について説明する。
【0029】
本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法としては、セルロースエステルを溶解調製したドープ液を支持体(ステンレスベルト等)上に流延、製膜し、得られたフィルムを支持体から剥ぎ取り(剥離ともいう)、その後、一定の残留溶媒量を含有したままの状態で幅手方向に張力をかけて延伸し、乾燥ゾーン中を搬送させながら乾燥する、溶液流延製膜法が用いられる。以下、本発明の製造方法に係る溶液流延製膜法について説明する。なお、長手方向(MD)とは機械搬送方向、ドープ流延方向を表し、幅手方向(TD)とはフィルム面内で長手方向と直交する方向を表す。
【0030】
(1)溶解工程:セルロースエステル(フレーク状、パウダー状もしくは顆粒状で、好ましくは平均粒径100μm以上の粒子)に対する良溶媒を主とする有機溶媒に、溶解釜中で該セルロースエステルや添加剤を攪拌しながら溶解し、ドープを形成する工程である。溶解には、常圧で行う方法、良溶媒の沸点以下で行う方法、良溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、冷却溶解法で行う方法、高圧で行う方法等種々の溶解方法がある。溶解後ドープを濾材で濾過し、脱泡してポンプで次工程に送る。
【0031】
上記のドープとは、セルロースエステルと後述する添加剤を有機溶媒に溶解した溶液である。
【0032】
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることが出来る。またそれらから得られたセルロースエステルは、それぞれ任意の割合で混合使用することが出来る。
【0033】
本発明に係るセルロースエステルは、セルロース原料のアシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いて反応が行われる。アシル化剤が酸クロライド(CH3COCl、C2H5COCl、C3H7COCl)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応が行われる。具体的には、特開平10−45804号公報に記載の方法を参考にして合成することが出来る。セルロースエステルはアシル基がセルロース分子の水酸基に反応する。セルロース分子はグルコースユニットが多数連結したものからなっており、グルコースユニットに3個の水酸基がある。この3個の水酸基にアシル基が誘導された数を置換度という。例えば、セルローストリアセテートはグルコースユニットの3個の水酸基全てにアセチル基が結合している。
【0034】
本発明のセルロースエステルフィルムに用いることが出来るセルロースエステルには特に限定はないが、下記式(I)及び(II)を同時に満足するものが好ましい。
【0035】
(I) 2.3≦X+Y≦2.85
(II) 1.4≦X≦2.85
式中、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基及び/またはブチリル基の置換度である。上記2式を満足するものは、本発明の目的に叶う優れた光学特性を示すセルロースエステルフィルムを製造するのに適しており、耐熱性に優れ、位相差フィルムとして、波長分散性が正となり良好なリターデーションのものが得られる。幅手延伸時に光学特性が均一、特にリターデーション分布のムラの少ないフィルムを得る観点から、2.5≦X+Y≦2.8が更に好ましく、2.6≦X+Y≦2.75が特に好ましい。
【0036】
本発明に用いられるセルロースエステルとしては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、またはセルロースアセテートプロピオネートブチレートのようなアセチル基の他にプロピオネート基あるいはブチレート基が結合したセルロースエステルが好ましく用いられる。尚、ブチレートは、n−の他にiso−も含む。プロピオネート基の置換度が大きいセルロースアセテートプロピオネートは耐水性に優れるという特徴がある。
【0037】
アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することが出来る。
【0038】
本発明に用いられるセルロースエステルの数平均分子量は、60,000〜300,000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。更に70,000〜200,000のものが好ましく用いられる。
【0039】
セルロースエステルの数平均分子量は下記のように測定出来る。高速液体クロマトグラフィにより下記条件で測定する。
【0040】
溶媒:アセトン
カラム:MPW×1(東ソー(株)製)
試料濃度:0.2(質量/容量)%
流量:1.0ml/分
試料注入量:300μl
標準試料:ポリメタクリル酸メチル(重量平均分子量Mw=188,200)
温度:23℃。
【0041】
また、セルローストリアセテートとしては、酢化度が59.0乃至61.5%であるのものが好ましく用いられる。酢化度とは、セルロース単位質量当りの結合酢酸量を意味し、ASTM−D817−91におけるアセチル化度の測定及び計算に従う。セルローストリアセテートの場合は、延伸操作を行っても高い面内リターデーション(R0)が出ないため、延伸倍率を高くする必要がある。これを回避するためには、いわゆるリターデーション発現を誘導する添加剤を加えることが好ましい。リターデーション発現性の添加剤は、欧州特許911,656A2号明細書に記載されているような、二つ以上の芳香族環を有する芳香族化合物を使用することができる。
【0042】
芳香族化合物はセルロースアセテート100質量部に対して、0.05乃至15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1乃至10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族性ヘテロ環であることが特に好ましく、芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。1,3,5−トリアジン環が特に好ましい。
【0043】
芳香族化合物が有する芳香族環の数は2乃至20であることが好ましく、2乃至12であることがより好ましく、2乃至8であることがさらに好ましく、3乃至6であることが最も好ましい。二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。結合関係は、(a)〜(c)のいずれでもよい。
【0044】
(a)の縮合環(二つ以上の芳香族環の縮合環)の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
【0045】
(b)の単結合は、二つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。二以上の単結合で二つの芳香族環を結合して、二つの芳香族環の間に脂肪族環または非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0046】
(c)の連結基も二つの芳香族環の炭素原子と結合することが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−またはそれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
【0047】
−CO−O−、−CO−NH−、−アルキレン−O−、−NH−CO−NH−、−NH−CO−O−、−O−CO−O−、−O−アルキレン−O−、−CO−アルケニレン−、−CO−アルケニレン−NH−、−CO−アルケニレン−O−、−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−、−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−、−O−CO−アルキレン−CO−O−、−NH−CO−アルケニレン−、−O−CO−アルケニレン−。
【0048】
芳香族環および連結基は置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル、カルボキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、スルホ、カルバモイル、スルファモイル、ウレイド、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
【0049】
アルキル基の炭素原子数は1乃至8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例、ヒドロキシ、カルボキシ、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル、エチル、n−ブチル、n−ヘキシル、2−ヒドロキシエチル、4−カルボキシブチル、2−メトキシエチルおよび2−ジエチルアミノエチルが含まれる。アルケニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル、アリルおよび1−ヘキセニルが含まれる。アルキニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルキケニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル、1−ブチニルおよび1−ヘキシニルが含まれる。
【0050】
脂肪族アシル基の炭素原子数は1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル、プロパノイルおよびブタノイルが含まれる。脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシが含まれる。アルコキシ基の炭素原子数は1乃至8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ、エトキシ、ブトキシおよびメトキシエトキシが含まれる。アルコキシカルボニル基の炭素原子数は2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニルおよびエトキシカルボニルが含まれる。アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノおよびエトキシカルボニルアミノが含まれる。
【0051】
アルキルチオ基の炭素原子数は1乃至12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ、エチルチオおよびオクチルチオが含まれる。アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニルおよびエタンスルホニルが含まれる。脂肪族アミド基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミドが含まれる。脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド、ブタンスルホンアミドおよびn−オクタンスルホンアミドが含まれる。脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ、ジエチルアミノおよび2−カルボキシエチルアミノが含まれる。脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイルおよびジエチルカルバモイルが含まれる。脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイルおよびジエチルスルファモイルが含まれる。脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイドが含まれる。非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノおよびモルホリノが含まれる。リターデーション上昇剤の分子量は、300乃至800であることが好ましい。
【0052】
セルロースエステルを溶解するドープ形成に有用な有機溶媒としては、塩素系有機溶媒と非塩素系有機溶媒がある。塩素系の有機溶媒としてメチレンクロライド(塩化メチレン)を挙げることが出来、セルロースエステル、特にセルローストリアセテートの溶解に適している。昨今の環境問題から非塩素系有機溶媒の使用が検討されている。
【0053】
非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることが出来る。
【0054】
これらの有機溶媒をセルローストリアセテートに対して使用する場合には、常温での溶解方法も使用可能であるが、高温溶解方法、冷却溶解方法、高圧溶解方法等の溶解方法を用いることにより不溶解物を少なくすることが出来るので好ましい。セルローストリアセテート以外のセルロースエステルに対しては、メチレンクロライドを用いることも出来るが、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンも好ましく使用される。特に酢酸メチルが好ましい。本発明において、上記セルロースエステルに対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主有機溶媒または主たる有機溶媒という。本発明における良溶媒とは、25℃において溶媒100gに5g以上のセルロースエステルを溶解する溶媒とする。
【0055】
本発明に用いられるドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらはドープを金属支持体に流延後溶媒が蒸発をし始め、アルコールの比率が多くなるとウェブがゲル化し、ウェブを丈夫にして金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられる。また、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロースエステルの溶解を促進する役割もある。炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等を挙げることが出来る。これらのうちドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、且つ毒性がないこと等からエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は単独ではセルロースエステルに対して溶解性に乏しいため、貧溶媒の範疇に入る。本発明における貧溶媒とは、25℃において溶媒100gに5g未満のセルロースエステルを溶解する溶媒とする。
【0056】
フィルム面質の向上の観点からは、ドープ中のセルロースエステルの濃度は15〜40質量%に調整し、ドープ粘度は10〜50Pa・sの範囲に調整することが好ましい。
【0057】
本発明に用いられるドープには、下記のような種々の素材を用いてもよい。ドープ中には、可塑剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、染料、マット剤等も添加されることがある。これらの化合物は、セルロースエステル溶液の調製の際に、セルロースエステルや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。液晶画面表示装置用には耐熱耐湿性を付与する可塑剤、酸化防止剤や紫外線防止剤などを添加することが好ましい。
【0058】
本発明に用いられるドープには、いわゆる可塑剤として知られる化合物を、機械的性質向上、柔軟性を付与、耐吸水性付与、水蒸気透過率低減、リターデーション調整等の目的で添加することが好ましく、例えばリン酸エステルやカルボン酸エステルが好ましく用いられる。また、特願2001−198450号に記載の重量平均分子量が500以上10,000であるエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー、芳香環を側鎖に有するアクリル系ポリマーまたはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系ポリマーなども好ましく用いられる。リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、フェニルジフェニルホスフェート等を挙げることが出来る。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステル及びクエン酸エステル等、フタル酸エステルとしては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート及びジエチルヘキシルフタレート等、またクエン酸エステルとしてはクエン酸アセチルトリエチル及びクエン酸アセチルトリブチルを挙げることが出来る。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバチン酸ジブチル、トリアセチン、トリメチロールプロパントリベンゾエート等も挙げられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートもこの目的で好ましく用いられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートのアルキルは炭素原子数1〜8のアルキル基である。アルキルフタリルアルキルグリコレートとしてはメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、プロピルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等を挙げることが出来、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートが好ましく、特にエチルフタリルエチルグリコレートが好ましく用いられる。また、これらアルキルフタリルアルキルグリコレート等を2種以上混合して使用してもよい。
【0059】
これらの化合物の添加量は目的の効果の発現及びフィルムからのブリードアウト抑制などの観点から、セルロースエステルに対して1〜20質量%が好ましい。また、延伸及び乾燥中の加熱温度が200℃程度まで上がるため、可塑剤としてはブリードアウトを抑制させるためには、200℃における蒸気圧が1333Pa以下のものであることが好ましい。
【0060】
本発明に用いられる紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることが出来るが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、且つ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0061】
有用なベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。
【0062】
また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(いずれもチバ−スペシャリティ−ケミカルズ社製)を好ましく使用出来る。
【0063】
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。
【0064】
本発明で好ましく用いられる上記記載の紫外線吸収剤は、透明性が高く、偏光板や液晶素子の劣化を防ぐ効果に優れたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、不要な着色がより少ないベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましく用いられる。紫外線吸収剤のドープへの添加方法は、ドープ中で紫外線吸収剤が溶解するようなものであれば制限なく使用できるが、本発明においては紫外線吸収剤をメチレンクロライド、酢酸メチル、ジオキソランなどのセルロースエステルに対する良溶媒、または良溶媒と低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)のような貧溶媒との混合有機溶媒に溶解し、紫外線吸収剤溶液としてセルロースエステル溶液に混合してドープとする方法が好ましい。この場合、出来るだけドープ溶媒組成と紫外線吸収剤溶液の溶媒組成とを同じとするか、近づけるのが好ましい。紫外線吸収剤の含有量は0.01〜5質量%、好ましくは0.5〜3質量%である。
【0065】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等が挙げられる。特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。
【0066】
また、例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
【0067】
本発明において、マット剤をセルロースエステルフィルム中に含有させることによって、搬送や巻き取りをし易くすることが出来る。マット剤は出来るだけ微粒子のものが好ましく、微粒子としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子微粒子を挙げることが出来る。中でも、二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを小さく出来るので好ましい。二酸化ケイ素のような微粒子は有機物により表面処理されている場合が多いが、このようなものはフィルムのヘイズを低下出来るため好ましい。
【0068】
表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサンなどが挙げられる。微粒子の平均粒径が大きい方が滑り性効果は大きく、反対に平均粒径の小さい方は透明性に優れる。また、微粒子の二次粒子の平均粒径は0.05〜1.0μmの範囲である。好ましい微粒子の二次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、更に好ましくは、7〜14nmである。これらの微粒子はセルロースエステルフィルム中では、セルロースエステルフィルム表面に0.01〜1.0μmの凹凸を生成させる為に好ましく用いられる。微粒子のセルロースエステル中の含有量はセルロースエステルに対して0.005〜0.3質量%が好ましい。
【0069】
二酸化ケイ素の微粒子としては、日本アエロジル(株)製のアエロジル(AEROSIL)200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、OX50、TT600等を挙げることが出来、好ましくはアエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812である。これらの微粒子は2種以上併用してもよい。2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することが出来る。この場合、平均粒径や材質の異なる微粒子、例えば、アエロジル200VとR972Vを質量比で0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲で使用出来る。
【0070】
配向層や液晶層を塗設する場合、マット剤の凸凹により配向が阻害される場合は、一方の面の表層のみにマット剤を含有させることが出来る。あるいは、これらのマット剤とセルロースエステルを含む(ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートなど)塗布液を塗設して摩擦係数を低減し、滑り性を改善することも出来る。
【0071】
この他カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の塩などの熱安定剤を加えてもよい。更に帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤等も加える場合がある。
【0072】
(2)流延工程:ドープを加圧型定量ギヤポンプを通して加圧ダイに送液し、無限に移送する無端の金属ベルト、例えば、ステンレスベルト、あるいは回転する金属ドラム等の金属支持体上の流延位置に、加圧ダイからドープを流延する工程である。金属支持体の表面は鏡面となっている。その他の流延する方法は、流延されたドープ膜をブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、口金部分のスリット形状を調製出来、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、何れも好ましく用いられる。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。
【0073】
(3)溶媒蒸発工程:ウェブ(金属支持体上にドープを流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)を金属支持体上で加熱し、金属支持体からウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる工程である。溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/または金属支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱の方法が乾燥効率の点で好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。
【0074】
製膜速度を上げるため、金属支持体上でのウェブ温度を上げる方法が有効である。但し、過剰な熱供給はウェブに含まれる溶媒によりウェブ内部からの発泡を引き起こすため、ウェブの組成により好ましい乾燥速度が規定される。また、製膜速度を上げるためベルト状の金属支持体の上に流延を行う方法も好ましく用いられる。ベルト状の支持体を用いて流延を行う場合、ベルト長を長くすることにより流延速度を増加させることが出来る。但し、ベルト長の拡大はベルト自重によるたわみを助長する。このたわみは製膜の際に振動を引き起こし、流延時の膜厚を不均一にさせるため、ベルト長さとしては、40〜120mであることが好ましい。
【0075】
(4)剥離工程:金属支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。剥離する時点でのウェブの残留溶媒量があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体上で充分に乾燥させてから剥離すると、途中でウェブの一部が剥がれたりする。
【0076】
製膜速度を上げる方法(残留溶媒量が出来るだけ多いうちに剥離するため製膜速度を上げることが出来る)としてゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。
【0077】
それは、ドープ中にセルロースエステルに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、金属支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。金属支持体上でゲル化させ剥離時の膜の強度を上げておくことによって、剥離を早め製膜速度を上げることが出来るのである。(削除→金属支持体上でのウェブの乾燥が条件の強弱、金属支持体の長さ等により5〜150質量%の範囲で剥離することが出来る。)
本発明においては、該金属支持体上の剥離位置における温度を10〜40℃に調整することが好ましく、更に好ましくは、15〜30℃に調整することである。また、剥離位置におけるウェブの残留溶媒量を30〜120質量%とすることが好ましい。本発明においては、残留溶媒量は前記一般式(1)で表すことが出来る。
【0078】
ベルト状支持体上に製膜する場合、速度の上昇は上述のベルト振動を助長する。剥離時の残留溶媒量及びベルト長さなどを考慮すると、製膜速度としては、10〜120m/分が好ましく、15〜60m/分が更に好ましい。
【0079】
本発明において、ウェブ全幅に対する残留溶媒量を平均残留溶媒量、あるいは中央部の残留溶媒量ということがあり、またウェブの両端部の残留溶媒量というように局部的な残留溶媒量をいう場合もある。
【0080】
(5)乾燥工程:剥離後、一般には、ウェブを千鳥状に配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置及び/またはクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いてウェブを乾燥する。乾燥の手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。あまり急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ね易い。全体を通して、通常乾燥温度は30〜250℃の範囲で行われる。使用する溶媒によって、乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて乾燥条件を適宜選べばよい。
【0081】
本発明において、流延されたフィルムを剥離したのち、テンター部分まで搬送を行う工程を「工程D0」と呼ぶことがある。工程D0では、延伸時のフィルム残留溶媒量をコントロールする目的で、温度をコントロールすることが好ましい。工程D0でのフィルム残留溶媒量にもよるが、搬送方向(以下、長手方向)への延伸が起こりにくく、残留溶媒量を調整する意図で、20〜80℃が好ましく、更に好ましくは、20〜70℃であり、特に好ましくは、20〜50℃である。
【0082】
工程D0において、フィルム面内でありフィルム搬送に対して垂直な方向(以下、幅手方向)でフィルム雰囲気温度分布が少ない事は、フィルムの均一性を高める観点から好ましい範囲が存在する。工程D0での温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好まく、±1℃以内が最も好ましい。
【0083】
工程D0でのフィルム搬送張力としては、支持体からの剥離条件及び工程D0での搬送方向の伸びを防止する観点から、下記に示すような好ましい条件が存在する。
【0084】
工程D0でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及び工程D0での残留溶媒量、工程D0での温度などに影響を受けるが、30〜300N/mが好ましく、更に好ましくは57〜284N/mであり、特に好ましくは57〜170N/mである。工程D0での搬送方向へフィルムの伸びを防止する目的で、テンションカットロールをもうけることが好ましい。工程D0での良溶媒及び貧溶媒の比率はフィルム搬送に対しての伸びを防止する意味で好ましい範囲が規定される。工程D0終点での貧溶媒質量/(良溶媒質量+貧溶媒質量)×100(%)としては、95質量%〜15質量%の範囲が好ましく、更に好ましくは、95質量%〜25質量%であり、特に好ましくは、95質量%〜30質量%である。
【0085】
(6)延伸工程(テンター工程ともいう)
本発明に係る延伸工程(テンター工程ともいう)を一例として、図2を用いて説明する。
【0086】
図2において、工程Aでは、図示されていないフィルム搬送工程D0から搬送されてきたフィルムを把持する工程であり、次の工程Bにおいて、後述する図1に示すような延伸角度でフイルムが幅手方向(フィルムの進行方向と直交する方向)に延伸され、工程Cにおいては、延伸が終了し、フィルムが把持したまま搬送される工程である。
【0087】
フィルム剥離後から工程B開始前及び/又は工程Cの直後に、フィルム幅方向の端部を切り落とすスリッターを設けることが好ましい。特に、A工程開始直前にフィルム端部を切り落とすスリッターを設けることが好ましい。幅手方向に同一の延伸を行った際、特に工程B開始前にフィルム端部を切除した場合とフィルム端部を切除しない条件とを比較すると、前者がより配向角分布を改良する効果が得られる。
【0088】
これは、残留溶媒量の比較的多い剥離から幅手延伸工程Bまでの間での長手方向の意図しない延伸を抑制した効果であると考えられる。
【0089】
テンター工程において、配向角分布を改善するため意図的に異なる温度をもつ区画を作ることも好ましい。また、異なる温度区画の間にそれぞれの区画が干渉を起こさないように、ニュートラルゾーンを設ける事も好ましい。
【0090】
なお、延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施してもよい。また、二軸延伸を行う場合にも同時二軸延伸を行ってもよいし、段階的に実施してもよい。この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、且つ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。即ち、例えば、次のような延伸ステップも可能である。
【0091】
・流延方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
・幅手方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
この場合、延伸完了時とは、乾燥膜厚100μmあたりの面内リターデーション(R0)値が15nm以上発現する延伸操作の最終段階の延伸時点をいう。即ち、通常のフィルム搬送に伴う微量の延伸操作や、乾燥収縮を幅保持により規制することによる実質的な延伸操作は、前述のR0値の発現に寄与しない場合には本発明の残留溶媒量を規定する場合の「延伸完了時」における延伸には該当しない。
【0092】
また、本発明における「延伸方向」とは、延伸操作を行う場合の直接的に延伸応力を加える方向という意味で使用する場合が通常であるが、多段階に二軸延伸される場合に、最終的に延伸倍率の大きくなった方(即ち、通常遅相軸となる方向)の意味で使用されることもある。特に、寸法変化率に関する記載の場合の単に「延伸方向」という表現の場合には主として後者の意味で使用される。残留溶媒量は下記の式により表される。
【0093】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブ(溶媒を含有したフィルム)の任意時点における質量、NはMのウェブを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0094】
高分子フィルムの延伸操作を行うことによる80℃、90%RH条件下における寸法安定性の改善のためには、残留溶媒存在下、且つ加熱条件下にて延伸操作を行うことが好ましい。本発明者らは、延伸方向(最終的に流延時における幅手が遅相軸となる場合は幅手方向)と当該延伸方向に直交する面内方向の80℃、90%RHにおける寸法安定性について、以下のような傾向があることを見出した。
【0095】
即ち、当該延伸方向における80℃、90%RHの寸法安定性は延伸温度に対する依存性は相対的に小さく、残留溶媒依存性は相対的に大きい。一方、当該延伸方向に直交する面内方向の同様条件における寸法安定性は、延伸温度に対する依存性が相対的に大きく、残留溶媒依存性は小さい。ここで、延伸温度とは、延伸操作時の環境温度を指し、延伸終点時のフィルム温度は、通常、実質的に延伸温度とほぼ同等まで昇温する。また、驚くべきことに、このような温度、残留溶媒条件を各々の方向について至適化した場合の80℃、90%RHの寸法安定性の改善効果は、延伸方向に対する効果が当該延伸方向に直交する面内方向に対する効果よりも優れることを見出したことである。
【0096】
具体的には、例えば、R0値が40〜50nmとなる膜厚約80μmのセルロースエステルフィルムについて説明すると、流延後連続的に延伸を行うインライン延伸において、延伸温度が120℃以上、残留溶媒量が延伸終点時に7質量%以上とすることにより流延方向(MD方向)の80℃、90%RH条件下における100時間経過後の寸法変化率は、±1.0%以内という安定性に優れるフィルムが得られる。また、延伸温度110℃以上、残留溶媒量を延伸終点時に12質量%以上とすることにより、幅手方向(TD方向)の同一条件下における寸法変化率は、±0.5%以内のフィルムを得ることができる。また、延伸温度100℃以上、残留溶媒量を延伸終点時に12質量%以上とすることにより80℃、90%RH条件下100時間経過後における寸法変化率は、MD方向に±1.5%以内、TD方向に±1.0%以内のフィルムを得ることができる。
【0097】
より好ましくは、延伸条件を延伸温度120℃以上、残留溶媒量を延伸終点時に7質量%以上とすることにより当該条件下における寸法変化率が、MD方向に±1.0%、TD方向に0.5%以内のフィルムを得ることができる。更に好ましくは、延伸温度130℃以上、残留溶媒量が延伸終点時に12質量%以上とすることにより当該条件下における寸法変化率がMD方向に0.7%、TD方向に±0.2以内のフィルムを得ることが可能である。
【0098】
また、テンター工程では、工程A、B、Cでの良溶媒濃度をそれぞれMa、Mb、Mcとすると、Ma>Mcの関係を満たす事が好ましく。また、Mb>Mcの関係を満たすことが好ましい。
【0099】
テンター工程で、工程A、B、C各終点時点でのフィルム中の残留溶媒について特に限定はないが、好ましい良溶媒及び貧溶媒の比率が存在する。工程A、B、C終了時点でのそれぞれの残留貧溶媒質量/(残留良溶媒質量+残留貧溶媒質量)×100(%)が95質量%〜15質量%の範囲が好ましい。更に、95質量%〜25質量%が好ましく、95質量%〜30質量%の範囲が最も好ましい。また、工程A、B、C終了時点でのそれぞれの残留貧溶媒質量/(残留良溶媒質量+残留貧溶媒質量)×100(%)は同一であっても、異なっていてもよい。
【0100】
フィルムを幅手方向に延伸する場合には、フィルムの幅手方向で光学遅相軸の分布(以下、配向角分布)が悪くなることはよく知られている。RtとR0の値を一定比率とし、且つ、配向角分布を良好な状態で幅手延伸を行うため、工程A、B、Cで好ましいフィルム温度の相対関係が存在する。工程A、B、C終点でのフィルム温度をそれぞれTa℃、Tb℃、Tc℃とすると、Ta≦Tb−10であることが好ましい。また、Tc≦Tbであることが好ましい。Ta≦Tb−10且つ、Tc≦Tbであることが更に好ましい。
【0101】
工程Bでのフィルム昇温速度は、配向角分布を良好にするために、0.5〜10℃/sの範囲が好ましい。
【0102】
工程Bでの延伸時間は、80℃、90%RH条件における寸法変化率を小さくするためには短時間である方が好ましい。但し、フィルムの均一性の観点から、最低限必要な延伸時間の範囲が規定される。具体的には1〜10秒の範囲であることが好ましく、4〜10秒がより好ましい。
【0103】
上記テンター工程において、熱伝達係数は一定でもよいし、変化させてもよい。熱伝達係数としては、41.9〜419×103J/m2hrの範囲の熱伝達係数を持つことが好ましい。更に好ましくは、41.9〜209.5×103J/m2hrの範囲であり、41.9〜126×103J/m2hrの範囲が最も好ましい。
【0104】
80℃、90%RH条件下における寸法安定性を良好にするため、上記工程Bでの幅手方向への延伸速度は、一定で行ってもよいし、変化させてもよい。延伸速度としては、50〜500%/minが好ましく、更に好ましくは100〜400%/min、200〜300%/minが最も好ましい。
【0105】
テンター工程において、フィルム雰囲気温度分布が少ない事は、フィルムの均一性を高める観点から好ましい範囲が存在する。テンター工程での温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。上記温度分布を少なくすることにより、フィルムの巾手での温度分布も小さくなることが期待できる。
【0106】
工程Cに於いて、寸法変化を抑えるためフィルム搬送方向に対して垂直な方向に緩和する事が好ましい。具体的には、前工程のフィルム幅に対して95〜99.5%の範囲になるようにフィルム幅を調整する事が好ましい。
【0107】
テンター工程で処理した後、更に後乾燥工程(以下、工程D1)を設けるのが好ましい。テンター工程でセルロースエステルフィルムに付与された光学特性を洗練し、且つ、乾燥を行う目的で50〜140℃の温度範囲で熱処理を行うのが好ましい。更に好ましくは、80〜140℃の範囲であり、最も好ましくは80〜130℃の範囲である。
【0108】
テンター工程でセルロースエステルフィルムに付与された光学特性を洗練し、且つ乾燥を行う目的で熱伝達係数20.9〜126×103J/m2hrで熱処理を行うのが好ましい。更に好ましくは、41.9〜126×103J/m2hrの範囲であり、最も好ましくは41.9〜83.7×103J/m2hrの範囲である。
【0109】
工程D1で、幅手フィルム面内でありフィルム搬送に対して垂直な方向でフィルム雰囲気温度分布が少ない事は、フィルムの均一性を高める観点から好ましい範囲が存在する。テンター工程での温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。
【0110】
工程D1でのフィルム搬送張力としては、搬送方向のフィルム伸びを防止するために、好ましい条件が存在する。工程D1でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及び工程D0での残留溶媒量、工程D1での温度などに影響を受けるが、120〜200N/mが好ましく、140〜200N/mが更に好ましい。140〜160N/mがもっとも好ましい。
【0111】
工程D1での搬送方向へフィルムの伸びを防止する目的で、テンションカットロールを設けることが好ましい。乾燥終了後、巻き取り前にスリッターを設けて端部を切り落とすことが良好な巻姿を得るため好ましい。
【0112】
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、ドープ作製時の可塑剤量、紫外線吸収剤量と延伸終了後のフィルムに含有される可塑剤量、紫外線吸収剤量の変化率をある範囲に制御する条件で延伸する事が好ましい。可塑剤量、紫外線吸収剤量の変化率は、10%以内が好ましく、7%以内が更に好ましく、5%以内がもっとも好ましい。
【0113】
上記の製造方法で製造されたセルロースエステルフィルムについて説明する。本発明の光学補フィルム、楕円偏光板等に組み込まれ視野角表示効果の高い、液晶表示装置を得る観点から、セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸して、結果的に、セルロースエステルフィルムのRt/R0の比は0.8≦Rt/R0≦3.5とすることが好ましい。
【0114】
本発明のセルロースエステルフィルムのフィルムの面内方向のリターデーション(R0)としては15〜300nmの範囲が好ましく、更に好ましくは、15〜150nmがであり、15〜70nmが最も好ましい。
【0115】
また、同様の理由で、本発明にセルロースエステルフィルムのフィルムの厚み方向のリターデーション(Rt)としては、30〜1000nmの範囲が好ましく、更に好ましくは、30〜500nmの範囲であり、特に好ましくは、80〜300nmの範囲である。
【0116】
また、セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、幅手方向での配向角分布をある範囲に制御しながら延伸する事は重要である。本発明において、配向角とはセルロースエステルフィルム面内における遅相軸の方向(流延製膜時の幅手方向に対する角度)を表し、また、配向角の測定は、自動複屈折計KOBURA−21ADHを用いて行うことができる。
【0117】
配向角が幅手方向の何れの測定点においても、測定点すべての平均配向角の角度から±2°以内が好ましく、±1°がより好ましく、±0.5°がもっとも好ましい。
【0118】
本発明においては、セルロースエステルフィルムの面内方向のリターデーション(R0)分布を好ましくは5%以下に調整し、更に好ましくは、2%以下であり、特に好ましくは、1.5%以下である。また、フィルムの厚み方向のリターデーション(Rt)分布を10%以下に調整することが好ましいが、更に好ましくは、2%以下であり、特に好ましくは、1.5%以下である。
【0119】
上記、リターデーション分布の数値は、得られたフィルムの幅手方向に1cm間隔でリターデーションを測定し、得られたリターデーションの変動係数(CV)で表したものである。リターデーション、その分布の数値の測定方法については後述する。
【0120】
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸した際、波長違いによるリターデーション変化が小さい方がLCDパネルに組み込んだ際の色ムラ等を防止する意味で好ましい。
【0121】
好ましくは、0.7<R450/R0<1.0、1.0<R650/R0<1.5である。更に好ましくは0.7<R450/R0<0.95、1.01<R650/R0<1.2であり、特に好ましくは0.8<R450/R0<0.93、1.02<R650/R0<1.1である。
【0122】
LCD表示装置の部材としては高い透過率と紫外線吸収性能が求められ、上述の添加剤を組み合わせて添加し、製造されたセルロースエステルフィルムの500nm透過率は、85%から100%が好ましく、90%から100%が更に好ましく、92%から100%が最も好ましい。また、400nm透過率は40%から100%が好ましく、50%から100%が更に好ましく、60%から100%がもっとも好ましい。また、380nm透過率は0%から10%が好ましく、0%から5%が更に好ましく、0%から3%が最も好ましい。
【0123】
幅手方向に延伸したセルロースエステルフィルムのヘイズ値が上昇することは、フィルムの長手方向に意図しない延伸が起こったことが原因の一つであると考えられる。ヘイズ値を低く制御する条件で延伸することにより面内、及び厚み方向のリターデーションを均一にする。
【0124】
セルロースエステルフィルムを幅手方向に延伸する際に、延伸終了後のフィルムヘイズ値をある範囲に制御する条件で延伸する事が好ましい。フィルムヘイズ値が、2%以内が好ましく、1.5%がより好ましく、1%以内がもっとも好ましい。
【0125】
以下に、本発明のセルロースエステルフィルムに係る測定値の測定方法及び後述する実施例において用いられる測定方法の概要を説明する。
【0126】
残留溶媒を含んだサンプルから、残留溶媒を減圧捕集し、ガスクロマトグラフィー測定により各溶媒の定量を行った。
【0127】
任意の残留溶媒を含むフィルムを試料幅を10mm、長さ130mmに切り出し、任意温度、メチクロ飽和雰囲気下でチャック間距離100mmにして引っ張り速度100mm/分で引っ張り試験を行い求めた。
【0128】
残留溶媒を含まないフィルムの場合、JIS K 7127に記載の方法に従い23℃ 55% RHの環境下で測定を行った。試料幅を10mm、長さ130mmに切り出し、任意温度でチャック間距離100mmにし、引っ張り速度100mm/分で引っ張り試験を行い求めた。
【0129】
アッベの屈折率計より試料の平均屈折率を求めた。更に、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmにおいて、3次元屈折率測定を行い、得られた位相差の測定値と平均屈折率から計算により屈折率Nx、Ny、Nzを求めた。
【0130】
自動複屈折計KOBURA−21ADH(王子計測器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmにおいて、試料の幅手方向に1cm間隔で3次元複屈折率測定を行った。得られた面内及び厚み方向のリターデーションをそれぞれ(n−1)法による標準偏差をもとめた。リターデーション分布は以下で示される変動係数(CV)を求め、指標とした。実際の測定にあたっては、nとしては、130〜140に設定した。
【0131】
変動係数(CV)=標準偏差/リターデーション平均値
自動複屈折計KOBURA−21ADH(王子計測器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が450、650nmにおいて、3次元複屈折率測定を行った。それぞれ得られた値をR450、R650とした。
【0132】
波長分散特性は、R450/R0及びR650/R0をそれぞれ評価した。
寸法変化率は以下の如くである。フィルムを、温度23℃、相対湿度55%に調湿された部屋で4時間調湿した後、幅手、長手それぞれに約10cm間隔にカッターにより目印をつけ、距離(L1)を測定した。次に、60℃、95%に調湿された恒温槽中でフィルムを24h保管。再度、フィルムを温度23℃、相対湿度55%に調湿された部屋で12時間調湿した後、目印の距離(L2)を測定した。寸法変化率は、以下の式により評価を行った。
【0133】
寸法変化率(%)={(L2−L1)/L1}×100
透湿度はJIS Z 0208に記載の方法で測定する事が出来る値で定義する。本発明のセルロースエステルフィルムの透湿度は、25℃、90%RH環境下で10〜250g/m2・24時間であることが好ましく、20〜200g/m2・24時間であることが更に好ましく、50〜180g/m2・24時間であることが最も好ましい。
【0134】
本発明の光学補償フィルムについて、その光弾性係数は応力に対するリターデーション値の安定性の観点から絶対値で60×10−12cm2/N以下であることが求められ、更に40×10−12cm2/N以下であることが好ましく、下限値は10×10−12cm2/Nである。光弾性係数はエリプソメーターで求めた値である。
【0135】
また、膜厚に対するR0値発現性は0.25nm/μm以上で、その上限値は1.00nm/μmである。
【0136】
本発明のセルロースエステルフィルムは、80℃、90%RH、100時間経過時点における寸法安定性を確保したことにより、偏光板保護フィルムであると同時に液晶表示装置の視野角を拡大する光学補償フィルムとして安定した性能を維持して使用することが出来る。
【0137】
そして、偏光板は、本発明の光学補償フィルムを偏光子の少なくとも片側に積層したものとして構成され、片側のみの場合は、本発明のセルロースエステルフィルム支持体やその他の透明支持体もしくはTAC(トリアセテート)フィルムを使用してもよい。
【0138】
本発明のセルロースエステルフィルムは他の光学異方層が積層された偏光板保護フィルムとしても好ましく用いることが出来る。例えば、直接または配向層を介して、液晶を塗布して配向、固定化した光学異方層(例えば、ハイブリッド配向で固定化した層)を設け、これを偏光板保護フィルムとして用いて視野角拡大効果を有する偏光板(楕円偏光板)を作製することが出来る。
【0139】
また、本発明の光学補償フィルムを用いた楕円偏光板は、液晶セルと接触しない側の保護フィルム上に他の機能性層を配置することも可能である。
【0140】
例えば、反射防止層/防眩層/偏光板保護フィルム(TAC)/偏光子/本発明のセルロースエステルフィルム(場合によっては、更に/配向層/光学異方層)という構成の偏光板とすることが出来る。
【0141】
この様にして得られた偏光板を、液晶セルのセル側一面に設けても良く、両面側に設けてもよい。いずれの場合においても、本発明の光学補償フィルムは偏光子に対して液晶セルに近い方に貼りつけて、本発明の液晶表示装置が得ることが出来る。
【0142】
液晶表示装置に本発明の光学補償フィルムを設置する場合、駆動用液晶セルの両側に位置する一対の基板の上下に配置された上側偏光子と下側偏光子が通常構成されるが、このとき該基板と上側もしくは下側偏光子のどちらか一方の間、または該基板と上側及び下側偏光子のそれぞれ間に本発明の光学補償フィルムが少なくとも1枚配置される。
【0143】
液晶表示装置がツイステッドネマティック型(TN型)液晶表示装置である場合、TN型液晶セルに最も近い基板に前記光学補償フィルムのセルロースエステルフィルム支持体面が接触する方向に光学補償フィルムを貼合し、且つ光学補償フィルムのセルロースエステルフィルム支持体面内の最大屈折率方向が前記液晶セルに最も近い基板のネマティック液晶の配向方向と実質的に直交した方向に貼合することが本発明の目的を効果的に発現できる。実質的に直交とは、90°±5°であるが、90°にすることが好ましい。
【0144】
液晶表示装置が垂直配向型(VA型)液晶表示装置である場合も同様に、前記VA型液晶セルに最も近い基板に光学補償フィルムのセルロースエステルフィルム支持体面が接触する方向に光学補償フィルムを貼合することができる。
【0145】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0146】
実施例1
〔セルロースエステルフィルム1の作製〕
下記に記載のように、ドープ液の調製、紫外線吸収剤溶液の調製を行い、それらを用いてセルロースエステルフィルム1を作製した。
【0147】
《ドープの調製》
アセチル基の置換度2.00、プロピオニル基の置換度0.80、粘度平均重合度350のセルロースアセテートプロピオネート100質量部、エチルフタリルエチルグリコレート2質量部、トリフェニルフォスフェイト8.5質量部、塩化メチレン290質量部、エタノール60質量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり攪拌しながら徐々に昇温し、60分かけて45℃まで上げ溶解した。容器内は1.2気圧となった。このドープを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した後、24時間静置しドープ中の泡を除いた。
【0148】
《紫外線吸収剤溶液の調製》
また、これとは別に、上記セルロースアセテートプロピオネート5質量部、チヌビン326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)6質量部、チヌビン109(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)4質量部、チヌビン171(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)5質量部を塩化メチレン94質量部とエタノール8質量部を混合し撹拌溶解し、紫外線吸収剤溶液を調製した。
【0149】
ドープ100質量部に対して前記紫外線吸収剤溶液を2質量部の割合で加え、スタチックミキサーにより十分混合した後、ダイからステンレスベルト上にドープ温度30℃で、幅1.6mで流延した。ステンレスベルトの裏面から、25℃の温度の温水を接触させて温度制御されたステンレスベルト上で1分間乾燥した後、更にステンレスベルトの裏面に、15℃の冷水を接触させて15秒間把持した後、ステンレスベルトから剥離した。
【0150】
剥離時のウェブ中の残留溶媒量は80質量%であった。次いで、剥離したフィルムを一軸延伸テンター部分に100N/mの張力で搬送した。テンター入口部分のエタノール/(塩化メチレン+エタノール)質量は70%であった。
【0151】
このウェブの両端を、一軸延伸テンター入口部分でクリップで把持し、横延伸工程においてクリップ間隔を幅手方向に延伸速度250%/minで変化させた。この時、フィルム雰囲気温度は130℃、延伸倍率は1.35倍であった。
【0152】
延伸開始時のフィルム温度は80℃、残留溶媒量は25質量%、延伸終了時、フィルム温度は120℃、残留溶媒量は12質量%であり、エタノール/(エタノール+塩化メチレン)質量は93%であった。
【0153】
その後、続けて、フィルム雰囲気温度が120℃の条件でフィルムを把持したまま搬送を行い、更に雰囲気温度を100℃に設定した乾燥工程でフィルムの乾燥を行い、セルロースエステルフィルム1を得た。
【0154】
得られたセルロースエステルフィルム1を、コア径200mmのガラス繊維強化樹脂製のコアに巾1m、長さ1000mのフィルムロール状にテーパーテンション法で巻き取った。この際、フィルム端部に温度250℃のエンボスリングを押し当て、厚みだし加工を施して、フィルム同士の密着を防止した。
【0155】
得られたフィルムロールから取り出したフィルムの中央部を用いてサンプリングし、幅手、長手、膜厚方向の屈折率をそれぞれNx、Ny、Nzを測定して以下のリターデーション値を得た。また、膜厚は82μmであった。
【0156】
R0=41nm、Rt=118nm、R0分布=1.5%、Rt分布=1.4%
また、得られたフィルムロールからフィルム中央部をサンプリングし、ヘイズ値を測定したところ0.5%であった。
【0157】
このフィルムを以下に示す寸法変化率の評価方法に従い測定した。
(寸法変化率の評価方法)
高分子フィルムの流延方向と幅手方向について、各々30mm幅×120mm長さの試験片として3枚採取する。試験片の長さ方向の両端に6mmΦの穴をパンチにより2個ずつ100mm間隔であける。これを23℃、55%RHの室内で12時間以上放置して調湿する。自動ピンゲージ(新東科学(株)製)を用いて、流延方向と幅方向についてパンチ間隔の流延方向の原寸Lmdと幅方向の原寸Ltdを最小目盛1/1000mmまで測定する。次に各試験片を80℃、90%RHの恒温恒湿器に吊るして50時間放置した後、23℃、55%RHの室内で12時間放置して調湿した試料について、自動ピンゲージでパンチ間隔の流延方向の寸法Hmd及び幅方向の寸法Htdを測定する。そして、次式により流延方向及び幅方向の変化率MD、SDを各々3枚の試料の平均値を算出した。なお、伸びを+、収縮を−とする。
【0158】
MD(%)={(Hmd−Lmd)/Lmd}×100
SD(%)={(Htd−Ltd)/Ltd}×100
〔セルロースエステルフィルム2の作製〕
横延伸工程において、延伸時のフィルム雰囲気温度が120℃、延伸終了時の残留溶媒量が7質量%となるように延伸工程の条件を調整した点以外は、セルロースエステルフィルム1と同様の方法によりセルロースエステルフィルム2を作製した。
【0159】
得られたフィルムロールから取り出したフィルムの中央部を用いてサンプリングし、幅手、長手、膜厚方向の屈折率をそれぞれNx、Ny、Nzを測定して以下のリターデーション値を得た。また、膜厚は82μmであった。
【0160】
R0=44nm、Rt=136nm、R0分布=1.3%、Rt分布=1.4%
このフィルムの寸法変化率について、前述と同様の手順に従い測定を実施した。
【0161】
〔セルロースエステルフィルム3の作製〕
以下の組成のドープ液を調製し、下記に記載のように、ドープ液の調製、紫外線吸収剤を含む添加溶液の調製を行い、それらを用いてセルロースエステルフィルム1と同様にしてセルロースエステルフィルム3を作製した。
【0162】
このフィルムの寸法変化率について、前述と同様の手順に従い測定を実施した。
【0163】
《ドープの調製》
酢化度60.7%のセルロースアセテート100質量部、エチルフタリルエチルグリコレート2質量部、トリフェニルフォスフェイト8.5質量部、塩化メチレン290質量部、エタノール58質量部、ブタノール2質量部を密閉容器に入れ、混合物をゆっくり攪拌しながら徐々に昇温し、溶解した。
【0164】
《紫外線吸収剤添加剤溶液の調製》
また、これとは別に、チヌビン326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)3質量部、チヌビン109(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)2質量部、チヌビン171(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)2.5質量部、及び下記の添加剤15質量部に塩化メチレン85質量部とエタノール15質量部を混合して加熱しながら撹拌溶解し、紫外線吸収剤添加剤溶液を調製した。
【0165】
【化1】
【0166】
ドープ100質量部に対して前記紫外線吸収剤添加剤溶液を4質量部の割合で加え、スタチックミキサーにより十分混合した後、ダイからステンレスベルト上にドープ温度30℃で、幅1.6mで流延した。ステンレスベルトの裏面から25℃の温度の温水を接触させて温度制御されたステンレスベルト上で1分間乾燥した後、更にステンレスベルトの裏面に、15℃の冷水を接触させて15秒間把持した後、ステンレスベルトから剥離した。
【0167】
剥離時のウェブ中の残留溶媒量は90質量%であった。
ついで、剥離したフィルムを一軸延伸テンター部分に100N/mの張力で搬送した。テンター入口部分の(エタノール+ブタノール)/(塩化メチレン+エタノール+ブタノール)質量は80%であった。
【0168】
このウェブの両端を、一軸延伸テンター入口部分でクリップで把持し、横延伸工程においてクリップ間隔を幅手方向に延伸速度200%/minで変化させた。この時、フィルム雰囲気温度は135℃、延伸倍率は1.30倍であった。
【0169】
延伸開始時のフィルム温度は80℃、残留溶媒量は27質量%、延伸終了時、フィルム温度は120℃、残留溶媒量は12質量%であり、(エタノール+ブタノール)/(エタノール+ブタノール+塩化メチレン)質量は96%であった。その後、続けて、フィルム雰囲気温度が120℃の条件でフィルムを把持したまま搬送を行った後、雰囲気温度を140℃で15分間乾燥し、次いで100℃に設定した乾燥工程でフィルムの乾燥を行い、セルロースエステルフィルム3を得た。
【0170】
得られたセルロースエステルフィルム3を、コア径200mmのガラス繊維強化樹脂製のコアに巾1m、長さ1000mのフィルムロール状にテーパーテンション法で巻き取った。この際、フィルム端部に温度250℃のエンボスリングを押し当て、厚みだし加工を施して、フィルム同士の密着を防止した。
【0171】
得られたフィルムロールから取り出したフィルムの中央部を用いてサンプリングし、幅手、長手、膜厚方向の屈折率をそれぞれNx、Ny、Nzを測定して以下のリターデーション値を得た。また、膜厚は82μmであった。
【0172】
R0=38nm、Rt=118nm、R0分布=1.3%、Rt分布=1.6%
また、得られたフィルムロールからフィルム中央部をサンプリングし、ヘイズ値を測定したところ0.5%であった。
【0173】
〔セルロースエステルフィルム4の作製〕
横延伸工程において、延伸時のフィルム雰囲気温度が125℃、延伸終了時の残留溶媒量が7質量%となるように延伸工程の条件を調整した点以外は、セルロースエステルフィルム3と同様の方法によりセルロースエステルフィルム4を作製した。
【0174】
得られたフィルムロールから取り出したフィルムの中央部を用いてサンプリングし、幅手、長手、膜厚方向の屈折率をそれぞれNx、Ny、Nzを測定して以下のリターデーション値を得た。また、膜厚は82μmであった。
【0175】
R0=40nm、Rt=117nm、R0分布=1.5%、Rt分布=2.1%
また、得られたフィルムロールからフィルム中央部をサンプリングし、ヘイズ値を測定したところ0.5%であった。
【0176】
このフィルムの寸法変化率について、前述と同様の手順に従い測定を実施した。
【0177】
〔ノルボルネン樹脂フィルム1の作製〕
ゼオノア(日本ゼオン製)100質量部、シクロヘキサン400質量部を、混合用密閉容器に投入し、加熱しつつ攪拌して溶解し、ノルボルネン樹脂溶液組成物を調製した。
【0178】
これを、スタチックミキサーにより十分混合した後、ダイからステンレスベルト上にドープ温度30℃で、幅0.3mで流延した。ステンレスベルトの裏面から25℃に温度制御されたステンレスベルト上で3分間乾燥した後、ステンレスベルトから剥離した。
【0179】
このウェブの両端を、一軸延伸テンター入口部分でクリップで把持し、横延伸工程においてクリップ間隔を幅手方向に延伸速度200%/minで変化させた。この時、フィルム雰囲気温度は130℃、延伸倍率は1.15倍であった。延伸開始時のフィルム温度は120℃、残留溶媒量は29質量%、延伸終了時、フィルム温度は130℃、残留溶媒量は20質量%であった。その後、続けて、フィルム雰囲気温度が140℃の条件でフィルムを把持したまま搬送を行った後、雰囲気温度を170℃で15分間乾燥し、次いで130℃に設定した乾燥工程でフィルムの乾燥を行い、ゼオノアフィルムを得た。
【0180】
得られたフィルムロールから取り出したフィルムの中央部を用いてサンプリングし、幅手、長手、膜厚方向の屈折率をそれぞれNx、Ny、Nzを測定して以下のリターデーション値を得た。また、膜厚は45μmであった。
【0181】
R0=42nm、Rt=124nm、R0分布=1.7%、Rt分布=1.8%
このフィルムの寸法変化率について、前述と同様の手順に従い測定を実施した。
【0182】
〔セルロースエステルフィルム5の作製〕
横延伸工程において、延伸時のフィルム雰囲気温度が100℃、延伸終了時の残留溶媒量が15質量%となるように延伸工程の条件を調整した点以外は、セルロースエステルフィルム1と同様の方法によりセルロースエステルフィルム5を作製した。
【0183】
得られたフィルムロールから取り出したフィルムの中央部を用いてサンプリングし、幅手、長手、膜厚方向の屈折率をそれぞれNx、Ny、Nzを測定して以下のリターデーション値を得た。また、膜厚は82μmであった。
【0184】
R0=44nm、Rt=158nm、R0分布=1.5%、Rt分布=1.4%
このフィルムの寸法変化率について、前述と同様の手順に従い測定を実施した。
【0185】
〔セルロースエステルフィルム6の作製〕
横延伸工程において、延伸時のフィルム雰囲気温度が150℃、延伸終了時の残留溶媒量が0.5質量%となるように延伸工程の条件を調整した点以外は、セルロースエステルフィルム1と同様の方法によりセルロースエステルフィルム6を作製した。
【0186】
得られたフィルムロールから取り出したフィルムの中央部を用いてサンプリングし、幅手、長手、膜厚方向の屈折率をそれぞれNx、Ny、Nzを測定して以下のリターデーション値を得た。また、膜厚は82μmであった。
【0187】
R0=44nm、Rt=118nm、R0分布=1.5%、Rt分布=1.8%
このフィルムの寸法変化率について、前述と同様の手順に従い測定を実施した。
【0188】
〔セルロースエステルフィルム7の作製〕
横延伸工程において、延伸時のフィルム雰囲気温度が125℃、延伸開始時及び延伸終了時の残留溶媒量がそれぞれ15質量%及び4質量%となるように延伸工程の条件を調整した点以外は、セルロースエステルフィルム3と同様の方法によりセルロースエステル7を作製した。
【0189】
得られたフィルムロールから取り出したフィルムの中央部を用いてサンプリングし、幅手、長手、膜厚方向の屈折率をそれぞれNx、Ny、Nzを測定して以下のリターデーション値を得た。また、膜厚は82μmであった。
【0190】
R0=46nm、Rt=142nm、R0分布=1.5%、Rt分布=1.4%
このフィルムの寸法変化率について、前述と同様の手順に従い測定を実施した。
【0191】
〔ノルボルネン樹脂フィルム2の作製〕
横延伸工程において、延伸時のフィルム雰囲気温度が145℃、延伸開始時及び延伸終了時の残留溶媒量がそれぞれ6質量%及び0.5質量%となるように延伸工程の条件を調整した点以外は、ノルボルネン樹脂フィルム1と同様の方法によりノルボルネン樹脂フィルム2を作製した。
【0192】
このフィルムの寸法変化率について、前述と同様の手順に従い測定を実施した。
【0193】
本発明及び比較例のセルロースエステルフィルム1から7、及びノルボルネン樹脂フィルム1及び2について寸法変化率を測定した結果を表1に示す。
【0194】
【表1】
【0195】
実施例2
本発明及び比較例のセルロースエステルフィルム1から7、及びノルボルネン樹脂フィルム1及び2について以下に示す手順に従い視野角補償楕円偏光板を作製して、垂直配向型液晶表示装置、TN型液晶表示装置に配置して視野角測定を行った。また、40℃、95%RH条件下でしばらく放置した後の黒表示時の光漏れを観察した結果を表2に示す。
【0196】
《偏光板の作製》
前述の作製したセルロースエステルフィルム1から7と、コニカ製セルローストリアセテートフィルム(コニカ(株)製、形式名8UX;膜厚=80μm)を、60℃、2mol/lの濃度の水酸化ナトリウム水溶液中に2分間浸漬し水洗した後、100℃で10分間乾燥しアルカリ鹸化処理セルロースエステルフィルムを得た。
【0197】
また、厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で4倍に延伸して偏光膜を作った。
【0198】
上記偏光膜の片面に前述のアルカリ鹸化処理したセルローストリアセテートフィルムを、反対側の面にアルカリ鹸化処理したセルロースエステルフィルム1から7のいずれかを、完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として用いて各々貼り合わせ偏光板を作製した。
【0199】
《TN型液晶表示装置の視野角測定》
上記で得られた本発明の視野角補償楕円偏光板を、NEC製15型液晶ディスプレイMulti Sync LCD1525Jのあらかじめ貼合されていた光学補償フィルム及び偏光板を剥がし、本発明の視野角補償楕円偏光板の吸収軸を予め貼合されていた偏光板の吸収軸と同じ方向になるよう貼合した。
【0200】
視野角評価は、上記で得られた本発明の視野角補償楕円偏光板を貼合した液晶パネルを、ELDIM社製EZ−contrastを用いて視野角を測定した。
【0201】
視野角の評価としては、液晶パネルの白表示と黒表示時のコントラスト比が10以上を示すパネル面に対する法線方向からの傾き角の範囲を評価した。
【0202】
《VA型液晶表示装置の視野角測定》
上記で得られた本発明の視野角補償楕円偏光板を、富士通製15型液晶ディスプレイVL−150SDのあらかじめ貼合されていた光学補償フィルム及び偏光板を剥がし、本発明の視野角補償楕円偏光板の吸収軸を予め貼合されていた偏光板の吸収軸と同じ方向になるよう貼合した。
【0203】
視野角評価は、上記で得られた本発明の視野角補償楕円偏光板を貼合した液晶パネルを、ELDIM社製EZ−contrastを用いて視野角を測定した。
【0204】
視野角の評価としては、液晶パネルの白表示と黒表示時のコントラスト比が10以上を示すパネル面に対する法線方向からの傾き角の範囲を評価した。
【0205】
【表2】
【0206】
【発明の効果】
本発明により、光学的に二軸性の光学補償フィルムを用いた楕円偏光板を組み込んだ液晶表示装置の視野角特性の劣化、特に経時後の黒表示時の光漏れを防止することを可能とする光学補償フィルムを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】延伸工程での延伸角度を説明する図である。
【図2】本発明に用いられるテンター工程の1例を示す概略図である。
Claims (10)
- 下記一般式(1)で表されるR0値が15乃至70nmの範囲にあり、Rt値が80乃至350nmの範囲にあることを特徴とする溶液流延製膜法により形成された高分子フィルムであって、80℃、90%RH、50時間経過時における寸法変化率が流延製膜時のフィルム搬送方向に平行な方向(延伸方向に直交する面内方向)に−0.7乃至+0.7%の範囲にあり、且つ流延製膜時のフィルム搬送方向に直交する方向(延伸方向に平行な方向)に−0.2乃至+0.2%の範囲にあることを特徴とする光学補償フィルム。
一般式(1)
R0=(Nx−Ny)×d
Rt=((Nx+Ny)/2−Nz)×d
(式中、Nxはフィルムの幅手方向の屈折率、Nyはフィルムの長手方向の屈折率、Nzはフィルムの膜厚方向の屈折率、dはフィルム膜厚(nm)である。) - 流延製膜後、延伸を行うことにより作製されたものであって延伸温度が130℃以上、150℃以下、延伸完了時のフィルムの残留溶媒量が12%以上、20%以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学補償フィルム。
- 前記光学補償フィルムが光弾性係数の絶対値が60×10−12cm2/N以下の高分子を含み、膜厚に対するR0値発現性が0.25nm/μm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学補償フィルム。
- 前記高分子がセルロース誘導体であることを特徴とする請求項3に記載の光学補償フィルム。
- 前記セルロース誘導体がセルロースエステルであって、セルロースエステルの総置換度が2.3〜2.85の範囲であり、アセチル基の置換度が1.4〜2.85の範囲であることを特徴とする請求項4に記載の光学補償フィルム。
- 前記光学補償フィルムが酢化度59.0乃至61.5%の範囲にあるセルロースアセテートと少なくとも二つの芳香環を有する芳香族化合物を0.01乃至15質量部含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学補償フィルム。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学補償フィルム上に、液晶性化合物を固定化してなる光学異方性層が直接または間接的に積層されたものであることを特徴とする光学補償フィルム。
- 偏光子の少なくとも一方の面に請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学補償フィルムが直接または他の層を介して間接的に貼合されていることを特徴とする楕円偏光板。
- 偏光子の吸収軸と請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの遅相軸が実質的に直交するように配置されていることを特徴とする楕円偏光板。
- 液晶セルとその両側に配置された二枚の偏光板からなる液晶表示装置であって、少なくとも一方の偏光板が請求項8または9に記載の楕円偏光板であり、液晶セル面側に請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学補償フィルムが配置されていることを特徴とする液晶表示装置。
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