JP2004034562A - 水性後処理液及びインクジェット記録方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】少ない塗布量で記録画像の耐擦性を向上させることでき、記録物本来の風合いや質感などを変化させるおそれのない水性後処理液及びインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】本発明の水性後処理液は、顔料インクジェット記録物の記録面に塗布されて使用されるもので、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれと共重合可能なその他の単量体を、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物又は共重合性界面活性剤の存在下で重合して得られるアルカリ可溶性共重合体を、無機塩基でpH調整してなる酸価が40以下のpH調整樹脂を含有することを特徴とする。
【選択図】 なし
【解決手段】本発明の水性後処理液は、顔料インクジェット記録物の記録面に塗布されて使用されるもので、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれと共重合可能なその他の単量体を、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物又は共重合性界面活性剤の存在下で重合して得られるアルカリ可溶性共重合体を、無機塩基でpH調整してなる酸価が40以下のpH調整樹脂を含有することを特徴とする。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、顔料インクにより画像が記録されたインクジェット記録物の記録面に塗布される水性後処理液に関し、詳しくは、少ない塗布量で記録画像の耐擦性を向上させることでき、記録物本来の風合いや質感などを変化させるおそれのない水性後処理液及び該水性後処理液を用いたインクジェット記録方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方法は、記録ヘッドの微小なジェットノズルからインクの液滴を吐出させるインクジェット方式により、紙等の記録媒体にインクを付着させて印字を行う印刷方式である。インクジェット記録用のインクとしては、染料や顔料等の色材を水性媒体中に溶解又は分散させたものが一般的であり、染料インクと顔料インクに大別される。これまで、色再現性や吐出安定性等に優れる染料インクが多用されてきたが、インクジェット記録技術のデジタル写真サービスや商業印刷等への用途拡大により、記録画像の長期保存性が重要視されるようになってきており、染料インクに比して耐水性や耐光性等に優れる顔料インクが使用されるようになってきている。
【0003】
顔料インクを使用したインクジェット記録の技術的課題として、記録画像の耐擦性の低さがある。これは、記録画像を形成する顔料粒子が、記録媒体の中まで浸透せずに表層に付着しているだけであることに起因するもので、指などで記録画像を軽く擦っただけで顔料粒子が脱落してしまい、その結果、記録画像の一部あるいは全部が欠損したり、インクが打ち込まれていない記録媒体の地部分(通常は白色)が汚れたりするという問題があった。
【0004】
記録画像の耐擦性の他、光沢感や耐候性の向上なども図ることができる技術として、記録媒体の画像が形成された面(記録面)に透明フィルムをラミネートする方法が知られている(特開2000−233474号公報等参照)。しかし、この方法は、ラミネート時にフィルムにシワがはいったり、記録面とフィルムとの間に気泡が入ってしまう場合があり、きれいで平滑なラミネート面を安定して形成するには限界があった。
【0005】
また、上記のようにフィルムをラミネートするのではなく、記録面に樹脂液を塗布して該記録面を被覆する樹脂皮膜を形成することにより、耐擦性等を向上させる技術も知られている(特開平10−86544号公報等参照)。この方法は、フィルムをラミネートする方法に比べて、作業が容易で実施するための装置も複雑なものではないため、比較的低コストで高画質・高品位の記録物を得ることができるという特長を有している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記特開平10−86544号公報等に記載されているような従来の樹脂液を使用して樹脂皮膜を形成する場合、記録画像の耐擦性などについて一定の改善効果を得るためには、決して少なくはない量の樹脂液を記録面に塗布して、それなりの厚みのある樹脂皮膜を形成する必要があった。その結果、記録面に過剰な光沢感が付与されて不快なギラツキ感を与えるなど、面質が変化して記録物本来の風合いや質感といったものが失われるという問題があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、顔料インクにより形成されたインクジェット記録画像の耐擦性を少ない塗布量で大幅に改善することでき、記録物本来の風合いや質感などを変化させるおそれのない水性後処理液及び該水性後処理液を用いたインクジェット記録方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、インクジェット方式により顔料インクを打ち込まれた記録媒体の記録面に塗布される水性後処理液であって、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれと共重合可能なその他の単量体を、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物又は共重合性界面活性剤の存在下で重合して得られるアルカリ可溶性共重合体を、無機塩基でpH調整してなる酸価が40以下のpH調整樹脂を含有することを特徴とする水性後処理液を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
また、本発明は、記録媒体の被記録面に顔料インクを打ち込んで画像を形成するインクジェット記録工程と、該画像が形成された該被記録面に、上記水性後処理液をインクジェット方式により塗布する後処理工程とを備えたことを特徴とするインクジェット記録方法を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の水性後処理液は、特定のアルカリ可溶性共重合体を無機塩基でpH調整してなるpH調整樹脂を含有することを特徴とするものである。以下、先ず、このpH調整樹脂について、その製造方法と共に説明する。
【0011】
上記アルカリ可溶性共重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれと共重合可能なその他の単量体を、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物又は共重合性界面活性剤の存在下で重合して得られる共重合体である。
【0012】
上記「エチレン性不飽和カルボン酸単量体」(以下、単量体Aともいう)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ−2−ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル単量体;無水マレイン酸、無水シトラコン酸等の多価カルボン酸無水物等が挙げられる。これらの単量体は、単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、耐擦性及び耐変色性(熱や光で変色しにくい性質)の点で、(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体が好ましく、とりわけメタクリル酸が好ましい。
【0013】
上記「エチレン性不飽和カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体」(以下、単量体Bともいう)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−n−アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;(メタ)アクリルニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル単量体;アリルグリシジルエーテル等のエチレン性不飽和グリシジルエーテル単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和アミド単量体;1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等の共役ジエン単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル等が挙げられる。これらの単量体は、単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、記録画像の耐光性及び光沢性の向上の点で、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体が好ましく、とりわけメタアクリル酸メチル及びアクリル酸エチルが好ましい。
【0014】
また、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び共重合性界面活性剤は、何れも、単量体Aと単量体Bとの重合反応系において乳化剤(分散剤)として添加されるものである。
【0015】
上記アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物は、水溶性高分子化合物のうち、分子量1000当りにアルコール性水酸基を5〜25個含有しているものをいい、例えば、ポリビニルアルコール及びその各種変性物等のビニルアルコール系重合体;酢酸ビニルとアクリル酸、メタクリル酸又は無水マレイン酸との共重合体のけん化物;アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース等のセルロース誘導体;アルキル澱粉、カルボキシルメチル澱粉、酸化澱粉等の澱粉誘導体;アラビアゴム、トラガントゴム;ポリアルキレングリコール等が挙げられる。これらのうち、ビニルアルコール系重合体は、乳化剤として安定した性能を示し、工業的に品質が安定したものを入手し易い点もあって好ましい。
【0016】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは1000〜500000、更に好ましくは2000〜300000である。該分子量が1000未満では単量体の分散安定効果が低くなるおそれがあり、500000超では重合反応液の粘度が高くなり、重合が困難になるおそれがある。
【0017】
上記共重合性界面活性剤は、その分子中に1個以上の重合可能なビニル基を有する界面活性剤であり、例えば、プロペニル−2−エチルヘキシルスルホコハク酸エステルナトリウム、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレン硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンエステル燐酸エステル等のアニオン性重合性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルベンゼンエーテル(メタ)アクリル酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(メタ)アクリル酸エステル等のノニオン性重合性界面活性剤等が挙げられる。これらのうち、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸アンモニウム塩は、単量体の乳化分散性能及び単量体との共重合性のバランスが優れているので好ましい。
【0018】
上記の2種の乳化剤のうち、特にアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物は、最終的に得られるエマルジョン形態のpH調整樹脂が、経時による粘度変化を起こし難く長期保存が可能となるため好ましい。
【0019】
単量体Aと単量体Bとの重合は、これら単量体の混合物を、水系媒体中、上記の2種の乳化剤のうちの何れかの存在下で乳化重合させることにより行うことができる。
【0020】
単量体A及びBの重合反応系への添加量は、pH調整樹脂の酸価(JIS K0070に準拠)が40以下となるような量とする。該酸価が40超では、画質の劣化、表面質感の変化、耐擦性能の低下などを招くおそれがある。尚、該酸価があまりに小さ過ぎる場合にも画質の劣化等を招くおそれがあるので、該酸価は、好ましくは10〜40、更に好ましくは30〜40である。また、単量体Aと単量体Bの配合比率は適宜調整すればよく、特に限定されない。
【0021】
また、乳化剤としてアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物を使用する場合、その重合反応系への添加量は、全単量体(単量体A及びBの合計)100重量部に対して、好ましくは0.05重量部〜20重量部、更に好ましくは1〜10重量部である。該添加量が0.05重量部未満では、単量体の分散安定効果が低くなるので重合時に凝集物が発生するおそれがあり、20重量部超では、重合反応液の粘度が高くなり、重合が困難になるおそれがある。
【0022】
また、乳化剤として共重合性界面活性剤を使用する場合、その重合反応系への添加量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜5重量部、更に好ましくは0.05〜5重量部、一層好ましくは0.1〜3重量部である。該添加量が0.01重量部未満では、乳化安定性が低くなるので、重合時に多量の凝集物が発生することがあり、5重量部超では、pH調整樹脂液が泡立ちやすくなるおそれがある。
【0023】
重合反応系には、上記の単量体A及びB並びに乳化剤以外に、通常、重合開始剤を添加する。重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ペンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩が好ましい。重合開始剤の使用量は、その種類によって異なるが、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.5〜5重量部、更に好ましくは0.8〜4重量部である。
【0024】
また、これらの重合開始剤は、還元剤との組み合わせでレドックス系重合開始剤として使用することもできる。還元剤としては、特に限定されず、例えば、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物等が挙げられる。これらの還元剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。還元剤の使用量は、その種類によって異なるが、重合開始剤1重量部に対して、好ましくは0.03〜10重量部である。
【0025】
また、重合反応系には、アルカリ可溶性共重合体の重量平均分子量の調節のため、必要に応じ連鎖移動剤を添加することができる。連鎖移動剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;α−メチルスチレンダイマー;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等のスルフィド類;2−メチル−3−ブチンニトリル、3−ペンテンニトリル等のニトリル化合物;チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸プロピル、チオグリコール酸オクチル等のチオグリコール酸エステル;β−メルカプトプロピオン酸メチル、β−メルカプトプロピオン酸オクチル等のβ−メルカプトプロピオン酸エステル等があり、これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。これらの連鎖移動剤のうち、特にチオグリコール酸エステルが好ましく、とりわけチオグリコール酸オクチルが好ましい。
【0026】
連鎖移動剤の重合反応系への添加量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜5重量部、更に好ましくは0.5〜4重量部である。該添加量が0.1重量部未満では、pH調整後の反応液の粘度が高くなって取扱いが困難になるおそれがあり、5重量部超では、分子量が著しく低下するおそれがある。連鎖移動剤の重合反応系への添加方法は、特に限定されず、全量を一括して添加してもよいし、少量ずつ断続的に又は連続的に重合反応系に添加してもよい。
【0027】
尚、単量体Aと単量体Bとの重合反応では、一般の乳化重合において通常使用される界面活性剤(非重合性界面活性剤)はなるべく使用しないか、あるいは使用したとしても、その使用量を全単量体100重量部に対して0.05重量部未満に留めることが好ましい。該界面活性剤の使用量が多くなると、記録画像の耐水性の改善効果に劣る傾向があるからである。
【0028】
各成分の重合反応系への添加は、重合開始前に乳化剤及び単量体混合物(単量体A及びB)を一括して反応器に全量添加する方法や、重合開始前にこれらの一部を反応器に添加し、重合開始後に残りを分割的に少しずつ反応器に添加若しくは連続的に添加する方法により行うことができる。後者の方法において、分割添加あるいは連続添加は、それぞれ、添加量を均等にあるいは一定にすることもできるし、重合の進行段階に応じて変えることもできる。
【0029】
乳化剤と単量体混合物とは、それぞれ別々に重合反応系に添加することもできるし、乳化剤、単量体混合物及び水を混合して得られる単量体分散化物の形態で重合反応系に添加することもできる。前者の場合は、両者の添加をほぼ同時に開始するのが望ましい。単量体混合物のみが先に多量に添加されると凝集物が発生しやすく、逆に、乳化剤のみが先に多量に添加されると反応液が増粘したり、凝集物が発生し易くなるなどの問題が起きやすいためである。両者の添加終了時は、必ずしも同時である必要はないがほぼ同時であることが望ましい。
【0030】
上記の乳化剤及び単量体混合物の重合反応系への添加方法のうち、特に好ましいものは、乳化剤を単量体混合物及び水と混合して分散化し、重合開始後にこれを反応器に添加する方法である。この方法は、アルカリ可溶性共重合体の高分子鎖におけるエチレン性不飽和酸単量体の連鎖分布が均一になるという利点がある。
【0031】
単量体Aと単量体Bとの重合反応系における重合温度は、好ましくは0〜100℃、更に好ましくは30〜90℃である。また、重合転化率は、好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上である。
【0032】
上述の如き重合反応により得られたアルカリ可溶性共重合体は、無機塩基でpH調整(中和)されてpH調整樹脂とされる。尚、「中和」は、中性に向かう過程を示す語であるが、反応生成物(pH調整樹脂)が必ずしも完全に中性を示すとは限らない。このpH調整(中和)は、アルカリ可溶性共重合体のエマルジョンあるいは水溶液中に、無機塩基を添加することにより行うことができる。アルカリ可溶性共重合体の中和度(エチレン性不飽和カルボン酸単量体のモル当量に対する無機塩基のモル当量)は、特に限定されないが、好ましくは70%以上、更に好ましくは95%以上である。
【0033】
上記無機塩基としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの無機塩基のうち、特に水酸化ナトリウムが好ましい。尚、無機塩基としてアンモニアを用いることもできるが、水性後処理液の経時安定性及びインクジェット方式により塗布する場合の吐出安定性の低下を招く場合があるので注意を要する。
【0034】
以上のようにして製造される本発明に係るpH調整樹脂のpHは、好ましくは8〜11、更に好ましくは9〜11である。尚、「pH調整樹脂のpH」は、水に含有量が10重量%となるようにpH調整樹脂を添加して調製した水溶液又は水分散液(エマルジョン)についての電子式pHメーターにより測定されるpH値を意味する。該pHが8未満では、水性後処理液をインクジェット方式により塗布する場合の吐出安定性に劣るおそれがあり、11超では水性後処理液の分散安定性に問題が生じるおそれがある。
【0035】
また、pH調整樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、好ましくは8000以上、更に好ましくは9000〜100000、一層好ましくは10000〜50000である。該重量平均分子量が8000未満では、記録画像の耐擦性の向上に安定した効果が得られない場合があり、また、100000を超えると水性後処理液の粘度が高くなり、取扱いが困難となることがある。
【0036】
また、pH調整樹脂のガラス転移温度は、任意に設定可能であるが、好ましくは5〜50℃、更に好ましくは20〜40℃である。pH調整樹脂のガラス転移温度がこの範囲にあると、耐折り曲げ性及び耐ブロッキング性にも優れた記録画像が得られる。
【0037】
本発明の水性後処理液は、上記pH調整樹脂を、好ましくは0.5〜10重量%、更に好ましくは0.8〜6.8重量%含有する。含有量が0.5重量%未満では、記録画像の耐擦性の向上にあまり効果がない場合があり、10重量%超では、インクジェット方式により塗布する場合の吐出安定性及び画質に劣るおそれがあり、また、記録面の面質の変化を招くおそれもある。尚、水性後処理液の調製時におけるpH調整樹脂の形態は特に限定されず、水溶性樹脂の形態、水系樹脂エマルジョンの形態、あるいはポリマー微粒子の形態の何れの形態でも使用できる。
【0038】
本発明の水性後処理液は、pH調整樹脂及び水を必須成分として含有する。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。また、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理された水は、カビやバクテリアの発生を防止して長期保存を可能とする点で好ましい。
【0039】
本発明の水性後処理液には、上記pH調整樹脂及び水以外に、必要に応じ、下記の如き各種添加剤の1種又は2種以上を含有させることができる。
【0040】
本発明の水性後処理液には、吐出安定性の確保のため、湿潤剤を含有させることが好ましい。湿潤剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール等の多価アルコール類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等のラクタム類;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、1,3−ジメチルイミダゾリジノン類等の尿素類;マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、マルトース等の糖類等が挙げられる。
【0041】
湿潤剤の含有量は、水性後処理液中、好ましくは1〜50重量%、更に好ましくは5〜30重量%である。
【0042】
また、本発明の水性後処理液には、記録媒体への浸透性、インクジェット方式により塗布する場合の吐出安定性の向上等の観点から、浸透剤を含有させることが好ましい。浸透剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、n−ペンタノール等の低級アルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールのアルキルエーテル類等が挙げられる。
【0043】
浸透剤の含有量は、水性後処理液中、好ましくは1〜50重量%、更に好ましくは5〜30重量%である。
【0044】
また、同様の観点から、水性後処理液には、界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド等の非イオン性界面活性剤;サーフィノール82、104、440、465、485(以上、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)、オルフィンSTG、オルフィンE1010(以上、日信化学社製)等のアセチレングリコ−ル系界面活性剤;カチオン性界面活性剤;両イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0045】
界面活性剤の含有量は、水性後処理液中、好ましくは0.01〜20重量%、更に好ましくは0.05〜5重量%である。
【0046】
本発明の水性後処理液に含有させることができるその他の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、消光剤、酸化防止剤、耐水化剤、防黴剤、防腐剤、増粘剤、流動性改良剤、pH調整剤、消泡剤、抑泡剤、レベリング剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0047】
本発明の水性後処理液は、きれいで平滑な塗膜を形成し得る塗布性及びレベリング性、優れた取扱性、インクジェット方式により塗布する場合の吐出安定性などを確保する観点から、下記物性値がそれぞれ下記範囲にあることが好ましい。・液温20℃における粘度;2〜5mPa・s
・表面張力;20〜38mN/m
・pH;6.5〜10
上記各物性値の調整は、上述した各成分の含有量の調整や、樹脂成分の適当な選択により行うことができる。
【0048】
本発明の水性後処理液は、インクジェット方式により顔料インクを打ち込まれた記録媒体の記録面(インクジェット画像面)に塗布されて使用される。水性後処理液は、インクジェット画像面に塗布されると、溶剤成分は瞬時に記録媒体中に吸収され、該インクジェット画像面上に残留するpH調整樹脂による造膜反応が進行して、該インクジェット画像面を被覆する樹脂皮膜が形成される。この樹脂皮膜の物理的・化学的バリヤ性によりインクジェット画像の耐擦性が向上し、光沢感の向上、光沢ムラの低減などの効果も奏される。以下、上記水性後処理液を用いたインクジェット記録方法について説明する。
【0049】
上記インクジェット記録方法は、記録媒体の被記録面に顔料インクを打ち込んで画像を形成するインクジェット記録工程と、該画像が形成された該被記録面に上記水性後処理液を塗布する後処理工程とを備えている。
【0050】
上記インクジェット記録工程は、公知のインクジェット方式の記録装置(インクジェットプリンタ)を用いて行うことができる。インクジェット方式には、ノズルから一定時間間隔でインクを吐出し続け、吐出されたインク液滴を偏向させることにより画像を形成するコンティニュアス方式と、画像データに対応してインクを吐出させるオンデマンド方式とがあり、何れの方式でもよいが、細かい打ち込み制御が可能、廃液量が少ない等の点で、オンデマンド方式が好ましい。また、インク吐出制御方式には、圧電素子(ピエゾ素子)を用いて電圧により制御する方式や、発熱抵抗素子を用いて熱エネルギーにより制御する方式等があるが、特に制限されない。
【0051】
上記後処理工程では、上記インクジェット記録工程を経た記録媒体の被記録面のうち、少なくとも顔料インクが打ち込まれた部分(記録部分)に、上記水性後処理液を重ねて塗布する。記録部分と非記録部分(インクが打ち込まれていない部分)との間の面質差が問題となる場合は、非記録部分も含めた被記録面の全面に水性後処理液を塗布する。水性後処理液の塗布方法は、特に限定されず、エアナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、サイズプレス等の公知の塗工装置を用いて塗布する方法や、スプレー、インクジェットヘッド、ジェットノズル等を用いて記録媒体と非接触で塗布する方法等を採ることができる。特に、ジェットノズル(インクジェットヘッド)を用いたインクジェット方式による水性後処理液の塗布は、塗布パターンや塗布量の融通性が高く、また、製造スピードの高速化が図れるため好ましい。さらに、水性後処理液の塗布前後で記録物の外観(記録面の面質)を変化させないためには、塗布量はなるべく少ないことが好ましいところ、インクジェット方式による塗布方法によれば、このような低塗布量のコントロールを容易に行うことができる。
【0052】
水性後処理液の塗布量は、記録画像の耐擦性について優れた改善効果を得ると共に、速やかな樹脂皮膜の形成、ブロッキングの防止、記録物本来の風合いや質感の低下の防止などを図るため、固形分換算で0.3〜3g/m2が好ましい。但し、塗布量は該範囲に限定される訳ではなく、例えば、より優れた耐擦性や高光沢感を求める場合は、3g/m2超の塗布量でよい。
【0053】
水性後処理液の塗布後は、必要に応じ、記録媒体を加熱乾燥することにより、水性後処理液の皮膜化の促進、記録物のブロッキングの防止などを図ることができる。この乾燥処理は、赤外線式加熱装置や熱風加熱装置などの公知の加熱装置を用いて常法通り行うことができる。インクジェットプリンタの適当な箇所、例えば、排紙口付近などにこのような加熱装置を設置すれば、該インクジェットプリンタに記録媒体を1回給紙する(1パス)だけで、全ての工程(インクジェット記録工程及び後処理工程)を行うことが可能となり、高速印字が可能となる。
【0054】
加熱温度や加熱時間(ラインスピード)等の加熱条件は、いわゆるブリスター(火ぶくれ)を発生させずに皮膜形成が効率良く行えるように適宜設定すればよい。記録媒体の含水量が多く、湿った状態にある場合は、これを高温で一気に加熱乾燥するとブリスターを生じ易いので、例えば、乾燥ゾーン1は風乾、乾燥ゾーン2は60℃熱風乾燥、乾燥ゾーン3は130℃熱風乾燥というように、多段乾燥で緩やかに乾燥することが好ましい。
【0055】
上記インクジェット記録方法で用いる顔料インクとしては、インクジェット記録で通常使用できるものであればよく、特に制限されない。インクジェット記録用の顔料インクは、顔料系色材を含有する水系インクが一般的であり、通常、保湿や浸透調整等のため、更に各種有機溶剤や界面活性剤等が含有されている。カラー画像を形成する場合は、イエロー、マゼンタ及びシアンの減法混色の3原色のインク、あるいはこれにブラックその他の色のインクを加えた4色以上のインクを用いる。
【0056】
また、記録媒体としては、インクジェット記録で使用できるものであればよく、例えば、上質紙、再生紙、インクジェット記録用紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、樹脂被覆紙(レジンコート紙)、バライタ紙、板紙、和紙、不織布;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム等が挙げられる。これらのうち、特にインクジェット記録用紙は、インク吸収性に優れ、滲みやムラの少ない高画質の画像を得ることができるため好ましい。
【0057】
上記インクジェット記録用紙は、一般に、紙やフィルム等の基材(上記記録媒体のうち、インクジェット記録用紙以外のものは、該基材として使用可能)上に、多孔性無機粒子を主成分とするインク受容層を設けた構成となっている。多孔性無機粒子としては、多孔性非晶質シリカ、多孔性炭酸マグネシウム、多孔性アルミナ等が好ましく用いられ、その含有量は、インク受容層中、固形分換算で40〜90重量%程度である。インク受容層には、通常、必要な塗膜強度の確保のため、ポリビニルアルコール等のバインダー樹脂も含有される。インクジェット記録用紙は、面質の違いにより、マット調、半光沢調、光沢調、高光沢調などに分類されるが、本発明では何れのインクジェット記録用紙でも問題なく使用できる。
【0058】
本発明の水性後処理液及び該水性後処理液を用いたインクジェット記録方法は、特に、被記録面に打ち込まれたインクジェット記録用の顔料インクを該被記録面にて凝集させる性質(顔料インク凝集能)が付与された記録媒体に対して有効である。このような顔料インク凝集能が付与された記録媒体を使用することにより、画像濃度が高く、印刷ムラ(画像濃度が記録面全体で不均一になる現象)やカラーブリード(カラー画像において、異色の境界部分で色が滲んだり不均一に混ざり合ったりする現象)の無い画像を形成することができるので、本発明の水性後処理液による耐擦性等の改善効果と相俟って、高画質・高品位の顔料インクジェット記録物を得ることができる。
【0059】
尚、「顔料インク凝集能」には、いわゆる自己分散型の顔料系色材を使用した顔料インクに対して、該顔料系色材自体に直接作用してこれを凝集させる性質も含まれるし、また、自己分散型ではない通常の顔料系色材を分散剤の作用により系中に分散させている顔料インクに対して、該分散剤を凝集させる結果として該顔料系色材を凝集させる性質も含まれる。要は、顔料インクの種類に拘わらず、結果として印字後に顔料系色材を被記録面上で凝集させることができればよい。
【0060】
顔料インク凝集能が付与される記録媒体としては、先に列記したものと同様のものでよいが、高価なインクジェット記録用紙以外の一般印刷用紙、例えば、上質紙、再生紙、アート紙、コート紙、微塗工紙、意匠紙、キャスト塗工紙、板紙、和紙、不織布、合成紙などで十分である。
【0061】
記録媒体に顔料インク凝集能を付与するには、記録媒体の被記録面に、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、臭化マグネシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化アルミニウム及び硝酸アルミニウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属塩を含有する水性の金属塩溶液を塗布すればよい。金属塩溶液は、被記録面の全面に塗布することが好ましい。本発明のインクジェット記録方法には、上記インクジェット記録工程の前に、このような金属塩溶液を記録媒体の被記録面に塗布する前処理工程を備えたものも含まれる。
【0062】
上記金属塩溶液中の上記金属塩の含有量は、金属塩の種類や金属塩溶液の塗布方法などを考慮して、所定の顔料インク凝集効果が得られるように適宜調整すればよい。金属塩溶液には、水及び金属塩以外に、取扱性、塗布性、記録媒体への浸透性、インクジェット方式により塗布する場合の吐出安定性等を向上させるため、必要に応じ、グリセリン、1,2−ヘキサンジオール等の湿潤剤;アルコールやトリエチレングリコールモノブチルエーテル等の浸透剤;各種界面活性剤;その他の添加剤として、紫外線吸収剤、光安定剤、消光剤、酸化防止剤、耐水化剤、防黴剤、防腐剤、増粘剤、流動性改良剤、pH調整剤、消泡剤、抑泡剤、レベリング剤、帯電防止剤等を含有させることができる。
【0063】
記録媒体への金属塩溶液の塗布方法は、特に限定されず、後処理工程における水性後処理液の塗布方法と同様の方法でよい。また、金属塩溶液の塗布量は、該金属塩溶液中の金属塩濃度にもよるが、固形分換算で0.05〜5g/m2が好ましい。金属塩溶液の塗布量が0.05g/m2未満では画像濃度の改善効果に乏しい場合があり、5g/m2超では過度の凝集による画質劣化を招くおそれがある。但し、求める画像の品位によっては、塗布量が5g/m2超でも問題ない場合もある。記録媒体の被記録面に金属塩溶液を塗布した後は、必要に応じ記録媒体を加熱乾燥することができる。
【0064】
本発明のインクジェット記録方法は、例えば、次のようにして実施することができる。
【0065】
図1は、本実施形態のインクジェット記録方法の実施に使用するインクジェットプリンタの概略構成を示す斜視図である。図1に示すプリンタ10は、紙送りモータ11で駆動されるプラテンローラ12により記録媒体Mを矢標A方向に搬送し、キャリッジ13上に搭載されたインクジェットヘッド20が、記録媒体Mの被記録面に、インクタンク30から供給される各色顔料インク及び水性後処理液をそれぞれ吐出した後、これを搬出するようになしてある。キャリッジ13は、キャリッジベルト14を介してキャリッジモータ15に連結されており、ガイドレール16上を摺動して、矢標A方向と直交する矢標B1又はB2方向に往復走査するようになっている。また、プリンタ10の排紙口(図示せず)の近傍には、記録媒体Mの被記録面に対し熱風を送風することが可能な熱風乾燥装置(図示せず)が設けられており、排紙前に記録媒体Mを加熱乾燥できるようになっている。
【0066】
図2は、インクジェットヘッド20のノズル開口面20aの概略正面図である。図2中、21及び26は、水性後処理液を吐出するノズル列であり、22,23,24,25は、それぞれ、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の顔料インクを吐出するノズル列である。このように、主走査方向の両端のノズル列を水性後処理液用とすることで双方向(B1及びB2)印字が可能となり、印字高速性が上がる。このように、一つのインクジェットヘッドから顔料インクと水性後処理液を吐出させるようなノズル配置は、本発明の水性後処理液を使用することによりなせるものであり、該水性後処理液に代えて従来の樹脂液を使用した場合においては、ミスト(主インク滴に続いて飛翔する微小な液滴)の発生に起因して吐出不良や吐出方向の不安定などを招くおそれがあるため、好ましいものではない。
【0067】
このような構成のプリンタ10に、常法通り記録媒体Mをセットしてプリンタ10を稼働させる。この記録媒体Mの被記録面の全面には、必要に応じ、予め、上記金属塩溶液をジェットノズル(インクジェットヘッド)を用いたインクジェット方式などにより塗布しておく(前処理工程)。
【0068】
プリンタ10において、インクジェットヘッド20は、矢標B1方向に走査される場合、記録媒体Mの被記録面に対して、先ず、ノズル列22,23,24,25よりY、M、C、Kの各色顔料インクを順次打ち込んでインクジェット記録を行い(インクジェット記録工程)、続いて、ノズル列26より水性後処理液をベタ打ちする(後処理工程)。矢標B1方向に走査される場合は、ノズル列21は使用しない。インクジェットヘッド20は、記録領域の矢標B1方向終端に到達し、記録媒体Mが矢標A方向に所定量搬送された後、矢標B2方向に走査される。矢標B2方向に走査される場合は、先ず、ノズル列25,24,23,22より各色顔料インクを打ち込んで記録を行い(インクジェット記録工程)、続いて、ノズル列21より水性後処理液をベタ打ちする(後処理工程)。矢標B2方向に走査される場合は、ノズル列26は使用しない。記録媒体Mは、顔料インク及び水性後処理液が打ち込まれた部分から順次排紙口(図示せず)よりプリンタ外部へ排出されるが、その際、上記熱風乾燥装置(図示せず)により加熱乾燥される。このようなインクジェットヘッド20の双方向(B1及びB2)走査と、各走査終了時の記録媒体Mの搬送及び加熱乾燥が繰り返されることにより、目的とする後処理済の記録物(記録面を被覆する樹脂皮膜が形成された記録物)が得られる。
【0069】
尚、本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体の被記録面に顔料インクを打ち込んで画像を形成するインクジェット記録工程と、該画像が形成された該被記録面に上記水性後処理液をインクジェット方式により塗布する後処理工程とを備えていればよく、使用する顔料インクの種類や数、インクジェットプリンタの具体的構成、水性後処理液の塗布(打ち込み)パターン等は、上記実施形態に制限されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0070】
【実施例】
以下に、本発明の実施例及び本発明の効果を示す試験例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、斯かる実施例により何等制限されるものではない。
【0071】
(pH調整樹脂の調製)
下記の〈調製例1〉及び〈調製例2〉に従いpH調整樹脂を調製した。
【0072】
〈調製例1〉
メタクリル酸エチル60部、メタクリル酸メチル36部、メタクリル酸4部、分子量調整剤としてチオグリコール酸オクチル3部、ポリビニルアルコール1部及びイオン交換水280部を攪拌混合して、単量体混合物の分散物を調製した。別の攪拌機付き反応器に、イオン交換水130部及び過硫酸カリウム2部を仕込んで80℃に昇温し、上記単量体混合物の分散物を4時間かけて連続添加して重合させた。連続添加終了後、80℃にて30分間後反応を行った。重合転化率は99%以上であった。
次いで、仕込みのメタクリル酸と当モル量の水酸化ナトリウムに相当する量の10%水酸化ナトリウム水溶液を反応器に添加し、更に80℃にて1時間熱処理した後に、適量のイオン交換水を加えて、固形分濃度15%のpH調整樹脂溶液Aを得た。このpH調整樹脂溶液Aの酸価(JIS K0070に準拠)は30であった。
【0073】
〈調製例2〉
アクリル酸エチル56部、メタクリル酸メチル36部、メタクリル酸8部、分子量調整剤としてチオグリコール酸オクチル3部、ラウリル硫酸ナトリウム2.5部及びイオン交換水80部を攪拌混合して、単量体混合物の分散物を調製した。
別の攪拌機付き反応器に、エチレンジアミン四酢酸0.05部を溶解したイオン交換水90部を仕込んで80℃に昇温し、5%過硫酸カリウム水溶液40部を添加した後、上記単量体混合物の分散物を2時間かけて連続添加して重合させた。連続添加終了後、80℃にて30分間後反応を行った。重合転化率は99%以上であった。
次いで、仕込みのメタクリル酸と当モル量のアンモニアに相当する量の28%アンモニア水溶液と5%過硫酸ナトリウム水溶液2部を反応器に添加し、更に80℃にて1時間後処理した後、適量のイオン交換水を加えて、固形分25%のpH調整樹脂溶液Bを得た。このpH調整樹脂溶液Bの酸価(JIS K0070に準拠)は50であった。
【0074】
〔実施例1及び比較例1〜3〕
下記組成の水性後処理液1〜4を調製し、それぞれ実施例1及び比較例1〜3のサンプルとした。
【0075】
(水性後処理液1〈実施例1〉の組成)
・pH調整樹脂溶液A; 樹脂成分として3重量%
・サーフィノール465
(界面活性剤、Air Product and Chemicals,Inc.製);0.1重量%
・グリセリン; 15重量%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル; 5重量%
・純水 バランス
計100重量%
【0076】
(水性後処理液2〈比較例1〉の組成)
・PVA105(ポリビニルアルコール、クラレ製) 3重量%
・サーフィノール465
(界面活性剤、Air Product and Chemicals,Inc.製);0.1重量%
・グリセリン; 15重量%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル; 5重量%
・純水 バランス
計100重量%
【0077】
(水性後処理液3〈比較例2〉の組成)
・pH調整樹脂溶液B; 樹脂成分として3重量%
・サーフィノール465
(界面活性剤、Air Product and Chemicals,Inc.製);0.1重量%
・グリセリン; 15重量%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル; 5重量%
・純水 バランス
計100重量%
【0078】
(水性後処理液4〈比較例3〉の組成)
・ボンロンS482
(アクリル樹脂エマルジョン、三井化学製);樹脂成分として3重量%
・サーフィノール465
(界面活性剤、Air Product and Chemicals,Inc.製); 0.1重量%
・グリセリン; 15重量%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル; 5重量%
・純水 バランス
計100重量%
【0079】
〔耐擦性、光沢変化及び吐出安定性の評価〕
上記水性後処理液1〜4をそれぞれ用いて、下記(後処理済記録物の作製)に従い、後処理済記録物をそれぞれ作製し、これらの後処理済記録物の耐擦性及び光沢変化を下記の評価方法により評価した。また、上記水性後処理液1〜4について、その吐出安定性を下記の評価方法により評価した。これらの結果を下記表1に示す。
【0080】
(後処理済記録物の作製)
記録媒体(「OKトップコートN」王子製紙製)の被記録面の全面に対して、インクジェットプリンタ(「EM930C」セイコーエプソン製)のシアンインクと下記組成の金属塩溶液とを入れ替えたものを用いて、シアン100%となるベタパターンで該金属塩溶液を打ち込み(前処理工程)、前処理済記録媒体を得た。金属塩溶液の塗布量は、固形分換算で1g/m2であった。
金属塩溶液の組成
・硝酸マグネシウム一水和物; 5.2重量%
・トリエタノールアミン; 0.1重量%
・グリセリン; 15重量%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル; 5重量%
・サーフィノール465
(界面活性剤、Air Product and Chemicals,Inc.製);0.1重量%
・純水 バランス
計100重量%
【0081】
そして、上記前処理済記録媒体の被記録面に対し、6色顔料インクジェットプリンタ(「MC2000」セイコーエプソン製)を用いて、各色の100%カラーパッチを印刷し(インクジェット記録工程)、記録物を得た。
次いで、この記録物の各カラーパッチ印刷部分に対して、インクジェットプリンタEM930Cを用いて、シアン100%となるベタパターンで水性後処理液を打ち込んだ後、ドライヤー(熱風加熱装置)を用いて加熱温度150℃(紙面温度80℃)で記録媒体を加熱乾燥した(後処理工程)。このようにして、各水性後処理液について塗布量の異なる複数の後処理済記録物を作製した。
【0082】
(耐擦性の評価方法)
後処理済記録物の記録面上に、消しゴム(幅20mm)を傾斜度60度で固定し、1kgの荷重をかけた状態で10往復擦った後の該記録面の状態を目視で観察し、下記評価基準により評価した。
評価基準
A:記録面にキズ、ハガレがない。耐擦性良好。
B:記録面にキズが入るが、実用上問題なし。
C:記録面にハガレが発生する。実用に堪えない。
【0083】
(光沢変化の評価方法)
記録物及び後処理済記録物それぞれのシアンベタパッチ部分についてのJISP8142に準ずる20度鏡面光沢度を測定し、両者の光沢度差を求めて下記評価基準により評価した。
評価基準
A:光沢度差3未満。後処理前後で光沢変化は殆ど観られない。
B:光沢度差3以上10未満。後処理前後で多少光沢変化が観られるが問題ないレベル。
C:光沢度差10以上。後処理前後で光沢変化が激しく実用的でない(但し、後処理により光沢感を高めたい場合においては実用的である)。
【0084】
(吐出安定性の評価方法)
インクジェットプリンタMC2000のインクジェットヘッドの主走査方向両端に位置するインクカートリッジ内のインクと水性後処理液とを入れ替えて、図2に示すようなノズル配置とした後、C、M、Y、Kの4色を用いたコンポジットパターン上に水性後処理液を打ち込む印字パターンで、OKトップコートNを1000枚印字してこれらの印字面を目視で観察し、下記評価基準により評価した。
評価基準
A:水性後処理液のノズル抜けや飛行曲がりの発生が認められた箇所が5箇所以内であり、目詰まりを起こした際にクリーニング動作3回以内で復帰した。吐出安定性に優れる。
B:水性後処理液のノズル抜けや飛行曲がりの発生が認められた箇所が10箇所以内であり、目詰まりを起こした際にクリーニング動作5回以内で復帰した。実用上問題なし。
C:水性後処理液のノズル抜けや飛行曲がりの発生が認められた箇所が10箇所を超えており、目詰まりを起こた際にクリーニング動作5回超で復帰した。実用に堪えない。
【0085】
【表1】
【0086】
【発明の効果】
本発明の水性後処理液は、少ない塗布量で記録画像の耐擦性を向上させることでき、記録物本来の風合いや質感などを大きく変化させるおそれがない。
また、本発明のインクジェット記録方法によれば、吐出安定性に優れる上記水性後処理液をインクジェット方式により塗布するので、記録物の風合いなどを損なわないような低塗布量のコントロールが可能であり、樹脂皮膜の形成された記録物を安定して効率よく製造することができる。
また、本発明は、特に、顔料インク凝集能が付与された記録媒体に対して適用されることで、画像濃度が高く、印刷ムラやカラーブリードが無く、その上、耐擦性等にも優れる高画質・高品位の顔料インクジェット記録物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインクジェット記録方法の一実施形態の実施に使用するインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示すインクジェットヘッドのノズル開口面の概略正面図である。
【符号の説明】
10 インクジェットプリンタ
11 紙送りモータ
12 プラテンローラ
13 キャリッジ
14 キャリッジベルト
15 キャリッジモータ
16 ガイドロール
20 インクジェットヘッド
20a ノズル面
21〜26 ノズル
30 インクタンク
M 記録媒体
【発明の属する技術分野】
本発明は、顔料インクにより画像が記録されたインクジェット記録物の記録面に塗布される水性後処理液に関し、詳しくは、少ない塗布量で記録画像の耐擦性を向上させることでき、記録物本来の風合いや質感などを変化させるおそれのない水性後処理液及び該水性後処理液を用いたインクジェット記録方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方法は、記録ヘッドの微小なジェットノズルからインクの液滴を吐出させるインクジェット方式により、紙等の記録媒体にインクを付着させて印字を行う印刷方式である。インクジェット記録用のインクとしては、染料や顔料等の色材を水性媒体中に溶解又は分散させたものが一般的であり、染料インクと顔料インクに大別される。これまで、色再現性や吐出安定性等に優れる染料インクが多用されてきたが、インクジェット記録技術のデジタル写真サービスや商業印刷等への用途拡大により、記録画像の長期保存性が重要視されるようになってきており、染料インクに比して耐水性や耐光性等に優れる顔料インクが使用されるようになってきている。
【0003】
顔料インクを使用したインクジェット記録の技術的課題として、記録画像の耐擦性の低さがある。これは、記録画像を形成する顔料粒子が、記録媒体の中まで浸透せずに表層に付着しているだけであることに起因するもので、指などで記録画像を軽く擦っただけで顔料粒子が脱落してしまい、その結果、記録画像の一部あるいは全部が欠損したり、インクが打ち込まれていない記録媒体の地部分(通常は白色)が汚れたりするという問題があった。
【0004】
記録画像の耐擦性の他、光沢感や耐候性の向上なども図ることができる技術として、記録媒体の画像が形成された面(記録面)に透明フィルムをラミネートする方法が知られている(特開2000−233474号公報等参照)。しかし、この方法は、ラミネート時にフィルムにシワがはいったり、記録面とフィルムとの間に気泡が入ってしまう場合があり、きれいで平滑なラミネート面を安定して形成するには限界があった。
【0005】
また、上記のようにフィルムをラミネートするのではなく、記録面に樹脂液を塗布して該記録面を被覆する樹脂皮膜を形成することにより、耐擦性等を向上させる技術も知られている(特開平10−86544号公報等参照)。この方法は、フィルムをラミネートする方法に比べて、作業が容易で実施するための装置も複雑なものではないため、比較的低コストで高画質・高品位の記録物を得ることができるという特長を有している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記特開平10−86544号公報等に記載されているような従来の樹脂液を使用して樹脂皮膜を形成する場合、記録画像の耐擦性などについて一定の改善効果を得るためには、決して少なくはない量の樹脂液を記録面に塗布して、それなりの厚みのある樹脂皮膜を形成する必要があった。その結果、記録面に過剰な光沢感が付与されて不快なギラツキ感を与えるなど、面質が変化して記録物本来の風合いや質感といったものが失われるという問題があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、顔料インクにより形成されたインクジェット記録画像の耐擦性を少ない塗布量で大幅に改善することでき、記録物本来の風合いや質感などを変化させるおそれのない水性後処理液及び該水性後処理液を用いたインクジェット記録方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、インクジェット方式により顔料インクを打ち込まれた記録媒体の記録面に塗布される水性後処理液であって、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれと共重合可能なその他の単量体を、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物又は共重合性界面活性剤の存在下で重合して得られるアルカリ可溶性共重合体を、無機塩基でpH調整してなる酸価が40以下のpH調整樹脂を含有することを特徴とする水性後処理液を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
また、本発明は、記録媒体の被記録面に顔料インクを打ち込んで画像を形成するインクジェット記録工程と、該画像が形成された該被記録面に、上記水性後処理液をインクジェット方式により塗布する後処理工程とを備えたことを特徴とするインクジェット記録方法を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の水性後処理液は、特定のアルカリ可溶性共重合体を無機塩基でpH調整してなるpH調整樹脂を含有することを特徴とするものである。以下、先ず、このpH調整樹脂について、その製造方法と共に説明する。
【0011】
上記アルカリ可溶性共重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれと共重合可能なその他の単量体を、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物又は共重合性界面活性剤の存在下で重合して得られる共重合体である。
【0012】
上記「エチレン性不飽和カルボン酸単量体」(以下、単量体Aともいう)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ−2−ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル単量体;無水マレイン酸、無水シトラコン酸等の多価カルボン酸無水物等が挙げられる。これらの単量体は、単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、耐擦性及び耐変色性(熱や光で変色しにくい性質)の点で、(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体が好ましく、とりわけメタクリル酸が好ましい。
【0013】
上記「エチレン性不飽和カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体」(以下、単量体Bともいう)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−n−アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;(メタ)アクリルニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル単量体;アリルグリシジルエーテル等のエチレン性不飽和グリシジルエーテル単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和アミド単量体;1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等の共役ジエン単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル等が挙げられる。これらの単量体は、単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、記録画像の耐光性及び光沢性の向上の点で、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体が好ましく、とりわけメタアクリル酸メチル及びアクリル酸エチルが好ましい。
【0014】
また、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び共重合性界面活性剤は、何れも、単量体Aと単量体Bとの重合反応系において乳化剤(分散剤)として添加されるものである。
【0015】
上記アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物は、水溶性高分子化合物のうち、分子量1000当りにアルコール性水酸基を5〜25個含有しているものをいい、例えば、ポリビニルアルコール及びその各種変性物等のビニルアルコール系重合体;酢酸ビニルとアクリル酸、メタクリル酸又は無水マレイン酸との共重合体のけん化物;アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース等のセルロース誘導体;アルキル澱粉、カルボキシルメチル澱粉、酸化澱粉等の澱粉誘導体;アラビアゴム、トラガントゴム;ポリアルキレングリコール等が挙げられる。これらのうち、ビニルアルコール系重合体は、乳化剤として安定した性能を示し、工業的に品質が安定したものを入手し易い点もあって好ましい。
【0016】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは1000〜500000、更に好ましくは2000〜300000である。該分子量が1000未満では単量体の分散安定効果が低くなるおそれがあり、500000超では重合反応液の粘度が高くなり、重合が困難になるおそれがある。
【0017】
上記共重合性界面活性剤は、その分子中に1個以上の重合可能なビニル基を有する界面活性剤であり、例えば、プロペニル−2−エチルヘキシルスルホコハク酸エステルナトリウム、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレン硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンエステル燐酸エステル等のアニオン性重合性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルベンゼンエーテル(メタ)アクリル酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(メタ)アクリル酸エステル等のノニオン性重合性界面活性剤等が挙げられる。これらのうち、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸アンモニウム塩は、単量体の乳化分散性能及び単量体との共重合性のバランスが優れているので好ましい。
【0018】
上記の2種の乳化剤のうち、特にアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物は、最終的に得られるエマルジョン形態のpH調整樹脂が、経時による粘度変化を起こし難く長期保存が可能となるため好ましい。
【0019】
単量体Aと単量体Bとの重合は、これら単量体の混合物を、水系媒体中、上記の2種の乳化剤のうちの何れかの存在下で乳化重合させることにより行うことができる。
【0020】
単量体A及びBの重合反応系への添加量は、pH調整樹脂の酸価(JIS K0070に準拠)が40以下となるような量とする。該酸価が40超では、画質の劣化、表面質感の変化、耐擦性能の低下などを招くおそれがある。尚、該酸価があまりに小さ過ぎる場合にも画質の劣化等を招くおそれがあるので、該酸価は、好ましくは10〜40、更に好ましくは30〜40である。また、単量体Aと単量体Bの配合比率は適宜調整すればよく、特に限定されない。
【0021】
また、乳化剤としてアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物を使用する場合、その重合反応系への添加量は、全単量体(単量体A及びBの合計)100重量部に対して、好ましくは0.05重量部〜20重量部、更に好ましくは1〜10重量部である。該添加量が0.05重量部未満では、単量体の分散安定効果が低くなるので重合時に凝集物が発生するおそれがあり、20重量部超では、重合反応液の粘度が高くなり、重合が困難になるおそれがある。
【0022】
また、乳化剤として共重合性界面活性剤を使用する場合、その重合反応系への添加量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜5重量部、更に好ましくは0.05〜5重量部、一層好ましくは0.1〜3重量部である。該添加量が0.01重量部未満では、乳化安定性が低くなるので、重合時に多量の凝集物が発生することがあり、5重量部超では、pH調整樹脂液が泡立ちやすくなるおそれがある。
【0023】
重合反応系には、上記の単量体A及びB並びに乳化剤以外に、通常、重合開始剤を添加する。重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ペンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩が好ましい。重合開始剤の使用量は、その種類によって異なるが、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.5〜5重量部、更に好ましくは0.8〜4重量部である。
【0024】
また、これらの重合開始剤は、還元剤との組み合わせでレドックス系重合開始剤として使用することもできる。還元剤としては、特に限定されず、例えば、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物等が挙げられる。これらの還元剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。還元剤の使用量は、その種類によって異なるが、重合開始剤1重量部に対して、好ましくは0.03〜10重量部である。
【0025】
また、重合反応系には、アルカリ可溶性共重合体の重量平均分子量の調節のため、必要に応じ連鎖移動剤を添加することができる。連鎖移動剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;α−メチルスチレンダイマー;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等のスルフィド類;2−メチル−3−ブチンニトリル、3−ペンテンニトリル等のニトリル化合物;チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸プロピル、チオグリコール酸オクチル等のチオグリコール酸エステル;β−メルカプトプロピオン酸メチル、β−メルカプトプロピオン酸オクチル等のβ−メルカプトプロピオン酸エステル等があり、これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。これらの連鎖移動剤のうち、特にチオグリコール酸エステルが好ましく、とりわけチオグリコール酸オクチルが好ましい。
【0026】
連鎖移動剤の重合反応系への添加量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜5重量部、更に好ましくは0.5〜4重量部である。該添加量が0.1重量部未満では、pH調整後の反応液の粘度が高くなって取扱いが困難になるおそれがあり、5重量部超では、分子量が著しく低下するおそれがある。連鎖移動剤の重合反応系への添加方法は、特に限定されず、全量を一括して添加してもよいし、少量ずつ断続的に又は連続的に重合反応系に添加してもよい。
【0027】
尚、単量体Aと単量体Bとの重合反応では、一般の乳化重合において通常使用される界面活性剤(非重合性界面活性剤)はなるべく使用しないか、あるいは使用したとしても、その使用量を全単量体100重量部に対して0.05重量部未満に留めることが好ましい。該界面活性剤の使用量が多くなると、記録画像の耐水性の改善効果に劣る傾向があるからである。
【0028】
各成分の重合反応系への添加は、重合開始前に乳化剤及び単量体混合物(単量体A及びB)を一括して反応器に全量添加する方法や、重合開始前にこれらの一部を反応器に添加し、重合開始後に残りを分割的に少しずつ反応器に添加若しくは連続的に添加する方法により行うことができる。後者の方法において、分割添加あるいは連続添加は、それぞれ、添加量を均等にあるいは一定にすることもできるし、重合の進行段階に応じて変えることもできる。
【0029】
乳化剤と単量体混合物とは、それぞれ別々に重合反応系に添加することもできるし、乳化剤、単量体混合物及び水を混合して得られる単量体分散化物の形態で重合反応系に添加することもできる。前者の場合は、両者の添加をほぼ同時に開始するのが望ましい。単量体混合物のみが先に多量に添加されると凝集物が発生しやすく、逆に、乳化剤のみが先に多量に添加されると反応液が増粘したり、凝集物が発生し易くなるなどの問題が起きやすいためである。両者の添加終了時は、必ずしも同時である必要はないがほぼ同時であることが望ましい。
【0030】
上記の乳化剤及び単量体混合物の重合反応系への添加方法のうち、特に好ましいものは、乳化剤を単量体混合物及び水と混合して分散化し、重合開始後にこれを反応器に添加する方法である。この方法は、アルカリ可溶性共重合体の高分子鎖におけるエチレン性不飽和酸単量体の連鎖分布が均一になるという利点がある。
【0031】
単量体Aと単量体Bとの重合反応系における重合温度は、好ましくは0〜100℃、更に好ましくは30〜90℃である。また、重合転化率は、好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上である。
【0032】
上述の如き重合反応により得られたアルカリ可溶性共重合体は、無機塩基でpH調整(中和)されてpH調整樹脂とされる。尚、「中和」は、中性に向かう過程を示す語であるが、反応生成物(pH調整樹脂)が必ずしも完全に中性を示すとは限らない。このpH調整(中和)は、アルカリ可溶性共重合体のエマルジョンあるいは水溶液中に、無機塩基を添加することにより行うことができる。アルカリ可溶性共重合体の中和度(エチレン性不飽和カルボン酸単量体のモル当量に対する無機塩基のモル当量)は、特に限定されないが、好ましくは70%以上、更に好ましくは95%以上である。
【0033】
上記無機塩基としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの無機塩基のうち、特に水酸化ナトリウムが好ましい。尚、無機塩基としてアンモニアを用いることもできるが、水性後処理液の経時安定性及びインクジェット方式により塗布する場合の吐出安定性の低下を招く場合があるので注意を要する。
【0034】
以上のようにして製造される本発明に係るpH調整樹脂のpHは、好ましくは8〜11、更に好ましくは9〜11である。尚、「pH調整樹脂のpH」は、水に含有量が10重量%となるようにpH調整樹脂を添加して調製した水溶液又は水分散液(エマルジョン)についての電子式pHメーターにより測定されるpH値を意味する。該pHが8未満では、水性後処理液をインクジェット方式により塗布する場合の吐出安定性に劣るおそれがあり、11超では水性後処理液の分散安定性に問題が生じるおそれがある。
【0035】
また、pH調整樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、好ましくは8000以上、更に好ましくは9000〜100000、一層好ましくは10000〜50000である。該重量平均分子量が8000未満では、記録画像の耐擦性の向上に安定した効果が得られない場合があり、また、100000を超えると水性後処理液の粘度が高くなり、取扱いが困難となることがある。
【0036】
また、pH調整樹脂のガラス転移温度は、任意に設定可能であるが、好ましくは5〜50℃、更に好ましくは20〜40℃である。pH調整樹脂のガラス転移温度がこの範囲にあると、耐折り曲げ性及び耐ブロッキング性にも優れた記録画像が得られる。
【0037】
本発明の水性後処理液は、上記pH調整樹脂を、好ましくは0.5〜10重量%、更に好ましくは0.8〜6.8重量%含有する。含有量が0.5重量%未満では、記録画像の耐擦性の向上にあまり効果がない場合があり、10重量%超では、インクジェット方式により塗布する場合の吐出安定性及び画質に劣るおそれがあり、また、記録面の面質の変化を招くおそれもある。尚、水性後処理液の調製時におけるpH調整樹脂の形態は特に限定されず、水溶性樹脂の形態、水系樹脂エマルジョンの形態、あるいはポリマー微粒子の形態の何れの形態でも使用できる。
【0038】
本発明の水性後処理液は、pH調整樹脂及び水を必須成分として含有する。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。また、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理された水は、カビやバクテリアの発生を防止して長期保存を可能とする点で好ましい。
【0039】
本発明の水性後処理液には、上記pH調整樹脂及び水以外に、必要に応じ、下記の如き各種添加剤の1種又は2種以上を含有させることができる。
【0040】
本発明の水性後処理液には、吐出安定性の確保のため、湿潤剤を含有させることが好ましい。湿潤剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール等の多価アルコール類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等のラクタム類;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、1,3−ジメチルイミダゾリジノン類等の尿素類;マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、マルトース等の糖類等が挙げられる。
【0041】
湿潤剤の含有量は、水性後処理液中、好ましくは1〜50重量%、更に好ましくは5〜30重量%である。
【0042】
また、本発明の水性後処理液には、記録媒体への浸透性、インクジェット方式により塗布する場合の吐出安定性の向上等の観点から、浸透剤を含有させることが好ましい。浸透剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、n−ペンタノール等の低級アルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールのアルキルエーテル類等が挙げられる。
【0043】
浸透剤の含有量は、水性後処理液中、好ましくは1〜50重量%、更に好ましくは5〜30重量%である。
【0044】
また、同様の観点から、水性後処理液には、界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド等の非イオン性界面活性剤;サーフィノール82、104、440、465、485(以上、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)、オルフィンSTG、オルフィンE1010(以上、日信化学社製)等のアセチレングリコ−ル系界面活性剤;カチオン性界面活性剤;両イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0045】
界面活性剤の含有量は、水性後処理液中、好ましくは0.01〜20重量%、更に好ましくは0.05〜5重量%である。
【0046】
本発明の水性後処理液に含有させることができるその他の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、消光剤、酸化防止剤、耐水化剤、防黴剤、防腐剤、増粘剤、流動性改良剤、pH調整剤、消泡剤、抑泡剤、レベリング剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0047】
本発明の水性後処理液は、きれいで平滑な塗膜を形成し得る塗布性及びレベリング性、優れた取扱性、インクジェット方式により塗布する場合の吐出安定性などを確保する観点から、下記物性値がそれぞれ下記範囲にあることが好ましい。・液温20℃における粘度;2〜5mPa・s
・表面張力;20〜38mN/m
・pH;6.5〜10
上記各物性値の調整は、上述した各成分の含有量の調整や、樹脂成分の適当な選択により行うことができる。
【0048】
本発明の水性後処理液は、インクジェット方式により顔料インクを打ち込まれた記録媒体の記録面(インクジェット画像面)に塗布されて使用される。水性後処理液は、インクジェット画像面に塗布されると、溶剤成分は瞬時に記録媒体中に吸収され、該インクジェット画像面上に残留するpH調整樹脂による造膜反応が進行して、該インクジェット画像面を被覆する樹脂皮膜が形成される。この樹脂皮膜の物理的・化学的バリヤ性によりインクジェット画像の耐擦性が向上し、光沢感の向上、光沢ムラの低減などの効果も奏される。以下、上記水性後処理液を用いたインクジェット記録方法について説明する。
【0049】
上記インクジェット記録方法は、記録媒体の被記録面に顔料インクを打ち込んで画像を形成するインクジェット記録工程と、該画像が形成された該被記録面に上記水性後処理液を塗布する後処理工程とを備えている。
【0050】
上記インクジェット記録工程は、公知のインクジェット方式の記録装置(インクジェットプリンタ)を用いて行うことができる。インクジェット方式には、ノズルから一定時間間隔でインクを吐出し続け、吐出されたインク液滴を偏向させることにより画像を形成するコンティニュアス方式と、画像データに対応してインクを吐出させるオンデマンド方式とがあり、何れの方式でもよいが、細かい打ち込み制御が可能、廃液量が少ない等の点で、オンデマンド方式が好ましい。また、インク吐出制御方式には、圧電素子(ピエゾ素子)を用いて電圧により制御する方式や、発熱抵抗素子を用いて熱エネルギーにより制御する方式等があるが、特に制限されない。
【0051】
上記後処理工程では、上記インクジェット記録工程を経た記録媒体の被記録面のうち、少なくとも顔料インクが打ち込まれた部分(記録部分)に、上記水性後処理液を重ねて塗布する。記録部分と非記録部分(インクが打ち込まれていない部分)との間の面質差が問題となる場合は、非記録部分も含めた被記録面の全面に水性後処理液を塗布する。水性後処理液の塗布方法は、特に限定されず、エアナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、サイズプレス等の公知の塗工装置を用いて塗布する方法や、スプレー、インクジェットヘッド、ジェットノズル等を用いて記録媒体と非接触で塗布する方法等を採ることができる。特に、ジェットノズル(インクジェットヘッド)を用いたインクジェット方式による水性後処理液の塗布は、塗布パターンや塗布量の融通性が高く、また、製造スピードの高速化が図れるため好ましい。さらに、水性後処理液の塗布前後で記録物の外観(記録面の面質)を変化させないためには、塗布量はなるべく少ないことが好ましいところ、インクジェット方式による塗布方法によれば、このような低塗布量のコントロールを容易に行うことができる。
【0052】
水性後処理液の塗布量は、記録画像の耐擦性について優れた改善効果を得ると共に、速やかな樹脂皮膜の形成、ブロッキングの防止、記録物本来の風合いや質感の低下の防止などを図るため、固形分換算で0.3〜3g/m2が好ましい。但し、塗布量は該範囲に限定される訳ではなく、例えば、より優れた耐擦性や高光沢感を求める場合は、3g/m2超の塗布量でよい。
【0053】
水性後処理液の塗布後は、必要に応じ、記録媒体を加熱乾燥することにより、水性後処理液の皮膜化の促進、記録物のブロッキングの防止などを図ることができる。この乾燥処理は、赤外線式加熱装置や熱風加熱装置などの公知の加熱装置を用いて常法通り行うことができる。インクジェットプリンタの適当な箇所、例えば、排紙口付近などにこのような加熱装置を設置すれば、該インクジェットプリンタに記録媒体を1回給紙する(1パス)だけで、全ての工程(インクジェット記録工程及び後処理工程)を行うことが可能となり、高速印字が可能となる。
【0054】
加熱温度や加熱時間(ラインスピード)等の加熱条件は、いわゆるブリスター(火ぶくれ)を発生させずに皮膜形成が効率良く行えるように適宜設定すればよい。記録媒体の含水量が多く、湿った状態にある場合は、これを高温で一気に加熱乾燥するとブリスターを生じ易いので、例えば、乾燥ゾーン1は風乾、乾燥ゾーン2は60℃熱風乾燥、乾燥ゾーン3は130℃熱風乾燥というように、多段乾燥で緩やかに乾燥することが好ましい。
【0055】
上記インクジェット記録方法で用いる顔料インクとしては、インクジェット記録で通常使用できるものであればよく、特に制限されない。インクジェット記録用の顔料インクは、顔料系色材を含有する水系インクが一般的であり、通常、保湿や浸透調整等のため、更に各種有機溶剤や界面活性剤等が含有されている。カラー画像を形成する場合は、イエロー、マゼンタ及びシアンの減法混色の3原色のインク、あるいはこれにブラックその他の色のインクを加えた4色以上のインクを用いる。
【0056】
また、記録媒体としては、インクジェット記録で使用できるものであればよく、例えば、上質紙、再生紙、インクジェット記録用紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、樹脂被覆紙(レジンコート紙)、バライタ紙、板紙、和紙、不織布;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム等が挙げられる。これらのうち、特にインクジェット記録用紙は、インク吸収性に優れ、滲みやムラの少ない高画質の画像を得ることができるため好ましい。
【0057】
上記インクジェット記録用紙は、一般に、紙やフィルム等の基材(上記記録媒体のうち、インクジェット記録用紙以外のものは、該基材として使用可能)上に、多孔性無機粒子を主成分とするインク受容層を設けた構成となっている。多孔性無機粒子としては、多孔性非晶質シリカ、多孔性炭酸マグネシウム、多孔性アルミナ等が好ましく用いられ、その含有量は、インク受容層中、固形分換算で40〜90重量%程度である。インク受容層には、通常、必要な塗膜強度の確保のため、ポリビニルアルコール等のバインダー樹脂も含有される。インクジェット記録用紙は、面質の違いにより、マット調、半光沢調、光沢調、高光沢調などに分類されるが、本発明では何れのインクジェット記録用紙でも問題なく使用できる。
【0058】
本発明の水性後処理液及び該水性後処理液を用いたインクジェット記録方法は、特に、被記録面に打ち込まれたインクジェット記録用の顔料インクを該被記録面にて凝集させる性質(顔料インク凝集能)が付与された記録媒体に対して有効である。このような顔料インク凝集能が付与された記録媒体を使用することにより、画像濃度が高く、印刷ムラ(画像濃度が記録面全体で不均一になる現象)やカラーブリード(カラー画像において、異色の境界部分で色が滲んだり不均一に混ざり合ったりする現象)の無い画像を形成することができるので、本発明の水性後処理液による耐擦性等の改善効果と相俟って、高画質・高品位の顔料インクジェット記録物を得ることができる。
【0059】
尚、「顔料インク凝集能」には、いわゆる自己分散型の顔料系色材を使用した顔料インクに対して、該顔料系色材自体に直接作用してこれを凝集させる性質も含まれるし、また、自己分散型ではない通常の顔料系色材を分散剤の作用により系中に分散させている顔料インクに対して、該分散剤を凝集させる結果として該顔料系色材を凝集させる性質も含まれる。要は、顔料インクの種類に拘わらず、結果として印字後に顔料系色材を被記録面上で凝集させることができればよい。
【0060】
顔料インク凝集能が付与される記録媒体としては、先に列記したものと同様のものでよいが、高価なインクジェット記録用紙以外の一般印刷用紙、例えば、上質紙、再生紙、アート紙、コート紙、微塗工紙、意匠紙、キャスト塗工紙、板紙、和紙、不織布、合成紙などで十分である。
【0061】
記録媒体に顔料インク凝集能を付与するには、記録媒体の被記録面に、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、臭化マグネシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化アルミニウム及び硝酸アルミニウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属塩を含有する水性の金属塩溶液を塗布すればよい。金属塩溶液は、被記録面の全面に塗布することが好ましい。本発明のインクジェット記録方法には、上記インクジェット記録工程の前に、このような金属塩溶液を記録媒体の被記録面に塗布する前処理工程を備えたものも含まれる。
【0062】
上記金属塩溶液中の上記金属塩の含有量は、金属塩の種類や金属塩溶液の塗布方法などを考慮して、所定の顔料インク凝集効果が得られるように適宜調整すればよい。金属塩溶液には、水及び金属塩以外に、取扱性、塗布性、記録媒体への浸透性、インクジェット方式により塗布する場合の吐出安定性等を向上させるため、必要に応じ、グリセリン、1,2−ヘキサンジオール等の湿潤剤;アルコールやトリエチレングリコールモノブチルエーテル等の浸透剤;各種界面活性剤;その他の添加剤として、紫外線吸収剤、光安定剤、消光剤、酸化防止剤、耐水化剤、防黴剤、防腐剤、増粘剤、流動性改良剤、pH調整剤、消泡剤、抑泡剤、レベリング剤、帯電防止剤等を含有させることができる。
【0063】
記録媒体への金属塩溶液の塗布方法は、特に限定されず、後処理工程における水性後処理液の塗布方法と同様の方法でよい。また、金属塩溶液の塗布量は、該金属塩溶液中の金属塩濃度にもよるが、固形分換算で0.05〜5g/m2が好ましい。金属塩溶液の塗布量が0.05g/m2未満では画像濃度の改善効果に乏しい場合があり、5g/m2超では過度の凝集による画質劣化を招くおそれがある。但し、求める画像の品位によっては、塗布量が5g/m2超でも問題ない場合もある。記録媒体の被記録面に金属塩溶液を塗布した後は、必要に応じ記録媒体を加熱乾燥することができる。
【0064】
本発明のインクジェット記録方法は、例えば、次のようにして実施することができる。
【0065】
図1は、本実施形態のインクジェット記録方法の実施に使用するインクジェットプリンタの概略構成を示す斜視図である。図1に示すプリンタ10は、紙送りモータ11で駆動されるプラテンローラ12により記録媒体Mを矢標A方向に搬送し、キャリッジ13上に搭載されたインクジェットヘッド20が、記録媒体Mの被記録面に、インクタンク30から供給される各色顔料インク及び水性後処理液をそれぞれ吐出した後、これを搬出するようになしてある。キャリッジ13は、キャリッジベルト14を介してキャリッジモータ15に連結されており、ガイドレール16上を摺動して、矢標A方向と直交する矢標B1又はB2方向に往復走査するようになっている。また、プリンタ10の排紙口(図示せず)の近傍には、記録媒体Mの被記録面に対し熱風を送風することが可能な熱風乾燥装置(図示せず)が設けられており、排紙前に記録媒体Mを加熱乾燥できるようになっている。
【0066】
図2は、インクジェットヘッド20のノズル開口面20aの概略正面図である。図2中、21及び26は、水性後処理液を吐出するノズル列であり、22,23,24,25は、それぞれ、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の顔料インクを吐出するノズル列である。このように、主走査方向の両端のノズル列を水性後処理液用とすることで双方向(B1及びB2)印字が可能となり、印字高速性が上がる。このように、一つのインクジェットヘッドから顔料インクと水性後処理液を吐出させるようなノズル配置は、本発明の水性後処理液を使用することによりなせるものであり、該水性後処理液に代えて従来の樹脂液を使用した場合においては、ミスト(主インク滴に続いて飛翔する微小な液滴)の発生に起因して吐出不良や吐出方向の不安定などを招くおそれがあるため、好ましいものではない。
【0067】
このような構成のプリンタ10に、常法通り記録媒体Mをセットしてプリンタ10を稼働させる。この記録媒体Mの被記録面の全面には、必要に応じ、予め、上記金属塩溶液をジェットノズル(インクジェットヘッド)を用いたインクジェット方式などにより塗布しておく(前処理工程)。
【0068】
プリンタ10において、インクジェットヘッド20は、矢標B1方向に走査される場合、記録媒体Mの被記録面に対して、先ず、ノズル列22,23,24,25よりY、M、C、Kの各色顔料インクを順次打ち込んでインクジェット記録を行い(インクジェット記録工程)、続いて、ノズル列26より水性後処理液をベタ打ちする(後処理工程)。矢標B1方向に走査される場合は、ノズル列21は使用しない。インクジェットヘッド20は、記録領域の矢標B1方向終端に到達し、記録媒体Mが矢標A方向に所定量搬送された後、矢標B2方向に走査される。矢標B2方向に走査される場合は、先ず、ノズル列25,24,23,22より各色顔料インクを打ち込んで記録を行い(インクジェット記録工程)、続いて、ノズル列21より水性後処理液をベタ打ちする(後処理工程)。矢標B2方向に走査される場合は、ノズル列26は使用しない。記録媒体Mは、顔料インク及び水性後処理液が打ち込まれた部分から順次排紙口(図示せず)よりプリンタ外部へ排出されるが、その際、上記熱風乾燥装置(図示せず)により加熱乾燥される。このようなインクジェットヘッド20の双方向(B1及びB2)走査と、各走査終了時の記録媒体Mの搬送及び加熱乾燥が繰り返されることにより、目的とする後処理済の記録物(記録面を被覆する樹脂皮膜が形成された記録物)が得られる。
【0069】
尚、本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体の被記録面に顔料インクを打ち込んで画像を形成するインクジェット記録工程と、該画像が形成された該被記録面に上記水性後処理液をインクジェット方式により塗布する後処理工程とを備えていればよく、使用する顔料インクの種類や数、インクジェットプリンタの具体的構成、水性後処理液の塗布(打ち込み)パターン等は、上記実施形態に制限されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0070】
【実施例】
以下に、本発明の実施例及び本発明の効果を示す試験例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、斯かる実施例により何等制限されるものではない。
【0071】
(pH調整樹脂の調製)
下記の〈調製例1〉及び〈調製例2〉に従いpH調整樹脂を調製した。
【0072】
〈調製例1〉
メタクリル酸エチル60部、メタクリル酸メチル36部、メタクリル酸4部、分子量調整剤としてチオグリコール酸オクチル3部、ポリビニルアルコール1部及びイオン交換水280部を攪拌混合して、単量体混合物の分散物を調製した。別の攪拌機付き反応器に、イオン交換水130部及び過硫酸カリウム2部を仕込んで80℃に昇温し、上記単量体混合物の分散物を4時間かけて連続添加して重合させた。連続添加終了後、80℃にて30分間後反応を行った。重合転化率は99%以上であった。
次いで、仕込みのメタクリル酸と当モル量の水酸化ナトリウムに相当する量の10%水酸化ナトリウム水溶液を反応器に添加し、更に80℃にて1時間熱処理した後に、適量のイオン交換水を加えて、固形分濃度15%のpH調整樹脂溶液Aを得た。このpH調整樹脂溶液Aの酸価(JIS K0070に準拠)は30であった。
【0073】
〈調製例2〉
アクリル酸エチル56部、メタクリル酸メチル36部、メタクリル酸8部、分子量調整剤としてチオグリコール酸オクチル3部、ラウリル硫酸ナトリウム2.5部及びイオン交換水80部を攪拌混合して、単量体混合物の分散物を調製した。
別の攪拌機付き反応器に、エチレンジアミン四酢酸0.05部を溶解したイオン交換水90部を仕込んで80℃に昇温し、5%過硫酸カリウム水溶液40部を添加した後、上記単量体混合物の分散物を2時間かけて連続添加して重合させた。連続添加終了後、80℃にて30分間後反応を行った。重合転化率は99%以上であった。
次いで、仕込みのメタクリル酸と当モル量のアンモニアに相当する量の28%アンモニア水溶液と5%過硫酸ナトリウム水溶液2部を反応器に添加し、更に80℃にて1時間後処理した後、適量のイオン交換水を加えて、固形分25%のpH調整樹脂溶液Bを得た。このpH調整樹脂溶液Bの酸価(JIS K0070に準拠)は50であった。
【0074】
〔実施例1及び比較例1〜3〕
下記組成の水性後処理液1〜4を調製し、それぞれ実施例1及び比較例1〜3のサンプルとした。
【0075】
(水性後処理液1〈実施例1〉の組成)
・pH調整樹脂溶液A; 樹脂成分として3重量%
・サーフィノール465
(界面活性剤、Air Product and Chemicals,Inc.製);0.1重量%
・グリセリン; 15重量%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル; 5重量%
・純水 バランス
計100重量%
【0076】
(水性後処理液2〈比較例1〉の組成)
・PVA105(ポリビニルアルコール、クラレ製) 3重量%
・サーフィノール465
(界面活性剤、Air Product and Chemicals,Inc.製);0.1重量%
・グリセリン; 15重量%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル; 5重量%
・純水 バランス
計100重量%
【0077】
(水性後処理液3〈比較例2〉の組成)
・pH調整樹脂溶液B; 樹脂成分として3重量%
・サーフィノール465
(界面活性剤、Air Product and Chemicals,Inc.製);0.1重量%
・グリセリン; 15重量%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル; 5重量%
・純水 バランス
計100重量%
【0078】
(水性後処理液4〈比較例3〉の組成)
・ボンロンS482
(アクリル樹脂エマルジョン、三井化学製);樹脂成分として3重量%
・サーフィノール465
(界面活性剤、Air Product and Chemicals,Inc.製); 0.1重量%
・グリセリン; 15重量%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル; 5重量%
・純水 バランス
計100重量%
【0079】
〔耐擦性、光沢変化及び吐出安定性の評価〕
上記水性後処理液1〜4をそれぞれ用いて、下記(後処理済記録物の作製)に従い、後処理済記録物をそれぞれ作製し、これらの後処理済記録物の耐擦性及び光沢変化を下記の評価方法により評価した。また、上記水性後処理液1〜4について、その吐出安定性を下記の評価方法により評価した。これらの結果を下記表1に示す。
【0080】
(後処理済記録物の作製)
記録媒体(「OKトップコートN」王子製紙製)の被記録面の全面に対して、インクジェットプリンタ(「EM930C」セイコーエプソン製)のシアンインクと下記組成の金属塩溶液とを入れ替えたものを用いて、シアン100%となるベタパターンで該金属塩溶液を打ち込み(前処理工程)、前処理済記録媒体を得た。金属塩溶液の塗布量は、固形分換算で1g/m2であった。
金属塩溶液の組成
・硝酸マグネシウム一水和物; 5.2重量%
・トリエタノールアミン; 0.1重量%
・グリセリン; 15重量%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル; 5重量%
・サーフィノール465
(界面活性剤、Air Product and Chemicals,Inc.製);0.1重量%
・純水 バランス
計100重量%
【0081】
そして、上記前処理済記録媒体の被記録面に対し、6色顔料インクジェットプリンタ(「MC2000」セイコーエプソン製)を用いて、各色の100%カラーパッチを印刷し(インクジェット記録工程)、記録物を得た。
次いで、この記録物の各カラーパッチ印刷部分に対して、インクジェットプリンタEM930Cを用いて、シアン100%となるベタパターンで水性後処理液を打ち込んだ後、ドライヤー(熱風加熱装置)を用いて加熱温度150℃(紙面温度80℃)で記録媒体を加熱乾燥した(後処理工程)。このようにして、各水性後処理液について塗布量の異なる複数の後処理済記録物を作製した。
【0082】
(耐擦性の評価方法)
後処理済記録物の記録面上に、消しゴム(幅20mm)を傾斜度60度で固定し、1kgの荷重をかけた状態で10往復擦った後の該記録面の状態を目視で観察し、下記評価基準により評価した。
評価基準
A:記録面にキズ、ハガレがない。耐擦性良好。
B:記録面にキズが入るが、実用上問題なし。
C:記録面にハガレが発生する。実用に堪えない。
【0083】
(光沢変化の評価方法)
記録物及び後処理済記録物それぞれのシアンベタパッチ部分についてのJISP8142に準ずる20度鏡面光沢度を測定し、両者の光沢度差を求めて下記評価基準により評価した。
評価基準
A:光沢度差3未満。後処理前後で光沢変化は殆ど観られない。
B:光沢度差3以上10未満。後処理前後で多少光沢変化が観られるが問題ないレベル。
C:光沢度差10以上。後処理前後で光沢変化が激しく実用的でない(但し、後処理により光沢感を高めたい場合においては実用的である)。
【0084】
(吐出安定性の評価方法)
インクジェットプリンタMC2000のインクジェットヘッドの主走査方向両端に位置するインクカートリッジ内のインクと水性後処理液とを入れ替えて、図2に示すようなノズル配置とした後、C、M、Y、Kの4色を用いたコンポジットパターン上に水性後処理液を打ち込む印字パターンで、OKトップコートNを1000枚印字してこれらの印字面を目視で観察し、下記評価基準により評価した。
評価基準
A:水性後処理液のノズル抜けや飛行曲がりの発生が認められた箇所が5箇所以内であり、目詰まりを起こした際にクリーニング動作3回以内で復帰した。吐出安定性に優れる。
B:水性後処理液のノズル抜けや飛行曲がりの発生が認められた箇所が10箇所以内であり、目詰まりを起こした際にクリーニング動作5回以内で復帰した。実用上問題なし。
C:水性後処理液のノズル抜けや飛行曲がりの発生が認められた箇所が10箇所を超えており、目詰まりを起こた際にクリーニング動作5回超で復帰した。実用に堪えない。
【0085】
【表1】
【0086】
【発明の効果】
本発明の水性後処理液は、少ない塗布量で記録画像の耐擦性を向上させることでき、記録物本来の風合いや質感などを大きく変化させるおそれがない。
また、本発明のインクジェット記録方法によれば、吐出安定性に優れる上記水性後処理液をインクジェット方式により塗布するので、記録物の風合いなどを損なわないような低塗布量のコントロールが可能であり、樹脂皮膜の形成された記録物を安定して効率よく製造することができる。
また、本発明は、特に、顔料インク凝集能が付与された記録媒体に対して適用されることで、画像濃度が高く、印刷ムラやカラーブリードが無く、その上、耐擦性等にも優れる高画質・高品位の顔料インクジェット記録物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインクジェット記録方法の一実施形態の実施に使用するインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示すインクジェットヘッドのノズル開口面の概略正面図である。
【符号の説明】
10 インクジェットプリンタ
11 紙送りモータ
12 プラテンローラ
13 キャリッジ
14 キャリッジベルト
15 キャリッジモータ
16 ガイドロール
20 インクジェットヘッド
20a ノズル面
21〜26 ノズル
30 インクタンク
M 記録媒体
Claims (12)
- インクジェット方式により顔料インクを打ち込まれた記録媒体の記録面に塗布される水性後処理液であって、
エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれと共重合可能なその他の単量体を、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物又は共重合性界面活性剤の存在下で重合して得られるアルカリ可溶性共重合体を、無機塩基でpH調整してなる酸価が40以下のpH調整樹脂を含有することを特徴とする水性後処理液。 - 上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体が、アクリル酸又はメタクリル酸であることを特徴とする請求項1記載の水性後処理液。
- 上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体が、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体であることを特徴とする請求項1又は2記載の水性後処理液。
- 上記アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物が、ビニルアルコール系重合体であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の水性後処理液。
- 上記無機塩基が、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の水性後処理液。
- 上記pH調整樹脂のpHが8〜11であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の水性後処理液。
- 上記pH調整樹脂の含有量が0.5〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の水性後処理液。
- 湿潤剤、浸透剤及び界面活性剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の水性後処理液。
- 記録媒体の被記録面に顔料インクを打ち込んで画像を形成するインクジェット記録工程と、該画像が形成された該被記録面に、請求項1〜8の何れかに記載の水性後処理液をインクジェット方式により塗布する後処理工程とを備えたことを特徴とするインクジェット記録方法。
- 上記記録媒体に、上記被記録面に打ち込まれたインクジェット記録用の顔料インクを該被記録面にて凝集させる性質が付与されていることを特徴とする請求項9記載のインクジェット記録方法。
- 上記インクジェット記録工程の前に、上記記録媒体の上記被記録面に、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、臭化マグネシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化アルミニウム及び硝酸アルミニウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属塩を含有する金属塩溶液を塗布する前処理工程を備えたことを特徴とする請求項9記載のインクジェット記録方法。
- 上記水性後処理液の塗布量が固形分換算で0.3〜3g/m2であることを特徴とする請求項9〜11の何れかに記載のインクジェット記録方法。
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