JP2004011883A - 制振装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、硬球体の位置決めが確実に行え、地震時の長周期化を確保しつつ、地震時に応答する加速度を効果的に減じることができる制振装置を提供することを目的としている。
【解決手段】制振装置1は、ゴム製の筒状弾性体2と、筒状弾性体2の内部に収容した硬球体3と、前記筒状弾性体2の上下端面にそれぞれ取り付けた上下の硬質板4,5からなる。筒状弾性体2の上端6および下端7の内径φd1、φd2は硬球体3の直径φdよりも大きく、筒状弾性体2の内周面は、上端6および下端7から高さ方向の中間部8に向けてテーパ状に縮径しており、その頂部9が周方向に連続して硬球体3の赤道部10に接触している。そして、筒状弾性体の弾性復元力により、常時は硬球体が筒状弾性体の内部の中央位置に収まるようになっている。
【選択図】      図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、構造物の上部構造と下部構造との間に装着され、地震時に上部構造の揺れを緩和する制振装置に関するものであって、特に、住宅の基礎部の通気用の基礎パッキン材およびアンカー部材を兼ね、嵩張らず、安価で、高性能の振動吸収機能を備えたものに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
地震時に上部構造の揺れを緩和し、構造物に耐震性を持たせる工法として、上部構造が、構造物の下部構造に対して慣性により振れ動く免震工法が知られている。免震工法は、住宅の耐震性を向上させる工法として優れたものであり、例えば、構造物の上部構造と下部構造との間に設置した滑り支承部と弾性支承部からなる。免震工法では、下部構造に対する上部構造の振幅を出来る限り大きくし、地震時の上部構造の揺れ動きを長周期化させることにより、より効果的に地震時の揺れを緩和することができるようになっている。
【0003】
しかし、免震工法に用いる装置は、建物の長周期化を目的とし、上部構造の振幅を大きくするため、大型であり、単価が高い。低コスト化を図るためには、免震工法に用いる装置を多く使うことができないので、上部構造を多数の装置で支持することができない。このため、集中荷重による土台の撓みを防止するため、土台を補強する必要がある。また、免震工法では、上部構造の振幅が大きいため、配管も下部構造と上部構造との間で、フレキシブルな継手を用いる必要があり、この点でもコストが高くなる。このように免震工法は、優れた振動吸収性能を有しているのであるが、大型で、かつ、高価であるために一般の住宅には普及していない。
【0004】
一般の住宅においても耐震性能を備えたものが望まれており、低コストで優れた耐震性を備えた装置の提供が望まれているところである。
【0005】
他方、住宅の基礎部の通気用の基礎パッキン材100は、図8に示すように、弾性材料からなる略矩形の部材であり、基礎コンクリート101に植設したアンカーボルト102に嵌め込んで、基礎コンクリート101と住宅の土台103との間に所定の間隔を開けて複数配設したものが一般に知られている。基礎コンクリート101の内部は、基礎パッキン材100によって設けた隙間で換気が行え、基礎コンクリート101内の空気の流れが良くなる。また基礎パッキン材100には、基礎コンクリート101と住宅の土台103との縁を切ることにより、基礎コンクリート101が吸った水分を土台に伝えないという作用がある。
【0006】
上記の基礎パッキン材と、地震やダンプカーなどの大型の自動車による振動や鉄道車両の通行に伴う振動を吸収するの機能を備えたものとして、特開2000−73616号公報、特開2000−110403号公報、特開2001−182366号公報、特開平9−242381号公報に記載されたものがある。これらはともに、構造物の荷重を硬球体で受け基礎に伝えるものであり、地震の揺れに対しては、硬球体が転動して基礎の揺れの数分の1しか土台に伝えず(転がり免震)、地震が収まるにつれて、地震発生前の元の位置に復元するようになっている。
【0007】
特開2000−73616号公報には、土台用金具と基礎用金具の間に硬球体が転動可能な空間を有する筒状弾性体を固着し、この筒状弾性体に硬球体を収容した制振装置が記載されている。この制振装置は、筒状弾性体の内径を硬球体の直径よりも大きくして、筒状弾性体の内部に硬球体が転動可能な転動空間を形成したものである。このような転動空間を設けたのは、硬球体の転がりを許容し、建物の揺れを長周期化させ、免震作用を機能させるためである。
【0008】
特開2000−110403号公報には、さらに、硬球体が上部基板と下部基板のそれぞれに内設するように、筒状弾性体の高さを硬球体の直径と同寸法にした制振装置が記載されている。
【0009】
特開2001−182366号公報には、上下に対象な凹面を有する皿状の上下の鋼板部材間に、硬球体を設けた制振装置が記載されている。
【0010】
特開平9−242381号公報には、下側支持板の上面に形成した擂鉢状の凹部の中心に硬球体を配設したものが記載されている。
【0011】
このような装置は、構造物の基礎部に所定の間隔を空けて複数個設置することにより、装置間に通気用の隙間を形成することができ、床下空間の通気性を確保するための基礎パッキン材としての機能も兼ねている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
特開2000−73616号公報、特開2000−110403号公報に記載された制振装置のように、硬球体が転動可能な空間を設けると、硬球体は自在に可動し得るので、設置工事時において特別な構造を付加しない限りは、施工前の鉛直荷重が掛からない状態において、運搬時や組み立て後に、硬球体が、筒状弾性体の内部空間の中央位置からずれて、筒状弾性体の内周面に接した状態になり得る。制振装置を実用化するためには、建築基準法に基づいて、装置のせん断方向への変形量とせん断方向の反力の関係が明らかでなければならない。特開2000−73616号公報、特開2000−110403号公報に記載された制振装置は、筒状弾性体内での硬球体の位置が不定であるため、可動範囲が小さく又は不定であり、装置のせん断方向への変形量とせん断方向の反力の関係も明らかではない。このため実用化できないものであった。また、装置のせん断方向への変形量とせん断方向の反力の関係が不明であるために、制振性能を正確に予測することができないという問題もあった。
【0013】
これに対し、特開2001−182366号公報、特開平9−242381号公報に記載された制振装置は、少なくとも下側の支持板が擂鉢状の凹部になっており、硬球体が擂鉢状凹部の中心に位置するようになっている。このため、上記のような問題は生じない。しかし、この構造は、実際の地震などで揺れる時に、硬球体が擂鉢状の凹部上を転動するので、これに伴って、構造物の上部構造に上下動が生じ、構造物やその中の家具などに損傷を与える恐れがある。また、下部支持板に擂鉢状の凹部を加工することは、コストが高くつく。
【0014】
そこで、本発明は、硬球体の位置決めが確実に行え、かつ、構造物の上部構造に上下動が生じない制振装置を提供することを目的としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の制振装置は、筒状弾性体と、筒状弾性体に収容した硬球体と、筒状弾性体の上下端面にそれぞれ取り付けた上下の硬質板とを備え、構造物の上部構造と下部構造との間に挟んで装着する制振装置において、筒状弾性体の上端及び下端の内径が硬球体の直径よりも大きく、かつ、筒状弾性体の内周面の高さ方向の中央部が内径側に突出し、その頂部が硬球体の赤道部に接触し、硬球体を筒状弾性体内部の中央に位置決めしていることを特徴としている。
【0016】
ここで、「硬球体の赤道」とは、硬球体の外表面において、硬球体の中心を通る仮想水平面と硬球体の外表面が交わる円をいい、「硬球体の赤道部」は硬球体の外表面におけるその円およびその近傍部をいう。
【0017】
この制振装置は、筒状弾性体の高さ方向の中央部が硬球体の高さ方向の中央部に接触し、硬球体を位置決めしているので、可動範囲及び制振性能を正確に予測することができる。また、筒状弾性体の下端の内径が前記硬球体の直径よりも大きいので、硬球体の可動範囲が大きい。また、硬球体が転動する上下の硬質板の転動面に凹凸がないので、硬球体が転動しても、それにより構造物の上部構造に上下動が生じることはない。
【0018】
請求項2に記載の制振装置は、筒状弾性体の内周面が、内周面の高さ方向の中央部が内径側に断面略三角形に突出していることを特徴としている。
【0019】
請求項3に記載の制振装置は、筒状弾性体の内周面が、内周面の高さ方向の中央部が内径側に断面略半円形又は断面略半楕円形に突出していることを特徴としている。
【0020】
請求項4に記載の制振装置は、筒状弾性体の上端又は下端の半径方向の厚さAが、断面略三角形の頂部の半径方向の厚さBに対し、3/4≧A/B≧1/2で、かつ、断面略三角形の頂部の半径方向の厚さBが筒状弾性体の高さHに対し、B/H>1/2であることを特徴としている。
【0021】
請求項5に記載の制振装置は、筒状弾性体の上端又は下端の半径方向の厚さAが、断面略半円形又は断面略半楕円形の頂部の半径方向の厚さBに対し、3/4≧A/B≧1/3で、かつ、断面略半円形又は断面略半楕円形の頂部の半径方向の厚さBが筒状弾性体の高さHに対し、B/H>1/2であることを特徴としている。
【0022】
請求項6に記載の制振装置は、筒状弾性体に用いられる弾性材料のせん断弾性率が、筒状弾性体の高さに対して25%以下の片振幅において80N/cm以上で、かつ、損失係数tanδが0.3以上であることを特徴としている。
【0023】
請求項7に記載の制振装置は、筒状弾性体に用いられる弾性材料のせん断弾性率が、筒状弾性体の高さに対して25%以下の片振幅において100N/cm以上で、かつ、損失係数tanδが0.5以上であることを特徴としている。
【0024】
これにより、低歪み時には高い反力を示し、そのため風や微妙な振動入力の際には応答変位が小さく、大地震のような大きなエネルギの入力に対しては大きく変形し、柔らかなばね定数を返す仕組みになっており、高性能な振動吸収機能を備えた制振装置を提供することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態に係る制振装置を図面に基づいて説明する。
【0026】
制振装置1は、図1(a)に示すように、ゴム製の筒状弾性体2と、筒状弾性体2の内部に収容した硬球体3と、筒状弾性体2の上下端面にそれぞれ取り付けた上下の硬質板4、5からなる。
【0027】
筒状弾性体2は、弾性材料からなる略円筒形状の部材である。筒状弾性体2の上端6及び下端7の内径φd1、φd2は硬球体3の直径φdよりも大きく、かつ、筒状弾性体2の内周面は、上端6および下端7から高さ方向の中間部8が内径に向けて漸次に突出した断面略三角形で形成されている(換言すれば、筒状弾性体2の内周面は、上端6および下端7から高さ方向の中間部8がテーパ状に縮径している。)。高さ方向の中間部8の頂部9の内径φd3は、硬球体3の直径と略同じである。筒状弾性体2の内周面の頂部9は、周方向に連続して硬球体3の赤道部10に接触しており、硬球体3は、筒状弾性体の弾性復元力により、常時は筒状弾性体2の内部の中央位置に収まっている。
【0028】
筒状弾性体2は、高減衰性の弾性材料からなる略円筒形状の部材である。筒状弾性体2の内径は、硬球体3の直径よりも大きい。筒状弾性体2の高さは硬球体3の直径と同じか、硬球体3の直径よりも少し高い。
【0029】
上記の筒状弾性体2に用いられる弾性材料のせん断弾性率は、高さに対して25%以下の片振幅において80N/cm以上、望ましくは100N/cm以上、さらには200N/cm以上であることが好ましい。また、筒状弾性体2に用いられる弾性材料の損失係数tanδは、0.3以上にするのが好ましく、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.7以上にするのが良い。
【0030】
これにより、低歪み時には高い反力を示し、そのため風や微妙な振動入力の際には応答変位が小さく、大地震のような大きなエネルギの入力に対しては大きく変形することができる。これにより、高性能な振動吸収機能を備えた制振装置を提供することができる。
【0031】
ここで、ゴム材料の動的特性を複素弾性率で表現した場合、実数部分を貯蔵弾性率G1、虚数部分を損失弾性率G2といい、貯蔵弾性率G1と損失弾性率G2の比を損失係数tanδという。
損失係数tanδ=貯蔵弾性率G1/損失弾性率G2
【0032】
損失係数tanδは、制振材料の制振特性の評価指標の一つである。すなわち、制振材料は、振動応答系に減衰があると、その応力・歪み線図(あるいは荷重・変位線図)は履歴曲線(ヒステリシスループ)を描くのであるが、損失係数tanδは、1サイクルで消費されるエネルギと貯蔵される最大エネルギの比に比例する量で、等価減衰定数の約2倍の値に対応する。損失係数tanδが大きいほど減衰性の高い材料となる。
【0033】
また、筒状弾性体2は、大きな変形にも対応できる弾性材料で作成されており、大地震などで大変形が生じるときは、硬球体3が筒状弾性体2に乗り上がることを許容するものであることが望ましい。すなわち、硬球体3が筒状弾性体2に乗り上げたあとも制振装置1は破損することがなく、安全に荷重を支持することができ、硬球体3が下側の硬質板5の端点に至るまでは、荷重を支持する機能を損なわないものが望ましい。すなわち、筒状弾性体2には、粘性の強いゴムを採用し、大変形時に硬球体3に押しつぶされても塑性変形により材料破壊を回避することができるものであることが望ましい。
【0034】
また、筒状弾性体2はNR高減衰配合ゴムで、耐候性材料で被覆することが好ましい。耐候性材料には、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)などがある。硬球体3を収容する筒状弾性体2の内周面は、地震時に硬球体3を滑らかに転動させるために潤滑材を塗布し、又は、硬球体3を収容した筒状弾性体2の内部に潤滑材を充填し、筒状弾性体2の内周面を耐油性材料で被覆するとよい。
【0035】
表1に、筒状弾性体2のゴム材料の好適な配合例を示す。また、筒状弾性体2は、耐候性を向上させるため、耐候性材料、例えばブチルゴムを主成分とするゴム組成物で(例えば、厚さ1mm程度)被覆するとよい。なお、表1中、phrは、配合剤の質量をゴム100部に対する部数で示すときに用いる記号をいう。
【0036】
【表1】
Figure 2004011883
【0037】
次に、硬球体3は、所要の剛性を備えた球状体であり、例えば、鋼鉄製の鋼球を採用することができる。
【0038】
硬球体3の滑らかな転動を確保するため、硬球体3と硬質板4、5は載荷時にそれぞれが変形しないように同程度の硬度を有する材料(例えば、ロックウェル硬度で±5以内、望ましくは同一材料)で形成することが望ましい。なお、同程度の硬度であれば、一方を金属、他方をプラスチックにしてもよい。ただし、硬質板4、5側に大きな凹状変形が生じると、水平せん断変位−水平反力の履歴曲線に負勾配を生じ、不安定な応答性能を示すため、硬質板4、5の硬度は硬球体3の硬度よりも高いことが望ましい。また、両者の材質をS45Cに焼入れ・焼鈍しの熱処理を加えてロックウェル硬度を30以上にすることにより、載荷時においてほとんど変形が生じないものとなる。
【0039】
また、硬球体3が転動する上下の硬質板4、5の転動面は、凹凸のない平らな面で形成されている。
【0040】
制振装置1は、例えば、下側の硬質板5に、筒状弾性体2を加硫接着し、硬球体3を筒状弾性体2の内部に嵌め、上側の硬質板4を筒状弾性体2の上端に加硫接着したものである。そして、下側の硬質板5を構造物の下部構造の上面に取り付け、上側の硬質板4を構造物の上部構造の下面に取り付ける。制振装置1の取り付けは、例えば、ボルト締結によって行う。このとき、筒状弾性体2の内周面の高さ方向中間部8の頂部9が、周方向に連続して硬球体3の赤道部10に接触しているので、硬球体3が筒状弾性体2の中央位置からずれることはない。
【0041】
また、制振装置1は1kN以上の力で、構造物の上部構造と下部構造の間に挟んで設置する。これにより、硬球体3と上下の硬質板4、5の接触部分に十分に大きな摩擦力が作用し、硬球体3が上下の硬質板4、5の間で滑ることなく転動するようになる。なお、1kN以上の力で制振装置1を構造物の上部構造と下部構造の間に挟んで設置することにより、硬球体3と上下の硬質板4、5との間に滑りがなくなることは本発明者らが実験により見出した知見によるものである。このため、例えば、構造物の上部構造の重さに対し、一つの制振装置1が支持する荷重が1kN以上になるように、制振装置1の設置個数とその配置を定めるのがよい。
【0042】
この制振装置1は、設置時に硬球体3の位置決めを行うことが不要であり、硬球体3は、常時は筒状弾性体2の中央位置に確実に収まるようになっており、硬球体3が確実に筒状弾性体2の中央で荷重を受けることができるようになっている。
【0043】
また、風や交通振動などの軽微なせん断方向の外力が作用した場合は、筒状弾性体2が硬球体3の転動を規制する。すなわち、筒状弾性体2はトリガーとしての機能も備えている。これに対して、地震のような大きな揺れに対しては、地震による上側の硬質板4と下側の硬質板5の相対的な変位を受けて、硬球体3は図1(b)に示すように転動する。
【0044】
図1(b)に示すように、地震が発生したとき、硬球体3は上下の硬質板4、5との間で滑ることなく転動するので、上下の硬質板4、5間の相対変位yは硬球体3の転動距離xの略2倍になる。これにより、この制振装置1は、装置のせん断方向への変形量とせん断方向の反力の関係、及び、制振性能を正確に予測することができる。また、このとき、上下の硬質板4、5の転動面に凹凸がないので、構造物の上部構造に上下動が生じない。
【0045】
また、筒状弾性体2の内径φd1、φd2は硬球体3の直径φdよりも大きいので、上下の硬質板4、5の転動面が広い。
【0046】
すなわち、例えば、図2(a)に示すように、筒状弾性体2’を硬球体3’の直径と同じ内径を有する単純な円筒形状にして、硬球体3’を筒状弾性体2’に内設させて、硬球体3’を位置決めすることも可能である。しかし、この場合、図2(b)に示すように、地震時に、硬球体3’の中心点Oが硬球体3’の半径rだけ移動すると硬球体3’が筒状弾性体2’の下端に乗り上がるので、硬球体3’が筒状弾性体2’に乗り上がるまでの硬球体3’の転動範囲が小さい。
【0047】
これに対して、本発明に係る制振装置1は、図1に示すように、筒状弾性体2の上端6及び下端7の内径φd1、φd2が硬球体3の直径φdよりも大きいので、硬球体3が筒状弾性体2の下端7に乗り上がるまでの硬球体3の転動範囲を広く確保することができる。これにより、地震時に許容できる変位を大きくすることができ、また、硬球体3を小さくして制振装置1を小型化することができる。
【0048】
また、変位が大きくなる分、ヒステリシスループが大きくなり、制振性能が向上するとともに、地震が収まった後の揺れを早期に減衰させることができる。
【0049】
地震が収まると、筒状弾性体2の弾性復元力を受けて、上下の硬質板4、5は、相対的に元の位置に戻る。上下の硬質板4、5が元の位置に戻ると、硬球体3は、上下の硬質板4、5との間で滑ることなく転動するので、再び筒状弾性体2の中央に戻る。
【0050】
以上のように、この制振装置1は、設置時の硬球体3の位置決めが不要であり、かつ、筒状弾性体2の上端6及び下端7の内径φd1、φd2が硬球体3の直径φdよりも大きいので、特開2000−73616号公報、特開2000−110403号公報と同じように硬球体3が筒状弾性体2’に乗り上がるまでの転動範囲を広く確保することができる。また、硬球体3の転動面に凹凸がないので、構造物の上部構造に上下動が生じない。
【0051】
また、従来の免震工法は、図3に示すように、建物の固有周波数を長周期化させることにより、振動伝達率(地震周波数/固有振動数)を大きくし、これにより、優れた振動吸収性能を備えていた。これに対して、この制振装置1は、tanδが0.3以上(好ましくは、0.5以上)の高い減衰性を示す弾性材料からなる筒状弾性体2を用いて、共振ポイントにおける応答増幅倍率を低くすることにより、振動吸収性能を確保している。
【0052】
また、この制振装置1は、免震工法のように建物の固有周波数の大幅な長周期化を意図しないので、小型で、かつ、安価である。このため、多くの制振装置1を使うことができ、上部構造をより多くの制振装置1で支持することができる。従って、通常の基礎パッキン材と同様に使えるので、上部構造の土台を補強する必要がない。また、上部構造と下部構造の相対的な変位も大きくはないので配管も上部構造と下部構造の間において大型のフレキシブルな継手を必要としない。この結果、従来の免震工法に比べて設置コストの総額が格段に安くなる。
【0053】
すなわち、この制振装置1と従来の免震工法を比べると、振動吸収性能は、従来の免震工法の方が優れているのであるが、この制振装置1は、それ自体が安価であること、土台の補強が不要であること、配管の継手も変更が不要であることなどにより、設置コストを低コストにでき、また必要な振動吸収性能が得られるというメリットがある。
【0054】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0055】
本発明者らは、実験により、筒状弾性体2の中間部8の突出量が大きい方が、水平せん断ばね定数が低くなるとの知見を得た。実験結果を図4に示す。同図のStd、T50、T60は、それぞれ図5(a)〜(c)に示すものであり、Stdは、硬球体3の直径(40mm)と同じ内径を有する単純な円筒形状の筒状弾性体2aを用いたものである。T50とT60は本発明に係る形態である。T50は直径が40mmの硬球体3に対し、筒状弾性体2bの上端と下端の内径が50mmで内周面の高さ方向の中間部8が断面略三角形に内径側に突出したものであり、T60は直径が40mmの硬球体3に対し、筒状弾性体2cの上端と下端の内径が60mmで内周面の高さ方向の中間部が断面略三角形に内径側に突出したものである。
【0056】
実験では、Std、T50、T60のそれぞれについて、上下の硬質板を水平せん断方向に相対的に変位させ、変位と水平ばね定数との関係を調べた。図4に示すように、本発明の実施形態に係るT50とT60は、共に、Stdよりも水平せん断ばね定数が低く、T50よりもT60の方が水平せん断ばね定数が低くなる。この結果から、筒状弾性体2の中間部8の突出量が大きい方が、水平せん断ばね定数が低くなることがわかる。水平せん断ばね定数が低い方が、地震による応答加速度を低減させることができ、制振性能が向上する。
【0057】
但し、筒状弾性体2の中間部8が鋭角に突出し過ぎていたり、筒状弾性体2の上端6又は下端7の厚さが小さ過ぎていたりすると、筒状弾性体2による硬球体3の位置決め効果が低下したり、筒状弾性体2に水平せん断力よりも引張荷重が掛かるようになる。このため、筒状弾性体2は、上端6又は下端7の半径方向の厚さAと、断面略三角形の頂部9の半径方向の厚さBの比A/Bを、1>A/B≧1/4にし、かつ、前記断面略三角形の頂部9の半径方向の厚さBと筒状弾性体2の高さHとの比B/Hを、B/H>1/2にすることが望ましい。なお、A/Bは、3/4≧A/B≧1/2であることが望ましい。
【0058】
次に、本発明の他の実施形態に係る制振装置を説明する。
【0059】
本発明の他の実施形態に係る制振装置11は、図6に示すように、筒状弾性体12は、上端13および下端14の内径φd1,φd2が硬球体3の直径φdよりも大きく、かつ、筒状弾性体12の高さ方向の中間部15が凸曲面(例えば、半径方向の縦断面において略半円形、または、略半楕円形)で内径方向に突出し、その頂部16が硬球体3の赤道部10に接触している。この場合、筒状弾性体12は、筒状弾性体2による硬球体3の位置決め効果が低下したり、筒状弾性体2に水平せん断力よりも引張荷重が掛かるのを軽減させるため、上端13又は下端13の半径方向の厚さAと、断面略半円形又は断面略半楕円形の頂部16の半径方向の厚さBの比A/Bを、1>A/B≧1/5にし、かつ、前記断面略半円形又は断面略半楕円形の頂部16の半径方向の厚さBと筒状弾性体2の高さHとの比B/Hを、B/H>1/2にすることが望ましい。なお、A/Bは、3/4≧A/B≧1/3であることが望ましい。
【0060】
この制振装置11においても、硬球体3が筒状弾性体2の内周面に内接した状態で配設されており、かつ、筒状弾性体12の上端13及び下端14の内径が硬球体3の直径φdよりも大きいので、上述した制振装置1と同じ作用・効果を奏する。
【0061】
以上、本発明に係る制振装置を説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。
【0062】
【発明の効果】
請求項1に記載の制振装置は、筒状弾性体の上端及び下端の内径が硬球体の直径よりも大きく、かつ、筒状弾性体の内周面の高さ方向の中央部が内径側に突出し、その頂部が硬球体の赤道部に接触し、硬球体を筒状弾性体内部の中央に位置決めしているので、設置時の硬球体の位置決めが不要であり、可動範囲及び制振性能を正確に予測することができる。また、筒状弾性体の上端及び下端の内径が硬球体の直径よりも大きいので、筒状弾性体に乗り上がるまでの硬球体の転動範囲が大きい。また、硬球体が転動する上下の硬質板の転動面に凹凸がないので、硬球体が転動しても、それにより構造物の上部構造に上下動が生じることはない。
【0063】
請求項2と請求項3に記載の制振装置は、前記筒状弾性体が、上部及び下部の内径が前記硬球体の直径よりも大きく、かつ、内周面の高さ方向の中央部が内径側に突出しており、その頂部が前記硬球体の赤道部に接触しているので、上記の作用効果を奏する。
【0064】
請求項4と請求項5は、本発明に係る制振装置の好適な寸法比率に関するものであり、筒状弾性体による硬球体の位置決め効果が低下したり、筒状弾性体に水平せん断力よりも引張荷重が掛かるのを軽減させることができる。
【0065】
請求項6と請求項7は、筒状弾性体の好適な材料に関するものであり、これにより、低歪み時には高い反力を示し、そのため風や微妙な振動入力の際には応答変位が小さく、大地震のような大きなエネルギの入力に対しては大きく変形する制振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る制振装置を示す半径方向の縦断面図であり、(b)はその地震時の状態を示す。
【図2】(a)(b)は、筒状弾性体が単純な円筒形状である制振装置を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る制振装置の建物の固有周波数と応答増幅倍率の関係を示す図。
【図4】筒状弾性体の中間部の突出量と水平せん断ばね定数の関係を示す図。
【図5】(a)〜(c)は実験で用いた制振装置を示す図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る制振装置を示す図である。
【図7】従来の基礎パッキン材を示す図。
【符号の説明】
1 制振装置
2 筒状弾性体
3 硬球体
4,5 硬質板
6 筒状弾性体の上端
7 筒状弾性体の下端
8 筒状弾性体の中間部
9 頂部
10 硬球体の赤道部

Claims (7)

  1. 筒状弾性体と、前記筒状弾性体に収容した硬球体と、前記筒状弾性体の上下端面にそれぞれ取り付けた上下の硬質板とを備え、構造物の上部構造と下部構造との間に挟んで装着する制振装置において、
    前記筒状弾性体の上端及び下端の内径が前記硬球体の直径よりも大きく、かつ、筒状弾性体の内周面の高さ方向の中央部が内径側に突出し、その頂部が前記硬球体の赤道部に接触し、前記硬球体を筒状弾性体内部の中央に位置決めしていることを特徴とする制振装置。
  2. 前記筒状弾性体の内周面が、内周面の高さ方向の中央部が内径側に断面略三角形に突出していることを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
  3. 前記筒状弾性体の内周面が、内周面の高さ方向の中央部が内径側に断面略半円形又は断面略半楕円形に突出していることを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
  4. 前記筒状弾性体の上端又は下端の半径方向の厚さAが、前記断面略三角形の頂部の半径方向の厚さBに対し、3/4≧A/B≧1/2で、かつ、前記断面略三角形の頂部の半径方向の厚さBが筒状弾性体の高さHに対し、B/H>1/2であることを特徴とする請求項2に記載の制振装置。
  5. 前記筒状弾性体の上端又は下端の半径方向の厚さAが、前記断面略半円形又は断面略半楕円形の頂部の半径方向の厚さBに対し、3/4≧A/B≧1/3で、かつ、前記断面略半円形又は断面略半楕円形の頂部の半径方向の厚さBが筒状弾性体の高さHに対し、B/H>1/2であることを特徴とする請求項3に記載の制振装置。
  6. 前記筒状弾性体に用いられる弾性材料のせん断弾性率が、筒状弾性体の高さに対して25%以下の片振幅において80N/cm以上で、かつ、損失係数tanδが0.3以上であることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の制振装置。
  7. 前記筒状弾性体に用いられる弾性材料のせん断弾性率が、筒状弾性体の高さに対して25%以下の片振幅において100N/cm以上で、かつ、損失係数tanδが0.5以上であることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の制振装置。
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